る在漢字で書けば多く「頑丈」と書かれる。国語辞典でも多くは同様の漢字表記をます示しており、「岩 を 乗」とも書くと注記しているものも何点かある。しかし、「頑」は、昭和五十六年の常用漢字表で 性 多新たに追加された漢字なので、それ以前の当用漢字の行われていた時期の国語辞典では「岩乗」が の 第一に示され、「頑丈」はその下に添えられているものが多かった。 表 漢 レ」 ところで、この「がんじよう」という語はそもそも語源かよくわかっていない元来は馬につい 形 語 て言ったようで、室町時代から例があるが、「四調」「五調」などと書かれていた。ごの表記は江戸 章 時代までは見られるが、明治以降は 第 影をひそめた。江戸時代の節用集で も「岩畳」「岩乗」「強調」などと当 てているものもある。では明治期に はどんな漢字表記が当てられている か。ます、明治期の国語辞典を見渡 してみよう。 1 左の欄 ( ① 5 ⑧ ) に漢字表記 を挙げ、その表記が、仮名見出 しのすぐ下に示されている辞書 明円和英語林集成 ( 第三版 ) 大日本国語辞典 音引日用大辞典 大辞典 新国語辞典 俗語辞毎 辞林 〇 △ △ 〇〇〇 → → → → 118
る及んでいる を 3 語源未詳のため、漢字表記を示さない国語辞典は四点あるが、そのうちの三点は、説明の中で、 多当てることのある漢字表記をいくつか挙げている。 ( △印がそれである ) 参考に挙げた『和英語林 集成』は漢字表記を全く示していない 語源がわからす、従って当てるべき漢字が決められないとなると、仮名表記も問題になる。歴史 語的仮名遣で見出しを立てる辞書の多かった明治期では「岩乗」なら「がんじよう」、「岩丈」なら「が 章んちゃう」、「岩畳」なら「がんでふ」、「頑丈」なら「ぐわんちゃう」、「頑畳」なら「ぐわんでふ」 という仮名遣になり、処理が非常に厄介である。そうなると、発音に最も近い「かんじよう」の形 で立てるのかわかりやすく便利である。そこで、「がんじよう」を見出し形とし、 1 この見出しの仮名遣に当てはまる「岩乗」を漢字表記として挙げる 2 仮名見出しだけで漢字表記は示さない。ただし、説明の中で何種かの漢字表記を紹介することも ある 右のどちらかを採用することが考えられる。先の表で、この語を載せている明治期の国語辞典九点 のうち、 1 のやり方によるもの四点、 2 のやり方によるもの四点で、『和漢雅俗いろは辞典』だけ か例外 ( 「がんでふ ( 岩畳 ) 」の見出しになっている ) という情況である 次に「がんじよう」のさまざまな漢字表記の実例を挙げる。なるべく異なる時期からの例をとり 一三ロ 120
〇漢語、洋語、東京一言葉、田舎言葉、男の声女の声こんがらかひ人まじり笑どよめく声騒々しか りしが ( 坪内逍遙『春廼家漫筆』壱円紙幣・五、明治年 ) これは、全期を通して右の一例だけである。国語辞典の見出しにももちろん見られないただし、 坪内逍遙が終止の形を「こんがらかふ」と意識していたかどうかははっきりしない「こんがらかる」 の連用形は「こんがらかり」のはすだが、これをつい「こんがらかひ」と表してしまったというの とい、つことになる か実際のところかもしれないそうなら、この語形は無視した方かいし 2 漢字表記の多い = = ロ葉 多 の かんじようー「頑丈」が広まるまでの道のり 表 漢 2 物や人かがっしりと丈夫で、こわれたり弱ったりしそうもない様子をいう「かんじよう」は、現 一三ロ 〔付記〕特殊な語形として左のような「こんがらかう」がある 石坂洋次郎 ( ②、⑤ ) 0 0 117
