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1. 法学セミナー 2017年1月号

094 法学セミナー 2017 / 03 / n0746 LAW CLASS うかは不明である。しかも、会社が出資額に相当す る額を株主に分配することを認める必要がない ( 株 主もそれを望んでいない ) とも限らない。というのも、 むしろ有効な投資機会のない余剰資金を貯め込んで いる会社 ( わが国の上場会社にもそのような会社は少 なくない ) では、そのままだと経営者に浪費される だけになる危険が大きいであろう。そうであれば、 余剰資金は、出資額に相当する額も含めて株主に分 配させる方が社会的にみて望ましいし ( そうすれば 株主は当該分配金を有効な投資機会を有している会社 に再投資できる ) 、株主もそれを望んでいると考えら れるからである 6 また、会社債権者にとって最も重要なのは、株主 への分配が行われることによって会社の支払能力が 失われ、債務の弁済に支障をきたすのを防ぐことで あると考えられる。しかし、そもそも出資額は会社 の支払能力と何の関係もない数字である。例えば、 出資額 ( 資本金・資本準備金 ) は 500 万円で、資産は 10 億円、負債は 9 億円であるような会社もありうる ところ、そうした会社で純資産 1 億円のうちの 500 万円についてだけ株主への分配を禁じたところで、 会社の支払能力の維持にはほとんど役立たないであ ろう。結局、出資額を基準にして資本金・資本準備 金を算定し、それを元に分配可能額を算定すること は、分配財源規制の趣旨に照らして不合理とまでは 言い切れないかもしれないが、少なくとも積極的に 合理的であるとは言い難いのである 7 。そのため、 立法論として、むしろ資産負債比率を基準とした分 配財源規制 ( 株主への分配後における会社の資産額が 負債額の一定割合〔 110 % や 125 % など〕以上になるよ うな分配に限って認められるとする規制 ) を採用すべ きであることが有力に主張されている 8 [ 3 ] 資本金と準備金というニ重構造の合理性 既述のように、そもそも現行の分配財源規制が資 本金・準備金を基礎としていることの合理性には疑 わしいところがあるが、その点は措いても、資本金 も準備金も、基本的にそれに相当する金額は株主へ の分配のために用いることができないという点では 共通するにもかかわらず、現行規制が資本金・準備 金という二重構造を採用するのはなぜだろうか。 資本金と準備金の相違点は、分配可能額がないの に、会社が分配を行いたいという場合の取扱いが異 なることにある。つまり、分配可能額がないのに株 主への分配を行いたいという場合、会社は資本金か 準備金の額を減らすしかないところ、会社法上、資 本金の額を減らす場合と準備金の額を減らす場合と では、異なる手続が定められている。まず、①資本 金の額の減少については、債権者異議申述手続 ( 会 社 449 条 1 項 ) に加えて、株主総会特別決議の手続が 必要とされる ( 会社 447 条 1 項・ 309 条 2 項 9 号 ) 。こ れに対し、②準備金の額の減少については、やはり 債権者異議申述手続は要求されるが ( 会社 449 条 1 項 ) 、株主総会決議は普通決議でよいとされている ( 会社 448 条 1 項 ) 9 ) このように資本金と準備金とでは、その額を減少 する場合の手続が異なり、資本金の額の減少の方が 株主総会の特別決議が要求される点で手続規制が厳 格である。このことの理由については、出資額をベ ースとする資本金の額を減少して株主への分配を可 能にする場合には、事業規模の縮小など、会社の基 礎に関わる事態 ( いわゆる会社の一部清算 ) が生じて いることが多いからであるという説明がなされ る 10 。しかし、本当にそうであるかは自明でない一 方、仮にそうであるならば、同じく出資額をベース とする資本準備金の額を減少する場合も同様であろ うから、やはり必ずしも十分な説明にはなっていな いように思われる。現行制度が資本金減少と準備金 減少を区別しているのは、むしろ以下にみるような 沿革的な理由が大きいというべきであろう ll)o 明治 32 年商法制定当時、株式は全て額面株式 ( 株 券に「額面額」が記載されたもの ) であり、資本金の 額は、その額面額に発行済株式総数を乗じることに よって算定された。こうした法制の下では、資本金 の額を減少させるためには、発行済株式総数を減ら すか、または額面額を小さくするしかない。しかし、 額面額には下限が法定されており、その下限よりも 額面額を小さくすることは許されなかったという事 情など 12 ) から、額面額は変更しにくく、それゆえ、 発行済株式総数を減少させる方法で資本金減少が行 われることが少なくなかった。そして、発行済株式 総数を減少させるには、会社が株主から持株を強制 的に取得すること ( その結果として株主の締出しも生 じうる ) が必要になる関係で、かっての法制では、 資本金減少の手続のなかで、株主からの強制的な持 株取得 ( 強制消却 ) を行うことが可能であった ( 平

