契約は失効する。すなわち、加入時に共⑤破産者が、破産手続開始後、生活の的差押えの性質を有する破産手続開始決 済事故が生じたことによって共済金が支安定を図るために、自由財産の中から掛定についても別異に解する理由はなく、 払われるのは、共済契約締結と同時に掛金を支払うことを前提として、共済契約保険契約が締結された時点で、破産手続 金の支払を継続することが前提となってに加入することは当然に容認されるもの開始決定により破産財団に属させること引 が可能な財産として発生しているものとの であり、この新たな共済契約に基づき、 いるのであって、掛金の支払の継続は、 法 雇用契約における稼動に類比できる。 破産手続中に生じた共済事故に対して支みるのが合理的である。 したがって、破産手続開始前に締結さ ③共済契約は生活の共済を図ることが払われる共済金が自由財産になることは 目的であり、破産手続開始後において明らかであると考えられるが、共済契約れた保険契約に基づく抽象的保険金請求 も、入通院等の共済事故によって、破産が破産手続開始前に締結されたか否かに権は、破産法条 2 項の「破産者が破産 者の生活の再出発が著しく困難になるこよって、このような差が生ずることの方手続開始前に生じた原因に基づいて行う ことがある将来の請求権 , として、破産 とを避ける必要がある。したがって、破が、むしろ均衡を失することになるとい 手続開始決定により、破産財団に属する 産者が破産手続開始後に共済契約に加入うべきである。 財産になるものと解するのが相当である。 することは当然に許されると考えられる そして、本件共済契約も保険契約の一 べきであるとともに、自由財産から掛金 ⑦判決要旨 種であると解されるから、前述したとこ が支払われることを前提として破産手続請求認容 本判決は、本件共済金請求権が破産ろが本件共済契約にも当てはまるものと 開始以前に加入した共済契約の継続も容 財団に帰属するとして、 >< の請求を認容解すべきである。 認される必要がある 2 また、の各主張については以下の ④共済契約者が共済金請求権を取得すし、以下の理由を判示した。 るためには、対価である掛金を継続的に保険金請求権は、保険契約締結とともとおり判示した。 に、保険事故の発生を停止条件とする債①本件共済契約の貯蓄性の有無と、当 支払うことが不可欠の要件となってい る。すなわち、共済金請求権は、共済契権として発生しており、保険事故発生前該権利の発生時期や破産財団への帰属の 約が締結されたことのみに基づいて生ずにおける保険金請求権 ( 以下「抽象的保可否は何ら関係がない。 るわけではなく、掛金の支払が要件とな険金請求権 [ という。 ) も、差押えや処②本件共済契約においては、月々の掛 金の支払が、これに対応する「保障期間」 っているから、破産手続開始前に支払わ分が可能であると解される。 中に生じた共済事故に係る共済金請求権 このように、抽象的保険金請求権が、 れた掛金に対応する保障期間内に生じた 共済事故による共済金請求権のみが、破差押えや処分が可能な財産であるとされの発生要件となっているものとは解され ている以上、破産者の財産に対する包括ない一方、雇用契約においては、労務の 産財団に属するものと考えられる。
険判例研究 金請求権は破産財団に属する財産である と主張し、に対し、本件共済契約に基 づき、本件共済金及びこれに対する遅延 損害金の支払を求めた。 は、これに対し、以下の理由から、 本件共済金請求権が、破産法条 2 項の 将来の請求権に属することは明らかであ るとする >< の主張に疑問がある旨主張し ①生命保険の解約返戻金については、 それが貯蓄性を持っ契約である場合、破 産手続開始時までに支払われた保険料が 解約返戻金支払の基礎となっていること 【第 1 事件】 一事件の概要 札幌地方裁判所平成年 3 月四日判決 から、解約返戻金は破産財団に組み入れ られるものと考えられる。