がんじようー「頑丈」か広まるまでの道のりⅡ 第四章新語・流行語をさぐる 1 新語辞典の役割リ アルバイトギャグとキスいアパート 3 俄然とっちゃんポーイ 2 流行語の運命 3 ィット 3 ナウ 4 「ギャル」と「まじ」キセル・キセル乗りテケッ巧 第五章朝・昼・晩、三食の呼称と表記を調べる 1 朝の食事の言い方と表記 2 昼の食事の言い方と表記 3 晩の食事の言い方と表記 4 その他 5 国語辞典中の三食の見出し一覧表 第六章言葉に郷里が現れる 1 物の名を表す言葉 あしつびらてつびら 0 おばち わらぐろ 211 210 ほおだま 1 ふみつぎ 1 むじり 1
1 三ロ とんどが、「岩乗」を漢字表記の第一に挙げていたことによるものと思われる 5 ③の「岩畳」は、明治期の国語辞典七種に漢字表記として挙げられているだけあって、実例でも 明治期に限れば「頑丈」に次いで多く見つかっている。しかし、昭和になってからの例は今のところ 見当たらない国語辞典では大正期の『 <no びき日本辞典』 ( 大正 6 年 ) 『言泉』 ( 大正川年 ) に 出ている程度で、昭和期のものにはほとんど挙げられていないということが大きく影響しているよう に思われる 6 ②の「岩丈」、④の「巖乗」、⑥の「巖畳」の実例の数は似たり寄ったりの情況だが、中では「巖畳」 が明治期には比較的多く見られる。大正期に出た『大日本国語辞典』の見出しでも②、④は立て られていないが、⑥の「巖畳」は参照見出しとして項目かあるのもこの反映なのかもしれない 7 ⑧の「頑畳」は実例も最も少なく、舌 辛書にも見当たらないから、あまり行われなかった表記であ ろ、つ 8 二種類以上の表記を使っている著作者は、 森鶸外 ( ①、④、⑥ ) 武田泰淳 ( ①、⑤ ) 徳冨蘆花 ( ②、③ ) 多 泉鏡花 ( ④、⑤ ) 芥川龍之介 ( ④、⑤、⑥、⑦ ) 木下尚江 ( ⑤、⑦ ) の 正宗自鳥 ( ⑤、⑦ ) 表 漢右の七人である。漢字表記が定まっていなかったための現象だが、特に鶸外と龍之介は三種以上に 2 わたっている。だが、 物の場合と人の場合と使い分けているというような、使い方の違いによるものに
るではない 9 参考のため、『国定読本用語総覧』を見ると、大正七年から使用の第三期、昭和八年からの第四期、 昭和十六年からの第五期に、合計五か所「がんじよう」が使われているが、すべて仮名で書かれ、 記漢字表記は全く見られない標準的な漢字表記がなかったというよい証拠であろう 以上、多様な語形の見られるものとして「あとすさり」「こんがらかる」、多様な漢字表記の見られ 語るものとして「がんじよう」を取り上げて説明を加えてきた。これに類する語は、まだほかにもあ り、それらを含め今後とも実例をなるべく多く集めて実態を明らかにしていきたいと考えている 128
る⑤晩餐 調〇晩餐今果てて ( 斎藤緑雨『犬蓼』、明治年 ) ゅふけ 〇心暢やかに晩餐の膳に向ひ ( 尾崎紅葉『浮木丸』一〇、明治四年 ) ⑥晩飯 の〇先づ先づ裡に人りたまへ共に晩飯を食ふべし ( 井上勤訳『狐の裁判』三、明治 2 年 ) 晩右の六種の表記のほかに「タげ」もあるが、①の「タ餉」が多用されていて、他は少ない。前述の 昼へポン辞書の見出しにある「晩飯」の例は⑥に挙げた一例しか見つかっていない ゅうごはん へポンの『和英語林集成』初版 ( 慶応 3 年 ) のゴハンの項にユウゴハンが見られるから、江戸時 代末期には使われていたと推測される。しかし、明治時代の例は、次に挙げる一例しか拾えていな タ御飯 〇タ御飯の後お歌さんは客間に人った ( 佐々木邦訳『いたづら小僧日記』、明治年 ) 〇タ御飯もいただく事を忘れて ( 吉屋信子『花物語』山茶花、大正 9 年 ) 一三ロ ゅふこはん ゅふこはん ゅふげ ゅふげ 192
