特集窃盗事犯者と再犯 保護観察における窃盗事犯の処遇 ー持家で人暮らしを続け : 老齢年金だ。 はるかに上回る。窃盗による保護観察に一受刑歴があ。つ。たが : そ・の後は結婚し、て ) 就′ 受給していた。引受人は他市に住む姪であおける高齢者の割合は上昇傾向をたどっ業し、子ども 2 人を育てて安定した生活を ったが、本人宅を訪れたこともなく、友人→ている。また、高齢の保護観察対象者の営んでいたにもかかわらず、歳頃から万 引きを繰り返すようになった。およそ浦年 もなく、近隣との交流も老人会等地域の交罪名では窃盗の占める割合が高く ( 約 6 わりも忌避していた。保護観察官の面接で 割 ) 、特に、女性では、約 9 割が窃盗でぶりに受刑し、妻が引受人となり自宅に戻 った。年金生活で、 4 人の孫の前では好々 はニュースや政治、社会情勢に関する意見あり、しかもその約 9 割は万引きであ は豊富だったが自分自身のことを語るこ 爺であったが、妻や息子は期間満了時に「今 る。 は大丈夫だが、またいつやるかわからない とは少なく「決してうち解けることはな 〈事例 LL 〉 く、また自ら相談事を持ち込むこともなか ので安心できない」と語った。 保護観察付執行猶予者の歳の男性は った。開始後 1 年半余経過して近所の店で 高齢者の対象者は、心身の疾患を抱 判決時に「ピック病」 ( 認知症を生じる神 万引きをして逮捕され、執行猶予取消しと 経疾出人格急変により、万引き等を平然え、家族や身寄りを失って「居場所」が なった。 と行うような症状を発現することがあなく、就労もできないため「出番」もな く、社会的に孤立していることが多い 窃盗による女性の保護観察付執行猶予る。 ) という診断を受けていたが、本人に 者の再犯は他の罪種よりも多い。女性は は病識がなく定期的な通院や投薬を怠って年金や生活保護費を計画的に使うことが 男性よりも社会的、精神的な自立は困難 いた。保健師や福祉ケースワーカー、訪問できずに生活に困窮したり、酒に依存し で、社会復帰のための「居場所」も「出へルバーなどのケアを受けながら歩行障害て、空腹を抱えて窃盗に至ることがあ 番ーも家庭だけという割合が高い。執行のある妻と 2 人で生活していた。担当保護る。また、社会にいても寂しいので、人 猶予の保護観察期間は仮釈放よりも長期司も毎月家庭訪問していたが、病状は安定 , との関わりを求めて受刑し、施設生活を 間に及ぶものの、家庭や地域の支えが十せず、落ち着きがなく、コミュニケーショ望むという短絡的な発想もわくと言われ 分になければ、保護観察官や保護司との ンをとることが困難で保護観察の自覚も乏ている。特に女性で高齢の対象者は、家 しく、近所のス 1 パ 1 でお菓子を万引きし族や身寄りがなく、地域と交流のない場 定期的な面接だけでは社会的な孤立感が て逮捕された。再犯は罰金刑となり、労役 補えないよ、つにみえる 合には再犯の歯止めが乏しい。 】場留置となったところ、妻はその間心から 平成幻年度から全国の保護観察所で、 安心して生活できたので、できれば執行猶矯正施設に収容中の者の生活環境調整に 五高齢者事件 予を取り消して刑務所に入れてほしいと言 おいて、各都道府県の地域生活定着支援ろ い続けた。 センターと協力して高齢・障害者を円滑の 窃盗による高齢者の検挙人員は過去 〈事例 (5 〉 年で約 4 ・ 5 倍になったと言われてお に福祉サ 1 ビスにつなぐための特別調整法 新歳の男性仮釈放者は、加代に 2 回の を実施している。高齢者と心身に障害の り、社会の高齢者人口の増加のペ 1 スを
