裁判員裁判 - みる会図書館


検索対象: 法学セミナー 2017年1月号
148件見つかりました。

1. 法学セミナー 2017年1月号

036 これに登場した者の発言の内容や画面に表示された あります。 フリップやテロップ等の文字情報の映像及び音声に パイワン族の日英 係る情報の内容並びに放送全体から受ける印象等を 博覧会出演は、「人 総合的に考慮して、判断すべきである」のに、形式 間動物園」とは何の 的に、 A の父親や A 個人を差別的に扱ったわけでは 関連もないからです。 ないと判断しているからです。 当時英国やフラン 番組では、 A が登場し、裸足で民族衣装を身に着 スが植民地の人々を マ けたパイワン族の人たちの写真の映像が映され、さ 展示したことが後に 「人間動物園」と呼 らに、同じ裸足で、パイワン族の刀を持ち民族衣装 を着けた A の父親の写真 ( 写真参照 ) の映像が出て、 ばれたことはありま 字幕で「人間動物園」と表示され、 A はこの父親の したが、日本政府の 日英博覧会出演は、 娘であるとのナレーションが流れ、 A は父親の写真 を見て「かなしい」と言い、笑顔が消えて硬い表情 パイワン族だけでは になった A の表情が写り、「父親は、生前、博覧会 なく、相撲や歌舞伎、 について子供たちに語ることはありませんでした。」 日本の農村風景などとともに出演したのです。要す というナレーションが流れます。 るに日本の全体像を示そうとした博覧会出演だった のを、 NHK はパイワン族の出演だけに焦点をあて この場面の以前に、当時、英国やフランスでは、 て「人間動物園」とし、日本政府がパイワン族を差 博覧会等で植民地の人々を見せ物にする「人間動物 園」が盛んにおこなわれていたとの説明があります。 別したと表現したのです。 高裁判決はこの間の事情も詳細に認定したのに そしてフランスの歴史学者を登場させ、ヨーロッパ 最高裁はそれを覆したのです。 人は、野蛮な植民地の人々を「文明化させる」こと を使命としており、それを宣伝する場が「人間動物 テレビ会社には放送番組の編集の自由が認められ 園」であり、日本も植民地を差別していたという解 ますが、具体的な人権侵害があれば、それは法的権 利として認められます。しかし、本件番組の A のよ 説があります。 うに、さらにはパイワン族の人々のように、自分た これを見た視聴者は、画面に映っている A の父親 ちの感情と正反対の報道がなされた場合の救済策は が動物扱いされ、日本政府がパイワン族の人々を差 別したと受け止めるでしようが、それとともに、 A 現在の法体系の下ではないのです。 放送番組の資質向上のためにはどのような手段が についても動物扱いをされた者の娘だと思うでしょ う。このことはやはり A に対する名誉毀損となるの あるのかが今後の問題です。 ではないでしようか。それがテレビ報道の特殊性に ( たかいけ・かつひこ ) ついての考慮であるべきだと思います。 その証拠に、当時の新聞でも、パイワン族の「人 間動物園」の説明に批判の報道がなされています。 平成 21 ( 2009 ) 年 9 月 16 日の朝日新聞では、現地取 材をして、「台湾で広がる困惑」の見出しと、「登場 の先住民族『説明なかった』」の小見出しで、パイ ワン族の人たちがこの番組を批判していることが報 道されているのです。 6 ー残された間題 最高裁の判断は以上のとおりであり、最高裁は事 実判断をしないので、判決批判ではありませんが、 本件番組の「人間動物園」については大きな問題が を

