高齢者 - みる会図書館


検索対象: 法律のひろば 2015年6月号
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1. 法律のひろば 2015年6月号

①一定の資産を持っている 家族や知人に話すと怒られるので、つわせる。次に、乙土地より丙土地の方が い隠してしま、つ ②高齢者特有の不安 ( 健康、安全、お よいからと、同様に乙土地を下取り、丙 金、孤独に関する不安 ) を抱えており、 なお、詐欺的被害に遭った人は、自分土地を買わせる。この間、業者が、高齢 これを煽ることで契約をさせやすい が騙されたと思うことがストレスになる者に購入させた土地を販売するための営引 ひ の ③判断能力が低下しており、また精神ことから、このストレスから逃れようと業や広告をすることはない。 律 的にも弱くなってきているため、信頼する心理が強く働き、なんとか自分は騙また、あまりなじみのない外貨を高値法 させやすく騙しやすい ( 日中一人でい されていないのだという理屈を付けて正で購入させられた被害者が、被害救済を ることも多く寂しい ) 当化しようとする。むしろ、騙しているうたう団体を名乗る者から、入会金や弁 しかし、筆者としては、さらに と考える方がおかしいと反論してくるこ護士費用を支払えば被害が回復できるな ④若者への優しさ とさえある。この心理状態を正しく理解どと勧誘され、さらにお金を払わせられ も指摘したい。例えば、いわゆる劇場型することは、相談を受ける上で大切である被害も後を絶たない ( 注 6 ) 。 勧誘事案において、電話をかけてきた若る。 い声の男性が、電話の向こうで上司に叱 ニ被害の救済 られているように聞こえてきたので、若 ②高齢者被害の拡大 ( ニ次被害 ) い声の男性に同情して契約してしまった これは高齢者に限ったことではない 相談の受任 とか、営業に来た若者を応援しようと思が、詐欺被害に遭った人は、自分で解決 契約してしまったなどと、いう話は多しようとして更に契約を締結させられ、 高齢者の被害については、高齢者本人 、 0 2 次被害、 3 次被害と被害が拡大していではなく、その家族、特に推定相続人で また、 くことが少なくない。一度被害に遭ってある子どもが相談にくることか少なくな ⑤高齢者の被害は顕在化しにくい も、また被害に遭うのである。 。その場合でも、事件を受任するに ことも高齢者が狙われる理由に加えてよ 現在、高齢者を中心に、いわゆる原野は、高齢者本人から依頼を受ける必要が いのかもしれない。顕在化しにくい理由商法の 2 次被害が多発している ( 注 5 ) 。 あるので、高齢者に意思能力が認められ としては、以下のことが考えられる。 これは、例えば、以前原野商法によってないと思われる場合には、後見制度を利 騙されていることにも気づきにくい 「別荘地」甲を購入してしまった高齢者用することなる。 ( 契約したとの認識がない者もいる ) に、甲土地は売れないが、乙土地なら売 また、話を聞けば確かに詐欺だろうと 騙されたことがわかっても、騙されれるなどと言って、乙土地を買わせる。 思われる事案でも、事件を受任するかど その際、甲土地を下取りし、差額を支払うかは、別の判断が必要となる。一つは、 たことを知られるのは恥ずかしいし、