ぜ窃盗行為に結び付いたのかをじっくり ( 参考文献 ) ( 1 ) 法務省「保護統計年報」 ( 平成 6 年 5 年 ) と本人に考えさせるような面接を保護観 察の中で工夫していけば、窃盗事犯者に ( 2 ) 法務省法務総合研究所「犯罪白書」 ( 平成幻年版 5 年版 ) 対して一層効果的な指導が可能となろ ( 3 ) 法務省法務総合研究所「研究部報告再犯防止 う。常に社会復帰のための「居場所」と に関する総合的研究」 200 9 年 「出番」を意識しながら、今後、刑の一 ( 4 ) 法務省法務総合研究所「研究部報告女性と犯 部の執行猶予制度の導入により長期化が 罪 ( 動向 ) 」 2 012 年 見込まれる保護観察期間を見据えて、処 ( 5 ) 柏熊路子「男子少年の窃盗事犯に関する一考察」 遇内容について更に工夫していく必要が 犯非号 ( 年 ) あると考える。 ( 6 ) 木村隆夫「窃盗常習者の意識と生活」犯非 102 ( 7 ) 奥田幸生「高齢又は障害により自立が困難な者の 図窃盗保護観察開始人員・窃盗率の推移 ①仮釈放者・保護観察付執行猶予者 ( 総数 ) ロ仮釈放者保護観察付執行猶予者 ( 千人 ) 保護観察付執行猶予者 の窃盗率 ( 平成 6 年 ~ 25 年 ) 、率 30 10 ③保護観察処分少年・少年院仮退院者 ( 千人 ) ー ( % ) 10 9 8 少年院仮退院者の窃盗率 7 6 5 4 3 2 0 4 , 972 4 。 34.5 34.0 30 20 6 5 4 3 2 1 0 1 , 124 0 平成 6 5 2 0 2 5 0 ②仮釈放者・保護観察付執行猶予者 ( 女子 ) ロ仮釈放者保護観察付執行猶予者 ( 百人 ) 7 5 4 3 2 1 0 631 2 6 保護観察付執行猶予者 の窃盗率 仮 0 0 平成 6 5 2 0 2 5 0 2 38.4 38.3 5 , 166 特別調整について」罪罰巻 4 号 ( 2012 年 ) ( 8 ) 横地環「女性保護観察対象者の処遇を考える」罪 罰巻 3 号 ( 0 2 ( 9 ) 鈴木庄市「更生保護施設における高齢者処遇をめば ろ ひ ぐる諸問題」犯非 150 号 ( 2006 年 ) の ( 四、寺戸亮一一「高齢犯罪者の社会復帰」犯非 173 号律 法 ( 2012 年 ) ( Ⅱ ) 河村重実「彼女たちはなぜ万引きがやめられない のか ? 」 ( 飛鳥新社、 2013 年 ) ( 貶 ) レイチェル・シュタイア著 / 黒川由美訳「万引き の文化史』 ( 太田出版、 2012 年 ) ( とみだ・あきの ) 呆護観几少 0 1 , 318 0 平成 6 20 注 1 保護統計年報による。 2 ③において、保護観察処分少年は交通短期保護観察の対象者を 5 2 0
の行動計画 2008 ー「世界一安全な国、日本』の復ロ ては、少年法の改正 ( 平成跚年法律第ハれを一定の水準を保ちながら、客観的に 活を目指して」 ( 平成年月 ) 号 ) により、被害者等の権利利益の一層叙述することは大変な作業であると思 の保護を図るため、平成跚年 7 月から意う。しかも、それを毎年のように繰り返 ( 3 ) 犯罪対策閣僚会議「再犯防止に向けた総合対策」 ( 平 ろ 見聴取の対象者の範囲が拡大され、まし、新しい立法をも参照しながら、刑事成年 7 月 ) た、同年月から、一定の重大事件の被政策の全体像を示す作業に従事している ( 4 ) 犯罪対策閣僚会議「『世界一安全な日本』創造戦略」の 法 ( 平成年月日 ) 害者等が少年審判を傍聴することができ関係者には頭の下がる思いである。我が る制度及び家庭裁判所が被害者等に対し国にこうした正確な加工統計である犯罪 ( 5 ) 法務総合研究所「平成年版犯罪白書」 て審判の状況を説明する制度が実施され白書が存在するからこそ、政策立案者は ( 6 ) 国家公安委員会・警察庁「平成 % 年版警察白書」 るとともに、少年事件記録の閲覧・謄写的確な施策を提示できるのであり、我々 ( 7 ) 藤本哲也「刑事政策概論 ( 全訂第六版 ) 』 ( 青林書 の要件の緩和及び範囲の拡大もなされて刑事政策の研究に従事する者も、客観的院、平成年 ) ( ふじもと・てつや ) いる。このほか、保護処分を受けた少年資料に基づく研究ができるのである。 平成年に、オリンピック・パラリン の処遇状況等に関する事項についても、 被害者等から希望があった場合、少年院ピック東京大会が開催される。世界各国 の長、地方更生保護委員会、保護観察所からの訪問者に安心してオリンピック・ の長は、それぞれ通知を行っている。 