執行猶予 - みる会図書館


検索対象: 法律のひろば 2016年2月号
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1. 法律のひろば 2016年2月号

保護観察の実情と対象者像の検討 単独での出頭には不安があり、親族家族の正しい理解と協力の獲得などの多を実施することが困難である。また、過 が車で送迎してプログラムを実施した 様なアプロ 1 チを統合して実施すること去の保護観察中にプログラムを受講した が、プログラムで必要となる最低限度の が求められる。 が受講態度が不真面目であってその事情 コミュニケ 1 ションができないまま修了 薬物法ではこれらの点が考慮され、更の改善が認められない場合なども、保護 となり、数か月後、同種再犯により執行 ~ 生保護法にも保護観察の実施方法等につ観察によりその改善を図ることが難しい 猶予は取り消された。 いて特則が設けられている。第一に、薬と考えられる。 物法により刑の一部の執行猶予が言い渡 された場合は、原則として専門的処遇プニ事例 8 】覚せい剤後遺症の精神疾患の 三保護観察付一部執行猶予者 ログラムの受講が特別遵守事項で義務づ ためプログラムを実施できないケース】 ( 薬物事犯者 ) に対する処、 歳代から覚せい剤の自己使用を続け けられる ( 更生法条の 2 第 1 項 ) 。刑 の一部の執行猶予では、まずは実刑部分 ) 依存の症状が悪化していた男性は、所属 薬物法によって刑の一部の執行猶予がが執行され、刑務所において薬物依存離。していた暴力団組織からも除名されアル バイト生活をする中で、歳代後半にな 言い渡された場合には必ず保護観察が付脱指導等が行われている場合には、保護 り覚せい剤自己使用で 4 号観察となっ されることや、刑の一部の執行猶予の対観察所は、これらの情報を適切に引き継 象の中心は薬物事犯者になると思われるぐなどして、より効果的なプログラムを た。覚せい剤事犯者処遇プログラムを開 ことから、ここでは薬物事犯者の保護観実施することが求められる。そして、保始したが、当初から幻聴や妄想が顕著に 認められる状態であり、実父とも連携し 察処遇を想定してその内容を概説した護観察が始まると、当初は 5 課程からな 、 0 るコアプログラムを実施し、併せて簡易精神科通院を調整したところ、本人は受 診を頑なに拒否した。プログラムも中断 覚せい剤事犯者の再犯率は極めて高薬物検出検査をおおむね 2 週間に一度の 、薬物依存からの離脱を図るためには頻度で実施するが、刑の一部の執行猶予し、保護観察官や保護司の指導を忌避す 総合的な取組が必要である。すなわち、 の場合は長期間の保護観察処遇を確保し る中、ホームセンターで客を切りつける 保護観察官と保護司の協働態勢による基て断薬を続けさせ、その状態が定着する傷害の再犯事件を起こし、執行猶予が取 り消された。 本的な処遇に加えて、対象者に対する認よう指導を充実させることが求められる 知行動療法に基づくプログラムによる処ことから、簡易薬物検出検査の継続的実 遇と簡易薬物検出検査の実施、日常的な施はもとより、コアプログラムに続いて 第二に、薬物依存がある保護観察対象 生活の見守りの充実、地域の専門機関に 行うプログラムの内容の充実を図ること者全てを対象とするものであるが、医療ろ よる必要な医療や福祉などの継続的な提としている。しかし、事例 8 のように、 受診や専門的援助につなげる指導の強化の - 二供、当事者同士の支え合いの機会や薬物薬物使用に関連して重篤な精神疾患を有である。更生保護法の特則として、「医法 、一依存からの回復に配慮した住居の確保、しその症状が顕著な場合は、プログラム療又は援助を行う病院、公共の衛生福祉

