苗代に諸鳥のつく歌苗代に所をきらう歌五月苗取うた 田耕作集九 土地善悪に依て田をかへす条々冬田かへし・春田かへし損徳を知条々 春田を小手切ほかす条々田地性・不性に依て荒しろかく条々田地依ニ 浅厚・軽重一中しろかく条々田地善悪に依て植しろかく条々稲を植る一巻九目録では 「不レ依」。 根肥善悪を知る事早稲・中田稲・晩田稲を植る地形を知事五月苗取に 善悪を知事勧納の次第耕作仕様善を知事田に水をかけ引善悪の事 稲にやしなひ善悪有事稲に鹿・猿・諸鳥、付をどし・かゝしの事稲に よけを結事、同臥稲結立の事稲穂かけ、同かり取事稲を扱、籾にする 事米の善悪・損徳を知事米を俵に仕る事もち米蔵詰仕る事上米有 て国々の事岡部稲を植る事とうぼし稲種を植る事田の善悪に依て稲 相応・不相応の事稲にやまひ付を祭る事 麦耕作集十 序麦畠をうつ条麦蒔、うねをさく取条々大麦・小麦蒔時節条々麦
に百拾かぶ・百二十かぶ・三十かぶ、薄田程稲かぶおほく、苗多く植る なり。上々の土地に稲かぶ多く苗多きは、茂てやう多くて風入らずし ニあおまい て、青米になる。実入斐なきものと知べし。苗を植る大積、三百歩壱 反の田に、一もとに苗三本植にして、壱歩に百かぶ植る時に、苗数三百 本入。一畝には九千本、壱反に九万本のつもりなり。籾壱升は三万粒の げはくでん つもりにして、壱反の苗、籾三升なるべし。また下薄田には、壱歩に もと 本百三十かぶ、平均一もとに五本植の時、壱畝には壱万九千五百本苗数 入。然時は、壱反に種籾六升五合入っもり也。是も壱升に三万粒入算用 なり。稲かぶ多く植事、土地あしく、茂てざる故なり。然ども上田の籾 つもりより米多く可 / 有 / 之。とかく薄田には稲かぶ多く、苗沢山に植て 三わせ四なかて 三出穂・収穫のはやい稲 よし。たとへば上田たりとも早稲・中田の稲は、茂てかねるものなれば、 の品種。 壱歩の内には、百かぶより少植ては、取実なきものと知べし。多くは百四本書ではなかてを中田、 おくてを晩田と書く。 二十かぶに稲本五本たちにすべし。国々郷々の土地によりて、善悪あれ ば、爰にはその大かたを云ものか。 〇種籾はいなぎしほれてかりとりて ここ たねもみ 五 一はくでん おおつもり 五稲木であろう。稲の稈。 = 十分に結実しない米。 一地味の悪い、やせた田。
246 て籾の目をきらするかして、種蒔ごろおのづからはやくなり、目のびす る時はさながら苗代を五三日もいそぐ。苗代を五三日も時はやくすれば、 一稲の主稈は種類により 田植を十日も十五日もいそがねばならず、いそがぬときは苗にふしたっ 十二 ~ 六節よりなる。この 物なり。苗にふしたちて植るに、曾て稲に子のさくことなく、穂も小穂うち下部の節から分枝 ( 分 蘖という ) を出す。こ の節が、苗代中で多く出米 なり。種かしは一日二日をあらそひて、勧納の時節に遅速ありて、必稲 ることをい ニ分蘖 ( 枝わかれ ) 。普通 にやまひ付。暦文を能かんがへ、前年より覚悟あるべき事也。 栽培では主稈から出る分枝 ( 第一次分蘖 ) まで籾をつけ る。 三暦に関する知識。ここ 〇種井をば朝日夕日の能さして では皇大神宮暦のような刊 行された暦であろう。それ 渋なき水をかねて用よ によって二十四気や月の 一農甫の云、種かしの井には、朝暮共に日よく当、渋なき水を用てよし。節・中が陰暦の何月何日に あたるかをたしかめ、農事 の時節を定めよというので 渋の土地、定りて水の性あしきなり。稲に成て色々悪米とへんずるは、 ある。 種井の水性の善悪故、十をば二つも三つもあく米となる。稲に子のさく 事を茂てるとは云。茂の字をしげるとよむによりてなり。茂てる時分は まれ たねかはること希也。種井・苗代田に肝要は有ものそ。草花のるいの色 々にかはり、世上にもてあそぶを見よ。みな土の善悪よりをこれり。草 木は、雨露の恵み、性よき水を以やしなひそだつれば、稲に子もしげく 三れきもん こ