ハラリンピックに参加していただくため 我が国の犯罪被害者政策は、平成間年にも、現在の良好な治安をより一層確固 たるものとし、「世界一安全な国、日本」 の「犯罪被害者等基本法」の制定以来、 「第 1 次犯罪被害者等基本計画」、「第 2 を創り上げることが重要である。「国民 次犯罪被害者等基本計画」の策定によの規範意識に支えられた我が国の良好な り、現在までの間に格段の進歩を遂げた治安こそ、我々日本人の大切な財産であ る」と、犯罪白書を読んで、そう思った。 と評価してよいであろう。 ( 参考文献 ) 七おわりに ( 1 ) 犯罪対策閣僚会議「犯罪に強い社会の実現のため の行動計画ー「世界一安全な国、日本」の復活を目指 以上、平成 % 年版犯罪白書を読んで、 気の赴くままに私見を述べてみた。犯罪して」 ( 平成年月 ) 白書が取り扱う統計は多岐にわたり、そ ( 2 ) 犯罪対策閣僚会議「犯罪に強い社会の実現のため
とが多く、更に借金を重ねることがあが多く、保護観察を受けるのは相当回数より保護観察付執行猶予どな。 ? た 9 。再犯 に弁護士の勧めで心療内科を受診してお る。また、保護観察に付されて住居を定の逮捕歴がある者に限られていた。平成 り、特別遵守事項として医師の指示に従い め、住民票を移動したことにより、再び年に罰金刑導入後、刑事処分を受ける 服薬を続けることと一人では買物に行かなば 借金の返済に追われ、逃れるために行方女性が増加して保護観察事件における女 いことを設定した。会社員の夫と成人したひ をくらまし、ホームレスとなることがあ性比も増加し、さらに、累犯加重により 息子 2 人と同居し、通院を続け、買物は生律 る。抱えている負債の全体像は本人が打常習累犯窃盗で受刑する者も増え、女性 ち明けない限り処遇者には明確にわから高齢受刑者の増加は加速している。彼女協の配達を利用して、出掛ける時は夫と同 らはおおむね受刑成績は良く、仮釈放後伴し、担当保護司との面接を続けた。年配 ず、定収入があっても本人が困窮してい の女性保護司が担当したが、息子たちに保 もほば問題なく経過し、保護観察期間中 るのか否かは把握できない 護観察を秘匿しており、近隣や夫にも気兼 の再犯は非常に少ない。仮釈放の保護観 ねして担当保護司の家庭訪問には消極的だ 察期間中は定期的に担当保護司との面接 った「家庭内の会話は乏しく、実家や兄弟 四女性事件 があり、社会的孤立感が解消されている とも疎遠で、友人も少なかったので、担当 女性における罪名別の統計をとると窃のではないかと考えられる。 保護司は習い事や地域のグル 1 プに入るこ 繰り返し万引きをして不起訴や起訴猶 盗の割合は非常に高くなる。また罪名別 とを勧めたが頑なに拒否した。担当保護司 の女性比は、他の罪名ではおおむね 1 割予処分を受け、罰金や執行猶予歴を経 の趣味である編み物に興味を示したので、 前後であるところ、窃盗だけが 3 割強をて、保護観察付執行猶予に付される中高 手ほどきをすると、自宅でも一人で編み物 年女性には、統計には上がらないか相当 占めている。その内容はほとんどが万引 を楽しむようになり、編み物を通じて担当 きである。その傾向は少年も成人も共通の割合でクレプトマニア ( 窃盗症【非合保護司との話題が広がり、やがてパ 1 トの しているが、成人女性については高齢化理で病的に万引きを反復する精神疾患。 仕事を自分で見つけた。人付き合いや家庭 , が著しい。女性の場合は男性と比べて生窃盗癖 ) がいると考えられる。判決時に 生活にも自信を回復して表情も明るくな 活苦や借金苦の割合は低く、経済的には診断名がついていることは稀で、継続的 り、再犯なく保護観察を終了した。 困っていないにもかかわらず万引きを繰な治療を受けている者は非常に少ない 〈事例〉 り返す傾向がある。まるで精神的な拠りが、医療機関で適切な治療を受けること 間歳の一人暮らしの女性は、 2 度目の が望まれる。 所のなさを万引きによって埋め合わせよ 保護観察付執行猶予であったが、近隣の保 うとしているようにみえる。窃盗罪に罰 護司の担当を忌避して保護観察官による直 〈事例〉 接担当を希望し、毎月 2 回保護観察所に出 金刑がなかった時代は、「盗癖」と言わ 1 マーケットでの 歳の主婦はスーバ , 頭していた。歳頃子どものないまま離婚 れ「月経前症候群」と結び付けて、女性食料品の万引きで単純猶予中の同種再犯に して 1 一ま家。に戻勺っ両親が亡くなやてから 特有の犯罪として微罪処分で終わること
