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検索対象: 法学セミナー2016年06月号
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1. 法学セミナー2016年06月号

043 特集 本件の差戻控訴審 ( 平 27 ・ 11 ・ 17 労判 1127 号 5 頁 ) が示 した「特段の事情」の判断手法や、使用者に課される「女 性労働者の母性を尊重し職業生活の充実の確保を果たす べき義務」の意義についても論じるべき点は多い。これ らの点については、他日を期したい。 19 ) なお、本件最高裁の発想は、シンガー・ソーイング・ メシーン事件・最判昭和 48 ・ 1 ・ 19 民集 27 巻 1 号 27 頁に おいて展開された、色川裁判官の反対意見にも通じるも のがある。 20 ) 近年、強力に進められている労働法制の規制緩和は、 ジェンダー視点から見た場合にも、さまざまな問題を含 むものである。西谷敏他「日本の雇用が危ない』 ( 旬報社、 2014 年 ) 参昭 (1) 女性の労働実態からみた有期労働契約法制の問題点 を論じるものとして、緒方桂子「新しい有期労働契約法 制と社会的包摂」法律時報 85 巻 3 号 ( 2013 年 ) 15 頁以下。 22 ) 労働者派遣法について批判的に論じる理論書として、 和田肇・脇田滋・矢野昌浩編著『労働者派遣と法』 ( 日 本評論社、 2013 年 ) 。 ( おがた・けいこ ) カテゴリーに関連する社会規範及び社会制度」を指す場 合、⑦男女の権力関係を指す場合である。 2 ) 「法は、ジェンダー規範の最たる表現」であると表現 し、その問題性を論じるものとして、三成美保「ジェン ダー概念の展開と有効性」ジェンダーと法 5 号 ( 2008 年 ) 78 頁。 3 ) 浅倉むつ子「ジェンダー視点の意義と労働法」荒木 誠之・桑原洋子編『社会保障法・福祉と労働法の新展開』 ( 信山社、 2010 年 ) 412 ー 417 頁。 4 ) エヴァ・フェダー・キティ ( 岡野八代・牟田和恵監訳 ) 『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』 ( 白澤社、 2010 5 ) DaIy, Mary, ed. , 2001 , Care Work: The Quest for Security, lnternational Labour Office. 6 ) なお、「ケア」概念をめぐる議論については、上野千 鶴子『ケアの社会学』 ( 太田出版、 2011 年 ) 39 頁以下参照。 7 ) キティ前掲注 4 ) 34 頁。 8 ) なお、キティの展開するケアの倫理については、工 ヴァ・フェダー・キティ ( 岡野八代・牟田和恵訳 ) 「ケ アの倫理からはじめる正義論 - ーー支えあう平等』 ( 白澤 社、 2011 年 ) も非常に参考になる。 9 ) 東亜ペイント事件・最判昭和 61 ・ 7 ・ 14 労判 477 号 6 頁。 10 ) 息子の保育園への迎えの都合から配転命令を拒否し た女性労働者に対して行われた懲戒解雇を有効とした事 案としてケンウッド事件・最判平 12 ・ 1 ・ 28 労判 774 号 7 頁、重度のアトピー性皮膚炎に罹患している幼児をも っ女性労働者に対して行われた配転命令が権利の濫用に あたると判断された事案として明治図書出版事件・東京 地決平 14 ・ 12 ・ 27 労判 861 号 69 頁、精神疾患の妻を有す る労働者および要介護状態の母を持っ労働者に対する配 転命令が権利濫用にあたると判断された事案としてネス レ日本事件・大阪高判平 18 ・ 4 ・ 14 労判 915 号 60 頁がある。 (I) 非正規労働者であれば配転されないということでは なく、あくまでも配転命令の有無は労働契約上の取り決 めによるが、一般的に、非正規労働者の多くは勤務場所 や職種を限定して採用されることが多いため、配転命令 の対象とならないことが多い。 12 ) 平成 26 年賃金構造基本統計調査 (http://www.mhlw. go. jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/ z 2014 / d レ 06. pdf) によれば、平成 25 年度雇用形態別の賃金の状 況は、男性正社員を 100 とした場合、正社員以外の男性 は 65 、女性正社員は 74 、正社員以外の女性は 52 となって いる。 13 ) なお、この点について論じるものとして、緒方桂子「ケ アと労働ーー労働法の解釈学における「ケアの倫理」の 可能性」ジェンダーと法 N012 ( 2015 年 ) 37 頁以下。 14 ) 個別的随時同意説。個別的随意同意説の意義につい て論じるものとして、緒方桂子「「ワーク・ライフ・バ ランス』の時代における転勤法理ー一個別随意合意説の 再評価」労働法律旬報 1662 号 34 頁以下など。 15 ) 広島地判平 24 ・ 2 ・ 23 労判 1100 号 18 頁。 16 ) 広島高判平 24 ・ 7 ・ 19 労判 1100 号 15 頁。 17 ) 最判平 26 ・ 10 ・ 23 労判 1100 号 5 頁。 18 ) 本件最高裁判決は非常に興味深い判決であり、さま ざまな観点から検討する必要があると思われる。また、

