詳しく論ずることはしないが、これからの地域開発は「はじめに第三次産業ありき」でなくては ならない。また、公的セクターを地域経済発展の原動力になる第三次産業のひとっとして位置づ けることも重要であろう。 インフラ整備やイベントは万能でない 第三次産業振興を図っていくためには、どういう手段がよいかというと、これまで手法が開発 されてこなかっただけにむずかしいところだが、誰でもすぐ考えるのはインフラ整備、イベント 振興である。 しかし、インフラが整備されても、それをどう使うかが問題である。たとえば、コンべンショ ード・インフラのなか ン・シティーのようなものをめざそうとすれば、なにが必要か。まず、 灯でも、道路だとか下水道、会議場といったものだけでなく、ホテルのようなものも必要である。 さらに、通訳、警備などという、 いわゆるソフト・インフラも不可欠である。しかし、そのよう と なものが備わっても、使ってくれなくてはしかたがない。たとえば、京都の国際会議場は、以上 の のようなものは一通りそろっているが、従来、政府があまり使ってくれなかったので、十分に機 方 地 能しなかった。 章 三最近、民活事業の対象として国際交流施設を地方に建設することが進められているが、本当に 政府がするべきなのはそういうインフラ整備より、継続的に政府関係の国際会議を地方で開催す 115
一一、中部新国際空港、中央新幹線、伊勢湾架橋などを、将来の遷都を前提に、長期的に一一一世 紀にふさわしい先進的なインフラとして整備する。 三、教育機関、文化施設、住宅などを先行的に整備し、一部政府機関の移転も行う。 四、三〇年後に遷都を行い、その場合、すでに新首都に移転していた政府機関のうち一部は東 京ないし他の都市に移転させる。 このような地点選定と手順だと、名古屋のために進めたインフラ整備をそのまま新首都のため に生かせるし、ソフトランディングすることにより、遷都による混乱を最小限にとどめることが できよう。ともかく、これだけの予告期間をおけば、個人も企業も、あるいは外国公館も十分な 代対応ができるし、自ずから東京に残るものと新首都に移るものとの整理ができる。また、この点 活が非常に重要なのだが、三〇年先であってもいずれ首都が移る、ということになれば、さしあた 方っての東京集中もかなり鎮静化するはずである。 地 は 紀 世札幌と福岡を副々都に 関西が副都として西の横綱であるとすれば、札幌と福岡は東西の大関として、副々都というべ き性格をも 0 ている。それぞれ北海道、九州というかなり独立性が強く、まとまりもよい経済、 文化圏の中心であるし、陸路、空路の要地としての性格ももっている。とくに中心部から便利な 209
る、あるいは民間の国際的な行事を地方で行うよう誘導することである。施設は諸外国での国際 会議に使われているものと比べても、結構立派なものが、すでに地方にもある。 イベントについては、神戸のポート。ヒアの成功あたりを機に各地方でもたいへんなブームであ る。内需拡大、地域振興という観点からいっても、「個人消費拡大の契機たりうること、社会資 本整備にあたってのコンセンサス形成に寄与しうること、第三次産業を中心に民間の設備投資が 促進されること、地域における意識の高揚や個性ある地域づくりにも貢献するということ」など が評価されている。より効果的なものとするためにはイベント関連産業の育成などの課題も多 、通産省でもイベント研究会 ( 座長・木村尚三郎東京大学教授 ) を設けて、今年の三月に報告をま とめている。たいへん立派な報告となっているので御一読を勧めたい。 イベントの問題について私が感じるのは、やや巨大イベントが過大評価されているのではない かということである。巨大イベントの場合、期間中は需要が拡大するが、終わったとたん地域経 済が落ち込むことが多い。それでも、イベントのために整備されたインフラが十分に活用できる ようなものだったり、ノウハウの蓄積が将来生かせるようなものならよい。しかし、そのために は、イベントの規模が適正でなくてはならないし、イベントの企画の段階から終了後の活用策な どが織り込まれていなくてはならない。そういったことからすれば、巨大イベントより規模はそ れほどでもないが、あとに残るものがあるイベントが地元のためには良いように思う。 もちろん、巨大イベントがいちがいに悪いとはいえない。しかし、たとえば、東京オリンビッ 116
