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検索対象: 法学セミナー 2017年1月号
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1. 法学セミナー 2017年1月号

096 法学セミナー 2017 / 03 / n0746 LAW CLASS として取得する方法 ( 会社 156 条以下 ) によるほか、 全部取得条項付種類株式を用いれば、株主総会の特 別決議に基づいて株主全員を締め出すこともできる。 全部取得条項付種類株式とは、株主総会決議によ り会社がその全部を強制的に取得することができる 株式 ( 会社 108 条 1 項 7 号 ) をいい、平成 17 年会社法 制定によって導入されたものである。同法の立案過 程では、倒産に瀕した会社が法的整理の手続によら ずに、かっ全株主の同意も得ることなく株主全員の 締出しを行うために用いるケースが想定されてい た。しかし、それを条文上明らかにすることが困難 であったなどの事情により、会社法上、用途を制限 する規定は置かれなかったため、会社再生の場面に 限らず、株主の締出しのために用いられてきた。 全部取得条項付種類株式を用いる場合の通例的な 手続は、より具体的に、問題の会社が 1 種類の株式 ( 一般に普通株式と呼ばれる ) のみを発行する会社で あれば、以下のとおりである。①全部取得条項付種 類株式を発行できるのは、 2 種類以上の株式を発行 する会社 ( 発行を予定している会社を含む ) だけであ るとされているので、まずは定款を変更して、普通 株式以外の何らかの種類株式 ( いわばダミーの種類 株式であり実際には発行されない ) について定める ( 会 社 108 条 2 項 ) 。次いで、②普通株式を全部取得条項 付種類株式に変更するため、定款を変更して、普通 株式の内容として全部取得条項を定める ( 会社 108 条 2 項 7 号 ) 。その後、③株主総会特別決議で、全 部取得条項付種類株式の全部を会社が強制的に取得 する旨、およびその取得対価などを定める ( 会社 171 条 ) 。 上記①②③は、いすれも株主総会特別決議に基づ いて行われる ( 会社 309 条 2 項 11 号・ 3 号 ) 。実務上、 それらの決議は全て、同一の株主総会で行われるこ とが多い 16 ) [ 4 ] 株主の締出しの対価 既述のように、 100 % 減資は、会社が倒産に瀕し た場合に、その再建のために実施される。この場合、 会社には、分配可能額が存しないのが通例であろう。 このため、会社による全部取得条項付種類株式の取 得対価 ( 締め出される全株主に交付される対価 ) は無 償とされることになる。すなわち、会社が全部取得 条項付種類株式の全部取得 ( 会社にとっては自己株 式の取得になる ) を行うにあたり、株主に取得対価 として金銭等 ( 当該会社の別の種類の株式を除く ) を 交付する場合には、それも会社財産の分配に該当す るから、当該金銭等の帳簿価額の総額は、分配可能 額 ( 会社 461 条 2 項 ) を超えてはならないとされてい る ( 会社 461 条 1 項 4 号 ) 。そのため、会社に分配可 能額が存しない場合には、会社は、全部取得条項付 種類株式の全部取得に際し、その株主に取得対価と して金銭等を交付することができないことになる。 その場合でも、全部取得条項付種類株式とは別の種 類の株式であれば、株主に取得対価として交付する ことはできるが、 100 % 減資の場合には、株主全員 を締め出したいのだから、別の種類の株式を交付す るわけにはいかない ( それを交付すると株主が当該種 類株式の株主として残ることになってしまう ) 。この結 果、 100 % 減資の場合において、会社に分配可能額 が存しないときは、取得対価が無償とされるという わけである。 このように取得対価を無償とすることは、会社が 債務超過やそれに近い状態に陥っているときには、 株式の価値も小さく、少なくとも純資産方式で算定 すれば株式価値がゼロであるという考え方によって 正当化されている 7 [ 5 ] 資本金の額の減少 先にも触れたように ( 上記 3 [ 3 ] 参照 ) 、かっては 商法上、資本金の額と株式数が連動しており、額面 株式の額面額と発行済株式総数とを乗じることで資 本金の額が算定されていた。この時代にあっては、 株主を締め出すために発行済株式総数を減らそうと すれば、額面額または資本金の額を減らすしかない。 しかし、額面額の減少には制約があったうえに、既 存株主の全員を締め出して、発行済株式総数をゼロ にする場合には、いずれにせよ資本金の額を 0 円に 減らさなければならなかった。 しかし、幾多の法改正を経て、現在では、資本金 の額と株式数の関係は完全に切断され、新株が発行 され金銭その他の財産が出資されると、その 2 分の 1 以上の額が資本金に計上されるものと定められて いる ( 会社 445 条 1 項 2 項 ) 。つまり、資本金の額の 減少・増加がなされていない限り、資本金の額は、 これまで会社が新株を発行する都度、調達した金額 のそれぞれ 2 分の 1 以上を累計することで算定され