2. 法学セミナー 2017年1月号

103 応用刑法 I ー総論 の間に因果性を否定するほどの重大な齟齬は存在し 互利用補充関係が認められないので共同正犯は成立しない が、因果性が認められれば狭義の共犯が成立する余地があ ないので強盗は共謀の射程の範囲内ということにな るので、その点を別途検討しなければならない。しかし、 る。つまり、客観的には強盗の共同正犯が成立する 判例実務では共謀の射程が否定された場合は ( 狭義の共犯 ことになる。 を検討するまでもなく ) 直ちに不可罰とされている ( 橋爪・ 前掲「共謀の意義について ( 1 ) 」 130 頁 ) 。したがって、因果 しかし、甲には窃盗の故意しかないので、前述の 性の有無によって共謀の射程の有無を判断するのが判例実 ように、抽象的事実の錯誤を検討し、最終的には、 務の立場であるといえる。 罪名は窃盗罪の共同正犯となる。 [ 2 ] 考慮要素 《コラム》 問題は、共謀の内容と実行の内容との間に因果性 共謀の射程と共同正犯の錯誤との関係 を否定するほどの重大な齟齬が認められるか否かを 共謀の射程の範囲内と判断されると、実行担 どのように判断するのかである。 当者が行った行為・結果が共謀関与者全員に客 それは、共謀の内容と実行の内容を比較すること : 観的に帰責される。これは、単独正犯でいうと によって判断するのであるが、その際の考慮要素と 実行行為と結果との間の因果関係が肯定された して、①日時、②場所、③被害者、④行為態様、⑤ ことに匹敵する。これにより、客観的には共同 保護法益、⑥故意、⑦動機・目的が挙げられる。 のうち、①から⑤までが客観的要素、⑥と⑦が主観 正犯が成立する。 しかし、主観的にも共同正犯として帰責され 的要素で、これらの要素を総合的に考慮して因果性 るためには、客観的な共同正犯に対応する主観 を否定するほどの重大な齟齬があるかを判断するこ 的な故意が必要である。そして、共謀の射程が とになる。 問題となるときは、共謀の内容と実行の内容に そして、共同正犯における因果性の判断の中心は 齟齬が認められる場合であり、実行担当者が行 「心理的因果性」であるから ( 15 講 96 頁 ) 、共謀が実 った行為・結果を共謀関与者は認識していない。三 行担当者に与えた心理的影響に着目する必要があ そこで、共同正犯の錯誤の問題を検討して主観三 り、そのためには、実行担当者が共謀に基づき犯行 的帰責を確定することにより、最終的に「何罪 動機を形成しその動機を継続した状況下で実行行為 の共同正犯」が成立するかが確定するのである。 . を行ったといえるかの判断が決定的である。それを なお、共謀の射程の範囲内であるということ 判断するために上述の考慮要素に注目するのである。 は、共謀と実行担当者が行った行為・結果との 間の因果性が認められるということにすぎな [ 3 ] 原則パターンの判断方法 い。実行担当者が行った行為・結果について「共 共謀の射程の有無は、原則として、上述の考慮要 : 謀が存在した」ということになるわけではない 素の検討により、共謀の内容と実行の内容を比較し、 ことに注意してほしい。 両者の間に因果性を否定するほどの重大な齟齬があ るか否かによって判断する ( 原則的判断 ) 。 これに対し、共謀の射程の範囲外の結果は客観的 例えば、窃盗の共謀で強盗を実現した【間題 3 】 に帰責されす、その結果の惹起について共同正犯は では、①日時 ( ある日 ) 、②場所 ( v 宅 ) 、③被害者 ( v ) 、 成立しない。その代表的な裁判例として次のものが ⑤保護法益 ( 財物に対する所有権・占有 ) については、 共謀の内容と実行の内容は同一である。④行為態様 ある。 は、財物奪取の手段として暴行を用いるか否かの違 いはあるが、被害者の意思に反して占有を移転する 暴力団 P 組の組長である甲は配下の組員乙ら 行為である点では共通である。⑥故意もその限度で と対立する暴力団 Q 組の組長 V を拉致し監禁す 共通性がある。そして、何よりも、⑦金品奪取とい ることを共謀した。ある日、乙らは V を路上で う当初の犯行動機が継続しており、目的を達成する 待ち伏せして拉致を試みたが失敗した。甲は上 ために奪取の手段を変更したにすぎない。 部組織の幹部から当面は動かないように指示さ このように考えると、共謀の内容と実行の内容と 【間題 5 】

3. 法学セミナー 2017年1月号

[ 特集引最高裁判決 2016 ーー 《判決要旨》最高裁判所第三小法廷 2016 ・ 1 ・ 21 判決 弁護士が語る 035 テレビ番組で、日本が、約 100 年前、台湾での植民 地政策の成果を世界に示す目的で、西欧列強が野蛮で 劣った植民地の人間を文明化させていると宣伝するた めに行っていた「人間動物園」と呼ばれる見せ物をま ねたとして、パイワン族を日英博覧会に連れて行き、 その暮らしぶりを展示と放映することは、パイワン族 に対する差別的な取扱いをしたという事実を摘示する り、あたかも動物園の動物と同じであるかのような 『見せ物』として扱われ、展示されたと放送した」 と判断しました。さらに、「人間動物園」という言 葉を使えば、動物扱いをされたのではないかとの意 味を含むことになり、対象とされた者の人間として の人格をも否定することにつながりかねない、とい っています。 番組作成のディレクターは、「全ての人に人間の 尊厳を認め、公平かっ平等な報道を行うよう心がけ るべきであり、報道によっていたずらに人の心を傷 つけることがないよう細心の注意を払うべきである ものと理解するのが通常であるが、一般の視聴者が、 パイワン族が動物園の動物と同じように扱われるべき 者であり、その子孫も同様に扱われるべき者であると 受け止めるとは考え難く、この番組でその子孫の社会 的評価が低下するとはいえず、その子孫の名誉を毀損 するものではない。 あるから、「報道番組の全体的な構成、これに登場 した者の発言の内容や画面に表示されたフリップや テロップ等の文字情報の映像及び音声に係る情報の 内容並びに放送全体から受ける印象等を総合的に考 慮して、判断すべきである」といっています ( 所沢 ダイオキシン報道事件、最ー小判決平 15 ・ 10 ・ 16 民集 57 巻 9 号 1075 頁、判時 1845 号 26 頁 ) 。 本件において、最高裁は、上記所沢ダイオキシン 報道事件の最高裁判決を引用しながら、「本件番組 の内容は、 一般の視聴者においては、日本が、 にもかかわらず、 ・『人間動物園』という言葉に 飛びつき、その評価も定まっていないのに、その人 種差別的な意味合いに全く配慮することもなく、 れを本件番組の大前提として採用し、・・・・・・放送し、 ・・・控訴人 A を困惑させて、本来の気持ちと違う言 葉を引き出し、・・・・・・侮辱するとともに、それまで控 訴人 A が・・ ・・イギリスに行った人の娘であるという 社会的評価を傷つけたことは明らかであるから、そ の名誉を侵害したものであり、違法行為を構成する ものと言うべきである。」と判断したのです。 5 ー最高裁判決の意義 名誉毀損というのは、ある言動が、被害者の社会 的地位を低下させるものであるかどうかで決められ ます。最高裁は、新聞報道によって被害者の社会的 地位が低下するものであるかどうかについて、「一 般読者の普通の注意と読み方を基準として」判断す るといっていますが ( 最二小判昭 31 ・ 7 ・ 20 民集 10 巻 8 号 1059 頁 ) 、テレビ報道については、その上、視 聴者が、「音声や映像によって次々と提供される情 報を瞬時に理解することを余儀なくされる」もので ・・・西欧列強が野蛮で劣った植民地の人間を文明化 させていると宣伝するために行っていた『人間動物 園』と呼ばれる見せ物をまねて、被上告人の父親を ・・日英博覧会に連れて行き、その暮らしぶりを展 示するという差別的な取扱いをしたという事実を適 示するものと理解するのが通常であると言える。 一般の視聴者が、被上告人の父親が動物園の動 物と同じように扱われるべき者であり、その娘であ る被上告人自身も同様に扱われるべき者であると受 け止めるとは考え難く、したがって本件番組の放送 により被上告人の社会的地位が低下するとはいえな い。」と判断しました。 要するに、一般の視聴者は、日本政府がパイワン 族に対して差別的取扱いをしたとは理解するが、 A の父親や A 個人を差別的に扱ったとは受け取らない というのです。 しかし、この最高裁の判断は、所沢ダイオキシン 報道事件の最高裁判決を引用しながら、その論理を 採用していないと思います。なせなら、テレビは、 映像であり、視聴者が、「音声や映像によって次々 と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なく される」ものであるから、「報道番組の全体的な構成、