のであった ( 図 4 ) 。 この新産業都市の収支バランスを、どうみるかはむずかしいところである。目標達成率をもっ て優等生とそうでないところを云々する論者もいるが、野心的な目標だったところが達成率が低 くなっているだけ、ということもあるから無意味である。 私も国土庁で、この新産業都市の担当係長を制度発足後二〇年近くを経た昭和五三年から五五 年まで勤めていたのだが、全体的な収支パランスとしては日本全体のためにも、指定地域にとっ ても。フラスのものであったことは間違いないと思う。 ともかく、このような制度がなかったなら、工業立地はより大都市中心に進んだであろうし、 年その結果は過密過疎の問題はより深刻になり、日本経済の発展も阻害されただろうということで 8 ある。 のそれに対して問題点はだいたい次のように整理できよう。 本まず第一は指定箇所が多すぎ、効果が薄められたことである。計画立案者の意図としては、岡 日 と山県水島、大分県鶴崎などせいぜい数カ所のみを指定するつもりだったのだが、空前の誘致合戦 の結果として、最終的には政治的配慮で新産業都市だけで一五カ所、さらに事実上それと同様の 日 優遇措置を受ける「工業整備特別地域」の制度も議員立法により創設され、これも六カ所が指定 一一された。 第 さらに、大都市圏の整備の名目で、よく似た制度も認められることとなり、半数以上の県がな
そうしたなかで、この地方にとっても有望なのは観光開発である。とくにポイントは自動車へ の配慮である。幸か不幸か、東京周辺の住人はドライブの楽しみというのを味わうことがたいへ んむずかしい。東京を車で脱出するのもむずかしいが、観光地でもまたたいへんである。幸い東 北は、東京からのドライプ旅行のためにほどほどの距離にある。しかも、土地が広大で地価も安 いから道路建設が容易である。なにも高速道路とか高規格幹線道路などといったものが良いので ドライ・フを楽しむには はない。あんなものは景色が悪いから目的地まで辿りつくのこよ、 不向きなのである。普通の道を渋滞に巻き込まれずにのんびりと、沿道の風景や人々との触れ合 いを楽しみながら走るというのが、たとえばヨーロッパのひとたちの楽しんでいるドライプ旅行 であるし、あちらでは道もそういうような目的に好都合にできている。 また、東北の観光地は県境の山岳地帯が多いが、県庁所在地からの道路ばかりがよくなりがち で、県境を越えた観光が発展しない。別府から九重、阿蘇を通り熊本まで九州を横断する「やま なみハイウェイ」のようなものがほしい。 ドライ・フ旅行の条件整備というのは、道路を良くすればこと足りるものではない。宿泊設備に してもそれに向いたものでなくてはならないし、車に対するサービス態勢も整備しなくてはいけ ない。フランスにはミシュランという有名なドライ・フ旅行をする人のための、至れり尽くせりの ガイドがある。観光案内 ( グリーン ) 、ホテル・レストラン・市内交通案内 ( レッド ) 、道路地図の 三点セットになっていて、これさえもっていれば知らない地方でも外国でも安心して旅行でき 230
