との連携をこれまで以上に緊密にしつ つ、課題の解決に向けて全力で取り組ん でまいりたい。 ( 注 ) ( 1 ) 両法律の内容については、本誌平成年Ⅱ月号に ( 2 ) 公布の日から起算して 3 年を超えない範囲内にお いて政令で定める日 ( 3 ) 保護統計年報 ( 平成年 ) による。 ( 4 ) 平成年版犯罪白書による。以下において、特に 記載がない限り、用いる統計数値は同白書による。 ( 5 ) いわゆる薬物事犯者のうち、現状において圧倒的 多数を占めるのは覚せい剤事犯者であることから、薬 物事犯者の概況を述べるに当たっては、主として覚せ い剤事犯者に係る統計を用いる。 ( 6 ) 本稿においては、医学的な診断基準を満たす者に 限定せず、薬物の乱用を繰り返している者と同様の意 味で用いる。 ( 7 ) 例えば薬物を購入する資金欲しさに窃盗に及んだ 者や、薬物使用の状態で傷害や道路交通法違反に及ん だ者など ( 8 ) 本誌「川越少年刑務所における特別改善指導 ( 薬 物依存離脱指導 ) の実施状況」 ( 頁 ) 参照。 ( 9 ) 同対策においては、再犯防止対策の数値目標が掲 げられ、刑務所や少年院を出所又は出院した後の 2 年 以内再入率を平成芻年までに 2 割以上減少させる ( 刑 務所出所者については間 % 以下、少年院出院者につい ては 8 ・ 8 % 以下の再入率とする。 ) こととされた。 詳しい これに関し、平成幻年に刑務所を出所した者の 2 年以 物依存症者に対する専門的な認知行動療法の実施体制 6 内再入率を見ると、覚せい剤事犯者は幻・ 4 % と目標 の整備を図っている。 8 値を大きく上回っており、これを引き下げられるか否 ( ) 薬物地域支援研究会提言においてもその必要性に かが目標達成を左右するカギになると思われる。 ついて言及されているが、犯罪対策閣僚会議の下に設ば ろ けられた「福祉・医療的支援タスクフォ 1 ス」が平成ひ ( 四同提言の概要及び全文については、法務省ホーム 年 2 月に取りまとめた「刑務所出所者等に対する福律 ページに掲載している (http ://www.moj.g0jミh0g01 祉・医療的支援の充実・強化等について」において /soumu 、 h0g002 ー 00052. htl 三 ) 。 ( Ⅱ ) 薬物依存の基礎知識に関する解説を行ったり、薬 も、法務省と厚生労働省が連名でガイドラインを定め 物依存のある家族との接し方について相談に応じた て関係機関に周知することが今後の方針として明記さ り、同じ立場にある家族同士が悩みを共有したりする れた (http ://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/ ことを目的として、全国の保護観察所において年に数 h 一 Sh004 ー 0805. h ョ】 I) 。 回開催されている。 ( リ大麻、有機溶剤、麻薬、覚せい剤、あへん及びけ ( リ薬物依存当事者が行うグループミ 1 ティング等に しがらを指す。 おいて、自らの体験を述べたり他者の体験を聴いたり ( 四 ) 薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執 すること等を通じて、自分の問題性への理解を深め、 行猶予に関する法律案の提案理由説明に係る国会議事 生活習慣を改善する方法等を習得する取組 録からの抜粋「 : : : また、薬物使用等の罪を犯す者に ( ) 「などの「薬物依存症に対する認知行 は、一般に、薬物への親和性が高く、薬物事犯の常習 性を有する者が多いと考えられるところ、これらの者 動療法プログラム』の国内実施状況」 http://www. の再犯を防ぐためには、刑事施設内において処遇を行 mhlw. go. 、 stf/ seisakunitsuite / bunya / 000870789. html うだけでなく、これに引き続き、薬物の誘惑のあり得 ( リ薬物依存症を治療する ( 薬物に対する渇望を低減 る社会内においても十分な期間その処遇の効果を維持 強化する処遇を実施することがとりわけ有用であると させる ) 薬剤は未だ実用段階にないことから、薬物依 考えられます。そこで、 ( 中略 ) その猶予の期間中必 存症に対する治療の主な方法としては、認知行動療法 によるものが想定されている。 要的に保護観察に付することとし、施設内処遇と社会 ( 西医療観察法病棟においてのみ実施している医療機 内処遇との連携によって再犯防止及び改善更生を促そ 関を除く。 うとするものであります。」 ( 間 ) なお、厚生労働省においては、平成年度におい ( おしきり・ひさとお / て「依存症者に対する治療・回復プログラムの普及促 あかぎ・ひろたか ) 進事業」を実施し、神保健福祉センターにおける薬
