歌 - みる会図書館


検索対象: 音楽と人 2016年6月号
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1. 音楽と人 2016年6月号

歌が僕にある 3 月日。〈渋谷すばる --1 ー > l.u OD 2 0 16 歌〉のツアーファイナル、両国国技館。圧倒的な ヴォーカルカと、歌に込めた彼の感情に、ただただ胸 が揺さぶられる。この日のライヴ、そして 2 月にリリー スされているカヴァー・アルバム「歌』から、渋谷すばる の持っ唄い手としての魅力、そして表現者としての未史一 裕溪 光古 来について書いてみた。ひとっ言えるのは、彼の〈歌〉が 文写 もっと聴きたい、ということだ。 0 2 7

2. 音楽と人 2016年6月号

文 = 清水浩司 なぜ彼の歌からは痛みややるせなさ、悲しみや暴力性 そんな感情が染みついた体臭のように流れ出してくるのたろう ? 渋谷すはると歌、そして未来 カバーアルバム「歌』の 1 曲目は RC サクセションの「ス ・」だった。それ素晴らしい歌だった。近年流行りのカバー と思。たし、これまで聴いた「スローバラー 内でもピカイチ 、して“心を揺さぶられた歌 " という意味におい 中でも随一。もし ても最近のトップと っていいかもしれない。 曲はゴージャスオホーンセクションの響きからはじまる。慣れ親しん だ名曲のイントロがゆっくりとタメを効かせて演奏される。それに導か れるように唄い出す渋谷。うまい。青臭さをたつぶりと漂わせながら真 正面からぶ ? かっていく気概がいい。若さゆえの力強さも原曲へのリス 、い。が、見事な唄いっぷりは曲が進むにつれさらに高みへ駆 ペクトも けのぼらていく。むせび泣くサキソフォーンに絡みつく渋谷のロングト ーンがいつまでも途切れない。絞り出すフェイクが演奏の雨の中でのた うち回る。特に最後 1 分近く続くアウトロは圧巻の連続で、 5 分 1 3 秒の 声の一筆書きがフィニッシュされたときには喉がカラカラに乾いてゴ クリとツバを飲むしかなかった。 「スローバラード」というのは言うまでもなく日本のリズム・アンド・ プルースの頂点に位置する楽曲である。それを歌うということはあの忌 野清志郎に挑戦状を叩きつけるということである。 負けてないーーー素直にそんなふうに思えた。本当にそうなのか、確か めるため何度も繰り返し聴いたが、最後に辿り着くのは同じところだっ た。テレビの中を主戦場とする国民的アイドルグループに属する男が ? しかしその歌声は何度聴いても僕の心を震わせるのた。 渋谷すばる、この男の放っ歌の魅力とは一体何なのだろう ? アイドルらしからぬ野良犬感、全身全霊で楽曲にダイプする音楽への 没入具合、粗削りでスケールの大きな唱法鬱 4 。歌ーを聴ぎそいくう ち、にい巛つかの個性は見えてきたが、個人的には彼に似合う歌と似合わ 渋谷すば ロ・一 / ヾラ という ド ない歌がクッキリ分かれているように感じた。似合っているのは「スロ ーバラード」を筆頭に「 First Love 」 ( 宇多田ヒカル ) 、「言葉にならない」 ( 小田和正 ) ・・・・・・など。その共通項を考えていくと“不安定 " というキーワ ードが浮かんできた。まさしく言葉にならないもどかしさ、形にならな い感情・・・・・・そんなものに触れたとき彼の歌は俄然輝きはじめる。安定し たメロデイラインより、宙を掻くようなフェイクやシャウトにこそギラ リとした暗い迫力が憑依する。 もしかして彼は自分自身でも自分のことがわかっていないのではな いか ? - ーーそんな想いがふと湧いた。彼のインタビューを読むとグルー プでの活動を謳歌し、そこにいる自分を自覚していることがわかる。今 回のソロ活動もグループに不満があってはじめたわけではない。基本的 に今の状況に十分満足しているのだ。だが、だったらなせ彼の歌からは 痛みややるせなさ、悲しみや暴力性といった感情か、染みついた体臭の ように流れ出してくるのだろう ? Ⅸ合は映画『味園ュニバース』で記憶喪失のポチ男という役柄を演じ おヒ / 、 た。ポチ男は歌を唄うことたけが取り柄で、唄うことによって秘められ た過去や真の自分を取り戻していく。僕にはその姿が渋谷と重なって見 えた。たとえば無意識に眠る本性や押し殺した衝動。渋谷は歌にのめり 込むことで、それを表に引きすり出そうとしているのではないか。彼の 何かに取 ? かれたようなフ , イクの迫力は、どうしても届かない " 向 こう側 " へ、命に手を伸ばしているように見える。 渋谷の敬愛する甲ーときどき同じ顔をする。目をヒン剥いて マイクを掴みシャウトするとき、彼は客席もメンバーも見ていない。彼 はたた、、向こう側新を見るために燃え上がっているたけた。 渋谷にはそれと同じものを感じずにはいられない。自分の中に“向こ う側 " を抱えている人にこそ、歌う資格はあるのかもしれない。 0 3 0