らん事うたがひなし。 春のいろたかきひくきはなきものを おのづからなるくさもしげれり セ田にあって穂が出てい 〇種もみを出穂のうちにてゑりとれば るときに。 まじりなくして米そよくなる 古農の伝に云、米は土地の善悪によりて、色々種かはり、悪米となる事へ品種の特性がなくなる よき こと。 多し。出穂の時は見わけよし。わろきまじわり穂をぬきすてゝ、能穂を九その品種の特性を備え ひとひま ない変った穂。 種に用れば、次第に米も大しぼになりて、米をこしらゆるに人隙もすく一 0 大粒。 = 籾を玄米にし、玄米を 白米にし、選別する過程を なく入也。田の出来・不出来によるべけれども、百歩の田にて籾壱石ほ 抄 同 ど有べし。是を半分、穂さき斗を種に用ゆる時、三百歩壱反にして壱町 百程の苗可 / 有 / 之。然ば百歩の稲を、出穂の時分ゑるはいと安くして、壱 代 苗町の米を、念を入こしらゆるは損多し。先大切の田に悪米をつくりて、 一 = 伊勢の、とくに伊勢神 巻米すくなきこと、国民の費なるべし。昔は伊勢稲ばかりありしかども、 宮より出るとされる稲の品 世々に種かはり、当時は稲の名国々里々に多くして、共名しるしがたし。種についての信抑・伝説を 示すものであろう。 2 稲を植るに、上々の土地壱歩に八十かぶ、中の土地に百かぶ、下の土地 いるなり 七では 九
雨・露・風なくて不 / 叶ものなれども、すぎては草木のいたみ也。日損 もをなじことにて、是等のわざはひちからわざに難 / 成。定たる所をは づして作毛あしき事は、農人とはいひがたし。をそく種かしをしても苗 になり、稲に成。はやくても穂はさかるといへども、米の多少、やまひ の付ゃう、節ちがひの稲定てわろきぞ。稲にかぎらず、田畠に種をまく いたる これすなわち 事時をちがふる事有べからず。是則天の時に至といふ也。 〇種かしは段々にせよわせ・なかて をく田のいねは霜降てかる 老農の云、今時の農人、種かしをするに、私心を出し、かならず種かし 抄 同 の時をはづす事多し。今年はあたゝかなる程に、わせも一日二日をそく 百種かしをし、中田も今一両日過て種井に入てよからん、晩田種は猶も日 苗数をのべてといひて、段々にをそくなる時、かならず苗のびかねて、さ 巻びらきの時節に極定せず。また春さむき年なりといひて、節よりはやく 種かしをすれば、苗かならずのび過て、ふしたつ。ふしたつをいやがり て植れば、田植の時にあわず。然ば稲にやまひ付か出来あしくて、一年 さだめ する。 セ苗代の苗を田に植えは じめること。田植はじめ。 へ苗の節間がのび、老成 大力業。人間の努力では どうしようもない。
242 て取をくもみ、来るとしの苗をひょく、稲能出来て、上米となるなり。 一扱箸。二本の箸状の脱 〇種もみをこばしにてこきをきぬれば 穀の道具。巻九の「稲を扱、 籾にする事」および巻十の 目かけ多くて苗ぞうせぬる 「麦を扱、こなす条々」を 農甫のいわく、種籾を置事、当代は手まはし能とて、稲をこばしにてこ見よ。 きて、横っちを以のげをたゝきくずしをく故に、苗にふせてことごとく 失るなり。また生へ出といへども、苗あしくなりて、稲を茂てかね、あ 四せいれん るひはくせ米となる。先籾はみご付のきはに、座はかまといひて、清蓮 = 稲穂の心をみごという。 わらしペ。籾のわらしべに 花のごとく座有。則米の目其方のうちへ付て有故に、こばしにてこきをつくきわ。 三籾の基部にある護穎 ′」え 0 とせば、十の物二つ三つは座はかまをちて、かいらもわれ、目にもあた 四清潔な蓮の花であろう。 る。苗にふせて大きなるいたみとなるなり。此ゅへに種籾には、あらく あたらざるがよし。手まはし能とても、大きなる国土費也。 〇種もみはのげの付ほどもみてをけ 苗にふせての土つきそよき 農夫の云、種もみを、のげのよくをつるほどもみこなしたるは、あしき
小農は耕作をせよ。 青・黄・赤・白・黒の小石地の事 一、青・黄・赤・白・黒の小石地みな真性地也。共内に善悪順々あり。一番 黄色小石地、二番白色小石地、三番赤色小石地、四番青色小石地、五番黒 かくのごとしかよう 色小石地、次第如 / 此。ケ様なる宝土は土民ほねを折事かぎりなし。ま た農具損じる事多し。田をかへすに石、地そこに沈み、土は上にうくに 一馬耙が底の小石につか より、鋤・鍬通りかね、うで・ほねいたみ、うすくかへせば、まんぐわは えて、早く動かない しらず。次第に薄田となる。稲を植、草を取にゆびの皮むけいたむ。畠 = やせた田。 は小石上にあらわれ、鋤・鍬とをらず、うすくうてば年々に上土すくな 三おされ。 くなりて石畠となる。作毛付事なし。万物を蒔は小石にをせ、種のすた 四 四底本「多り」とあり。 り多し。稲小穂なりといへども実入能、味ひょし。稲に子のさく事すく 祭本をとる。 = 稲が分蘖して株がはる なし。米小しぼなり。米の色をみるに宝土の如し。青き土色の米は青く こと。 六小皺であるが、ここで みへ、黄色なる土と赤色なる土の米はにはとりの玉子をみる色したり。 は形の小さいことであろう。 セ鶏卵の殻のような色。 白色したる土の米は、さら / 、としろくみへる。黒色土の米はおのづか 在来鶏の殻は白っぽい黄褐 ら黒くみへる。小石の米は目ちいさく、筋うすく、皮あっし。畠に作る色である。