2. 法学セミナー 2017年1月号

126 LAW 最新立法インフォメー ション FORUM ロー一ラ 4 委質疑、 6 月 1 日継続審査決定、 8 ともに、技能実習生に対する相談、 日出入国管理及び難民認定法の 月 1 日 ( 191 国会 ) 同委再付託、 3 情報提供、技能実習生の転籍の連絡 一部を改正する法律 日継続審査決定、 9 月 26 日 ( 192 国会 ) 調整等を行う等、技能実習生の保護 ~ [ 平成 28 年Ⅱ月法律第 88 号 ] 同委再付託、 10 月 21 日質疑および討 等に関する措置を講する。⑥外国人 [ 趣旨・内容 ] ①本邦の公私の機関 論の後可決、 25 日衆・本会議可決、 技能実習機構を認可法人として新設 との契約に基づいて介護福祉士の資 共産、自由、社民反対。 10 月 28 日参・ し、技能実習計画の認定および監理 格を有する者が介護または介護の指 本会議趣旨説明および質疑、同日参・ 団体の許可に関する事務、実習実施 導を行う業務に従事する活動とし 法務委付託、 11 月 1 日趣旨説明およ 者および監理団体に対する実地検 て、新たな在留資格「介護」を創設 び質疑、 8 日および 10 日質疑、同日 査、技能実習生に対する相談および する。② a) 偽りその他不正の手段 参・法務委・厚生労働委連合審査会 援助等の業務を行わせる。⑦現在 2 により、上陸の許可等を受けて上陸 質疑、 15 日参・法務委質疑、 17 日質 段階となっている技能実習に新たに し、または在留資格の変更許可等を 疑および討論の後可決、 18 日参・本 第 3 段階を設け、優良な実習実施者・ 受けた者、 b ) 営利の目的で a ) の 会議可決、成立、共産、希望、沖縄 監理団体に限定して、第 3 号技能実 行為の実行を容易にした者に対する 反対。 習生の受入れを可能とする。 罰則を新設する。③活動目的に応じ [ 審議論点 ] 法律案の提出の背景お [ 施行期日 ] 一部を除き、公布日 た在留資格をもって在留する外国人 よび経緯、介護業務で必要とされる ( 2016 年 11 月 28 日 ) から 1 年以内で が所定の活動を行っておらず、かっ、 技能実習生の日本語能力とその修得 政令で定める日 他の活動を行いまたは行おうとして [ 審議経過 ] 2015 年 3 月 6 日 ( 189 への課題、偽装滞在者の対策等 在留している場合を在留資格取消事 国会 ) 内閣提出、 9 月 3 日衆・本会 外国人の技能実習の適正な実 由に追加するとともに、この取消事 議趣旨説明、同日衆・法務委付託、 施及び技能実習生の保護に関 由について、逃亡のおそれがあると 4 日趣旨説明、 25 日継続審査決定、 する法律 きは、出国猶予期間を定めず、直ち 2016 年 1 月 4 日 ( 190 国会 ) 同委再 0 ー [ 平成 28 年 11 月法律第 89 号い に退去強制手続に移行することとす 付託、 4 月 6 日、 15 日、 19 日および る④在留資格取消処分に係る事実 [ 趣旨・内容 ] ①技能実習の基本理 22 日質疑、 26 日衆・法務委・厚生労 の調査の実施主体を、「入国審査官」 念および関係者の責務を定めるとと 働委連合審査会質疑、 27 日、 5 月 10 から「入国審査官又は入国警備官」 もに、技能実習に関し基本方針を策 日、 11 日および 13 日衆・法務委質疑、 に変更する。⑤他の外国人による② 定する。②実習実施者が、技能実習 6 月 1 日継続審査決定、 8 月 1 日 a ) の行為をあおり、唆し、または ( 191 国会 ) 同委再付託、 3 日継続審 生ごとに、かっ、技能実習の段階こ 助けた場合を退去強制事由に追加す とに作成する技能実習計画につい 査決定、 9 月 26 日 ( 192 国会 ) 同委 て、主務大臣の認定を受ける制度と 再付託、 10 月 21 日質疑および討論の る。 [ 施行期日 ] 一部を除き、公布日 し、技能等の修得に係る評価を行う 後修正議決、 25 日衆・本会議委員長 ( 2016 年 11 月 28 日 ) から 3 月以内で こと等の認定の基準、欠格事由のほ 報告のとおり修正議決、共産、自由、 政令で定める日 か、報告徴収、改善命令、認定の取 社民反対。この後は、出入国管理及 [ 審議経過 ] 2015 年 3 月 6 日 ( 189 消し等を規定する。③実習実施者に び難民認定法の一部を改正する法律 国会 ) 内閣提出、 9 月 24 日衆・法務 ついて、届出制とする。④監理団体 に同じ。 委付託、 25 日継続審査決定、 2016 年 [ 審議論点 ] 法律案の提出の背景お について、許可制とし、許可の基準、 1 月 4 日 ( 190 国会 ) 同委再付託、 欠格事由のほか、遵守事項、報告徴 よび経緯、現行の技能実習制度にお 4 月 15 日趣旨説明および質疑、 19 日 収、改善命令、許可の取消し等を規 ける労働関係法令違反および人権侵 および 22 日質疑、 26 日衆・法務委・ 害の実情、技能実習生のための母国 定する。⑤技能実習生に対する人権 厚生労働委連合審査会質疑、 27 日、 語相談体制の更なる充実の必要性、 侵害行為等について、禁止規定を設 5 月 10 日、 11 日および 13 日衆・法務 監理団体、実習実施者および送り出 け、違反に対する罰則を規定すると 法学セミナー 2017 / 03 / no. 746 0 1 =

