067 憲法判例再読 02 な規制では目的を達成できない場合には合憲とし つ議員による ) 議員立法ということもあり地、「距離 ( 厳格な合理性の基準 ) 、規制目的と審査基準を 1 対 制限合憲性に対する最高裁の更なる駄目押しに力を 1 に対応させて理解された ( 規制目的二分論 ) (1) 。 得てガソリン・スタンドその他同業者間の競争的な もっとも、この規制目的二分論に対しては、規制 施設濫立の抑制をもとめる業界に距離制限制が続々 目的を積極目的と消極目的に区分する点、これらの と出てくる」ことになり、各種業界の「距離制限立 区分に応じて審査基準を異にする点がはやくから批 法に有効な歯止めをかけることが国法上できないこ 判され 32 、規制目的二分論を採る論者も、後に、規 とになる」。したがって、「合憲判決はコストがかか 制目的に加えて規制態様 ( 規制の手法 ) も考慮する ( 客 りすぎる」ので、最高裁は、本件では「違憲判決を くだすしか、手がなかった」という 39 ) 。 観的許可条件の場合は主観的許可条件よりも厳格な審 査を行う ) 等の修正を加えている 33 。さらには、規 制目的二分論自体を否定する見解も登場し 34 ) 、 1995 ④若干の検討 年の段階で、その後の判例 35 ) の展開も踏まえると、 さて、これまで、本判決を巡るいくつかの見解を 規制目的二分論を修正無く「そのまま維持すべきで 紹介してきたが、まず、①ないし②で紹介した理論 あるとする見解はほとんど見当たらず」、「混沌」と 的観点からの議論と、③で紹介した実践的観点から した状況にあると診断されている の議論は、必ずしも相互に矛盾せず両立し得るよう に思われる。 ②本判決に対する近時の再読 また、②の見解も、規制目的を考慮しないわけで これに対して、近時、次のような見解が有力とな はない ( 特に積極目的の存在が統制密度を低め得ると この見解によると、本判決は、多種多 考える ) 。規制目的に応じて違憲審査基準を決める っている 様な規制措置につき、その目的の正当性と手段の必 のではなく、職業と人格の関連性および職業の社会 要性および合理性が存在すれば立法府の合理的裁量 相互関連性をふまえ、具体的な規制目的・手段等か の範囲内となるが一そして、このような審査こそ比 ら導き出した「事の性質」に応じた密度で比例原則 例原則による審査である一、その範囲 ( 裁判所の統 審査を行う点が、②の見解と規制目的二分論の違い といえよう 40 ) 制密度 ) を決めるのは、職業と人格の関連性および 職業の社会相互関連性 ( 判旨①冒頭 ) を前提とした、 規制目的・対象・方法等の性質・内容から抽出され ロこの判例から見えるもの る「事の性質」である ( 判旨① ) 。本件では、職業 法制史の立場から 選択それ自体を妨げる事前抑制としての許可制 ( 判 旨② ) 、そして、小売市場許可制判決において統制 こでは、高度成長期における競争秩序はどのよ 密度を緩和した積極目的の不存在 ( 判旨③ ) ーこれ うなものであったかについて考えたい。その様相は らの「事の性質」が、本件の立法裁量の範囲を狭め、 いくらか複雑である。 午可条件のひとっとしての適正配置規制の必要性お 周知のように、「私的独占の禁止及び公正取引の よび合理性を否定することとなった ( 判旨④ ) 、と 確保に関する法律」 ( 昭和 22 年法律第 54 号。以下、原 始独禁法 ) の制定により、戦後日本の競争秩序の方 向性は、同法が掲げる「公正且つ自由な競争」 ( 第 1 条 ) へとある程度定まった。ただし「経済憲法」 ③本判決の「客観的な意味」を問う ところで、以上のような「憲法規範学」から離れ、 と呼ばれた同法が、占領下の、しかも旧憲法下にお ける立法であった点には注意が必要である。 本判決の「客観的な意味」を分析する見解もある。 たとえば「昭和 22 年度公正取引委員会年次報告』 それによれば、本判決も、公衆浴場法判決と同じく、 では、その冒頭にて「私的独占禁止法の立法経緯」 薬局の偏在濫立→医薬品の適正供給の不安定化→国 民の医療と保健悪化→合憲とすることは容易であっ が述べられるが、その中では原始独禁法制定当時す たが、しかしそうしてしまうと、公衆浴場法の距離 でに公布されていた「日本国憲法」の文字は見当た らない 41 ) 。語られるのはもつばらポッダム宣言から 制限も本件適正配置規制も、ともに ( 利害関係を持 一三ロ
066 法学セミナー 2016 / 01 / no. 732 を、適正配置規制は含まない。 は、本件規制とは別に、その対策が経済政策的観点 適正配置規制の上記目的は、公共の福祉に合致し、 からなされるべきである。 かっ、それ自体としては重要な公共の利益なので、 仮に、上記の危険発生の可能性を認めるとしても、 上記目的を達成するための手段として、適正配置規 行政上の監督体制の強化等の手段により危険を有効 に防止し得る。監督員の監視の限界はあるが、競争 制が必要性および合理性を有するかが問題となる。 激化地域を集中的に監視すればよく、医薬品の貯蔵 の不備は立ち入り検査を適宜行えばよいし、医薬品 ④適正配置規制の必要性および合理性 の製造番号の改ざんなどは薬局に当該医薬品が到着 適正配置規制は、開業そのものを禁止するのでは する前段階で生じることなのだから、これらの監督 なく設置場所を制限するだけではある。しかし、薬 により防止できないような「専ら薬局等の経営不安 局を自己の職業とし、これを開業する場合には、経 営上の採算のほかに諸般の生活上の条件を考慮して 定に由来する不良医薬品の供給の危険が相当程度に おいて存すると断じるのは、合理性を欠く」。 