コストダウン - みる会図書館


検索対象: コメをどうする
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1. コメをどうする

なかろうか 「米価が絶対に引き下げられないとなれば、活力ある日本の農業は守れない」。これは、 ″引き下げ〃が実現できなかったことを批判した農林水産大臣の発言である ( 「朝日新聞」 八月九日夕刊 ) 。本来、農民側の利益に立っ政策の最高責任者にこうまでいわせる事態は 何であろうか。昨八 , ハ年の米価決定劇がいかに日本農業の将来ビジョンと無関係に演じら れたかを物語っている。 農業シン。ハシーの崩壊 わが国の農業政策は近年、価格政策から構造政策へと大転換しようとしている。生産性 を高め、足腰の強い農業をつくることが、農政の新しい目標になっているからだ。実際、 政 メ八 , ハ年春、畜産物価格は引き下げられた。七月には麦価も引き下げられた。農業政策は新 しい方向を着実に歩みはじめたようにみえた。ところが、夏の米価決定劇は農協の政治カ す 自でこの潮流を逆転させたのである。 嶂稲作の課題は「ストダウンである。しかるに、生産者米価の高値維持は、農地の流動 第 化、稲作農家の規模拡大を妨げ、コストダウンを困難にする。

2. コメをどうする

るーというのが通説であった。もちろん米価審議会の議論も然りである。しかし、これは 逆さまである。因果連鎖は逆である。正しくは「価格支持政策がとられるという期待があ るから、コストが上昇する」のだ。 コストが上がったら政府が価格の面倒をみるという制度のもとでは、自動的にコストが 上がっていく。農家は米価引き上げに期待し、コストダウン努力をしない。また、農家の コストが上がっても政府が税金で面倒をみてくれるという前提があると、トラクターや肥 料のメーカーは気楽に値上げができる。資材メーカーは技術革新努力、合理化努力をしな くなり、必然的に農産物のコストは上昇する。 逆に、生産者米価はもはや引き上げられないという見通しになれば、農家自身の合理化 努力はもちろん、農業資材メーカーもコストダウン努力を強化するだろう。そうしないと 利潤を確保できないからだ。 市場の競争圧力が減ってくると、技術革新や合理化など費用を引き下げる努力が弛緩 し、企業の生産効率が低下する状況を、経済学では「・非効率」という ( 「親方日の丸」 のこと ) 。農業では食管制度のもと、まさにこの・非効率が発生してきたのである。 つまり、食管制度の存在が稲作の技術革新を抑制し、コストダウンの邪魔になってき 巧 6

3. コメをどうする

機械化だけが進んだことを指摘したかったからだ。 次の二つの条件から、農家にとってはコストダウンにつながらない技術革新も合理的な 選択であった。第一に、価格支持政策の存在である。生産者米価の決定が生産費所得補償 方式である限り、コスト上昇分は価格引き上げで面倒をみてくれるから、農家にとっては コストダウンによる農業純収益改善の誘因は乏しい。 第二に、非農業分野における所得機会の拡大である。機械化によって農業労働時間を減 らし、余った労働時間を農外就労 ( 兼業 ) に振り向ければ、仮に過剰投資で農業所得は減 っても、″農家所得〃つまり農業所得プラス農外所得はふえる可能性がある。 兼業所得が農業のコストダウンによる利益よりも大きい限り、農家にとっては資本生産 性を犠牲にしても、労働生産性の向上を追求することが経済合理性にかなっている。しか も、過剰投資によるコストアップ分は政府が価格引き上げで面倒をみてくれるわけだか ら、農家は何の損失もなしに兼業所得をふやすことができたのである。 このように、もし生産費補償の価格支持政策がなければ、これほどの過剰投資、すなわ ち奇形的技術革新は生じなかったはずである。 巧 8