これに対し、 ( 平成年 ( ワ ) 第 2703 号 ) 第 1 事件 本件共済契約は、いわゆる掛け捨てタイ 【第 2 事件】 東京高等裁判所平成年 9 月日決定 プの契約であって、貯蓄としての性格は 事案の概要 ( 平成年 ( ラ ) 第 1817 号 ) 持っていない。 訴外破産者 < が破産手続開始決定前に 冖原審〕 生活協同組合との間で疾病入院特約付②退職金についても、賃金の後払いの 東京地方裁判所平成年 8 月 6 日決定きの生命共済契約 ( 以下「本件共済契約」性格を有することから、破産手続開始時 ( 平成年 ( フ ) 第 2749 号 ) という。 ) を締結していたところ、破産までに雇用されたことによる部分につい 手続開始決定後に < が疾病の治療のためては、破産財団に組み入れられるのは当 入院し ( 合計肪日間、以下「本件共済事然であると考えられる。これに対し、破 故」という。 ) 、疾病入院共済金 ( 合計産手続開始後の稼動による賃金について引 は、破産財団を構成することはない。他の 万 8000 円、以下「本件共済金 , とい う。 ) が発生した。 < の破産管財人は、方、共済契約の掛金は月払いが原則であ法 本件共済事故に基づき発生した本件共済り、掛金の払込みがなされなければ共済 第回 保険判例研究会 破産手続開始決定前の保険契約について同 - 決定後に保険事故が発生した場合における 保険金請求権の破産財団への帰属の有 酒井優壽 ( 弁護士 ) 」
えを行うことも可能であるところ、破産頁 ) は、傍論部分において、保険金請求産が破産財団に帰属するか否かの判断に 手続開始決定が、破産者から財産管理処権が自由財産に属する旨の破産者の主張関わるものではない。 分権を剥奪してこれを破産管財人に帰属を前提として、破産者の当事者適格を否 ろ させるとともに破産債権者の個別的権利定できないと判示したものにすぎない ひ の 行使を禁止するもので、破産者の財産にしたがって、の主張は採用できない。 ニ研究 律 法 対する包括的差押えの性質を有すること②生命保険金請求権が、死亡事故が発 に鑑みると、その効果が抽象的保険金請生するまでは具体化する確率の極めて低 両事件の意義 い権利であり、受取人変更の余地もある 求権に及ばないと解すべき理由はない。 第 1 事件は、破産手続開始決定後に保 したがって、破産手続開始決定前に成立不安定な権利であることなどを考慮して した保険契約に基づく抽象的保険金請求も、破産手続開始時において、将来の発険事故が発生した場合の保険金請求権が 権は、「破産手続開始前に生じた原因に生が予想され一定の財産的価値をもっこ破産財団に属することを明確に判示した 基づいて行うことがある将来の請求権」とは否定できないのであって、これを破ものである。この結論は、破産法及び保 ( 破産法条 2 項 ) として、破産手続開産債権者のための配当財源とすることが険法の学説上の通説的見解に基づくもの であるが、判例上は必ずしも明らかにさ 始決定により「破産財団に属する財産 , 合理性を欠くものということはできない。 ( 同法 156 条 1 項 ) になるというべき③本件保険金請求権が「破産手続開始れていなかった。このため、実務上重要 である 前に生じた原因に基づいて行うことがあな意義を有するものであるといえる。 また、第 2 事件は、第 1 事件と判断内 2 また、の主張については、以下のる将来の請求権」であると解される以 上、破産手続開始決定により「破産財団容を同じくするものであるが、これを明 とおり判示した。 に属する財産」になるのは当然のことで確に判示した上級審における初めての裁 ①の引用する最高裁判決 ( 最三小判 昭和年 9 月日民集巻 8 号 1652 あって、これをもって固定主義や免責主判例であり、第 1 事件と同様の意義を有 頁 ) は、保険事故により具体化した保険義の趣旨に反するということはできないする。 なお、第 1 事件との比較では、第 1 事 金請求権の発生時期が、保険事故発生時し、被保険者である < の意思に反するか か損害賠償額の確定時かが問題となった否かを考慮する余地もない。