3. 音楽と人 2016年6月号

エゴ丸出しで、薄っぺらいだけだったあの頃とはまるで違う しかしあの頃に経験したいろんな感情が、自分に深みを与えた いろんな人の思いをわかるようになった。それが今の彼の歌に表れている , 」」 = 《 0 、 00 ・「《 000000 、、 00 、《 0 気持 00 、 0 」、 0 ・寄。 0 、。 0 。」 = 」 0 自《 今、彼のソロ活動のテーマを言葉にするなら〈感謝〉のニ文 字になるのてはないだろうか。この日、アンコールて披露されれぞれの記億の中に蘇ってくる。彼の中にあるその感情が、誰が経験した感謝の思いがある。そんなに気の利たをす るわけじゃないし、どちらかといえばぶつきらぼだ。てもそ もに知られた名曲をモチーフとしながら、生々しく立ち上っ たビリー・ジョエルのカヴァー「ピアノマン」を唄う姿を見な んな顔の裏にある優しさと感謝が、そこかしこにこじみ出る。 てくる。歌の表現力が、そこに込めた思いの強さが、とんても カら、そう思った。 アンコールては前回同様に関ジャニ 8 のシャ。を着て登場 バンドにしろグループにしろ、ソロ活動、というのは、そのなく強烈なのだ。 し、そのロゴを指差してドンドン叩く。そこに誇を持ってい そしてそれは、ソロにも関わらずエゴを見せようとしない 場所ては出来ないことをやりたい、という意思の表れてある。 ゆえに良くも悪くもエゴが見え隠れするものだ。しかし、渋谷その意識によるところにもあるのだろう。もともと彼は、グる、と言いたげに。また、会場となった両国国技館の入り口に すばるのソロ活動にはあまりそれが感じられない。そもそもループの中てもかなリやんちゃな方て、あえて言うならはみは、相撲てよく見る幟がはためいていたが、〈渋〈すばる〉〈え いたー〉などと染め抜かれた幟は 8 本 ( ! ) グルプへの思い 昨年、彼が本格的にソロ活動をスタートさせたのは、主演した出していた。アイドルというくくりていることに窮屈さを感 カこういうところにも現れている じ、そしてそのことを隠そうともせず、ここじゃないここじゃ 映画『味園ュニ バース』の役柄が〈圧巻の歌声を持っ記億を失っ アイドルという職業は人気がすべてのバロメターて、自 ないと、いつもも力いていた。なかなかうまくいかない状況の た男〉だったことが大きい。そして今年 2 月にリリースされた 中て、挫折や孤独、苛立ちゃ羡望、いろんな感情を経験したの己表現に目覚めると、それが実に窮屈になる。そをもがきな アルバムは、周囲の意見を聞き入れた結果、日本のスタンダー ドな名曲をカヴァー、というスタイルになった。そこにはあまだろう。その頃の彼を詳しく知るわけてはないが、きっと、強がら表現しようとするところが面白いのだが、彼場合は、通 烈なエゴの塊だったと思う。しかしそんなときに気づいたの去にそういう窮屈さを経験していたからこそ、ゴに向かわ リ、彼自身のエゴが感じられない。 ず、歌という表現を手にすることが出来た。そし誰もがどこ が、グループの大切さてあリ、メンバーとの厳しくも温かい、 その理由のひとつには、彼のやリたいことが〈歌〉にあるか らだろう。この日もそうだったが、彼の歌には強烈な感情がこ決して切れない強い絆だ。どんなに孤独を感じても、それは絶かにそんな思いを抱えていることを、自分の経から知って いる。だからこそ、その気持ちを共に分かち合お、としてい もっている。清志郎も、宇多田ヒカルも、桑田佳祐も、誰の楽曲対だった。そしていっても戻れる場所だった。それに気づいた るのだ。これから彼の表現は、歌、だけてはなく、の中に根づ てあろうが、渋谷すばるの〈歌〉になる。オリジナルを超えたと時、彼は〈感謝〉ということの大切さを知ったのだ。 いているプルースやロックを軸にした、サウンドにも向かっ だから与えられた今に感謝する。自分はあまリ出さない。し かそういう意味てはなく、彼の思いがその曲を通して見えて ていくと思う。それはそれてとても興味深い。かしこのツ かしその気持ちが、歌、にすべて込められる。エゴ丸出して、 くるのだ。 この日、ツアーファイナルとなった両国国技館もそうだっ薄つべらいだけだったあの頃とはまるて違う。しかしあの頃アーて感じたてあろう〈歌〉て気持ちを共有した ) とは、きっ と忘れないだろう。 た。カヴァー中心てあるからこそ、よリ、それを唄う人の感情に経験したいろんな感情が、自分に深みを与え、いろんな人の アンコール、最後のセッションが終わり、シッを脱いて が大事になる。サウンドの解釈やセンスてはない。それはむし思いをわかるようになった。それが今の彼の歌に表れている。 そんな彼をいちばん感じられたのが、ソロを始めた頃から上半身裸になったまま渋谷がステージを去ると彼が好きな ろ、いい意味てダサいくらいのべタなアレンジだ。彼が好きな ーハーツの「 }-- < ー z ー < ー z 」が流れめる。客電 レバートリーに入っていた「ピアノマン」だ。この歌には、こんプル プルース的な解釈は、自身のオリジナルてある「乗っかリトレ がついた会場て、誰も席を離れず、唄い始めて大口唱になる。 イン」やラストのセッションて、その泥臭さがふんだんに披露なフレーズがある。あえて日本語に意訳して書くとこうだ。 それは彼とファンの間に、確かに生まれた絆のうに聴こえ 「どんなャッらも孤独という名の酒て乾杯してる。 されたが、それ以外の演奏は基本、歌を聴かせるためのもの。 た。 ても、 1 人て呑むよリはずっといい。なあ、そうだろ ? 」 「スロー バラード」からは、誰もが忘れかけてた純粋な思いが、 〈本当の声を聞かせておくれよ〉 そう、彼は孤独や寂しさを、切なさと悲しみを、よく知って 「ファンキー・モンキー・べイビー」からは、何かに夢中になっ お互いのその思いが伝わった、素敵なライヴだた。 いる。昔、自分が経験したことだからわかるのだ。ゆえにその て盲目になった時の気持ちが、「 0 ー 0 2 9