4. コメをどうする

コストダウンこそ国際化時代への対応 米国力リフォルニア州では、稲作の技術革新が急速なスピードでつづいている。一〇ア ール当たり単収は六九〇キログラムを超えている。日本は五〇〇キロだから、カリフォル ニアのほうが二〇〇キロ近くも多い。日本農業が居眠りしている間に、日本と米国の農業 の間には大きな技術格差ができてきたのである。先に表 2 ・ 1 でみたように、わが国の生 産者米価が米国に比べ八倍以上も高くなった背景の一つはここにある。 ところで、欧米の先進国では、農産物の四割から八割が輸出向けに生産されており、国 内消費だけを前提に生産しているところは一つもない。コメでさえも、日本を除いた先進 技術革新や合理化など費用を引き下げる努力が弛緩し、生産効率が低下するのだ。 全中は稲作のコストダウンではなく米価引き上げで、農家の利益を維持しようとしてき た。しかし実際には、米価引き上げのもとでは同時にコストも上昇し、農家の利益は増大 しなかった。一方、技術革新と規模拡大で一俵 ( 六〇キログラム ) 当たり一万円以下にコ ストダウンし ( 現在の政府買い上げ価格は一万八六六八円 ) 、発展した農家もある。やれ ばできる。 190

5. コメをどうする

コストダウンを提案した一九八一一年の運動方針など、過去何回か、全中は軌道修正を試み たことはある。しかし、それらは作文に終わり、八 , ハ年八月の米価決定において政治力で 生産者米価を引き上げさせた ( 引き下げになるべきものを据え置かせた ) ことに示される ように、まだ従来の体質から脱却できていない。 私は、食管制度 ( 価格支持政策 ) と農協の政治力が稲作のコストを上昇させてきたと考 える。生産者米価の引き上げについて、いままでは「コストが上がったから、米価を引き 上げる」というのが通説である。もちろん米価審議会の議論も然りである。しかし、これ は逆さまである。因果連鎖は逆である。正しくは「価格支持政策がとられるという期待が あるから、コストが上昇する」のである。 コストが上がったら政府が価格の面倒をみるという「親方日の丸」のもとでは、自動的 論にコストが上がっていく。なぜなら、農家は米価引き上げにのみ期待し、コストダウン努 革 改力をしない。 協 農また、農家のコストが上がっても政府が税金で面倒をみてくれるという前提があると、 章 トラクターや肥料のメーカーは気楽に値上げができる。資材メーカーは技術革新努力、合 理化努力をしなくなり、必然的に農産物のコストは上昇する。市場の競争圧力が減ると、 189

6. コメをどうする

の重要性は従前よりは相対的に低下していく。本来なら、農業は先進国の条件をもつ日本 に向いた産業である。 日本のコメも、技術革新と規模の利益でコストダウンしたり ( 実際、 , ハ〇キロ当たり七 〇〇〇円程度にコストダウンし、輸人米と十分競争できるコメづくりをしている農家がい る ) 、あるいははさ架け米や無農薬米など高付加価値のコメづくりを追求すれば、輸人を 自由化しても壊滅的な状態になることはない。 食管制度のもと、画一的な。ハターンでコメづくりをするのではなく、地域や農家の条件 に合わせたコメづくりをすべきだ。画一性から解放され、ゲリラ戦法的発想に戻ること が、自由化に強いコメづくりになろう。 自由化されれば、食味のいいコメは輸出も可能であろう。日本経済の国際化とともに、 論海外で生活する日本人は増える。また欧米人の中にも「ごはん」を食べる人が出てくるの 改ではないか。彼ら向けに「ごはんー用のコメを輸出すればいい。実際、いま日本の在外大 管 食使館には日本からコメを送っている。 章 農業に対する規制を緩和し、市場原理を復活させれば、コメ農業は強くなれる。以上、 第 二つの提案とも、われわれが一九八一年に発表した z —提言 ( 「農業自立戦略の研 ウラ