そして、破件が保険契約者と保険金受取人が同一人 事案であって、抽象的保険金請求権の発産者の経済生活の再生の機会の確保を図であったのに対し、第 2 事件は保険契約 ることは破産制度の目的の一つである者と保険金受取人が別であり、破産者が 生時期について判示したものではない。 が、これは自由財産の拡張の決定におい保険金受取人であるにすぎなかった点に また、の引用する高裁判決 ( 大阪高判 平成 2 年Ⅱ月日判タ 752 号 216 て考慮、対応すべき事柄であり、当該財違いがある
を有する権利として取り扱うべきか否か請求権は破産財団に組み入れられて然る産手続開始決定後すぐに判断するという べきである。 運用になっている。しかし、当該生命保険 が問題となる。 この点については、学説上、保険金請 そして、破産法条 2 項との関係で契約にかかる解約返戻金請求権が直ちに 求権を保険事故発生前後で区別し、保険は、抽象的保険金請求権が「将来の請求放棄の対象とならない財産的価値を有す引 事故発生後のものを具体的保険金請求権」に当たり、抽象的保険金請求権の発る場合には、破産管財人の生命保険契約の にかかる解約返戻金請求権を放棄するか法 権、保険事故発生前のものを抽象的保険生原因である保険契約の締結が同条のい 否かの判断のタイミングによって、生命 金請求権と呼称して、検討がなされてい 、つ「原因」に当たると解される。 る ( 注 3 ) 。 以上の考え方が、学説上の通説的見解保険金が破産財団に組み入れられるか否 その検討において、抽象的保険金請求であり ( 注 4 ) 、両事件の判断の理由づけ かが左右されることになり、破産者の相 続人は不安定な立場に置かれることにな 権は、一定の財産的価値を有する権利でにも採用されている。 る。破産者の相続人としては、破産管財 あると理解されている。その理由づけと 人に対して早急な判断を求めるだろうが、 しては、保険法町条が保険事故発生前の 両事件に対する批判的検討 放棄に先立って破産者が死亡してしまった 生命保険金請求権について質権設定がで 具体的な適用場面からみる問題点場合には、その相続財産について破産手 きる旨規定しており、また、民事執行の 場面において抽象的保険金請求権が差押しかしながら、破産手続開始決定後に続は続行され ( 破産法 227 条 ) 、生命保 命令の対象となると解されていることが保険事故が発生した場合の保険金請求権険金について自由財産の拡張が認められ を破産財団に属させることは広く一般的る余地はほとんどないように思われる。 挙げられる。 に認めてよいものだろうか。具体的な適このように、破産手続開始決定後におけ 用場面を想定すると、様々な不都合が生る破産管財人の手続処理のスピードと破 産者の死亡のタイミング如何によって、 前記の破産法及び保険法の通説的見解じる。 からは、次のような帰結が導かれる。 両事件類似の適用場面として、破産者破産者の相続人や債権者の利益状況が大 すなわち、破産手続において、破産手が保険契約者、被保険者、保険金受取人きく異なる可能性が生じることには疑問 続開始時に存在する抽象的保険金請求権の全てを兼ねているというシチュエ 1 シが残るし、こうした処理は固定主義との ョンで、破産手続開始決定後に破産者が関係でも問題があるように思われる。 については、他の法の適用場面と同様、 また、少し視点を変えて、破産者が自 財産的価値を有することを前提とすべき危篤状態になった場合を考えてみたい。 であり、破産法上の固定主義・包括的差この場合、後記 4 で詳述するが、生命保険らを被保険者とする自動車保険に加入し 押えの考え方に基づけば、抽象的保険金契約の継続については、破産管財人が破ており、破産手続開始決定後に破産者に