2. 法学セミナー 2017年1月号

068 C 0 1 u m n という ]) が実施され、今後も民法関連の法改正が視野・施行日に一斉に成年に達することによる支障の有無」 バブコメが成年年齢の引下げの施行方法について実 : が法律関係者から多く出されている。また、「第 2 施されたことから、今回は「人の能力」について検討・施行までの周知期間」については、法務省としては 3 してみる。民法 ( 債権関係 ) では、現行民法において・年程度の周知期間を設ける予定でいたものの、 3 年で こととなる。表示行為の外形が存在する場合には意思・改正法の施行日」については、① 1 月 1 日と② 4 月 1 は意思能力を欠く状態で行われた法律行為の効力は無・月 1 日であることから、②に賛成の立場の法律関係者 効とされ ( 大判明 38 ・ 5 ・ 1 1 民録 1 1 輯 706 頁 ) 、この判 : が殆どであった。「第 4 施行に伴う支障の有無」に 例法理が条文化されることとなった ( 改正法案第 3 条・ついては、大半の意見が支障ありとしている。主な理 が、当該制度の利用前における意思能力を欠く状態で・問題や消費者被害に巻き込まれる可能性等が挙げられ 法律行為を行った者を保護する必要があるからであ・ている。また、養育費に関する合意ではこれまで「未 る。また、意思能力の定義についても法制審議会で問・成年者」の用語が使用されていることが多いため、養 方、昨年は民法の成年年齢の引下げの施行方法の検討 : 法律行為をなしうる地位が与えられるため、権利だけ がなされた。成年年齢の引下げについては平成 21 年 10 : でなく義務も伴うこととなり、国民投票や選挙権のよ て、国民投票権者の範囲を 18 歳以上と定める際に、民・引下げの施行時に 18 歳、 19 歳であった場合には悪徳商 法上の判断能力と参政権の判断能力は一致すべきとの・法等のターゲットとなる可能性は否めないものの、選 国会答弁等があり、これを受けて平成 27 年 6 月に公職 : 挙権などとの関連から成年年齢の引下げの法改正は近 選挙法の選挙年齢が 18 歳に引き下げられた。今後成年 : い将来施行されるはずである。我々の責務は消費者被 司法書士 生活と の 人の能力と民法改正 常国会での法案成立が期待できるところである。昨年 : の 20 歳 ( 792 条 ) を維持するとされている。 においては民法 ( 相続関係 ) 等に改正に関する中間試 : 案や民法の成年年齢の引下げの施行方法についての意 : 見募集手続 ( バブリックコメント [ 以下「バブコメ」 に入っている。 規定されていない意思能力に関する規定が設けられる 表示が有効であることが原則であるが、現行民法下で : の 2 ) 。高齢者保護のために制限行為能力制度がある 題となっていたが、結局解釈に委ねられている。 このように高齢者保護のための民法改正がある一 月の法制審議会において成年年齢を 18 歳に引き下げる・ のが適当であるとの答申を受けたものである。日本国・ 憲法の改正手続等を定める国民投票法第 3 条におい : 年齢の引下げを行うとしても、改正法案の施行に支障 : 害等を予防する法整備の構築であろう。 民 法 ( 債権関係 ) の改正法案が、昨年の臨時国会・等がないかバブコメが実施されたものである。なお、 から衆議院法務委員会で審議入りし、今年の通 : 養子をとることができる年齢 ( 養親年齢 ) は現行民法 寄せられた意見の概要を見ると、法律関係団体は総 じて成年年齢の引下げに慎重なようである。「第 1 : 改正法施行時点の 18 歳、 19 歳に達しているものが改正 : に対しては、支障ありとして段階的施行とすべき意見 は不十分であるという意見が大半であった。「第 3 日の候補日が挙げられていたが、新年度の区切りが 4 ・由として、自立のための施策を行う必要性、多重債務 ・育費の支払いの周期が事実上繰り上がる可能性がある との指摘がされている。成年年齢の引下げについては うに原則として権利を付与される場合とは異なること から、その施行には慎重となるのであろう。 現状、法教育が十分受けていない者が、成年年齢の ( H )