4. 音楽と人 2016年6月号

文 = 青木優 歌を作るため、届けるために必要なものはなにか 約 3 年ぶりのアルバムで彼が見せた変化と成長について 自分の可能性を試しているようだった。そ た MV も、自分の実体験が元になってるんで れも当たって砕けろ ! 的に。石崎ひゅーいの すよ。そういう自分の人生さらけ出すみたい この 3 年間は、そんなふうに見えたのた。 なことに対して、すごいくおこがましいな、俺〉 「いろいろあったなという感じはするんです と思ってて ( 笑 ) 。だってく自分の人生がこう ・・やったことないことに挑戦できました です〉って爆発的に見せびらかすわけだから、 し。表現するというところでは、いろいろやれ 人間としてはヘンなことなんたなと思って て良かったなと思いますね」 ( 笑 ) 。だから、よくわかんないですよ・・・・・・照れ バンド、アコースティック、カバーといった てきたのかもしれない」 企画性の強いライヴ、配信で次々にリリース 照れ。そもそもこの言い方が、かってのひゆ される新曲群。それにドラマ、舞台、映画と絡 ーいとは違う。そういえばライヴも、デビュー んた仕事の数々。気がつけば、小説も。 当時は後先考えすに叫んで跳んで転がって、 「歌を作るのは寂しくて、孤独を突き詰めてく 最後のほうではバラードを唄いきれないこと 作業ですけど、舞台とか映画の撮影はみんな すらあったのに、今の彼はステージ全体の流 でひとつのものを作るところで始まるので、 れを把握した上で唄えている。それはポジテ 全然寂しくない。で、そういうことをやったあ ィヴな意味での成長だし、本能的な部分はち とに家に帰ってくると、曲ができるんです。ほ ゃんと残した中でのペース配分たと僕は捉え んとに 5 曲すつぐらいワーツて書けた時にく自 ている。たた、彼自身に照れの感覚まであると 分の中の歌を呼び起こしてくれるような、い いうことは、客観性が予想以上に身に着いて い経験をさせてもらってるな〉って」 きているということなのだろう。 「見えてきたのかな、自分が。く歌を届けるため 楽しそうな笑顔のひゅーい。ただ、この話 は、以前の彼からの大きな変化を感じさせる。 に何が必要か〉というのは、デビューの頃より 「優しさに触れたりして、何かに刺激されて歌 考えるようになったかもしれないです。それ ができる。ということは、歌を作るためには、 がいいのか悪いのかは、わからないけど。わか らないまま進む、っていう感じですかね」 心が動かされる何かをすっと探していかない といけないなと思いましたね。自分からは何 とはいえ、およそ 3 年ぶりとなるフルアル バム「花瓶の花」では相変わらずのひゅーい も生まれないな、と思って ( 笑 ) 」 そんなことなかったはすだろう。ひゅーい 節が炸裂している。ます、何と言っても表題曲 だ。先ほどの松居監督によるビデオとはこの は自分の中から湧き出てくるものを次々に 曲のことで、その映像には、映画「アズミ・ハ 作品にぶつけていくアーティストだったから ルコは行方不明」でひゅーいと共演した蒼井 た。自分のこと、好きな女の子のこと、お母さ 優も出演。そして彼の言う実体験とは、地元の んのこと。故郷、東京、青春、宇宙・ 友達の結婚式で、彼のために書いたこのラブ 「自分のことばっかり言ってるのも何かなあ、 ソングを唄ったこと。生涯かけての大切な愛 と思うようになって。歌もそうたし、今回の松 を見つけたという、一途な思いのバラードな 居くん ( 映画監督の松居大悟 ) に作ってもらっ 0 1 ビーナツツバター 02 星をつかまえて メーデーメーデー 03 04 僕がいるぞ ! 05 トラガリ 6 カカオ 7 花瓶の花 8 泣き虫ハッチ 9 オタマジャクシ 10 天国電話 ー※初回限定盤は、デビュー曲「第三感星交響曲」から「花瓶の花」までの 全 7 曲のミュージックビデオと、短編映画「花瓶に花」 ・ ( 鑑督・本 : 松居大悟 / 出演 : 蒼井優・村上虹郎 ) を収録した DVD 付き。 のだ。そしてそれは、友人の目線で作った歌で ありながら、相手にのめり込んでしまうひゆ ーいの恋愛体質と、ちゃんと重なっている。 「ああ、そうかもしれないです ( 笑 ) ・・・・・・恥す かしいですね。いや、唄いはじめちゃうと、照 れくさいのはないんですけどね」 そうたと思う。じゃないと、アルバム最後の 「天国電話」などは書けないはすだ。たた、引 いて見れるようになってきているということ は、そこで自分自身を把握できてもいるはす。 どんな人間として見ているのだろう。 「どうしようもない奴 ( 笑 ) 。すごい・・・・・・甘えん 坊で、面倒くさがり屋で。で、歌たとそういう 自分をくいいんたよ、そのままで〉みたいに肯 定するから、自分の写真見て思いますけどね、 くする賢いな〉って ( 笑 ) 」 いや、する賢いという類のものではないと 思う。アーティストは、そのぐらいの傍若無人 さは持っているべきだからだ。逆に言えば、彼 がそれだけピュアたったということか。 「でも成長してると思いますね。大人になりま した。くこのあとはこうして〉とかを考えるよ うになったし、スタッフに意見を言うように なったと思います。昔は何も言わないし、わか りづらいやつだったと思います ( 笑 ) 」 今後のひゅーいは、その客観的な視点と、持 ち前の本能の爆発が、どう均衡を保っていく のかがポイントになるだろう。そうしてみる と本アルバムはその分岐点に位置する作品に なりそうだ。主観と客観ーーその両方の感覚 を飼い馴らせたら、彼はワンランク上のアー ティストに進化するはすである。きっと ! 「なるほど ! うん、僕もそう思うんだよなあ ・・頑張ります ! 」 NEW ALBUM 2016.05.18 RELEASE 「花瓶の花』 をの花れ