て、表裏のような関係にある解約返戻金 ( 注 6 ) 、これは相続開始時すなわち保険ある。 請求権と抽象的保険金請求権が同時に差事故発生時に保険契約を解約したとすれもっとも、第 2 事件のように、破産者 し押さえられていることになる。実質的ば解約返戻金が相続財産に属したであろが保険契約者ではなく保険金受取人にす うからこれを相続財産に属するものとみぎない場合には、解約返戻金請求権が破引 にみれば、破産手続において、債権者は 前記で述べた民事執行の場面よりも保護なすべきことを理由とする。この考え方産者に帰属し得ないという問題が残るたの されることになる。 をそのまま、破産の場面にも当てはめてめ、破産者が保険契約者かっ保険金受取法 これは私見であるが、通説的見解に反みれば次のような結論を導くことができ人であるケースと同様に、抽象的保険金 対する立場から、この点を捉えて、債権る。すなわち、破産手続開始時に保険契請求権の破産財団への帰属を認めないと いう結論をとることができるのか、判然 者保護については執行の場面と同程度の約を解約した場合に解約返戻金が破産財 保護を与えれば足りるといった議論を展団に属したであろうから、これを破産財としない。結局、第 2 事件のようなケー 開することも可能である。すなわち、解団に組み入れる必要があるが、それで債スについても抽象的保険金請求権の破産 約返戻金請求権と保険金請求権は、どち権者の保護としては十分であり、破産手財団への帰属を否定しようとすれば、さ らも究極的には保険契約という単一の原続開始決定後に保険事故が発生したとしらに一歩踏み込んで、破産手続における 因に基づくものであり、かっ、両方の権ても、その保険金を破産財団に組み入れ抽象的保険金請求権の権利性や財産的価 利が同時に実現することはあり得ないこてまで債権者を保護する必要はないとい値を否定する必要があるように思われる。 う結論である。 とから、破産手続開始決定時点におい 反対説の再検討 この考え方について補足すると、破産 て、権利としての実現性が高い解約返戻 金請求権のみ破産財団への帰属を認め、法条 2 項との関係でいえば、保険契約通説的見解に対し、抽象的保険金請求 権利としての実現性が低い抽象的保険金の締結を「破産手続開始前に生じた原権の破産財団への帰属を認めない考え方 も存在する ( 注 7 ) 。この反対説は、抽象 請求権の破産財団への組み入れを認める因」と捉える点は通説的見解と相違ない が、単一の原因に基づく一一者択一の請求的保険金請求権が保険事故の発生によっ べきではないという議論である。 この議論に際しては、相続の場面で死権について、破産手続開始時点におけるて具体化する可能性が低く破産手続開始 亡保険金請求権が相続債権者の引当財産権利としての実現性ひいては債権者保護時点において大きな財産的価値が認めら となるか否かという論点の議論も参考にの観点から、そのうち一つの請求権が「将れないにもかかわらず、いざ保険事故が なる。すなわち、この論点において、死来の請求権」として選択的に差し押さえ発生すれば、債権者に望外の利益をもた 亡保険金請求権のうち解約返戻金相当額られることになるとして、包括的差押えらす不公平感から例外的な取扱いをすべ が引当財産になるという考え方があるがの効果に限定を加えるようとするものできではないかという問題意識に根差すも
保 険判例研究 すなわち、①保険金請求権は保険事故 提供が当該月の賃金支払請求権の不可欠 第 2 事件 の発生と同時に発生する ( 後記判例を引 な発生要件になっているものと解される 事案の概要 用 ) 、②破産法条 2 項の趣旨が、将来 のであって、両者は性質を異にする。 ③破産財団に属する財産か否かは、破破産者には訴外長男 < がいたが、 < の請求権が一定の財産的価値を有してい 産手続開始前に生じたものであるか否かはの破産手続開始決定前から、 < 自身ることから配当財源とすることが合理的 によって決まるのであり、その判断に当を契約名義人及び被保険者とする生命保である点にあるところ、生命保険金請求 たって、破産者の生活再建の必要性を考険契約 ( 以下「本件保険契約」という。 ) 権は財産的価値が極めて小さく破産債権 慮する余地はほとんどないものというべと < 自身を契約名義人及び被共済者とす者のための配当財源とすることに合理性 がない、③保険金請求権が破産財団を構 きである。むしろ、破産者の生活再建のる共済契約 ( 以下「本件共済契約」とい 成すると解することは、固定主義及び免 必要性は、破産法上、自由財産拡張の決う。 ) を締結していた。 >< の破産手続開始決定後には死亡し責主義の趣旨並びに被保険者である < の 定に当たって考慮すべき要素とされてい ることからしても、破産者が共済金を受たが、本件保険契約に基づく死亡保険金意思に反する上、の更生の妨げとな 2000 万円及び本件共済契約に基づくる。 け取れなくなることにより破産者に酷な 事態が生ずる場合には、自由財産拡張等死亡共済金 400 万円 ( 以下合わせて「本 ②決定要旨 件保険金ーという。 ) の受取人は、 >< で の手段によって対処すべきである。 抗告棄却 ④本件共済契約には月々の掛金の支払あった。 本決定は、本件保険金請求権がの そこで、は本件保険金について、振 に対応する「保障期間ーなるものは観念 されておらず、月々の掛金の支払が、こ込みの方法による払戻しを受け、現金化破産財団に帰属するとして、以下の理由 を判示した。 れに対応する「保障期間ー中に生じた共して保管した。 一般に、保険金請求権は、保険契約の 済事故に係る共済金請求権の発生要件と破産管財人であるは、に対し、本 なっているものとは解されない。 件保険金を引き渡すよう申し入れたが、成立とともに保険事故の発生等の保険金 ⑤共済契約が破産手続開始前に締結さ拒否されたため、破産裁判所に引渡命令請求権が具体化する事由を停止条件とす れたか否かによって、結論に差が生じるの申立て ( 破産法 156 条 1 項 ) をしたる債権 ( 以下、具体化事由の発生前の保 険金請求権を「抽象的保険金請求権」と引 ことは、破産財団の範囲につき破産手続ところ、原審はこれを認容した。 いう。 ) であって、抽象的保険金請求権の >< は、原審の決定に対し、以下の理由 開始時を基準とする固定主義を採用して いる以上、避けられないことであると言から、本件保険金請求権が破産財団を構のまま処分することが可能であるのみな法 らず、法律で禁止されていない限り差押 成しない旨主張し、即時抗告した。 わざるを得ない。
保 険判例研究 両事件は、結論・理由づけにおいて学説財団に帰属する財産によって構成され請求権」に当たるか否かが問題となって いる 上の通説的見解に沿うものであると評価 ( 破産法条 1 項 ) 、破産手続開始決定後 できる。しかし、広く一般的に、破産手続に取得するに至った財産 ( 新得財産 ) に この点については、破産手続開始決定 開始決定後に保険事故が発生した場合のついては、破産財団から除かれる。このの法的効果が、破産者の財産に対する包 保険金請求権を破産財団に帰属させるこように、破産手続開始決定時を基準時と括的差押えの性質を有するものとして提 とは、具体的なケースを想定してみるとして破産財団の範囲を固定する考え方をえられることと、併せて検討する必要が 様々な不都合が生じることが予想され、固定主義と呼ぶ。 ある ( 破産法条 3 項、条 1 項参照 ) 。 大きな疑問が残ると言わざるを得ない。 固定主義が採られた趣旨は、①破産手 生命保険実務においても、破産手続開続の迅速な解決、②破産手続開始決定後⑦保険法についての基本的理解 始決定後に起こった保険事故にかかる保の原因に基づく新債権者の保護、③破産保険契約は、「保険契約、共済契約そ 険金請求権については、保険金受取人に者が新得財産をもとに再起が図れるこの他いかなる名称であるかを問わず、当 直接保険金を支払う運用がなされておと、④債務者による破産申立ての促進で事者の一方が一定の事由が生じたことを り、両事件の結論が妥当ということになある ( 注 1 ) 。 条件として財産上の給付を行うことを約 れば、保険者は二重払いの危険にさらさ そして、破産者が破産手続開始前に生し、相手方がこれに対して当該一定の事 れることにもなりかねない。 