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1. 法学セミナー 2017年1月号

099 法学セミナー 2017 / 03 / no. 746 応用刑法ーー総論 CLASS [ 第 18 講 ] 共謀の射程と共同正犯の錯誤 明治大学教授 大塚裕史 責任の法理 ) 。 これに対し、共謀関与者の中の誰かが ( 1 人であ ◆学習のポイント◆ るいは分担して ) この合意 ( 約束 ) とは無関係に実 1 共同正犯が成立するためには、なぜ「共謀 に基づく実行」という要件が必要であるの 行行為を行ったとしても、その結果については、そ の実行行為を行った者だけに帰責され、共謀関与者 かを共同正犯の処罰根拠との関係で説明で 全員に共同正犯として帰責されるわけではない。 きるようにする。 このように、共謀の内容と実行の内容に同一性が 2 「共謀の射程」とは何かを知り、それが「共 認められるとき、「共謀に基づく」実行と評価でき 謀に基づく実行」という要件の中で問題と るので、他の共犯者の行為・結果の全体について共 なることを理解する。 同正犯が成立するのである。 3 共謀の射程の判断基準と具体的な判断方法 を理解し、具体的な事例を分析できるよう にする。 甲、乙および丙は、 V を殺害して覚せい剤を 4 共謀の射程と共同正犯の錯誤の関係を理解 奪ラ意思で、 ~ まず V に発砲して射殺し、その直 するとともに、抽象的事実の錯誤の第 1 類 後に v から覚せい剤を奪い取ることを共謀し 型の処理の仕方を復習しておくこと。 た。しかし、その後、実行行為を担当する乙と 丙は犯行手順の一部を変更し、まず乙が V から 1 共同正犯の成立要件としての「共謀に基づく実行」 覚せい剤を騙し取り、その後まもなく丙が V を 射殺した。なお、甲は、一 V の殺害と覚せい剤の 共同正犯が成立するためには、①共謀と②共謀に 奪取が行われればよく、どちらを先にするか、 基づく実行が必要である ( 16 講 93 頁 ) 。②の「共謀 覚せい剤を奪い取るか騙し取るかなどの手段は に基づく実行」という要件を充足するためには、共 どのようなものであってもかまわないと思い、 謀に基づいて実行行為が行われたことが必要であ 実行担当者の乙・丙に任せていた。 り、さらに、 ( 実行行為を分担しなかった者について 甲の罪責を論じなさい。 は実行行為に準ずるような ) 結果に対する重大な寄与 が必要である。 【間題 I 】において、乙および丙が実行したのは 共謀とは、各関与者が相互的意思連絡により「特 詐欺罪の共同正犯 ( 60 条・ 246 条 1 項 ) および 2 項強 定の犯罪を一緒にやろう」という合意を形成するこ 盗に基づく強盗殺人罪の共同正犯 ( 60 条・ 240 条後段 ) と ( = 約東すること ) である。そして、共謀関与者 である。これに対し、甲乙丙の当初の共謀の内容は、 の中の誰かが ( 1 人であるいは分担して ) この合意 ( 約 1 項強盗に基づく強盗殺人罪の共同正犯 ( 60 条・ 束 ) に基づいて実行行為を行った場合、その実行行 240 条後段 ) であり、共謀の内容と実行の内容に齟 為によって惹起された結果については、共謀関与者 齬があるようにみえる。 全員が共同正犯として帰責される ( 一部行為の全部 【間題 1 】

2. 法学セミナー 2017年1月号

102 法学セミナー 2017 / 03 / n0746 LAW CLASS ていたため、急遽強姦の犯意を生じて強姦行為に及 んだものである。金品奪取という当初の目的とは全 く無関係な行為に出たのであって、乙の強姦行為は 当初の共謀の心理的影響は及んでいない。そうだと すると、乙の強姦行為は「共謀に基づく実行」とは 評価できないので、この点について甲には共同正犯 は成立しない。 結局、甲には住居侵入罪の共同正犯 ( 60 条・ 130 条 前段 ) が成立するにとどまる。 また、乙には住居侵入罪の共同正犯と強姦罪 ( 177 条 ) が成立し牽連犯 ( 54 条 1 項後段 ) となる。 【間題 3 】のように、共謀の内容と実行の内容に 食い違いがあっても「共謀に基づく実行」と評価で きる場合を共謀の射程の範囲内という。【間題 4 】 のように、共謀の内容と実行の内容に食い違いがあ るため「共謀に基づく実行」と評価できない場合を 共謀の射程の範囲外という。 このように、「共謀の射程」とは、共謀の内容と 実行の内容に食い違いがある場合に両者の間に関連 性を認めることができるかという問題であり、共謀 の射程が肯定された場合は、当該実行行為は「共謀 に基づく実行」と評価されることになる。したがっ て、共謀の射程という問題は、故意の存否とは別個 の問題であり、故意が及ばない結果について客観的 に帰責できるか否か、すなわち、共同正犯の成立要 件である「共謀に基づく実行」の有無を判断する際 三盜罪の限度で「同一性」が認められるので、当 三場合、共謀の内容と実行の内容は v に対する強・ の乙が V に対して暴行を加えて財物を強取した 三物を強取しようと共謀したところ、実行担当者 : 例えば、甲と乙が v に対して脅迫を加えて財 ! 罪である場合には「同一性」が認められること 容と実行の内容が同一被害者に対する同一の犯 : ことの合意をいうので、原則として、共謀の内 によれば ) 「特定の犯罪」を共同して遂行する れないときである。共謀とは、 ( 判例実務の皿場三 丑謀の内容と実行の内容に「同一性」が認めら 「共謀の射程」を論じなければならないのは、 どのような場合に「共謀の射程」を論ずべきか 《コラム》 に論ずべき客観的帰責の問題である。 