酸素 - みる会図書館


検索対象: 魔頂チョモランマ
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1. 魔頂チョモランマ

いけないのよ」「大丈夫ですよ」こんな話をするうちからまた交信があった。 「大矢です。酸素を使ってから五十分。早川さんは酸素がおいしいと言っています。コーヒーがなか ったので紅茶を飲ませました」「早川君にあまりしゃべらせたくないので、聞いてください。お小水 は出ていますか」「朝、三回行ったきりだそうです」「脈拍は ? 」「七十八です」「くるしさはとれまし たか」「酸素を吸ってせきが出なくなり、激痛はおさまりましたが、あまり変わりません」これは早 川自身が言って来た。その後すぐ「食事をしてもいいですか」ときた。「酸素不足で食事をすると、 胃の方へ酸素が行くので、なお苦しくなるから、七分目、腹八分目ではなくて七分目にしてくださ 「はい、分かりました。ワタクシがしつかり管理いたします」 大矢の、はつぎりとした、むしろ張り切った声が返ってきた。早川がトイレに行って帰って来たと いう。あと三十分して落ち着いたところで脈拍を聞くことにした。三十分後、脈拍は六十九だと言 早川自身は酸素を吸ってもあまり変わらないと言ったが、脈も落ち着いてきているし食欲もあ リットル吸わせ、明日まで大矢に管理してもらおう。 り、しゃべれる。今夜はひとまず酸素を毎分二 「それでは、おやすみなさい」貫田が言うと「あっ、はい、わかりました」と大矢が返事をした。 十一月二十一日。九時の交信で早川が出て来た。天候のことなど話した後「は予定通り行動し ず ます」と言った。「昨日の今日です。気胸が心配だからにおりてください。私が見て大丈夫だっけ たら登ってもらいます」私はふだんあまり患者さんをおどかすことは好きではない。わりと軽い調子 烈 で話す方だが、今日はおどし気味にいった。「わかりました。へおります」「大矢君、申し訳あり ませんが、早川君につきそって 01 まで下ってください。酸素は吸ったままおりた方がいいと思いま跖

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中国側とのトラブル 旅遊隊で入山した、高齢の菊地さんが調子悪く、休ませるが、座ったまま寝てしまう。酸素吸入器 を持ってきてもらう。火器があるので、酸素使用は危険ということで、火器のほうを止めてもらっ て、酸素を吸わせる。酸素器材をあっかいながら、みんなでレーションの昼食をすませる。菊地さん にはそのまま酸素を吸わせておいて、外でみんなとテントを張る仕事をしていると、菊地さんが吐き 気をもよおしているとのこと。張さんが中国テントのほうにべッドが三つあるからそこへということ で、今井さん、菊地さんの二人には、そのままべッドでやすんでもらう。その後みんなで隊員用テン トを張る。 ここまでは様子がよくわからなかったので、連絡官の張さんがなかなか一生懸命やってくれると喜 んでいたが、その前に一度、コンロの件について、ひと悶着あった。われわれは e 0 用のコンロは 持ってきていなかった。ところが上の 0 で使う一一・ ( ーナーと、旅遊隊の持ってきたコンロ二つは、 張さんたちが勝手に使っていた。装備係の早川が、中国用のコンロがここに二個あるのにどうして使 わないのかと聞いてみたら、これはこわれたコンロで使えない。 コンロは日本隊側が用意するはずだ再 マ ン といってきた。本来は中国側で用意する取り決めだったはず。とりあえず、確認するということにし モ 一応テントが張り終わって一段落したところで、関根、早川、旅遊隊のツアーリーダー市橋君、そチ して私の四人で、われわれのテントに入り、打ち合わせということで一服し、四時半頃から食事の支