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1 14 LAW CLASS を確保するためには、取調べの録音・録画制度だけ 権の承認 ) 、代用監獄制度の廃止、起訴前の身体拘 では足りず、弁護人の立会いを認めるべきとの見解、 東期間の短期化などによって、被疑者取調べの役割 代用監獄制度の廃止や取調べ受忍義務の否定が必要 を根本的に変更するという方策が考えられます。 であるとの見解も示されています 22 ) の考えによれば、被疑者取調べにおける被疑者の供 述獲得を前提とできないため、自白調書などに基づ 被疑者取調べの改革と刑事手続 き有罪判決獲得を確信できる場合に限り公訴提起す るという運用、さらには自白調書に依拠した公判審 最後に、制度論の観点から被疑者取調べを考えま しよう。被疑者取調べやその結果得られた自白調書 理も維持できなくなることになります。刑事手続の 中心を、取調べを含む捜査手続から、公判手続へと は、日本の刑事手続において中心的役割を果たして きました。そのこともあって、違法な手段、虚偽自 移行しようとする方策といえるでしよう。 前者の方策においても、公判中心主義の実現は可 白を招く危険性の高い手段による取調べが行われ、 その結果得られた虚偽自白が誤判原因となるという 能であること、さらに刑事裁判にかけられる際の被 告人の様々な負担や刑事裁判にかかる人的・物的コ 構造が存在したと指摘されてきました。このような 構造を改善する方向性としては、大きく分けて 2 っ ストなどを考えると、捜査手続の段階で被疑者取調 べを適正かっ充分に行い、公訴提起を慎重に判断す 考えられます。 第 1 に、被疑者取調べの役割は基本的に維持しな べきという論理もありうるでしよう。もっとも、公 がら、取調べにおける違法・危険な手段による取調 判中心主義の理念、さらには透明化を徹底できない べを予防するという方向性です。 2016 年改正による 捜査手続における防御には限界があることからすれ ば、後者の方策にも十分理由があるというべきです。 取調べ録音・録画制度などは、これに当たるといえ ます。この考え方によれば、被疑者取調べに関する これらの検討は、「捜査・取調べの適正化」とい う改革の方向性に対して示されてきた、事案の真相 被疑者の権利や手続保障を手厚くすべきことにな り、その法的規律も多様かっ複雑になっていくこと 解明や被疑者の供述確保が困難になるという従来の になります。被疑者取調べの適正化や透明化が進む 批判以外にも、検討すべき点があることを示します。 一方で、被疑者取調べの役割やその結果得られた供 制度論として被疑者取調べを検討することは、被疑 者の黙秘権をどのように保障するかという問題だけ 述の重みはさらに増すということもあり得ます ( 適 でなく、刑事手続全体のあり方という大きな問題と 正化・透明化された手続で得られた供述は、より信用・ 依拠可能という論理もありうるからです ) 。そのよう 関連するといえます。このような大きな視点からも、 な事態は、取調べにより依存する刑事手続を招く可 被疑者取調べ問題をぜひ考えてください 23 ) 能性もあります ( 例えば、録音・録画した記録媒体を、 これまでの自白調書と全く同じように用いる運用など。 1 ) 酒巻匡「刑事訴訟法』 ( 有斐閣、 2015 年 ) 79 頁など。 2 ) この基本構想を検討したものとして、「特集・刑事手 なお、自白調書を前提としたこれまでの実務では、被 続の構造改革」法時 85 巻 8 号 ( 2013 年 ) 4 頁以下、「特集・ 疑者は捜査機関による発問に答えるものの、調書への 『新たな刑事司法制度』と刑事訴訟法」法教 398 号 ( 2013 署名押印を拒否すること ( 法 198 条 5 項 ) で、不当・違 年 ) 2 頁以下、「特集・新時代の刑事司法制度」刑弁 75 号 ( 2013 年 ) 10 頁以下など。その後、特別部会により示 法な取調べに対抗することが可能でした ( 法 321 条以下 された、最終的な案である「新たな刑事司法制度の構築 により、署名押印のない供述録取書は証拠とすること についての調査審議の結果【案】」及びこれに基づく法 ができないため ) 。このことは取調べ受忍義務の課せら 制審議会答申「要綱 ( 骨子 ) 」を検討したものとして、 川﨑英明ほか編著「刑事司法改革とは何か』 ( 現代人文社、 れた取調べで黙秘することの困難さを示唆するものと 2014 年 ) 、「特集 1 ・「新たな刑事司法制度』の構築」論 いえます。他方で、録音・録画した記録媒体には署名 究ジュリ 12 号 ( 2015 年 ) 4 頁以下、「特集 2 ・刑事司法「改 押印は必要ないという有力な見解を前提とすると、上 革』のゆくえ」刑弁 82 号 ( 2015 年 ) 69 頁以下など。 3 ) 三井誠「刑事手続法 ( 1 ) 〔新版〕』 ( 有斐閣、 1997 年 ) 己のような対応策は事実上困難となります ) 。 125 頁以下。さらに、酒巻・前掲書注 1 ) 79 頁以下も参昭 第 2 に、被疑者取調べの役割を限定することで、 4 ) 最判昭和 25 ・ 11 ・ 21 刑集 4 巻 11 号 2359 頁、最判昭和 刑事手続への影響を限定するという方向性です。例 28 ・ 4 ・ 14 刑集 7 巻 4 号 841 頁。これに対し、黙秘権不 えば、取調べ受忍義務の否定 ( 被疑者の取調べ拒否 告知の一事をもって自白を証拠から排除したと評価可能 1 三ロ

4. 法学セミナー 2017年1月号

098 法学セミナー 2017 / 03 / n0746 LAW CLASS 発生日前における資本金または準備金の額を下回らない 場合には、株主総会決議は不要である ( 会社 447 条 3 項・ 448 条 3 項 ) 。③準備金の額の減少については、減少させ た額の全額を資本金とする場合など、一定の場合には債 権者異議申述手続が不要である ( 会社 447 条 1 項第 2 括 弧書・同項ただし書 ) 。 10 ) 江頭憲治郎「株式会社法〔第 6 版〕』 ( 有斐閣、 2015 年 ) 687 頁。また、平成 17 年会社法制定の立案担当者によれば、 資本金の額の減少でも、定時株主総会において欠損填補 の目的で行う場合には株主総会決議は普通決議でよいと されている ( 会社 309 条 2 項 9 号イロ、前掲注 9 ) 参照 ) のは、そのような場合には、一部清算的な側面が少ない という考え方に基づくものである ( 法務省民事局参事官 室「会社法制の現代化に関する要綱試案補足説明」 〔 2003 年 10 月〕 71 頁 ) 。 11 ) 高橋美加ほか「会社法』 ( 弘文堂、 2016 年 ) 363 頁 [ 久 保大作 ] 参昭 12 ) 実務上、額面額は剰余金配当の算定基準とされてい た ( 例えば額面額が 50 円である場合に 1 株あたり 5 円・ 10 円の配当を行うことを「 1 割配当」・「 2 割配当」と呼 んでいた ) といった事情もあるであろう。 13 ) 法務省民事局参事官室・前掲注 10 ) 71 頁参昭 14 ) 主な改正の概要は、以下のとおりである。①昭和 25 年商法改正によって無額面株式制度が導入され、資本金 の算定方法が二元化された。すなわち、額面株式につい ては従来どおり額面総額の合計額を資本金に計上する一 方、無額面株式については原則として発行価額の総額を 資本金に計上するものとされた ( 昭和 25 年改正商法 284 条ノ 2 第 1 項 ) 。②昭和 56 年商法改正によって、額面株 式についても、無額面株式と同じく、原則として発行価 額の総額を資本金に計上するものとされた。このことの 背景には、額面株式についての時価発行増資の実務の普 及があった。額面を大きく超える時価で新株発行が行わ れると、発行価額のうち非常に小さな割合だけが資本金 に計上され、残りは資本準備金に計上されるために、両 者のバランスが悪すぎるという問題が指摘されたのであ る ( 元木伸『改正商法逐条解説〔改訂増補版〕』〔商事法 務研究会、 1983 年〕 194 頁 ) 。③本文でも触れたように、 平成 13 年 6 月商法改正によって額面株式の制度が廃止さ れた。 15 ) 法務省民事局参事官室・前掲注 10 ) 71 頁も、「資本減 少に際して株主総会の特別決議を要求することについて 合理性があるかどうか自体が問題となる」とする。また、 金本良嗣 = 藤田友敬「株主の有限責任と債権者保護」三 輪芳朗 = 神田秀樹 = 柳川範之編「会社法の経済学』 ( 東 京大学出版会、 1998 年 ) 211 頁注 22 参昭 16 ) なお、上記②については、株主総会決議に加えて、 普通株式の株主による種類株主総会の特別決議も必要で ある ( 会社 111 条 2 項 1 号・ 324 条 2 項 1 号 ) 。普通株式 の株主しか存在しなければ、株主総会と種類株主総会の 構成員は同一になるが、両者の決議が要求されるわけで ある。 17 ) ただし、 DCF 法などのインカムアプローチによれば、 会社の再建可能性がある限り、株式価値はゼロにはなら ないはずである。しかも、株主は、 100 % 減資において 分配可能額が存しないために取得対価が無償とされる場 合には、取得価格決定の申立て ( 会社 172 条 ) による救 済も受けられない。そのため、株主総会特別決議の手続 を経るとはいえ、取得対価を無償とすることに全く問題 がないわけではない。全部取得条項付種類株式の全部取 得の対価が無償とされること ( 株主を無償で締め出すこ と ) のみをもって、 100 % 減資のための株主総会決議の 効力、ひいては 100 % 減資の効力に影響が及ぶことはな いとしても、仮に 100 % 減資が会社再建のためではなく、 特定の株主の利益を図るためのものであるといった事情 が認められる場合には、 100 % 減資のための株主総会決 議は、特別利害関係株主の議決権行使による著しく不当 な決議 ( 会社 831 条 1 項 3 号 ) であるとして取り消され る可能性もある。 この点に関連して、福岡高判平成 26 年 6 月 27 日・金判 1462 号 18 頁は、全部取得条項付種類株式を用いた 100 % 減資につき、株主が、無償の取得対価を定める株主総会 決議の効力を争った事案において、取締役らに図利目的 がないこと、当該 100 % 減資の目的が真に会社再建のた めのものであることなどを認定したうえで、株主の主張 を斥けた。 ( くばた・やすひこ )