3. 法学セミナー 2017年1月号

088 法学セミナー 2017 / 03 / n0746 自らの債権の履行の全部又は一部が不能になって も、自らが負う反対債務をそのまま負担し続ける ことになる ( 債権者主義 ) 。 この債権者主義に ついては、目的物が滅失又は損傷した場合の対価 に関するリスクは、本来、滅失又は損傷しないよ う現実に対処できた者が負担することが公平にか なうなどの批判が強く、学説では、民法第 534 条 の適用範囲を制限するべきであるとの見解が支配 的である。 この点について、 ・・どのように 考えるか。」 ( 法制審議会 [ 部会資料 5 ー 2 第 4 , 2 ] 93 頁 ) 既に見たように、特定物売買等における危険負担で の債権者主義に対しては、多くの批判があり、その適 用制限カ語られてきたところであり、法改正でも、真 っ先にこの点が問題とされた。具体的には、 CA 案 ] として、目的物の支配可能性が移転したときに、目的 物の滅失・損傷に関する危険が移転するものとする考 え方で、その際に支配可生の取得を①引渡時、②引 渡・登記移転のいずれかがなされた時 ( + 果実収取権を 取得した時 ) 、③引渡・登記移転・代金支払のいずれか がされた時、 CB 案 ] として目的物が滅失又は損傷し た債務ついて、その時点で履行が終了していたか否か を実質的に判断し、履行終了前に生じた滅失・損傷の リスクは債務者が負担し、履行終了後は債権者が負担 する、 CC 案 ] は現行の債権者主義を維持するとする 考え方の選択肢があった。問題は、当事者の合理的意 思、公平、そして法的安定性の観点から考える必要が ある。 最終的に改正法案では、債権者主義を定めた現行 534 条及び 535 条 [ 停止条件付き双務契約における危 険負担 ] を削除し、新たに第 3 節「売買」の第 2 款「売 買の効力」のところに法案 567 条を創設して次のよう な規定を用意した。 「 567 条売主が買主に目的物 ( 売買の目的と して特定したものに限る。以下この条において同じ。 ) を引き渡した場合において、その引渡しがあった 時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰する ことができない事情によって滅失し、又は損傷し たときは、買主は、その滅失又は損傷を理由とし て、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害 賠償の請求及び契約の解除をすることができな い。この場合において、買主は、代金の支払を拒 むことができない。 2 売主が契約の内容に適合する目的物をもっ て、その引渡しの債務の履行を提供したにもかか わらす、買主がその履行を受けることを拒み、又 は受けることができない場合において、その履行 の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰す ることができない事由によってその目的物が滅失 し、又は損傷したときも、前項と同様とする。」 法案の第 1 項は、売買の特定目的物の減失・損傷に 関する危険は、目的物引渡しによって売主から買主に 移転することとし、したがって、引渡し以後の滅失・ 損傷の場合には、買主は追完請求・代金減額請求・損 害賠償請求・契約解除の権利を行使することができな い旨を定める。この帰結は、従来の債権者主義の適用 を制限して「引渡時」まで後らせようとした学説の考 え方に従うものである。ここに言う「引渡し」が、目 的物が買主の支配領域に入ったことを意味するとすれ ば、目的物の「受領」と同義と考えてよい (ClSG69 条 1 項も参照 ) 。逆に、引渡し後の滅失・損傷が、売主 ( 債 務者 ) の責めに帰すべき理由による場合には、買主は、 追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除の 権利を行使することができることになる。売主の責め に帰すべき理由で、爾後の滅失・損傷の原因を与えて いたような場合や、目的物である機械の操作方法につ いての誤った説明をしていたために機械が爆発したよ うな場合がこれにあたろう。 注意を要するのは、種類物に「特定」が生じたとし ても、それだけでは危険が買主に移転しない点である。 たとえば、取立債務で、種類物を特定した上で、他の 種類物から分離しておいたとしても、それだけでは危 険は移転しない ( 引渡しの要件が満たされていない ) 。民 法 176 条の所有権移転と危険の移転は、ひとます別問 題として扱われる。危険が移転するのは、本条第 2 項 によって、履行の提供をしたにもかかわらず、債権者 が受領を拒んだり、受領遅滞に陥った場合に限られる。 これによって、 534 条は削除されることになったも のの、「売買」の諸規定は、それ以外の有償契約につ いても原則として準用されることから ( 改正法案 559 条 [ 現行 559 条に同し ) 、結果的には有償双務契約において 特定物の物権の設定・移転を目的とする場合は、その 危険の移転時期が「引渡時」に統一されることとなっ た ( いささか硬直的ではある ) 。これだけのことであれば、