然「共謀に基づく実行」と評価してよく、共謀三 の射程を論ずる必要はない。この場合、共謀関 三与者は脅迫を手段とする強盜の故意であった が、現実には暴行を手段とする強盜が実現され たので具体的事実の錯誤の問題となり、判例の : とる法定的符合説によれば同一構成要件内の錯 : 誤は故意を阻却しないので、強盜罪の共同正犯 : が成立することになる。 なお、同一被害者に対する同一の犯罪である 三場合であっても、例外的に、共謀の際に「脅し : 三ても手をあげることは絶対にするな」と相談し・ ていたような場合は、共謀の内容と実行の間に 同一性は認められないので、共謀の射程を論ず べきことになる。 3 「共謀の射程」の判断方法 [ 1 ] 判断基準 共謀の内容と実行の内容に齟齬がある場合、当該 実行行為が共謀の射程の範囲内か否かをどのような 基準で判断すべきであろうか。 この点は、共謀の射程の問題が共同正犯の成立範 囲の外枠を画する問題であることから、共同正犯の 処罰根拠である「因果性」 ( 15 講 95 頁 ) の有無によ って判断すべきであろう。すなわち、共謀の内容と 実行の内容を比較し、因果性を否定するほどの重大 な齟齬が認められるか否かによって判断し、重大な 食い違いがあれば共謀の射程の範囲外と考えるべき である。 * 共謀の射程の判断基準に関する学説状況 共謀の射程の有無の判断基準については、本文で述べた ように「因果性」の有無によって判断すべきであるとする 見解 ( 橋爪隆「共謀の射程と共犯の意義」法学教室 359 号 〔 2010 年〕 20 頁以下、同「共謀の意義について ( 1 ) 」法学教 室 412 号〔 2015 年〕 129 頁以下 ) のほかに、「因果性と相互 利用補充関係」の双方を基準とする見解も主張されている ( 十河太朗「共謀の射程について」川端博ほか編「理論刑 法学の探究③』〔成文堂、 2010 年〕 73 頁以下 ) 。 後者は、因果性が認められても、共同正犯固有の相互利 用補充関係に基づいて結果を惹起したといえない限り共謀 の射程は及ばず共同正犯は成立しないとするものである が、相互利用補充関係は「共謀」という要件の中で判断さ れているから、共謀の射程が及ぶか否かの判断の際には「因 果性」の有無を検討すれば足りる。 また、後者によると、共謀の射程が否定された場合、相

3. 法学セミナー 2017年1月号

1 OI 応用刑法 I ー総論 三犯は実行行為の一部しか分担しなくても成立す : がって、共謀の内容と実行の内容は窃盗か強盗かの るものである。そのため、共同正犯の方が犯情三 違いがある。 が軽い場合が多いので共同正犯を認定する方が しかし、乙は、侵入した V 方に予想外にも V が存 : 被告人には有利である。また、共同実行によっ 在していたため、金品奪取という当初の目的を達成 て結果を惹起した以上、共同正犯という評価の : するために奪取の手段を変更したにすぎない。暴行・ 方が実態の評価として適切である。したがって、 脅迫のような手荒な手段をとらないということをあ 答案のレベルでは、共同正犯という結論を示し らかじめ約東していたのであればともかく、そうで ておけばよい。なお、この場合、罪数処理をし ない限り、乙の強取行為には当初の共謀の心理的影 たわけではないので包括ー罪となるわけではな 響が及んでいたといえる。そうだとすると、乙の強 い。あくまでも、単独正犯と共同正犯の取方が 取行為は「共謀に基づく実行」と評価してよい。 ! 成立している中でどちらを最終的な罪名として したがって、乙の金品強取について甲と乙に共同 刑事責任を問うかという問題にすぎないことに . 正犯が成立する。もっとも、何罪の共同正犯となる 注意してほしい。 かは各人の故意の内容によって決まる。甲には、窃 盗の共同実行の故意しかない。したがって、 ( 主観 的に ) 窃盗の共同実行の故意で ( 客観的には ) 強盗 2 「共謀の射程」とは何か の共同正犯を実現したことになるので、抽象的事実 共謀の内容と実行の内容に同一性が認められれ の錯誤の第 1 類型の問題となり ( 7 講 96 頁 ) 、後述 ば、「共謀に基づく実行」という共同正犯の成立要 のとおり、窃盗罪の共同正犯が成立する。 件は充足される 以上より、【間題 3 】の甲には、住居侵入罪の共 それでは、「共謀に基づく実行」が認められた場合、 同正犯 ( 60 条・ 130 条前段 ) と窃盗罪の共同正犯 ( 60 条・ なぜ共謀関与者全員に結果全体について共同正犯が 235 条 ) が成立し ( 1 個の共謀に基づくので ) 観念的 成立するのであろうか。この点は、共同正犯の処罰 競合 ( 54 条 1 項前段 ) となる。また、乙は、住居侵 根拠である「因果性」に立ち返って考えればよい。 入罪の共同正犯 ( 60 条・ 130 条前段 ) および強盗罪 ( 236 それは、共同犯行の合意を形成したこと ( 共謀 ) に 条 1 項 ) ( なお〔部分的犯罪共同説によれば〕甲と窃盗 よって、実行担当者の行為を心理的に促進し、実行 罪の限度で共同正犯となる ) が成立し、両罪は通例手 行為・結果に対して因果性を及ぼしたといえるから 段結果の関係にあるので牽連犯 ( 54 条 1 項後段 ) と である。 なる。 そうだとすると、共謀の内容と実行の内容に多少 【間題 4 】 の食い違いがあっても、実行行為・結果に対して因 果性が認められる場合には、「共謀に基づく実行」 甲と乙は、家人が不在の v 方に侵入し金品を と評価してよい。 