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か、他人の物」に当たる場合には、器物損壊罪 ( 261 条 ) が成立するのであるから、土地等の不動産につ いては、器物損壊罪で処理することが妥当であり、 判例においても、敷地を掘り起こして畑地とした事 例 32 、学校の校庭に杭を打ち込み授業や課外活動に 支障を生じさせた事例 33 ) などにつき、器物損壊罪を 認めている。 事実を処理するメソッド 判例・多数説といわれる立場から整理すれば、不 動産侵奪罪の存在を理由に、不動産は窃盗罪・ 1 項 強盗罪の客体とはならず ( 強盗罪では 2 項で扱われ る ) 、それ以外の財産犯においては財物として扱わ れ、 1 項詐欺罪・ 1 項恐喝罪の客体ともなり得る。 一方、不動産侵奪罪の影響を窃盗罪のみに限定し て考えれば、強盗罪も含め、窃盗罪以外の財産犯に おいてはすべて不動産を財物として扱うことにな る。その場合、不動産自体の取得を目的とする場合 には 1 項、賃借権等の利益を目的とする場合には 2 ハトル回イヤル 33 ) 最決昭和 35 ・ 12 ・ 27 刑集 14 巻 14 号 2229 頁。 109 項という区別が有効になろう。 1 ) 大判明治 36 ・ 5 ・ 21 刑録 9 輯 874 頁。 2 ) たとえば、平野龍ー『刑法概説』 ( 東京大学出版会、 1977 年 ) 200 頁。 3 ) 佐伯仁志「不動産を客体とする財産犯」法学教室 368 号 109 頁参照。 4 ) 団藤重光編『注釈刑法 ( 6 ) 』 ( 有斐閣、 1966 年 ) 〔田宮裕〕 76 頁。 5 ) 佐伯仁志「窃盗罪をめぐる 3 つの問題」研修 645 号 4 頁は、他人の家にある他人のストープや電気器具を無断 で使用する場合などを例に挙げている。 6 ) 時代の要請により、不動産窃盗の事案を処罰する必 要性が強くなったこともあって、その当時の通説とまで 言われている。高橋勝好「不動産侵奪罪と境界毀損罪」 法曹時報 12 巻 6 号 14 頁参照。 7 ) 不動産侵奪罪が新設された当時の時代背景ないし立 法の経緯については、高橋・前掲注 6 ) 1 頁以下参照。 8 ) 香川達夫「不動産の強取は二項強盗か」警察研究 62 巻 3 号 5 頁、丸山雅夫「刑法の論点と解釈』 ( 成文堂、 2014 年 ) 234 頁。 9 ) 最判昭和 32 ・ 11 ・ 8 刑集 11 巻 12 号 3061 頁。 10 ) 臼井滋夫「不動産侵奪罪等に関する規定の立法経過 と問題点」警察学論集 13 巻 6 号 98 頁。一方、そのような 大幅な観念化に疑問を呈するものとして、大塚裕史「判 批」法学教室 239 号 127 頁。 (I) 松原芳博「刑法各論』 ( 日本評論社、 2016 年 ) 219 頁 参照。 12 ) 【事例 1 】については、完全に行方をくらまして実効 的支配が不可能になった状態とみるか、いまだ占有意思 を継続しつつ一時しのぎとして逃げたに過ぎないのか、 という、いわば「夜逃げ」の評価によって結論が変わっ てくるように思われる。 13 ) 臼井・前掲注 10 ) 98 頁。 14 ) 最決昭和 42 ・ 11 ・ 2 刑集 21 巻 9 号 1179 頁は、先行す る占有が適法な権限に基づくものではない事案について であるが、「従前の一時使用の態様から侵奪へと質的に 変化を遂げた」場合に不動産侵奪罪を肯定した原判決を 是認している。 15 ) 最判平成 12 ・ 12 ・ 15 刑集 54 巻 9 号 923 頁。【事例 2 】 で取り上げた決定と同日の判決である。 16 ) 臼井・前掲注 10 ) 92 頁。 17 ) 西田典之『刑法各論〔第 6 版〕』 ( 弘文堂、 2012 年 ) 173 頁、山口厚「刑法各論〔第 2 版〕』 ( 有斐閣、 2010 年 ) 214 頁。 18 ) 香川達夫『強盗罪の再構成』 ( 成文堂、 1992 年 ) 83 頁、 丸山・前掲注 8 ) 222 頁。 19 ) その場合、さらに重ねて「財物」の中に不動産が含 まれるかも問題になるが、この立場からは、不動産の財 物性も肯定されることになろう。もっとも、理論的には 事後強盗罪の成立可能性があったとしても、通常、正当 権利者の取還行為が行われるのは、侵奪行為が完了して からかなり時間が経過していることが多いことから、実 際に事後強盗罪が肯定される例はまれであろうとされ る。田宮・前掲注 4 ) 81 頁。実質的に否定するものとし て高橋・前掲注 6 ) 27 頁、臼井・前掲注 10 ) 92 頁。 20 ) 大判大正 11 ・ 12 ・ 15 刑集 1 巻 763 頁。 (1) 大阪地判平成 17 ・ 3 ・ 29 判タ 1194 号 293 頁。 22 ) 最決昭和 42 ・ 12 ・ 21 刑集 21 巻 10 号 1453 頁。 23 ) 香川・前掲注 18 ) 77 頁。 24 ) 山口厚『新判例から見た刑法〔第 3 版〕』 ( 有斐閣、 2015 年 ) 209 頁。 25 ) A に、直接占有者たる X との重畳的占有を肯定する。 26 ) 町野朔「判批」刑法判例百選Ⅱ各論〔第 2 版〕 71 頁、 斉藤豊治「判批」刑法判例百選Ⅱ各論〔第 4 版〕 69 頁。 27 ) 田山聡美「裏切られた店主」本連載第 2 回 ( 本誌 721 号 ) 98 頁【事例 4 】において、動産に関する重畳的占有 に言及したが、不動産の場合にはさらに重畳事例が多く 認められる可能性があるように思われる。 