この地域発展のためのもうひとつの方向は、情報化の進展を活用して地域内多極分散化を図る ことである。「情報化が進むと経済社会活動が広域化する」、「そうしたとき元来分散型の国土構 造だと一極集中が進むとは限らないが、東京のようにもともとすべての意味で強力な都市が存在 すると、情報化は一極集中促進要因となる」ということはこれまでに本書でもたびたび書いたと おりである。 そうした観点からすると、中国四国地方に核となる都市がないということは、情報化という流 れのなかで分散型の地域構造を実現しやすいということになる。 だとすれば、私のいう全国首都化構想のミニ版をこの地方でやってみてもいいのだ。行政機関 の情報化というのを徹底的に進め、行政機関相互、民間と役所の接触から、できる限りフェイ ス・トウ ・フェイスの要素を排除しうる体系をつくりあけるということを試みてはどうか。た とえば、四国など各県庁と各省出先機関にテレビ会議実行可能な施設を設置するにはたいへん向 いているので、国が実験的に援助してはどうか。そうすれば、通産省の出先が高松で、郵政省の 出先が松山でも、不便でもなんでもなくなる。 ただ、強調しておきたいのはケチな施設整備でお茶を濁すのならやらない方がいいということ である。設備の質よりも問題は量である。せつかくテレビ会議設備を設けても、使いたいときに 、ソコン、 使えないようでは、仕事の手順のなかに組み込んでいけないからである。ワー。フロ、 ファックスなどなんでもそうだが、役所では自らのオフィスの情報化を進めることがひとつの先 220
第四次全国総合開発計画 ( 四全総 ) 要旨 第四次全国総合開発計画 ( 四全総 ) 要旨 ・現状と展望 東京圏への高次機能の一極集中と人口の再集中。地方経済の停滞。 21 世紀へ向け て高齢化、国際化、技術革新、情報化等が進展。 ・目標 地域の活性化と就業機会の確保。東京圏の世界都市化など全国各地域の国際化。 安全で質の高い居住環境の整備。国際化と発展のため多極分散型国土の形成をめ ざす。 ・交流ネットワーク構想 地域間交流を活発化させるため交通、情報・通信体系の整備と交流の機会づくり の拡大をめざす交流ネットワーク構想を推進。 ・東京圏の整備と多極分散型国土 過密化防止のためにも多極分散型国土の実現が必要。そのため工業再配置、中央 省庁の一部機関等の移転・再配置の検討・推進、全国的文化、研究施設の原則東 京外への立地、東京中心部等に立地する事務所に対し便益に応じた負担を求める 等の措置の検討、遷都問題の検討。 世界都市として国内のみならず国際的にも貢献。そのためにも臨海部等新都心、 周辺業務核都市等への諸機能の選択的分散が必要。市街化区域農地の適正な利用 も含め住宅、宅地の供給増加や遠距離通勤の改善を図る。 ・関西圏・名古屋圏 関西圏は関西文化学術研究都市、関西新空港等を活用して独創的な産業と文化を 創造する中枢圏域、国際交流拠点をめざす。名古屋圏は既存の工業集積を生かす などして産業技術の中枢圏域をめざす。 ・地方圏の活性化 約 1 万 4000 キロメートルの高規格路線道路、コミューター航空の活用等も含めた 空港空白地域の解消、整備新幹線の逐次着工等により全国一日交通圏を構築する。 光ファイバー網の整備等による遠距離通信コストの低減。工業だけでなく研究開 発機能や新しい産業、政府機関、高等教育機関、事務所の分散配置。国鉄跡地等 も活用した都市機能集積拠点の整備。各地域の産業・技術ネットワークの形成。 国際交流の促進。農業の高生産性化。 1.5 次産業の育成。大規模リゾート整備。 マルチハビテーションの促進。海洋の総合的利用。 281
なると、水運上のメリットは鉄道の開通でかなり減殺されたが、そのかわり、大陸への近さとい うのが新しいメリットとなった。また、商業、工業の蓄積が関東と比べると格段に充実していた から、そのようなハンディ・ゲームをしても関東に十分対抗できたのである。 しかし、いまや航空機や新幹線、高速道路といった高速交通手段の出現と、それが東京中心に 整備されたことで地理的な優位性が十分に生かせなくなっている。新しい産業を興す力も関西の 方が上ともいえなくなってきた。 そういうなかで、あいかわらずハンディを背負いながら戦っても勝ち目がないのではないか。 大阪は国税に対する、受益・負担比率が全国最低だそうである。