4. 法学セミナー 2017年1月号

034 るようにと思わせているのです。 日英博覧会に自分たちの祖先が参加したことをパ イワン族の人たちは誇りを持っていたので、それと 逆の印象を与える番組を見たパイワン族の人たちが みんな怒り、原告となりました。 2 ー原告の主張の概略 原告はいくっかのグループに分かれます。まず、 ①一般の日本人、次に②一般の台湾人、この中には 番組に登場した人も含まれます。次に③パイワン族 の人々、それから④番組に登場した日英博覧会に出 演したパイワン族の子孫である女性 A です。 ①については、 NHK が放送法に定められた公平 な放送をするという義務に従って放送することを期 待して NHK と受信契約を締結したのに、 NHK はそ の義務に違反したもので、これは視聴者の知る権利 を侵害するものであるからとして慰謝料を請求しま 0 ②については、日本との友好を願い、日本及び日 本人に対し親愛の気持ちを抱いていたのに、この番 組により、祖先及び同胞が人間動物園に出演させら れ動物扱いされたと報道され甚だしく名誉を傷つけ られたとして慰謝料を請求しました。 ③については、この番組は、自分たちの先祖の名 誉を棄損するばかりではなく、現在の自分たちの名 誉をも毀損し、人権侵害と人種差別を容認、助長す るものだとして慰謝料を請求しました。 ④については、 A は、 NHK の取材に来た者から、 三日間にわたって取材を受け、日本人として少女時 代を過ごした時の良い思い出を話し続けたのにそれ が一切取り上げられすに、人間動物園の説明もせず、 ただ日英博覧会に出演したときの実父の写真を見せ られて、最後に父を懐かしんで涙を流したその瞬間 が撮影され、事実と全く違う内容で放送され、名誉 やプライバシーが侵害されたとして慰謝料を請求し ました。 3 一裁判の経過 平成 21 ( 2009 ) 年 6 月 25 日、 8389 名の原告の第一 次訴訟を東京地裁に提起し、 10 月 6 日に 1949 名の原 告の第二次訴訟を提起し、併合されました。平成 22 ( 2010 ) 年 2 月 15 日が第 1 回口頭弁論で、 NHK のデ ィレクターの証人尋問を含んで平成 24 ( 2012 ) 年 8 月 24 日まで 13 回の弁論が開かれました。 同年 12 月 4 日の判決では、原告の請求はすべて棄 却され、 27 日に東京高裁に控訴しました。 控訴審では、平成 25 ( 2013 ) 年 4 月 23 日に第 1 回 口頭弁論、 8 月 8 日まで 3 回の口頭弁論が開かれ、 11 月 28 日に判決が出ました。 上記④について、 1 開万円の慰謝料を認めたのです。 そして、 12 月 11 日に NHK が上告受理を申し立て、 平成 27 ( 2015 ) 年 10 月 8 日に、最高裁第一小法廷が NHK の上告を受理する決定をして、 11 月 26 日に弁 論が行われ、平成 28 ( 2016 ) 年 1 月 21 日、原告側の 全面敗訴の判決が出ました。 4 一地裁高裁判決の内容 ①については、 NHK には放送番組の編集の自由 があり、視聴者の価値観を基準にして公平放送義務 を課すことは、 NHK の編集の自由を著しく制約す ることになるから認められない。公平放送義務は、 国民全体に対する公法上の義務であり、個々の視聴 者に対する私法上の義務ではない、と判断しました。 これはこれまでの最高裁判例理論を踏襲したもので す。 ②③についても、 NHK の番組編集の自由から認 められませんでした。 ④については、一審の東京地裁は、 A が登場した 場面に「人間動物園」という言葉を使ったとしても NHK の編集の自由である。人間動物園の説明がな かったとしても A の父親を「人間動物園」で見せ物 にしたことを歴史的事実として紹介しているにすぎ ないから、 A を動物扱いしたと評価できるものでは ないとして A の請求を認めませんでした。 これに対して、東京高裁は、番組の経過の順を追 って詳細な事実認定をして、 A の請求を認め、 100 万円の損害賠償を認めました。まず、人間動物園の 説明もせす、 NHK の筋書きに従って番組を編集し たことは、取材に応じた A の好意を土足で踏みにじ るような結果を招いたとし、担当者は、自分の考え に合致する内容の番組を作ることばかりに目が向い ていて、取材の基本を怠ったとまで指摘しています。 動物園』において、野蛮で劣った植民地の人間であ 本政府によって日英博覧会に連れて行かれ、『人間 A の父親が、「台湾を植民地としていた日 そして、番組で「人間動物園」という言葉を使用し たのは、