じた原因に基づいて行うことがある将来由の発生の可能性に応じたものとして保 以上の問題意識を前提に、反対説や実の請求権についても、破産財団に属する険料を支払うことを約する契約 . と定義 務上の運用も踏まえながら、両事件の内とされている ( 破産法条 2 項 ) 。これづけられている ( 保険法 2 条 1 項 ) 。 容について検討する。 は同条既定の将来の請求権が、破産手続この定義に照らし、保険金請求権は保 険契約締結と同時に発生する停止条件付 開始時に既に将来の発生が予想され、一 定の財産的価値を持つものであるから請求権であると解されている ( 注 2 ) 。 破産法及び保険法の基本的理解 ( 民法 129 条参照 ) 、破産債権者のため現実の場面に照らしてみても、保険金 両事件の内容の検討に際し、はじめにの配当財産とすることが合理的であり、受取人は「一定の事由」 ( 保険事故 ) が 破産法及び保険法の通説的見解による基固定主義の前記趣旨に反するものではな発生していない時点であっても、保険金 本的理解について簡単に述べる。 いと解されるからである。 請求権が生じたときには「財産上の給引 両事件との関連では、破産手続開始決付ー ( 保険給付 ) がなされるという期待の 破産法についての基本的理解 定後に保険事故が発生した場合の保険金を有していることは明らかであり、保険法 破産財団は、破産手続開始の時に破産請求権の破産法条 2 項のいう「将来の事故発生前の保険金請求権を財産的価値
産財団に組み入れてまで保護すべき債権額を現金で納め、これを破産財団に組み階で破産管財人と破産者が生命保険契約 者の期待は存在しない。したがって、第入れることで、解約返戻金全額についての継続について協議を行い、必要に応じ 2 事件のように、破産者が保険契約者で自由財産拡張を認めてもらい、当該生命て解約手続が行われることになる。この はなく保険金受取人に過ぎない場合であ保険契約を継続させるといった取扱いもように破産手続開始決定後すみやかに生タ っても、抽象的保険金請求権は破産財団よくみられる。なお、破産管財人が前記命保険契約を継続させるか否かについての に帰属しないという結論を導くことが可の自由財産拡張の基準に照らし相当と判判断がなされることは、第 1 事件のよう法 に、破産者が、破産手続開始決定後、自 断した時点で黙示的な拡張決定があった 能となる らが保険金を受け取れないにもかかわら ものとして扱われることとされており、 当該生命保険契約を解約する場合には、ず保険契約が継続する ( 保険料の支払が 4 実務上の運用と破産者の意思の 介入権 ( 保険法条、条 ) との兼ね合継続する ) という事態を極力回避するこ 尊重 いで、破産手続開始決定後直ちに解約手とにつながる ( なお、第 1 事件は、具体 実務上の運用として、東京地方裁判所続を行うものとされている。この破産管的な事情こそわからないが、支払われた の破産手続における破産者を契約者とす財人の判断過程においては、通常意識さ共済金が万 8000 円と比較的少額で あることに加え、実際に入院費等として る生命保険契約の取扱いについて述べる。れていないが、解約返戻金請求権につい まず、当該生命保険契約の解約返戻金ての財産評価が保険金請求権の財産評価支出があったことのみに着目すれば、自 の金額が万円以下であれば、破産管財よりも優先することが前提となっており由財産拡張が認められる余地はあったも のと思われる ( 注 8 ) 。 ) 。また、被保険者 人は換価を要しないものとされており ( 前記の民事執行の場面と同様である ) 、 ( いわゆる「万円基準」 ) 、万円を超結局、解約返戻金請求権の財産的価値のの健康状態や年齢によって生命保険に再 える場合についても、総財産四万円の限評価の判断を通じて、破産者の生命保険加入することが困難な場合や、保険金受 度に収まる場合には ( いわゆる「四万円契約に基づく債権を破産財団から離脱さ取人の生活保障といった理由から、破産 基準」 ) 、自由財産拡張を認める運用がなせるか否かが決められているのである。