わきゑだの種はかぶら大きにならず。ためし知べし。 、たかな共 からしを蒔事 百葉共一 一芥子菜。あぶらな科の 一、からしなに赤白のからしあり。またそのうちに葉さま色々に替りた もつばら 越年生草本。葉はからみが あり、種子をからし ( 芥子 ) るものあり。実を取に今専白からしを作也。葉もやわらかにしてざう とよんで調味料とする。 = 葉様。葉のかたち。 しに用てよきなり。赤きは葉もくきもこわし。実にも葉にもにがみ多し。 三雑仕。ここでは台所仕 一、実からしを取にも、八九月まき、うすくぬきたて、やしなひをして、事ほどに用い、日常の食用 の意。 枝多く実多きなり。春にまくは、正月廿日過にまきてよし。暖国にはよ し。寒国には不 / 叶。実を多くとりて油の料に用る。今専五畿内・近江・ 伊勢・中国の土民多くつくり、実をとりて油をし・ほるなり。 集 作 くゝたちを蒔事 耕 一、くゝたちの種色々あり。葉のうちそとに毛のなく、葉にきれみ、な 巻く、葉多く出るをよしとおもふべし。あしき種は葉のうちそとに毛多く、 葉さまきれるなり。八九月にまきてよし。年立帰、正二月までつかふな 3 りノ 四 四茎立。菜の薹 ( しのこ とであるが、とうを立たせ るのにつかうことの多い すすな ( 菘 ) であろう。
もぐさを作る事 一、もぐさ種両種見へたり。葉の大にしてやう大まかにきれ、くきのふ〈艾。よもぎの異称。き く科の多年生草本。葉は香 ときあり。また葉小葉に見へてえうのきる & 事こまかなる有。同じ味ひ気を有し、若葉を餅に入れ、 成長した葉は「もぐさ」と なれども、葉のちいさきはにがみ多く、ほしてもむに真多く、にほひふする。もぐさはこれに火を 点じて灸治に用いる。 九「様」か。かたち、さま。 かきゃうなり。大葉なるはにほひうすく、にがみもすくなく、ほしても 一 0 「よう ( 様 ) 」であろう。 一一しん。葉の繊維。もぐ むにわた少なし。土地の善悪にもよるべし。耕作してやしなひするもの さとなる部分。次のわたも 同じ。 にはあらず。屋敷・畠くろ・藪下・木の下・垣くろに植て、ふだん目前 に見て薬なり。ごぎうと云て似たる草あり。是も喰ふものなれど灸もぐ一 = 御形。ははこぐさ。ぎ く科の二年生草本。春の七 さも取置にとりちがヘることなかれ。巣鷹をうぶたつるに、かやのうち草の一つとして食用。 一三産立つ。子供を養う。 作にもぐさを敷、うぶたつる。自然余の草あればはしにくは〈、脇へよせ、一 0 嘴。くちばし。 菜其処へはよらざるなり。 山ごぼうを作る事 十 巻 一五山牛蒡・やまご・ほう科 の多年生草本。栽培して巨 一、山ごぼう薬種には商陸と云。耕作むつかしからず。また地を費し、 大な根を利尿薬に用いる。 多く作るものならず。垣ぎは・軒下などに植置べし。土地あさき処は根葉は食用。唐牛蒡。 165 一四
のうちに青はだ・黒大豆・小黒大豆・ごまめ・五葉大豆様々のまめあり。 へ粃。ここでは莢たけで 葉を取にさや赤らみ、能実入て後取べし。はやき時は大豆しゐなとなる。 きて、実の入らないもの。 九葉を収護する目的で栽 葉は馬の飼料に用るなり。また葉大豆は二月の中の比最中まく。寒国は 培する大豆。 雪消次第段々三月末迄まく也。わせまめ種または大つぶなるまめをまく一 0 二 + 四気の春分。陽暦 三月二十一日頃。 べからず。はやくこわくなる。うすくまきたるは悪し。