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は、荷上げが間に合わなくなる。までの荷上げを、隊員がへのルート工作をしている間に同 時に行うには、各キャンプの宿泊可能人数六名を超えない範囲で人数を決定しなければならない。 エルバは四人一組になっているので隊員は一一名。それもいいかと思い私は黙っていた。 貫田、大蔵と私の三人で相談して、相性、 0 4 ~ 0 5 間にあるホーイ ( イン・クーロワールの岩壁 登攀の技術のある人間、リ 1 ダーシッ。フ ( 判断力 ) 等々を考え合わせ、まずス。ヒードのある早川と大 矢、核心部は大蔵、関根、次に確実性で貫田、近藤、最後のフォローを福島、樫原という順番に組ん だ。この発表には異論はなく、というよりは、自分の持ち場が決定したことで、その中で力を発揮し ようとルート研究に余念がないといった感があった。 「ボクらはいつも現場が遠かったから、こんどは近くなっていいや」大蔵、関根は、今までルートエ 作の三日目ばかりだったので、一日目、二日目のルート工作済みのフィックスをつたわって、自分た ちが新しいルート工作をする場所まで来るのに半日以上かかっていたので、そのことを現場が遠い、 遠いと言っていた。今回、二日目が当たったので、近くなったと喜んでいる。 さらに関根はから、から on と酸素を使わずに行動する場所では、登るのが遅い。 テているわけではなく速く動けないのだ。ところが、 0 4 へのルート工作中酸素を吸ったとたん一五 〇メートルを一気にすっ飛んで行ったという経験がある。「まかしといてください。酸素を吸えばホ 1 ンバイン・クーロワールなんかドンドン延ばしますよ。ボクは八〇〇〇メートル以上のルート工作 向きなんですから。七〇〇〇メートル級の無酸素で行く山は行きませんから」と言って、皆を笑わせ た。「酸素を吸うと一一度暖かいじゃなくて六度アッタカインですか ? 」貫田が関根をからかう ( 関根

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いたりしているものもいたが、その他の隊員は「はい、お茶が入りましたよ、ご苦労さま」なんてや っている。今度は大蔵がビデオカメラを持って入口からニュッと入って来た。「全員がいるテント内 を撮りたかったんだよ」すると関根が「今日は訪問者が多い日ですね。テレビ屋さんまで来ました よ」とちやかした。 午前中はテント内の整備、そして昼食の時、サーダーに各テントの風対策で張り綱をワイヤーにし て、しつかり張るように言い、メンく ーズテントは隊員が補強した。昨夜風が吹き、その風がまとま って間欠的だったので、テントの屋根の一部があおられていた。気になっていたが、みんなもそれを 察知していたかのごとく、本日の整備は自然発生的に行われた。今日の風は南風、やたらあたたか い。私は、「気温が高い、気持ちの悪い風た、、 ふきみだ」と誰彼かまわず言って歩いた。夜になって も風はおさまらなかったが北風に変わった。テント内では次の出発にそなえ、いろいろと話をしてい る。 「酸素マスクの凍るのをなんとかするにはどうしたらよいか」「氷をおとして五、六回強く吹くんで すよ」「手足の冷たさは ? 」「 : ・ : 」「酸素を吸うと手足が暖かくなる。はじめ酸素のためだと気 づかず急に化学力イロが効いて来たのかと思った」等々。 の周囲にけ 服装を試着してみている人もいる。上下っなぎを・着比べたり、関根は靴下をフード ぬいつけて風防を作った。「どうですか、いいでしょ ? 」「おい、よしてくれよ、アカズキンちゃん」 彼は目出し帽のアゴの部分にポケットをつけ、「どうするか分かりますか ? 」と言った。みんなが分 からなかったので、得意気に「ここにこうして : : : 」と化学力イロを入れ、酸素マスクが凍らないよ に

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したら。頭の中でこんな迷いが右往左往していたが、交信の答えは間髪を入れずした。「大蔵君、酸 素は、酸素は吸っていますか」関根が弱っているという言葉を聞いて、まず頭に浮かんだ質問はこれ だった。「吸っていません」みんなの顔が真剣になる。「まず、まず、酸素を吸ってください」「ハイ、 関根に吸わせます」「関根君に吸わせたら大蔵君も吸って。ーー酸素は手元にあるんですか」「ハイ、あ ります」一同ちょっとほっとした。 マスクを操作している間は交信は出来ないだろうと思い、その間に話し合った。この状態でテント の中へ入ってしまったのだから、もう今から下へ降りるなんて出来ない、という福島の意見を聞き、 私も覚悟を決めた。よし、朝までトランシし ( ー交信を続けよう。ダウラギリの縦走登山の時、大蔵 とはこうした経験がある。七五〇〇メートルのⅡ峰とⅢ峰の間のキャンプで、小椋が酸欠状態とな 、大蔵と一夜中交信した。あの時はテントを燃やしてしまい、もっと命の危険を感じたものだ。 「べース、べース、感度ありますか。関根に酸素吸わせました」よし第一段階。。「大蔵君も吸っ てください」「なにしろ風が強くて、背中と手でテントを押さえていますが、飛ばされそうです」み んな、それそれに彼等のビバ ークの態勢を想像している。え ! 飛ばされそうって、スティはとって あるのかな。テントとフィッ クスドロープをつなげてあるのか、自分のセルフビレーは : : : 。雪面を 切ってそこにテントをかぶって座っただけでは、いずれ風で飛ばされてしまうかもしれない。そのこ とを聞くと「テントのスティ、セルフビレーとっていません」ときた。「ためだよ。ャパイよ」「なん でもいいから、どこか結ばせなければ」 私には、ダウラギリのⅣ峰で浅葉さんとテントに泊まり、尾根上のテントが風にあおられた経験が 194