2. 法律のひろば 2016年2月号

保護観察の実情と対象者像の検討 り み されることが重要である。また、適切に 一はじめに 対象者の選択がなされるためには、刑の 一部の執行猶予が言い渡された後、刑事 第 183 回国会において成立した刑法施設における改善指導に引き続き社会内 に等の一部を改正する法律 ( 平成年法律で行われる保護観察の効果が期待できる 討え 第号 ) 及び薬物使用等の罪を犯した者かどうかが重要な判断要素となることか に対する刑の一部の執行猶予に関する法ら、保護観察の実情等について、従来に 律 ( 平成年法律第浦号。以下「薬物法」も増して関心が払われる必要があると考 える。 という。 ) に基づく、いわゆる刑の一部 執行猶予制度が、平成年 6 月までに施そこで本稿は、現時点における保護観 像 察の実情等について述べ、刑の一部の執 行される。 者行 これにより、罪名を問わず初入者及び行猶予制度における保護観察の対象者像 象桜 準初入者について刑の一部の執行猶予をを検討する一助としたい。なお、本稿中 言い渡す場合においては、裁量によって意見に係る部分は執筆者の私見である。 対擴 猶予期間中に保護観察に付することがで と一→ ニ保護観察処遇の実情 情猶早き、他方、薬物使用等の罪を犯した累犯 予を言い渡す場合には、猶予期間中は必 執福 ず保護観察に付されることとなる。 保護観察官と保護司の協働態勢 の 9 今 保護観察は、対象者の再犯を防止し、 立ロ 保護観察官と保護司の役割 長 ( 善良な社会の一員として自立して改善更 課 ( 生することを助けるために指導監督及び保護観察は専門家である保護観察官 観〔補導援護を行うものであるが、裁量であ ( 保護観察所に配属。全国定員は約 10 護刑 局 ~ ろうと必要的であろうと保護観察が付さ 00 人 ) とボランティアである保護司 ( 法 護 保 れた刑の一部執行猶予者の再犯防止と改務大臣が委嘱。現在員は約 4 万 8000 保 ろ 省善更生を図るためには、改正刑法及び薬人 ) が、保護観察事件ごとにペアとなり、 務物法が求めるとおり、「再び犯罪をするそれぞれの特性を生かした異なる役割を ことを防ぐために必要であり、かっ、相もって保護観察を実施する。これを保護法 当であると認められる」者が適切に選択観察官と保護司の協働態勢と呼ぶが、最邱

3. 法律のひろば 2016年2月号

保護観察の実情と対象者像の検討 しなかったとき」とされており、現行のの有限な資源を投入することが刑事政策て保護観察が選択されることはできる限 保護観察付執行猶予の場合のように「情上高い意義を有する者については、保護り避けるべきである 状が重い」ことが要件とされていない ( 刑観察の適用を積極的に考慮することが適刑の一部執行猶予制度を適用するかど うか判断される場面においては、これら 法条の 5 第 2 号 ) ことから、むしろ仮当である。 を十分踏まえた上で、刑の一部の執行猶 釈放の場合と同程度の厳格さをもって遵その中でも、薬物依存がある者につい 守事項の遵守を求めていくことになるとては、専門的処遇プログラムの充実を図予制度の下で保護観察を付すことの必要 ることを検討しており、同プログラムを性と相当性について検討されることが肝 考えられる。 活用しつつ、地域の関係機関等と連携す要であると考えられる。そのためには、 ることで、保護観察による再犯防止と改保護観察の要否が問題となる事案につい 四保護観察付一部執行猶予に 善更生に向けた効果が期待できよう。そて、この点の十分な主張・立証がなされ おける対象者の選択の視占 のためにも、現状では脆弱で地域偏在もることが必要であろう。 また、保護観察に付する旨の判決にお 認められる地域医療等支援体制の大幅な て、保護観察の前提となる社会復帰後 刑の一部の執行猶予制度の施行を見据整備と、保護観察実施体制の充実が求めい の帰住先や処遇を実施する上で必要不可 られる えて、現時点の保護観察の実情等につい 反対に、具体的事例で挙げたように、欠な事項 ( 例えば、薬物依存者であるた て、できるだけ具体的かつ一般的なイメ 保護観察の効果を期待することが困難なめ保護観察所が実施する専門的処遇プロ ジを持っことができるよう努めた。 更生保護官署を含む地域処遇のための事例や保護観察の実施そのものが困難なグラムを受けること、引受人の事業所で 人的物的資源は有限であることを考慮す事例が存在することも保護観察の実情で就労することを法廷で誓約しており、同 1 犯事業所で就労を継続するための指導を受 ると、保護観察付一部執行猶予に付されある。また、例えば、ホワイトカラ る者が急激に増大した場合には、今以上罪や過失事案のように、犯罪傾向がそれけるべきであることなど ) など、被告人 にメリハリを付けたとしても、全体としほど進んでおらす、家族や仕事などの環の改善更生に資すると判断される処遇の て広く浅い指導監督・補導援護になるお境が整っている者などは自力更生が期待在り方等が、判決書の量刑の理由の中で それがある。このような保護観察の機能でき、保護観察の必要性は低いと考えらできる限り具体的に明記される運用がな 低下を避けるために、保護観察対象となれる。さらに、高齢・障害がある受刑者されると、裁判時の対象者に対する高い る者について適切な選択がなされることで福祉サ 1 ビスへつながればその後長期感銘力を長期に渡って維持・想起させる 間にわたる保護観察を行う必要性までは が望ましい。 ことができ、円滑な保護観察への移行が の 認められない事案もある。これらの事案図られるものと期待される 律 ~ 第本文で触れたように、専門的処遇プロ 法 ( いまふく・しようじ ) ・グラムの実施対象となる事案など保護観に対し、指導監督の体制が「念のために 察の効果が期待でき、かっ、保護観察所必要 , あるいは「あればまし。などとし