5. 法学セミナー 2017年1月号

刊行書案内 = 一三ロ 一三ロ 2017 03-04 刑事司法改革と刑事訴訟法学の課題 刑事訴訟法 [ 第 9 版 ] 、三△ . 債権法改正法案と要件事実 開発経済学貧困削減へのアプローチ [ 増補改訂版 ] 交通インフラブロジェクトの可能性 ( 仮題 ) 人間の安全保障と平和構築 少数性生物学 演習・精解まなびなおす高校数学Ⅳ 行政法■日評べーシック・シリーズ 法律時報 3 月号 特集 = 保障・分配・機能強化の中の社会保障 法学セミナー 4 月号 特集 = 法学入門 201 7 経済セミナー 2017 年 2 ・ 3 月号 特集 = 財政にできること・できないこと 数学セミナー 4 月号 特集 = 数学の学び方 こころの科学 NO. 192 特別企画 = グループのカ そだちの科学 27 号 特集 = 「子ども虐待」はなぜなくならないのか 私法判例リマークス第 54 号【 2017 上】 法律時報別冊 新基本法コンメンタール相続 別冊法学セミナー 新基本法コンメンタール刑事訴訟法 [ 第 2 版追補版 ] 別冊法学セミナー 数学ガイダンス 2017 数学セミナー増刊 進化する経済学の実証分析 経済セミナー増刊 統合失調症のひろば NO. 9 こころの科学増刊 つ月 演習・精解まなびなおす高校数学 ll 地域公共交通の活性化・再生と公共交通条例 三上義夫著作集第 2 巻 佐藤隆三著作集第 7 巻 アスペルガー症候群の大学生 2016 年改正刑事訴訟法・通信傍受法条文解析 伊藤真の法学入門 [ 補訂版 ] コンバクトシティと都市居住の経済分析 人間性と経済学 持続可能性のある日本のプライマリ・ケア提供体制 基本憲法ー基本的人権 技術者の能力限界の研究 徹底入門解析学 青年期精神療法入門・日評べーシック・シリーズ 人の国際移動と現代日本の法 社会保険労務士のための要件事実入門 雇用社会の危機と労働・社会保障の展望 中国ビジネス法体系 [ 第 2 版 ] ダイオキシン物語 交通事故過失割合の研究 ロ承文芸と民俗芸能 数学文化第 27 号 演習・精解まなびなおす高校数学Ⅲ 担保物権法 人類の住む宇宙 [ 第 2 版 ] ■シリース代の天文学 「自動運転」革命 現代統計学 電磁気学 [ 第 2 版 ] ・大学院入試問題から学ぶシリーズ 非行・犯罪の心理臨床■こころの科学叢書 つくられた「少女」 経済学入門■日評べーシック・シリーズ 財政学 ( 仮題 ) エナジー・エコノミクス [ 第 2 版 ] 地域プランド政策論 財政学■日評べーシック・シリーズ 日本の法 担保物権法・法セミ LAW ( [ A55 シリーズ 。定期雑誌・増刊 ; 別冊特集号。 3 月 と Wi とと e 「アカウント : nippyo www ・ nlPPYO ・ CO.JP 〒 170-8474 東京都豊島区南大塚 3-12-4 003-3987-8621 [ 販売直通 ] 郵便振替 00100-3-16 日本評論社サービスセンター : 〒 354-8790 埼玉県入間郡三芳町北永井宮本 879-7 0049-274-1780 ※表示価格はすべて本体価格です。また、刊行時期、予価などは予告なく変更する場合があリます。※ ISBN コード掲載