特集危険ドラッグの規制と薬物事犯者への処遇・支援 更生保護における薬物事犯者施策の概要 約 310 0 人となっている ( 注 4 ) 。保護 / 観察付執行猶予者と仮釈放者では、前記 の保護観察期間のほか、薬物依存に係る 問題の根深さや、刑務所出所者であるか 否かという点で大きな違いがある。以下 においては、薬物依存の問題がより根深 法務省保護局観察課処遇企画官押切久一迅 いと考えられる刑務所出所者の状況をベ 同課係長赤木寛隆 ースに、薬物事犯者の概況を述べること としたい ( 注 5 ) 。 について述べることとしたい。ただし、 一はじめに 刑務所を出所する者は、平成幻年で約 本稿中意見にわたる部分は私見であるこ 3 万人であり、そのうち約 2 割 ( 約 65 刑法等の一部を改正する法律 ( 平成とを申し添える。 00 人 ) が覚せい剤事犯者である。覚せ 年法律第的号 ) 及び薬物使用等の罪を犯 い剤事犯の出所者が全て薬物依存者であ した者に対する刑の一部の執行猶予に関 一一薬物事犯者の概況 るとは限らないが、その多くは薬物使用 する法律 ( 平成年法律第浦号 ) が、平 を多数回にわたって繰り返しており、か 成年 6 月に公布された。両法律は、従保護観察の実施対象は、少年を除き、 来、実刑か全部執行猶予かの一一者択一で保護観察付執行猶予者と仮釈放者に一一分っ複数回検挙されている者であって、程 あった自由刑に新たな選択肢 ( 刑の一部される。新たに保護観察となる覚せい剤度の差こそあれ、薬物に依存している状 の執行猶予 ) を創設するものであり、特事犯者について見ると、保護観察付執行態 ( 注 6 ) にあると考えられる。つまり、 に後者の法律は、薬物事犯者の再犯防止猶予者は年間約 4005500 人程度、覚せい剤事犯の者に限っても、年間約 6 を推進するための特別法として新たに制仮釈放者は年間 4000 人程度である 500 人の薬物依存者が刑務所を出所し 定されたものである ( 注 1 ) 。 ( 注 3 ) 。また、保護観察付執行猶予者のていることとなり、それに加えて、覚せ 法務省保護局においては、両法律の施保護観察期間はおおむね 355 年であい剤以外の薬物犯罪で受刑した者や、薬 行 ( 注 2 ) を見据え、特に薬物事犯者へのり、仮釈放者の保護観察期間 ( Ⅱ仮釈放物犯罪以外の罪名により受刑した薬物依 指導・支援の充実強化に努めている。本期間 ) はおおむね 1 年未満であって、そ存者 ( 注 7 ) などが一定数存在することを 稿においては、薬物事犯者の概況に触れれぞれの保護観察期間が大きく異なるた鑑みると、刑務所を出所する薬物依存者ろ の た後、その処遇に関する近年の政府方針め、一時点で見たときの覚せい剤事犯者は更に多いと考えられる。 律 もちろん、刑務所に入所した時点で薬法 等について紹介し、さらに、保護観察所は、保護観察付執行猶予者が約 1500 人、合わせて物依存の状態だったとしても、刑務所の四 における処遇の現状と課題、今後の展望人、仮釈放者が約 1600 更生保護における 薬物事犯者施策の概要