5. 法学セミナー 2017年1月号

014 での宮内大臣がそのまま横滑りしてしまっているわ けです。しかし、本来ならば国務大臣が構成員にな るべきです。 1968 年の皇室経済「懇談会」のときも、 当時の主管大臣だった総理府総務長官が皇室会議や 皇室経済会議の構成員になっていないことについ て、国会質疑で疑義が呈されたことがあります。現 在であれば、内閣官房長官か特命担当大臣を入れる べきでしようが、いずれにしても、皇室会議の構成 は、その段階で再考すべきだったと思います。 西村さんがおっしやったように、例えば皇族は抜 いたほうがよいのではないか。それもあり得ると思 います。ご意見を聞くだけなら聞けばよくて、議決 権を持たせることまでは、たしかにやる必要はない かもしれない。ただ、私が言っているのは、懇談会 という、ある種の非公式会議のようなものなので、 その構成としては、入っても入らなくても、どちら でもよいかと思います。 横田岡田さんの案では、皇室会議にどこまでのこ とをやらせるのですか ? 岡田皇室会議そのものにやらせるということでは ありません。懇談会形式で皇室会議のメンバーを集 めて、衆参の両院議長がたたき台のようなものをつ くり、そこで議論する。 横田事務局はどうします ? 岡田それは国立国会図書館が議長を補佐してやる べきだと思います。国立国会図書館の調査及び立法 考査局が資料をつくり、こういうプランがあり得る ということをやることになるでしよう。 横田国会図書館にそういう事務ができるのかしら。 岡田それができないことが今の国立国会図書館の 大問題で、先ほども言ったとおり、制憲当時はまさ にそういう機能が期待されていたはずです。そこは 理想に合わせるべきだと思います。 今回のことは、国権の最高機関としての国会の位 置付けを見直す機会になるでしようし、天皇制をコ ントロールできてこそ、最高機関の国会だと思いま す。その意味で一つの試金石になるでしよう。 今のように内閣がお膳立てした有識者会議では結 論ありきの議論しかできない。有識者の言わんとす ることは著書・論文を読めばだいたいわかることば かりで、そういう人たちを集めて 20 分しゃべらせて、 10 分だけ質問するということで充分な検討ができ るとは思えない。国家の骨組みをつくる会議におい て、審議会行政そのままのようなことをやってしま っては必ず後世に禍根を残すことでしよう。 横田国会図書館内にある事務局で原案をつくるの ですか ? 岡田ある程度の原案はつくれると思います。今回 の件については、それほど難しくはないと思います。 そして、最高裁長官、判事なども含めた三権の長 を中心とする皇室会議のメンバーが懇談会形式で議 論する。そこでまとまった案を、衆参両院議長のど ちらでもよいですが、議長提案という形で国会に提 出し、そこで審議をする。それが一番理想だと思っ ています。 植村しかし、皇室会議は、三権の長を入れて、そ の上に天皇がいるようなイメージを残しているわけ ですよね。国権の最高機関たる国会で議論すべきだ と言うのであれば、国会の中にあるもの、あるいは 国会の中に何かをつくるという話であればわかるの ですが、三権の長ということは最高裁長官や裁判官 も積極的に合意プロセスの中に最初から組み込む と、通常の法案をつくるのとは違い、ワンランク上 の大切なことを議論する場ということになり、そう しなければいけないような雰囲気を醸し出してしま って、そもそもよくないのではないかとも思います。 実質は、国会図書館がサポートして、国会が議論 するということであれば、皇室会議のメンバーでは なくて、国会の中でこそ議論するべきはないでしょ うか。最高裁長官が、そもそも皇室会議に入ってい るのがよいかどうかという議論はあると思います が、単に事実認定機関としては許されても、政治プ ロセスに露骨に組み込むのはどうか。実際にそのよ うなことはないでしようが、法律が違憲かどうか問 題になったときに、「いや、僕はあの皇室会議で合 憲と言っちゃったよ」という話になるのは、プロセ スとしてはちょっと違うのかなと思いました。そこ ら辺りはいかがでしようか ? 岡田司法の政治的中立性の捉え方の問題だろうと 思います。政治プロセスに最高裁の裁判官が組み込 まれるのはよろしくないというのはそのとおりだと 思います。しかし、皇室会議の構成員が、出身母体 の命令委任による代表ではなく、党派的な政治プロ セスとは切り離された存在であるならば、法の番人 としての司法府の代表者が加わることも可能でしょ う。ただ、それ以上に三権の長が揃うことの象徴的