「税金はお上に差し上げたよう なもの」という徳川時代の浪速商人の感覚のままなのである。この辺でもっと国庫から資金を引 救き出し、また国に要求を積極的に出していく姿勢に転じることが不可欠だと思う。 わいしようか 全この関西の特性についての認識不足は、発想の矮小化にもつながる。現在、京都は一九九四年 日の平安建都一二〇〇年祭に向けて準備を進めているが、ともすれば、地方都市の市政一〇〇年祭 がと違わないようなレベルの志の低さを感じさせる議論にも出会うのが残念である。 西 関 文化首都論の落とし穴 五「文化首都」という言葉は、元来、京都商工会議所の塚本幸一会頭が、建都一二〇〇年に向けて の京都のあり方として提案したものである。古い文化を守り、それを土壌としながら、新しい文 177
道路については、四全総の目玉のひとっとして一万キロに及ぶ高規格幹線道路の建設があげら れたが、これまでの東京指向、列島縦貫路線からプロック内交通、列島横断にも目を向けた整備 方向として歓迎したい。とりあえず、二車線でもいいではないかということも含めて、従来の高 速道路のコンセプトにこだわらず「準高速道路ー的な考え方も導入されているのも適切な考え方 であろう。 さて、・フロック内での交通機関として最近鉄道が見直されている。そうした観点から新幹線の 整備を積極的に進めることにかなり経済合理性がある、という考え方も出ている。しかし、新幹 線は、三 ~ 四時間を越える距離だと、圧倒的に飛行機に優位に立たれてしまう。おまけに大量輸 送でないと採算が合わない。一方、・フロック内の輸送手段として新幹線があまり向いているとは 思えない。まず、広就になっているので狭就の在来線との乗り入れもできない。駅をあまりつく れないので、結局は便利ではなくなってしまう。 そこで提案したいのは、新幹線の替わりに現在の在来幹線を徹底的に整備し直して、「準新幹 線ーのようにすることである。現在のルートのうちあまりにも遠回りをしているところは思い切 ってル 1 トを変更し、小さなカーブでスビードを出せないところは真っすぐにすればよい 車両にしても、ある程度曲がりくねったレールを高ス。ヒードで走れるものが開発されるべきで ある。スペイン国鉄の誇るタルゴ・エクスプレスなど、客車一両に車軸が一本しかない客車を芋 虫のように連ねたものだが、十分に乗り心地良く、カステリアやアンダルシアの曲がりくねった 160
享受に応じてなんらかの負担を求めることを検討する ・遷都問題は東京集中への基本的対応として重要なので、国民的規模での議論を踏まえ引き続 き検討する としている。 また、地方に定住したままで全国と一日で交流できるという「全国一日交通圏」を実現するた め、主要都市間の交通は三時間以内、地方都市から複数の高速交通機関へのアクセス時間を一時 間以内とすることをめざし、ヘリポート、コミュ 1 ターの活用も含めた航空網の整備、総延長一 万四〇〇〇キロに及ぶ高規格幹線道路の建設、新幹線と在来線が一体となった広域鉄道網の整備 年を図り、また高度な情報通信体系を整備するとしている。 その他、各省庁、各地方などの意見が幅広く取り入れられたものとなっているが、土地問題に のついても、「根本的な保有、処分、利用がどの程度制限を受けるべきか、その負担はどケあるべ 本きかについて国民的コンセンサスの形成をはかるべきである」としたのが注目される。 日 と全般的な特色としては、経過報告に対する批判も含めて国民的議論を踏まえて書かれたものだ 列けに、わが国が直面する問題を幅広くとらえ、また・ ( ランス的にも国民各層の常識に合致したも 日 のとなっていることが評価できる。「各方面の意見が活発に出て四全総への関心がこれまでにな 二く高まった。少し突っ込みの足りないところもあるが、心おきない内容に仕上げられた」 ( 星野 第 進保国土庁計画・調整局長 ) と作成責任者が自負するのも理由のないことでない。