90 第 43 話単位の歴 SI 単位という用語の意味は第 35 話で説明しました . こで取り 上げる SI 単位の履歴というのは 1967 年の第 13 回国際度量衡総会 から 1983 年の第 17 回総会までの間に SI の基本単位と固有名の組 立単位にどのような変更や追加が施されて現在に及んでいるかの流 れを明らかにしておこうというものです . ケルビン度がケルビンに改正されたことは第 19 話 , モルが基本単 位に追加されたことは第 23 話ですでに述べました . 固有名の組立単位の追加を極力抑制したいという意図は単位諮問 委員会の設置以来の基調であったにもかかわらす , 1971 年の第 14 回総会はバスカルとジーメンスを追加することを決定し , 続いて第 15 回 , 第 16 回総会は電離性放射線被曝の防護の名目のもとにべク レル , グレイ , シーベルトを次々に導入したのでした . セルシウス 度だけは総会の決定を経ることなく 1977 年刊行の SI 原本第 3 版 以降固有名の組立単位の表中に登場しています . 人名に由来する新しい固有名の組立単位が SI において公認され ることは国家的名誉にもかかわることですから , 国際的な感情のし こりを残さないよう単位諮問委員会が慎重な態度をとるのもなるほ どとうなすかれます .
第 37 話原本の刊行 第 33 話で述べたとおり SI の使い方に関する ISO の推奨規格が 1969 年に整備され , また第 35 , 36 話で述べたとおり国際度量衡委員 会が同年に SI 単位という用語を命名しまた SI 以外の単位の併用 上のルールを決定したことにより SI の使用上の疑義ははば全面的 に解消しました . SI 原本というのはこれらの成果を踏まえて 1970 年にその初版が 刊行された出版物であり , その序文によれば " 多くの要望にこたえ て , 国際度量衡局は SI に関する国際度量衡総会及び同委員会の決 議や勧告の内容を系統的にまとめたこの資料を刊行する . この文書 には ISO によって採択された国際規格から抜粋した実質的な規則 とされています . を付け加えた . 当然のことながら国際度量衡総会及び同委員会の決議や勧告の追 加や修正に伴って SI 原本は頻繁に改版を重ねてきました . 第 2 版 は 1973 年 , 第 3 版は 1977 年に刊行されており , 現行のものは 1981 年刊行の第 4 版です . しかしこの第 4 版も早晩改版を要すること は , 第 9 話で述べた基本単位メートルの定義の 1983 年の改正に基づ く必然の要請であると見なければなりません . SI 原本の日本語訳の出版はその初版の当初から計量研究所で計 画されましたが , これまで実際に出版された訳本は第 2 版と第 4 版 だけです . 第 2 版はすでに歴史的な意味しか持たないので , 第 4 版 の訳本の入手を希望される読者のご参考までに入手経路を紹介して おきます .