開業場所を選択するのが通常であり、特定の場所で さらに、医薬品販売の際の指導・注意の不備は薬 開業できないことは開業そのものの断念にもつなが り得る以上、適正配置規制を通じた開業場所の地域 局の経営不安定化により生じるとは思われないし、 的制限は、「実質的には職業選択の自由に対する大 医薬品の乱売により医薬品の濫用が生じ得るとして きな制約的効果を有する」 27 ) 。 も、それは医薬品の過剰生産・販売合戦・誇大広告 Y は、適正配置規制が無ければ、薬局等が偏在し、 により生じるものなので、誇大広告の規制や一般消 過当な販売競争が行われ、その結果、医薬品の適正 費者への啓蒙強化で対処すればよく、「薬局等の設 供給上種々の弊害を生じると主張する 置場所の地域的制限によって対処することには、そ の合理性を認めがたい」。そして、「無薬局地域等の ( i ) しかし、不良医薬品の供給防止のために、薬事法 や薬剤師法は、罰則や許可取消等の制裁や行政上 解消を促進する目的のために設置場所の地域的制限 のような強力な職業の自由の制限措置をとること の是正措置、そして強制調査などの規制を設けてお り、これらが遵守されれば「不良医薬品の供給の危 は、目的と手段の均衡を著しく失するものであって、 険の防止という警察上の目的を十分に達成すること とうていその合理性を認めることができない」。 ができるはずである」。もっとも、規制をいくら強 ⑤結論 化しても規制に対する違反そのものを根絶すること 適正配置規制は、不良医薬品の供給の防止等の目 はできないので、さらに予防的措置を講じる必要性 的のために必要かっ合理的な規制とはいえず、立法 が全く無いとはいえない。しかし、適正配置規制の 府の合理的裁量の範囲を超え、違憲無効である。 ような強力な規制が憲法上許されるためには、この 「措置による職業の自由の制約と均衡を失しない程 度において国民の保健に対する危険を生じさせるお ロ憲法学上の意義 それのあることが、合理的に認められることを必要 本判決は、小売市場許可制判決とあいまって、職 とする」。 ( ⅱ ) 「競争の激化ー経営の不安定ー法規違反という因 業の自由の制約に対する最高裁の審査手法を定式化 果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の した点で重要であるとしばしば指摘されてきた四 ) 。 段階において、相当程度の規模で発生する可能性が ①規制目的二分論とその批判 ある」との Y の主張は、「単なる観念上の想定にす ぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めが 本判決の直後は、職業の自由規制の審査につき、 小売市場許可制判決の判示と本判決の判旨②後半 たい」。実際上どの程度にこのような危険があるか および③の部分を併せ、 ( ア ) 積極目的は、規制手 は明らかにされておらず、薬局経営者や薬剤師が経 済的理由のみから制裁を伴う法規違反を行うことは 段が不合理であることが明白な場合に限り違憲 ( 明 白性の原則 ) 、 ( イ ) 消極目的は、重要な公共の利益 容易には考えられないからである。また、乱売や不 当な取引方法等の医薬品の流通過程における弊害 のために必要かっ合理的な措置であり、より緩やか 、二 11
068 始まる占領方針との関係であって、財閥解体等の経 済民主化の永続化手段として原始独禁法は位置づけ られた 42 ) 。 つまり同時代的に原始独禁法は、日本国憲法秩序 というよりも占領管理秩序の一環であるという見方 が強かった。これが独立回復後、産業政策とのずれ が生じた際に、ある種の反動として現れる 43 。特に 昭和 28 年法律第 259 号による一部改正は、原始独禁 法以来の独占規制を大幅に緩和するものであった。 たとえば、ほとんど全面的に禁止されていたカルテ ルについて、その原則禁止は維持するものの、不況 カルテルや合理化カルテル、また個別法にもとづく 適用除外を大幅に認める道を開いた。そして、これ を契機として数多くの適用除外立法が生まれた。 国会審理にて「わが国経済の特質と実態によりよ く即応するもの 44 ) 」と述べられた同改正法は、法学 者を中心に独占禁止政策の後退として捉えられた一 方で、公正取引委員会はこれを競争法制の占領管理 からの脱却とみなしていた点は興味深い 45 ) 。高度成 長期の競争秩序は、この「日本的独占禁止法 46 ) 」の 下にあり、政府当局の産業政策等に密着的な関係を 持っていた。そして政府による産業政策の実現手段 として用いられたのが適用除外立法であり、行政指 導であった 47 ) 。「護送船団方式」「官民協調体制」と 呼ばれた、競争制限的な市場介入である。 ただし、適用除外立法や行政指導を用いた政府に よる産業政策の実施は、高度成長期の競争秩序の中 で必ずしも貫徹するものばかりではなかった点には 留意したい 48 ) 。薬事法事件に戻れば、当初適用除外 カルテル ( 医薬品小売商業組合 ) による業界内での 自主統制が試みられ、次いで薬局等の開設許可を背 景とした行政指導が行われた。しかし両手段ではそ の目的を達成することができず、最終的に直接法律 に適正配置規制を書き込む本件改正へとつながっ た。当該事例は、高度成長期の競争秩序が一面的な ものではなく、より複雑な様相にあったことを示し ている。 加えて本最高裁判決は、職業を個人の人格的価値 と結びつけて違憲の判断を下し、上記構造のさらな る限界を指摘した。しかし、同判決が高度成長期を 終えて安定成長期に入った昭和 50 年に出されたこ と、そして薬局等開設の許可制の是非そのものに踏 み込むなど、その構造自体を脅かすようなものでは 法学セミナー 2016 / 01 / ho. 732 なかったことには注意したい。 ロ読者のみなさんへ 本連載は、憲法判例について、憲法学の外からの 視点を取り入れることで、従来憲法学が充分に省察 してこなかった点にも着目することを目的としてい る。