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人だけでなくみなで判断しながら登れるこの雰囲気は、。フラスだと思う。それにしても、ヒマラヤ登 山の隊長をしたこともある福島が、アイゼンでトラ・フルなんて不思議でしかたない。が、それはさて おき、福島の今日の交信、テント場への気配り、さすがべテラン・クライマーというところだ。誰に でも、注意深い面、気づく面と、うつかりする面、気づかない面があるものだ。そこをお互いに気づ かせあい、こうしたフランクな話し合いの出来る雰囲気は、これからも絶対に保持したい。 八時の交信で、貫田から、シェル。、が荷上げの荷が重いと言っていると伝えてきた。本日 on へ荷 上げしたシェレ。、 ; ノ , カ 01 で貫田と話し合ったそうだ。 01 から 0 2 への氷壁は斜度もきつく、彼らも 腕が疲れてしまうらしく、二回荷上げしたら、一日休ませてほしいとか、 o ~ 01 の荷上げを五日 するより、 01 ~ 0 2 の荷上げを二日する方が疲れるとか、前々から聞いていたので、無理はせず一 回十五キロとした。 シェルバの荷上げの話をするうちに問題が発生した。現在 0 2 にいる早川、近藤が明日 0 3 へ行 き、明後日 0 3 からルート工作の予定なのだが、その時使用するロープ ( フィックスドロー。フ ) やス ー等、本日のシェルバの荷上げで上がっているはずだったが、その代わりに食料のはいったカ ートンポックスが三カートン上がってしまったのだ。 ず 急きよ、 0 2 の早川、 01 にいる貫田の交信で、ロープ、 ーケン、ス / ーバー類は、ルート工作け 隊員が持ち上げることにするが、 on からは酸素を使う可能性もあり、早川と貫田の間で酸素を持ち 上げる分を口 1 プに代えろという貫田と、酸素を上げるという早川で、なかなか話がっかなかった が、結局、酸素の代わりにロープの本数をふやし、一。ヒッチでも多くルート工作をするよう貫田から に

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装備の補充、拾得 十一月二十五日。一週間荒れ狂い、私たちの大切な装備を無残にも一一〇〇〇メートルも蹴落として くれた悪天候はおさまり、風は強いが晴れた。福島パーティに、早く出て落ちた荷を見てくれるよ う、朝の交信で念をおした。からはもう準備がでぎたと、はりきった交信が入った。にはシ エルバとともに、氷壁の下へ落下して来ているかもしれない荷の捜索に行くよう指示したが、彼らは 、酸素など、残っている 疲れもあり、今回の残装備の洗い直しでにまだフィックス、スノし ( ー 計算となったものが、前回の崩壊の後、掘り起こされていないという結論になり、その掘り起こ しもあるため、いい返事は返ってこなかった。 二時二十五分、からテントを一張見つけたと言ってきた。袋からはずれ、ポールも内ばりもな いが、すっかり無傷のままとのこと。ポール等は予備をセットして、のテントとして使用しよう と話し合った。ペコンペコンになったおなべも見つけた。やはり 0 4 から 01 の所まで一気に落ちた のだ。 四時、の方は、テントの他は見つからず、近藤が最後でに下ると言ってきた。彼は「ソリ に乗って帰ります」と相変わらず何が起ころうと自分のペース。自分の楽しみ方をしている。 五時、へ向かった福島から、十九ピッチほど上がったはずだが何も見えないと言ってきた。言 葉がゆっくりなので、酸素を吸ってからもう一度連絡するように言ったところ、次の交信で先ほどは マスクが氷でつまって、酸素の出てないマスクをつけていたからだといった。ゴムホースを直接口に 188