4. 法学セミナー 2017年1月号

たということである。すなわち、ハンセン病を理由 とする特別法廷の開催カ噬認された昭和 23 ( 1948 ) 年から昭和 47 ( 1972 ) 年までから、今回の調査報告 まで、実に 68 年間ないし 44 年間が経過している。 この点につき、有識者委員会意見は、「この間に、 貴重な資料・記録等が廃棄され、散逸し、元患、者は じめ、ハンセン病療養所、厚生省そして裁判所等に おいて、事情を知る多くの関係者が亡くなっている。 現在療養所に暮らす元患者・回復者の平均年齢は約 85 歳である。そのため、今回の検証・調査はこの時 間の経過によって多くの困難を伴った。」として、「時 間の壁」があったことを認めている。ハンセン病を 理由とする「特別法廷」の問題については、熊本地 裁違憲判決を受けて平成 17 ( 2005 ) 年に厚生労働省 が設置した「ハンセン病問題に関する検証会議」に おいて既に指摘されていたことを考えると、せめて この時期に検証作業が開始されていれば、実際の「特 別法廷」の状況を知る関係者からのヒャリング等に より、より意義のある検証・調査ができたであろう と悔やまれるところである。 第 2 の問題点は、「特別法廷」が憲法の公開原則 に違反するとはいえないとしている点である。調査 報告書は、傍聴人が入るのに十分な場所的余裕があ り、開廷の告示をするなどの方法によりその場所で 訴訟手続が行われていることを一般国民が認識する ことカ河能で、かっ、一般国民が傍聴のために入室 することが可能な場所であれば、憲法の定める公開 の要請を満たす場所として開廷場所とすることが許 されるとした上で、今回の調査に表れた事例におい ては、ハンセン病療養所内で開廷された事例及ひ刑 事収容施設内で開廷された事例のいずれの場合であ っても、下級裁判所が、最高裁判所の指示に従い、 裁判所の掲示場及び開廷場所の正門等において告示 を行っていたことが推認されるし、収集できた資料 によれば、裁判所法 69 条 2 項が想定する公開の要 請を満たさないと解される具体的形状を有する場所 が開廷場所として選定された事例があったとまでは 認定するには至らなかったとする。 しかしながら、今回の調査においては、前記のと おり有識者意見が「時の壁」として指摘しているよ うに、時の経過によって多くの資料、言求等が廃棄、 散逸していたのであるから、告示が行われていたか どうか自体、必ずしも明らかではない。調査報告書 065 ハンセン病「特別法廷」とは が「告示を行っていたことカ雛認される」とするに とどまっているのもこのためである。同様に、公開 の要請を満たさないと解される場所が開廷場所とし て選定されたことがあったかどうかも、今回の調査 によっては必ずしも確定できないはすである。この 点、調査報告書は、「タイプライター室で行われた 裁判手続につき、中に入らせないようにして裁判が 開かれたとのヒャリング結果もあるが、この点につ いては、客観的な裏付けとなる資料カ在せず、具 体的な事件や行われた手続が特定できない」とする のであるが、もしより早期に調査が行われていれば、 この裏付けとなる他の入所者等からのヒャリング結 果なり客観的資料なりが得られていた可能性があ り、今回の調査結果だけをもって公開の要請を満た さないと解される場所が開廷場所として選定された ことはないとすることはできない。 さらに、仮に、裁判所の掲示場及び開廷場所の正 門等において告示がなされ、かっ、一定の者が傍聴 のために入室することを認められていたとしても、 それをもって国民一般の傍聴が許されていたとする ことは、我が国のハンセン病隔離政策の実情を無視 する立論といわざるを得ない。当時のハンセン病隔 離政策の下では、ハンセン病療養所やハンセン病患 者を対象とする刑事収容施設は社会から厳重に隔離 された施設であり、ハンセン病は恐ろしい伝染病で あるとの国の誤った広報等とも相俟って、国民の誰 もがこれらの施設に近づくことすら恐れていた。そ のような施設の正門等に裁判の掲示がなされていた からといって、それを見た国民一般がハンセン病療 養所等に立ち入り、裁判を傍聴することなど到底考 えられない。この点は調査委員会と有識者委員会と の意見が大きく対立しているところであり、有識者 意見は、「掲示等によって形式的には公開されてい たといえたとしても、それは最低限度の公開であっ て、公開原則については他の一般市民の裁判の場合 と同程度に実質的に公開されていたといえるのかが 問題である。ハンセン病療養所は、それ自体が激し い隔離・差別の場であり、その内部での法廷も一般 社会から隔絶された隔離・差別の場であったと言わ ざるを得ない。傍聴も在園者、家族そして職員にと どまるものであったと思われる。そもそも、療養所 自体一般の人々の近づきがたい、許可なくして入り 得ない場所であるから、その中に設けられた法廷は、