本稿でも、薬事法判決について、憲法学におけ る様々な見解、そして、法制史からの見解が紹介さ れたが、読者の皆さんは、まずは判決の論理に内在 する形で、判旨の 1 っ 1 つを理解しようと努め、そ の上で、それら見解が、事案や、判決のテクスト、 そして事案の背景となる政治的・社会的事実につい て、いったいどの部分に着目して議論を組み立てて いるのかに着目してほしい砌。経済的自由権につい て憲法規範論をいかに組み立てるべきなのかは困難 な問題だが (1) 、本稿で紹介した「日本的独占禁止法」 のありようとの関係において思考を試みることも 1 つの重要な方法ではなかろうか。 より深く学びたい方へーー参考文献 石原武政・矢作敏行編「日本の流通 100 年』 ( 有斐閣、 2004 年 ) 、岡崎哲ニ・奥野正寛編『現代日本経済システ ムの源流』 ( 日本経済新聞社、 1993 年 ) 、小嶋和司『憲法 学講話』 ( 有斐閣、 1982 年 ) 第 9 講、小山剛「職業の自 由と規制目的」 LS 憲法研究会編『プロセス演習憲法〔第 4 版〕』 ( 信山社、 2011 年 ) 、宍戸常寿『憲法解釈論の 応用と展開〔第 2 版〕」 ( 日本評論社、 2014 年 ) 48 頁以下、 野坂泰司「憲法基本判例を読み直す』 ( 有斐閣、 201 1 年 ) 第 12 章、長谷部恭男 flnteractive 憲法』 ( 有斐閣、 2006 年 ) 第 20 章、巻美矢紀「経済活動規制の判例法理再考」ジュ リスト 1356 号 ( 2008 年 ) 。 1 ) なお、本件には行政法上の論点 ( 行政処分は申請時・ 処分時のいずれの法令によるべきかという論点 ) も存 在するが、紙幅の関係で全て省略する。参照、雄川一 郎・菊井康郎・塩野宏・宮嶋剛・山内一夫「〔座談会〕 営業制限立法の問題点」ジュリスト 592 号 ( 1975 年 ) 52 頁以下。 2 ) 林周二「流通革命』 ( 中央公論社、 1962 年 ) 。 3 ) 同論争については、さしあたり岡田与好『独占と 営業の自由』 ( 木鐸社、 1975 年 ) 、岡田与好「経済的自 由主義』 ( 東京大学出版会、 1987 年 ) 参照。 4 ) 石川健治「営業の自由とその規制」大石眞・石川 健治編『憲法の争点』 ( 有斐閣、 2008 年 ) 148 頁。 5 ) 石川・前掲注 4 ) のほか、川濱昇「取引の自由と 契約の自由」田中成明編「現代法の展望』 ( 有斐閣、 2004 年 ) 等参昭
法学セミナー 2016 / 01 / no. 732 074 なった日から二年を経過しない者 0 住民との関係が加わった許可法 略 「欠格事由」は、いわば消極的な許可基準です。欠 [ 1 ] ペット霊園規制条例の特徴 格事由に該当すれば「許可の基準」に照らすまでもな 条例で許可制度を定める場合には、関係する住民の く排除されます。そのため、「許可の基準」の前に置 意見を聞く手続などカ齟み込まれることも多いもので す。許可する行斑ヤが意見を聴くのではなく、許可を かれているのです。 求める者が住民の意見を聴く手続が定められている場 ■許可後に必要となる規定 合、条文が少々、複雑となります。ただ、条文が複雑 になっても、いいえ、複雑になればなるほど、「時系 〇民間事業者による信書の送津に関する法律 第 10 条低名等の変更 ) 列 ( 手続の川頁 ) 」というシンプルな原則に従い、条文 第 11 条 ( 事業計画の遵守義務 ) を組み立てることが大切です。 第 12 条 ( 事業計画の変更 ) こうした例として「千葉市ペット霊園の設置の許可 10 条から 12 条までは、申請書に記載された事項に 等に関する条例」があります。題名のとおり、ペット ついての変更手続などが定められています。記載事項 霊園に関する規制条例です。墓地などについての規制 の変更については、原則として、総務大臣への「届出」 法としては「墓地、埋葬等に関する法律」という法律 が必要です。ただ、「事業計画」についてだけは、そ がありますが、ペット霊園は対象としていません。で の重要から「届出」ではなく、総務大臣の「認可」が すから、この条例は市独自の規制ということができま 必要とされています。これが 12 条です。「『事業計画 す。法律と交差する部分がありませんので、手続のす の変更』の方が重要なので『氏名等の変更』より先に べてが条例で完結することになります。以下、実体的 規定する」という選択はあるかもしれませんただ 規定部分の目次を場面に分けて掲載します。 「届出」が原則で、例外的に「認可」が必要な場合が 〇千葉市ペット霊園の設置の許可等に関する条例 午可の根拠規定 第 4 条 ( 設置等の許可 ) あるのですから、「原則から例外へ」の考え方に従い、 申請前の手続 第 5 条 ( 事前協議 ) 届出ですむ「氏名等の変更」を先に規定しています。 第 6 条 ( 標識の設置等 ) 第 7 条 ( 説明会の開催等 ) 気になるのが 11 条の「事業計画の遵守義務」です。 午可の申請・許可 第 8 条 ( 許可の申請 ) これは変更手続に関する規定ではありません。ですか 第 9 条 ( 許可の基準 ) 第 10 条 ( 許可等の通知 ) 許可後、設置までの手続 ら、許可が得られたあとの場面 ( 「許可の担の次 ) 第 11 条 ( 工事着手届 ) 第 12 条 ( 工事完了届等 ) に置くこともできたように思います。ただ、「事業計 第 13 条 ( 維持管理 ) 設置後の規定 画の変更」の手続に引っ張られてこの場所で規定した 第 14 条 ( 地位の承継 ) 第 15 条 ( 中止、変更及び廃 のでしよう。たとえば、「書類はコピーしてみんなに 止の届出 ) 配って、原本は田中部長に返しておいてね。