中で薬物依存離脱指導等 ( 注 8 ) を受け、入所率が約 % であるのに対し、満期釈事施設内に引き続き、社会内において適 薬物使用を止める意欲の喚起や止める方放者については、これが約 2 倍の約四 % 切な指導・支援を行うことが重要である旧 法の習得等が図られるため、入所した時である。しかし、 5 年以内という長期的ことはもちろんだが、その指導・支援 点と出所した時点とでは薬物依存の状態なスパンで見ると、仮釈放により出所しは、長期的・継続的に実施されなけれ ろ は異なる。しかし、多くの薬物依存症治た覚せい剤事犯者についても、その約れば、単に再使用 ( 再犯 ) を少し先延ばし したにすぎないものとなってしまう可能法 療の専門家が述べるように、薬物依存か % が再入所しているという状況にある。 らの回復に完治はなく、回復に向けた取これらのデータは、薬物事犯者は他の性がある。 組の継続こそが必要なものである。つま者よりも再犯率が高いこと、また、仮釈 り、施設内で適切な指導を受けたとして放による出所の直後、すなわち保護観察 三薬物事犯者に対する社会内 も、薬物依存者が出所の時点において薬中は再犯が少ないものの、保護観察が終 処遇に関する近年の政府方針 物依存者でなくなるわけではなく、施設了した後には相当数の者が再犯に及んで 等 いることを示唆している。すなわち、刑 内に引き続き、社会内でも適切な指導・ 薬物事犯者に対する社会内処遇に関す 支援をいかに継続できるかが、薬物の再 る近年の政府方針や有識者の提言等は、 使用 ( 再犯 ) を防ぐ上で極めて重要なの 表 1 のとおりである である。 このうち、再犯防止に向けた総合対策 では現状、薬物事犯者の予後はどのよ ( 平成年 7 月犯罪対策閣僚会議決定 ) うになっているのか。覚せい剤事犯によ は、その後の更生保護における薬物事犯 り受刑した者について見ると、平成幻年率 所 者施策の方向性を端的に示したものなの に出所した者約 6500 人のうち、約 5 入 再 で、ここで抜粋する ( 注 9 ) 。 % の者が 5 年以内に再び刑務所に入所し ている。一方、同年に出所した覚せい剤 の 内 薬物依存の問題を抱える者に対して 事犯以外の者約 2 万 4000 人のうち、 以 年 は、個々の再犯リスクを適切に把握した 5 年以内に刑務所に再入所しているのは 上で、そのリスクに応じた専門的指導プ 約 % であって、覚せい剤事犯者は、そむ を ログラムや薬物依存症の治療のための医 うでない者と比較して約 % 再入所率が 年 当 療と、帰住先・就労先の確保のための支 高い。また、覚せい剤事犯者の中でも、 援とを一体として実施するとともに、保 仮釈放により出所した者については、出 護観察所、医療・保健・福祉機関、民間 所直後 ( 出所した年又はその翌年 ) の再図 50 % 40 % 30 % 20 % 37 % ◆覚せい剤事犯者の再入率 ◆覚せい剤事犯者以外の再入率 10% 0 % 出所年 2 年 3 年 4 年 5 年 ( 平成 26 年版犯罪白書を基に作成 )
特集危険ドラッグの規制と薬物事犯者への処遇・支援 更生保護における薬物事犯者施策の概要 ている 支援団体等との連携によって、刑務所等 略 等 策 収容中から出所等後まで一貫した支援が 年 強 行える態勢を強化する。 の ー」カ 面 四保護観察所における処遇の 特に、覚せい剤事犯者にとって再使用 当 現状と課題 る の危険性が最も高いとされる刑務所等か 針合防 チ合の す 方総用 関グ申援 らの出所等後間もない時期については、 薬物事犯者に対する処遇は、一一般的な 府たし」 ンス支 年ロ・略 政け 密度の高い指導及び支援を実施した上、 保護観察に共通するものと薬物事犯者に 療 の向薬支 ワフ 引き続き医療機関、薬物依存症に係る自 特化したものとに分けることができる 最 / 創の 策ク 助団体等と緊密に連携しつつ薬物依存に が、さらに、薬物事犯者に特化したもの す助第者女ス止 止タ畠 日〉灯 対する継続的・長期的な指導・支援の充 は、直接的なものと間接的なものとに分 尸防援ネ に再定 る 遇 す 実を図る。 決言朏犯支 けることができる。ここでは、薬物事犯 処定議安提再的寸 内決会 また、その家族等に対し、薬物依存者 者に特化した直接的な処遇として専門的 会議進究州議医 ' 等 への対応等に関する理解を深めさせ、適 処遇プログラムや保護観察対象者の自発 会推研会・ 者 る僚策『援の僚祉万 切な対応力を付与するとともに、当該家 的意志に基づく簡易薬物検出検査を、間 【ー支閣佃一戸 対 策用定域策 / 族等を疲弊、孤立させないための取組を 接的な処遇として保護観察所と地域の関 対乱決地依対会所て 犯罪物議物 = 罪事 実施する。 係機関・団体との様々な連携施策を、そ 犯薬閣薬「犯幹硎 6 事 物 さらに、対象者の薬物依存に係る治 れぞれ紹介し、そこから見えてくる今後 7 ′ 8 1 療、回復段階を見据えつつ、その就労能 4- LO ) ( 0 の課題について述べることとしたい。