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- 特別企画 生前退位をどう考えるか [ 座談会 ] 憲法から天皇の生前退位を考える ( 下 ) 005 法学セミナー 2017 / 03 / no. 746 九州大学名誉教授 横田耕一 北海道大学准教授 西村裕一 白鷓大学教授 岡田順太 [ 司会 ] 國學院大學教授 植村勝慶 4 生前退位をどう考えるか 植村 ( 司会 ) 前半の議論 ( 前号 ( 上 ) ) で、「象徴と しての務めについての天皇陛下のおことば」の論理 でいうと、象徴としてふさわしい公務を遂行できな いので生前退位ということになるわけですが、憲法 学の立場からいうと、そこは論理的にはつながる話 ではないということを確認しました。ただ、そうで あっても、今回の生前退位の是非の議論とは別に、 まず一般論として生前退位を議論することができる と思います。 横田さんは、かって「即位の原因を示す規定は本 条 ( 皇室典範 4 条 ) 以外には存在しないから、いわ ゆる生前退位は現在認められない。しかし、生前退 位を否定する規定は憲法にはないから、皇室典範を 改正して生前退位制を設けることは可能である。む しろ、天皇個人の意思も一人の人間として尊重すべ きであること、主権者国民が天皇の政治責任 ( 内閣 の助言のあった国事行為を天皇が行わなかったり、天皇 が国政に関わる行為を自らの意思で行った場合などに政 治責任が問題となる ) や道義的責任を追及していけ る道を開くことが望ましいこと、天皇の不治の重患 があったり天皇が老齢になった場合には引退の道が あることが天皇個人にとっても望ましいこと、など から、生前退位を認める方が合理的であるように思 われる。」 ( 横田耕一「『皇室典範』私注」横田耕一・江 橋崇編『象徴天皇制の構造』〔日本評論社、 1990 年〕 121-122 頁 ) と書いていらっしゃいますが、生前退位 制度の一般的な可能性についてご発言いただけます でしようか。 [ 1 ] 一般論としての生前退位肯定説 を認めてもよい。認める場合にいろいろ制約を付け 前退位を否定する理由にはならないから、生前退位 公的行為を認めないなら、これらの反対理由は生 でしよう。 位と即位拒否は、必ずしも同様に考える必要はない いとも言えます。しかし、いったん即位した後の退 底すればそういうことにもなりますし、それでもい いう反対論があります。人権を大切にする立場を徹 めると、即位自体にも拒否を認めることに繋がると それから、人権を尊重して退位に天皇の意思を認 制することは、あまり考えられないですね。 が、そうでなければ自由意思に基づかない退位を強 もらって退位させるという積極的な意味があります 行うことを天皇が拒否する場合には、責任をとって 必要もないことになります。もっとも、国事行為を なければ、自由意思に基づかない退位の強制をする あるというのですが、天皇が国事行為しかやってい 次に、天皇の自由意思に基づかない退位の強制が るうわけはないから、それを考える必要はない。 あれば、現天皇にない政治的な権限を前の天皇が振 あげられますが、天皇が国事行為しかやらないので が政治的に弊害を生ずるおそれがあるということが 生前退位を否定する理由として、前の天皇の存在 きた理由のいくつかは理由になりません。 いうことであれば、これまでの生前退位を否定して のであれば、そして天皇は国事行為しかやらないと ない立場から論じていますが、公的行為を認めない 議論の内容が違ってきます。私は、公的行為を認め 題を議論するのと、認めないで議論するのとでは、 できます。つまり、公的行為を認めたうえでこの問 横田この問題は、前半で議論してきたことと絡ん