そういえ 第 16 条 ( 報告及び検査 ) 監督規定 第 17 条改善勧告 ) ば田中部長、近頃元気ないようだけれど何か聞いてい 第 18 条改善命令 ) 第 19 条 ( 許可の取消し ) ない ? いずれにしても、原本を部長に渡す際に、次 第条使用禁止命令 ) 第 21 条公表 ) の指示を仰いでおいてね」という場合の「そういえば 田中部長 ~ 」に当たるようなものです。さて、その後 [ 2 ] 申請前の手続など の規定も見てみましよう。 先ほどの信書便法と比べてみると、「許可の申請」 〇民間事業者による信書の送達に関する法律 第 13 条 ( 事業の譲渡し及ひ譲受け等 ) の前に一連の規定があるのが分かります。許可の申請 第 14 条 ( 相続 ) をしようとする者 ( 申請予定者 ) にも、事前の手続を 第 15 条 ( 事業の休止及ひ廃止並びに法人の解散 ) 課しており、それに関する手続が定められているので 13 条、 14 条は事業を続ける場合であり、 15 条は事 す。ペット霊園は、その必要性を理解する住民であっ 業をやめる ( 休止の場合も含めて ) 場合ということに ても、「自分の家の裏庭 ( 近く ) には存在してほしく なります。事業の許可という流れで定められている一 ない (Not ln My Backyard) 」と考えがちな施設の 群の条文はここで終わりとなります。 ひとつです。そのため、住民の不安を減らしトラブル 一三ロ 1 三ロ
064 れば、偏在により調剤の確保と医薬品の適正な供給 は期し難く、濫立により濫売・廉売等の過当競争が 生じ経営カ坏安定になり、ひいては施設に不備・欠 陥を生じ、品質の低下した医薬品の販売等の悪影響 をきたす恐れがあるので、適正配置規制は合憲であ る等、主張した。 1 審 ( 広島地判昭和 42 年 4 月 17 日行裁例集 18 巻 4 号 501 頁 ) は、憲法上の論点に立ち入らず本件不許可 歴史学からのポイント解説 そもそも、なぜ適正配置規制が薬事法に加えら れたのだろうか。本件改正当時の厚生省薬務局薬 事課長による解説書では、 Y の主張と同じく医薬 品の乱売・廉売等の過当競争による悪影響のおそ れを理由に挙げるが、さらにはその背景としてス ーパーマーケット等の新規業者による医薬品小売 業への参入を指摘する 13 ) 当初厚生省は「中小企業団体の組織に関する法 律」 ( 昭和 32 年法律第 185 号 ) にもとづく医薬品小 売商業組合を都道府県ごとに設立させ、そこで価 格を含む販売調整事業を担わせようと試みた。し かしスーパーマーケットを中心とするアウトサイ ダーの存在によって調整効果は充分に発揮されな かった。 そこで同省が次に用いたのは、薬局等開設許可 。←の際の行政指導による調整であった 14 ) 。すなわち、 「国民に対して良質な医薬品を適正に、かっ、必 要に応じて支障なく供給する社会的使命をもっ て」いる薬局等は「全国的に適正に配置されるこ ~ とが望ましい」として、「周辺の薬局等の経営を 圧迫」する「スーパー・マーケット等の医薬品販 売業の許可にあたっては、特に慎重に検討し、必 要に応じて県当局があっせんを行ない、許可申請 者と地元商業組合等薬業団体と協議せしめ両者協 調のもとに事業を実施し得るよう指導するととも に、その協議事項が遵守されるための実行確認の 措置をも講ずること」を都道府県に通知したので ある。いくつかの都府県では行政指導の際の内規 として適正配置規制が定められ、これがようやく 実効を挙げた。 法学セミナー 2016 / 01 / no. 732 処分を取消した ( x 勝訴 ) のに対し、原審 ( 広島高 判昭和 43 年 7 月 30 日行裁例集 19 巻 7 号 1346 頁 ) は、 Y の主張を採用し、薬事法 6 条 2 ・ 4 項および本件条 例 3 条を合憲と判断した ( その他の諸論点も X 敗訴 ) 。 これを受け X が上告。 しかし、行政不服審査法 ( 昭和 37 年法律第 160 号 ) によって行政庁の不作為に対する救済が講じられ ると、行政指導を理由として薬局等の開設許可を 保留することが困難となった 15 ) 。薬局等の開設許 可は、構造設備が法定基準に合致し、申請者に欠 格事由がなければ当然与えられるべきという、い わゆる羈束行為であったためである 16 よってよ り直接的に調整を裏付けるもの、すなわち法的根 拠が必要となった。これが適正配置規制を加える 本件改正へとつながる。 なお、本件改正については、自民党所属参議院 議員の高野ー夫 ( 日本薬剤師会会長 ) および中山 福蔵 ( 全国薬業士連合会会頭 ) が中心となった議 員立法によって成立した点に注意したいの。議員 立法は、医薬品小売業界の「スーパーマーケット の進出や乱売薬店の増加で、薬局の生活圏が脅か されているとした声を受け入れた結果であっ た。 しかし、その立法に際しては「参議院法制局も 衆議院法制局も、また内閣法制局も、いずれも、 いかなる業種であろうとも適正配置は憲法違反で ある、公衆浴場の適正配置を憲法違反でないとす る最高裁判所の判例もまちがっているという見解 をとっていたので、薬局の適正配置も同様だとの 考え方であって、意見の一致をみることが容易に できなかった期」と高野が回顧している点は留意 される。適正配置規制は当初から憲法違反のおそ れがあると考えられており、だからこそ閣法では なく議員立法というかたちで制定されたといえ よう ) 。