5. 法学セミナー 2017年1月号

038 3 ー訴訟に臨んで 遺族に対する請求を根拠づけるものとして JR 東 海が主張した事実 ( 請求原因 ) は、次の 3 つでした。 ①男性に責任能力があったとし、男性の不法行為 に基づく債務を遺族が相続した相続構成 ( 民法 899 条 ) ②遺族それぞれが、親族として扶養義務、監督義 務を負うこと等を理由として、男性が他者に損害 を加えることを防止する義務があったとする一般 の不法行為責任 ( 民法 709 条 ) ③遺族それぞれが男性の事実上の監督者であり、 その財産を継承する地位にあったことを理由とす る監督者責任 ( 民法 714 条 1 項、 2 項 ) 私たち代理人は、①の主張に対しては、男性が生 前、認知症により意思疎通が困難となり、責任能力 がないため、男性は不法行為責任を負わない、した がって賠償債務を相続することはない、②の主張に 対しては、扶養義務、介護の事実等から包括的な他 者加害防止義務は生じない、また男性の日常の行動 様式から、男性が線路に入り込むことの具体的な予 見可能性がない、そして③の主張に対しては、成年 後見の手続は執られておらず、しかも成年後見人も 当然には民法 714 条 1 項の法定の監督義務者ではな い、子供たちは全員、他所に居住し、それぞれに家 庭、仕事を持っていて、介護に現実的な対応をなし うる環境にない、配偶者も自身が 85 才の高齢で、要 介護 1 の認定を受ける身である、したがっていずれ も監督者ではない、それにもかかわらす充分な介護 体制をとり、現実的に可能な方策を全てとっていた、 それゆえ免責される、ことを主張立証して対抗する こととしました。同時に、 JR 東海が土地の工作物 たる鉄道施設の占有者・事業者として、旅客等の安 全を確保し、人がプラットホームから転落したり、 線路内に容易に立ち入ることができない危険防止設 備、人員を充実する義務があり、 JR 東海はそれを 怠っている、そして本件が、車道での車と人との事 故であれば、加害者、被害者が逆転し、車両運転者 がその責任を問われる立場にあることを指摘し、訴 訟活動を展開しました。 4 一一審名古屋地方裁判所は 裁判所は、平成 25 年 8 月 9 日、男性には責任能力 があったとは認められないから、男性の責任を相続 したことを前提とする JR 東海の請求は理由がない とし、長男について、男性の重要財産の処分や方針 を決定等する地位にあり、家族会議においても介護 方針や介護体制を決定し、その妻を大府市に転居さ せて男性の介護に毎日従事させていた等の事実か ら、民法 714 条 2 項の代理監督者と同視しうる地位 にいたと認定し、男性に徘徊があったのに特別養護 老人ホームに入所させなかった等から監督義務を尽 くしていたとはいえないとして免責の主張を斥けま した。男性の配偶者についても、男性と 2 人だけの 場面では、男性の動静を注視していなければならな いのに、事故前、男性と 2 人だけになっていた際に まどろんで目をつむり、男性から目を離していた過 失があるとして民法 709 条の一般不法行為の成立を 認め、 JR 東海の請求全額を認容し、その余の子供 たちは責任がないと判断し棄却しました。 一審での審理を通じて最も印象的だったのは、裁 判所の和解の強引な進め方でした。私たち代理人と、 遺族らは、責任を認める和解には応じないとの姿勢 を堅持し、裁判所に対し、その旨を繰り返し述べま した。しかし裁判所は、納得せず、「代理人は本当 に依頼者の意思を把握しているのか」、「判決となれ ばそちらに不利な判決となるがそれでよいのか」、 「裁判所が直接、説得をするので当事者本人を同行 してほしい」と要求し、これを受け、男性の長男が 期日に出席し、自ら和解の意思がない旨を述べた後 は、「配偶者、子供たち間でも利害が対立する状況 にある。出席した長男だけの意見で和解を打ち切る のは相当ではない」、「とりわけ男性の住居の近くに 居住し介護士の資格を有している三女については、 判決となれば厳しい判示をすることになる。それが 分かっていて和解を拒んでいるのか」といった発言 を繰り返し、 JR 東海から取調べの請求があった配 偶者について、取調べをしない方向で審理がなされ ていたのに、和解打ち切りとなるとその尋問も行わ ざるを得なくなると述べ、「配偶者と三女について のみ和解を選択することも選択肢としてあり得る。 この 2 人を同道してほしい」と強く要請してきまし た。私たちは和解を強く勧める裁判所の意向と、示 唆された「厳しい判決」の予測を三女に率直に告げ