28 ) もっとも、現実に起こる事件では、行為者が現実的 な占有をするに至った事情によって、横領罪における委 託信任関係を肯定しにくい場合や、不動産侵奪罪におい て保護に値する事実的支配を肯定しにくい場合なども考 えられ、両罪ともに肯定できる事例は実際上は少ないと 思われる。 こでは、重い方の一罪の適用を想定しているが、 逆に、動産における場合も含め、本稿よりも広範囲に重 畳的占有を認めたうえで、所有者と行為者との間に信任 関係がある場合には横領罪を優先適用するものとして、 鈴木左斗志「判批」ジュリスト 1196 号 139 頁。 30 ) 林幹人「刑法各論〔第 2 版〕」 ( 東京大学出版会、 29 ) 32 ) 大判昭和 4 ・ 10 ・ 14 刑集 8 巻 477 頁。 2007 年 ) 308 頁。 ( たやま・さとみ ) (1) 高橋・前掲注 6 ) 28 頁、丸山・前掲注 8 ) 229 頁。

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018 女子労働者の平均賃金なのか。なぜ、男子労働者な いし全労働者の平均賃金でないのか、という問いに 対する答えにはなっていない。 あるいは、最高裁が、家事労働を労働社会におけ る同等の仕事とのアナロジーで金銭評価することか らすれば、家政婦や保育士といった職にある人の賃 金を基礎とした算定を想定した上で、これらの職が、 ほば女性によって担われていることから、女子労働 者の平均賃金をもって逸失利益額を推定したとも考 えられる。もっとも、そうであれば、平均賃金以上 の収入がある有職者が家事を負担していたケースで も、 ( いわば、外の仕事を終えて帰宅した後、家政婦・ 保育士としてダブルワークしているようなものである から、 ) この者の逸失利益を算定するにあたっては、 家事労働分の加算が当然に認められなければならな い。しかし、最判昭和 62 ・ 1 ・ 19 民集 41 巻 1 号 1 頁 は、「被害者が専業として職業に就いて受けるべき 給与額を基準として将来の得べかりし利益を算定す るときには、被害者が将来労働によって取得しうる 利益は右の算定によって評価し尽くされることにな る」として、「家事労働分を加算することは、将来 労働によって取得しうる利益を二重に評価計算する ことに帰するから相当ではない」との判断を示すの である。 結局、以上の実務は、家事は女性の仕事との前提 から導かれたとしか考えられない。そして、歴史的 に ( 現在においてもなお ) 家事労働を担ってきたの が主に女性であったとしても、家事労働は女性が担 うものとの決めつけは、性別役割についてのジェン ダーバイアス以外のなにものでもないのである。 では、家事従事者の逸失利益はどのように算定す べきなのであろうか。そもそも、最高裁が「家事」 と一括りにする労働は、家族 ( 依存者 ) のケアニ ズに対応したケアワークたることを本質としている ところ、こうしたケアワークは、人が生きていくた め、社会を維持していくために不可欠の前提をなす 労働であるといえる。人は誰もが昔は子どもだった のであるが、子どもは、特に幼少期においては、大 人のケアなしには生存すら困難なのである 無論、炊事・洗濯については家事代行サービスを 利用する、また、幼児については保育園、要介護者 については介護サービスを利用し、適切な施設に入 居させる等、一定の家事を外部化することは ( 費用 の問題は別として ) 可能である。 しかし、介護について、在宅で受けられる公的な 介護サービスは限られており、施設入所といっても、 特別養護老人ホームは入所待ちが常態化している。 育児についても、望んだ保育園がいつでも利用でき るわけではないのであって、子どもの預け先が決ま らなければ、産休・育休が終わっても仕事に復帰で きないのが現実である。運良く希望の保育園に預け られたとしても、子どもが体調を崩せば、保育園か らの電話一本で親は迎えに行かなければならない。 その後も、病児が回復するまでは、親の保育が原則 であって、病児保育施設を利用しようとしても、定 員は限られている。子どもが障害を抱えているケー スでは、問題はより深刻となろう。 誰かがケアしなければ生存すら危うい依存者につ いて、最終的に、 ( 他に引き受け手がない場合には否 応なく、 ) この義務を負うのがケアワーカーたる「家 事従事者」なのであるとすれば、ケアワーカーは、 まさに賃労働を裏から支えていることとなる。ケア ワークを担いながら、キャリアを継続することを可 能とする社会システムが整備されていない日本の現 状を考えた場合、この担い手を欠くことは、夫婦の 一方の職を奪うことにもつながりかねないのであっ て 7 、「家事労働」の財産的価値は、この観点から 正しく評価されなければならない。すなわち、家事 労働は、少なくとも賃労働と等価の評価に値するの であって、全労働者平均賃金をもってその対価を算 定することが適切と考えられるのである 8 なお、ケアワークは全人的な労働であり、求めら れる労働の質および量は、各家庭におけるケアニ ズに応じて千差万別であるところ 9 こうした労働 の金銭評価が困難であることは上掲昭和 49 年最判の 論じる通りである。この点、最判昭和 56 ・ 11 ・ 12 民 集 35 巻 9 号 1350 頁は、損害の発生は明らかだが、従 来の損害算定方法では損害を適切に算定できない、 その点で今回と同様のケースにおいて 10 、「かりに」 労働能力の喪失自体を損害として観念することがで きるとすれば、労働能力喪失率によって逸失利益を 算定できることを論じる。上掲昭和 49 年最判が家事 労働の評価にあたっても同様の立場に立つものと考 えれば、賃労働の対価により、被害者の労働能力に ついての評価は尽くされてとして、家事労働分の加