第 35 話 単位系の一買性 SI 単位 基本単位 ( 7 個 ) 補助単位 ( 2 個 ) 固有名のもの ( 19 個 ) ー 組立単位 組立名のもの ( 不特定多 SI 接頭語 ( 16 個 ) 命名し , 接頭語付きの単位との区別を明らかにしました . は , 一貫性のある SI の部分集合に属する単位のことを I 単位 " と の集合では一貫性が失われます . そこで 1969 年の国際度量衡委員会 合は一貫性のある単位系ですが , m, km, mm, kg, g, mg ・・・など SI に例をとれば m , kg, s, A, N, J, W, V, 0 ・・・などの集 ある単位系と呼びます . 数値係数なしに構成された組立単位とだけから成る集合を一貫性の 与えられた単位系の中で , 基本単位と , 基本単位の乗除算だけで
39 も物理現象の全分野をカバーするにはまだ不十分な存在で , そのゆ えにこそメートル条約機構の中で国際単位系の確立が第二次世界大 戦後の国際的な急務として取り上げられることになったわけです . これから順を追って国際単位系に関する話題を展開していくわけ ですがここで種明かしをしておくなら , MKSA 単位系に不足して いて国際単位系に包含されている基本単位があと 3 個あります . その筆頭は , 温度の単位ケルビン ( 記号 K ) で , この単位が力学 や電磁気学とどれほど深くかかわっているかは読者の皆様も十分ご 承知のはすです . 第二は物質量の単位モル ( 記号 mol) で , この単位は原子量及び アポがドロ定数を仲介としてキログラムと深くかかわっています . 最後は光度の単位カンデラ ( 記号 (d) となるわけですが , この単 位は他の基本単位とのかかわりは比較的浅く , 測光の分野での重要 間 ( 紗 ) 性を考慮して基本単位に加えられているものです . 員 (* ロク、ラム ) ) 単位索 --MKSA 斤斤旦 / ざ 朮 ( 7 パ
64 第 30 話国際単位系の成立 1948 年の第 9 回国際度量衡総会が目標として掲げた " メートル条 約の全加盟国が採用しやすいーっの実用的な単位系 " に対し , 1960 年の第 11 回国際度量衡総会は " 国際単位系 " という名称を与え , そ の略称を SI とすることを決定し , 所要の諸量の単位と 10 進系の接 頭語との表を明示しました ( 1960 年のこの決議については第 18 話 , 第 26 話でも一部触れておきました ). SI という略称は国際単位系を 意味するフランス語 Systeme lnternational d' Unités のはしめの 二つの頭文字をとったものです . この決議において単位は 3 種類に分類され , 基本単位 m, kg, s, A, OK, cd ( 以上 6 個 ) , 補助単位 rad, sr ( 以上 2 個 ) 及びこれらから導かれる 27 個の組立単位の例示が掲げられています . この例示の中で , 長過ぎる単位の名称を簡略にするため 固有名の組立単位 Hz, N, J, W, C, V, 0 , F, Wb, H, T, lm, ⅸ ( 以上 13 個 ) が採用されています . この時点での接頭語は全部で 12 個で , 表す倍 数 , 名称 , 記号は 109 106 103 102 10 ー 6 テラギガ メガキロ デカ デジ ヘクト センチミリ マイクロ ナノ ヒコ h d a とされました . 現行の SI では巻末の付表に示すように基本単位は 7 個 , 固有名 の組立単位は 19 個 , 接頭語は 16 個に増加しており , 基本単位の定 10 -- 3 10 10 ・ - ヨ
41 本晋び乙まっ 絶ケル度 ケルビン ( 2 ) この目的のために , あらゆる国の科学 , 技術及び教育の各 界の意見について公的なアンケートを始めること ( 3 ) メートル条約の全加盟国が採用しやすいーっの実用的な単 位系の確立に関する勧告を行うこと を国際度量衡委員会に対して指示しました . アンケートの締切りは一応 1951 年末に設定されたのですが , その 後も何件かの回答が 1954 年に至るまで寄せられています . 1954 年 の第 10 回国際度量衡総会はこの実用的な単位系を確立するため m , kg, s , A , OK, cd を基本単位として採用することを決議しまし このうち。 K はケルビンの前身で , その名称は " ケルビン度 " で す . モルは当時まだ検討の対象に加えられておらず , 国際単位系は 結局前述の六つの基本単位のもとに 1960 年の第 11 回国際度量衡総 会の決議により発足することになるわけです .