ま っつなっ」ワ」 表 力や適性を評価し、その時々に応じた就 た、保護観察所における危険ドラッグへ 労支援等を実施する。 の対応についても触れたい。 物地域支援研究会 ) を定期的に開催し、 特に、保護観察所と地域の医療・保連携強化方策に関する検討を行ってき 専門的処遇プログラム及び保護 健・福祉機関、民間支援団体等との連携た。その検討結果が、平成年 9 月に取 観察対象者の自発的意志に基づく 強化は、その後の政府方針等においても りまとめられた薬物地域支援研究会提言 簡易薬物検出検査の実施 ろ 一貫して強調されている。この点に関「薬物依存のある刑務所出所者等の支援 ひ の 専門的処遇プログラム し、法務省保護局においては、平成年に関する当面の対策ーである ( 注四。現 律 度から、精神科医、学識経験者、民間支在、法務省保護局では、同提言の実現に保護観察所においては、平成跚年度か法 援団体役員等を構成員とする研究会 ( 薬向けた取組を関係省庁と連携しつつ進めら、覚せい剤の自己使用の罪を犯した者引
特集危険ドラッグの規制と薬物事犯者への処遇・支援 川越少年刑務所における特別改善指導 ( 薬物依存離脱指導 ) の実施状況 遇になじまず、個別処遇を行っている者 とする。 療法 ( セルフモニタリング、リラブス・ 指導単元数は原則として肥単元とす等 ) や薬物依存離脱指導の受講機会を逸 プリべンション ) を基本とした心理教育 しており出所が近い者等を対象者として る。ただし、その必要性に応じた延長・ により、出所後、薬物を使用しない生き 指導を行っているものである。この指導 短縮を妨げない。 方を考える、④民間自助グループのミー で使用しているテキストとワークプック ティングを取り入れ、これらの社会資源 【指導の記録】 指導担当者は、実施の都度、指導記録は、外部の研究機関が作成したものであ につなげる、などの目標を掲げ、指導し り、同機関と「共同研究協定書」を交わ 票に指導状況を記載の上、決裁を受ける ている。 こととしている して使用させていただいている。すなわ 【指導方法】 ち、特別改善指導 ( 薬物依存離脱指導 ) 当所職員による川名以内の小集団の なお、受講者の反応であるが、「こののアセスメントの実施及び分析に係る研 グル 1 プワーク及び民間自助グル 1 プ こよるミ 1 ティングを主な内 3 か月で、今まで気付けなかった部分に究を国立精神・神経医療研究センタ 1 精 メンハー。 容とする。 対し、たくさんの発見ができた」「ど、つ神保健研究所所属松本俊彦氏と共同で行 うことで、当所と同研究所との間で協定 したら薬物の再使用につながらないか 受講日誌の記載 が、よく理解できた。ここで受けた教育書を締結している。個人的な見解ではあ 指導場所 教育部所管の教室、調査センター棟教を社会生活にいかしたい、等の前向きなるが、今後、この薬物依存離脱指導に係 る個別型指導を要する対象者について 反応が多く見られている 室等 は、受刑者の質的変遷に応じ更なる改良 【指導担当者】 が求められる現状にある。上級官庁主導 指導の種類等 教育部に所属する職員 従前からの実践プログラムに加え、平でより実践的かっ標準的なテキストを開 分類審議室、医務部に所属する職員 薬物依存からの回復を実践する民間成年肥月 6 日付けで発出された法務省発することが急務であろう。 矯正局成人矯正課長通知「薬物依存離脱 自助グループメンバー 臨床心理士、薬物依存に関する研究指導に係る薬物依存回復プログラムの試 3 その他 ( 実施上の補足 ) 行について」により、当所は同プログラ 者等の専門性を有する民間協力者等の 薬物依存離脱指導では、認知行動療法 ゲストスピーカー ムの実施施設となった。さらに、平成 年 3 月から、薬物依存離脱指導の一指導等の心理用語が数多く登場する。 その他施設長の指名する者 形態として、テキストとワークプックを 【指導期間等】 法務省が平成年 4 月に「性犯罪処遇 の 用いた自習プログラム ( 個別指導 ) 委員会」を発足させたが、性犯罪者処遇 指導の単位時間は分とする 律 プログラムの開発に当たりその中核とな法 1 週間の標準的な指導時間数は 1 単を実施しているところ、これは、グルー 元とし、指導期間は 3 か月程度を目安プによる指導が実施不可能な者 ( 集団処ったのが認知行動療法であった経緯があ