5. 音楽と人 2016年6月号

していた。どうやら昼間に食べた弁当にトンカツが入っていた てか、自分から余計なものを削ぎ落としたように見える佐藤千とに、もちろん主催者であるこちらがオファーをたことでは らしく、それが腹から出てきそうなほど緊張している、という亜妃は、アコースティックギターを抱える姿で初めて小柄な女あるものの、一抹の不安感を抱えていたのも事たった。バン ドマンにとってソロでの弾き語りは、並々ならぬレッシャー のだ。彼はまだ弱冠四歳、昨年メジャーデビューしたばかりの性だというのがわかる。しかし、クガッハズカム名義で弾き語 新人バンドのフロントマンだ。もちろん普段はそのバンドでりライヴを行っていた彼女だけに、ひとりステージに立っそのや孤独感に立ち向かっていく行為でもある。しか「プルー」で ライヴをやっていて、人前で弾き語りをやるのは久しぶりだと佇まいに不安な様子は見られない。コードをかき鳴らしながら始まったステージは、さっきまで楽屋 にしたいつの彼がその いう。それでなくても山崎の後にライヴをやるのはかなりのプ「疾走」を唄う佐藤。その声は透明感に溢れているものの、どこ まま立っていた。ギターさえあればいつでもどこも歌を口ず レッシャーだろう。そんな中ステージに表れた彼は、自分が今 かズシリとした重みと憂いのようなものを感じてしまう。目のさんでいるような、そんな自然な佇まい。フジフプリックの 極限状態にあることを暴露しつつ、演奏を始めるよりも先にま前の誰かにもっと近づいて寄り添いたくても、うまく距離をはデビュー曲「桜の季節」ではスキャットや速弾き取り入れて ずは手拍子を客席に求め始めた。あまりにも唐突で意外な要求かりかねているような、けど開き直ってしまう大胆さもあるよ遊んでみせる。そんな自由奔放な彼の姿に、メンーの急逝か だが、思わずそれに乗ってしまうオーディエンス。「よしやっ うな、そんな彼女の歌による真摯なコミュニケーションだ。救ら始まったフロントマンとしての成長の歴史の重を感じてし た ! ありがとうございます ! 」と嬉しそうに叫ぶと、「愛情と いを求め夜の街を歩きまわる様子を描いた「夜が明けたら」は、 まう。最後に披露された「虹」のアウトロではやりこい放題のギ バンドスタイルよりもダイレクトに歌が届いてくるぶん、そのター祭り。おどけたポーズや動きで客席を煽りなら弾きまく 矛先」を元気よく唄い出した。バンドで聴くそれとはテンポも 演奏も違うのだが、曲の原色だけを色濃くしたようなアレンジ歌詞に刻まれた彼女の思いが迫ってきて、心が震えた。いっぽ り、さらに即興で「セロリ」をカバー。放っとけば時間でも 2 が耳を惹く。山崎の余韻を引きずっていたはずの会場の空気を、 うでギターを始めたきっかけが山崎まさよしであること、そし時間でもやっていそうな、この日のトリにふさわいステージ。 たった 1 曲で一変させた彼は、その勢いと若さでどんどん自分てこの日を迎えるにあたって山崎のカバーをやろうと思ったけ今日は彼と美味い酒が呑めそうだと、このあとのち上げに思 の世界に引き込んで行く。バンドで見せる表情とは明らかに異どセットリストから外してしまったことなどをで語ったあ いを馳せてしまうほどだった。 なる、たったひとりの歌の世界。バンド以前にずっとひとりでと、始まった曲はなんと山崎まさよしの「ふたりで— アンコールは山内、山崎、大森、そして佐藤の人が横一線 になって「デイドリーム・ビリー 音楽と向き合って来た彼のバックグラウンドが成せるワザに、 に行こう」。彼へのオマージュが強く感じられるその歌に、会場 ー」のセッシン。事前 完全に圧倒されてしまった。四歳のバンドマンが弾き語りライ はしておらず、当日会場で軽く合わせただけ。そとは思えな は盛大な拍手で応えていた。 山内総一郎はフジフアプリックのヴォーカルとギターを担当 い息の合った歌と演奏に舌を巻く。そして照れつつも短いセッ ヴをここまでやれてしまうとは。 2 階席でそんな彼の姿をひっ ションの時間の中でお互いの距離を詰めようとすステージ上 そり見ていたバンドメンバーたちは、どんな気持ちだったのか していて、最近はバンド活動の合間に単独で弾き語りを行うこ が気になった。 の空気に大きな歓びを感じた。〈歌で繋がる一夜〉いうこの日 とが多くなったが、もともと彼はバンドのギタリストであり、 無造作に後ろ髪をひつつめたヘアスタイルにからし色のセー ヴォーカリストとして唄うようになってからのキャリアはまのイベントに掲げていたテーマが実現した瞬間。代が異なる 4 人がまさに歌でひとつに繋がった夜となった。 ターとデニム。アコースティックというイベント形式にならっ だそれほど長くはない。そんな彼がイベントのトリを務めるこ 0 第 イ 0 5 5