4. 法律のひろば 2016年2月号

読 り み に関する機関その他の者との緊密な連携法務省と厚生労働省が関係機関の間で共官等の調整で一 " 旦精神科病院に任意入院 ( € を確保し」なければならず ( 更生法簡条有すべきガイドラインを策定し、全国のすることとなった。しかし、退院後は自 の 2 ) 、指導監督として「規制薬物等に保護観察所、矯正施設、自治体、関係法己判断で通院しなくなり、 2 階の自室か 対する依存の改善に資する医療を受ける人等に発出したところである。ただし、 ら外に向けて物を投げたり、夜中に暴れ ろ て大声を出すなどの近隣に対する迷惑行ひ よう、必要な指示その他の措置」や「公薬物依存症に対する地域医療の体制は極 共の衛生福祉に関する機関その他の適当めて脆弱であり、身近で医療や依存から為を繰り返し、器物損壊容疑で逮捕さ な者が行う規制薬物等に対する依存を改の回復支援プログラムを受けられるよ、つれ、執行猶予が取り消された。 善するための専門的な援助であって法務な地域医療等支援体制の整備が喫緊の課 大臣が定める基準に適合するものを受け題となっている。 その他、家族は対象者の社会復帰に大 るよう、必要な指示その他の措置」をと なお、前記の医療等受診に向けた指示きな影響を与えるが、対象者の薬物依存 ることができることとされている ( 更生は、単にその指示に従わなかったことの によって疲弊し家族自身が支援を要する 法条の 3 第 1 項 ) 。そのためには「対みで執行猶予を取り消すことはできず厳場合もあるし、家族に薬物使用について 象者の心身の状況を的確に把握」する必密な意味での受診論令ではないことかの正しい理解がなければかえ 0 て対象者 要があることから、保護観察所の長は「病ら、事例 9 のように精神科受診が必要の使用を助長する場合もある。そこで、 院、公共の衛生福祉に関する機関その他であるにも関わらず本人にその意欲がな薬物使用に関する知識と対象者に対する の者に対し病状、治療状況その他の必要いような場合には、有効な保護観察を実正しい働きかけについて家族が学ぶ機会 な情報の提供を求める」ことともされた施することは困難である。 として、精神保健福祉センタ 1 等のプロ グラムを活用するとともに、保護観察所 ( 更生法条の 4 ) 。これらに基づき、社 会復帰のため医療等が必要な者には病院【事例 9 【依存症と精神疾患のため入院 においても家族会、引受人会といった取 や都道府県及び政令指定都市に置かれて治療を優先すべきケース】 組を充実させていく必要がある。また、 窃盗と毒物及び劇物取締法違反により いる精神保健福祉センタ 1 への受診等へ 適当な居住環境が得られない者に対して の動機付けを高めたり、ダルク (DARC 】 4 号観察となった男性は、保護観察開始 ~ は、薬物依存からの回復のために専門的 Drug Addiction Rehabilitation Center 薬当初から、有機溶剤への依存症と精神疾な支援を行、つスタッフを配置した薬物処 物依存症リハビリ施設 ) 等の回復支援施一患の影響で、ろれつが回らず意味不明な遇重点実施更生保護施設を活用すること 設と連携してミ 1 ティング等への参加を , 言動が多く、保護観察官等の質問にも答となるが、今後その拡充を図っていく必 促すなどの働きかけを強化し、これら病一えることができない状態であった。ラッ要がある。 院等と定期的に協議を行うなどして処遇一カー吸引により警察で保護され、保護観 なお、保護観察付一部執行猶予の場 の充実を図る必要がある。これらの機関 ~ 察官においても厳重に指導したが、精神合、その裁量による取消しは、「保護観 等との連携については、平成年Ⅱ月、 症状が顕著であったことから、保護観察 ~ →察に付された者が遵守すべき事項を遵守