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特集一シェンダー 029 学入 改憲が世間を賑わす昨今であるが、むしろ日本社 1991 年 ) 、同「性差別と暴力ー続・性の法律学』 ( 有斐閣、 2001 年 ) 等。谷田川戸知恵「性的自由の保護と強姦処罰 会にとって喫緊の課題は、家父長制度下で制定され 規定」法学政治学論及 46 号 ( 2000 年 ) 507 頁以下等も参照。 た民法や刑法を、当時は皆無であったジェンダー平 本稿記載の問題点は、浅田一茂・井田良「新基本法コン 等的視点を取り入れて全面改正することではないか メンタール刑法』 ( 日本評論社、 2012 年 ) における 177 条 以下の解説でも指摘した。 と思われる。 14 ) 団藤重光『刑法各論〔第 3 版〕』 ( 創文社、 1990 年 ) 489 頁、大塚仁『刑法概説 ( 各論 ) 〔第 3 版〕』 ( 有斐閣、 1996 年 ) 97 頁、大谷實「刑法講義各論〔新版第 3 版〕』 ( 成 1 ) 女性差別撤廃条約 ( 1979 年 ) に基づき設置された女 文堂、 2009 年 ) 109 頁等参照。 性差別撤廃委員会 (CEDAW) の一般勧告においても再 15 ) 最判昭 24 ・ 5 ・ 10 刑集 3 巻 6 号 711 頁。団藤・前掲注 三指摘されている。勧告は、内閣府男女共同参画局の 7 ) 書 490 頁、西田典之「刑法各論〔第 5 版〕』 ( 弘文堂、 HP ( http //www.gen der. go. j p/in ternationa レ int_kai gi/ 2010 年 ) 88 頁、山口『刑法各論〔第 2 版〕』 ( 有斐閣、 int—teppai/) で見ることができる。 2010 年 ) 107 頁等。 2 ) ただし、急迫性の要件が認められない場合は、過剰 16 ) わが国でこの表現を最初に用いたのは、谷田川知恵 防衛にもならないとするのが、通説・判例 ( 最判昭和 である。同「性的自己決定権の侵害」三成三保・笹沼朋 30 ・ 10 ・ 25 刑集 9 巻 11 号 2295 頁 ) である。 子・立石直子・谷田川著「ジェンダー法学入門〔第 2 版〕」 3 ) DV の加害者と被害者は精神医学的に「共依存」関 ( 法律文化社、 2015 年 ) 86 頁以下参昭 係であることが多く、被害者が身を守るために加害者に 17 ) 特徴として、①強姦罪の客体を男女とし、②性器の結 対して従順な態度を示すことなどが指摘されてきた。最 合以外の性的侵害行為 ( アナルセックス、男性被害等 ) も 近の文献として、性犯罪被害者の行動についてではある 同様に処罰し、③暴行・脅迫要件を緩和して、被害者の が、田中嘉壽子「性犯罪の被害者の供述の信用性に関す 意思に反した性的暴行であることを重視している。この るあるべき経験則について : 防災心理学の知見の応用 : うち、①②は、諮問 101 号でも同様の改正を提案している。 正常性バイアスと凍り付き症候群」甲南法務研究 (11) 18 ) 前注 14 ) ・ 15 ) 参昭 ( 2015 年 ) 57 頁以下参昭 19 ) 札幌高判昭和 30 ・ 9 ・ 15 高刑集 8 巻 6 号 901 頁、高松 4 ) たとえば、岡田久美子「 D v 殺人と正当防衛」浅倉 高判昭和 36 ・ 10 ・ 30 高検速報 211 号、広島地判昭和 44 ・ 3 ・ むっ子・角田由紀子編『比較判例ジェンダー法』 ( 信山社、 26 判タ 235 号 285 頁、岡山地判昭和 45 ・ 4 ・ 15 ジュリ 475 号 2008 年 ) 49 頁以下、森本陽美「被虐待女性と正当防衛」 7 頁、大阪地判昭和 46 ・ 3 ・ 12 判タ 267 号 376 頁、広島高 現代刑事法 5 巻 3 号 ( 2003 年 ) 52 頁以下、森川恭剛「 DV 判昭和 53 ・ 11 ・ 20 判時 922 号 111 頁、岡山地判平成 6 ・ 8 ・ 被害者の反撃と正当防衛ー侵害の急迫性について」琉大 31LEX / DB25420447 ( ただし、わいせつ目的誘拐罪は認 法学 80 号 ( 2008 年 ) 1 頁以下、林美月子「家庭内暴力と めた ) 、大阪地判平成 20 ・ 6 ・ 27LEX / DB28145357 など。 正当防衛」神奈川法学 43 巻 1 号 ( 2010 年 ) 43 頁以下等参昭 20 ) 最判平成 23 ・ 7 ・ 25 集刑 304 号 139 頁。 5 ) 山口厚『刑法総論〔第 2 版〕』 ( 有斐閣、 2007 年 ) 118 (1) 被告人が通行中の女性 ( 18 歳 ) に対して暴行、脅迫 頁、井田良「講義刑法学・総論』 ( 有斐閣、 2008 年 ) 282 を加えてビルの階段踊り場まで連行し、強姦したとされ 頁など参照。 た事件について逆転無罪を言い渡したが、「被害者の供 6 ) 佐伯仁志「正当防衛論 ( 1 ) 」法教 291 号 ( 2004 年 ) 85 頁。 述は、「ついてこないと殺すぞ』と言われ、「恐怖で頭が 7 ) 斉藤誠二『正当防衛権の根拠と限界」 ( 多賀出版、 真っ白になり、変に逃げたら殺されると思って逃げるこ 1994 年 ) 287 頁、高山佳奈子「正当防衛論 ( 上 ) 」法教 とができなかった』というが、その時間帯は人通りもあ 267 号 ( 2002 年 ) 83 頁など。 