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昨年 9 月に活動の〈小休止〉を宣言した森山直太朗が新山 / しいアルバム『嗚呼』とともに帰ってきたのだが、この作ロ 品が実に素晴らしい。どんな作品においても歌に力点が 置かれてきたこれまでとは違い、歌そのものより森山の 音楽的ルーツや嗜好がサウンド面で強く押し出された、、叩 ソングライターとしての彼の才知が存分に開花されたし 一枚とな 02 。一」こまで能動的というか主体的に彼が音新 楽と向き合って出来た作品は久しぶりのような気がす る。その変化は小休止前に勃発した身内の事件に起因 している。彼のマネ刻ジャーであり実の姉との衝突、そし て別れ。これまで森山を全面的にプロデュースしてきた 彼女が離れたこと、そこから突入した小休止期間中の 山ごもりなどが相まって、このような作品が必然的に生 まれたのだ。永らく彼は自分の名前で活動していながら も、その中心に存在するのではなく、姉をはじめスタッフ の意見やジャッジに大きく身を任せてきた。でも今の彼 は違う。自分が円の中心にいることに充実感を持ってい る。それを恥ずかしいとか不安だとか言ってるのは、間違 いなくその喜びの気持ちに対する裏返しなのだ。 森山直大明 0 7 8

7. 音楽と人 2016年6月号

工モさにはまだまだ青さ、若い勢いがみなきっていた。 よりも重ねて 思うのは 2012 年の『ØOLL}—』だ。既発曲をアコステックにリアレ′ ンジしたあの作品はホリエの楽曲の良さを再確認させてくるもので、そ 、ン・、、、の意味でこのアルバムと通じるところがある。そう小えば、あの時期のア コースティック・ライヴあたりから曲間の >O がずいぶんとくだけはじめ、 図人がリラックスしてステージに立つようになった。そんなカッコつける 、十でもか 0 たが、気取りがも 0 となくな 0 て〕 0 たのた . . 、 . テプりしい土モさ随所に感じあれるものの、そうした熱さや強度は バンの体内で刷の形に還元されている。音楽的には、ロク的で直線的な ビトりも、グーヴをいな = 、アンスを持っ曲が存在感を発揮してい る・とく一 0 ちのフ′クネスを呑み込んだべースとの細かぐ刻 ・・顧するのはシティ、ボ、ツブ・そ 5 この 3 年ぐらい日本の音楽シーンで取り 「、ス・沙汰され紋きたや 6 じゃなく、ほんとに年代に寄 0 たもだテナーは 第、年代から 2000 年代にかけ 0 ックをルツにしてしたはずなのに ! 歌詞も ( 最期のダンズん踊ろう》と、うゾフいインにせ「なさは感じるも ・のの、全体的には平易な言〔回しがされでお言葉だけ見テナーだと 判別できないぐらいである。 一・、ご - っした素直率直さが音楽面を明確にな 0 たのは 3 年前のミ一一・アル 、ム日Ø【」がた一この頃からテサイしよしょヒネ ・」一・・始まる曲ぐっかあるほど。で、一」ヒネるにしても、のアイディア を外に社明確見せるようにな 発揮した昨年のシングル「リ」。。・ャ。ーーー。。•- 。 ・ビダなめートな歌し。デ 0 印ートが高まるプリ , 分、そんな。 - 、【プ ・。構造の妙が、かし歌の刧実さにピタ七寄り添 0 ている。最強であ第。 、・ - - 》を詞っ・い 0 も触れてきたい。過法に書いたことが 、〈リな , ほごの世界第物哀しみやせつなさ、虚無感を〈色のない〉 、う表現で歌に込めてきた。ししこのアルバムの 1 、一「←ある。そして最終曲の「覚星」では〈新しい名前をみた舟の一 . ~ 行く〉と唄。て〔。。だ。力強〔。ちな《」漢字す掲え曲 イトルが前作に続いて 2 曲あるのも、英語表記ばかりた 0 ~ たを思うと、・ 隔世の感がある。これも素直さの表れなのだろう。・ - す , 、、 - 〉》前。い•- 心ま :--co 。。。」の根なには、とをテーマ ・、・、、「当が見えた。〈「回の 4 人はそれをもう大前提として当をらて、。そし、・ てこの音楽にあをポジティヴなメッセージは、 9 人問い限りなく近 :. ′ いものなのだろうこにも 4 人の成熟を感じるだ。 . だから思うのである。ストレイテナーは、もはや物人であり、生き : ・〕 ざまそ〕のになったではないか、と。