5. 法律のひろば 2016年2月号

法律のひろば 平成 28 年 2 月 1 日発行 ( 毎月 1 回 1 日発行 ) 昭和 2 イ年 2 月イ日第 3 種郵便物認石 平成 27 年労働者派遣法改正法の概要 / 厚生労働省職業安定局派遣・有期労働対策部需給調整事業課 判例から見る派遣契約の論点 / 清田冨士夫・早川僚太 労働者側から見た労働者派遣法の改正 / 水口洋介 改正労働者派遣法の概要と企業における実務上の留意点 / 山中健児 労働者派遣とジェンダーに基づく諸問題への対応 / 中野麻美 労働者派遣制度の現状と未来 ー 2015 年の改正をふまえて / 本庄淳志 H 〇 URITSU N 〇 HIR 〇 BA Feb. 2016 VOL69 / No. 2 派遣法改正 ー労働者・企業への影響と今彳の展望 読み切り 保護観察の実情と対象者像の検討 - ー - 刑の一部の執行猶予制度施行を目前に控えて / 今福章ニ 0 きようせい

6. 法律のひろば 2016年2月号

り み 読 る者との交際が犯罪の主たる誘発要因と援助を行うものである。したがって、こ 【事例 2 】犯罪に対する自省が深まらな なっている場合には、交際を絶っ明確なれらの前提を欠く場合は、保護観察の実 いケース】 意思がなければ、その後の保護観察は難施はその実効性を欠くと言わざるを得な 、 0 建造物侵入、窃盗により 4 号観察とな , 航することが予想される。 ろ ひ った歳代の男性対象者は、定職に就か の 律 ずインタ 1 ネットカフェなどで寝泊まり 【事例 3 】反社会的集団との関係が強固 ( 住居確保の支援 法 する生活を続け、所持金がなくなったこ で健全な生活を望まないケース】 住居は社会復帰の基盤であり、主に更 とから換金目的で店舗のカメラを盗んだ 逮捕監禁、傷害、強要により 4 号観察一生保護施設が住居のない対象者の宿泊保 ものである。保護観察を開始後、配送会 となった歳代の対象者は、暴力団員の護を行い、 自立のための指導や支援等を 社に就職したものの 1 か月で離職した。 父親の下で保護観察を開始した。その 4 行っている。更生保護施設は、全国に 1 また、保護司との面接ではアルコール臭 か月後に交通事故を惹起したので、調査 03 施設あり、大都市圏には複数ある一 を漂わせるなど、飲酒が続いたことから のため出頭を指示したがこれを拒否し方、 1 施設しかない県も多い。ほとんど 指導したが、 「誰からも何も言われたく た。さらに、保護観察官が自宅を訪ねて が定員跚人以下の小規模なものであっ ない」と反発し、次第に来訪を怠りがち 交通事故の状況を聴取したが、曖昧な申て、男子定員が全体の 9 割以上を占めて になって所在不明となる。その後同種再 告に終始した。後日、交通事故を起こし いる。早期の就労自立を目指して処遇が 犯により実刑判決を受け、執行猶予が取 た車は暴力団所有のものであったこと、 行われるが、集団生活を送ることができ り消された。 同乗者は暴力団幹部であったこと、対象ない者の受入れは難しいほか、地域住民 者は暴力団分裂抗争の最中に暴力団事務一との関係で一定の罪名 ( 性犯罪、放火な 対象者が現に暴力団関係者であるな ) 所に寝泊まりして組員と行動を共にして ど ) の者は受け入れられないといった施 ど、反社会的集団との関係が強固である いたことが判明し、執行猶予は取り消さ 設もある。更生保護施設は、 254 か月 場合は、このような組織に帰属すること→れた。 程度で退所する一時的な居場所であり、 自体が、根深い反社会的価値観の徴表と 施設を退所した後の居住先が確保できな も言える。このような場合は通常「暴力 いと見込まれる者については、退所後の 3 保護観察と住居 団関係者との交際を絶ち、一切接触しな 保護観察が実施できないおそれが大きい いこと」等の特別遵守事項が設定される保護観察は対象者が一定の住居に居住ことから、安易な受入れはできないこと が、事例 3 のように、対象者に暴力団かし、保護観察官や保護司の求めに応じてになる。 ら離脱する意欲がなければ、遵守事項を面接を受け、面接の中で自らの生活状況 地域住民の理解が得にくいことなども 守ることや生活実態の正直な申告を期待を進んで報告すべきことを前提とし、こあり新たな施設の設置は難しく、平成 することは困難である。また、問題のあれに対して保護観察官や保護司が指導や年度からは、更生保護施設とは別に、 z