窃取することを共謀し、ある日、、実行担当役の 乙が V 方に侵入したところ、予期に反して家人 W が在室しており、しかもそれが若い女性であ 甲と乙は、家人が不在の V 方に侵入し金品を ったため、急に強姦しようと思い、 W に暴行を 窃取することを共謀し、ある日、実行担当役の 加えて抵抗を困難にさせ姦淫して逃走した。甲 乙が V 方に侵入したところ、予期に反して V が の罪責を論じなさい。 在室していたため、計画を変更して V に暴行を 加えて反抗を抑圧して金品を奪取して逃走し これに対し、【間題 4 】では、甲と乙の共謀の内 た。甲の罪責を論じなさい。 容は ( V 方への ) 住居侵入と窃盗であるが、乙の実 行内容は ( V 方への ) 住居侵入と ( w に対する ) 強姦 例えば、【間題 3 】において、甲と乙の共謀の内 である。したがって、共謀の内容と実行の内容は窃 容は ( V 方への ) 住居侵入と窃盗であるが、乙の実 盗か強姦かという大きな違いがある。 行内容は ( v 方への ) 住居侵入と強盗である。した 乙は、侵入した V 方に予想外にも家人 w が存在し 0 1 三 【間題 3 】

4. 法学セミナー 2017年1月号

103 応用刑法 I ー総論 の間に因果性を否定するほどの重大な齟齬は存在し 互利用補充関係が認められないので共同正犯は成立しない が、因果性が認められれば狭義の共犯が成立する余地があ ないので強盗は共謀の射程の範囲内ということにな るので、その点を別途検討しなければならない。しかし、 る。つまり、客観的には強盗の共同正犯が成立する 判例実務では共謀の射程が否定された場合は ( 狭義の共犯 ことになる。 を検討するまでもなく ) 直ちに不可罰とされている ( 橋爪・ 前掲「共謀の意義について ( 1 ) 」 130 頁 ) 。したがって、因果 しかし、甲には窃盗の故意しかないので、前述の 性の有無によって共謀の射程の有無を判断するのが判例実 ように、抽象的事実の錯誤を検討し、最終的には、 務の立場であるといえる。 罪名は窃盗罪の共同正犯となる。 [ 2 ] 考慮要素 《コラム》 問題は、共謀の内容と実行の内容との間に因果性 共謀の射程と共同正犯の錯誤との関係 を否定するほどの重大な齟齬が認められるか否かを 共謀の射程の範囲内と判断されると、実行担 どのように判断するのかである。 当者が行った行為・結果が共謀関与者全員に客 それは、共謀の内容と実行の内容を比較すること : 観的に帰責される。これは、単独正犯でいうと によって判断するのであるが、その際の考慮要素と 実行行為と結果との間の因果関係が肯定された して、①日時、②場所、③被害者、④行為態様、⑤ ことに匹敵する。これにより、客観的には共同 保護法益、⑥故意、⑦動機・目的が挙げられる。 のうち、①から⑤までが客観的要素、⑥と⑦が主観 正犯が成立する。 しかし、主観的にも共同正犯として帰責され 的要素で、これらの要素を総合的に考慮して因果性 るためには、客観的な共同正犯に対応する主観 を否定するほどの重大な齟齬があるかを判断するこ 的な故意が必要である。そして、共謀の射程が とになる。 問題となるときは、共謀の内容と実行の内容に そして、共同正犯における因果性の判断の中心は 齟齬が認められる場合であり、実行担当者が行 「心理的因果性」であるから ( 15 講 96 頁 ) 、共謀が実 った行為・結果を共謀関与者は認識していない。三 行担当者に与えた心理的影響に着目する必要があ そこで、共同正犯の錯誤の問題を検討して主観三 り、そのためには、実行担当者が共謀に基づき犯行 的帰責を確定することにより、最終的に「何罪 動機を形成しその動機を継続した状況下で実行行為 の共同正犯」が成立するかが確定するのである。 . を行ったといえるかの判断が決定的である。それを なお、共謀の射程の範囲内であるということ 判断するために上述の考慮要素に注目するのである。 は、共謀と実行担当者が行った行為・結果との 間の因果性が認められるということにすぎな [ 3 ] 原則パターンの判断方法 い。実行担当者が行った行為・結果について「共 共謀の射程の有無は、原則として、上述の考慮要 : 謀が存在した」ということになるわけではない 素の検討により、共謀の内容と実行の内容を比較し、 ことに注意してほしい。 両者の間に因果性を否定するほどの重大な齟齬があ るか否かによって判断する ( 原則的判断 ) 。 これに対し、共謀の射程の範囲外の結果は客観的 例えば、窃盗の共謀で強盗を実現した【間題 3 】 に帰責されす、その結果の惹起について共同正犯は では、①日時 ( ある日 ) 、②場所 ( v 宅 ) 、③被害者 ( v ) 、 成立しない。その代表的な裁判例として次のものが ⑤保護法益 ( 財物に対する所有権・占有 ) については、 共謀の内容と実行の内容は同一である。④行為態様 ある。 は、財物奪取の手段として暴行を用いるか否かの違 いはあるが、被害者の意思に反して占有を移転する 暴力団 P 組の組長である甲は配下の組員乙ら 行為である点では共通である。⑥故意もその限度で と対立する暴力団 Q 組の組長 V を拉致し監禁す 共通性がある。そして、何よりも、⑦金品奪取とい ることを共謀した。ある日、乙らは V を路上で う当初の犯行動機が継続しており、目的を達成する 待ち伏せして拉致を試みたが失敗した。甲は上 ために奪取の手段を変更したにすぎない。 部組織の幹部から当面は動かないように指示さ このように考えると、共謀の内容と実行の内容と 【間題 5 】