8. 音楽と人 2016年6月号

か悩むんだけど、最終的にはウソつけないから間違っててもい みたいな。他の楽器もそうで、メンバーがどこで何をしてるか、 いやって思うんですよ。そういう人だから、一緒にいるのが心 みたいなのがもっとあってもいいなって。そういうのをストレ て清 ・ ( 、イテナーで思ったりしますね。つまりすごくいい刺激を受けて地好くて。安心できる」 っ ー朝までサシ呑みが出来ると。 どるんだと思います」 ホリエ「逆に僕は依与吏みたいな歌詞で聴き手を惹きつけられ清水子っと呑んでますよ。〈手紙〉の歌詞書いてる時も、 1 コー なでないなって思います。だって〈僕の名前を〉聴いて、歌詞の最初ラス目を書いたら後が続かなくて夛メだ ! 呑みに行こ う ! 〉ってホリエさんと呑みに行って。で、呑みながら「今俺こ カんのプロックのところで涙ぐんでましたから ( 笑 ) 」 ういう曲書いてて、親のこととかもそうだしだんだん歳取って つな清水「やめてください ( 笑 ) 。あと、〈ヒロイン〉でも涙ぐんでく きていろいろ思うところあるんですよね」みたいな話をしてた ウこれたらしいです、この先輩は」 人てホリエ「〈ヒロイン〉は、発売前に弾き語りが出来てるまでになつんです。で、その後に何かの動画をホリエさんのユマホで見せ てもらってる時に、そのホリエさんのスマホに電話がかかって たから、俺」 誠ーどんだけ好きなんだ ( 笑 ) 。バンドの在り方としては対照的きて」 とりではあるけど、僕が思う 2 人の共通項は、人としてすごく誠実ー誰から ? 清水「画面に名前が表示されるじゃないですか。そこに〈母〉っ っというか、ウソがない 2 人だなっていうところで。 AJ て ( 笑 ) 」 ホリエ「「は歌詞を見てるとそれがすごい わかりますね。例えば〈こういうこと書いたらリスナーが共感ホリエ「ははははははは ! 」 ーすごいタイミングで実家から電話が ( 笑 ) 。 工あするだろう〉みたいな歌詞って、よくあるじゃないですか」 清水「で、なんで母親の電話番号を〈母〉って入れかなって思 特に恋愛の歌はね。 いつつ「ホリエさん、お母さんから電話ですよ ! 」て電話渡し ホリエ「でも 0 -* c E 「はどこかそうじゃなくて。 必ずそこに依与吏らしさが出てるんですよ。〈クリスマスソンたら、そこから分ぐらい新しい洗濯機がどう一みたいな話 安 をお母さんが全力でされてて。それにホリエさん・ゴリゴリの グ〉もそうだし。あとすごい好きなのは〈手紙〉で〈愛されてい る事にちゃんと気付いてる事いっか歌にしよう〉っていうフ長崎弁で応対するっていうのを見せられて」 かなりレアなシーン ( 笑 ) 。 レーズ。〈いっか歌にしよう〉って今してるじゃん ! って ( 笑 ) 」 清水「で、ちょっと面倒くさそうな感じで話してんですけど、 清水「〈あれはズルいね〉ってメール来ましたから ( 笑 ) 」 ホリエ「僕はそういうところが好きなんですよね。やつばり歌面倒くさそうな中に優しさが溢れてたんですよ」 詞って自分の一番シビアなところが出るじゃないですか。だかホリエ「ははははははは ! 」 らそこを甘やかすような書き方とか方向には絶対に行きたくな清水「それで俺、ワーツ ! て思っちゃって」 ーそれで「手紙」の歌詞の続きが出来たと。 いんですけど」 わかります。で、 0 E 「はリスナーに寄り 清水「おかげで完成しましたね ( 笑 ) 。やつばり口クバンドの 先輩が地元の言葉でお母さんと会話する姿とか、かなか見れ 添った歌詞を書いてるように見えるけど : ホリエ「依与吏のクセとかへそ曲がりな部分が必ずあって。そませんから。あれはすごい良かった。あのおかげ書けたって しうことにしてください」 こがいいんですよね。〈はいへそ曲がり来た↓みたいな ( 笑 ) 」 いい話だ。恥ずかしいと思うけど、これ原稿こしますよ ? 清水「ちょい照れ、みたいなもんですね。やつばり俺もホリエさ ホリエ「全然いいです。面倒くさそうだけど優しと書いてく んといると〈この人ウソつかないな〉っていう安心感があって。 つまり誠実ってことなんですけど。お互いたぶん根っこがマジださい ( 笑 ) 」 わかりました。じゃあそろそろ・ メというか、最終的には自分にウソがつけないんですね」 清水「あ、もう終わりですか ? 」 ー僕もそう思います。 時間が。この続きはまた焼き鳥屋でぜひ。 清水「自分にウソついてでも正解を選ぶか、それとも自分にウ ソつくぐらいだったら間違ってるほうを選ぶか。たぶんどっちホリエ「終わっちゃった ( 笑 ) 」 0 1 9