7. 法律のひろば 2016年2月号

月刊法律のひろば 2016 VOL69 No. 2 February ◆特集◆ 派遣法改正 ー労働者・企業への影響と今後の展望 ー平成 27 年労働者派遣法改正法の概要 厚生労働省職業安定局派遣・有期労働対策部需給調整事業課 4 ー判例から見る派遣契約の論点 / 清田冨士夫・早川僚太 11 ー労働者側から見た労働者派遣法の改正 / 水口洋介 18 れ日訂 ー改正労働者派遣法の概要と企業における実務上の留意点 / 山中健児 26 ー労働者派遣とジェンダーに基づく諸問題への対応 / 中野麻美 34 ー労働者派遣制度の現状と未来 ー 2015 年の改正をふまえて / 本庄淳志 44 ◆読み切り◆ 保護観察の実情と対象者像の検討 ー刑の一部の執行猶予制度施行を目前に控えて / 今福章ニ 53 ◆連載◆ 賠償・補償・保険法判例研究第 25 回一一賠償・補償・保険法判例研究会 不法行為に基づく損害賠償と労災保険給付との損益相殺的な調整 / 三木千穂 62 ひろば時論 / 2 ■薬物事犯者に対する処遇ーシームレスな指導と支援のために ■訟務局の役割と政策形成訴訟 ・ひろば法律速報 / 75 弊社新刊図書・雑誌のご案内・・・・・ h p : //gyosei. jp ・次号予告 / 10 ・訟務情報 / 78 装丁 /Kaz イラスト /Nao

8. 法律のひろば 2016年2月号

保護観察の実情と対象者像の検討 専門的処遇の実施の三つを内容としてい更生を図るために欠かすことができない る ( 更生保護法 ( 以下「更生法」という。 ) 個別の必要性が認められる範囲内である 【事例 1 】未熟な若年者で人格の成熟の ことが必要である ( 更生法訂条 2 項 ) 。 療条 ) 。 ための粘り強い指導監督等が奏功したケ 遵守事項には、一般遵守事項と特別遵したがって、努力目標のようなものは設 ース】 定することはできないし、また、福祉サ 窃盗により刑の執行を猶予され保護観守事項があり、いずれも違反した場合に 1 ビスを受けることなど、本来本人の自 察に付された ( 4 号観察 ) 歳代の男〕は仮釈放取消しなどの不良措置が検討さ 性。風俗店の副店長になったことを家族れることとなる。保護観察の実施の基本発性に基づき、サ 1 ビス提供者との間の にとがめられ家出して単身生活となり、 的枠組みであり、そもそもこれを遵守す合意に基づいて行われるべき性格の事項 友人を頼って職を探したが見つからず帰る意思が認められない者は、実効性のあは設定できないこととされている 郷し、実家に侵入して兄から肪万円を盗る保護観察の実施は困難である。一般遵生活行動指針は、「浪費をせす、地道 んだという事案。実父は統合失調症で入守事項は、全ての対象者が共通して守らで堅実な生活に努めることーなど努力目 なければならない事項である。健全な生標のような事項であって、改善更生のた 院、被害者である兄は引きこもりという 複雑な家庭環境にある。保護観察を開始活態度を保持すること、保護観察官や保めに重要な意義がある場合に個々の対象 後、友人との共同生活を始めたが、早期護司の面接を受けること、生活状況を報者ごとに定められる。これに違反しても に転離職を繰り返した。保護観察官も保告すること、定めた住居に居住するこ不良措置をとることはできない点が特別 護司も就労について絶えず指導し、自立と、転居するときは保護観察所長の許可遵守事項と異なるが、対象者はこれを守 を得ることなど ( 更生法浦条 ) 、保護観る努力義務がある ( 更生法条 ) 。 心を高めるとともに、家庭環境のストレ スに耳を傾けながら丁寧に助言を続け察の実施の基礎となるものである。ま 遵守する意思等に問題がある事例と た。貴金属販売の会社に就職した後は、 た、特別遵守事項は、個々の対象者ごと その検討 に特に必要と認められる範囲内において 会社で認められるようになって生活も安 遵守事項にしても生活行動指針にして 定し、保護司宅への来訪も欠かさず実施設定される。「酒を一切飲まないこと」、 も、本来その遵守に努めようとする意思 され、期間満了となった。 「共犯者との交際を絶ち、一切接触しな いこと、、「被害者等に一切接触しないこが少しでもなければ保護観察の実施はそ と」などがその例である。ただし、特別の実効性を欠くと言わざるを得ない。 2 遵守事項と生活行動指針 遵守事項の設定の範囲には一定の要件が事例 2 は、アルコール依存症の疑いが ろ あり、仮にこれに違反した場合には不良あり、これが犯罪に深く関係しているも 保護観察における指導監督 ひ こ乏しく、保護司らの指の 指導監督は、①面接等による接触確保措置をとることが許されることから、具のの、その認識。 法 ( 、と行状把握、②遵守事項の遵守や生活行体的なものであること、法律で定められ導や助言を拒否し、結局再犯に至ったケ 動指針に即した行動に向けての指示、③た類型に該当するものであること、改善 1 スである。