6. 法学セミナー 2017年1月号

事例研究行政法 曽和俊文・野呂充・北村和生ー [ 第 3 版 ] 0 : 大好評の事例問題集を、 5 年ぶりに全面改訂。初学者にもより使い やすく、かっ、行政法の現代的課題にも応えうる、最高の 1 冊。 ー A5 判 / 本体 3 , 500 円十税旧 BN978-4-535-52194-0 ・ 32 問中 19 問が新規の事例問題。既存の問題も全て「当てはめ」を丁寧にして全面見直し。 ・第 1 部に「ウォーミンクアップ」、第 3 部に配点を入れ、個々の読者の学習段階に対応。 ニ講義も 1 本追加し、その他のコラムもさらに充実。 事例研究会社法 事例研究憲冫去 [ 第 2 版 ] 木下智史・村田尚紀・渡辺康行 [ 編著 ] ■本体 3 , 800 円 + 税小林量・北村雅史 [ 編著 ] ■本体 3 , 000 円 + 税 事例研究民事冫去 I [ 第 2 版 ] 一本体 3 , 600 円 + 税 事例研究刑事法 I 刑法 [ 第 2 版 ] 事例研究刑事法Ⅱ刑事訴訟法 [ 第 2 版 ] 事例研究民事法Ⅱ [ 第 2 版 ] 瀬川信久・七戸克彦・山野目章夫・小林量・山本和彦・山田文 井田良・田口守一植村立郎・河村博 [ 編著 ] ・本体各 3 , OOO 円 + 税杉山悦子・永石一郎・亀井尚也 [ 編著 ] ・本体 3 , 300 円 + 税 事例研究 行政法 [ 第 3 版 ] 曽和俊文・野呂・北村和 1 , 、 , 5 年ぶりの全面改訂版 〒 170-8474 東京都豊島区南大塚 3 ー 1 2 ー 4 TEL : 03-3987-8621 /FAX : 03-3987-8590 ( イ ) 日本言平冊ネ土 こ注文は日本評論社サービスセンターへ TEL : 049-274-1780/FAX : 049-274-1788 https://www.nippyo.co.jp/ 元最高裁判事が見た司法の姿とその役割を鮮やかに描く 泉徳治元最高裁判事に聞く 泉徳治 渡辺康行・山元ー・新村とわ [ 聞き手 ] 裁判所の要職を歴任した元最高裁判事が、 憲法学者を聞き手に そこで出会った人々の姿と、 いま裁判所が果たすべき役割をいきいきと語る。 ◎本体 2700 円十税四六判、 360 頁 FAX : 03-3987-8590 ( ) 日本言平言侖ネ土 〒 170-8474 東京都豊島区南大塚 3 ー 1 2 ー 4 TEL : 03-3987-8621 こ注文は日本評論社サーヒスセンターへ TEL : 049-274-1780 FAX : 049-274-1788 https://www・ nippyo ・ co ・ jp/ 一歩前へ出る司法

7. 法学セミナー 2017年1月号

128 法学セミナー 201 ア 03 [ へんしゅうらんだむ ] 次号予告 ( 4 月号 ) [ 特集 ] 法学入門 2017 工デイトリアルデザイン : 図工ファイブ 編集後記 司法修習中の読者が日評に訪問して くれた。小誌を学習に活用してくれ たことや法曹としての理想を伺え、 刺激になった。今号は最高裁判決特 集。裁判では判決文には登場しない 多くの協力者がいたことも語られて 法律学をこれから学び始める初学者に向けて、法律学の基本六法 いて、仲間を集めることが重要なー ( 憲法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法 ) の魅力を 歩になるのを感じた。今度は、最咼 法学研究者が語る法学入門企画。 裁で戦った弁護士のドラマで法曹と なる方に刺激を与えたい。 [ 大東 ] 憲法入門・・・・・・只野雅人 ( 一橋大学教授 ) 民法入門・・・・・・伊藤栄寿 ( 上智大学准教授 ) 前号と本号で天皇の生前退位を議論 商法入門・・・・・・舩津浩司 ( 同志社大学教授 ) する座談会を掲載した。憲法からす 民事訴訟法入門・・・・・・杉本和士 ( 千葉大学准教授 ) るとそもそもこうなるはずだという 刑法入門・・・・・・曲田統 ( 中央大学教授 ) 前提を確認することが法的な議論の 刑事訴訟法入門・・・・・・笹倉香奈 ( 甲南大学教授 ) 出発点として必要だろうということ と、現実としての天皇の言動の社会 的な影響力と国民の意識の問題があ お知らせ るとして、法律学はどのような問題 で ( 4 年制大学 2018 年 3 月卒業見込 ■責任無能力者による不法行為と 提起ができるのかということを考え 「家族」の責任 者も可 ) ながら編集した。問題に特殊性があ 日時 : 3 月 29 日 ( 水 ) 13 : 00 ~ 17 : 00 待遇 : 正社員。雇用期間の定めなし。 るとしても、あくまで民主的なプロ 場所 : 神戸大学六甲台第 1 キャンパ 当社規定による。大卒初任給 21.9 万 セスの中で議論し、決定することの ス本館 102 教室 円 ( 2016 年実績 ) 。社会保険完備。 重要性を確認することができた。 内容 : 「はじめに 通勤費全額支給。完全週休 2 日制。 問題の所在」 本通常国会に提出されるという名 応募書類 : 履歴書 / 職務経歴書 ( 就 窪田充見 ( 神戸大教授 ) / 「近時の 前を変えた共謀罪法案は、法律学か 労経験者のみ ) / 課題文 ( 手書き ) 、 判例にみられる監督義務者責任の流 らも問題を指摘され、過去 3 度廃案 れとその評価」前田陽一 ( 立教大教 400 字詰原稿用紙 2 枚 授 ) / 「不法行為責任と家族の関わ 課題 A 「最近あなたが関心をもった になったもので、名前を変えても対 り」久保野恵美子 ( 東北大教授 ) / 話題を書籍化するために企画書を作 象を減らしても、犯罪の成立を前倒 「精神病の患者に関する看護の態勢 ります。その本につける書名とキャ しする本質は変わらないと思う。 とあるべき制度設計」手嶋豊 ( 神戸 ッチコピーを作り ( あわせて 40 文字 好評だった北尾トロさんのコラム 大教授 ) 「総括とコメント」大塚直 ( 早 以内 ) 、本の内容紹介文を 600 文字以 「恋の法廷式」が終了。次号から新 稲田大教授 ) ・米村滋人 ( 東京大教授 ) 内で書きなさい。」 / 課題 B 「本が 連載開始です ! [ 柴田@eisuke503] / 司会 : 浦野由紀子 ( 神戸大教授 ) 売れない時代と言われています。専 田中洋 ( 神戸大准教授 ) 門書ももちろん例外ではありませ 申込締切 : 2017 年 3 月 21 日 ( 火 ) ん。この環境下で、専門書を書店で 参加申込 : E-mail:skhj@people. 売るための販売・宣伝方法を 600 文 kobe-u. ac.jp / 「責任無能力者によ 字以内で書きなさい。」 る不法行為と「家族」の責任」シン A 、 B どちらかを選んで応募。 ポジウムへの参加希望と明記のう 応募方法 : 上記を弊社に直接郵送の え、名前、連絡先、所属を記入。 こと。 3 月中に面接・試験の予定。 株式会社日本評論社総務部「社員募 お問い合わせ先 : 神戸大学法学研究 科「法の実現」科研 集 2017 」係 住所 : 〒 170-8474 東京都豊島区南 E-mail:skhj@people.kobe-u.ac.jp 正社員募集のお知らせ 大塚 3-12-4 ■募集内容 提出期限 : 2017 年 3 月 10 日 ( 金 ) 必着 職種 : 編集職・業務職 採用情報の URL 応募資格 : 大卒以上、 26 歳くらいま www.mppyo.co.jp/recruit/ 法学セミナー HP http: ″ www.nippyo. CO. jp/ blog—housemi/ 法学セミナー携帯サイト 法学セミナーの最新情報をチェック できる携帯サイトをご利用下さい。 http: ″ katy. jp/housemi/ 回回