9. 音楽と人 2016年6月号

LUCKLIFE ラックライフ 僕はこうしてここにいる 文 = 竹内陽香 弱さを認めてもらえる気がするというか この人たちは許してくれる人たちゃなって。甘えですけとね 真っ直ぐなギターロックに飾らない言葉を ね。自分のことを唄ってはいるけど、みんなで 乗せる大阪出身の 4 ピースパンド・ラックラ くよっしや ! また今日から頑張ろか〉って言 イク。ニューシングル「名前を呼ぶよ」は現在 えるものをやりたい。聴いたら足取り軽くな 放送中のテレビアニメ「文豪ストレイドッグ るような。それでライヴとかで「楽しかったで ス」のエンディングテーマで、く僕とあなた〉の す」って言ってもらえることがまた僕にとっ 関係性を唄ったバラードだ。高校の軽音楽部 ての光になるし」 で結成し、バンドをスタートさせてから 1 1 年。 それって自分を肯定してもらってるみた 彼らはこの曲を持ってメジャーデビューを果 いな感覚なんですか ? たす。ちょっと情けなくて自分の弱さをうま 「うん ! めっちゃそうです ! 」 く見せられないヴォーカル & ギターの PON じゃあ肯定してもらうまでは不安だった ( ヴォーカル & ギター ) が、 1 1 年かけて見つけ り、緊張したりします ? たかけがえのない場所と存在とは。 「それは・・・・・・意外とないかもしれないですね。 そういえば。曲作ってるときはくはよ聴いて もともとバンドをやりたいっていうのは ほしい〉しか思ったことないかも。なんか、会 あったんですか ? 話みたいな感じなんですよ。曲を聴いてもら 「唄うのが好きやったんで、音楽はなにかやり うって。僕、ライヴとかとくにそうなんですけ ど、お客さんと居酒屋でサシ呑みしてるみた たいなっていうのは。昔ってオーディション いな感じなんですよ」 番組とか多かったじゃないですか。ああいう のに出て俺はプロになるんやろなって漠然と ー対一の関係たと。 「そう。友達とサシ呑みしてもべつに緊張とか 思ってて ( 笑 ) 。それで高校の軽音楽部で先輩 が演奏してるの見て、くカッコいい ~ 。俺もあ しないじゃないですか。そういう気分なんで れになりたい〉と思ってバンド組んで」 すよ。だからステージのうえで自分を作るこ どんな音楽をやりたいと思ってました ? ともしないし。っていうか作るのができなく 「当時はメロコアとかスカとか、賑やかなやっ て。何回かチャレンジしてみたことあるんで をやってて。その場がおもろければいいみた すよ、妄想で曲書くとか。それするとめっちゃ 緊張します」 いな。誰かが笑ってくれたら嬉しいし。今日は そっちのほうが恥すかしいんだ。 誰が一番目立った ! みたいな感じでやってま 「恥すいですね。それですべったときャパイで したね。だからはじめの頃は自分が何かを伝 しょ ! ( 笑 ) 」 えたいとかっていうのはまったくなくて。で ははは。でも、今回の「名前を呼ぶよ」で も高校 3 年くらいのときに先輩の歌聴いては じめてライヴハウスで泣いたんですよ。歌で 唄っていることって、まさにその一対一の関 人を感動させることができるんや ! 唄うっ 係についてですよね。あなたと私の曲。 「そうですね。この曲はアニメのタイアップの てそういうことか ! ってそのとき思って。そ 話をいただいて、それで原作読んだんですよ。 こからはちゃんと歌のこと考えるようになっ そのなかにく人は誰かに「生きていていいよ」 て。オリジナル曲作るときにも、誰かを元気に と云われなくちや生きていけないんだ ! 〉っ したいなとか高校生ながらに考えて」 ていう主人公のセリフがあって。その気持ち でも、曲を聴いて、自分のために唄ってる めっちやわかるわってなって」 部分もあるのかなと思ったんですが。 ーーなんでわかるわって思ったんでしよう。 「ああそうですね。曲書くときって基本的に何 「バンドに重なるものだと思ったんですよ。自 かにつますいたときなんですよ。何か失った 分も肯定されたがりやから。普段自信もない りとか、上手くいかなかったときとか。そうい し。でもライヴやって、「今日めっちゃ良かった うときに、この状況からどうにかして抜け出 です ! 」とか「ラックライフ聴いて元気出まし したいとか、どうにかして自分を元気にした た」って言ってくれる人がおるから、今までバ いとか、そういうのがあって」 ンド続けてこれたっていうのがある気がして」 それは歌でなら前を向けるのか、音楽は そういうのがなかったら 1 1 年もバンド続 前向きなものであってほしいって思ってるの けてこれなかったかもしれない ? か、どちらでしよう。 「うん。そんなに辛いって思わすにやってこ 「どっちも、ですかね。ラックライフの曲で自 れたのはそういうのがあったからなんやなっ 分は元気になりたいし、聴いてくれた人もち て。そういうことを思いながら書いてて。たか よっと元気になってもらわな嫌なんですよ らこれはライヴハウスで出会った人に対して 書いた曲なんですよ。お客さんが「ラックライ フ」って言ってくれるから・・・・・・なんか泣きそ うになってきたな」 ふふふ。自分を認めてもらえる瞬間が音楽 にはあるんですね。 11 年は長かったですか ? 「あっという間だった気がしますね。メジャ ーデビュー決まって、くうお ! 嬉しい ! ど うしよどうしよ〉みたいにソワソワした感じ になって。お客さんにはライヴで報告したん ですけど、みんな俺ら以上にソワソワしてて ( 笑 ) 。泣きながら、「長かったよな、 1 1 年。お めでとう」みたいな。いや、長かったけど、君 らそんな喜んでくれんの ? みたいな。自分た ち以上に周りが喜んでくれて、それがすごく 嬉しくって。なんか、こういう人たちが一緒に いてくれて良かったなって・・・・・・」 そういう関係を 1 1 年かけて作ってきて、 その人たちに向けた歌でメジャーデビューが できるって、なんかすてきですね。 「うん。 1 1 年かかってようやくメジャーデビュ ーっていう夢が 1 つ叶ったんですけど、全然間 違いじゃなかったなったなって。やってて良か ったって。めっちゃ幸せでした、そのとき」 ちなみに、音楽やってるとき以外も、一対 ーというか、自分を作らないで全部を見せた いタイプですか ? 「見せないです。はははは ! それが不思議な ところなんですよね。僕生きてるなかで、ステ ージのうえが一番素直なんですよ。家族と一 緒にいるときよりも、友達と一緒にいるとき よりも、ステージのときのほうがなんでも言 えちゃうんですよね」 それはどうしてだと思います ? 「なんでなんすかね。僕あんま弱音とか吐くタ イプじゃないんですよ。カッコ良くありたい んですよね、やつばり。自分の弱いところとか あんまり見せたくないから、 1 人で頑張っち ゃうんですよね。けどね、ライヴハウスで出会 ってくれる人たちがくみんな味方だよ〉ってす ごいいい笑顔でいてくれるから、ちょっと頼 りたくなっちゃうんですかね」 そこでなら弱い自分を出せると。 「弱さを認めてもらえる気がするというか、こ の人たちは許してくれる人たちゃなって。甘え ですけどね、それはきっと。でも絶大なる信頼 関係みたいなのがライヴハウスにはあると思 うんですよね。ほんとパワーある場所やと思い ます。だから僕はこれからもライヴハウスでサ シ呑みできる関係を続けていきたいですね」 1 2 7