者が生命保険契約の継続を希望すること されている。解約返戻金が万円を超こうした運用は、破産者の合理的意思も少なくないが、このようなニ 1 ズにも え、かっ、総財産四万円の限度も超えてにも十分に配慮したものであるといえ柔軟に対応できるものとして評価できる。 問題として残るのは、第 2 事件のよう しまう場合には、原則として当該解約返る。すなわち、解約返戻金が自由財産に に、破産者が保険金受取人であるにすぎ 戻金は破産財団に組み入れられることに当たるか否かは破産手続開始決定後すぐ ない場合である。この場合には、抽象的 なる。もっとも、破産者が、破産管財人に破産管財人の判断によって決定され、 と協議の上、超過部分についてその相当自由財産に当たらない場合にも、早い段保険金請求権が破産法条 2 項のいう
保 険判例研究 ・遠山優治「生命保険員請求権と保険金受取人の破産」 いたものであるが、これが広く一般的に 「将来の請求権に当たらないという立 場をとらない限りは、当該生命保険金請適用されるとなると、具体的な事例にお文研論集 123 号 211 頁 いて、不当な結論が導かれることが懸念・勝野義人「生命共済の入院特約に基づく共済金請求権 求権は原則として破産財団に組み入れら と破産財団に属する財産」共済と保険 2013 年 4 月 れることになる。これは破産者や保険契され、大きな疑問が残る。もっとも、実 約者等の関係者の合理的意思に反する結務上、破産手続における破産者を契約者号 188 頁 ・山下友信「保険契約と詐害行為取消権・否認権 ( 上 ) 果になりかねない。そうした事態を回避とする保険契約については、破産管財人 ( 下 ) 」金法 1452 号頁、 1453 号頁 するには、保険契約者が保険金受取人をを中心とした柔軟な対応がなされてお ・大橋真弓「新保険法と生命保険契約者の破産」明治大 変更すればよく、この変更自体に特段のり、介入権等の周辺制度をみても、破産 学法科大学院論集 7 3 35 頁 制約はない。逆に言えば、保険金受取人者やその他関係者の合理的意思を尊重し に破産手続開始決定がなされた後も、こ得る仕組みが整備されており、その運用 ( 注 ) れを変更することなく維持していた場合如何によっては、妥当な結論を導くこと には、保険事故が発生すると、当該保険も不可能ではないと思われる。本稿は筆 金請求権が破産財団に組み入れられてし者の問題意識が先行し、理論的整合性よ まうことは、やむを得ないということでりも問題提起に重点が置かれる形になっ ある。もっとも、実務上、破産申立てのてしまったが、今後、通説的見解の再検 際に、申立代理人は破産者を契約者とす討も含めた批判的かっ緻密な議論が展開 る生命保険契約の有無の確認は当然行、つされることを期待したい。 が、破産者を保険金受取人とする生命保 ( 参考文献 ) 険契約の有無までは確認していないとい 、つことが、しばしば起こり得ると思われ・伊藤眞『破産法・民事再生法』 ( 有斐閣、第 3 版、 014 年 ) る。その確認にも限界はあると思われる ・山下友信「保険法」 ( 有斐閣、 2 0 0 5 年 ) が、十分に留意したいものである。 ・大森忠夫「保険法」 ( 有斐閣、 19 5 7 年 ・砺波久幸「生命保険契約上の権利に対する滞納処分に 5 結論 ついて」税務大学校論叢号 175 頁 ・大森忠夫「保険金受取人の法的地位」「生命保険契約 両事件はともに、破産法及び保険法に 法の諸問題」 ( 有斐閣、 1958 年 ) おける通説的見解に基づいて、結論を導 ( 1 ) 伊藤眞「破産法・民事再生法」 ( 2014 年、第 3 版、有斐閣 ) 236 頁参照。 1 268 頁参照 ( 2 ) 伊藤・前掲 ( 注 ) ( 3 ) 山下友信「保険法」 ( 有斐閣、 2 005 年 ) 541 3 543 頁参照。 ( 4 ) 山下・前掲 ( 注 ) ( 5 ) 砺波久幸「生命保険契約上の権利に対する滞納処 頁参 分について」税務大学校論叢号 照。 ( 6 ) 大森忠夫「保険金受取人の法的地位」「生命保険契 約法の諸問題」 ( 有斐閣、 1958 年 ) 頁以下参照。 ( 7 ) 遠山優治「生命保険員請求権と保険金受取人の破 一 0 0 2 産」文研論集 123 号 219 頁以下参照。 ば ( 8 ) 勝野義人「生命共済の入院特約に基づく共済金請ろ 求権と破産財団に属する財産」共済と保険 2013 年の 法 4 月号 19 3 頁参照。 ( さかい・まさとし ) 乃 頁参照。
保 険判例研究 かかる交通事故が発生した場合につい られると解することには、大きな疑問を求権については、差押えの対象になると て、検討してみたい。まず、破産者が他感じる。このような法的処理が果たして学説上考えられているが、実務上はほと 人を死亡もしくはケガさせたというシチ妥当であるといえるのだろうか んど利用されていないように思われる これは、抽象的保険金請求権の実現可 ュエーションを想定してみると、この場 合、対人賠償責任保険については、被害 民事執行の場面からのアプローチ能性が低いため、債権者の差押えに対す 者が十分な賠償を受けられるよう、保険 ( 解約返戻金請求権及び抽象的保険金るモチベ 1 ションが乏しくなることに加 法条によって手当がなされているた え、保険事故発生前の保険金請求権の金 請求権の差押えについて ) め、被害者は別除権者として保険金請求通説的見解によれば、破産手続開始決銭的評価が極めて困難であることに原因 権について先取特権を行使することがで定の法的効果は包括的差押えと提えられ . があると考えられる。 解約返戻金請求権との関係でいえば、 き、大きな不都合は生じないと思われているが、本来的な差押えが行われてい る。他方、破産者が死亡もしくはケガをる民事執行の場面において、保険契約に抽象的保険金請求権は解約返戻金請求権 したというシチュエ 1 ションで、破産者基づく債権、すなわち解約返戻金請求権とは別個の独立した権利であり、一方の が人身傷害補償保険に加入していた場合と保険金請求権がどのような取扱いをさ差押えが他方の差押えを兼ねることはあ り得ず、その裏返しとして両者を同時に を想定してみると、大きく状況が異なれているか検討したい。 る。この場合には、破産者に生じた損害 まず、保険事故発生前において、保険差し押さえることも理論的には可能なは について、破産管財人が人身傷害補償保契約に基づく解約返戻金請求権は差押命ずである ( 注 5 ) 。しかし、実際には解約 険に基づく保険金を回収してこれを破産令の対象となり、取立権に基づく解約権返戻金請求権の差押えのみが行われてい 財団に組み入れ、破産者は損害全額につの行使も可能である ( 最判平成Ⅱ年 9 月るケ 1 スが多いと思われる したがって、民事執行の場面におい 9 日民集巻 7 号 117 3 頁 ) 。このた いて賠償を受けられなくなる可能性が生 じる。当該交通事故自体はあくまで破産め、権利としての確実性及び回収可能性て、保険事故発生前の時点では、債権者 手続開始決定後の事情であり、破産者はの高さから、実務の現場において解約返に、解約返戻金請求権の差押えの道のみ 人身傷害補償保険に加入していなけれ戻金請求権の差押えがよく行われているが開かれており、保険金請求権について は、保険事故が発生してはじめて差押え ば、加害者に対して損害額全額を請求すことは周知の事実である。 ることは何ら妨げられないにもかかわら他方、保険金請求権の差押えについてが可能になるという現実がある。 ところで、抽象的保険金請求権が破産の ずである。もちろん、当該保険金につい検討してみると、具体的保険金請求権は て自由財産の拡張が認められる可能性は差押えの対象となり実務上もよく利用さ財団に含まれるとする通説的理解によれ法 あるが、原則として破産財団に組み入れれている。これに対し、抽象的保険金請ば、破産手続の包括的差押えの効果とし