2. 法律のひろば 2015年6月号

特集法と判例からみる消費者問題のいま 高齢者の消費者被害と民事訴訟 また、売り主にとって本件売買契約を事業者が負うことになる義務の内容が契合性原則の徹底が求められる ( 注。 する必要性・合理性は全くなかっただけ約書上は必ずしも明確ではないことの事 でなく、それは客観的に適正に鑑定され情に照らし、社会的相当性に反する契約 ( 注 ) た本件土地の売買価格の 6 割にも満たなといわざるを得ない」「原告の無思慮に ( 1 ) 国民生活センター報道発表資料 ( 平成年 4 月 日更新 ) 参照。 かった点で、買い主に一方的に有利なも乗じて不当な利益を得ていた」として、 のであった。 契約を「暴利行為、非良心的行為ないし ( 2 ) 1 件の相談に複数の販売方法・手口が含まれる場 合は、各々に対し 1 件ずつカウントしている。 このような事情を総合考慮すれば、本不公正な取引行為として公序良俗に反し ( 3 ) 「代わりに購入すれば高値で買い取る」などと、 件売買は、売り主の判断能力の低い状態無効」と断じている 場の違う複数の業者が、金融商品等を電話で勧誘す に乗じてなされた売り主にとって客観的 手口。 な必要性の全くない取引といえるから、 三最後に ( 4 ) 「値上がり確実」「必ずもうかる」など利殖にな 公序良俗に反し無効である。 ことを強調して、投資や出資を勧誘する商法。怪し、 ③岐阜地裁大垣支部平成幻年川月四日 高齢者の増加は待ったなしの状況であ 投資に関する相談が多く、「もうからない」「返金さ 判決 ( 注幻 ) り、今後も、高齢者を狙った消費者被害 ない」といった相談のほか、中には詐欺まがいのも 業者から勧誘を受けた平成年 5 月頃は、増加することが確実である。 もある。 から「アルッハイマー型老年期認知症の契約が無効となる意思能力の有無の判 影響によって判断力が低下していた」大断は、具体的な事案との関係で判断され ( 5 ) 国民生活センター平成年 8 月 1 日報道発表資料、 平成年 2 月日掲載「相談事例と解決結果」参照。 正生まれ、小学校教員の経歴を持つ一人なければならず、実際に行われた行為の 暮らしの女性が、出展や掲載契約を締結結果が当該高齢者に適合する内容である ( 6 ) 国民生活センター平成年 9 月幻日報道発表資 参照。 させられた事案。判決では、被害女性 ( 原か否かにより、判断されるべきであろ 告 ) を「必要以上に褒め称え、無利息・ 無手数料の分割払いを勧めるなどして執また、事業者と高齢者を含む消費者と 拗に勧誘し」て契約に至ったと認められの情報の量と質の著しい格差からは、事 ( 8 ) 平成年 4 月に閣議決定された消費者基本計画 つ」 ること、「特に資産家であるとの事情は業者が、消費者に適合しない契約の勧誘 ( 9 ) 金融審議会第一部会「中間整理 ( 第一次 ) 」平成 ろ 認められず、原告の収入・資産状況からをすることは不公正であるとして、これ年 7 月 6 日 みても、著しく不相当に多数・多額の契を禁じ、その違反は、消費者法における ( 四齋藤雅弘弁護士は、合理的な理由なく過量な取の 法 約を締結していた。これらの契約は、契公序に反すると考えるべきであろう。そが行われたこと自体、消費者の不 + 分な判断力につ 約金額、原告の年齢、契約の内容、特にの意味で、高齢者に対するより一層の適込むなどした結果と認められ、消費者に不適合な取聟 ( 7 ) 民法 ( 債権関係 ) の改正に関する要綱 ( 平成 2 月日 ) では、この点を条文明記している。

