経営者 - みる会図書館


検索対象: コメをどうする
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1. コメをどうする

農業が構造転換の局面にあるとき、一番大切なものは経営者能力である。経営者能力の 蓄積が大きければ、新しい時代に適応できる。しかし逆に、その地域に経営者能力の蓄積 が乏しければ、行政がいくら笛を吹いても、新しい方向は出てこない。むしろ、行政のカ で強制的に方向転換をさせようとすると、農村がねじ曲げられて崩れていくだけだ。やは り、農家自身に適応力をつける方向で問題解決を図るべきである。 これが時代の要求である。したがって、経営者能力を培う妨げになっている現行の食管 制度は、改革されなければならない。 さて、それでは「どう改革すべきか」。すでに各章で論じてきたので重複になるが、二 つの点を提案したい。 減反参加は農家の自由選択にせよ 農業に市場原理を導人する意義は一一つある。第一に需要と供給が均衡する。慢性的な供 給過剰がなくなり、政府の手による生産調整が不要になる。第二に技術革が誘発され、 コストダウンにつながる。日本農業の最大の病理が「高価格」である以上、この第二の側 面こそ、より重要な機能である。 172

2. コメをどうする

に人手するかで、農家の発展が左右される。ところが、日本の農協のあり方は、農民の情 報人手を妨げる存在になっている。 農業先進国・米国では、民間アグリビジネス ( 農業関連産業 ) が情報の重要な提供者に なっている。米国の農家は、農機、肥料、農薬などの購人に際しては、栽培技術や飼養管 理技術について優れた情報をもってきてくれる業者からモノを買う。したがって、アグリ ビジネスは単なる資材供給者ではなく、自ら研究開発機能をもち、良質・高度な情報サー ビスを製品差別化の手段としながら商売している。農民に有益な情報を提供できたメーカ ーの資材だけが売れるのである。メーカー間の競争が、農民が優れた情報を人手するのに プラスになっている。 このような報サービス型アグリビジネスの活性化が、ファミリー・ ファーム ( 家族経 営農家 ) を強くしている。米国ではファミリー・ ファームが巨大な企業経営農場と互角に 競争している。大規模な企業経営の場合、組織内部で仕事の分担が行われ、専門家がい る。企業経営は専門的知識の集合体としての強さを発揮し、経営は強い。 これに対し、ファミリー ・ファームの場合、一人でオールマイティを果たさなければな らないから、大規模経営に劣ることになりかねない。しかし、幸いなことに、アグリビジ 192

3. コメをどうする

彼らは、とくにマーケティング能力に優れ、経営者感覚をもっ点、伝統的な農民像と大 きく違う。そこに成功の秘訣があるようだ。知的集積の高い若者たちによって、日本農業 は再活性化していく。「新しい農業革命」が起こりつつあるのだ。 日本の農家の経営耕地面積は平均して一ヘクタール程度である。小零細規模では生計が たたないから、従来、若者は農村から出ていった。しかし、これからは高齢で引退する農 業者が増えるので土地の流動化が起きやすくなり、一〇ヘクタール農家が普通の姿になろ う。経営者能力の高い若者が新規参人できる条件が整いつつある。 土地革命で規模拡大 表 1 に示すように、明治以降、昭和二〇年代後半まで、四〇万人の若者が毎年新しく農 業に参人していた。ほぼ男女同数であったから、毎年二〇万戸分の後継ぎができていたこ とになる。農業経営一世代を三〇年とすると六〇〇万戸分である。 しかし、昭和三〇年頃から新規就農者は激減した。この影響は三〇年を経過した昭和六 〇年代中に出てこよう。農家の高齢化現象が目立ち、しかも後継ぎのいない農家が多い以 上、近い将来、農家戸数の激減は目にみえている。

4. コメをどうする

後、稲作農家数が現状と変わらないと考えている人は二、三割である。それに対して、半 分あるいは三分の一以下に減るとみる人が二、三割もいる ( 長野では四割 ) 。自らの周辺 を見渡したとき、後継者のいない高齢農家や兼業農家が増えているからであろう。 当面、農業の経営環境は厳しい。ほんとうに経営能力の高い農家でないと、営農をつづ けることはむずかしくなっている。加えて、趨勢として高齢化や兼業化が進行している。 こうした情勢を考えると、農家らしい農家は、表 1 ・ 7 にあらわれた以上に減る可能性が ある。したがって、規模拡大の可能性は、多くの人が想定しているよりも大きいのではな いだろうか 3 農民という職業に満足しているか 農家は「農業者」という自分の職業をどう評価しているか。表 1 ・ 8 に示すように、 常に満足している農家は一割程度である。長野県の農家は一七 % と高いが、これは調査対 象者が農業経営士であり、地域の中でもトップクラスの人たちばかりだからであろう。多 くの地域で、まあまあという評価が多いが、長野を除くと、不満足 ( 五段階法でみて—

5. コメをどうする

発し、かなり山奥の村でありながら、過疎化を免れて発展してきた。この大山村に限ら ず、補助金や価格政策などの農政に依存しない地域ほど、農山村は活性化している。 稲作は一番手厚く保護されてきた。しかし、稲作農家には農業後継者がいない。一番大 切な農業対策は後継者確保のはずであるが、保護政策では後継者は残らないのである。 財政で地域の発展を維持するのは困難である。自助努力こそが農業の発展と地域の活性 化につながっていく。補助金依存精神では地域社会の発展はおぼっかないといえよう。 新しい農村開発戦略を 筆者はかねてから、市場原理の尊重を主張してきた。それは「地域社会」という視点が ないからではない。問題は、農の心とか農本主義的発想で地域経済が成立していけるの か、それとも、農家の経営者能力を高めることが農村社会の発展につながるのか、農村開 発戦略としていずれが有効な方法かということである。 野菜や花卉園芸は市場原理のもとでやってきたから、その地域にはマーケティング能力 や経営者能力が蓄積されてきた。農業が構造転換の局面にあるとき、一番大切なのは経営 者能力だ。稲作地帯にはそれが欠けている。稲作モノカルチャー地帯に明るい展望がない