特集窃盗事犯者と再犯 保護観察における窃盗事犯の処遇 せいか、近年は職業的スリ事犯をほとんついては「生活苦」と言われるが、多く どみない。万引きの被害品は多くが食料はギャンプル依存やアルコ 1 ル依存など 歳の男性は住み込み就職していた 品や日用品などで、自分で消費、使用すの問題を抱えており、さらに、サラ金な が、換金目的の自転車盗 6 件で保護観察付 るものであるが、車上狙いや書籍、電化どに負債がある。「魔が差したため」の執行猶予判決を受けた。逮捕により解雇さ 製品の窃盗は現金目当てでやや質が異な発作的な犯行であったとしても、直前のれ、両親から勘当されて家族と絶縁してお る。書籍やの万引きは、古本屋な一定期間は「どろばうをしてはいけな り、所持金も住居もないことから更生保護 どに持ち込めば誰でも容易に換金できるい」という歯止めがかからない生活に陥 施設に入所した。協力雇用主の下で建設作 ため、被害品を所有するよりも、換金後っていたと考えられる。 業員として就労し、半年で約万円貯蓄し の現金が目的である。古物や建築資材等そのため保護観察の処遇では、身柄釈て勤務先の従業員寮に自立した。将来は結 の窃盗は、換金できる反社会的なルート 放後、早急に「居場所」と「出番 , の確婚して所帯を持っことを目標に同じ職場で があり、売却して換金する組織が背後に保をしなければ、すぐにも再び窃盗に走就労を続けている。 〈事例 O 〉 存在している。また、置引きや侵入盗のるおそれが高いため、社会生活の基盤と ホ 1 ムレス仲間と共に資材置き場から銅 単独犯ではほとんどが生活苦、借金苦をなる安定した「住居」と「就労」の確保 抱えている を最優先している。開始当初には所持金線を盗んで保護観察付執行猶予となった妬 保護観察を受ける成人は、仮釈放者とがないという対象者もいるため、緊急的歳の男性 0 は、実父母を知らず、養父母も 保護観察付執行猶予者で、窃盗罪の場合な救護措置にも配慮している。頼れる親亡くなり天涯孤独であった。前歴は起訴猶 は初めて処分を受けたという者は少な族や帰る家のない者については、当分の予 2 回のみであったがホームレス生活が長 、所持金も住居もないことから更生保護 、過去に罰金刑以上の刑事処分歴があ間更生保護施設に食事付き宿泊を委託す 施設に入所した。しかし集団生活に馴染め る者がほとんどである。窃盗事件自体暗る。また、緊急的住居支援の自立準備ホ ず、翌月にはホームレス支援の法人 数の多い犯罪であることを考えると、成 ーム ( 更生保護施設以外で、宿泊場所を の援助でアパートを借り、肝臓疾患で生活 人男性の対象者は、経済的に困窮し、窃確保している、社会福祉法人、ダ 保護を受給した。約 1 年後、体調が回復し、 盗により生計の一部を営んでいたと推察ルク等の民間団体が、宿泊場所・食事を 担当保護司や福祉事務所の就労指導を受け される。職業的窃盗団でなくともネット提供 ) として登録されている住居に宿泊 始めた矢先に突然出奔し、以後所在不明と カフェ難民のような貧困生活に陥った青保護を委託することもある。親族との調 なった。 ろ 年が生活のために単独で窃盗を繰り返し整ができるまでの間や住み込み就職が決 ひ 換金していた事例もある。職業生活からまるまでの間、国からの委託により、こ逮捕されて身柄拘束される前に経済的の ドロップアウトして無職、無収入となつれらの施設で生活させ、本人が就労してに破綻し負債を抱えている者は、収入に法 て孤立した者が窃盗をする動機や原因に貯蓄し、自立することを目指している。見合った計画的な支出を維持できないこ 〈事例〉