56 第 26 話 補助単位という分類 1960 年の第 11 回国際度量衡総会では , 国際単位系の明確な枠付 を与える決議が採択され , この決議の中で単位は 3 種類のグループ , つまり基本単位 , 補助単位 , 組立単位に分類されました . 元来 , 単 位は 2 種類のグループ , 基本単位と組立単位のどちらかに必ず属す るという解釈も成立するので , この決議に導入された補助単位とい う分類はその後再三にわたり論議をかもす種となり , 1980 年の国際 度量衡委員会が " 補助単位というのは無次元の組立単位である " 旨 の解釈を勧告することによりやっと決着がついたといういきさつが あります . 補助単位の分類に属する単位は 2 個だけで 1960 年に発足し , その 後増減も変更もなく現在に及んでいます . そのうちの一つは前項で 述べた角度の単位ラジアンで , もうーっはこれから説明する立体角 の単位ステラジアンです . 角度という量が円の中心から円周上の弧を見る開きであることに
52 第 24 話 モルとキロクラムの接点 = 約Ⅸ G02000000 基本単位モル ( 記号 m01 ) の国際単位系への導入が国際単位系の 成立の 1960 年から 11 年も遅れて 1971 年にやっと実現を見たにつ いては , それなりの深刻な周辺事情があったわけです . その事情と いうのは , 国際化学連合が長年の慣行に従って天然組成の酸素の原 子量を 16 とする約束に固執していたのに対し , 国際物理学連合が酸 素 16 の原子量を 16 とする約束を採択したことによる原子量の価の 二重性にほかなりません . このような不都合は 1960 年に至って両国 際学会がともにそれまでの原子量の約束を放棄し , 炭素 12 の原子量 を 12 とすることを新たな共通の約束として採択することにより解 決されたのでした . 事態はその後にわかに進展し , 1971 年にはモル が国際単位系の基本単位として採用されるに至ったという次第です . 原子量又は分子量 M の物質が質量襯だけ存在するときその物 質の原子又は分子の物質量をとすれば , モルの定義に基づきこれ
6 第 1 話度量衡法と計量法 明治胙 ( 1 5 ) 明治鸚年 ( 1 川 ) 人田 0 ) え量衡法メ - ル本当墸 公布 公布 ム布 度量衡という言葉は , 戦後に小学校に入学した世代の方々にとっ てはほとんど死語になっていると思いますが , その理由は法律の名 前が戦後間もなく変えられてしまったからです . 1891 年 ( 明治 24 年 ) わが国に初めて度量衡法が公布されたとき , 基本として用いる単位は尺と貫であると定められました . 当時の法 文のスタイルはまことに古色豊かで引用に価するものです . 第一條度量ハ尺 , 衡ハ貫ヲ以テ基本トス 1921 年 ( 大正 10 年 ) には度量衡法の改正が公布され , 上述の第 1 条の、、尺 " は " メートル " に , " 貫 " は " キログラム " に書き替え られました . 同時に尺貫やャードボンドなど非メートル系の単位の 使用を段階的に禁止し , 近い将来国内で使用する単位をメートル系 専用に統一するという方針が明らかにされたわけです . 大方の暦の 年中行事で 4 月 11 日のところにメートル記念日と記されているの
38 第 17 話 MKSA 単位系 第 11 話の MKS 単位系の三つの基本単位に第四の基本単位アン ペアを加えた単位系は MKSA 単位系と呼ばれます . この単位系に よれば力学量のみならすすべての電磁気量をも記述することが可能 です . 電磁気関連の諸単位の名称 , 記号 , 定義については表をご参 照ください . 表の読み方は , たとえば電気量の単位の名称はクーロ ン , 記号は C , 定義は C = A ・ s などというように , 力学量の組立単 位のときの説明と全く同様です . このように , なしみの深い名称を持っ電磁気の諸単位が力学量の 諸単位と一点の矛盾もなく共存できるのは MKS 単位系だけに付随 するメリットで , 第 11 話で触れた重力単位系や CGS 単位系にして も , その他にも存在するいくっかの単位系にしてもこのメリットを 享受することはできません . しかし他の単位系と比較してこれほど優位にある MKSA 単位系 単 位 記号 定義 量 名称 電気量 クーロン 電圧 ポルト 静電容量 ファラド 電気抵抗 コンダクタンス ジーメンス 磁束 磁束密度 テラス インダクタンス 1 「ンユ . ーーノヾ