10. 音楽と人 2016年6月号

百 ク ッ 6 0 2 テ 京コ 1 加 @ 東ア 文 " 樋口靖幸 照れつつも短いセッションの時間の中で、お互いの距離を詰めようとするステ 1 ジ上の空気に、大きな歓びを感じたのだった 撮影 " 高田梓 「春も嵐も」という山崎まさよしの曲がある。〈春の真ん中を彼がゴキゲンであれば今日のイベントは半分成功したものだと会場から驚きの声が上がる。そりやそうだろう。年長かっ 行ったり来たり〉と春風に翻弄されながらも、自分は今ここに 思った。開演前まで楽屋まわりで出演者同士の挨拶が頻繁に行年キャリアの山崎。彼がイベントのトリを務めるが順当なの いるという歌。新木場駅から会場のスタジオコーストへ向かうわれた。もちろんお互い本番前だし緊張もしているのでよそよ に、まさかのトップバッターなのだ。しかしこれ本人たって 道中、この日、日本列島を縦断した低気圧による強い雨と風に そしい空気満載。しかし、イベントを終えてからの打ち上げで の希望で、早々にライヴを終えて呑みたいからでーなく ( それ 翻弄されながら、この歌を思い出した。まさか今日この曲はやはすっかり打ち解けて酒を的み交わしているはず。その楽しげ も多少はあるが ) 、もともと神輿に担がれたり主扱いにされ らんよな、などと思いながら。 な光景を想像しているとすでに開場時間を迎えていた るのが苦手な男なのだ。アウェイな会場の空気に張した面持 アコースティック弾き語りでのイベントとしては不釣り合い 会場のロビーに出演者たちのギターが展示されていて、ドリ ちで唄い始めた「」。ふくよかで温みのある声 なほど広い会場。整然とパイプ椅子が並べられたフロアは、ま ンクカウンターやグッズ売り場よりもそれを写真に収める人でが会場内に沁み渡っていく。パンデイロで作ったズムをルー るで人学式や入社式を彷彿とさせる。たいてい弾き語りライヴ行列が出来ていた。もうすぐオープニング・アクトのライヴがブマシンで同期させた「 g.ä・ というのはアットホームな空間でリラックスしながら楽しむも始まる旨を会場のスタッフが呼びかける。 山崎の洋楽カバーの定番で、代ならではの色そしてオー のだと思うが、どうやら今日のイベントはそういうことにはな この日のイベントを象徴するかのようにアコースティック・ センティックなミュージシャンとしての佇まい , 満ちている。 らない気がする。冷たいパイプ椅子が並んだフロアを見て、果ギターがポツンと立てかけられているステージ。そこへ姿を見「今日は勝手がわからない」だの「老兵はチャッヤとやって」 たしてどんな一日になるのか想像がっかなかった。 せたオープニング・アクトの沖ちづるは、真紅のワンピースを などと苦笑いを交えたを経て、今度はエレの弾き語り 会場一番乗りだった・の大森元まとっていた。まだ入場もまばらな客席に向かって一礼し、無ゾーンへと突入。そこで名曲「ツバメ」を披露。山。が上京した 貴はすでに緊張で顔を強ばらせていて、落ちつかない様子。会言でギターを抱えると、そのまま「クラスメイト」を唄い始める。 頃の孤独で切ない思いを書いたこの曲を情感たつりに唄い上 場まで駅から徒歩、しかも強風の中ギターを背負ってきたのは亡くなった友だちに向けて書いた歌。その歌詞は生々しく鮮烈 げる様は、あの頃から彼にくつついて離れないシ、、のような寂 きのこ帝国の佐藤千亜妃。フジフアプリック山内総一郎は数日 だ。開場中のアクトだからといって遠慮することのない、堂々 しさを湛えていた。最後は「野菜の歌です」とひと添えてから 前に取材で会った時と変わらぬ様子、というかこの人はいつど と唄い切る姿が頼もしい。独特のビブラート唱法で会場の空気の「セロリ」。彼の代表曲を快活に唄い終えると、足気な表情 こで会ってもだいたい同じ。オープニング・アクトを務める沖を震わせながら披露された「光」、歳の頃の自分が二十歳の自 とともに舞台を去っていった。楽屋に顔を出す、さっそく嬉 ちづるは会うたびにどんどん大人っぽくなっている。そして本分に向けて書いた手紙をもとに作られた三十歳のあなたへ」。 しそうな顔で持参した白ワインの栓を抜いてい。本人にとっ 日の最年長である山崎まさよしが楽屋にイン。すると開口一番これから活躍が期待される二十歳の新人に、会場から温かい拍ても充実したライヴだったということだろう。 「今日の天気は誰のせいや ? 」とこちらに突っかかってくる。こ手が送られた。 もしかしたらそれがおまじないの呪文なのか田うほど、出番 ういう言いがかりを言ってくる時の彼は、すこぶる調子がいい 予定時刻通りに開演。山崎まさよしがステージに登場すると、 を待っ楽屋での大森はずっと「トンカッ」というロ葉を繰り返