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以外ないような気がする。もしかして、彼は暗にそう言いたかったのか。 夜のとの交信で、貫田から、予定地点まで到着したと言って来た。ただし、地形が変わっ ており、大蔵パーティが到着した地点から、さらに二。ヒッチほど行ったところにやや平らなところが あり、予定地としてはここが良いと思うがどうしようかと問い合わせて来た。その地点は、前回 のよりも少々上部になる。また、貫田は、「酸素を探して何千里 : : : 」歩ぎ回ったが結局見当た らなかったと、前回に残した五十三本の酸素ポンべをぜひ見つけたいといって来た。交信を聞き ながら大蔵は、 リッジの上は前回カールになっていて、緩斜面のスロープだったのに、今回はリッジ に上がるところで、斜度が五〇度近くあり、こんもりと高まっており、リッジから飛び出すところで は、ダ・フルアックスでなければ登り切れないぐらいの急な斜面だと強調した。関根も一緒になって身 振り手振りで、両側のひじを立てて、こうやって上がったと説明した。 大蔵は前回の地点へ到着し、高度計を見たところ、六八七〇メートルだったから、この高度で二十 メートルぐらいをダイヤモンドに切って探せば、絶対酸素は出て来ると主張する。いずれにしても、 テント場としては生活しやすい場所がよいので、貫田に一任すると言ったが、その後また、貫田は大 蔵を呼び出し、上の平らな台地に設営してもよいかと尋ねてきていた。大蔵もそのほうがよいだろう ず け と返事をした。 負 五日。昨夜は暖かかったようだ。最低気温マイナス一三度。しかし、朝から強風である。昨日、し ばらくぶりの無風状態だったので、なおさら強く感じる。「カナ、レディ」 ( 食事が出来た ) という声 で、キッチンテントに向かうと、なんと、今日は、もうみんな外へ出ている。昨日、皆の起きるのがル に

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を使うので、今回燃料用としてはほとんど使わない。 ところが中国側で持ってきたコンロは五リットルの燃料タンクの付いた大型ガソリンコンロで、こ ハジェロをしよっち れをフルに利用すると相当ガソリンを使う。また、張さんが狩りにいくために、 ゅう利用すると足りなくなるのはあたりまえだ。一応旅遊隊のほうは、菊地さんを高所に置くことも 心配なので、シガールへは寄らず直接ザンムーまで下山し、ザンムーで二泊するように手配すること をみんなに納得してもらった。 パデューへもどる 午後一一時ごろ、を出発しパデューへ戻る。途中、道がガタガタで、しかも一回も休まなかっ たので、一時間半ぐらいで戻ることができたが、私は後部の荷台のほうに乗って、酸素ポンべを押え ながら、菊地さんに一リットルの酸素を吸わせながらだったからずいぶん疲れてしまった。旅遊隊の 人たちは景色を見たりしていたが、こちらは必死。ポンボコボンボコ揺れるたびに、胃の中、内臓、 全部ひっくり返ったようになり、出発後三十分ぐらいからもう気持ちが悪くなってきて、胃液がどん どん上がってくる。パデ = ーへつけば誰かが何とかしてくれるだろうと思っていたが、そうではなか再 マ ン ーについたら、福島モ そもそもを出るときも、荷物を積み込む作業を私一人でやった。パデュ ・、ケッとしていた。とりあえず菊地さんをテントに入れ、酸素だけはつけさせて休ませた。お湯をチ 作って飲ませてあげて、お昼ごはんを食べてないから、と福島にいったら、斬さんに昨日の残りのス

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の荷が吹きとばされたー 十一月二十四日。天気悪し。チョモランマの上部三分の一は雲におおわれ、風に飛ばされて西から 東へ流れる雲の合間に、時折。ヒークが見える。本日も登攀の条件としてはよくない 、と思いつつ、九 時のトランシし ( ー交信。の貫田パーテイからは、昨夜シ = ラーフが不足たった件、、酸 素マスク等、装備の不足品について次々と言ってくる。これには意外な気がした。チョモランマを見 上げて天候を心配しているに比べ、壁の中の当事者たちはもっと現実的で、天候については関係 なく、上へ行くことのみを考えているのか。 十二時、本日は貫田。 ( ーティにシ = ルバが同行している。 o«から先で使用する酸素を荷上げして いるが、前回の荷上げの時、すでに 0 4 用のテントおよび登攀具のすべては 0 4 に上がっているの で、隊員が先行し、シェレ。、 : ノ一カ 0 4 地点に着いた時、テントサイトを決定してあげれば、テント場作 りにシ = ルバの手を借りられるから、楽になるはずと考え、隊員に先行するよう言ってあったが、 o 3 から貫田が交信してきた。 「まだ、を出ていないのですか」「テントの中はごちやごちゃ、かたづけるのに手間どりました」 なお、酸素用のレギ、レーターやマスクの位置、使用不能の物の整備などに手間どっているという。 下ので考えると、狭いテントの中なので簡単にかたづけられそうに思うが、七五〇〇メートル付 近で薄い酸素 ( 空気 ) を吸いながらだと、ちょっと動くにも ( ーゼーゼー、それに一つの物を持 っと瞬間に手が冷たくなって、その手をあっためながらの作業は遅々として進まない。おまけに低酸 182