7. 法学セミナー 2017年1月号

刑事訴訟法の思考プロセス 115 な裁判例 ( 東京高判平成 22 ・ 11 ・ 1 判タ 1367 号 251 頁、 大阪高判平成 21 ・ 10 ・ 8 刑集 65 巻 9 号 1635 頁 ) も近年登 場しています。同裁判例の評価については、石田倫識「自 白の証拠能力」法教 435 号 ( 2016 年 ) 27 頁以下など参昭 黙秘権告知の重要性については、川崎英明「黙秘権保障 における黙秘権告知の意義」『浅田和茂先生古稀祝賀論 文集 ( 下 ) 』 ( 成文堂、 2016 年 ) 101 頁以下など。 5 ) 斎藤司「強制処分概念と任意捜査の限界に関する再 検討」川崎英明ほか編著『刑事訴訟法理論の探究』 ( 日 本評論社、 2015 年 ) 19 頁以下、渕野貴生「黙秘権保障と 自白法則」同書 184 頁以下など。 6 ) 松田岳士「被疑者取調べのための同行と『実質逮捕論』 について」『三井誠先生古稀祝賀論文集』 ( 有斐閣、 2012 年 ) 537 頁以下なども参昭 7 ) 取調べ受忍義務について詳細に検討するものとして、 酒巻匡「逮捕・勾留中の被疑者の取調べ受忍義務」刑事 訴訟法の争点〔新版〕 56 頁以下、高田昭正「基礎から学 ぶ刑事訴訟法演習』 ( 現代人文社、 2015 年 ) 91 頁以下など。 なお、最大判平成 11 ・ 3 ・ 24 民集 53 巻 3 号 514 頁が、「身 体の拘東を受けている被疑者に取調べのために出頭し、 滞留する義務があると解することが、直ちに被疑者から その意思に反して供述することを拒否する自由を奪うこ とを意味するものでないことは明らか」としていること から、最高裁判例も取調べ受忍義務を認めているとの見 解も存在しますが、同判示は、仮に出頭・滞留義務が認 められたとしても、憲法 38 条 1 項に違反することはない という仮定の判断であって、取調べ受忍義務の存在を肯 定する意味は含まれないと理解することも十分可能です ( 大澤裕 = 岡慎ー「逮捕直後の初回の接見と接見指定」 法教 320 号 ( 2007 年 ) 124 頁 [ 大澤裕〕 ) 。 8 ) 團藤重光『條解刑事訴訟法 ( 上 ) 』 ( 弘文堂、 1950 年 ) 365 頁、河上和雄ほか『大コンメンタール刑事訴訟法 第 4 巻〔第 2 版〕』 ( 青林書院、 2012 年 ) 169 頁以下 [ 河 村博執筆部分 ] 、松尾浩也監修『条解刑事訴訟法〔第 4 版増補版〕』 ( 弘文堂、 2016 年 ) 378 頁など。 9 ) 佐々木正輝ほか著『捜査法演習』 ( 立花書房、 2008 年 ) 377 頁以下など。 10 ) 酒巻・前掲注 7 ) 59 頁など。 (I) 松尾浩也『刑事訴訟法上〔新版〕』 ( 弘文堂、 1999 年 ) 67 頁、酒巻・前掲書注 1 ) 94 頁など。近年、起訴前にお ける身体拘東期間の趣旨を「被疑者の逃亡および罪証湮 滅を阻止した状態で、身柄拘東の理由とされた被疑事実 につき、起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行うための 期間」と捉えたうえで、「被疑者の身柄拘東期間には厳 格な制限があり、捜査機関は、その限られた期間内に捜 査を尽くして起訴・不起訴を決定しなければならないた め、捜査の便宜を考慮して、身柄が拘束されている場合 には、法律で特別に取調べのための出頭・滞留義務を認 めた」との見解も主張されています ( 特別部会第 1 作業 分科会第 8 回会議議事録 19 頁 [ 川出敏裕幹事発言 ] 、大 澤裕「被疑者・被告人の身柄拘束のあり方一一 - いわゆる 中間処分を中心に」論究ジュリ 12 号〔 2015 年〕 94 頁 ) 。 この見解を検討したものとして、石田倫識「接見交通権 と被疑者取調べ」刑弁 85 号 ( 2016 年 ) 115 頁以下、斎藤 司「取調べのための出頭・滞留義務と取調べ適正化論」 「浅田和茂先生古稀祝賀論文集』 ( 成文堂、 2016 年 ) 107 12 ) 酒巻・前掲書注 1 ) 94 頁以下。 13 ) 平野龍ー『刑事訴訟法』 ( 有斐閣、 1958 年 ) 106 頁以下。 さらに、田宮裕『刑事訴訟法〔新版〕』 ( 有斐閣、 1996 年 ) 132 頁以下、鈴木茂嗣『刑事訴訟法の基本問題』 ( 成文堂、 1988 年 ) 68 頁以下なども参照。 頁以下。 ( さいとう・つかさ ) ( 2013 年 ) 751 頁以下などを参昭 ティティを求めて : 中間報告」法学協会雑誌 130 巻 4 号 251 頁以下、井上正仁「講演・刑事訴訟法学のアイデン 追』 ( 有斐閣、 1998 年 ) 362 頁以下、後藤・前掲書注 14 ) 所論集 85 号 ( 1991 年 ) 93 頁以下、田宮裕「日本の刑事訴 67 頁以下、井上正仁「刑事裁判に対する提言」司法研修 23 ) この点、平野龍ー『捜査と人権』 ( 有斐閣、 1981 年 ) 参昭 録音・録画制度」論究ジュリ 12 号 ( 2015 年 ) 55 頁以下も 2016 年 ) 153 頁以下など。さらに、堀江慎司「取調べの 葛野尋之『刑事司法改革と刑事弁護』 ( 現代人文社、 調べの録音・録画制度」刑弁 82 号 ( 2015 年 ) 70 頁以下、 22 ) 川﨑ほか編・前掲書注 2 ) 19 頁以下、関口和徳「取 再論」法時 83 巻 2 号 ( 2011 年 ) 34 頁以下。 したものとして、中島宏「自白法則における違法排除説 21 ) この点、取調べ録音・録画と自白法則の関係を検討 20 ) この点、石田・前掲注 4 ) 28 頁など。 19 ) 特別部会第 26 回会議議事録 20 頁 [ 保坂和人幹事発言 ] 。 18 ) 後藤・前掲注 16 ) 12 頁以下。 音・録画義務が発生すると解することも可能でしよう。 余罪について「被疑者」として取り調べている以上、録 法務委員会議事録 9 号 5 頁 [ 林政府参考人発言 ] ) が、 録画義務は発生しないとされます ( 第 189 回国会参議院 取り調べる場合、法 301 条 4 項に該当しないため、録音・ 告人に対し、録音・録画対象事件に当たる余罪について 府参考人発言 ] など。なお、起訴後、勾留されている被 17 ) 第 189 回国会衆議院法務委員会議事録 18 号 8 頁 [ 林政 2016 年 ) など。 同『被疑者取調べ録画制度の最前線』 ( 法律文化社、 宿信『被疑者取調べと録画制度』 ( 商事法務、 2010 年 ) 、 同『取調べ可視化論の展開』 ( 現代人文社、 2013 年 ) 、指 小坂井久『取調べ可視化論の現在』 ( 現代人文社、 2009 年 ) 、 本評論社、 2017 年公刊予定 ) 。取調べの可視化については、 編『 2016 年改正刑事訴訟法・通信傍受法条文解析』 ( 日 掲書注 8 ) 1321 頁以下など参照。さらに、川崎英明ほか と正義 67 巻 9 号 ( 2016 年 ) 22 頁以下、松尾ほか監修・前 田茂「取調べの録音・録画制度の要点と弁護実践」自由 録音・録画制度」法時 88 巻 1 号 ( 2016 年 ) 12 頁以下、吉 16 ) 改正法については、後藤昭「刑訴法改正と取調べの 15 ) 斎藤・前掲注 (1) 107 頁以下。 として、渕野・前掲注 5 ) 184 頁以下。 取調べの適法性や自白排除の基準について検討したもの 以下など参照。なお、黙秘権の理解を捉え直したうえで、 14 ) 後藤昭『捜査法の論理』 ( 岩波書店、 2001 年 ) 154 頁