あっくまくべし。 = 立秋 ( 陽暦八月八日頃 ) 夏土用のうちにかり取が本意也。大豆にはかわ虫付物なり。少有うちに 前十八日間。 はやく取てすてよ。さなければ葉をみなかすめ、ゑだをもくゐをり、す たる也。こゝめむし・はしかみの付にははやくすゝかや・すゝをふれ。 日でりに望み右のやまひっかば、煤を水に出しかけよ。またわせわらの 集はいをもふるべし。とかく風影よりやまひ付もの也。わか葉を取をき 作一ニかて 耕て糧ともなすべし。 小豆を蒔事 五 小豆のうちにわせ・中て・おくあづきあり。先わせ小豆を春の土用 巻 過にまき、中てを其次にまくべし。棒にて穴をつき、根こやしを入て、 二つ三つ宛植て、耕作仕安し。おくあづきを夏の土用時分までもまき植 九 一ニ米にまぜて食べる附加 の食物。
154 ふきを作る事 一蕗。きく科の多年生草 一、ふきに種色々あり。まづ水ぶきと云て大きにそだち、にがみすくな 本。茎は甚だ短かく、地上 く、味ひ能ふきあり。はヘ出る時にくきうすむらさきのごとく見へて葉に出ない。早春葉に先立。 て、根茎から大鱗状苞をも やわらかなり。ふきのとうもっく / 、 \ 出のとき、むらさき色なり。次につ花茎 ( ふきのとう ) を出す。 花茎と葉柄を食用とする。 一一花茎の苞がゆるまない また地ぶきあり。味ひにがみ多し。こやしてもそだちかひなし。くきも で、尖って出る時のさま。 はヘ出より青し。また山ぶき・野ぶきあり。くきみちかく葉もあっく、 地ぶきより猶すちおほく、こわくにがきことかぎりなし。はヘ出のくき あかく見へる。水ぶきの種をもとめ植べし。 一、ふきをつくるに、畠をくれて植るに及ばず。畠のヘり / 、、に植て耕 = 特定の畠を蕗用にあた えて。 作すべし。根さす事多く、はびこるそ。秋冬のうちにやしなひを置けば、 春に至てこゑる事かぎりなし。 しそを作る事 一、しそを作るに土地にきらひなし。然ども土のかろき処は葉うすし。 日かげ・ものかげもせい高くなりて葉うすし。両方ともににほひすくな 四紫蘇。しそ科の一年生 草本。葉は広卵形、紫紅色 で芳香がある。球状の小果 を結ぶ。葉と果実とは芳香 があり食用香味料とする。
るには平まきの畑ならば、煤かやをふりてよし。日でりには煤を水に出一畑一面に作ること。 しかけよ。雨のうちは粉にしてとをしにてふるひ、かけよ。同はやまひ = 篩。 なきうちに煤かやをうねごとにちら / 、とふり、折々わせわらはいをか けたるがよし。またもぐさ・もゝの葉・くさぎ・どく草・いぬ大わう なもみ・青たばこ・楠の葉・すゝ何もみ出して、わらのはゝきにてさゝ げをなで、さゝにつけてふるときは、やまひうせずと云ふ事なし。雨の うちのやまひは、日でりにうせ、日でりのやまいは、雨降にうせるなり。 然ども其まゝ置てはやせきるゝなり。さ & げは実も喰ひ、さやながらも 喰、葉も喰ふ。さるに依て損徳あり。実すくなけれども葉多きさ & げあ 、又実も葉もすくなけれども、さややはらかなる有、葉もすくなくさ やもこわけれども実よく入あり。種を吟味して其徳を得べし。わせ・中 て・おくあり。おくをはやく蒔ときは仕違すくなし。わせ・中てをおそ くまくは損毛あり。又垣さ & げにわせ・中て・おく有。其うちに青のた ・浅黄さ & げ・ヘり取り・しろさ & げ・うすむらさき・かき色・ほそ 0 豆類の播種には、しば じよう しば「植る」という語を用 さゝげ・上らうさゝげ・赤さゝげ色々有。一処に二粒づゝ植よ。しけき いる。種子の大きさ、また はまき坪の穴をあけて点播 はつる取合て葉しげり、花の付事すくなし。はやく耕をして、根に土をするためであろう。 一びら 四 三底本「とゝ草」と読め るが、祭本による。毒たみ。