3. 法律のひろば 2015年6月号

特集法と判例からみる消費者問題のいま 高齢者の消費者被害と民事訴訟 一一カ 1 4 ワ〕 0 ①電話勧誘販売 ・ 6 パ 1 セント ) ワ 0 ・カ【 08000 ②家庭訪販 ・ 4 パーセント ) ③劇場型勧誘 ( 注 3 ) 1 万 2623 和の森法律事務所弁護士瀬戸和宏 ( 6 ・ 0 パーセント ) ④代引配達 している。また、高齢者は、身体機能の ( 6 ・ 0 パ 1 セント ) 一高齢者の消費者被害 ( 注 1 ) 衰えから、事故に遭うことも多くなる。⑤利殖商法 ( 注 4 ) 5 ・ 7 パーセント ) 本稿では、主として、高齢者の消費者 ( はじめに 「 / 9 、一 0 1 被害のうち、取引被害について扱う。 ⑥インタ 1 ネット通販 ( 3 ・ 8 パ 1 セント ) 高齢者は、老後の生活費、自身の健康、 ⑦被害に遭った人を勧誘三次被害 ) 安全や孤独に対する不安を抱いていると 2 P 一 O-NET 情報にみる高齢者の 6 6 4 5 件 ( 3 ・ 2 パーセント ) 言われている。悪質業者が、高齢者のこ 消費者被害 ⑧かたり商法 ( 身分詐称 ) れらの不安を煽り、言葉巧みに信用させ て、資産を奪うという取引被害が後を絶 被害の増加 たない 全国の消費生活センターに寄せられた⑨次々販売 さらに、急激な化、科学技術の進契約当事者が間歳以上の相談の件数は、 歩や取引の国際化、サ 1 ビスや商品の多平成年度に川万件を超え、平成年度⑩ネガテイプ・オプション 4 9 5 7 件 ( 2 ・ 4 パーセント ) 様化、情報の氾濫は、一般人をもってしは約幻万件となり、相談件数全体の約 ーセントを占めるに至っている。 ても、正しい情報を取得し、これを検討 した上で、適切な判断を下すことを困難 3 高齢者被害の特徴 被害の内訳ー取引類型などによる分 にしている。悪質業者から見れば、判断 ろ 高齢者が狙われる理由 力が袞えている資産を持った高齢者は、 類 ( 平成年 ) ひ の 前記の相談内容を勧誘の手口などの取高齢者が狙われる理由については、 美味しいターゲット ( 狙い目 ) というこ 律 とになる。実際、高齢者の消費者被害相引類型に分類すると、以下のとおりとさ述の通り、以下のような指摘がされて、法 る。 つん 談件数は、次に述べるように、年々増加れている ( 注 2 ) 。 高齢者の消費者被害と民事訴訟 ( 3 ・ 0 パーセント ) ( 2 ・ 5 パ 1 セント ) 1 ワ 3 一 . 尸 0 LO 1 一カ 18 一 . 、 6 LO ワ 3 っ 0 っ 0

4. 法律のひろば 2015年6月号

特集法と判例からみる消費者問題のいま 高齢者の消費者被害と民事訴訟 書き込み、カレンダーへの書き込みな 消費者被害一般にいえることであるが、難性である。 被害回復の可能性との関係である。もう裁判は認定した事実に法律を当てはめど、重要な手がかりとなるものがあちら 一つは、高齢者本人が騙されたと思ってる作業であるから、まず、主張する事実こちらに散在しているので、注意深く集 いない場合に、高齢者本人にそのことをを特定する必要がある。しかし、高齢者めることになる。 このようにして集めた資料を基に 伝えるかどうか、である。被害の大きさの詐欺的被害案件では、この事実の特定 にもよるが、騙されたと分かることで受に難渋することが少なくない。 て、記憶との整合性を図り、事実を確宀 けるストレスを考えると、余生との関係被害 ( 損失発生 ) の確定、契約に至っしていくことになる。しかし、最大の で、「知らぬが仏」ということもある。 た経緯と理由 ( 動機 ) 、契約相手の特定方は、後述するように、この高齢者に一 さらに、高齢者本人が被害に遭ったこも不可欠である。高齢者は手持ち現金かの契約は必要だったのか、という世間 とを承知していても、訴訟まで提起するら支払をすることが少なくなく、その場一般常識からの判断であろう。 ことの可否も判断することになる。本人合には、領収証がなければ被害額の確定 からの事情聴取、法廷で証言する場合のも難しい。契約の相手が不明な場合もあ 3 意思無能力を理由とする契約 る。 事前打合せや証言することそのものは、 無効 高齢者にとって大きな負担となる。被害契約に至った経緯や理由・動機は、主 意思無能力の判断の困難性 の大きさと被害回復の可能性、そのため張の根幹であるが、その再現に苦労する 判例・学説上、意思無能力者の意思 の手間と時間などを勘案して、事件を受 ことは多い。人の記億は、結構、いしカ 任するか、受任するとして手続をどうす減である。時間の経過は記憶を曖味にす示は、無効とされる ( 注 7 ) 。したがって、 るのか、交渉までか、訴訟までするのかるし、記憶した内容が、自分に都合良く当該契約時に意思能力がなかったこと 立証できれば、高齢者は、契約の無効 を判断することになる。 変容されてしまう。さらに、歳とともに エピソードを思いだしにくくなることは主張できる。 しかし、高齢者の被害は、前述のよ、 避けられない。そうすると、契約当時、 事案の把握の困難性 ( 記憶力・ 業者からどのような説明を受けたのかにに潜在化しやすく、被害が判明する 再現力の衰え ) は、契約後相当期間が経過してからで ついて正確に思い出すことができない。 高齢者被害に向き合う場合、消費者事また、伝達力が袞えれば、上手に伝えるることが少なくない。そうすると、当タ の 高齢者は、現在は意思能力がないとし 件一般に生じる障害のほか、高齢者被害ことが困難となる。 律 法 そこで、証拠の収集となるが、折り込も、契約当時は意思能力があったかも 特有の障害の存在を承知しておく必要が ある。その最大の障害が事案の把握の困み広告の裏面のメモ、封書や契約書へのれない。実際に訴訟では、契約相手の引

