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検索対象: 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー
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1. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

振り返ると、許が脇腹を押さえて足をもつれさせている。あわてて麟は、よろめいて倒れか かる一訐をささえにもどった。 「おいつ、大丈夫かっ ? 」 がたすねると。脇腹からあふれ出る血を見おろし、許はにやりと笑ってみせた。 「こりや、やばいかもしれないな」 せき まゆ つぶやく唇から、ゴホッと咳とともに血があふれ出る。麟は眉をしかめて、しつかりしろと 怒鳴った。 「おれのことは、しし 。置いていけ」 「できるかっ、そんなこと ! 」 けれど芝生に膝をついてしまった許は、が力をこめて引きあげても、もう立ちあがること ができなかった。 脇腹から流れ出る血は、彼の着衣を足もとまで真っ赤に染めている。 その間にも、屋敷から出てきた男たちの銃撃は止まらなかった。それどころか許が崩れ落ち 麟たのを見て、次第に間を詰めてきている。 「一緒に逃げるんだろうつ ? あんた、親友を救いたいんだろうつ ? 」 許の耳もとで怒鳴って、麟は詰め寄る男たちをにらみつけた。 怒りと悲しみともどかしさで、麟の視界が真っ赤に染まる。頭の中が、沸騰したように熱く ひぎ ふっとう

2. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

安珠の爪先が男の顎に入り、男はそのまま後ろへふっ飛んだ。 「やだっ」 男の倒れた先へ目をやった安珠だったが、立ちつくしたままの麟と視線が合い、とたんに制 服のスカートを押さえた。 「あっち見て ! 視線はあっち ! 」 黒ずんだコンクリートの壁を指さす。 つられて素直に、指さされたほうを向いただったが。すぐにその理由がわかったのか、 「言っておくが、俺は見てないぞ」 ひたい 前髪のかかる額を「まいったな」といったふうに押さえて、そう宣言した。 「うそっ。じっと見てたじゃない」 「見てたが、 それは大したものだと見惚れてただけでーー」 「やつばり見てたんじゃないの ! 」 「だからっ ! 」 言い張る安珠に、麟は振り返った。 「スカートの中は、見てない ! 」 まじめな表情で、言い放つ。 とたんに安珠は、ぶっと吹き出した。 つまさき あご

3. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

が」 コーズウェイ・べイ 青年が起きあがれるようになると、安珠と祖父はともに銅鑼灣に面したホテルの一室へ移 動した。隣室には青年が、医者に休むよう命じられて眠っているはすだった。 「おじいちゃんはどうして、そんなこと知ってるの ? 」 「宗龍ーー先ほどの青年の背に、龍の刺青をいれたのは、このわしだ。今からもう、十年以上 も昔のことだが」 めがしら 疲れたのか目頭を押さえ、祖父はゆっくりと窓の外へ視線を泳がせた。 : , カラス一枚 部屋の中は、エアコンがかすかに風を吐き出す音以外は何も聞こえず静カたが。・ けんそう へだてた外は、夕方のラッシュがはじまり、耳を押さえたくなるほどの喧騒だろう。 「思えば不思議な三カ月間だった。目隠しをされて、どこか小さな島へ連れて行かれて。金も 時間もどれだけでもかけていい、 これまでに見たことのないような立派な龍を彫ってくれと頼 まれた。三カ月かけて、わしはまだ十五だったあの青年の背に龍を彫った」 「麟の背中の刺青も、おじいちゃんが ? 」 「いや。わしが彫ったのは、龍だけだ。あれはたぶん、克怜の手によるものだな。あれほどの 麒が彫れるのは、あの男以外におるまい」 そこで言葉をきると祖父は、両手を胸の前で組み、指が白くなるほど力をこめた。 「三カ月して、わしは島へ行ったときと同じように、目隠しされて家へもどされた。そしてそ

4. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

後頭部をドアにしたたかに打ちつけた。 うら ハランスをくずし床に片膝をついて、後頭部を押さえながら恨みがましげな視線で安珠を見 あげる。 「なにするんだっ」 「ちょっと足をひっかけただけよ。ちゃんと身体が回復してるなら、びくともしなかったはず じゃないの うなが 腕を組んで麟を見おろし、ペッドへもどるように促した。 けが 「だからって、ふつう怪我人を相手に、するか : 「わたしは、するの」 きつばりと言い放ち、もういちど・ヘッドのほうをさししめす。 ふ 「身体を拭いてあげるから、べッドにもどって」 安珠が言うと、麟はぎよっとして目を丸くした。 じようだん 「冗談じゃない」 「ひとりでペッドにもどれないなら、抱いていってあげてもいいわよ」 「それこそますます、冗談じゃない ! 」 叫んでは、あわてふためき立ちあがった。 ゆかかたひぎ

5. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

うな ひくりと息を呑み込み、喉の奥で声にならない唸りをあげる。膝をつかんだ手が、小刻みに ふるえてならない。 押さえていなければ、すぐにでも絶叫し、通りに走り出てしまいそうだった。 もう、涙も出ない。 もや 乾ききった目は、ガラス玉のように靄の薄れていく様子を映すだけだ。 きりん ( 麒麟ーー背中の、麒麟 : : : ) むみよう 闇の中を導いてくれるはずの聖獣なのに、麒麟は彼をよりいっそう深い無明の世界へとっき 落とすようだ。 ( 俺は、誰もすくえない。誰も、俺をすくってはくれない ) 誰かを責めることができないから、麟は自分を責める。 なまづめ いれずみ そのたびに背中の麒麟の刺青が、生爪をはがされるようにひりひりと痛んだ。 外壁のはがれ落ちたビルの前に、黒いべンツが止まった。 後部のドアが開き、中から少女と老人がおりてきた。 のど ひぎ

6. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

ちょうようせつビクトリア・ピーク 重陽節の拉旗山からあと、二度ほど似たようなことがあった。 一度は、街角で信号無視をして突っ込んできた車にはねられそうになったとき。二度目は、 天星渡海輪に乗っていて酔っぱらった観光客にからまれたとき。 だのに、どうしてだろう。言い聞かせるそばから、自分がそれをちっとも信じたくない でいることに気づく 「安珠、どうしたの ? ね、安珠 ? 」 ささえてあげているはずの家麗が、安珠の顔をのぞきこんでいる。 だいじようぶだから、と言おうとして開いた唇が、ぶるぶるとふるえた。 やはりふるえる手で、ロもとを押さえる。 「泣かないでよ、安珠。安珠が泣いたら、あたしまでーーこ キャリ ばろばろと家麗の目から、涙がころがり落ちた。 それは、どちらがどちらにつられた涙だったのか。警官たちがそばにきたときには、家麗だ けではなく安珠もまた、ばろばろと涙をこばしていた。 スター キャリ キャリ

7. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

164 れるほど私もおひとよしじゃない」 周は部下たちを呼び寄せると、麟を連れて行けと命じた。 うめ ようしゃ 腹を押さえて呻く麟を、ダークスーツの男たちは容赦なく両腕をつかんで引きあげ、自分の うなが 足で歩けと促す。 うる よろめき歩きながら麟は、痛みに潤んだ目でもういちど周をにらみつけた。周はそんな麟 のど うれ に、嬉しげに喉を震わせて笑ってみせたのだった。 泣かないで。苦しまないで。 そんな声が聞こえた気がして、麟はゆるゆると目を開けたーーーっもりだった。 だが、視界は暗闇のまま、光のかけらすら見えはしない。 暗さに目が慣れれば、そのうち見えてくるだろうと思ったが。どれほど目をこらし見つめて も、何も見えてはこなかった。 腕をあげ顔の前に手をかざしてみたが、やはり深い闇は変わりなかった。 ( そ , ついえば , ー・・ ) ここへ連れられて来たとき、腕に注射をうたれた。そのあとすぐ急激な眠気が襲ってきて、

8. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

よっこ。 けんじゅう ばんつ、ばんつ、ばんつ、と。たて続けに爆発音が響き、男たちが手にした拳銃が次々と ばうはっ 暴発していく。 . しばふは うめ 呻き声をあげて芝生に這いつくばる者、顔を押さえて転げまわる者、手首から先が吹き飛ん きようがく だ自分の腕を信じられすに驚愕の目で見つめる者 「やめろ : ・ みけん 眉間に力をこめて男たちをにらみつける麟の腕をつかんで、許が制止した。 「行け、坊やは逃げろ : : : つ」 「そんなこと、できない 「だめだ」 言い切ると許は、彼をささえる麟の手を振り払った。 ささえるものがなくなった許の身体が、どおっと芝生の上に倒れ伏す。 ふたたび起きあがらせようと手をのばした麟に、許は銃口を向けた。 「行け、行くんだ」 突きつけられた銃口を見つめ、麟は無言でかぶりをふる。 「死にたいなんて思うんじゃないぞ、坊や」 許の腕からカがぬけおち、銃が麟の足もとに落ちた。

9. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

だけで吐き気がする。 「お目ざめですか ? 」 かすかにエコーのかかった男の声がして、吐き気をこらえながらそちらを見ると。麟を拉致 まゆ した左眉に傷のある男と、もうひとり背の高い体格のいい男が、大きな窓を背にして立ってい 「申し訳ありません。あなたが妙なまねをしないように、薬をつかわせてもらいました。気分 。し力がですか ? 」 「最悪・ 麟が吐き捨てるようにつぶやくと、背の高い男は目を細めて笑った。 ビグトリア ロールスロイスが見覚えのある維多利亜山への曲がりくねった道をのばり始めたころ、麟は 隣に座る左眉に傷のある男に突然、刺激臭のある布を鼻先に押さえつけられたのだ。 「手荒いことをしてしまったようですが、我が四海会は最大の敬意をはらって、あなたを迎え 入れさせていただきます」 かわ じろりと男をにらみつけながら起きあがったは、自分がうすいプルーの革を張ったソファ に寝かされていたことに気づいた。 「四会 : ・ 重い頭を押さえ、あたりを見回す。 となり っ ) 0

10. 麒麟 : 香港ノアール・ファンタジー

「催ガスだ、ロを押さえて部屋のすみへ行くんだ ! 」 身を返した麟は、安珠の肩を抱え、煙を吐き出すそれの反対側へ彼女を導く。 涙流しながら咳き込む安珠を、壁ぎわに座らせて。麟が立ちあがろうとすると、彼女はす えり がりくように上着の襟をつかんだ。 「だ : つ、どこ、行く : : : の。なにする : : : つもり : 麟襟をつかむ彼女の手に、そっと自分の手を重ねて。 「だ、じようぶ。、い配しないでいいから」 ほほえ につこりと、微笑みかけた。 そてゆっくりと立ちあがり、部屋の中ほどまで行くと、床にころがった受話器を拾いあげ 麟また目がしみて痛んだが、煙がすぐにおさまってくれたために、咳き込むまでには至ら 視はもう、完全とはいえないまでもモノの形がわかる程度には回復している。 ヤクザ 「最の黒社会は、催涙ガスまで使うのか ? 」 低、声でそう言いながら窓に近づくと、カーテンをつかんで思いきり開いた。 ゅうひ 正にタ陽が浮かんでおり、瞬間、麟の視界が真っ赤に染まる。 見、ろすと青々とした芝の上に、同じようなダ 1 クスーツを着けた男たちが何人も集まり、 事な、かつわ」。 ゆか