9. 法律のひろば 2016年2月号

ろ ひ の 律 法 用事司法機関、地域の関係機 ′成年 6 月、第 18 3 回通常国会において刑法等のることが多かった。これは、」 、一部を改正する法律 ( 平成年法律第的号 ) 及び薬関等の双方の人的・物的体制上の課題もさることながら、 っ・どこで・誰と・どのように手を携えればよいのか、 ろた物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関い ひのする法律 ( 平成年法律第号 ) ( 以下「両法律」という。 ) 実務レベルにおける指針や枠組みがほとんど示されてこな が成立・公布された ( 両法律については本誌平成年Ⅱ月かったことによる部分も大きいと考えている。 支 号に詳しい。 ) 。両法律は刑事施設内における処遇に引き そこで、法務省保護局では、両法律の施行を見据え、専 と 続き社会内処遇を行うことにより再犯の防止を図ろうとす 門的処遇プログラムの充実強化をはじめとする保護観察の 導 るものである。特に薬物事犯者については、過去に保護観実施体制の整備に努めるとともに、矯正施設を所管する矯 匕日 才察に付されたもののその際に更生意欲が見られなかった者正局及び依存症対策を所管する厚生労働省社会・援護局障 や、保護観察を実施する環境が整っていない者など保護観害保健福祉部と協議を行い、平成年Ⅱ月、「薬物依存の ス 察に付するのが適当ではない者を除き、同制度の下でできある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライ る限り保護観察に付して、施設内処遇から社会内処遇へ、 ン」 ( 法務省ホームペ 1 ジ等で公表されている。 ) を策定 ム そして地域支援へと有機的につなげていくことが望まれし、地方自治体をはじめとする関係機関宛てに発出したと る。両法律による改正後の更生保護法 ( 平成四年法律第 ころである。今後、このガイドラインを踏まえて積極的な 、ン 号 ) においても、薬物事犯者の再犯防止には薬物依存の問 連携が行われることを願っている。もとより、このガイド ラインは法的拘束力を有するものではなく、また、個々の 遇題を改善することが重要であること、また、そのためには 処刑事司法機関と地域の医療・保健・福祉機関、民間支援団指導や支援は、それを受ける者や地域の実情を踏まえて個 別的に実施・提供されるべきものであるが、同ガイドライ る体等 ( 以下「地域の関係機関等」という。 ) との「緊密な 連携」が必要であることが明確にされている ( 例えば更生ンが地域における連携の指針として参照され、薬物依存の 保護法条の 2 等 ) 。 ある刑務所出所者等に対する指導と支援が切れ目なく実 保護観察所においては、更生保護法施行時の平成跚年か施・提供されて、これらの者の再犯防止と社会復帰が促進 ら、覚せい剤事犯者に対して、認知行動療法の理論や方法されることにつなげたい。このことが、安全・安心な地域 社会の実現に向けた、地道ではあるが大きな一歩になるも らを取り入れた教育課程と断薬意思の維持強化を目的とした 事簡易薬物検出検査から構成される専門的処遇プログラムをのと考えている。 ( 保 ) .4 導入し、処遇の充実を図ってきた。しかし、地域の関係機 某関等との連携という点では、単発的・一時的なものに終わ