5. 法律のひろば 2015年6月号

しかし、適合性原則は、投資取引に限の 適合性原則違反の効果 素を総合的に考慮する必要がある」と判 ったル 1 ルではない。消費者基本法は、 適合性原則は、取締法規における業者示している。なお、右判決中「著しく 事業者の責務等として「消費者との取引 に対する禁止規定であり、その違反は行 については、最高裁の担当調査官が、私 に際して、消費者の知識、経験及び財産政処分の対象となるが、適合性原則に違見であると断った上で、「著しくの要件タ の状況等に配慮すること」 ( 5 条 1 項 3 反した勧誘により成立した契約の効力やは、単なる取締法規の違反と不法行為上の 号 ) と規定し、特定商取引法では、「老民事上の責任については定められていなの違法との二元的理解を踏まえたレトリ法 、 0 人その他の者の判断力の不足に乗じ、 ックという意味合いが強いものと思わ ードルの高さを必ずしも ・ : 契約を締結させること」 ( 7 条、条、 「狭義の適合性原則」違反があれば、 れ、実質的なハ 条、条ののそれぞれの施行規則 ) 契約は無効ないし業者への損害賠償請求意味しないものと解される。」と解説し が認められることについて争いはないとている ( 注リ。 を指示対象行為として禁止している。 また、例えば、東京都消費生活条例 思われる。これに対し、「広義の適合性また、最高裁平成年川月日判決 ( 注 条は、「消費者の意に反して、又は消費原則」違反の場合の民事的効力の有無が リは「証券会社は、証券取引等を勧誘 者にとって不適当な契約と認められるに 問題とされていた。この点について、最する場合には、投資家に対し、当該取引 もかかわらず若しくは消費者の判断力不高裁平成年 7 月Ⅱ日判決 ( 民集巻 6 の危険性について相応の的確な情報を提 頁 ) は、適合性原則違反が民供し、投資家が不十分な情報により判断 足に乗じることにより、契約の締結を勧号 1323 を誤らないように配慮すべきであるとと 誘し、又は契約を締結させること」 ( 1 事責任を発生させることを認めた。 項 1 号 ) を「不適正な取引行為」として すなわち、「証券会社の担当者が、顧もに、投資家の職業・年齢・知識・投資 禁止している。 客の意向と実情に反して、明らかに過大経験・資力等個人的な要因に照らし、明 特定商取引法が訪問販売に認める過量な危険を伴う取引を積極的に勧誘するならかに過大な危険を伴うと考えられる取 販売解除権 ( 同法 9 条の 2 ) は、適合性ど、適合性の原則から著しく逸脱した証引を積極的に勧誘することを回避すべき 原則違反の契約に解除権を認めたものと券取引の勧誘をしてこれを行わせたとき信義則上の義務があり、この義務に違反 して理解することができる ( 注四。 は、当該行為は不法行為法上も違法となした結果当該投資家が損害を被った場合 このように、事業者側は、高齢者と取ると解する」とし、また、「顧客の適合 には、不法行為が成立し、当該投資家に 引をしようとするときは、当該高齢者に性判断するに当たっては、 ( 中略 ) 具体対し、その損害の全部又は一部を賠償す 適合しない取引を勧誘しないように注意的な商品特性を踏まえて、これとの相関る責任を負うものというべきである。」 関係において、顧客の投資経験、証券取と判示した。適合性原則の趣旨から、業 すべき注意義務がある、と考えられる。 引の知識、投資意向、財産状態等の諸要者に対し、当該顧客が適合性に反する契