118 B I R A のほぼ半分に及ぶ ) 、その後 ( 3 湘談役、 ( 4 玳弁者、 ( 5 畩頼 法曹倫理が法曹のあり方を決める 者以外の者との関係、 ( 6 ) 法律事務所及びその団体、 ( 7 ) 公 本書は、アメリカで最もよく読まれている弁護士倫 的役務、 ( 8 ) 法的役務に関する情報と個々の論点が続き、 理の参考書・最新版の邦訳である。日本の弁護士にと 最後に ( 9 ) 法律専門職としての品格の保持が論じられる。 って、弁護士倫理は長らく主要な関心事ではなかった。 本書により、アメリカ法曹協会 ( ABA ) の法律家職務模 アメリカを含む諸外国と異なり、職務基本規程の発効 範規則の内容を概観できるとともに、日々の変化に応 まで、日本の弁護士倫理には、原則として法規範性が じて新たな倫理問題が次々と発生し、規則の内容が ABA なかったことは、日本の弁護士の職務規範に対する意 の公式見解・裁判例によって頻繁に見直され、高い透 明性の下に発展するというダイナミズムを理解できる。 識の低さを象徴している。一部の弁護士は、常識に従 って行動さえしていれば責任を追及されることはない そこからは、アメリカの弁護士の弁護士倫理への強い 拘りが窺われ、弁護士が如何に行動すべきかを規定す と今でも信じているかもしれない。しかしそれは誤り であり、弁護士は専門職として、時として常識に反す ることを通じて、弁護士の在り方自体を決定しようと るルールに従ってその職務を遂行しなければならな する態度が看取できる。例えば、詳細な利益相反の規制 い。職務基本規程の制定によって状況は変わり、さら は、依頼者の厳密な特定とも相俟ち、依頼者のために に法科大学院での必修科 のみ誠実に働くという弁 R E V I E W 護士観を反映している。 目化により、一時期は、 実定法研究者による教科 本書は、アメリカの弁護 士倫理を知るために最適 書も相当数刊行され活況 であるが、本書の意義は を呈したが、法科大学院 制度の挫折・衰退ととも それに尽きるものではな い。第一に、本書からは、 に、法曹倫理への関心も 薄れ、現在は一部の研究 アメリカの法律家観を知 ることができる。本書は、 者が関心を維持するに止 法律家の最も重要な能力 まる。しかし、そのこと は専門知識ではなく、「あ と、弁護士倫理の意義は ロナルド・ D ・ロタンダ = 著 別である。最近の懲戒事 る状況において如何なる 当山尚幸・武田昌則・石田京子 = 編 法律問題を伴うかを判断 例を見ても、基本規程の 彩流社 / 2015 年 4 月 /A 5 判 / 本体 3500 円十税 する能力である」とする。 法規範性は定着しつつあ この理解が共有されていれば、日本の法科大学院制度が るし、弁護士秘匿特権をめぐる議論が示すように、日 挫折することはなかったであろう。第ニに、弁護士倫理 本と諸外国、特に欧米の職務規範の調和は、弁護士業 を通じ、正義の具体的内容とその実現を担うアメリカ弁 務のグローバル化に伴って重要な課題となっている。 護士の実態を知ることができる。様々な立場にある弁 去科大学院の有無に係らず、弁護士倫理は、弁護士の 護士に応じた模範規則の詳細な規定は、アメリカ弁護士 行動を規律する法規範であり、法学研究の一分野とし の活動範囲の広さを示してもいる。第三に、弁護士倫理 て確立されねばならない。そしてアメリカでは、とも を通じて、アメリカの社会、特に問題に正面から向き合 すれば日本で曖昧にされている事項が、突き詰めて議 い正義に基づく解決を模索しようとする、法と社会の信 論されている。そのため、状況の差異を考慮しても、 頼関係を知ることもできる。それゆえ本書は、単に法曹 本書から基本規程の解釈・その改正に有用な多くの示 関係者だけでなく、アメリカの政治・経済・文化・歴 唆を得ることができ、 こに本書の最大の意義がある。 史を研究する者に広く読まれるべき書物であるだろう。 本書は、全体として 9 部で構成され、そのほとんど 最後に、困難な翻訳作業を短期間で完遂された、当 が、弁護士の倫理に充てられている。本書では、 ( 1 ) 法曹 山弁護士始め訳者の方々に敬意を表させていただく。 倫理規範の意味を明らかにする「総論」に始まり、 ( 2 ) すあみたかお 「依頼者と法律家の関係」の詳細な説明 ( 分量的に本書 [ 早稲田大学教授須網隆夫 ] R 事例解説 アメリカの法曹倫理 『アメリカの法曹倫理 ー事例解説〔第 4 版〕』
072 ーー hg 新・法令解釈・作成の常識 [ 第 19 回 ] 法令立案についての技術⑤ 実体的規定の書き方② 元衆議院法制局参事 吉田利宏 0 助成法の組立て 実体的規定は「時系列の支配」、「原則から例外への 流れ」「パンデクテン方式」という 3 つの視点を踏ま えて書かれているということを先号で説明しました。 こでは、助成法と規制法を例にして、その組立てを 見ることにしましよう。 次の表はある補助に関する条例の見出しの一部を抜 き書きしたものです。 〇日高町浄化相設置補助に関する条例 3 条 ( 補助対象 ) 4 条 ( 補助金の額 ) 5 条 ( 補助金交付の申請 ) 6 条 ( 補助金交付の決定 ) 7 条 ( 補助金交付の取消し ) 8 条 ( 補助金の返還 ) 補助については、地方自治法 232 条の 2 に「普通地 方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、 寄附又は補助をすることができる」との規定があり、 必ずしも条例を定めて行う必要はありません。しかし、 補助を適正、公平に行うという観点から条例を定めて 行う場合があります。 まず、 3 条と 4 条ですが、補助制度の概要について 述べています。 〇日高町浄化槽設置補助に関する条例 ( 補助対象 ) 第 3 条補助金の交付を受けることのできる者は、 個人住宅、共同住宅又は店舗等併用住宅に測ヒ槽 を設置しようとするものとする。ただし、店舗等 併用住宅に設置する場合にあっては、店舗等に要 法学セミナー 2016 / 01 / no. 732 ( 7 条 ) があってその取消に伴う「補助金の返還」 ( 8 の決定」 ( 6 条 ) があることや「補助金交付の取消し」 「補助金交イ寸の申請」 ( 5 条 ) があって「補助金交付 映したものと考えることができます。 