8. 法学セミナー 2017年1月号

123 事実の概要 ら、同条項に基づいて再雇用の希望のある従業員が 満 65 歳に至るまでの雇用を確保すべきである、② Y Y 社では、平成 24 年 12 月 2 日から平成 25 年 10 月 1 名年 社に再雇用の選定手続の違反がある、③ Y 社が再雇 日の間に 60 歳に達して定年退職を迎える従業員に対 用の選定基準を満たしている X の再雇用を拒否する して、再雇用の選定基準を満たした者は定年後再雇 職 ことはできないことを理由として、 X に対する再雇 用者就業規則に定める職務 ( 雇用期間は最長 5 年間、 後 用拒否の通告は無効であると主張し、 X と Y 社との スキルドバートナーと呼ばれる ) を提示し、当該基準 間のスキルドバートナーとしての再雇用契約に基づ を満たさない者はパートタイマー就業規則に定める いて X が雇用契約上の権利を有することの確認、定 職務 ( 雇用期間は 1 年、更新なし ) を提示するとさ 年退職日の翌日からの賃金等の支払などを求めた。 れている。 Y 社に雇用されていた X は、定年退職後 用 原判決は X の請求をいずれも棄却した ( 名古屋地岡 にスキルドバートナーとして再雇用されなかったこ 崎市判平 28 ・ 1 ・ 7 LEX / DB 文献番号 25543729 ) 。 とに関して、① Y 社での再雇用の選定基準が不相当 これに対して X が控訴したのが本件である。 であり、高年法 9 条 1 項に反している状態にあるか [ 名古屋高判平 28 ・ 9 ・ 28 LEX / DB 文献番号 25543730 ] 働 雇用・年功処遇と賃金コスト抑制が実現されてき たが、高年法により 60 歳を超えた者の雇用確保措 定年退職後の再雇用の労働条件と高年法の趣旨。 置が義務づけられたこと、そのコスト増大を回避 と 一部認容。 X がスキルドバートナーの選定基準 して労働者全体の安定雇用を実現する必要が企業 にはあること、在職老齢年金や高年齢雇用継続給 を満たさないなどの原審判断を是認したうえで、 年 付があること、定年後継続雇用は法的には従前の つぎのように判示した。 2012 年改正高年法によれ 雇用関係の解消と雇用契約の新規締結であること ば、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢 を考慮すると、賃金引下げ自体が不合理とはいえ 引上げに対応して、事業主は「労使協定で定めた 者 ないと判示された ( 同・東京高判平 28 ・ 11 ・ 2 労 基準を満たさないため 61 歳以降の継続雇用が認め 判 1144 号 16 頁 ) 。つぎに、再雇用後の職務内容が られない従業員についても、 60 歳から 61 歳までの 用 大きく異なり、連動して賃金が減額される場合に 1 年間は、その全員に対して継続雇用の機会を適 安 は高年法の趣旨との関係が問題となる。本件の控 ・・どのような労働条 正に与えるべきであって、 訴審判決では、 60 歳から 61 歳 ( 現行 62 歳 ) まで希 件を提示するかについては一定の裁量があるとし 望者全員の継続雇用を義務づけた同法の趣旨とし ても、提示した労働条件が、無年金・無収入の期 法 て、①当該期間の無年金・無収入の発生防止と② 間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認で の 継続雇用機会の実質的保障が強調され、②の点で きないような低額の給与水準であったり、社会通 趣 の違法性が肯定された。業務内容が「性質の異な 念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難い ・・・むしろ通常解雇と ような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用 ったものである場合には、 新規採用の複合行為というほかないから、従前の の機会を与えたとは認められない場合において 職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相 は、当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明ら 当とする事情がない限り、そのような業務内容を かに反する」。本件ではパートタイマーの給与水準 提示することは許されない」との判示が注目され はそこまで低額といえないが、業務内容は同法の る。これによれば、解雇事由があるが定年退職に 趣旨に明らかに反し違法であり、 Y 社の対応は雇 至ったときのみ、本件のような職種変更は可能と 用契約上の債務不履行であり不法行為でもある。 なるが、それはかなり例外的な場合である。①の X の請求はパートタイマーとしての 1 年間の給与 点は損害額の認定ともかかわるが、老齢厚生年金 相当額の損害賠償等を求める限度で理由がある。 の報酬比例部分との対比のみで賃金水準を容認し たのは一面的である。 Y 社は事務職のうちで適切 最近では定年後再雇用の賃金水準が争われる事 な業務を検討すべきであったが、かかる注意義務 例が目立つ。まず、職務の内容や人材活用の仕組 違反による損害は前述の限りでしか認められない みが従前と同じであるのに、賃金が減額される場 結果となった。なお、 1994 年改正高年法により定 合、労契法 20 条との関係が問題となる。この点が 年を 55 歳から 60 歳に引き上げ、 55 歳以降を嘱託と 争われた事案の第一審は、定年後再雇用時の賃金 して別給与体系とした事例では、「雇用関係につ の定めを同条違反で無効とし、正社員就業規則を いての私法秩序」という観点からその合理性が審 適用して差額賃金支払等を認めた ( 長澤運輸事件・ 査された ( 協和出版販売事件・東京高判平 19 ・ 東京地判平 28 ・ 5 ・ 13 労判 1135 号 11 頁 ) 。これに 法学セミナー 10 ・ 30 労判 954 号 54 頁 ) 。 ( やの・まさひろ ) 対し、控訴審では、無期雇用と定年制により安定 2017 / 03 / no. 746 最新判例演習室ーーー労働法 裁判所の判断 龍谷大学教授矢野日日浩