特集危険ドラッグの規制と薬物事犯者への処遇・支援 保護観察所における薬物事犯者処遇の新たな取組 参考になれば幸いである。また、あわせ 保護観察所における て、筆者が以前に勤務した札幌保護観察 む所で行われている薬物事犯者の家族に対 する支援の取組についても触れたい。 薬物事犯者処遇の新たな取組 ~ なお、本稿中、意見にわたる部分は私 ー旭川からの報告 旭川保護観察所所長横地環見である。 だけでは完結しない。そこで、保護観察 ニ道北リカバリーセミナー 一はじめに 終了後に薬物事犯者本人が地域資源を用 P01 B ears いて回復を維持できるように、保護観察 北海道には札幌、函館、旭川、釧路の 4 か所に保護観察所があり、人口密度は期間をいわば過渡期とみなし、刑事司法 セミナーの誕生 における処遇の受け手から、地域の社会 低いが広大な地域をそれぞれ管轄してい る。旭川保護観察所は、旭川市周辺とそ資源を能動的に活用する利用者へと変わ道北地区にも薬物依存症者が通所でき れ以北の全域を受け持つが、道北と呼ばれるように方向づけ、支援していくことる社会資源が必要だという認識は、保護 観察関係者のみならず、薬物依存症者と れるこの地域の面積は東京都の川倍を超が求められている。 このように、保護観察における薬物事関わってきた地域の医療・保健・福祉関 える。一方で、人口は練馬区と同じくら いである。晴れた夏の日、どこまでも青犯者処遇で地域移行を目指す必要性は明係者の間でも少しずつ高まってきていた。 ' の一部の執行猶予平成年、過去に違法薬物乱用による い空に広々とした緑の大地が続く光景らかであり、また、刑 は、人で溢れる都会から見ると夢のよ、つ制度の導入を控え、薬物事犯者処遇の態精神科入院歴を持っ医療観察対象者が、 な別世界だが、犯罪や非行はここでも起勢整備については全国的に喫緊の課題と指定入院医療機関から旭川保護観察所管 なっているが、当地でその実現を考えた内に退院する見込みとなり、退院後の通 こっている。違法薬物、そしてアルコー 院生活について事前調整を行った。この ル ( 寒くて酒が進む ? ) や危険ドラッグとき、いきなり大きな壁にぶつかった。 がらみの犯罪も例外ではない。 薬物依存症者が地域で生活しながら利用対象者が通所で利用できそうな薬物依存 刑の一部の執行猶予制度の導入が間近できるような社会資源が、広い道北地区症回復支援のための地域資源がないと判 明したことが、それなら地元の関係者の に一つも見当たらなかったのだ。 となり、薬物事犯者に対する保護観察処 遇の充実は全国共通の課題である。依存本稿では、この壁を乗り越えるために手でこれを作ろうという機運につなが の 症からの回復には、慢性疾患への対応と旭川保護観察所がどのように工夫し、薬り、また、 SMARPP ( 注 ) の実施につい 律 同様、生涯にわたる自己管理が必要であ物事犯者処遇に取り組んでいるかを紹介て豊富な経験を持っ指定入院医療機関か法 り、定められた期間で終了する保護観察したい。同じような事情を抱える地域のらの支援を得るきっかけになった。
が安心を感じてしなければならない ( 工「どを実感させるよ、プにしてきた。 所においても薬物依存離脱指導に関する 一方で、平成 9 年の研究授業として「グ実践プログラムを策定し、スタートさせ 場における″カ″関係がグループに持ち ループワーク方式による覚せい剤教育」 、込まれれば、安心して発言することはで きないし、さらには、秘密の保持が約東 ) と題して研究授業を行った際には、活発 ろ ひ な議論を期待したものの、かなり低調で されていなければ、グル 1 プでの発言に の 律 あった。そのエピソードとして、帰りの 薬物依存離脱指導の受講対象者につい よって日常の工場生活に影響を与えかね 法 ては、薬物依存離脱指導の指導対象者と ハスの中で、参加者から、「これで、効 ない。また、処遇現場の担当者との信頼・ してアセスメントの段階で処遇指標が付 果があれば」など、懐疑的な発言が出さ 協力関係を作ることにも留意している。 れたりしていたとのことであった。