で申請・決定の規定が先にあることは「時系列」が反 金を受けた後でなければ生じない問題です。その意味 「補助金交付の取消し」や「補助金の返還」は補助 れています。 の取消しがなされた場合の「補助金の返還」が規定さ れ、 7 条には「補助金交付の取消し」、 8 条には交付 さらに、 5 条、 6 条では補助金交付の手続が定めら 補助金の額について定めることから始めたのです。 のも唐突な感じがします。そこで、補助金の対象者や はいえ、いきなり「補助金の申請」から条文が始まる かです。この条例で創設するものではありません。と 助をすることができるのは地方自治法の規定から明ら きればもっとも座りがよいのでしようが、自治体力黼 「町は ~ について補助することができる」と規定で 分によるそれぞれ同表に定める額とする。 第 4 条前条第 1 項の補助金の額は、別表の人槽区 ( 補助金の額 ) ( 2 ド 5 ) 略 する者 規定による設置の届出を行わずにヒ槽を設置 確認の申請又はヒ槽法 ( 略 ) 第 5 条第 1 項の ( 1 ) 建築基準法 ( 略 ) 第 6 条第 1 項の規定による りでない。 ただし、町長が特に必要と認めた場合は、この限 に該当するものに対しては補助金を交付しない。 2 前項の規定にかかわらず、次の各号のいずれか する人槽分は対象から除く。
062 ロー・アングル LAWAngIe 憲法判例再読ー他分野との対話 [ 第 2 回 ] 薬局開設距離制限事件 ( 薬事法事俐 適正配置規制とその背景 最大判昭和 50 年 4 月 30 日民集 29 巻 4 号 572 頁 山本真敬早稲田大学法学学術院助手 ( 憲法 ) り、石】裕介後藤・安田記念東京都市研究所研究員 ( 日本法制史 ) 法学セミナー 2016 / 01 / no. 732 0 あらすじ 広島県福山市で、スーパーマーケット等を経営す る X ( 原告 ) が、店舗内に薬局を新規開設するため 薬局開設の許可を Y ( 広島県知事 ) に申請した。だが、 薬局開設を許可する条件のひとつに、薬局と薬局の 間は一定の距離が離れていなければならない ( 以下、 適正配置規制という ) と定める法令があり、原告の 開設予定店舗の近隣には既に薬局が存在していたの で、 Y は X の申請を却下した ( 以下、本件不許可処 分という ) 。そこで X は Y を被告とし、本件不許可 処分の取消しを裁判所に求めた。最高裁は、上記適 正配置規制には必要性および合理性がなく職業の自 由を侵害するもので違憲無効であるとした。 ロ争点 1 ・職業の自由 ( 職業の選択および職業の活動〔遂 行〕 ) に対する司法審査のあり方はどのよう なものか ・適正配置規制は憲法 22 条 1 項に違反するか ロ判例を読む前に 憲法学習者のみなさんに是非考えて欲しいこと 今回取り扱うのは、近年理論的観点からしばしば 再読されている判決である ( 後記「憲法学上の意義」 参照 ) 。そこで、憲法学習者の皆さんには、まずは ひと手間かけて、憲法学で議論の多い本判決が、 体いかなる論理によって結論に到達したのかを正確 に把握して欲しい。そして、本判決を巡って提示さ れている様々な見解が一体何を主張しているのかを 正確に把握して欲しい ( 憲法側は学習者のための議論 の整理を目的としている ) 。 憲法に関心のある一般読者の皆さんに是非考えても らいたいこと 「銭湯」に行ったことのある読者もいるだろう。 もし読者の中に銭湯を開業したいと考える人がいる としても、開業場所を自由に選べるわけではない。 例えば東京都の場合、近隣の銭湯から 300m 以内な らば、原則として開業できない ( 公衆浴場法 2 条 3 項・ 公衆浴場の設置場所の配置及び衛生措置等の基準に関 する条例 2 条 1 項。これも適正配置規制である ) 。この ような適正配置規制 = 距離制限が、いまや街中に見 かける薬局・ドラッグストアにも、かっては存在し た。距離制限が、自分の職業にも将来降りかかって くる可能性は、ゼロとはいえない ( 距離制限という かたちではなくとも、例えば、最近話題になった医薬 品販売のように〔参照、最 2 小判平成 25 年 1 月 11 日民 集 67 巻 1 号 1 頁〕、インターネットでの出店禁止のよう なかたちでの規制が行われるかもしれない ) 。他方で、 憲法 22 条 1 項は、「何人も、公共の福祉に反しない 限り、・・・・・・職業選択の自由を有する」と定めている。 距離制限内であればその職業を選択できなくなる以 上、銭湯の場合であれ薬局の場合であれ、距離制限 は憲法 22 条 1 項の職業の自由を制約することにな る。このような距離制限においては「自分の好きな ところに自分の店を出せない」ことが問題となるが、 この問題は ( 憲 ) 法的にどのように考えたらよいの か。その素材を提供してくれるのが、本判決である。