9. 法学セミナー 2017年1月号

085 人の保護は限定されよう。 4 おわりに プラスアルフアについて考える基本民法 10 ) 潮見・前掲書 641 頁。 9 ) 前掲・最判昭和 42 ・ 10 ・ 27 。 指名債権譲渡における取引安全の特色を大まかに まとめると、次のようになろう。第一に、対抗問題 においては、譲受人相互間の優劣はもつばら対抗要 件具備の先後によって決せられ、背信的悪意者排除 のような価値判断は、譲受人間の責任追及において 事後的に図られるべきである。このような構成は、 債権譲渡における債務者の地位尊重を基礎とするも のである。第二に、占有に公信力が認められる動産 取引に比して静的安全すなわち債務者保護が重視さ れている。不動産取引と比較してみても、債権の存 在または抗弁事由不存在の外観の作出・存続に対す る債務者の意思関与を要件とする 94 条 2 項類推適用 法理のような譲受人保護のための一般法理は確立さ れていない。債権譲渡に固有の譲受人保護規定であ る 468 条 1 項が疑問視されている現状においては、 94 条 2 項や 96 条 3 項など、抗弁事由ごとに個別の第 三者保護規定が適用されるにすぎない。このような 傾向は、①債権譲渡においては、抗弁事由を含めて その性質・内容を保ったまま債権が移転するのであ り、譲受人もこれを前提とすべきこと、②指名債権 は信頼の対象としての権利の表象を伴わず、流通保 護の要請が高くないこと、③債権譲渡に債務者が関 与しておらす、その地位を害してはならないこと、 によって基礎づけられよう。 1 ) 最判昭和 49 ・ 3 ・ 7 民集 28 巻 2 号 174 頁 ( 以下、「昭 和 49 年判決」という ) 。 2 ) 対債務者間につき、最判昭和 55 ・ 1 ・ 11 民集 34 巻 1 号 42 頁、譲受人相互間につき、最判平成 5 ・ 3 ・ 30 民集 47 巻 4 号 3334 頁参昭 3 ) 大判大正 3 ・ 11 ・ 20 民録 20 輯 963 頁。 4 ) 平野裕之『債権総論』 ( 信山社、 2005 年 ) 485 頁。 5 ) 奥田昌道「債権総論〔増補版〕』 ( 悠々社、 1992 年 ) 441 頁、潮見佳男「債権総論Ⅱ〔第 3 版〕』 ( 信山社、 2005 年 ) 634 頁、中田裕康『債権総論〔第 3 版〕』 ( 岩波 書店、 2013 年 ) 537 頁、など。 6 ) 奥田・前掲書 441 頁、など。最判昭和 42 ・ 10 ・ 27 民集 21 巻 8 号 2161 頁も参照。 7 ) 潮見・前掲書 635 頁、など。 8 ) 大判大正 7 ・ 9 ・ 25 民録 24 輯 1811 頁など。我妻栄「債 権各論上巻』 ( 岩波書店、 1954 年 ) 198 頁、奥田・前掲書 442 頁、谷口知平 = 五十嵐清編「新版注釈民法 ( 13 ) 』 ( 有 斐閣、 1996 年 ) 726 頁〔山下末人〕、平野・前掲書 486 頁、 近江幸治「民法講義 v 〔第 3 版〕』 ( 成文堂、 286 年 ) 103 頁、など。 (I) 民法 ( 債権関係 ) 改正法案新旧対照条文 ( 商事法務、 2015 年 ) 120 頁。 12 ) 最判平成 27 ・ 6 ・ 1 民集 69 巻 4 号 672 頁 ( 以下、「平 成 27 年判決」という ) 。 13 ) 大判昭和 9 ・ 7 ・ 11 民集 13 巻 1516 頁、など。 14 ) 林良平 ( 安永正昭補訂 ) = 石田喜久夫 = 高木多喜男「債 権総論〔第 3 版〕』 ( 青林書院、 1996 年 ) 507 頁、平井宜 雄『債権総論〔第 2 版〕』 ( 弘文堂、 2 開 1 年 ) 143 頁、淡 路剛久「債権総論』 ( 有斐閣、 2002 年 ) 464 頁、加藤雅信 「新民法大系Ⅲ』 ( 有斐閣、 2003 年 ) 316 頁。 15 ) 我妻栄「新訂債権総論』 ( 岩波書店、 1964 年 ) 538 頁、 内田貴「民法Ⅲ〔第 3 版〕』 ( 東大出版会、 2005 年 ) 236 頁、 潮見・前掲書 643 頁、川井健「民法概論 ( 3 ) 〔第 2 版補訂版〕』 ( 有斐閣、 2009 年 ) 264 頁、近江幸治「民法講義Ⅳ〔第 3 版補訂版〕』 ( 成文堂、 2009 年 ) 270 頁、中田・前掲書 397 頁。 16 ) 本誌 724 号 ( 2015 年 ) 88 頁以下。 17 ) 奥田・前掲書 446 頁。 18 ) 幾代通「民法総則〔第 2 版〕』 ( 青林書院、 1984 年 ) 257 頁。 19 ) 最判平成 8 ・ 6 ・ 18 集民 179 号 331 頁。 20 ) 柴田保幸「判解」最判解民事篇昭和 49 年度 97 頁。 ( むかわ・こうじ )