特集窃盗事犯者と再犯 保護観察における窃盗事犯の処遇 ニ少年事件 保護観察を受ける少年の窃盗事件のほ とんどは、車両関係盗と万引きである。 自転車や単車の乗り逃げは非行名が横領 となるが、少年からみるとほば窃盗と同 岡山保護観察所長冨田彰乃 種の非行である。車両関係盗の理由や動 機は「足がなかったから , と一言で語ら ば面接のしやすい者が多い。 一はじめに 一方で、窃盗は、覚せい剤取締法違反れるが、つまり「遊ぶために歩くのが面 平成年の保護観察の開始事件におけと同程度に再犯リスクが高いため注意を倒だったから」で、共犯者と深夜徘徊し、 る窃盗事件の割合は約 4 割で最も高く、要するとされている。生活態度が乱れ一緒に遊び回るための乗り物を持たない ここ年間の推移をみても、少年と成人て、家出や遊興に走った挙げ句の再犯と者の人数分の自転車や原付車を確保する いう場合もあるが、他の罪種と比べるとために加担していることが多い。原付車 を合わせて、常に罪名・非行名のトップ を占めている。 安定した生活態度で、保護司や保護観察の無免許運転については、自転車と同等 保護観察の処遇は、保護観察官や担当官が接触を保てていたにもかかわらず再の感覚で乗り回すため罪悪感に乏しく、 保護司が、その期間中、定期的に対象者犯・再非行に陥り、落胆させられること実に安易に「ちょっと借りて、後で返し と面接を続けながら、遵守事項を守るよがある。「最も一般的で、面接がしやすておこうと思った」というタイプが初発 いにもかかわらず、再犯のおそれが高非行としてよくみられる。単車の場合 う本人の指導監督・補導援護を行い、再 い」という意味で、保護観察に当たっては、それらを運転するのが目的で、車両 犯を防止するものであるが、処遇に当た は、面接が確保でき、表面的に生活が安と合わせてヘルメットも盗み、ナンバ る者にとって窃盗事件は、最も一般的な 事件であり、犯罪の内容や動機がわかり定しているようにみえても、再犯のおそプレートを付け替え、エンジンを直結し て乗り回し、ガソリンがなくなると放置 やすいとされる罪種である。他の罪種でれを常に意識しておく必要がある。 例えば粗暴犯を繰り返し、反発的、挑発これまで筆者が担当してきた事例をもして、短期間に何台もの単車盗を繰り返 的な者や、薬物依存で幻覚や妄想の精神とに保護観察における窃盗事犯の処遇をす者もいる。自動車盗は更に悪質で、反 症状が出ている者等と比べると、窃盗事考察したい。なお、本文の意見にわたる社会性、非行性は進んでいるとみられる。ろ 万引きはコンビニエンスストアでの駄の 犯は、おおむね面接日時を守るので接触部分は筆者の個人的な見解であることを 菓子や飲み物盗から大型ス 1 の確保がしやすく、面接態度も従順でおお断りしておきたい。 ットでの「カゴダッシュー ( 欲しい商品 4 となしく、普通に会話が成り立つ、いわ 保護観察における窃盗事犯の処遇
ある者で引受人や帰住予定地のない者にでどんなに注意しても聞ぐ耳を持たずに迷限界があること、予後を見届けられない 対して、矯正施設入所中から社会福祉士惑をかけ続けてきた本人が今後飲酒をやめ一ことなどが課題と思われる。 や保護観察官等が本人と面接し、社会復るとは思えない」と息子の家族が引受けに 帰後の受入施設等を調整している。本人反対したため、・特別調整を希望した。心疾 ( 六保護観察処遇の現状と今後 の の釈放後の居住希望が他府県であればそ患、アルコ 1 ル性内臓疾患、コルサコフ症 律 への展望 法 の府県の地域生活定着支援センタ 1 を介候群等の疾病もあり、受刑成績も悪く、満 保護観察処遇においては、自己のした して受入施設等を調整した上で、本人を期釈放となったが、釈放日には保護観察官 と入所予定施設の職員が出迎え、疾病治療 . 行為が法律に違反することを認識させた 社会に帰すというものである。受刑中に のための病院に入院した。病院ではアルコ 上で、二度と同じ過ちを繰り返さないよ 障害認定を受け障害者手帳を取得する手 1 ル性内臓疾患の治療を受けていたが、環 ~ う本人に意識させ続けることが必要であ 続も広がりつつある。仮釈放等で一時的 境が急に変わったせいか認知症症状が顕著 る。