まじりてあり。其処はよしやせるそ。植ることよし同前に、冬春のうち 根をほり、何地へもうっすべし。水なき地へもはえ上る。すなをにひと ならず、ふし / 、よりゆがむなり。とうのきびからか、山ぶきなどのご とくに、中に白きしんあり。青みあるうちにわりてかみしぼるに甘し。 八ほん 魚毒にあたりたる人、よしの根を取、ふしをさりきざみ、せんじ用て、本へ治癒する。 ぶく 復する。妙薬なり。 すげを植る事 九菅。かやつりぐさ科の 草本で種類が非常に多い。 一、すげに両種あり。姫すげには葉の両わきにかゞりすくなく、葉うす充実した = 一角形の茎をもつ。 葉の広いもので菅笠をつく り、狭いもので蓑をつくる。 く、ほそくやわらかなり。鬼すげは葉ひろくこわく、両わきのかゞり多 一 0 縢か。糸などでからげ 集 て縫いあわせ、また糸を組 くあっし。しかも根に赤み多し。二色共に笠にぬいて用るなり。 んで編み合わせたもの。ふ 草 ちどり。葉の両わきを両側 一、すげは水つきの池・堀・川岸に植て、土くづれずして能ものなり。 水 と解すれば、かがりは葉の 笠を多くぬふ村里には、田をくれて植る。九十月に至てすげの根をさき、ふちどり。底本に「かゞり」 と濁点がある。 巻稲を植るごとく植て、春夏のうち耕作し、何こやしにてもかけよ。春の = かさに縫う。すげを木 綿糸で縫いあわせて笠を作 わか目を出すとき虫付事有。さい / \ 虫を取すて、こやせば茂てる事かる。 一 = 与えて。菅栽培用に特 定の田をあてる。 ぎりなし。夏土用のうちかり取、根葉を洗て、一二日のうちにほして、 173 七成長せす。
134 ちさを作事 一、ちさの種に色々あり。葉のながく、さきのとがりたるあり。またそ一萵苣翁し ) きく科の一 年生または越年生草本。 のうちにいろ / \ あり。葉のさきまろきもあり。色のむらさきなるもあ 然ども葉大きに多く出て、はやくとうたたぬをよしと知べし。 一、ちさ種は秋のひがんの打過にふせてよし。実かろくして土を多くき せてははヘかぬる。土をうすくきせよ。同時にひる・わけき・あさっき などを植るものなり。 一、ちさは九月下旬より十月下旬までに植よ。暖国は右のごとし。寒国 は雪きえて植べし。年のうち植て春よくはびこる。春になりて植たるは 葉すくなし。 一、唐ちさも、つねのちさと同時に苗をふせて、冬のうちに植る。また まき付のまゝもをくなり。ほうれん草の実のごとくにてひねるにかど / \ あり。 ほうれん草をまく事
出る。二月にまき、秋に花さき実なる。 ほうづきを作る事 一、ほうづきの種今三色見へたり。地ほうづきはふし間永く、葉大きに 四酸漿・鬼燈。なす科の 多年生草本。実を玩具とし、 そだち、さや大きにとをなりして、ほうづきちいさく、秋の末ならでは根を薬用に供す。 五遠成り。莢と莢の間が じゅくせず。あしき種なり。さつまほうづきといひて、ふしあひみちか遠くつく。 六節間。葉と葉の距離。 葉地ほうづきよりちいさく、さやもつまり、ほうづき大きにして、 ふしごとになり、。 ちくぎはより赤くなり、ほうづき大きなる種あり。