6. 法学セミナー 2017年1月号

1 OO 法学セミナー 2017 / 03 / 「 9746 LAW CLASS しかし、甲乙丙の共謀は、厳密に ( 1 項 ) 強盗殺 人だけに限定されていたわけではない。一次的には ( 1 項 ) 強盗殺人を実行する合意であったが、実行 担当者の現場判断で多少の変更があることは当然と 考えられており、甲もそのことを予見し認容してい たといえる。そうだとすると、共謀の内容としても、 ( 1 項 ) 強盗殺人だけでなく、覚せい剤の詐欺また は窃盗、 ( 2 項 ) 強盗殺人等も含まれていたと認定 できる。したがって、【間題 1 】において、甲らの 共謀の内容と現実の犯行結果との間には齟齬はな く、共謀に基づく実行と認定できることになる。 したがって、甲にも詐欺罪の共同正犯および ( 2 項強盗に基づく ) 強盗殺人罪の共同正犯が成立し、 両者は実質的にみて同一の法益を侵害しており、 1 つの意思に基づき、時間的・場所的にも近接して行 われるので包括して ( 法定刑の重い ) 強盗殺人罪の 共同正犯 ( 60 条・ 240 条後段 ) のみが成立する ( 包括 このように、共謀の内容を具体的事案に即してで きる限り具体的に明らかにし、これと実行行為・結 果との間に齟齬が生じていないかを判断し、齟齬が 生じていなければ ( 同一性が認められれば ) 、当該犯 行結果は共謀に基づいて惹起された結果として共同 正犯の成立を肯定することができる。 【間題 2 】において、乙は実行行為をすべて行っ ているので単独正犯が成立する。ます、乙は V を殺 害する故意をもって v 殺害を図ったが弾丸が命中し なかったので ( v に対する ) 殺人未遂罪 ( 203 条・ 199 条 ) が成立する。また、乙は、自らの発砲行為と W の死との間に因果関係は認められるが、 W の死を認 識・認容していないので具体的事実の錯誤が問題と なる。この点、判例実務の採用する法定的符合説 ( 9 【間題 2 】 暴力団 P 組の組長甲と組員乙は、対立する暴 力団 Q 組の幹部組員 V を拳銃で殺害することを 共謀し、乙がこれを実行することになった。あ る日、乙は、 Q 組の事務所近くの路上で V を発 見し、 v に向けて拳銃を発射したところ弾丸が 外れ、予想外にもたまたま付近を通りかかった W に命中し、 w は即死した。甲および乙の罪責 を論じなさい。 講 95 頁 ) によれば、 W の死を認識していなかったと しても、「人の死」を認識していた以上故意は阻却 されず、 ( w に対する ) 殺人罪 ( 199 条 ) が成立する。 次に、甲と乙は、 V 殺害を共謀し、その「共謀に 基づいて」乙が発砲した以上、乙の行為および結果 について甲も乙と共に共同正犯としての責任を負 う。そして、共同して V を殺害することの認識・認 容があるので、甲および乙に V に対する殺人未遂罪 の共同正犯 ( 60 条・ 203 条・ 199 条 ) が成立する。 これに対し、共同して W を殺害することの認識・ 認容はないので具体的事実の錯誤が問題となるが、 法定的符合説によれば、甲も乙も「共同して人を殺 すこと」の認識・認容 ( 殺人罪の共同正犯の故意 ) が あるので、反対動機の形成が可能であり故意は阻却 されず、 w に対する殺人罪の共同正犯 ( 60 条・ 199 条 ) が成立する。なお、両罪は、 1 個の行為によるもの であるから観念的競合 ( 54 条 1 項前段 ) となる。 このように、共謀に基づいて実行が行われたとい えれば当該実行行為・結果について共同正犯が成立 するが、それが「何罪の共同正犯」となるか罪名を 特定する際には関与者の故意の内容が基準となるこ とに注意してほしい。 《コラム》 単独正犯も共同正犯も成立する場合の罪名 【間題 2 】の乙には、① V に対する殺人未遂罪、 : ② v に対する殺人未遂罪の共同正犯、③ w に対を する殺人罪、④ W に対する殺人罪の共同正犯が 三成立する。ただ、①と②、③と④は同一被害者 : に対する同一法益侵害行為であるから 2 つの罪 : の成立を認める必要はない。いずれの罪で起訴 するかについては検察官の裁量の問題であるか ら、単独正犯で起訴された場合、裁判所は、証三 三拠上共同正犯と認定することが可能なときで も、訴因どおり単独正犯として認定することが 許される ( 最決平 21 ・ 7 ・ 21 刑集 63 巻 6 号 762 頁 ) 。 もちろん、この場合、検察官が共同正犯で起訴 すれば、裁判所は共同正犯を認定することにな る。 それでは、事例問題の処理として、単独正犯 : と共同正犯のいずれを結論として示したらよい であろうか。この点、単独正犯は実行行為の全三 一部を 1 人で遂行するものであるのに対し共同正三

7. 法学セミナー 2017年1月号

2017 03-04 〈経済〉 新刊案内 地域公共交通の活性化・再生と公共交通条例 香川正俊 / 著 かがわまさとし ( 熊本学園大学商学部ホスピタリティ・マネジメント学科教授 ) A5 判本体 3600 円十税 978-4-535-55874-8 ( 好評発売中 ・佐藤隆三著作集 7 少子高齢化や人口減少で地方公共交通の維 持・確保は市場原理では難しい。先進的な自治 体による「公共交通条例」は突破口となるか。 Symmetry and Economic lnvariance 佐藤隆三 / 著 さとうりゅうぞう ( ニューヨーク大学 C. V. スター財団冠講座経済学部名誉教授 ) A5 判本体 12000 円十税 978-4-535-06757-8 ( 好評発売中 ) 国際的な経済学者である氏の代表的な著作を 網羅する著作集の第 7 巻。 Lie 群論を経済分析 に応用した、著者の研究書を収録する。 コンパクトシティと都市居住の経済分析 沓澤隆司 / 著 くっざわりゅうじ ( 政策研究大学院大学教授 ) A5 判本体 4000 円十税 978-4-535-55825-0 ( 好評発売中 ) 人間性と経済学 ふるたかっとし ( 関西外国語大学英語キャリア学部講師 ) 古田克利 / 著 ケイバビリティ・ビリーフの観点から IT 技術者の能力限界の研究 A5 判本体 6400 円十税 978-4-535-55867-0 ( 好評発売中 ) おかべみつあき ( 慶應義塾大学名誉教授 ) 岡部光明 / 著 社会科学の新しいバラダイムをめざして A5 判本体 8000 円十税 978-4-535-55878-6 一日評べーシック・シリーズ 経済学人門 奧野正寛 / 著 おくのまさひろ ( 武蔵野大学経済学部教授 ) A5 判予価 2000 円十税 978-4-535-80603-0 ※表示価格は本体価格です。別途消費税がかかリます。 ( 2 月中旬刊 ) ( 3 月上旬刊 ) 都市の活力や持続可能性を備えた都市構造を 実現するために必要な都市のコンパクト化と それに見合った都市居住のあり方を提案する。 経済学の目的は、究極的には人間にとって「満 足できる生活」、人間を「幸せ」にすることであ る。経済学に何ができるだろうか。 I T 技術者には、三五歳定年説の「神話」が根 強い。能力と年齢の関係はあるのか。彼らの感 じる能力限界の真の要因を明らかにする。 経済学を初めて学ぶ大学 1 年生向けの入門書。 経済学の基本的な考え方を使って、ミクロとマ クロの経済の動きをどう理解するか。