6. コメをどうする

計算ぬきで、「減反反対」という声も多い。 プロ農家は自由化賛成 また現在の食管制度のもとでは、農家は直接消費者に販売することができない。経営カ のある農家は流通マージンを自分の所得に組み人れたいと考えている。彼らにとっても、 食管制度は経営発展の妨げになっている。 各地の農家が食管制度に反対するもう一つの理由がある。保護された産業は必ず衰退す る。逆に、切磋琢磨する中で技術革新と規模拡大を行えば、いまの困難を克服し、将来は 明るい農業の時代がくると考えているプロの農業者たちが各地にいる。片手間の兼業農家 を温存する食管制度のもとでは、自分たちまで共倒れになってしまうという危機感だ。 彼らは、生涯、農業を職業としてやっていきたいと真剣に考えている。この人たちは、 生産者米価は上がらなくてもよいと考えている ( 食管制度が自由化されたほうが米価が上 がるから食管制度反対、というグループとは逆の立場にある ) 。技術力を磨き、経営力を 高めて、ほんとうに農業でやっていこうとする人が、稲作農家として残れるような政策・ 制度を要求する立場から、食管制度に反対する人たちである。

7. コメをどうする

エンゲル法則ー 」こ反逆せよ 経済発展の中で、農業は全産業に占める比重が低下してきた ( 就業人口比でみると、昭 和三〇年の四割から現在一割 0 。これは「エンゲルの法則」が働いたためである。人々 の所得が高まるにつれて、食糧に対する支出の割合が低下するからだ。 しかし、人々が豊かになり、価格は高くても高級なものを求める時代になった今日、農 業はエンゲル法則に抵抗することができるかもしれない。人々が消費に感性を求め、美食 を楽しみ、高い農産物を購人するようになれば、家計費に占める食費の比重低下に歯止め がかかる。あるいは食費は減っても、花等の成長で農業生産物の需要は増える。もしそれ す に成功すれば、農業も停滞産業から脱し、他産業並みの成長産業になれる。 活 越住宅産業の経営者の発想はこうである。いま、都市生活者は所得の二割を住宅ローンに そ払っている。消費者は当然、住宅ローンの割合を小さくしたいと願う。しかし、住宅メー カーの経営者は消費者に「住宅ローン二割」を維持させるため、マーケティングを強化 由 管し、新製品の開発やモデル・チェンジその他で消費者を攻略する。二割を維持する限り、 章消費者の所得の上昇とともに、住宅産業も成長をつづける。 序 農家にはこのような経営者的発想がない。そのため、エンゲル法則のなすがままにな

8. コメをどうする

第 1 章農家の三割は食管制度反対 のは、構造調整期を切りぬけていく経営者能力の蓄積が足りないからではないだろうか。 食管制度の最大の罪はここにある。 コメの過剰供給と財政制約の前に、いま、さしもの農業政策も市場原理の導人が不可避 の方向になってきた。しかし、長期的にみれば、それは悪いことではない。与件の変化を 先取りし、切磋琢磨する農家と地域は、むしろ末来が明るくなろう。これからの農業政策 は、市場原理を活用し、農家の経営力が高まるような政策・制度を設計することが望まし いといえよう。 ( * ) 本章は拙稿「農家の三割は食管制度反対」 ( 『エコノミスト』一九八六年六月一一四日号 ) に一部削除、 一部加筆したものである。

9. コメをどうする

ない。要するに、農家の数が増える要因が出てきたことになる。 ただし、高付加価値農業はアイデアとマーケティングカが勝負だ。知的集積度が厚く、 精密農業ができ、マーケティングに優れた農業地域あるいは農家は、毎年二ケタの高成長 がつづき、逆にそれがない地域は停滞する。時代の条件をうまく活用できる農家とそうで ない農家に大きな差が出てきた。いま農村は激しい地域格差、階層分化の波にもまれてい る これからの地域農業の発展には、人材の蓄積が大切だ。農業構造のソフト化の中で、そ るれは従来以上に重要性をまそう。しかし、経営者能力やマーケティング能力は補助金行政 で培われるものではない。むしろ、補助金行政はそれをつぶすことのほうが多い。 を 経営者能力やマーケティング能力は、″市場〃の中でしか鍛練されない。新しい時代に 業 そはいっていく以上、農業政策も発想の転換が求められているといえよう。 管川哲学のバイオ化 章 序 この数年間で世の中は大きく変化した。まず、「大衆から分衆へ」等と表現されるよう

10. コメをどうする

もともと近代農業は先進国に向いた産業である。日本のもっ潜在的条件をうまく生かす ことができれば、日本農業は強くなれる。とくに農民の知的集積の高さを生かす環境づく りが大切だ 大規模精密農業 人材革〈 ーマンは人に使われるので、ある意 る農業ほど頭脳労働を必要とする産業はない。サ一フリ 味では誰にでもできる。しかし、農家は経営者だから、頭脳労働が必要になる。しかも一 活 を 番経営環境の厳しい産業である。ところが、日本では、「農業はバカでもできる」という 業 そ誤った考え方で社会全体が対処してきた。日本農業の一番根底にある問題点はこれだと思 管しかし、幸いにして、このところ変化があらわれている。気力と知力に満ちた若い優れ 章た人材が農村に戻りつつある。このターン組は、サラリーマン時代の二倍、三倍の所得 序 をあげ、農業で成功している。 、ロ卩