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106 法学セミナー 2017 / 03 / n0746 めて、共謀による傷害罪の成立を認め、 LAW CLASS これが過剰 防衛に当たるとした第 1 審判決を維持した原判決に は、判決に影響を及ばすべき重大な事実誤認があり、 これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認 められる」と判示して、甲に無罪を言い渡している ( 最判平 6 ・ 12 ・ 6 刑集 48 巻 8 号 509 頁〔デニーズ歓送 コンパ事件〕 ) 。これは、急迫不正の侵害終了後の暴 行には当初の共謀の射程は及ばないので、新たな共 謀が成立したかどうかを検討すべきであるという趣 旨であると思われる。 [ 2 ] 例外パターン② 共謀の内容と実行の内容を比較するまでもなく共 謀の射程が否定される第 2 は、共謀段階での影響力 が小さい場合である ( 例外パターン② ) 。 甲 ( 男 ) と乙 ( 女 ) は、以前から 2 人でスナ ックの経営者に睡眠薬を飲ませて眠らせ、金品 を盗取するという昏酔強盗を行っていた。 2 人 は、ある日、遊興費ほしさから、同様の昏酔強 盗を計画し、乙が睡眠薬を用意した。また、乙 は、遊び友達である丙を犯行に誘うことを甲に 提案し、電話で丙をスナックに呼び出した。丙 は、乙から「薬飲ましてお金取っちゃおうよ」 などと昏酔強盜の計画をもちかけられて、これ に同意した。なお、丙と甲とは、この時が初対 面であった。 3 名は、その後、 V の経営する別 のスナックに入り、。乙が V の隙をうかがってビ ールグラスに睡眠薬を入れたが、 v は、意識が もうろうとし始めたものの眠り込むまでには至 らなかったので、甲が犯行計画を変更し、いき なり V の顔面を手拳で数回殴打して気絶させ、 3 名で店内の金品を奪って逃走した。 V はこの 暴行により頭部顔面外傷の傷害を負った。丙の 【間題 7 】 罪責を論じなさい。 か昏酔かの相異はあるが v の反抗を抑圧して財物を 益は全く同じで、④行為態様および⑥故意は、暴行 比較すると、①日時、②場所、③被害者、⑤保護法 謀の内容である昏酔強盗と実行の内容である強盗を したところ、甲が強盗を実行し傷害を負わせた。共 【間題 7 】において、甲と乙は昏酔強盗の共謀を 奪取する点で共通性が認められ、⑦遊興費ほしさに 被害者から財物を奪取という動機は継続している。 したがって、因果性を否定する程の重大な齟齬は ないので、 V に対する強盗行為は甲、乙にとっては 共謀の射程の範囲内と評価できる。甲および乙には、 ( 結果的加重犯の共同正犯を肯定する立場を前提とする 限り ) 強盗致傷罪の共同正犯 ( 60 条・ 240 条前段 ) が 成立する。 一方、丙にも、甲および乙との間に昏酔強盗の共 謀が認められる。そうだとすると、丙にも、乙と同 様、強盗致傷罪の共同正犯が成立するのであろうか。 この点、本問と類似の事案において、裁判所は共謀 の射程を否定している ( 東京地判平 7 ・ 10 ・ 9 判時 1598 号 155 頁 ) 。 裁判所が、丙との関係では乙の強盗行為が昏酔強 盗の共謀の射程の範囲外と判断したのは、共謀段階 での丙の影響力が小さいためであろう。すなわち、 甲と乙はこれまでも昏酔強盜を実行してきた経験が あり、今回も、昏酔強盗の実行を既に共謀しており、 そこに丙は誘われたにすぎない。しかも、丙と甲は 初対面であった。そうだとすると、丙は犯行計画の 策定に積極的に関与していたわけではなく、本件犯 行に従属的に関与したにすぎない。したがって、強 盗の実行を担当した甲に対して与えた心理的な影響 は極めて小さいといえる。つまり、甲が犯行計画を 変更したことに丙は何らかの影響を与えたとはいえ ないので、丙との関係では共謀の射程の範囲内とは いえない。 * 【間題 7 】における丙の罪責 本文で述べたように、丙との関係では甲の強盗行為は昏 酔強盗の共謀の射程の範囲外であるから、丙には強盗致傷 罪の共同正犯は成立しない。昏酔強盗未遂罪の共同正犯 ( 60 条・ 243 条・ 239 条 ) が成立するにとどまる。その上で、裁 判所は、丙が、甲の意図を認識しながら甲、乙と共に金口 、日ロ を奪っていることから、承継的共同正犯について検討して いる。承継的共同正犯については別講で扱うので詳細な説 明はそれに譲り、ここでは結論だけ示しておくことにする。 判例実務の理解によれば、先行者の暴行による反抗抑圧状 態という効果を利用して強取という結果に対して因果性を 与えた場合、強盗罪の共同正犯は成立するが、致傷結果に 対しては因果性を与えていないので強盗致傷罪の共同正犯 は成立しない ( 最決平 24 ・ 11 ・ 6 刑集 66 巻 11 号 1281 頁にお ける千葉勝美裁判官の補足意見参照 ) 。そうだとすると、 本件丙についても、強盗罪の共同正犯 ( 60 条・ 236 条 1 項 ) が成立し、昏酔強盗未遂罪の共同正犯はこれに包括される ことになる。