8. 法学セミナー 2017年1月号

008 り、まさに国政に関わる問題である」と答えていま す。そして、金森さんも「皇位継承制度の変更は国 政の一端であり、天皇の意思を根拠にすることは難 しい」と言っています。それが従来の線なんです。 植村横田さんが奥平説をどう思っていらっしやる のか知りたいのですが、奥平説には賛成ということ ですか ? 横田自由意思による退位の可能性については私も 否定していませんでしたから、その点では奥平説に 異論はありません。ただ、即位段階については十分 に考えていなかったということです。 植村私から見て、奥平説が横田説と少し違うのは、 横田説では、例えば女性天皇の問題でも、人権の論 理というのは天皇や皇族である中でもあるはずだと する。奥平説というのは、むしろその中では人権を 認めないで、脱出のところだけを認めるということ で、そこは少し違うのではないかと思うのですが。 横田私は天皇・皇族にも原則的に人権はあるとい う説で、奥平先生のように天皇・皇族を憲法の中の 全面『飛び地』とは考えていません。また、私の女 性天皇否定を違憲とする説は、皇族女性の人権論か らではなく、「法の下の平等」を原則として考えて いるからです。 植村人権論ではなくてということですか ? 横田人権論でもあるけれども、「法の下の平等」 を憲法全体を通しての原則として考えているからで す。また、天皇・皇族が憲法原則からの『飛び地』 であるのは、厳密に「世襲」という点においてのみ だと理解しています。 植村例えば、辻村みよ子先生は、「権利侵害の問 題ではない」が、天皇の地位に性別要件が必然的で にしむら・ゆういち はなく、性差別を助長・温存する機能に着目して「合 理的理由のない差別的取扱い」とされています ( 『憲 法〔第 5 版〕』〔日本評論社、 2016 年〕 167 頁 ) が、それ と似たようなことでしようか ? 横田平等原則は及ぶけれども、人権論に限定しな いということです。 植村人権論が及ぶべきだという議論をされている というわけでは必ずしもないわけですね。 そうすると、長谷部恭男先生の身分制の飛び地論 は、横田さんから見るとどうなりますか ? 横田あれですと何でも『飛び地』になってしまう ので、私は世襲だけが『飛び地』だと言っています。 植村世襲を理由に、全部丸ごと『飛び地』で、 切及ばなくなってしまっているということですね。 横田百地章先生の議論がまさに全面『飛び地』論 です。だから政教分離原則に反して宮中祭祀を公的 にやってもいいことになります。長谷部先生の『飛 び地』もそれに近いのではないでしようか。 植村長谷部先生の『憲法〔第 3 版〕』 ( 新世社、 2004 年 ) 134 頁では「一般社会において妥当すべき 政教分離原則が、皇室の行事についても妥当する原 則と考えるべきかについても一考を要する」されて いますね。あれはちょっとびつくりしました。 横田長谷部先生は、天皇制度というのは、身分制 として丸々『飛び地』として考えているようで、百 地先生と、立場は全然違いますが、その点では似て いるところがあります。 西村おそらく奥平先生も、ある意味では長谷部先 生に近いというか、憲法第 1 章は全部飛び地だとい う議論だろうと思います。奥平先生は、しかし最後 の最後で脱出の権利を言うことで、奥平先生はよく 「そして誰もいなくなった」とおっしゃいますけれ ど、誰もいなくなってそれで天皇制が瓦解すれば仕 方ないじゃないかと、おそらくそこまで見越した議 論ですよね。 植村そうだと思います。しかし、長谷部先生の議 論で言うと、脱出することを認めないとは言われな いにしても、想定されていないのではないかと思い ます。そこは、奥平先生と違うのではないですかね。 ご本人に聞かないと、ここで推測して議論してもし かたないですが 西村それはそうですね。