り、そこから近くに交番もあるにもかかわらす、叫んだ 8 ) 正式名称は「盗犯等ノ防止及ビ処分ニ関スル法律」 ( 昭 り、助けを呼ぶことも逃げ出したりもしていないのは不 和 5 年法律 9 号 ) 。 自然であって容易には信じ難い」などと断じている。性 9 ) フランスでも、 2015 年末、 40 年以上 DV を受けてきた 犯罪においては、被害者が威圧的な言動により萎縮して 夫を殺害した女性が大統領恩赦を受けた事件をきっかけ 抵抗できなくなる場合が少なくないのが実態であり ( 前 に、 DV 被害者の正当防衛適用を拡張する法案が 2016 年 掲注 3 ) 田中論文参照 ) 、このように被害者を非難する姿 3 月議会に提出されるなど、正に議論が高まっている。 勢は、欧米では禁止された「強姦神話」そのものである。 10 ) 拙稿「ジェンダーと現行刑法典」現代刑事法 5 巻 3 22 ) 親告罪については、高島智世「強姦罪はどうして親 号 ( 2003 年 ) 13 頁以下、同「男性化された犯罪」ジェン 告罪なのか」「女性学 v 。 I. 16 」 ( 2009 年 ) 68 頁以下が詳しい。 ダーと法 9 号 ( 2012 年 ) 17 頁以下、同「フランス刑法に 23 ) 小倉京子 / 宮園久栄・コラム「レイプ・シールド法」 おける性犯罪の類型と処罰について」刑法雑誌 54 巻 1 号 第二東京弁護士会司法改革推進二弁本部ジェンダー部会 ( 2014 年 ) 49 頁以下、「性犯罪の重罰化」本誌 60 巻 3 号 ( 2015 編『事例で学ぶ司法におけるジェンダー・バイアス』 ( 2003 年 ) 39 頁以下等参照。 年 ) 261 頁参昭 (l) 筆者もヒアリングに呼ばれ、フランス刑法を参考と 24 ) 業務妨害罪、名誉棄損罪、財産犯、コンピュータ関 した意見を述べた。 連犯罪、各種偽造罪、公務執行妨害罪、汚職の罪等が例 12 ) 審議会の資料や議事録は法務省 HP 内の関連ページ (http//www.moj.go.jp/shingil/shingikai—seihan.html) として挙げられる。 ( しまおか・まな ) に掲載されている。 13 ) 先駆的な研究として、角田『性の法律学』 ( 有斐閣、

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せいぜいが名誉毀損に対する謝罪広告 ( 723 条参 照 ) を命じるくらいなのである ( 最判昭和 31 ・ 7 ・ 4 民集 10 巻 7 号 785 頁など参照 ) 。従って謝罪の姿勢 もそれに対する満足も、損害賠償という形で処理 されざるを得ない。これは、法律による解決の持 っ限界というべきである。 しかしながら、「悔しい」とか「憎い」という気持 ちは、法の世界で高く評価される感情ではなく、むし ろ損害の公平な分担を第一に考えるべきである。とは いえ、当事者の生の感情はやはり無視できないもので あって、不法行為法の持っ制裁的機能も完全に否定す べきものでもあるまい。 不法行為法の第 3 の機能として挙げられるのが「損 害予防機能」である。一定の行為の結果に対して損害 賠償責任が課せられるとなると、そのような損害・コ ストの発生を極力避けようとするのは、人間の合理的 行動であって、結果的に損害が予防されることにつな がる。工場の煤煙が洗濯物を汚したとして、不法行為 責任が認められ損害賠償義務が課せられると、工場は 何とかして煤煙の発生を抑えようとするだろう。勿論、 洗濯代を払う方がばい煙の除去装置をつけるより安上 がりだとすると損害発生は予防できないことになるか も知れない ( 法の経済分析な、効率性の観点からは取引費 用ゼロの仮定のもとでは、権利義務の分配が必ずしも効率的 結果に影響しないというが、現実には取引費用ゼロの仮定は なりたたず、個別の当事者間での財の配分の公正さは問われ ざるを得ない。河上・民法学入門く第 2 版〉第 7 章 4 昭 ) 、ニ彡・・い、 0 * 【不法行為訴訟の予防的効果】かって、津地 裁で出た判決に、旧国鉄列車内のつり棚に置いて あった新婚夫婦のスーツケースが、歯医者 A の頭 に落ちてムチ打ち症を引き起こしたた事件で、 A が約 4 千万円近くの損害賠償を国鉄と新婚夫婦を 相手取って請求した事件がある。裁判所の判断は、 国鉄については責任無し、新婚夫婦に対しては 3 千万余円の賠償責任ありとした。漫然とつり棚に 荷物を置いて、危険な状態にしてあったのはけし からんというわけである。列車内荷物落下事件が、 民事裁判になるのはこれが初めてであったらし い。このような判決が出ると、旅客運送機関や一 般乗客としては、今後、ある程度注意するように なるであろうから、不法行為訴訟は人々の行為規 範を改めさせる予防的効果もあるということにな ろう ( しばらくは「つり棚の荷物にご注意ください」 089 債権法講義 [ 各論 ] 3 とのアナウンスが流れた ) 。また、鉄道に関連して 「嫌煙権訴訟」がある。当時は、列車内で分煙が されておらす、原告の請求に対し、裁判所は、車 内でのタバコも「社会的に受忍できる限度内のこ とがら」であるとして、結果的に損害賠償を認め なかった ( 東京地判昭和 62 ・ 3 ・ 27 判時 1226 号 33 頁 ) 。 しかし、このような形で訴訟が起きたこと自体が 既に、社会的に大きなインパクトを与え、その後 の禁煙車両の新設・増加の引き金になった。