8. 法学セミナー 2017年1月号

ー特前企画 大学で法を学び ~ はたらくとは ? Extra ticles 草鹿晋 京都産業大学教授 大学で法を学ぶ意義ー趣旨説明 069 法学セミナー 2017 / 03 / no. 746 本特別企画は、昨年 4 月 30 日に京都産業大学むす びわざ館で実施された合同シンポジウム「大学で法 を学ぶ意義」の内容を基にまとめたものである。 ご承知のように、現代社会の様々なニーズに応え るために様々なバックボーンを持つ人を受け入れ、 法曹に多様性を持たせようということで始まった法 曹養成制度改革は、予想を超える数の法科大学院が 設立され、 ( 従来と比べると大幅に改善しているにもか かわらす ) 司法試験合格率が低迷していると喧伝さ れる一方で、急増する弁護士による競争激化を受け、 弁護士業の魅力が薄れ、弁護士会による合格者抑制 要求が災いして、従来よりも狭い人材しか法曹を目 指さなくなってきているという悪循環のまっただな かにある。 法曹を目指すためには法科大学院に行かなければ ならす、法科大学院を出て法曹資格を得てもあまり いいことはないらしい、という認識が広まった結果、 では法曹を目指してもしようがない、それならば法 科大学院に行く意味もないということになり、さら には法曹を目指さないなら大学で法を学ぶ意味はな いから法学部に行く意味がないという認識が高校生 に広がり、大学における法学教育にも影響を及ばし ているとさえ言われている。 そのことに危機感を持った京都の法科大学院関係 者が、大学における法学教育に対する悪いイメージ を払拭し、法を学ぶ学生の視野を広げ、意欲を持っ て学ぶきっかけにしたい、と共同で企画したのが本 シンポジウムである ( 主催 : 立命館大学、龍谷大学、 京都産業大学の各法科大学院 ) 。様々な分野で活躍す る OB / OG を選りすぐり、法を学ぶ意義や可能性に ついて参加者に感じてもらおうというわけである。 当日は基調講演として大幸薬品株式会社で企業内 弁護士を務める森田慈心氏 ( 立命館大学法科大学院修 了。 70 ー 71 頁 ) に企業法務の魅力について語ってい ただき、オムロン株式会社執行役員の玉置秀司氏に 法学部出身の企業法務として、大学で法を学ぶ意義 を語っていただいた ( 72 ー 73 頁 ) 。第 2 部では、新し いライフスタイルを提案するコンサルタント等で活 躍している芳中千裕氏 ( 龍谷大学法科大学院修了。 74-75 頁 ) 、社会福祉の分野で少年の社会復帰サポー ト等に尽力されている谷坂真紀子氏 ( 76 ー 77 頁 ) 、成 年後見人業務を中心に、社会福祉士として活躍され ている久保原寛子氏 ( 78 ー 79 頁 ) ( いすれも京都産業大 学法科大学院修了 ) にご登壇いただき、法科大学院 等で法を学んだ経験が今の仕事にどのように活きて いるか、現在大学等で法を学ぶ人たちにどのような ことを期待しているか、ということを語っていただ いた。最後に、大学関係者が、法学教育の魅力を増 すためにどのような取組みを行っているかを紹介 し、大学で法を学ぶ意義について考えるきっかけを 提供しようとしたのである。 本特集では、特に法学部生を念頭に置いて、パネ リストの皆さんがどのような経緯で法学部や法科大 学院を目指し、どのようにして現在の仕事にめぐり あい、大学で法を学んだことが現在どのように活か されているか、ということについてご紹介いただく ほか、法学部生・法科大学院生に期待することにつ いて述べていただいた。奇しくも全員が一度は挫折 を味わい、様々な経緯を経て現在の職にたどり着い ている。そして、仕事をしていく中で、大学で法を 学んだ意義を再確認できたと述べている。 本特集を通じて、現在大学で法を学んでいる学生 には、その意義を再確認してもらいたい。進路を悩 んでいる学生は、視野を広げ、いろんな可能性に目 を向けるきっかけにしてもらいたい。 大学も諸君の期待に応えるべく、様々な工夫をし ているが、それはまた別の機会に。 ( くさか・しんいち )