殺人や傷害など他者の身体を傷付け に更生保護施設に受け入れる場合もある になり、入所予定施設の変更が必要となっ るような罪種では、被害者との人間関係 が、受入先が調整できれば矯正施設を出 や、本人を犯行に至らしめたやむにやま た足で福祉施設や高齢者施設、グル 1 プ 高齢者の窃盗の場合は起訴猶予になるれぬ背景、共犯者との関係や事情等を本 ホーム等に入所することができる。累犯 ことも多く、更生緊急保護における高齢人から詳しく聞いていくことが、同種事 障害者のための福祉的ケアの必要性につ いては近年社会的な関心も高まりつつあ者率は年々高くなっている。本人の意向犯を繰り返さないための行動変容につい るが、医療や福祉の受入先は十分にあるを確認した上で、一時的に更生保護施設て指導する糸口となる。また、その行為 とはいえないので更に広く理解と協力をに入所させて、地域生活定着支援センタの違法性自体をよく知らなかったという ' リ受人と ーなどの協力を求め、医療や高齢者福祉薬物や売春などの罪では、その理解を促 求めていく必要がある。また、ー につなぐことになる。検察庁からの要請すためにその行為の害悪や取締りの意味 なる家族がおり、本人に自宅がある場合 を受けて、福祉的支援が必要な者の身柄を話し合うことが必要不可欠であるが、 は特別調整の対象とはならないため、引 受人が悩みを抱え込まないように特別調釈放前に調整を始める「入口支援」の試窃盗に関しては、犯行動機において被害 行も一定の効果を上げている。医療・福者との人間関係や差し引くべき情状がな 整に準じた支援と、あらかじめ相談でき く、盗み行為の悪質性、姑息さや卑怯さ 祉機関の受入れについては地域生活定着 る窓口が増えることが望まれる。 支援センタ 1 と地域の福祉や医療の協力を十分理解している場合が多い。我が国 〈事例〉 が不可欠である。保護観察下にはないたは道徳文化や教育を通じて、年少少年で 歳の男性Ⅱは、執行猶予中に酒代欲し も「どろばうをしてはいけない」という め身柄釈放後に新たな情報が入ったり、 さにひったくりをして受刑した。「これま 本人が予定外の行動をとると指導助言に罪悪感は浸透しており、保護観察を受け
女子高齢者 おける窃盗事犯者の割合が依然として高 4 関係機関間の連携強化 本白書は、女子高齢者については、家いことや前述した窃盗事犯者の特徴を踏 族等との人間関係の把握や調整、心理的まえると、窃盗事犯者に対しては、犯罪本白書は、窃盗事犯者に対しては、満 期釈放者であるか否か等を問わず、就労 なサポート、生計手段を有さない者に対傾向が進む前のできる限り早い時期に、 ろ する就労支援や福祉的支援を検討してい 現状で取り組まれているより幅広い対象支援や住居確保のための対策が重要で、の く必要があり、その中で、家族との間の者に対して、集中的かつ効果的な指導をそのためには、刑事施設・保護観察所法 意思疎通等が必ずしも良好に保てない場実施していくため、現在いくつかの刑事と、公共職業安定所、更生保護施設、地 合には、家族間の調整のために、地方公施設で実施している窃盗受刑者に対する域生活定着支援センタ 1 等といった機関 共団体や地域社会の専門家、保護司等に再犯防止指導の内容やその効果、指導方との間での特別調整の場面も含めた連携 よるサポート体制も必要となるとともに、法等について精査し、より精度の高い効の一層の強化のほか、不起訴処分が見込 女子高齢者について起訴猶予処分とする果的かっ標準的なプログラムを開発するまれる場合においても、事案に応じて、 とともに、前述した類型に対応するプロ更生緊急保護の円滑な活用も含めた検察 場合には、親族等に適切な監督者がいな いのであれば、更生保護施設、地方公共グラムをそれぞれ追加する必要がある旨庁と保護観察所、地方公共団体等との連 団体や社会福祉機関に橋渡しするなどの指摘している。その一方で、窃盗事犯者携の一層の強化が求められることや、医 配慮も有効で、現在行われている更生緊が多数に及び、窃盗事犯者の問題性等が療的措置を講ずる必要性がある者に対し 急保護の事前調整の試行のような再犯防多様であることなどから、それぞれの施ては、地方公共団体や地域包括支援セン 止に資する取組がより一層充実したもの設における指導者や指導場所等を十分確タ 1 、医療機関等も含めた関係諸機関の となることが望まれる旨指摘している。