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104 法学セミナー 2017 / 03 / n0746 れていたため乙らに指示を与えずにいたとこ いて刑責を負わない。 ろ、これにいらだちを覚えた乙らは「このまま 本問と類似の事案について、裁判所も、「乙以下 では自分たちのメンツが立たない」と考え、 ( 甲 の者の実行した行為態様は、 V の自宅に侵入し、有 抜きで ) V の殺害を共謀し、翌日、 V 方に侵入 無を云わせず V ・・・・・・を殺害するというものであっ して包丁で V を殺害した。甲の罪責を論じなさ て、最早、拉致の謀議に基づく実行行為中における 殺害という類型にはあてはまらないものである。客 い。 観的な行為態様のみならず、実行担当者の主観的な 【間題 5 】において、甲と乙の「当初の共謀」の 意識の面〔筆者注 : 当初の共謀に基づく拉致の実行と 内容は V に対する拉致・監禁であったのに対し、乙 いう意識はなかったこと〕をも併せ見れば、そのこ らの実行の内容は「新たな共謀」に基づく v に対す とは一層明瞭に看取することができる」と判示して、 る住居侵入・殺人である。これを順次共謀として「 1 甲には犯罪は成立しないと判示している ( 東京高判 個の共謀」と理解するためには、当初の共謀と新た 昭 60 ・ 9 ・ 30 判タ 620 号 214 頁 ) 。 な共謀を比較してその基本的部分に同一性が認めら れることが必要である ( 16 講 95 頁 ) 。しかし、本問 4 2 つの例外パターン の場合、拉致・監禁と殺人は罪質が全く異なる別個 の犯罪であるので同一性は否定され順次共謀を肯定 前述のように、共謀の射程の範囲内であるか否か することはできない。 は、共謀の内容と実行の内容を比較して当初の犯行 そうだとすると、甲の罪責は、 v の殺害が「当初 動機の継続性が認められるか否かを客観的・主観的 の共謀」の射程の範囲内といえるかによって決せら 要素を考慮して判断するのが原則であるが ( 原則バ れる ターン ) 、そのような判断を経ずして共謀の射程が 共謀の内容と実行の内容を比較すると、共通する 否定される例外的な場合がある ( 例外バターン ) 。 のは③被害者 ( v ) だけで、①日時 ( ある日か翌日か ) 、 ②場所 ( 路上か v 宅か ) 、④行為態様 ( 拉致・監禁か [ 1 ] 例外パターン① 殺害か ) 、⑤保護法益 ( 場所的移動の自由か生命か ) 、 その第 1 は、共謀の段階で実行分担者の行動を制 ⑥故意 ( 監禁の故意か殺人の故意か ) は異なる。そし 約するような特約がついている場合である ( 例外バ て、決定的なのは、⑦動機が、当初の共謀では組長 ターン① ) 。このような制約がついている場合は、 の指示に基づく組の利益を図ることであったのに対 共謀は特定の犯罪行為についてのみ成立しており、 し、殺害行為時には自分たちのメンツを立てること それ以外の行為については心理的な影響力は及んで である点で大きく異なっている。 いないといえるからである。 もちろん、乙らが当初の拉致・監禁の際に V の抵 例えば、【間題 3 】において、窃盗を共謀する際に 乃く、 抗にあい V を殺害した場合や乙らが再び v を拉致・ 「暴力的なことは絶対にしない」旨の合意ができて 監禁しようとした際に V の抵抗にあい V を殺害した いたにもかかわらず、乙がこの特約に違反して強盗 場合であれば、当初の犯行動機が継続しているとい を実行した場合は、それは乙独自の判断によるもの えるので共謀の射程の範囲内といえる。また、拉致・ で、もはや共謀の心理的影響は及んでいないので共 監禁行為には暴行を伴うので、拉致・監禁の手段と 謀の射程の範囲外と評価される。 しての暴行から V を傷害・死亡させた場合であって も当該結果は共謀の射程の範囲内であるといえよう。 【間題 6 】デニーズ歓送コンパ事件 甲は、乙、丙および丁とともに、近く海外留 しかし、本問の場合、このように、乙らが共謀に 基づき形成した犯行動機を継続した状況下で実行行 学する A 女に対する送別会を開いた後、歩道上 為を行ったとはいえないので、因果性を否定するほ で雑談をしていたところ、そこに酩酊していた どの重大な齟齬があるといえる。したがって、乙ら v が通りかかり、乙の車のアンテナに上着を引 が実行した V 宅に対する住居侵入および v に対する っかけたことから、 V と乙の問で口論となった。 殺人について共謀の射程は及ばす、甲はこの点につ V は乙の前にいた A の長い髪をつかみ、付近を LAW CLASS 0 1 三 1

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応用刑法 I ー総論 ・共謀の射程の判断 ( 1 ) 原則パターン 共謀の内容と実行の内容を比較し、因果性を否定するほど の重大な齟齬があるか否かを判断 ( 2 ) 例外パターン 共謀の内容と実行の内容を比較するまでもなく共謀の射程 が否定される類型 ①実行担当者の行動を制約する特約がある場合 ②実行担当者に対する心理的因果性が極めて弱い場合 5 共同正犯の錯誤 共同正犯の錯誤が特に問題となるのは、共謀の射 程の範囲内の結果について行為者が認識していなか った場合である。すなわち、共謀の射程の範囲内と いう評価が下されると、実行担当者の行為・結果は 共同して惹起したと評価される ( 客観的帰責 ) 。しか し、何罪の共同正犯が成立するかという罪名の決定 は、前述のように「錯誤論」 ( 共同正犯の錯誤 ) によ って判断することになる。 共謀の射程の範囲内とされ、共同正犯の錯誤の問 題とされた裁判例として、①被告人が X らと窃盗を 共謀し、被告人らが見張りをしている間に X らが強 盗を実行した事案において窃盗罪の共同正犯の成立 が肯定された事例 ( 仙台高秋田支判昭 25 ・ 3 ・ 6 判特 7 号 85 頁 ) 、②被告人が X らと恐喝を共謀し現場に 臨んだところ、 X が共謀の範囲を超えて強盗を実行 し事案において恐喝罪の共同正犯の成立が肯定され た事例 ( 最判昭 25 ・ 4 ・ 11 裁判集刑 17 号 87 頁 ) 、③被 告人が X らと事後強盗を共謀したところ、 X が自己 の判断で強盗を実行した事案において強盗罪の共同 正犯の成立が肯定された事例 ( 名古屋高判昭 35 ・ 10 ・ 5 高刑集 13 巻 8 号 601 頁 ) 、④被告人が X らと暴行 ないし傷害を共謀したところ、 X が殺意を抱いて被 害者を殺害した事案において傷害致死罪の共同正犯 の成立が肯定された事例 ( 東京高判昭 27 ・ 9 ・ 11 判特 37 号 1 頁 ) 、⑤被告人が X らと強盗を共謀したとこ ろ、 X が被害者を故意に死傷させた事案において強 盗致死傷罪の共同正犯の成立が肯定された事例 ( 最 判昭 26 ・ 3 ・ 27 刑集 5 巻 4 号 686 頁 ) などがある。 