7. コメをどうする

高付加価値で生き残る道 第 1 章 3 節で述べたように、消費者の高級品志向が強まっているので、高付加価値農業 成立の可能性が高まっている。無農薬米もその一つだ。 コメづくりで生きていこうと考える地域あるいは農家にとって、付加価値の高いコメづ くりは魅力である。どの産業でも、技術革と規模拡大によってコストダウンをはかる か、高品質と高付加価値を追求するか、一一つの発展の道がある。 さい水田で高付加価値化を追 中山間部の稲作は規模拡大も機械化も制約されており、小 求するしか発展の道はない。しかし、食管制度によってその道が閉ざされているのだ。平 野部はコストダウンで利益を確保できる。その意味で、山間地は両方の道を閉ざされてい るわけだから、平野部以上に食管制度の弊害を強くうけているといえよう。食管制度は産 論業政策ではなく、地域政策だ、社会政策なのだという弁明をよく聞かされるが、いまや逆 改に山間地の人たちの農業の機会を奪っている ( 注 2 ) 。 管 食もちろん、これは消費者が変化し、高付加価値農業の可能性が高くなったからいえるこ 章 とであろう。かってのように、エンゲル係数が高く、消費者が高いコメを買えなかった時 第 代であれば、食管制度のもう一つの機能Ⅱ価格支持政策の恩恵で、価格競争力の弱い山間

8. コメをどうする

図 5 ・ 1 コメ需給の推移 / 替在生産量 ( 万トン ) し 500 L400 L300 生産量 し 200 総需要量 余剰 L000 800 720 666 古米持越量 600 400 200 0 40 42 43 44 45 46 47 48 49 50 引 52 53 54 55 56 57 58 59 60 ( 注 ) 生産量は年産 , 古米持越量は田月末現在の数字データは資料 2 ・ 2 を参照 ( 資料 ) 農林水産省「作物統計」及び「食料需給表」。 にした試算。したがって、 現実には消費者負担はもっ と小さいであろう ) 。 消費者負担と財政負担 ( 納税者負担 ) を合計した コメ農業保護費用は、六一 年度現在、三・六兆円であ る。消費者がコメ輸入自由 化を求めたり、あるいは国 内コメ農業のコストダウン と円高利益の還元を求める のは理由のあることであ る。 168

9. コメをどうする

コスト概念はフィクションである 行政価格である生産者米価の決定方式は「コストプラスアルフア」である (full ・ cost pricing)0 米価審議会は農林水産省の「生産費調査」をベースにして議論するわけだが、 このコスト ( 生産費 ) はフィクション ( 架空のもの ) である。 先に述べたように、技術革新は競争原理のもとで促進されるが、わが国のコメ農業は政 府介人が大きい。生産費所得補償方式という価格政策のもとでは、技術革新の誘因が弱ま っている。現実の「生産費」はそれを反映したものである。逆に、競争原理が採用されれ ば、技術革新によるコストダウン効果が大きく出てくるので、違った水準の生産費にな る つまり、現在のコストは、政府の価格支持政策を前提にして形成されている特殊なもの 論なのだ。価格支持の水準を下げればコストも下がり、逆に価格支持水準を上げればコスト 改も上がる。そういう意味で、価格介人のある産業では、コストという概念はフィクション 管 食である。米価審議会が使う「生産費」もフィクションの世界から自由になれない。 章 第 巧 9

10. コメをどうする

水田利用再編対策がはじまった昭和五三年度以降は、米価はほとんど上がっていない。 大幅な生産調整を実施しているもとでは、生産者米価の引き上げはできなかったのだ。第 二次石油危機当時もわずか二 % の上昇である。食管制度が価格支持を謳い、あるいはこの 一〇年間政治家が変わっても、生産調整のもとでは米価は上がらなかったのである。長期 的にみると、法律や政治よりも経済原則のほうが強いといえよう。 しかし現在、食管制度に対する風当たりは強い。最近二年間、生産者米価は据え置き、 すなわち引き上げ率ゼロである。それなのに、なぜ世論から批判されているのか。それは 第 2 章で述べたように、生産費が低下しているので、下がるべきなのに下がらないことに 対する批判である。 論親方日の丸 改いま、農政は「内外価格差の縮小」という課題に挑戦しており、そのため、農政の政策 管 食手段も価格政策から構造政策へシフトしはじめている。食管制度はコストダウンとどう関 章 係するのか 第 生産者米価の引き上げについて、いままでは「コストが上がったから、米価を引き上げ 巧ラ