6. 法律のひろば 2015年6月号

特集法と判例からみる消費者問題のいま 高齢者の消費者被害と民事訴訟 は、単にあるかないかではなく、当該行売買契約の内容及び効果を認識する意思は如何なものか、と首を傾げたくなる場 為との関係を意識してその有無について能力を欠いていたと認めるのが相当であ合が多い。このような事案については、 主張することになる。 る。」として、売買契約を無効としてい 「適合性原則違反」を検討すべきである。 る。 適合性原則は、「高齢者や若者など消 契約内容の不合理性からの判断 また、東京地裁平成幻年川月四日判決費者の特性 ( 知識、経験及び財産の状況 意思能力の有無は、「問題となる個々 ( 〔一財〕不動産適正取引推等 ) に応じた勧誘を行わなければならな の法律行為ごとにその難易、重大性など進機構の機関紙 ) 四号 102 頁の事案 ) いという原則」と定義されている ( 注 8 ) も考慮して、行為の結果を正しく認識ででは、アルッハイマー型認知症に罹患しまた、適合性原則には、「狭義の適合 きていたかどうかということを中心に判ており、本件不動産の売却に伴って自己原則 , ( ある特定の利用者に対しては、 断されるべきもの」 ( 前掲平成年東京が住居を失い、代わりの居住先が必要に いかに説明を尽くしても一定の商品の 地裁判決 ) であるから、当該高齢者からなるという極めて容易に予想できる問題売・勧誘を行ってはならないとのル みて合理性のない契約を締結した事実点にすら思い至らないほど、既にその症ル ) と「広義の適合性原則」 ( 業者がー は、意思能力の有無や程度に疑義を生じ状が相当程度進行していて、自己の財産用者の知識・経験・財産力・投資目的 る事情になる。 の処分や管理を適切に行うに足りる判断に適合した形で販売・勧誘を行わなけ 例えば、東京地裁平成年月日判 能力を欠くに至っていたものと認めるのばならないとのルール ) とがあるとさ 決 ( 判時 2044 号頁 ) は、 S 歳の高が相当であるなどと判示し、売買契約をている ( 注 9 ) 。 齢者 ( 売主 ) が所有不動産について著し無効としている。 く不利な条件で締結した売買契約につ このように、契約の結果が高齢者に著 根拠法令 き、契約を締結したことはなく、売却代しく不合理な場合には、遡って、合理的適合性原則は、投資取引分野でよく 金も受け取っていない、仮に受け取ってな判断能力が欠けていた、すなわち意思られており、金融商品取引法は「金融 いたとしても、契約当時意思能力を欠い無能力であったと主張することになる。 品取引行為について、顧客の知識、経験、 ていたから売買契約は無効であると主張 財産の状況及び金融商品取引契約を締 した事案について、「本件売買契約は原 する目的に照らして不適当と認められ 4 判断力の低下と適合性原則 告にとって著しく不利な内容のものであ 勧誘を行って、投資者の保護に欠ける一 適合性原則と高齢者 り、原告がこれを締結したことは合理的 ととなっており、又は欠けることとな 判断力を有する者の行動としては理解し 高齢者が意思無能力といえない場合でおそれ」がないように業務を行わなけ 難い」とし、「本件売買契約当時、本件も、当該高齢者にこの契約を勧誘するのばならないとしている ( 同法条 ) 。 33 ・法律のひろば 2015.6