「大 阪市営地下鉄事件」 ( 最判昭和 63 ・ 12 ・ 20 判時 1302 号 94 頁 ) では、列車内の商業宣伝放送について、 個人の「聞かない自由」が問題とされ、「とらわ れの聴衆」にとってのプライバシー侵害の問題が 有り得ることを示唆しつつ、なお受忍限度内であ るということで「違法とはいえない」と判断した ( それでも現在では、事態は大きく改善された ) 。 損害の補填を超えて、例えば損害の 2 倍額 3 倍額を 被害者に取らせるようなアメリカの賠償制度などは、 明らかに制裁と同時に損害予防の観点が強く打ち出さ れた制度である。日本ではまだそのような形の制裁型 賠償制度は導入されていない ( 「利益の吐き出し」型の賠 償請求は問題となりつつある ) 。自動車事故の場合を考え ても分かるように、損害賠償義務があるから事故が減 るということは、当然に期待できることではないが、 賠償額が多額になると緊張の度合カ皜まることは事実 であろう。 第 4 に、不法行為法には、権利を保護し、新たな権 利の生成を準備するという機能があるともいえる側面 がある ( 権利創設・権利生成機能 ) 。既存の「権利」が侵 害された場合に留まらず、ある利益力蹴会的にも法的 にも保護されるべきであるという場合には、それが従 来は「権利」として意識されていなかったものでも、 先ず、その利益侵害を不法行為と認定していくことで、 やがては、法的権利・保護法益として確立させていく ことがある。有名な「雲右衛門浪曲レコード事件」 ( 大 判大正 3 ・ 7 ・ 4 刑全耙 0 輯 1360 頁 ) で、当初は極めて厳 格な権利概念を要求していた大審院も、「大学湯事件」 ( 大判大正 14 ・ 11 ・ 28 民集 4 巻 670 頁 ) では「老舗 ( のれん ) 」 を「法律上保護されるべき利益」として、その侵害に っき不法行為を成立させ、その後も様々な権利を生成 してきた。「人格権」特に「肖像権」や「プライバシ ー権」といったものや「営業権」等はその例である。

6. 法学セミナー2016年06月号

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7. 法学セミナー2016年06月号

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たとえそれが相手方の不当利得となる場合でも、その 返還を請求することができないとされている点である ( 不法原因給付。 708 条 ) 。公序良俗 ( 90 条 ) に違反する賭 博契約・麻薬取引・売春契約 ( 身体の提供も「給付」 ! ? ) などは、履行前には、契約無効として効力が否定され ることは明らかであるが ( したがって未履行の給付や対 価を互いに請求できない ) 、履行されてしまってからは、 法律上の原因がなかったからといって、賭金や違法な 料金等の出捐を不当利得として返還請求することは認 められない。裁判所の門をたたいて法的救済を求める 者は、自らもまた正しい ( 手のきれいな ) 者でなければ ならないという理念 (clean hands の原則 ) に基づいて いる。不法行為に基づく損害賠償についても、かかる 精神が考慮され得る ( 最判昭和 44 ・ 9 ・ 26 民集 23 巻 9 号 1727 頁 ) 。もっとも、判例では、財貨移転のいきさっ などについて双方の不生の比較も行われており、損 失者に対して受益者の不法性がきわめて強い場合は、 必すしも不法原因給付とならない ( 最判昭和 29 ・ 8 ・ 31 民集 8 巻 8 号 1557 頁、最判平成 9 ・ 4 ・ 24 判時 1618 号 48 頁な ど ) 。 ちなみに、不法行為と同様に法定債権債務関係を発 生させる原因として民法が規定している事務管理や不 当利得は、不法行為と契約の中間に位置している。比 較法的にみると、これを不法行為の特殊な形態と考え るものや準契約として位置づける立法例もある。 4 不法行為 ( 1 ) 日本の不法行為法の基本的考え方 (a) 不法行為責任の意味 不法行為法は、社会的に好ましくない不利益状態・ 損失がある者に発生した場合、一定の要件のもとで、 そのような不利益を被っている者 ( 被害者 ) から他の 者 ( 加害者 ) に対して、不利益状態の除去ゃ損害の填 補を要求できるものとする制度である ( 他に転嫁できな い損害やリスクは自ら甘受するほかない ) 。契約法が、資 本を一回転させて、来るべき財産関係形成を支援する ための「前向き」の制度であるのに対し、不法行為法 は、本来あるべき状態の「へこみ」を回復するための 救済という「後ろ向き」の性格を持っている。近代の 不法行為法は、かってローマ法に見られたような懲罰 的性格は影を潜め、刑事責任との役割分担をすすめ、 むしろ被害者救済や損害の公平な分担に重心をおいて いる。不法行為責任の原則的効果は損害貝剖賞、とくに 083 債権法講義 [ 各論 ] 3 金銭賠償であるが ( 722 条 1 項 ) 、名誉毀損の場合の特 則を見てもわかるとおり ( 723 条参照 ) 、必ずしもこれ に限られないというべきであろう。必要に応じて、継 続する加害行為の差止請求権も、不法行為法の効果と して認められてしかるべきであるが、こちらは「物権 的請求権 ( とくに妨害排除請求権 ) 」に仮託して語られる ことも多い ( 「環境権」など ) 。 ちなみに、適法行為によって生じた損害の填補のこ とは、「損失補償」という ( 土地収用法など ) 。 (b) 一般的不法行為責任の要件 日本民法は、まず、一般的な不法行為責任について、 「故意又は過失によって ( 過失責任主義 ) 」、「他人の権利 又は法律上保護される利益を侵害した」者に伽害者 自己責任主義 ) 、「これによって生じた損害」の賠償を 義務づけている ( 709 条 ) 。すなわち、その積極堤要件は、 ①故意・過失、②権利侵害・保護法益の侵害、 3 韻害 の発生、 @①と② 3 の因果関係であ、被害者が主張・ 立証責任を負う。これに対し、不法行為の成立を阻却 する消極的要件となるのは、①責任能力の欠如 ( 712 条 ) 、②違法性の欠如 ( 720 条 ) などであるが、裁判で は加害者側からの抗弁事由となる ( 詳しくは、山崎・講 義 16 頁以下参照 ) 。 鍵となる「過失」の意味は、かっては主観的に評価 されたが伽害者の懈怠・不注意を責める意味が強かった ) 、 今日では客観的に評価され、被害者の救済力揃面に出 ている。その判例上の判断枠組みは、おおよそ「予見 可能性を前提とする [ 損害の発生という ] 結果の回避 義務違反」といってよい。 ( これも予見義務や結果回避可 能の有無によって調整カ獄みられる ) 。 要件中の「他人の権利」は、かっては厳格に解され たが、後に「法的保護に値する利益」を全て包含する ようになり、民法の現代言部ヒに際して「法律上保護さ れる利益」という表現が追加された。今日の不法行為 法では、従来必ずしも明確でなかった極めて多様な利 益が問題とされるようになっており、特に「人格的利 益」 ( 氏名権・肖像権・貞操権・プライバシー権など ) が重 視されている。その意味で、不法行為法には権利創設 的機能があるといってもよい。「権利の侵害」は、し ばしば「違ラ却生」という表現に置き換えられて語られ るが、違法性は、不法行為責任を否定する場合の「消 極的要件 ( 違法性がないこと ) 」を示す場合に用いる方 が適切であろうし、既に「権利の侵害」の意味合いが

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116 LAW CLASS 刑事訴訟法 関する嫌疑の程度から、緊急性について被疑者の様子や 程度を踏まえて、①所持品について質問し、その提示を 態度、周囲の状況、確認すべき物の隠滅可能性の高さな 求める ( 質問そのもの ) 、②対象者の着衣や携帯品の外 どから認定されているといえます ( 緑・前掲注 10 ) 25 頁 部から触れ、所持品を確かめる、③携帯品を開被し内部 以下なども参照 ) 。この判断プロセスを身につけるため を一瞥する、④携帯品や着衣に手を入れその所持品を取 に、下級審裁判例 ( 高麗・前掲書注 3 ) 28 頁以下の裁判 り出し確認すると分類され、捜索に当たるかは一般的に 例など ) のあてはめの検討をお勧めします。 ③や④の問題とされています。 12 ) 平成 7 年決定については、「捜索」と評価したとの理 16 ) 停止に関する判例として、最決昭 53 ・ 9 ・ 22 刑集 32 巻 6 号 1774 頁、最決平 6 ・ 9 ・ 16 刑集 48 巻 6 号 20 頁など。 解は可能です ( 川出・前掲書注 10 ) 38 頁、今崎幸彦「判 17 ) 判例の論理の問題については、川出・前掲注 1 ) 78 頁、 解」「最高裁判所判例解説刑事篇平成 7 年度』〔法曹会、 白取・前掲書注 7 ) 111 頁、酒巻・前掲書注 1 ) 45 頁以 1998 年〕 229 頁 ) 。 下など参照。 13 ) この点、笹倉宏紀「判批」「平成 21 年度重要判例解説』 ( 有斐閣、 2010 年 ) 209 頁、酒巻・前掲書注 1 ) 45 頁以下 18 ) 渡辺修『職務質問の研究』 ( 成文堂、 1985 年 ) 367 頁、 光藤景皎「刑事訴訟法 I 』 ( 成文堂、 2007 年 ) 20 頁など。 なども参昭 14 ) この点に着目すると、昭和 53 年判決は、司法警察活 19 ) 川出・前掲注 1 ) 78 頁以下。ホテル居室内の対象者 に対する質問を継続するための措置は、警職法 2 条 1 項 動開始について特定の犯罪と特定の者との結びつきが相 による職務質問に付随するものとした判例として、最決 当程度濃厚に認められることが必要と考えているのかも 平 15 ・ 5 ・ 26 刑集 57 巻 5 号 20 頁。さらに、鈴木茂嗣「刑 しれません ( 緑大輔「刑事訴訟法入門』〔日本評論社、 事訴訟法〔改訂版〕』 ( 青林書院、 1990 年 ) 71 頁も参昭 2012 年〕 31 頁など ) 。 ( さいとう・つかさ ) 15 ) 必要性については事件の重大性や罪質、当該事件に 適正手続の保障を基調にした学習、 実一務に最適の体系書 ! 初学者から法学部生、法科大学院生、資格試験受験者、 実務家に圧倒的な支持を受け続ける基本書の最新版。 刊行以降の重要判例、学説の動きを織り込み、新版化。 白取祐司著・神奈川大学法科大学院教授 CONTENTS 序章 第 1 章総説 A 刑事裁判の歴史 B 手続の関与者 C 基本原則と手続の基本構造 第 2 章捜査 A 捜査総説 B 任意捜査 C 証拠 ( 物 ) の収集 D 身体拘束と取調べ E 防御 第 3 章公訴・公判 A 公訴の提起 B 公訴の形式と公判準備 C 訴因変更 D 公判手続 第 4 章証拠 A 証拠法の基本原則 自取を司・ B 証拠と証拠調べ C 非供述証拠 D 供述証拠 ( 1 ) 自白 E 供述証拠 ( 2 ) 伝聞証拠 第 5 章裁判と救済手続 A5 判上製 A 公判の裁判 本体 3 , 900 円 + 税 B 上訴 C 非常救済手続åDlSBN 978-4-535-52140-7 基礎理論と 実務が この一冊で ! 刑事訴訟法 〒 170-8474 東京都豊島区南大塚 3 ー 12 ー 4 TEL : 03-3987-8621 /FAX. 03-3987-8590 ( イ ) 日本言平冊ネ土 こ注文は日本評論社サーヒスセンターへ TEL : 049-274-1780/FAX . 049-274-1788 http://www.niPPY0 ・ co ・ jp/