「共同正犯の錯誤」といっても、基本は既に学習 した具体的事実の錯誤 ( 9 講 94 頁以下 ) および抽象 的事実の錯誤 ( 7 講 92 頁以下 ) の考え方を適用する だけである。 いて争いはない。問題は実行を担当した乙の罪責で、犯罪 【間題 3 】の甲に窃盗罪の共同正犯が成立することにつ * 【間題 3 】における乙の罪名 する。 で、甲には窃盗罪の共同正犯 ( 60 条・ 235 条 ) が成立 客観的な犯罪事実の存在を肯定することができるの したがって、窃盗罪の共同正犯の故意に対応する ていると評価できる。 みる限り、窃盗罪の共同正犯の構成要件が包摂され で、強盗罪の共同正犯の構成要件の中に、規範的に 構成要件は実質的に重なり合っているといえるの であるという点で共通である。したがって、 2 つの 被害者の意思に反して財物の占有を移転させる行為 る ( 基本刑法Ⅱ 130 頁、 152 頁 ) 。また、行為態様も、 対する所有権および占有であるという点で同一であ この点、両罪の保護法益は ( 判例によれば ) 財物に 通でかっ保護法益が共通であることが必要である。 と結果 ( 法益侵害 ) であることから、行為態様が共 その判断基準は、構成要件の主要要素が実行行為 なり合いが認められるかを検討する。 同正犯の構成要件を比較し、両者の間に実質的な重 そこで、窃盗罪の共同正犯の構成要件と強盗罪の共 が存在すると規範的に評価できるかが問題となる。 意はあるので、その故意に対応する客観的犯罪事実 能性を検討する。こでは、窃盗罪の共同正犯の故 第 2 に、軽い罪である窃盗罪の共同正犯の成立可 しないという結論が得られる。 という意味に解釈すると、強盗罪の共同正犯は成立 ることはできない」の文言を「重い罪は成立しない」 第 1 に、刑法 38 条 2 項の「重い罪によって処断す のこと ) 。 する ( 第 1 類型の処理法については 7 講 96 頁以下参照 した事案なので抽象的事実の錯誤の第 1 類型に該当 客観的には ( 法定刑の重い ) 強盗の共同正犯を実現 本問は、 ( 法定刑の軽い ) 窃盗の共同正犯の故意で の問題となる。 の共同正犯の故意しかないため、抽象的事実の錯誤 も共同正犯として帰責される。しかし、甲には窃盗 の射程の範囲内と評価されるので、強盗結果は甲に で乙の実行内容は強盗であるが、前述のように共謀 【間題 3 】において、甲と乙の共謀の内容は窃盗 いて共同正犯の錯誤の処理を確認してみよう。 ここでは、①の裁判例に類似した【間題 3 】につ 107

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1 OO 法学セミナー 2017 / 03 / 「 9746 LAW CLASS しかし、甲乙丙の共謀は、厳密に ( 1 項 ) 強盗殺 人だけに限定されていたわけではない。一次的には ( 1 項 ) 強盗殺人を実行する合意であったが、実行 担当者の現場判断で多少の変更があることは当然と 考えられており、甲もそのことを予見し認容してい たといえる。そうだとすると、共謀の内容としても、 ( 1 項 ) 強盗殺人だけでなく、覚せい剤の詐欺また は窃盗、 ( 2 項 ) 強盗殺人等も含まれていたと認定 できる。したがって、【間題 1 】において、甲らの 共謀の内容と現実の犯行結果との間には齟齬はな く、共謀に基づく実行と認定できることになる。 したがって、甲にも詐欺罪の共同正犯および ( 2 項強盗に基づく ) 強盗殺人罪の共同正犯が成立し、 両者は実質的にみて同一の法益を侵害しており、 1 つの意思に基づき、時間的・場所的にも近接して行 われるので包括して ( 法定刑の重い ) 強盗殺人罪の 共同正犯 ( 60 条・ 240 条後段 ) のみが成立する ( 包括 このように、共謀の内容を具体的事案に即してで きる限り具体的に明らかにし、これと実行行為・結 果との間に齟齬が生じていないかを判断し、齟齬が 生じていなければ ( 同一性が認められれば ) 、当該犯 行結果は共謀に基づいて惹起された結果として共同 正犯の成立を肯定することができる。 【間題 2 】において、乙は実行行為をすべて行っ ているので単独正犯が成立する。ます、乙は V を殺 害する故意をもって v 殺害を図ったが弾丸が命中し なかったので ( v に対する ) 殺人未遂罪 ( 203 条・ 199 条 ) が成立する。また、乙は、自らの発砲行為と W の死との間に因果関係は認められるが、 W の死を認 識・認容していないので具体的事実の錯誤が問題と なる。この点、判例実務の採用する法定的符合説 ( 9 【間題 2 】 暴力団 P 組の組長甲と組員乙は、対立する暴 力団 Q 組の幹部組員 V を拳銃で殺害することを 共謀し、乙がこれを実行することになった。あ る日、乙は、 Q 組の事務所近くの路上で V を発 見し、 v に向けて拳銃を発射したところ弾丸が 外れ、予想外にもたまたま付近を通りかかった W に命中し、 w は即死した。