9. 法学セミナー 2017年1月号

2017 03-04 法律時報 法学セミナー 経済セミナー 数学セミナー こころの科学 加科学 2017 年 3 月号 ・ 2 月 27 日発売予価 1750 円十税 2017 年 4 月号 ・ 3 月 11 日発売予価 1400 円十税 2017 年 2 ・ 3 月号 ・好評発売中本体 1 380 円 + 税 2017 年 4 月号 ・ 3 月 11 日発売予価 1090 円十税 No. 192 ( 2017 ・ 3 ) ・ 2 月 25 日発売予価 1270 円十税 こころの科学 Speciallssue No. 27 ( 2016 ・ 10 ) ・好評発売中本体 1 500 円十税 ※表示価格は本体価格です。別途消費税がかかリます。 定期雑誌案内 特集 = 保障・分配・機能強化の中の社会保障 現在の社会保障法は常に何らかの改正を施されているが、その改 正はどのような内容であり、また必要性はどう考えられるべきか。 改正前後の法のあり方の変容と、法改正相互の関係を問い、全体 としての社会保障法がいかなる特色を持つに至っているのかを考 察する。 小特集 = 約款規制をめぐる基本問題 特集 = 法学入門 2017 法律学をこれから学び始める初学者に向けて、法律学の基本六 法 ( 憲法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法 ) の魅 力を法学研究者が語る法学入門企画。 特集 = 財政にできること・できないこと いまどこに財政の力点をおくのか ? 政府と地方の財政はいまどん な課題に直面しているのか、どのような役割を果たしてゆくのか、 どんな選択肢があるのかを通し、財政の役割と意義を問うていく。 対談 : 高田創 x 田中秀明 『いま財政を問い直す一一政治・経済・金融との関係で』 特集 = 数学の学び方 数学はどのように勉強すれば良いのだろうか。大学の数学科をは じめ、大学以外でも学べる環境が整備され始めている今、数学を 学ぶすべての人たちに向けて心構えを伝授する。 [ 単発記事 ] ノーベル物理学賞業績紹介◎初貝安弘 教育提言「言葉の定義を大切にしよう」◎芳沢光雄 田辺等 / 編 特別企画 = グループのカ 多様な現場で活かされているグループの力。安全な場の確保、当 事者グループの可能性、リーダーの役割等、各分野の実践を紹介 する。 滝川一廣・小林隆児・杉山登志郎・青木省三・田中 康雄 / 編 特集 = 「子ども虐待」はなぜなくならないのか 子育て困難にどう対応するか 13 年ぶリ 2 度目の子ども虐待特集。児童相談所への虐待相談件 数はこの 10 年でおよそ 3 倍。「虐待」という用語そのものの適 否を含め、解決の糸口をさぐる。

10. 法学セミナー 2017年1月号

019 第 12 回【最終回】 恋愛感情に“方程式”は 存在しなかった 恋愛。甘くときめく、ような気持ちを抱かせる感情が 事件と結びつくとき、どんなドラマが起きるのか。 , 理屈だけでは裁き切れない、人間臭いやりとりを法 廷からリポートしよら。 の式 北尾トロ 報道されない事件こそ時代の鏡 ニュースになるのは殺人事件や放火など社会的影 響がありそうなもであり、著名人の犯した事件で あり、特異な傾向が衆の関心を引きそうな犯罪だ。 裁判所で裁かれる事件のほとんど ( 実感値で 9 割超 ) は、関係者とわずふな傍聴人以外に知られないまま 判決に至る。 その年に起きた大事件を例に、凶悪犯罪が増えて 、いるとか、動機なき殺人事件がひんばんに起きるよ うになったなどと語る人がいる。けれど、ひとつひ とつはショポくても、数の上で圧倒的に勝る " 報道さ れない事件 " こそ、時代の鏡ではないかとばくは思う。 人が死ぬことも、億単位の金が動くこともなく、 入念に練られた計画に基づく緻密さもない、何かが ポンと弾けたような犯罪。現状への不満や将来への ばんやりした不安をベースに、手近な快楽を貪るむ き出しの欲望。承認欲求ばかり強く、他人の気持ち 懲役 2 年か 3 年。ばくが傍聴する刑事裁判の平均 に思いが及ばないひとりよがり。マグマのごとく噴 的な量刑は、おそらくそんなところだろう。罪状は 出するマイナス感情と、それをぶつける相手が結び 乍欺や窃盗、強盗、大麻取締法違反、覚せい剤関係、 ストーカー、恐喝・・・。実刑より執行猶予がっく事件 つくと、あっけないほど簡単に事件は起きる。 なんだかもう、全然抑えがきかない。感情をいっ が多い。 たん呑み込み、自分のしようとしていることが世間 傍聴席に余裕で座ることができる、そんな小さな に通用するのか、捕まる可能性を考えたとき割に合 事件をばくは好んで傍聴してきた。なかでも、 う行為と言えるのか、自問自答する余裕もない切羽 数年は恋愛が絡む事件を。そこで、最終回の今回は、 詰まり方だ。傍聴していると、犯行に至る経緯で被 なぜ恋愛事件に惹かれるのかを書いてみたい。 告人が抱いた被害者への怒り、憎しみ、恨み、嫉妬 被告人が罪を認め、争点もない事件では、判決言渡 などが動機となる確率の高さに驚いてしまう。 し時間も 2 ~ 3 分。裁判長の説諭がない場合さえあ この種の感情的犯罪の被告人には初犯者が目立 る。あったとしても「二度とこんなことをしないよ うに」といった型通りのものだ。さしたる特徴もな つ。プロの犯罪者による計画的な犯行やロリコンな いから報道価値もないと思われるのだろう。報道関 ど病的な要因、薬物中毒、貧困が動機となったもの 係者席に陣取る司法記者を見かけることはまずない。 を除くほとんどが、 ごく普通の生活をしていた人間