10. 法学セミナー2016年06月号

害賠償請求権は、 5 年間に伸長されている ) 、不法行為の事 実があってから 20 年で時効にかかることになってい る。従ってどちらかで行くと時効にかかっているとい うことが起きるわけである。 第 2 に、③相殺の可能性も異なる。 509 条は不法行 為による債権どうしの相殺を禁じている ( なお、改正 法案 509 条も参照 ) 。仕返しを禁ずる趣旨だと説明され る ( 但し、被害者の方から相殺することまで禁じているわけ ではない。最判昭和 42 ・ 11 ・ 30 民集 21 巻 9 号 2477 頁 ) 。では、 債務不履行によって生じた損害賠償債権同士の場合は どうかが問題になる。条文からすれは否定されていな いというべきであるが、債務不履行が同時に不法行為 にもあたるような場合には、やはり相殺を否定すべき ことになろう。 第 3 は、④「損害貝剖賞の範囲」。債務不履行につい ては 416 条に規定がある。不法行為のところにはない。 不法行為にも 416 条を類推適用すべきか。これは、学 説上大問題とされ、判例は 416 条を類推適用するもの したが、厳密にはあまり明確ではない。 第 4 に、不法行為の所には⑤「財産以外の損害」に 対しても賠償せよという意味の規定がある ( 710 条、 711 条 ) が、債務不履行のところにはそれがない。少 なくとも、近親者の精神損害 ( 慰謝料請求 ) は契約責 任からはでてきそうもない。 その他、細かいことを言えば、 ( 員害貝剖賞の遅延利 息の発生時期、⑦免責特約を付することの可能の有 無なども、不法行為と債務不履行の場合では違ってこ 要件・効果をどの様に解釈するかはそれ自体難しい 問題であるが、いすれにしても、そのようにして明ら かになった要件・効果をにらみながら、どちらで請求 するのが適当かを考えることになる。裁判実務では、 どちらも問題に出来そうな事件では、当事者は、多く の場合、予備的請求として不法行為責任と契約責任の 両方を出している。困難な問題の一つは、裁判官とし て表面上いすれの制度によっても損害賠償請求が出来 そうな場合にいすれによって問題を処理をするかであ り、「請求権の競合問題」として議論されているとこ ろである。 5 請求権競合問題 A が B に損害を与えたという事実が、同時に一方で 不法行為の要件を満たし他方で債務不履行の要件を満 091 債権法講義 [ 各論 ] 3 たすという場合は少なくない。このとき 2 つの請求権 はいかなる関係にあるか。 契約関係にある当事者間で加害行為があれば、通常 は債務不履行の問題になるが、同時に不法行為の要件 をも満たしうる場合もある ( たとえば、タクシーで家族 が乗っていて運転手の不注意で全員がけがをした場合を想定 されたい ) 。不法行為上の賠償責任は、当該状況のもと で加害者が当然果たすべき注意を怠って、被害者に損 害を与えたことによるわけであるから、その特殊な場 合、つまり契約関係という社会関係の中で当然払われ るべき注意義務違反が契約責任としての賠償責任だと すると、両者に質的な違いはないことになる。契約法 の中核にある「合意」の要素が次第に重みを失ってい る最近の理論状況の中では、契約責任と不法行為責任 とはますます接近しつつある。 この 2 つの責任が如何なる関係にたっかが当面の問 題である。形式の上で、不法行為の要件も債務不履行 の要件もみたしている場合、常識的には孰れの効果を も発生させてよいと考えられそうである。原告、つま り請求権者は、自分にとって最も有利だと考える方を 選んで請求して行けば良いことになる。これを「請求 権競合説」などと呼ぶ。判例も一般的には請求権競合 説に立つものと理解されている ( 最判昭和 38 ・ 11 ・ 5 民 集 17 巻 11 号 1510 頁。もっとも国賠法上、国や公共団体が国賠 法 1 条等で責任を負うことになった場合は、公務員個人に対 する民法上の不法行為責任は問えなくなる ( 最判平成 19 ・ 1 ・ 25 民集 61 巻 1 号 1 頁 ) ) 。 しかし、そうするとすぐ問題になるのは、「一方で やって負けたときにもうーっの方で出直せるか」とい う点である。競合説なら、どちらでも主張できるから、 債務不履行責任を追求して負けた原告が再ひ不法行為 を理由に訴えることも出来そうである。これは、民事 訴訟法で出てくる「訴訟物」論争にもからんでいて、 所謂「旧訴訟物理論」では、請求権の数だけ訴訟物が あるのだから、時宜に遅れた攻撃防御とならない限り、 原則として「出直し」がきくことになる。 この点を正面から取り上げて攻撃したのが川島説で ある ( 川島武宜「契約不履行と不法行為の関係について」同・ 民法解釈学の諸問題听収 ) 。川島説では、要するに、不法 行為法は契約関係にないものの間で損害が発生した場 合のルールを定めており、債務不履行は契約当事者間 で契約が正しく履行されない場合のルールを定めてい るものであり、したがって、契約責任は、いわは不法