10. 法学セミナー 2017年1月号

047 [ 特集ー最高裁判決 2016 ーー弁護士が語る NOON. ダンス営業規制違憲訴訟 最高裁判所第三小法廷 2016 ・ 6 ・ 7 決定 裁判所ウエプサイト / 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反被告事件 / 平成 27 あ ) 第 235 号 弁護士 西川研ー 法学セミナー 2017 / 03 / no. 746 1 ーダンスが規制対象 ? ! ダンスをさせる営業には許可が必要・一一そんな法 律が去年まであったことをご存じだろうか ? 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法 律 ( 以下「風営法」 ) の改正前条項がそれである ( 2 条 1 項 3 号、 3 条 ) 。仮に無許可で営業すれば、 2 年 以下の懲役・ 200 万円以下の罰金という重罪となる ( 総称して以下「ダンス営業規制」 ) 。 恥ずかしながら、弁護士である自分も、この事件 にかかわるまでこのような法律のことを詳しくは知 らなかった。 クラブ NOON の経営者である金光正年氏は、この ダンス営業規制に違反する罪で起訴されたが、表現 の自由などを主張して憲法訴訟としてたたかい、最 高裁で無罪を確定させた ( 以下「 NOON 訴訟」 )。さ らに同時になされた広範な運動が、ダンス営業規制 を削除させることに成功した。 拙稿は、私が、 NOON 訴訟弁護団長、そして法改 正運動を推し進めた Let's DANCE 法律家の会事務 局長として、この訴訟および運動に関わらせていた だいたことから、その内容をご報告するものである。 2 ークラブとダンス営業規制 [ 1 ] クラブ、そして NOON とは ? そもそもクラブとは、 ( あえて定義するならば ) 音 楽を扱う DJ 、映像等を扱うⅥなどが、客に対して 音楽や映像を楽しむ環境を提供し、音楽家やダンサ ーのライプパフォーマンス、絵画、デザイン、写真、 映像等の展示などを行う場である。それは、音楽を 中心として多種多様な新しい芸術的表現活動の場所 として機能している。こから発信されるクラブカ ルチャーは、オリンピックや J ポップ、果ては義務 教育でのヒップホップダンスなど、各方面に大きな 影響を与えている。 クラブも多種多様であり、音楽や文化を重視する ものから、社交性を重視するものまで多様な形態が あり、規模や雰囲気もさまざまである。 NOON 訴訟の舞台となったクラブ NOON は、音 楽や文化を重視するタイプのクラブである ( いわゆ る音箱と言われる ) 。 NOON がある大阪市北区の中崎 町というエリアは、いまでこそ若者の街として賑わ っているが、オープン当初は繁華街から少し離れた いわば倉庫街であった。 NOON 自体も JR のガード 下に他の倉庫と並んで位置するという、ちょっと通 好みなシチュエーションにある。 その NOON では、前身である DOWN 以来、 20 年 間近くにわたり、多種多様な新しい芸術的表現活動 が展開されてきた。なかでも、いまだ商業的価値の 確立していない新たな表現活動を積極的に展開する 点などにおいて、アーティスト、クラブユーザーの NOON に対する評価は高く、いわば関西の老舗クラ プとしての地位を NOON は築いていた。 [ 2 ] 風営法のダンス営業規制 ところで、冒頭述べたように、風営法においては、 「ナイトクラブその他設備を設けて、客にダンスさ せ、かっ、客に飲食をさせる営業」 ( 同項 3 号 ) 、を 行うには、風俗営業として都道府県公安委員会の許 可が必要とされ ( 3 条 ) 、この許可を得ずに上記営 業を行った場合、無許可営業罪 ( 懲役 2 年以下、罰 金 200 万円以下 ) として処罰される ( 49 条 1 項 1 号 ) 。 これが「ダンス営業規制」である。 そもそも、ダンス営業規制が法律で制定されたの は 1948 ( 昭和 23 ) 年。当時は、社交ダンスを楽しむ ダンスホールが売買春の温床となっている ( 実態と してはそれほど単純ではなかったようであるが尸とし て、条例等から法律制定に至ったようである。その