9. 法学セミナー 2017年1月号

012 であって、憲法から考えて必然かと考える議論の余 岡田そこは国民の意識なので、民主的プロセスで 地はないですかね。 決めればよくて、憲法学は、そこにこだわらなくて 横田たしかに、憲法の条文を読むと、皇室典範を もよいような気がします。制度論は別途論するとし 変えて、摂政をみんなで選挙するということは論理 ても、まずは、象徴の消極的機能の面で、「玉座の 的には可能です。 みの天皇制」があれば憲法的には十分という認識で 岡田究極的には、そこまで行き着く。ただ、前半 す。その上に何を載せるかは、主権者が決めること の議論 ( 前号 ( 上 ) ) でもあったとおり、あるべき天 です。 皇像というものを皆がそれぞれもっているのと同様 植村憲法学から内容を充填して決めてかからなく に、摂政でそんなことがあってはおかしいというこ ても、現実的に可能かどうかは別にして、どちらで もいいという議論もあり得るのではないでしようか。 とがどこかにあるかもしれません。 横田政治的権能もない摂政をわざわざ手間かけて 6 議論はどのようなプロセスで 選挙で選ぶくらいだったら、大統領を置いたほうが 行われるべきか いいじゃないかという話になるように思います。 岡田憲法が改正できれば一番よいが、国事行為を 植村次に、生前退位を認めるか否か、認めるとし 隹もできないじゃないかとなったときに、皇室典範 てどのように制度設計するかといった議論を、どの を変えて血筋関係なしに民主的正統性があるかたち ようなプロセスで行うべきかについて考えたいと思 にすることも、天皇制を廃止するよりは心理的な抵 います。 抗が少ないかもしれません。 西村ただ、そうすると、天皇位が空位になってい [ 1 ] 2016 年版の立憲主義の危機 ? るわけですから、万世ー系というフィクションも終 岡田まず、天皇に関わる問題を議論するに当たっ わっているわけですね。 ては、前半の議論 ( 前号 ( 上 ) ) でもあったように 横田全部終わり。 旧憲法と現憲法では、天皇の法的な地位や性質が根 植村万世ー系というフィクションは、憲法上の前 本的に異なっていることをおさえる必要がありま 提ではないから、こだわる必要はまったくないので す。特に旧憲法時代には、政務の法である大日本帝 はないでしようか。 国憲法と宮務の法である皇室典範の二元的法制度が 西村もちろん、そうなのですが、しかし国民心理 設けられ、皇室自律主義が採られていました。現憲 の問題は残りますよね。 法はその二元性を打ち壊して日本国憲法の下に一元 植村そうですね。 化し、皇室典範を国会の制定する法律に位置づけ、 岡田はるか何代も皇統を遡って人を探してきて、 宮務を主管する宮内府 ( 宮内庁 ) を内閣の下に置い それを養子にしろとかいろいろやることは考えられ て、民主的責任行政の枠組みで皇室制度を維持する るでしようけれど、究極的に血筋が絶えることは理 ことにしました。ですから、宮務の事柄である皇位 論的にあり得ます。 継承も、政務の事柄ーー国政の問題ーー - である、 横田そこまでいったら、私などはやめてしまえ、 ういう構造が出来上がっているわけです。ですから、 憲法を変えたほうがいいと思いますけどね。 皇位継承の議論は、国会と内閣が責任をもってコン 岡田政策論としてはともかく皇位の安定的継承と トロールし、民主的責任行政の枠の中でなされると いうことに、憲法学がどこまで関心を払う必要があ いうのが本来の姿です。 るのか、私は、そんなの勝手にすればいいじゃんと にもかかわらず今回は、 NHK のスクープという いう立場です。 名の宮内庁のリークから話が始まりました。まずコ 横田私もそういう立場です。 ントロールできないような世論が出来上がってしま 西村それはそうなのですが、日本国民が、皇統が って、そこに天皇自身の会見を組み合わせて、仕方 断絶してもなお天皇という存在を戴こうと思うかど なく内閣が動き出すという具合に、民主的なプロセ うかは微妙な感じがして、先ほどのようなお話は、 スを無視したかたちで事が進んできています。結論 あまり現実味のある議論ではないような気もします。 が良いならばいいじゃないかという意見もあるでし 二一一口

10. 法学セミナー 2017年1月号

大学で法を学び ~ はたらくとは ? 者保護の法規制や契約に関わる民商法の規定」が法 律になります。消費者保護の法規制についての社内 研修やマニュアル整備、契約書の作成が、これらを つなぐ「法務」となります。私は、法務という仕事 を通じて、 M & A や合弁、ライセンス、コンプライ アンス・リスクマネジメントなど、さまざまなビジ ネス活動に幅広く関わる機会に恵まれました。 営業やマーケティングなど、法律を専門としない 仕事に携わる人にとって、法律はどのように役立つ でしようか。これをリーガルマインド、ビジネスマ インド、ビジネスセンスの観点で整理してみます。 リーガルマインドとビジネスマインドの交わるとこ ろが、ビジネスセンスです。 まず、リーガルマインドですが、これは、法律の 学習を通じて、次のようなことが身に着くと思いま す。 ・社会で活動するための倫理観 ・基本的な法律知識 ・長い文章を読む力、論理的思考、ポイントをす ばやくっかむ要点把握力、難しいこと・専門的な ことをわかりやすく手短に説明する力、など たとえば、「手短に説明する力」は、裁判例を法 学部以外の人にもわかるよう、 1 ページにまとめて みるといったことで身に着けていくことができます。 ビジネスマインドについては、私は会社の仕事を 通じて身に着けていきました。社内外のビジネス動 向の理解、法律以外の分野の専門知識 ( たとえば会 計の基礎知識 ) 、語学力のアップや海外の人と共に働 く異文化経験などです。ただ、大学でもビジネスマ インドを身に付けることは可能です。毎日、新聞を 埔む一と法学部以外の授業を受けたりすること、 ⅱノし一一、 海外旅行や留学に行くことなど、チャンスは無数に あるといってよいでしよう。ビジネスマインドの高 さは、新しいことへの好奇心とチャレンジの度合い に比例すると思っています。 リーガルマインドとビジネスマインドが交わると ころは、法律面に強みを持つビジネスセンスと呼ぶ ことができます。会社に専任の法務担当者がいなく ても、このセンスが高い人は、専門の弁護士とチー ムになって、 M & A などを処理していくことも可能 です。 法を学ぶこと 073 Extra Articles ーーリーガルマインドをピジネスマインドと相乗的に高める 日本にいるとあまり意識しませんが、海外関係の 仕事をするときに、法制度が整備されているありが たさを感じることがあります。日本では考えられま せんが、裁判官への贈賄が行われたといった事例を 海外で聞くこともあります。たとえば IT の分野は 技術革新が著しいですが、この分野では法律が整備 されているおかげで、安心してその活用ができます。 法律は社会秩序を創る基盤であり、個人にとっても 企業にとっても大切なものです。 法を学ぶことは、法の大切さ、良さを理解するこ とだと思います。ただ、これはわれわれにとって必 要条件ですが、十分条件ではありません。重要なの は、「教えてもらう」のではなく「学び取って」そ れを自分の価値にしていくこと、そのために、リー ガルマインドをビジネスマインドと相乗的に高めて いくことです。たとえば、会社に入ったら、「高い 倫理観をもったタフなネゴシェーター」を目指して みるのはどうでしよう。法学部や法科大学院の出身 者が、ビジネスセンスを高め、グローバルに活躍し ていってほしいと思います。 ( たまき・しゅうじ )