7. 法律のひろば 2015年6月号

例集未登載 ) 公序良俗と社会的相当性 つばら原告の利益を図る目的で、被告の 一般条項による場合には、何が「公の不動産業者である原告 ( 買主 ) が、ハ 周囲を取引関係者で囲んだ状態で、本件 秩序」であり、「善良な風俗ーであるの歳の被告 ( 売主 ) が売買契約を履行しな売買契約の内容をほとんど説明すること ろ か、どのような事情があれば社会的相当い として、契約を解除し、違約金等の支なく締結したものであることなどから、 ひ の 性を逸脱しているのか、その有無や程度払いを求めた事案。裁判所は、売買契約公序良俗違反を認定している。 律 法 が問題とされる。 等が成立したと認めることができ、被告②大阪高裁平成幻年 8 月日判決 ( 判 その判断においては、これまで述べてが意思能力を喪失していたと認めること 時 2073 号頁 ) きたところから、適合性原則は、消費者はできないが、被告は高齢の独身者であ売り主が、買い主に対し、土地売買契 法の分野において公序の一つであると考ってその意思能力にも不安があることを約を意思無能力ないし公序良俗違反によ えるべきであり、その違反は、契約の無知りながら、もつばら原告の利益を図るり無効であると主張した事案。 効や不法行為責任の根拠となる。また、 目的で、売買契約等を締結したものであ裁判所は、売り主は本件土地売買契約 当該高齢者に生じた結果の当該高齢者へることから、公序良俗に反し違反とし当時、認知症と妹の死をきっかけとする 、」 0 の適合性の有無や適合性からの乖離の程 長期間の不安状態のために事理弁識能力 が著しく低下しており、かっ、受容的な 度は、社会的相当性を判断する重要な要裁判所は、被告の意思能力について、 素の一つになると考えられる 売買契約当時においては、認知症に通常態度をとり他人から言われるがままに、 また、結果のみならず、事業者が高齢伴うことが多い人格障害もみられず、行自己に有利不利を問わず、迎合的に行動 者を勧誘するに際して、適合性に配慮し動異常についても端的に徘徊と認定できする傾向があり、周囲から孤立しがちな たか否かは、事業者に対する社会的非難る状態にまで至っていないから、知能、生活状況の中で、人から親切にされ、迎 の程度、言い換えれば、違法性の程度に記憶力、理解力を著しく低下させていた合的な対応をする状態にあったこと、買 とまでは認められないとして、判断能力い主はこれらを知悉して十分に利用しな 影響を及ばすというべきであろう。 がら、売り主を本件売買締結に誘い込ん を欠く状態に至っていたとまでは認めな とした。 だこと、買い主は、売り主がそのような 裁判例 以下の裁判例よ、、 ( しずれも、高齢の認 他方、裁判所は、被告が内装費にあて事理弁識能力に限界がある状態であった ことを、本件売買契約が行われた際の風 知症患者に意思能力の欠如が認められなるための融資を受けていたという弱い立 い場合でも、公序良俗違反により、不動場におかれていたこと、及び被告が高齢体、様子から目の前で確認して認識して 産取引を無効としたものである。 の独身者であって、その意思能力にも不いたことを、推認することができる、と ①東京地裁平成四年 4 月日判決 ( 判安があったことを事前に知りながら、もした。