甲および乙の罪責 を論じなさい。 講 95 頁 ) によれば、 W の死を認識していなかったと しても、「人の死」を認識していた以上故意は阻却 されず、 ( w に対する ) 殺人罪 ( 199 条 ) が成立する。 次に、甲と乙は、 V 殺害を共謀し、その「共謀に 基づいて」乙が発砲した以上、乙の行為および結果 について甲も乙と共に共同正犯としての責任を負 う。そして、共同して V を殺害することの認識・認 容があるので、甲および乙に V に対する殺人未遂罪 の共同正犯 ( 60 条・ 203 条・ 199 条 ) が成立する。 これに対し、共同して W を殺害することの認識・ 認容はないので具体的事実の錯誤が問題となるが、 法定的符合説によれば、甲も乙も「共同して人を殺 すこと」の認識・認容 ( 殺人罪の共同正犯の故意 ) が あるので、反対動機の形成が可能であり故意は阻却 されず、 w に対する殺人罪の共同正犯 ( 60 条・ 199 条 ) が成立する。なお、両罪は、 1 個の行為によるもの であるから観念的競合 ( 54 条 1 項前段 ) となる。 このように、共謀に基づいて実行が行われたとい えれば当該実行行為・結果について共同正犯が成立 するが、それが「何罪の共同正犯」となるか罪名を 特定する際には関与者の故意の内容が基準となるこ とに注意してほしい。 《コラム》 単独正犯も共同正犯も成立する場合の罪名 【間題 2 】の乙には、① V に対する殺人未遂罪、 : ② v に対する殺人未遂罪の共同正犯、③ w に対を する殺人罪、④ W に対する殺人罪の共同正犯が 三成立する。ただ、①と②、③と④は同一被害者 : に対する同一法益侵害行為であるから 2 つの罪 : の成立を認める必要はない。いずれの罪で起訴 するかについては検察官の裁量の問題であるか ら、単独正犯で起訴された場合、裁判所は、証三 三拠上共同正犯と認定することが可能なときで も、訴因どおり単独正犯として認定することが 許される ( 最決平 21 ・ 7 ・ 21 刑集 63 巻 6 号 762 頁 ) 。 もちろん、この場合、検察官が共同正犯で起訴 すれば、裁判所は共同正犯を認定することにな る。 それでは、事例問題の処理として、単独正犯 : と共同正犯のいずれを結論として示したらよい であろうか。この点、単独正犯は実行行為の全三 一部を 1 人で遂行するものであるのに対し共同正三

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108 法学セミナー 2017 / 03 / n0746 LAW CLASS 共同説と行為共同説の対立が影響する ( 17 講 93 頁 ) 。すな の射程を問題にするまでもなく共謀に基づく実行と評 わち、行為共同説によれば、乙には強盗罪の共同正犯が成 価される場合も ) 共同正犯が成立するが、実行担当 立するが、部分的犯罪共同説によれば、乙には強盗罪 ( 単 者の行為・結果に対して認識がない者については共 独正犯 ) が成立し、甲との間では窃盗罪の限度で共同正犯 同正犯の錯誤 ( 事実の錯誤 ) の問題として処理をし となる。 て罪名を決定することになる。 ・共同正犯における意思内容の齟齬 ( 1 ) 共謀時の意思内容の齟齬 つ共謀の成否 ( 犯罪共同か行為共同か ) の問題 ( 17 講 100 頁参照 ) 共謀後の意思内容の齟齬 ( 2 ) ①共謀の射程の範囲外客観的帰責否定 ( 共同正犯不成立 ) ②共謀の射程の範囲内つ客観的帰責肯定 ( 共同正犯成立 ) つ共同正犯の錯誤 ( 主観的帰責 ) の処理により罪名決定 ※実行担当者の罪名については行為共同か犯罪共同か の問題 6 共同正犯者間における意思内容の齟齬のまとめ 共同正犯は複数の人間が関与するため意思内容に 齟齬が生ずることがよくある。これまでそのような 場合について説明をしてきたので、最後のこの点に ついてまとめをしておこう。 まず、意思内容の齟齬がいっ生じたのかを確認す る。共謀の時点で意思内容がすれていた場合には、 そもそも「共謀」が成立しているかどうかが門題と なる。この点は、犯罪共同説をとるか行為共蒿説を とるかで結論に相違が出る場面である。 このように整理してみると、犯罪共同説と行為共 次に、共謀は成立しているが、実行担当者が共謀 同説の対立が絡むのは、①共謀段階で意思内容が異 の内容とは異なる内容の実行行為を行った場合は なるために「共謀」が成立するかという場面、およ 「共謀の射程」の問題となる。そして、共謀の射程 び②共謀の射程の範囲内の結果を惹起した実行担当 の範囲外と評価された場合は実行担当者の行為・結 者の罪名を決定する場面の 2 つであることがわかる。 果について共同正犯は成立しない。これに対し、共 ( おおっか・ひろし ) 謀の射程の範囲内と評価された場合 ( あるいは共謀 判例実務の考え方をしつかり理解できることを目標にした 画期的なテキスト。豊富な事例を使い、基礎知識から受験に 必要な内容まで、徹底してわかりやすく解説。 基本刑法 I 総論ー 大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦【著】 因果関係や共犯をはじめ、注目の最新判例も踏まえ、 初版よりもさらに深く、わかりやすく全面改訂。 ー刑法および犯罪論の基礎構成要件該当性Ⅲ違法性Ⅳ責任 V 未遂犯 Ⅵ共犯Ⅶ罪数および刑の適用Ⅷ補論 基本刑法Ⅱ各論 大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦【著】 「基本構造」「重要間題」の 2 段階で理解 ! 一個人的法益に対する罪社会的法益に対する罪Ⅲ国家的法益に対する罪 簡易問題集を HP で公開中 ! 大・物史・十薄太第・複谷毅・・田第をま 第 2 版 ■本体 3 , 800 円 + 税 本 」法Ⅱ 各論 目次 ■本体 3 , 900 円 + 税 03-3987-859 。日本評論社 〒 1 70-8474 東京都豊島区南大塚 3 ー 1 2 ー 4 TEL : 03-3987-8621 /FAX こ注文は日本評論社サービスセンターへ TEL : 049-274-1780/FAX . 049-274-1788 http://www.nippyo.co.jp/