092 法学セミナー 2016 / 01 / n0732 LAW CLASS 1 ) 久保田安彦「 ( 本連載第 6 回 ) 新株予約権制度の趣旨 と効用」法学セミナー 731 号 ( 2015 年 ) 89 頁参昭 2 ) 田中亘「オートバックスセプン事件」中東正文 = 大 杉謙一 = 石綿学編「 M & A 判例の分析と展開Ⅱ』 ( 経済 法令研究会、 2010 年 ) 61 ー 62 頁参照。なお、久保田安彦「転 換社債型新株予約権付社債と有利発行規制」同『企業金 融と会社法・資本市場規制』 ( 有斐閣、 2015 年、初出 285 年 ) 153 ー 155 頁も参照。 こうした考え方の正当化根拠につき、久保田安彦「 ( 本 連載第 4 回 ) 公開会社の株式発行規制」法学セミナー 729 号 ( 2015 年 ) 110 頁参昭 4 ) 会社法上、募集新株予約権発行の効力発生について、 このように定められているのは、ストックオプションと して新株予約権が発行される場合を考慮したためであ る。すなわち、ストックオプションに関する会計基準に よれば、取締役や従業員等から職務執行を受ける対価と して会社がストックオプションを発行するとき、発行さ れるストックオプションは費用として会計処理される。 こうした会計処理と揃える形で、会社法上の取扱いとし ても、取締役等が会社で職務執行を行って報酬債権を得 たうえで、新株予約権の払込金額の払込みに代えて、当 該報酬債権をもって相殺する ( 会社 246 条 2 項参照 ) と いった法律構成を用いることが考えられる。ところが、 仮に払込金額の全額を払い込まないかぎり新株予約権発 行の効力が生じないと規定すると、「当該新株予約権の 対価とされている職務執行」を行うべき期間が終了する まで新株予約権が発行されないことになり、その期間に ついては、新株予約権原簿を通じた開示 ( 会社 249 条・ 252 条 ) などの規制を及ばすことができなくなってしま う。そこで、会社法上は、割当日に新株予約権の効力が 生じるとしたうえで、払込金額の払込みは権利行使のた めの条件として整理されることになった。 5 ) 転換社債型新株予約権付社債の場合には、新株予約 権の権利行使価額の払込みに代えて会社に社債を現物出 資することになるから ( このため新株予約権〔転換権〕 の行使によって社債は消滅する ) 、検査役の調査が必要 になるようにみえる。もっとも、新株予約権者が新株予 約権 ( 1 個の新株予約権という趣旨であると解されてい る ) の行使によって交付を受ける株式数が発行済株式総 数の 10 % を超えない場合には、例外的に検査役調査が不 要であるとされているため ( 会社 284 条 9 項 1 号 ) 、転換 社債型新株予約権付社債の場合について、新株予約権の 行使に際して検査役調査が必要になる場合はほとんど考 えられないといわれる ( 相澤哲 = 葉玉匡美 = 郡谷大輔編 「論点解説新・会社法」〔商事法務、 2006 年〕 255 頁 ) 。 6 ) 江頭憲治郎「会社法〔第 6 版〕』 ( 有斐閣、 2015 年 ) 798 頁、告本健一『会社法〔第 2 版〕』 ( 中央経済社、 2015 年 ) 337 頁。なお、新株予約権発行の不存在をめぐ る議論につき、詳しくは久保田安彦「新株予約権発行の 瑕疵とその連鎖」同『企業金融と会社法・資本市場規制』 ( 有斐閣、 2015 年、初出 2011 年 ) 185 頁以下昭 7 ) 告本健一「新株予約権の行使による株式発行等の差 止めおよび無効」『奥島孝康先生古稀記念論文集第 1 巻 上篇』 ( 成文堂、 2011 年 ) 245 頁注 14 参昭 8 ) 新株予約権付社債の場合とそれ以外の新株予約権の 場合とで、無効原因を区分して考えるというアイデアも ありうるが ( 告本・前掲注 7 ) 241 頁参照 ) 、どのように 区分するかの基準が必ずしも明らかでない、条文上の根 拠に欠けているなどの難点がある ( 久保田・前掲注 7 ) 175 ー 176 頁参照 ) 。 9 ) 新株予約権発行に無効原因がある場合における当該 新株予約権の行使による株式発行については、どのよう な差止事由が認められるかも問題になるところ、以下の ような解釈が可能である。すなわち、そのような場合、 本来的には、取締役は新株予約権発行無効の訴えを提起 すべきであると考えられる。それにもかかわらず、そう した措置をとることなく、取締役が新株予約権の行使に 応じて株式発行を行なうこと ( 株式発行をしないための 措置をとらないこと ) は、善管注意義務違反となる。そ うした義務違反 ( 義務を定める一般的規定〔会社 330 条、 民 664 条〕の違反 ) は会社法 210 条にいう「法令」の違反 に該当する、あるいは著しく不公正な方法による発行で あることを基礎づけると解される ( 久保田・前掲注 6 ) 177 頁 ) 。 10 ) 東京高決平成 20 年 5 月 12 日金判 1298 号 46 頁など。 (1) 学説の議論状況につき、詳しくは久保田・前掲注 6 ) 169 頁以下、神田秀樹編「会社法コンメンタール ( 5 ) 』 ( 商 事法務、 2013 年 ) 106 ー 107 頁〔洲崎博史〕参昭 12 ) 民集 66 巻 6 号 2908 頁。 13 ) 学説の議論状況につき、詳しくは久保田・前掲注 6 ) 180 頁以下参照。 14 ) 例えば、公開会社の事例でいえば、平成 26 年改正で 導入された、支配権移転が生じうる場合の規制 ( 上記 2 [ 3 ] ) に違反して新株予約権が発行された場合、非公開 会社の事例でいえば、新株予約権発行に係る募集事項を 決定するための株主総会決議を欠く場合が挙げられる。 いすれの場合にも、新株予約権発行に無効原因が認めら れると解されるため ( 前者につき久保田・前掲注 3 ) 111 ー 112 頁、後者につき久保田安彦「 ( 本連載第 5 回 ) 非 公開会社の株式発行規制」法学セミナー 730 号 106 ー 107 頁参照 ) 、当該新株予約権が行使されたのが新株予約権 発行無効の訴えの提訴期間経過前である限り、新株予約 権の行使による株式発行等には無効原因が認められる。 なお、公開会社の事例では、新株予約権発行に際して株 主への通知・公告を欠くときにも、原則として新株予約 権発行は無効であると解されるが ( 募集株式の発行等の 場合につき最判平成 9 年 1 月 28 日民集 51 巻 1 号 71 頁、最 判平成 10 年 7 月 17 日判時 1653 号 143 頁参照 ) 、そうした場 合にも、実質的には株主の支配的利益の保護が問題とな っていることは少なくない。 