10. 法律のひろば 2016年2月号

保護観察の実情と対象者像の検討 法人等の民間事業者の協力を得て既は、保護観察によって改善更生の効果をを促すことによって、犯罪行動を抑制し て再犯防止を目指す。 存の宿泊施設を自立準備ホームとして登上げることは難しい 現在は、性犯罪者処遇プログラム、覚 録して活用する取組が開始され、平成 【事例 4 】定住しないなど生活基盤の構せい剤事犯者処遇プログラム、暴力防止 年度末現在の登録数は全国で 332 とな プログラム、飲酒運転防止プログラムの 築を強く忌避するケース】 った。しかし、一般に再犯リスクの高い 詐欺で 4 号観察となった歳代の男性 4 種類が、特別遵守事項によって受講を 者の受入れは難しいといった課題がある このほか、高齢又は障害がある受刑者対象者は、年金を飲酒、パチンコ等で費義務付けて実施されている。いずれも、 ワークプックを教材として保護観察官と 等で出所後に福祉の措置が得られなけれ消し、駅構内で寝泊まりを続けるうちに の個別面接又はグループワークにより、 無銭飲食に及んだものである。区役所で ば直ちに自立が困難となる者について、 一時的な保護施設の斡旋を受けたが飛びおおむね 2 週間ごとに 1 課程の頻度で行 都道府県が支援の実施を委託する地域生 活定着支援センタ 1 と、矯正施設、保護出して、ビジネスホテルを転々とし、保われ、 5 課程で修了する。なお、覚せい 剤事犯者処遇プログラムについては、ワ 観察所等が連携して出所後に福祉サ 1 ビ護観察所が更生保護施設への入所を勧め ークプックによる指導と合わせて簡易薬 ス等につなげる取組が平成幻年度から実るも、集団生活は嫌だと強く拒否した。 施され実績を上げているが、調整が必要空腹から警察署に出頭したりしたが、結物検出検査 ( 断薬の状態を積み重ねさ せ、その努力についての達成感を与え、 局所在不明となり、再び無銭飲食により な者全てに対応できる状況には至ってい 実刑判決を受け、執行猶予は取り消され》断薬意志の維持及び促進を図るもの ) を 実施しているほか、仮釈放の対象者には 5 課程を修了後も引き続きプログラムを 定住する意思かない事例とその検討 継続することとされている 対象者が住居不定で定住する意思がな 4 専門的処遇プログラム い場合は、所在不明となって保護観察を 専門的処遇プログラムの適用事例と 内容と方法 実施できない場合も多く、所在不明に至 その検討 らなくても、住居を転々として指導や助保護観察官による処遇方策の一つに、 言が十分に行えず、健全な生活基盤を確認知行動療法を理論的基盤とした専門的専門的処遇プログラムの対象として想 処遇プログラムがある。自己洞察が不十定しているケースであれば ( 実施対象と 立できないまま再犯に至ることも多い。 定ま 0 た住居のない対象者については、分で、他者に責任を転嫁し、自己の行動して該当するか否かは罪名等で一律には ろ 更生保護施設をはじめとして住居の調整を正当化したり、行動が他者に与える悪決められない。 ) 、事例 5 や事例 6 のよう ひ に、プログラムの実施と面接指導等を通 ~ を行うが、事例 4 のように集団生活を忌影響を矮小化したりしがちな対象者に対 法 し、このような犯罪行動に結びつく思考じて、再犯防止・改善更生に一定の効果 ( 避し気ままな生活を捨てたくないため、 施設への入所を嫌うような対象者の場合や認知の偏りを本人に自覚させその変容が期待できる。