保する必要があり、現時点において速や間で適切な連携を図ることで適切な医療 以上のように類型別に分け、それぞれかにこれを実現することは困難で、人的措置が講じられるようにする必要があ の特性等を踏まえて処遇等の上での対応的・物的体制の整備等、実現に向けた体る旨指摘している。また、窃盗事犯者に を考えていくことは、再犯防止の上で有制整備が不可欠である旨も指摘してい対して、それぞれの特性等にふさわしい 一貫した十全な処遇が実施されるために 用性があるものと期待でき、有益な試みる。また、更生保護の段階においても、 となり得るものと考えられる。 刑事施設におけるこれらの取組の成果をも、検察、矯正、更生保護の各段階で保 踏まえ、それを処遇に活用していくべき有する個々の窃盗事犯者に関する情報を である、ともしている。 迅速かっ正確にやり取りすることができ 3 窃盗事犯者に対するプログラム る情報連携デ 1 タベースの早期の構築が の必要性 待たれる旨も指摘している。 ( まちだ・てつお ) 本白書は、おおむね、処遇の各段階に
特集窃盗事犯者と再犯 保護観察における窃盗事犯の処遇 る時点で、「窃盗行為が犯罪であるとい 生活行動指針として、①一人で買物に行が効果的であると考える。赤城高原ホス うことを知らなかった」と一言う対象者はかないこと、②家族や周囲の人に何事もピタルで窃盗癖患者に実施されている治 ほとんどいない。そのため「盗みは悪い相談すること、③こづかい帳をつけるこ療プログラムにおけるグループミーティ ングや自助グル 1 プの活用は大変参考に となどを付加することがある ことというのは「当たり前」で通り、 保護観察では犯罪類型に合わせた類型なるものだが、適切な対象の選択とファ 保護観察の処遇上も窃盗の違法性につい て指導することはほとんどないように思別処遇を行っており、対象者の属性や犯シリテ 1 タ 1 の養成、フォローが必要と なる。 われる。その一方で、窃盗事件は大変暗罪の内容、問題性に合わせて指導してい 数が多い犯罪であり、本件の他に同種事るが、窃盗罪については「下着盗」だけ窃盗は内容も態様も様々であるが、お を「性犯罪」の類型に含めているだけでおむね自己有用感が乏しく、家族やコミ 犯を川回以上したが立件はされていない ュニテイへの帰属意識が希薄な者が、社 窃盗そのものを問題性とする類型はな というケ 1 スは珍しくない い。また特定の犯罪的傾向を改善するた会的、精神的に孤立し、抑圧された感情 そのため窃盗事犯の処遇に当たって めの体系化された手順による専門的処遇の発散として行うものである。「どろば は、本件の犯罪行為や原因を振り返り、 窃盗行為そのものを禁止するよりも、窃プログラムを実施しているが、「性犯罪うをしてはいけないーとわかっていなが 盗行為に至った生活習慣や生活環境の改者」「覚せい剤事犯者」「暴力防止 ( 暴力ら窃盗を行うことにより自己嫌悪や卑小 善を重視して指導している。対症療法的的事犯を反復する者 L 「飲酒運転防止」感、孤立感を増幅させてしまう。ところ に、①盗みをしたくなる環境に近づかなの 4 種類で、窃盗罪に対応する処遇プロが社会内処遇である保護観察で再犯のお 、②一緒に盗みをしたくなる交友関係グラムはない。専門的処遇プログラムでそれが高いとはいえ、視点を変えれば 7 を改善する、③経済的に困窮しないためは、認知行動療法の手法によりその犯罪割以上の対象者は再犯せずに終了する。 これは保護観察の「個別処遇」が機能し に就労する、④遊興費を減らすためにギ内容に焦点を当てて本人の「認知のゆが ャンプルを禁止するというように「窃盗み」に気付かせ、悪循環のサイクルからていることの証左であるといえるもので をしないで生活する習慣」を義務付け、抜け出すための行動パタ 1 ンを考えさせある。一人一人の対象者が保護観察官や それが守られれば窃盗を繰り返す必要がることが有効である。クレプトマニアと保護司から人として尊重され、自己有用 いう診断名がっき、医療機関で治療して感を高めて行くことが、社会的孤立感を なくなるという約東事によって本人の行 いる万引き常習者や、反復する下着盗に薄め、再犯防止のために有効であると思 動変容を図り、その結果として再犯を防 止している。