234 苗代百首序 ニほうど 一なわしろ 一、抑、苗代は稲を作、米を得る根元たり。宝土の善悪、種の性・不性、一稲の苗を育てる所。畑 作物の場合苗床という。 かけひき は水を灌いだ田の状態をい やしなひのよきあしをしり、能耕作し、水の懸引油断なくうぶたち、 さっきなえ = 耕地の土。 五月 ~ 田を取、田を植ば、天地の神霊力をそゑ給ひて、その稲やまひなく、 三肥料。 、も 能茂て、ふるがごとく米を得て、諸民をやしなはんこと、則現世をたす四産立。生育。 やまとうた五 くる仏菩薩の再誕たり。故、古農の苗代物語を、大和歌にいひょそへて、五「いい装いて」であろ しい飾って。 あした 大日の暮、夕方。 苗代百首となづけて、タ部によみ、朝に勤めん輩は、その国里ゆたかな 一、苗代そだてやう歌 一、苗の性・不性うた 一、苗代の水をかへるうた 一、苗の草とるうた 一、苗代のやしなひの事 一、苗にやまひ付をみる歌 一、苗の出来・不出来をみる歌一、苗の善悪をしるうた 一、苗代に諸鳥のつかざる歌一、苗代に所を嫌ふうた さっきなえ 一、五月苗とる歌 六ゅうべ 四 しようふしよう 0
一、貝類・いを、早速田畑のこやしになりがたし。一旦日にほし、其後魚。 ^ そのまま。 不浄つぼにひたし、しづくをはいに合して作毛の根こやし、また上こゑ にすべし。惣て魚るい不浄共にしつけ地にはこやし・やしなひきゝかぬ る。土地のかわけるを待て、こやしをする事第一也。 一、貝るいには油多きものなり。くさりしづくを稲のこやしにする時は、 九「かぶつ」に痘痕 ( ば ) 必かぶつ稲と云ものになりて、くさり・すたるなり。そのこゝろへ有べ の意味がある。そのような き儀なり。亀類目 ( るいを、山中にもとめ田畠のやしなひにするものにあ病痕を示す稲のことであろ 一 0 心得。こころがまえ。 らず。海辺の土民こしらへ様よくしれり。 = 買いもとめて。 育くさ 一、万木のわか葉を四五月に至て取、日にほし、ほりまやに入、ヒヒ らせて則土と合し、万物の根こゑにをくに、草をひ・実入ともによし。 集六七月の木の葉はこわくなり、くさりかねる。日にほしてのち、しめり 浄をくわへ、土にいけ、くさらせ、麦畠のこやしとすべし。四季共に葉の 不青く有木をときわ木と云なり。其葉は必あく多けれども、くさりかね早 ひいらぎひさぎ 速こやしになりがたし。松・椿・柊・楸・楠の木、かやうなるるいなり。 然どもこやしにならずと云事なし。皆あくつよなる木なり。万物ともに 土より生じ、土にかへる。春にめを出し、秋に葉をつるるいの木、必一 = 葉落つる。 ある
劇なく、真性なり。日でりに望み、畠かわきて作毛の根までいたむ節に、 こき小便斗をやしなひにすれば、其まゝいたみ付ものなり。うすくして もちうべき 可 / 用なり。 一、小便斗を作毛のこやしに用る時は、しつ性の虫わき出る事すくなし。 程をへてこやしに用べし。新敷はやしなひにきゝかぬるものなり。菜・ 大根そのほか葉をとりて喰せんざいのこやしに用て徳多し。 一ふくやかにする。土の 一、潮のさし引有 / 之入江に生る海草のるいは、よく地をうくやかすも 重粘のものを、やわらかく のなり。夏の土用のうちにとりて、日によくほして後につみかさね、く空気をふくんだ状態にする。 さる事をまちて畠作のこやしとするなり。 一、海草のるいに色々あれども、はゞひろく・ながく生へそだっ、六月 以後七月に実のなる草あり。取てほすにしろくなる。土とくさり合事は やし。麦畑の根こやし、また日のてるに随て、いも畠のこやしによくき = 魚鼈。魚とすっぽんと。 くものなり。しつ気地には必用てあしきなり。 海産物の総称。 三草生い。草 ( ここでは 一、ぎよべつのるいは、草をひょく、実入あしき也。干魚・亀のるい 稲 ) の成長ばかり盛んで、 貝るいなり。稲のこやしにする時は、水に油うきて、稲の水きわこゑふ穂ができない。栄養成長を 盛んにして、生殖成長を妨 とり、土にしみつかざるゆへ、根さしあしくて、実入かひなく、また草げること。 け はえ