をはじめに挙げた国語辞典に見られる「がんじよう」の漢字表記の表も参照しながら、前頁の表の 多説明を加える 己 1 全体として最も実例の多いのは、⑤の「巖丈」だが、明治期だけをとりあげると、⑦の「頑丈」 字の方が大分多く使われている。これは明治期の国語辞典で「巖丈」の表記が全く見られないのに対 咾して、「頑丈」は五種の辞書に載っているということと関係があるのかもしれない 語 2 大正期以後の実例を見ると、明治期とは逆に「頑丈」より「巖丈」の方が多くなっている。とこ 章ろが、国語辞典では大正昭和になっても「巖丈」を挙げているものはない。このくい違いの理由は 第明らかではないが、「頑固で丈夫」よりは「巖のように丈夫」の方が「がんじよう」という語の感じ をよりよく表していると受け取られて好まれたのではないかと考えられる 3 「岩乗」は、明治期の国語辞典の表で〇印が最も多く、△印も加えると七種の辞書に及んでいるのに、 明治期の実例では一つ拾えただけである。この表記は、すぐれた強健な馬について言い、足場の悪 い所や岩石の多い所をうまく乗りこなすという意味を表しているとする説によるらしい。そうなる と、人や物についていう場合にはあまりふさわしい表記ではないと感じて採用をためらう傾きがあ ったのかもしれない 4 ところが、「岩乗」は昭和になってからの実例か意外に多い。これは、そもそも語源がはっきりし ない語であることに加えて、明治からの流れもあって大正から昭和三十年ころまでの国語辞典のほ 一三ロ 126
る昼御飯ひるこはん 調午御飯ひるこはん 昼御膳ひるこせん 表 レ」 称 呼 の これを見渡すと、「ひるめし」に八種、「ひる」に十種の漢字表記のあるのが目立つ。「ひるげ」 三も四種あるが、「昼食」「昼餉」の表記例がもう少しあるはすだと思われる。なお近世に例のある「ひ 晩るいし ( 昼飯 ) 」、「ひるがれい ( 昼餉 ) 」がないが、詩歌集を材料にすれば恐らく見つかるだろう。 昼何点かの辞書の見出しにある「ちゅうしよう ( 昼餉 ) 」「こしよう ( 午餉 ) 」も例が拾えなかったが、 朝これはルビの付いた読みの確実な例となると見つけるのは困難かもしれない 章 五 第 3 晩の食事の言い方と表記 現在普通には「ばんめし」「ばんこはん」「ゆうめし」「ゆうはん」などが使われるが、このほか に「ばんさん」「ばんしよく」「ばんはん」「ばん」「ゆうしよく」「ゆうじき」「ゆうげ」「ゆうこはん」 「おゅう」「やしよく」も見られ、十四種に及ぶ。証拠の実例を挙げて簡単な説明を添える ばんめし = 二ロ 182
ひるこはん 〇其中に昼御飯が出た ( 佐々木邦『続珍太郎日記』七、大正川年 ) ひるこはん 〇お昼御飯や西瓜をいただいたり ( 川端康成『夏の宿題』 2 、昭和ロ年『級長の探偵』所収 ) ②午御飯 〇「 ( 略 ) ところで、あなたはお午御飯は・ : 」「もう済みました」 ( 岡本綺堂『半七捕物帳』広重と 河獺・一、大正ロ年 ) 〇間もなくお午御飯になりましたが ( 坪田譲治『スズメとカニ』、昭和川年『魔法』所収 ) 以上二種の漢字表記のはかに「ひる御飯」の例もある。また、①の第三例や②の二つの例のよう に「お」を付したていねいな「おひるごはん」が多く見られる ⑦ひる・おひる 防昼の食事を「ひる」だけで表すのは、現在もよく使われるが、近世やそれ以前から例が見られる 言それも上に「お」をのせた「おひる」の形が多い ①昼飯 ひる 昼〇いつも遠く行く時には、必す昼飯を用意して ( 島崎藤村『破戒』七・四、明治 2 年 ) どん びる 2 〇もう一分で午砲だ、お昼飯だ、お飯だ ( 泉鏡花『湯島詣』四、明治年 ) 一三ロ ひるごはん ひるこはん まんま 175