特別遵守事項として設定すついては、依存症に類したアプロ 1 チにわれる。「個別処遇」の利点を生かして、ろ る項目は、①就労又は就職活動をするこよって、保護観察の面接指導の中で「盗窃盗事犯者の言う「ストレス発散」「生の と、②共犯者と交際しないこと、③パチむ」行為に対する自己の問題点を考えさ活困窮。等の本人なりの理由や動機を処法 ンコやスロットをしないこと等が多く、せて、認知行動療法的な指導を行うこと遇者が安易に呑み込まず、その状態がな
を買い物用カゴに入れたまま支払をせずカリキュラム指導を併せて行うと有効で慣や交友関係の改善が再非行の防止と直 に店外に持ち出すことをいう。 ) まで含あり、家庭裁判所からその旨の処遇勧告接結び付かず、処遇のポイントがずれて しまう。特に発達障害等と診断された少 まれるが、少年事件では単独犯よりも共が付くこともある。 犯者のいるケ 1 スが多い。店主の目を盗 年で窃盗を繰り返している場合は、自己 ろ 〈事例 < 〉 んでいかにうまく高価な商品を手に入れ の欲求や衝動のコントロ 1 ルが効かないの 貯歳の少年は、中学 2 年頃から不良交 るか友人と競っていた者から、不良先輩 ため、「健全な生活態度を保持すること」法 友や怠学を続けい中卒後は進学せず、無職 ~ という遵守事項を理解できず、かえって の命令を断れずに見張りをしていただけ のまま友人に誘われ、単車盗 3 件に加担し という者も含まれるが、被害者が店舗と 本人の行動制御を混乱させることがあ て保護観察処分を受けた。保護観察開始後 なるため、「他人に害を与えた」という る。幼児的にみえるが「欲しい物がある は自動車学校に通い、 単車の免許を取得 罪悪感の乏しい少年が多い。自動販売機 時には、必ずお母さんに話すこと」とい し、単車の購入を目標にして焼肉店でアル 荒らしやひったくりも遊ぶための現金目 うような枠組みを設定して「他人の物 ( お バイトを始め「毎日まじめに働くようにな 当てに集団で引き起こされることが多い 店の物 ) を盗んではいけない」と簡潔に った。余暇は別の友人たちとフットサルチ 表現し、「欲しい物があったのに盗まな が、置引き、侵入盗の単独犯は悪質性が ームに入り、練習や試合に参加するように 高く、非行性がかなり進んだものと認め なり、不良交友が改善し、再非行なく保護いでよく我慢したね。と褒めて「悪いこ られる。 とをしないで生活していることが ( 私 観察解除となった。 共犯者と一緒に遊ぶための車両やこづ は ) とてもうれしいよ」と処遇者の気持 かい欲しさの事件の少年については、保少年の多くは学校にも家庭にも適応でちを表現して伝え続けているうちに、本 護観察開始当初から、深夜徘徊の禁止、きないため、不良交友に拠り所を求めて人が処遇者に喜ばれる行動を取ろうとし 不良交友の改善、通学や就労の習慣付け逸脱行動に至るが、保護観察処分や少年て制御力が培われていくようにみえる。 により遊興的な生活を改善することによ院からの仮退院をきっかけに家庭に戻り って無免許運転の誘惑にさらされる機会「居場所」を得て、復学や就職によって 三成人事件 を減らし、再非行を防止している。その社会的な「出番ーを得られれば、再非行 ため、保護観察官や担当保護司の面接でなく更生していくことができる。一方再成人の窃盗事件で多いのも万引きであ は、通学状況や就職活動、就労状況など非行を繰り返すケ 1 スの多くは、復学やり、女性と高齢者 ( 歳以上の者。以下 を確認し、共犯者等との交友関係を断っ就職がうまくいかず、不良交友を断ち切同じ。 ) ではその 8 割を占める。年位 前まではスリ事犯の対象者が相当数お 指導が中心となる。車両関係盗においてれなかったものである。 少数ではあるが、単独の犯行を繰り返り、地道な就労を指導するのが困難で、 は、目的となる無免許運転の害悪をよく 理解させるために、交通事犯者に対するしていた者は特に処遇が難しい。生活習再犯も多かったが、カード社会になった