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特集法と判例からみる消費者問題のいま 高齢者の消費者被害と民事訴訟 心理学的セ 1 ルス手法を用いている 約をしないように情報を提供すべきと換気扇取付工事を勧誘している業者が、 し、その違反が違法となることを明らか年金生活でお金がないからと言って断っ このような消費者被害に対し、民事効 にしている。なお、金融商品販売法では、 ている消費者に対し執拗に勧誘をするなを定める法律要件がピッタシ当てはまら 平成年の改正より金融商品販売業等のど顧客の財産状況に照らして不適当と認 ない場合が多い。したがって、このよう 説明義務として「顧客の知識、経験、財められる勧誘を行っていたなどとして、 な取引の効力を否定し、消費者を保護す 産の状況及び当該金融商品の販売に係る業務停止命令 ( 3 か月 ) ( 注が出されるには、一般条項による解決を図ること となる。 契約を締結する目的に照らして、当該顧ている。 客に理解されるために必要な方法及び程 このように、特定商取引法は、高齢者 一つは、公序良俗違反・暴利行為 ( 民 度によるものでなければならない」 ( 同などの判断力の不十分さにつけ込む勧誘法 S 条 ) の活用、もう一つは不法行為を 法 3 条 2 項 ) が追加された。 行為を行政処分に付しており、そのよう理由とする被害回復である。不法行為に このように、適合性原則は、業者に対な勧誘行為が違法であることを明らかに よれば、契約相手だけではなく、勧誘者 している。 し、説明義務を認める根拠となってい や会社の場合には役員を相手とするこ る。 で、現実的な被害回復の可能性が高 り、また、弁護士費用やケ 1 スによっ 5 判断力不足などに乗じた契約と 適合性原則と消費者契約 は慰謝料も請求できる。不法行為の場ム 公序良俗違反などによる救済 前述のように、消費者法分野にも、適 には、過失相殺される可能性もあるが、 はじめに 合性原則が妥当するというべきである オールオアナッシングの解決ではなく、 ( 注リ。特定商取引法は、適合性原則違 やや判断力や経験が不足した高齢者を融通の利いた解決を得られやすい。 反を指示対象行為として禁止し、違反行相手に、詐欺や脅迫とまではいえない このような場合、諸外国では、「状、、 為に対し、行政処分を課している。 が、誤認を惹起するような紛らわしい勧の濫用の法理 ( 注 ) 」や、英米法系諸 では「非良心的法理 ( 注リ」「不当威 例えば、①既に廃業し、年金生活者と誘、あるいは強引な勧誘行為によって、 なっている消費者に対し、ビジネス用電暴利行為とまではいえないが、不要不急の法理 ( 注リ」、ヨ 1 ロッパ契約法原員 話機のリース契約締結の勧誘をしていたの商品を、不相当な対価で売りつけるよでは、「過大な利益又は不公正なっけ込 業者に対し、当該消費者の知識や経験に うな取引が多くある。過量販売でも「著み ( 注四 ) 」による契約の取消しを認めて引 の いる。示唆に富む考え方である ( 注。 照らして不適当と認められる勧誘を行っしく過量」とまではいえない場合も、同 律 法 ていたなどとして、業務停止命令 ( 3 か様である。これらの契約を締結するため 月 ) ( 注、②シロアリ防除工事、床下に、業者は行動心理学で解明されている

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特集法と判例からみる消費者問題のいま 消費者安全法改正の概要 内閣府令で定める基準では、①消費者的な方法として、改正法は、広域連携に者安全確保地域協議会 ( 以下「協議会」 の権利の尊重及び自立の支援に資するよ当たっての市町村間の調整 ( 法 8 条 3 という。 ) を組織することができる。協 う、受託事務を公正かつ中立に実施でき項 ) と指定消費生活相談員 ( 法川条の 4 ) 議会を組織する国及び地方公共団体の機 るものであって、特定非営利活動法人又の二つの規定を新たに設けた。 関は、病院、教育機関、後述する消費 は一般社団法人若しくは一般財団法人そ 活協力団体又は消費生活協力員その他 の他都道府県知事 ( 市町村長 ) が適当と 関係者を構成員として加えることができ 5 地域体制の構築 認めた者、②委託を受ける事務を円滑か る ( 法Ⅱ条の 3 ) 。 つ効果的に実施するために、関係機関と 地域体制を構築する必要性 地方消費者行政ガイドラインでは、構 の連携体制を確保、③委託を受ける事務改正法では、「消費生活相談体制の充成員の例として、地域包括支援セン を的確に実施するに足りる知識及び技実・強化」とともに、消費者被害の防止 、民生委員・児童委員、警察、弁護士、 術、④委託を受けた事務を統括管理するに向けた地域社会全体での取組を進める商店街・コンビニエンスストア等の事 者を配置することを、委託する場合の要ことも柱の一つとしている 者等を示している。 件としている ( 規則 7 条 ) 。 高齢者等の深刻化する消費者被害に対②協議会の活動 さらに、改正消費者安全法の施行に係応するためには、被害に遭った高齢者等協議会は、必要な情報を交換すると る地方消費者行政ガイドラインにおい が消 費生活相談を利用したときに適切に もに、消費者安全の確保のための取組 , て、委託の際の基準及び留意点等を定め対応するだけでは、必ずしも十分とはい 関する協議を行い、 協議会の構成員は、 えなし彳 、。一丁政を含む地域が一体となって協議の結果に基づき、消費生活上特に 地域体制を構築し、高齢者等の消費者被慮を要する消費者と適当な接触を保ち、 害に遭いやすい人を見守るなどの取組をその状況を見守ることその他の必要な 4 都道府県の役割の明確化 行うことで、消費者被害の予防・救済を組を行う ( 法Ⅱ条の 4 第 1 項、 2 項 ) 。 改正前の消費者安全法では、都道府県図ることが重要である。 協議会の庶務は、協議会を構成する の事務として「市町村に対する技術的援 方公共団体において処理する ( 法Ⅱ条 助」を定めていたが、改正法は「市町村 消費者安全確保地域協議会 4 第 4 項 ) 。改正法に定めるもののほか、 に対する必要な助言、協力、情報の提供①協議会の設置・構成員 協議会の組織及び運営に関し必要な事 その他の援助 , と改めることで、援助の 国及び地方公共団体の機関は、当該地は、協議会が定める ( 法Ⅱ条の 6 ) 。 具体的な内容を定めた ( 法 8 条 1 項 1 方公共団体の区域における消費者安全の③情報の保護と活用 号 ) 。 確保のための取組を効果的かっ円滑に行協議会は、必要があると認めると 都道府県の市町村に対する援助の具体うため、関係機関により構成される消費は、協議会の構成員に対し、消費生活 19 ・法律のひろば 2015.6