さら され、その結果、薬物依存離脱指導の受 メンバ 1 を選定する際に、作業をある程 講対象者に判定された者が指導対象者と に、別の研修会では、「覚せい剤教育を 度犠牲にしても、今、この被収容者に指 なっている。 やったら、シンナーの反則をやった。逆 導を行うことが必要であるのか、などに 効果だ」など、手間が掛かり複雑怪奇な 【指導目標】 ついて、工場担当と話合いをしたことも 薬物の害悪と依存性を正しく認識さ 印象のあったグループワークに対し、ア あった。その際、「受刑者に言いたいこ せる。 レルギーにも似た反応があったとのこと とを言わせたら、工場の悪口など、ある であった。 薬物依存に至った自らが抱える問題 ことないことが出て、不当な文句を言わ 性を理解させる れるじゃないか」とか、「一体何を話し 再び薬物を乱用しないための具体的 前記のような経過を経て、集団指導に ているんだ」といった疑問を担当が持っ な方法を考えさせる。 ことのないよう、こまめに現場の担当者おけるグループワークに対する評価は、 日頃から協力関係を築各矯正施設等の指導実績と経験の積み重その他 とも協議を行い、 薬物依存離脱指導に関する指導案にお くようにしている。その上で担当が、「教。ねとも相まって社会的にも一定の評価を いては、①覚せい剤に対する考え方、態 得ることとなった。今後とも、失敗を重 育に行って来い」、「自分のために正直に 話せよ」と言って気持ち良く教育に送りねつつ、当所で培った伝統を守りながら度、価値観の偏りを修正する、②薬物に 出してくれることも、メンバ 1 の安心感研さんを重ね、更なる質的向上 ( 支え合関する否認 ( 例えば、「自分はシャプ中 ではない」「止めようと思えばいつでも う土壌作り ) を目指したい。 を強化する要素である。さらに、「そん 止められる」「覚醒剤をコントロールで な話合いに参加したくない」といった指 きる」といった依存の否認や、「覚醒剤 導への抵抗を和らげるための配慮の一つ 薬物依存離脱指導の現状 なんか飯と同じですよ」「覚醒剤を使用 として、自分の正直な気持ちの発言が「尊 しても誰にも迷惑を掛けない」といった 指導内容等 重されている」ことや「グループ内にお 問題の否認 ) などを緩める、③認知行動 平成年 5 月日の法施行に伴い、当 ける自分自身の存在が確保されているこ「 【対象者】
る。いわば、性犯罪再犯防止指導のノウし 、ては類型化し提示することの方が望ま その他、米国精神医学会が発行する新鮖 ハウが先駆けとなり、薬物依存離脱指導しいと思われる。説明内容は以下のとおたな精神疾患の診断基準である「 においても同療法の理論を用いることでりである ( 注 2 ) 。 ー 5 」で用いられている日本語の病名表 飛躍的に発展してきた。特に、プログラ 記についても、新指針に基づいた用語表 ろ ひ ム受講者には心理用語を積極的に覚えて 【興奮作用】 現にするよう心掛けている。 の 律 もらい、仮釈放審査の面接の際などには 興奮作用中枢や末梢神経に作用し、心 法 覚えた知識や用語を積極的に活用して、 臓の動悸が激しくなったり、血圧が上昇 三まとめ したりして、気分が急激に高ぶるもの。 自分の成長を具体的に表現していくよう 助言している。それは、より専門的な指爽快感を得て疲労が減退し、意欲が高ま平成年 7 月跚日、犯罪対策閣僚会議 導を受けたといったプライドを根付かせ ったような気分になるが、実際の集中力において「再犯防止に向けた総合対策 るといった内面的サポ 1 ト効果はもとよ は落ち、判断力や作業能率が低下するこが決定され、数値目標として、刑務所及 り、社会生活において葛藤が生じた際に ともある。興奮作用をもたらす代表的なび少年院からの出所 ( 院 ) 後 2 年間にお も、更なる予防的措置が講じられるよう 薬物としては、覚醒剤やコカインが挙げける再入所 ( 院 ) する者の割合を今後川 にするための二重的意図が込められてい られ、通称「アッパー系」と呼ばれている。年て 2 ーセント以上減少させることが る。一例として、「慢性トリガ 1 」「急性【抑制作用】 掲げられた。 