15 ) なお、新株予約権の行使による株式発行が不存在と される場合もありうるところ、この場合には株主等はど のような方法で不存在を主張してもよく、訴えによる場 合 ( 株式発行不存在の訴えに関する規定が〔類推〕適用 される ) も提訴期間の制限は課されないと解される ( ど のような場合に不存在事由が認められるかも含めて、久 保田・前掲注 6 ) 196 頁参照 ) 。 16 ) 坂本三郎編「一問一答平成 26 年改正会社法』 ( 商事 法務、 2014 年 ) 148 頁。 17 ) 久保田安彦「株式・新株予約権の仮装払込みをめぐ る法律関係」阪大法学 65 巻 1 号 ( 2015 年 ) 142 頁。 ( くばた・やすひこ )
憲法判例再読 065 02 ロ判旨 ①職業の自由と、それを規制する法律に対する審査 のあり方 職業は、人が自己の生計を維持するための継続的 活動であり、また、職業を通じて社会の存続と発展 に寄与するという性質を持っ点で、個人の人格的価 値とも不可分に関連する。この点に鑑みると、職業 の選択 ( 開始・継続・廃止 ) のみならず、選択した 職業の遂行自体 ( 職業活動の内容・態様 ) も、原則 として自由であることが、憲法 22 条 1 項により保障 されている。 しかし、職業は、本質的に社会的・経済的な活動 であって、その性質上、社会的相互関連性が大きい ので、「職業の自由は、それ以外の憲法の保障する 自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力 による規制の要請がつよ」い。「職業は、それ自 身のうちになんらかの制約の必要性が内在する社会 的活動であるが、その種類、性質、内容、社会的意 義及び影響がきわめて多種多様であるため、その規 制を要求する社会的理由ないし目的も、〔ア〕国民 経済の円満な発展や社会公共の便宜の促進、経済的 弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的な ものから、〔イ〕社会生活における安全の保障や秩 序の維持等の消極的なものに至るまで千差万別で」 あり 22 ) 、職業の自由に対して現実に加えられる制限 も、「それぞれの事情に応じて各種各様の形をとる」。 従って、規制措置が憲法上是認されるか否かは、 「これを一律に論することができず」、裁判所として は、規制の目的が公共の福祉に合致する場合、「規 制措置の具体的内容及びその必要性と合理性につい ては、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとど まるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊 重すべき」であるが、この「合理的裁量の範囲につ いては、事の性質上おのずから広狭がありうるので あって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方 法等の性質と内容に照らして、これを決すべき」で ある。 ②職業の許可制の憲法上の意義と薬局開設の許可制 の憲法適合性 法定条件を満たした者のみにその職業遂行を許 し、それ以外の者に対してはこれを禁止する許可制 は、一般に、職業活動の内容及び態様への規制を超 え、職業の選択の自由そのものに制約を課す「強力 な制限」なので 23 、「原則として、重要な公共の利 益のために必要かっ合理的な措置」のみが合憲とな る。また、それが社会政策・経済政策上の「積極的 な目的」ではなく、自由な職業活動による社会公共 への弊害防止を目的とする「消極的、警察的措置で ある場合には、許可制に比べて・・・・・・よりゆるやかな 制限である職業活動の内容及び態様に対する規制に よっては右の目的を十分に達成することができない と認められることを要する 24 ) 」。さらに個々の許可 条件もまた、上記の観点から審査が必要である。 薬事法は薬局の開設を許可制のもとにおくが、医 薬品は、国民の生命及び健康の保持上の必需品であ るとともに、これに大きく関係するので、不良医薬 品の供給から国民の健康と安全を守るために、一定 の資格要件を満たした者のみに開業を許す「許可制 を採用したことは、それ自体としては公共の福祉に 適合する目的のための必要かっ合理的措置」である。 そこで進んで、許可条件に関する基準をみると、 薬局の構造設備や、薬剤師の数、そして設置申請者 の人的欠格事由を定める薬事法 6 項 1 項は「いずれ も不良医薬品の供給の防止の目的に直結する事項で あり、比較的容易にその必要性と合理性を肯定しう る」が、配置の適正を定める 2 項および 4 項は上記 目的と直接関連しないので、さらに具体的な検討が 必要である。 ③適正配置規制の目的 適正配置規制の提案者の示す提案理由によれば、 適正配置規制は、「主として国民の生命及び健康に 対する危険の防止という消極的、警察的目的のため の規制措置 25 ) 」であり、同じく提案理由の「薬局等 の過当競争及びその経営の不安定化の防止」は、「そ れ自体が目的ではなく、あくまでも不良医薬品の供 給の防止のための手段」にすぎない。すなわち、「小 企業の多い薬局等の経営の保護というような社会政 策的ないしは経済政策的目的」を適正配置規制は意 図しておらず ( この点で、小売市場許可制判決〔最大 判昭和 47 年 11 月 22 日刑集 26 巻 9 号 586 頁で争われた 規制とは「趣きを異に」するので、同判決の法理は本 件には適切ではない。 ) 、また、薬局に厳格な規制を 行いつつ経営安定のために独占的地位を与える目的