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105 応用刑法ーー総論 1 引き回すなどの乱暴を始めた ( 急迫不正の侵害 ) 。 限るという特約っきであるか否かは当時の各人の意思内容 を明らかにしないと特定できない。ただ、共謀とは、特定 甲、乙、丙、丁は、これを制止するため、意思 の「犯罪」を共同して遂行することの合意をいうので、合 を通じて V の顔面や身体に対し殴る蹴るの暴行 意の内容が正当防衛という適法行為として行う有形力の行 を加えた ( 第 1 暴行 ) 。しかし、 V は、 A の髪 使であってもそれ自体犯罪は成立しないから、そもそも「共 謀」は成立していないのではないかという点が疑問となる。 を放そうとせず、その髪をつかんだまま、道路 そこで、学説の中には、第 1 暴行の時点では共謀は成立 向かい側にある駐車場入口付近まで A を引っ張 していないとする見解も有力である。しかし、「共謀」の って行ったので、甲ら 4 名は、 V を追いかけ暴 成否は、共同正犯の構成要件該当性の問題であるから、そ の時点では違法性阻却まで考慮する必要はない。また、共 行を加えたため、 V は A の髪から手を放したも 同正犯において「共謀」がその成立要件とされるのは、関 のの、近くにいた甲ら 4 名に向かって、「馬鹿 与者相互に心理的影響を与えて結果の惹起を促進する点に 野郎」などと悪態をつき、なおも応戦する気勢 あることから、共謀の内容が適法行為か違法行為かは重要 ではない ( 橋爪隆「共謀の限界について一一共謀の射程・ を示しながら、後ずさりするようにして駐車場 共謀関係の解消」刑法雑誌 53 巻 2 号〔 2014 年〕 301 頁 ) 。 の奥の方に移動し、甲ら 4 名もほば一団となっ て V を本件駐車場奥に追い詰める格好で追って 行った。そして、その間、駐車場中央付近で、 仮に、行為者の意思内容が「正当防衛の範囲で反 乙と丙が応戦の態度を崩さない V に手拳で殴り 撃する」という内容であると認定された場合には、 かかったいずれも丁がこれを制止したし 共謀の段階で実行分担者の行動を制約するような特 かし、その直後、乙が V の顔面を手拳で殴打し、 約がついている例外的な場合として、共謀の射程の そのため V は転倒してコンクリート床に頭部を 範囲外と評価される。 打ちつけ、頭蓋骨骨折等の傷害を負うに至った また、暴行が正当防衛の限度に限るという特約の ( 第 2 暴行 )0 甲の罪責を論じなさい。 存在までは認定できないという場合には、原則に戻 り、共謀の内容と実行の内容を比較することになる。 【間題 6 】において、第 1 暴行は急迫不正の侵害 この場合、①日時、②場所、③被害者、⑤保護法益 に対する反撃として正当防衛が成立するが、 V が A の点では相違はないが、④行為態様の点では急迫不 の髪を手放した後の第 2 暴行は急迫不正の侵害が終 正の侵害の状況下で暴行を加えることと急迫不正の 了しているので過剰防衛も成立しない。ところで、 侵害が終了後暴行を加えることとの間には重要な相 第 1 暴行についても第 2 暴行についても甲ら 4 人の 違が認められ、⑥故意、⑦動機の点でも、急迫不正 共謀が成立しているのであれば、この 2 つの暴行は の侵害に対して反撃を行うという認識・動機と急迫 甲ら 4 人の共同実行と評価できるので、 2 つの共同 不正の侵害終了後に追撃を加えるという認識・動機 暴行を一連の行為とみて過剰防衛の規定の適用を考 の間には大きな違いがある。したがって、乙は共謀 えることはできる。しかし、第 2 暴行について「新 に基づき形成した犯行動機を継続した状況下で実行 たな共謀」を認めるような事実は存在していない。 行為を行ったとはいえないので、因果性を否定する そこで、乙の第 2 暴行を甲に帰責できるのは、そ ほどの重大な齟齬があるといえる。つまり、共謀の れが第 1 暴行の共謀の射程の範囲内といえる場合で 射程の範囲外と評価されるので、甲には V 傷害の結 ある。 果については帰責されない。 この点、第 1 暴行の時点で、甲ら 4 人の間には侵 甲は、第 1 暴行については暴行罪の共同正犯に該 害行為をしてきた V に対して共同して暴行を加える 当するものの正当防衛として違法性が阻却されるの ことの合意は形成されているが、それが「正当防衛 で不可罰である。 という範囲」という限定つきなのか、それともそこ 本問と類似の事案について、判例も、「被告人に までの限定はなかったのかは必ずしも明らかではな 関しては、反撃行為については正当防衛が成立し、 追撃行為については新たに暴行の共謀が成立したと * 正当防衛行為の共謀 は認められないのであるから、反撃行為と追撃行為 甲ら 4 人の共謀は、急迫不正の侵害に対して共同して反 とを一連一体のものとして総合評価する余地はな 撃行為をするという内容である。そこに正当防衛の範囲に く、被告人に関して、これらを一連一体のものと認 し、