トリガー」「コ 1 ピング」「アディクショ 気分が落ち着き ( 鎮静効果 ) 、不安や 同総合対策の「薬物依存の問題を抱え ン」「物質依存ー「過程依存」「ギャンプ 悩みから解放されたような感覚、陶酔る者に対する指導及び支援ーの項目で ル依存 , 「関係依存」「共依存」「否認」「ア 感、多幸感が得られるもの。痛みを抑えは、以下のとおり規定されている る鎮痛効果が得られる場合もある。抑制 セスメント」「 トリ 1 トメント」「メンテ 「薬物依存の問題を抱える者に対して ナンス」「フォロ 1 アップ」等がある。 作用をもたらす代表的な薬物としては、 は、個々の再犯リスクを適切に把握した 次に、薬理作用についてである。余談 アヘン類 ( ヘロイン ) 、有機溶剤 ( トル上で、そのリスクに応じた専門的指導プ であるが、筆者がかって少年院で問題群 エン、シンナ 1 ) であり、通称「ダウナログラムや薬物依存症の治療のための医 ー系」と呼ばれている。 別指導の薬理作用について授業をしてい 療と、帰住先・就労先の確保のための支 た際、主にマウス等の常同行動に関する 援とを一体として実施するとともに、保 ビデオを提示しながら、その特異性につ 実際には存在しないものが見えたり音護観察所、医療・保健・福祉機関、民間 いて説明してきた。しかしながら、行動 が聞こえたりするなどの幻覚が生じるも支援団体等との連携によって、刑務所等 面に表れてくるのは個体差もあり、さら の。幻覚剤として代表的なものは収容中から出所等後まで一貫した支援が に薬物によって薬理作用が異なってくる で、知覚がゆがんだり、得られた陶酔感行える態勢を強化する に溺れたりする ことにも鑑みると、むしろ薬理作用につ 特に、覚せい剤事犯者にとって再使用 【幻覚作用】
特集危険ドラッグの規制と薬物事犯者への処遇・支援 保護観察所における薬物事犯者処遇の新たな取組 は生活環境の調整で家族に関わってい メンバーも場合によって数名が参加し見据えた回復支援の地域移行が重要であ る。 ) である。希望すれば何回でも参加 た。講師はリハビリ施設の施設長 ( ダルることを前に述べた。依存症者の家族に してよいことにしているため、繰り返しク、マック、サマリヤ館 ) 、先輩家族ととっても事情は同じで、保護観察中の家 参加する家族・保護司がおり、そのためしてのナラノンメンバ 1 、北海道地方更族支援は保護観察終了後につながる内容 第 1 回と第 2 回では外部協力者 ( 地元医生保護委員会の保護観察官が回り持ちでであることが望まれる。 療機関の精神科医、依存症からの回復当務め、毎回札幌保護観察所の保護観察官大規模学習会で知識を得れば、その後 事者、ナラノンメンバ 1 である家族 ) の ( 主に薬物施策担当者 ) が複数名参加しは自力で地域社会資源につながっていけ 顔ぶれを変えている。外部協力者に対している。 る家族がいる一方、小規模座談会という て参加者が直接質疑応答する時間も設け参加者は毎回変わり、少人数であるこ形で更に密度の濃い支援を受けてはじめ られている。参加者に対するアンケ 1 トとから当日の顔ぶれによって雰囲気も違て一歩を踏み出せる家族もいる。今後 は、家族を一様に扱うのではなく、その の結果はおおむね「参考になった」等のうが、お茶やお菓子をいただきながら、 好意見であった。 リラックスしてお互いの距離が近い感じ多様性にある程度対応できるような支援 会場後方に、薬物依存症者対象のリ で話ができるのは小規模座談会ならでは方策を発展させていくことが望ましいと 考えられる ビリ施設、自助グループ及び北海道立精の利点と思われた。 また、札幌保護観察所においては北海 予約不要の飛び込み参加形式なので、 神保健福祉センターのパンフレットが置 かれていて、関心を持った参加者に手に誰が来るのか予測できないが、家族が到道立精神保健福祉センタ 1 との間で依存 取ってもらえるよう工夫されている。 着した段階で、その薬物事犯者の保護観症者の家族支援について連携を強化しつ 察又は生活環境の調整を担当する保護観つあるとの情報を得た。社会資源をめぐ 薬物依存症家族教室 ( 小規模座談会 ) 察官 ( 以下「主任官」という。 ) に声をる事情は各地で異なるが、家族支援の地 会場を札幌保護観察所とし、平成年かけ、可能であれば主任官の参加も得て域移行を支えるためにも地元で利用でき る資源が重要であることは共通してい 6 月の第 1 回から翌年 1 月の第 6 回ま いこうとの工夫がなされつつある。 