10. 法律のひろば 2015年6月号

弱者を狙った悪質商法などによる消費者炻 消費者安全法改正の概要 一の被害は後を絶たない。また、認知症等高 齢者の消費者被害に関する相談が平成 年度に初めて 1 万件を超え過去最高とな引 るなど、今後更なる取組が求められる課の 律 法 消費者庁消費者教育・地方協力課題もある。 消費者庁としては、「どこに住んでい ても質の高い相談・救済を受けられる地 2 消費生活相談体制の充実・強化 一消費者安全法の改正の背景 域体制」を整備するため、平成年 1 月 に「地方消費者行政強化作戦」を定め、 消費者の安全・安心を確保するために 改正に至る背景 は、消費者にとって身近な地方公共団体地方消費者行政への支援を行うなどの取 地方公共団体における消費者行政の充における消費生活相談体制の整備を図る組を進めてきた。 実・強化は、消費者庁設立以来の課題でことが不可欠である。 あり、いわゆる消費者庁関連三法の国会 消費者庁の設立後、地方消費者行政の 3 改正法の検討経緯 審議の際には、消費者庁及び消費者委員体制整備は着実に進展し、平成年まで の 5 年間で消費生活センタ 1 が 262 か 地方公共団体における消費者政策のう 会設置法附則 4 項において、「政府は、 消費者庁関連三法の施行後 3 年以内に、 所増加、消費生活相談員が 5 4 5 人増員ち、消費生活相談等に関する体制整備に 消費生活センタ 1 ( 消費者安全法第間条され、それぞれ 763 か所、 3345 人っいては、消費者庁において、「消費生 となった。イ 第 3 項に規定する消費生活センターをい 也方で、小規模市町村を中心活相談員資格の法的位置付けの明確化等 に関する検討会」を設置して検討を行 う。 ) の法制上の位置付け並びにその適に、消費生活相談員の配置等をはじめと 平成年 8 月に報告書を取りまとめ 正な配置及び人員の確保、消費生活相談して相談体制の実質的な強化には課題が 員の待遇の改善その他の地方公共団体のある。 また、消費者被害の悪質化・巧妙化を 消費者政策の実施に対し国が行う支援の 全国の消費生活センタ 1 等の相談窓口 在り方について所要の法改正を含む全般に寄せられる消費生活相談の状況をみる背景に、消費生活相談体制のみならず、 的な検討を加え、必要な措置を講ずるもと、平成幻年度の約囲万件から、平成地域の関係機関等との連携による見守り 年度までは減少し続けていたものの、平ネットワークの構築を含めて、消費者被 のとする」とされていた。 害の防止に向けた地域社会全体の在り方 成年度には約万件に再び増加してい る。特に、高齢者や障害者などの社会的を検討するため、「消費者の安全・安心