ま セ実が茎につく枝状の部 たなんばんほうづき共云、ちんちくりんとも云て、木たでふしにして葉へ「たで」底本のまま。 木の形がたでのように節が ちいさく、ほうづきのさやちいさく、さきをうちへをし込たるやうにしは 0 きりしてか。 集 て、五月末つかたにあからみ、大きなる種あり。必ふしごとになる。見 作 菜事なるものなり。土地にきらひなくそだっ。然ども黒ぶく土・かる土・ 日かげ・木下にはいむべし。ふし間のび過、虫付て葉かれ、花落てほう 巻づきなし。しつけ地に猶よからず。種を二月まきて夏中に実なり、秋に 色付。それはむつかしきなり。植付の根を冬より正月の節に入まで植直 してよし。其まゝ置ては、しげく生へ出、木にやまひ付、ほうづきなら 163 四 とも 五
かけ、雪霜のかこひをして年をこし、正月にもほりてつかふに風味一段 よし。然ども十月にはみな麦を蒔故、畑に置事不 / 叶。麦をおそくまく に損毛ゅへなり。畠多くしてせんざい斗りつくる村里には、十月過るま で畠に置、次第々々にほりてつかふべし。 かぶらを蒔事 一、かぶなをまくに種色々あり。かぶ大きにして葉のすくなきあり。又 0 蕪菁。あぶらな科の一 年生または越年性草本。葉 と根を食用に供する。 葉おほくしてかぶ少きあり。かぶも葉も少にてあまみすぐれ、能物なり。 五底本のまま。 大その品種の特性を備え 種かはる事多ければ、性の物を能見覚て種つぎをすべし。専一は種に た種を選んで継続する。 あり。また五畿内・近江・伊勢・尾張に能種多し。余国には種の吟味な 作し。然ども中国筋は其功あり。三河より関東奥州までは其功なし。 菜一、かぶらは夏土用まへにまきて耕作をいたせば、大きになる事かぎり なし。されどもかぶ、はやくしぎになり、葉も多く付ものなり。 巻一、寒国には夏土用まへより土用過までまき、時分よし。寒国には虫付 セ銭貨の表面に記された やまひ付事すくなし。暖国には土用過て秋のひがんの比銭文程に葉の 八いっせつ 四つの文字。 なるやうにまく事古法也。ひがん銭菜と云。又一切に河ぎりの見へる比へ一説。原文のまま。 ぜにな ころ七せんぶん 三前栽。庭前にうえた草 木。農家では家廻りにうえ る作物。主として蔬菜類。
178 一、いを植るに九十月に至て、かりかぶより二番ばへの出るをほり起し、 去年の古根をさきすて、今年の根をそろへ、五六本宛植よ。上田には間 遠く植、薄田には数多く間をせまく植よ。植て後に起かへりの草をとり 捨べし。 じゅんさいを作る事 一蓴菜。ひつじぐさ科の 一、じゅんさいを植る事、土地にきらひなけれども、塩気ある池川また 多年生水草。池沼に自生。 葉は楕円状楯形。長い葉柄 水のはやきながれに不相応なり。ふだん水のつく雨池・堀川のどろふか があり、葉片は水面に浮ふ。 き所相応せり。葉のなり鏡草に似たり。夏秋には水の上に葉うき、くき別称ぬなわ。 一一不断。平生・平常。 ほそし。ちいさく白色の花、夏のはじめに水にひたりてさく。十月より 正二月まで水のうちにて取、喰ふものなり。極寒に至てところてんのご とくなるもの、根にも葉にもとりつき有そ。湯煎をして、あへものまた はさしみなどにして風味よきものなり。 三芹。せり科の多年生草 せりを作る事 本。田の・湿地に自生。 泥の中に匐枝を延して繁殖。 一、せりを植るに大小農共に田地をくれて植るものならず。たゞ溝・堀若葉は香りがよく食用。