で、午後 1 時から囲分間、年度当初に日 この家族教室への参加をきっかけに、 る。「家族版の誕生」が待たれる地 程とその日に参加する外部講師を決めて後日、家族の自助グル 1 プにつながる者域も、あるかもしれない。 案内チラシを作成し、主に引受人学習会が出たと聞く。 ( 注 ) Serigaya Methamphetamine ReIapse Prevention に参加した引受人に対してチラシを発送 ろ Program ( せりがや覚せい剤依存症再発防止プログラ する方法で参加者を募った。匿名参加で ひ 3 家族支援の今後 ム ) 【せりがや病院で開発された、覚せい剤依存症再の 予約不要としており、第 1 回は家族参加 法 者はゼロだったが、 第 2 回以降は最低 1 依存症者にとって、回復は一生続く道発防止を目的とする、認知行動療法に基づく通所治 療プログラム。 名、最高 9 名の家族が参加し、ナラノン程であり、だからこそ保護観察終了後を ( よこち・たまき )
特集危険ドラッグの規制と薬物事犯者への処遇・支援 更生保護における薬物事犯者施策の概要 いう意識を強く持ち、社会資源のコーデ 等として迎える取組をこれまで以上に積 施設内処遇と社会内処遇との連 ィネーターとして、積極的に薬物事犯者 極的に行うほか、リ 廾の一部の執行猶予制 携を一層強化すること と社会資源をつなぐ努力をする必要があ 度の施行により、従来覚せい剤事犯者に 刑事施設り、そのためのスキルを高めるべく、保 のみ義務付けられてきたプログラムが規刑の一部の執行猶予制度は、」 制薬物全般 ( 注リの事犯者に拡大されるが担う施設内処遇と保護観察所が担う社護観察官を対象とした他機関への派遣研 こと、自己使用事案のみではなく単純所会内処遇が緊密に連携することを前提と修等を充実させたいと考えている また、保護観察官の意識・スキルの向 している ( 注じ。両者の連携については、 持事案にまで拡大されることを踏まえ、 平成年度中に先行的にプログラムの実一定の処遇情報を引き継ぐことや実務担上に加え、その人的体制の整備も重要な 当者による協議会を全国各地で定期的に課題であると考える。 施対象を拡大する予定である。 開催することなどにより強化を図ってき たところであるが、現在、引き継がれる 3 保護司による日常的な指導・助 六おわりに 処遇情報の充実をはじめとする、より緊 言の態勢を強化すること 密な連携の仕組みについて法務省矯正局従来、薬物依存者の回復支援について は、薬物依存当事者やその家族による自 薬物事犯者に対する日常的な指導・助と共に検討しているところである。 助的な支援や一握りの医療等関係者の孤 言や、その家族への助言等を担う保護司 軍奮闘に大きく負ってきた面がある。し が、その役割を適切に果たすことができ 5 保護観察官による社会資源のコ かしながら、薬物依存が一面では犯罪行 るよう、薬物依存に関する基本的知識や ーディネート機能を高めること 為であり、また一面では治療を要する疾 家族支援における留意事項などについて まとめた視聴覚教材を平成年 3 月に作薬物依存からの回復をサポ 1 トする社病であることを踏まえれば、個々の薬物 成し、保護司に対する研修等において積会資源が十分に充実できた場合であって事犯者の回復支援について、刑事司法機 極的に活用することとした。また、薬物も、保護観察官が薬物事犯者をそれらの関や医療・保健・福祉機関がそれぞれの 事犯者に対する処遇経験が少ない保護司社会資源につなぐ努力をしなければ、あ果たすべき役割をしつかりと認識し、実 を経験豊かな保護司がサポ 1 トするなるいはそのスキルがなければ、地域支援行することは非常に重要であり、このこ ど、複数の保護司が一緒に、あるいは役の実を上げることはできない。個々の保とは個々の薬物事犯者のためだけではな 割分担しつつ薬物事犯者に対する処遇を護観察官が、真の再犯 ( 再使用 ) 防止のく、社会の安全と発展にとって不可欠なろ の 行える態勢の充実強化を図ろうとしてい ためには、保護観察期間終了後も回復にものであると考える。 律 る。 刑の一部の執行猶予制度の施行まで残法 向けた取組を継続させること、そのため の支援体制を整えることが重要であるとすところあとわずかであるが、関係省庁