仕事 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年10月号
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1. SFマガジン 1968年10月号

れる是非について投票を行いましたか ? 」 には生活の向上をもたらすというのがわれわれの堅い信念です。 労働組合は当然われわれに反対するでしよう。しかし規模の大き「はい、しました」 「結果は ? 」 い大学なら協力は得られるのではないかと考えます。ロポットは、 ィージイはあなた方学者を雑用から解放してくれますーーーあなた方「過半数で受けいれが決定しました」 のお許しさえ得られれば、あなた方にかわって校正の任にあるでし「なにが票を左右したと思いますか ? こ よう。他の大学や研究所もあなた方が率先して使って下さればそれ弁護人は直ちに異議を申したてた。 にならうことと思います。それが成功すれば、他のタイプのロポッ検事は質問をいいなおした。「あなたご自身の票は何に左右され たと思いますか ? 賛成票を投じられたと思いますが」 トも供給されるようになり、社会の反対も徐々になくなっていくの 「ええ、そうです。わたくしがそういたしましたのは主として、ラ ではないかと思います」 ニング博士の気持に同調したからです。つまり人間の諸問題の解決 マイノットは呟いた、「今日はノース・イースタン大学、明日は にあたってロポット工学の関与を許すことは、世界の知識人の指導 世界か」 的立場にあるものとしての義務であるという博士の言葉にうごかさ れたからでありました」 ラニングは腹立しそうにスーザン・キャルビンにささやいた。 「わたしはあんなに雄弁じゃあなかったし、かれらだってあんなふ「いいかえればラ = ング博士に言いくるめられた」 うに不承々々っていうわけでもなかったよ。年千ドルというので喉「それがかれの任務です。かれは立派に任務を果しました」 「証人」 から手がでるほどイージイがほしかったのだ。マイノット教授は、 あのグラフほど見事に描かれたグラフは見たことがない、校正にも弁護人は証人台につかっかと歩みよると ( ート教授の顔をじっと 誤りはまったくないといったのだ。ハ 1 トははっきりとそれを認め見つめた。そしていった。「実際問題としてあなたはロポット 号の雇用をかなり積極的に望んでおられたのでありませんか ? 」 ている」 「もしあれに仕事ができるなら便利だろうと思いました」 キャルビン博士の額の厳しい縦皺はゆるまなかった。「かれらの 予算以上の金額を要求すべきでしてね、アルフレッド、そして値切「もし仕事ができるなら ? 只今のお話にあった会議の席上で、あ なたはロポット号のやった作業見本を仔細に検討したのでは らせればよかったんですね」 ありませんか ? 」 「だろうね」とかれは不服そうにいった。 「はい、そうです。あの機械の仕事は主に英語の操作にありまし 検事側のハート教授に対する反対訊問はまだ終了してはいなかっ て、それはわたくしの専門分野でありまして、でありまするからそ 「ラニング博士が帰った後、あなた方はロポット号を受けいの仕事の結果を検討するためにわたくしが選ばれるということはき

2. SFマガジン 1968年10月号

生田のにちらっと別んのように音策呼そうなうす笑いが動いれ。私はなにもみずから望んでサイ飛ーグになったわけじゃない。 被告席に坐って、私が国家財産を横領したという検事のごたくを聞 「あんたは若くてハンサムな黒人だ。きっといい仕事が見つかるだきましよう。さそや面白いショーになることでしような」 「なにが気に食わないんだ、アーニー ? 」 ろう」 「高価な玩具でいる身に耐えられなくなったんですよ、長官。私は 「どういう意味た、それは : : : 」私はゆっくりいった。 「べつに意味はないよ : : : 」 血も涙もない機械に等しいが、感情という厄介な代ものを持ってい 生田は眼を閉じてシートの背に頭をあずけた。くろずんだ眼のふるんです。人間の業ですよ」 ちが神経性の痙攣をくりかえしていた。 「きみの気持はわかる。だが世間はマンガ本の主人公のようなわけ それが、私と生田トオルとの出逢いだった。 に。いかんのだよ。鉄の拳で正義を叩きだせれば、単純明快で胸が すっとするだろう。だが法律を無視するわけにはいかない。輻輳し 生田に、私が失業中だといったのは、うそではなかった。メガロ た手続きを誤たずに、正義をつかみとる地道な努力こそ警察の仕事 ポリス中央警察のブリュースター長官に辞表を提出してから一週間なんだよ。警官は裁判官ではないんだ」 経っていた。 「わかってます。だから、警察は強大な権力を持った一部特権階級 いかに罪状が明白でも、精 「特捜官をやめて、どうするんだね ? ブルース歌手にでもなるのには手も足も出ないんです。たとえば、 神測定技術は、法廷で立証能力を持たない。権力の所有者どもがそ かね ? 」 長官は氷のように澄んだ青い眼で私を見つめながらいった。 れを望まないからです。神通力が失われるからです。いつの時代 「フルースは歌えませんね。私の人工声帯はどんな声でも出せる。 も、警察は権力者への奉仕が第一義で、警察大に等しい存在たっ しかし、一番肝心なものがないんです。機械に魂はありませんからた。大衆が警察を嫌うのは、それを知ってるからです。個々の警察 ね」私は微笑を浮かべていった。「私立探偵でも開業して、ー離婚専官が清廉だったとしても、どうにもならない。警察組織自体に問題 門にやりますか。しいかねになるらしいから」 があるんだ。その病根が無数の腐敗警官を生みだすんです」 「きみ向きの仕事じゃないな、アーニー。きみの身体には、莫大な「すると、警官稼業に見切をつけたというんだね。シルヴァー 国家のかねがつぎこまれていることを忘れんで欲しい。木星定期便ティの警察署長がクビにならなかったというので : : : 」 の宇宙船が一隻買えるくらいのな : : : きみはおそらくこの世でもつ「警察は身うちの腐れ警官を始末する力もないんです。しかも、大 とも高価な存在なんだ」 衆は、私のような超人的な特捜官が大活躍すれば、すべての悪が一 5 「この世で一番高価な玩具といってください。私を訴えて、この身掃されると思いこまされている。私は大衆に与えられた玩具にすぎ 2 一 体をとりかえしたらいかがです。私の私有物は脳みそだけですからんのです。私はマンガ本のヒーローです。巧妙な陰謀の片棒をかっ ソウル

3. SFマガジン 1968年10月号

スの帯〃をそのままいったとすれば、すべてはあるべき場所にあるく思っています。さもなければ、どこでわたしはこの厄介な才能か 4 はずだ。それがこの帯の別の面に落ちこめば、お前にとたんに裏返ら自由になることができたでしよう ? わたしは中和装置のボタン 7 を押しました。これで失礼いたします。。フレトリアでちかちか新し しになる。右は左になるだろう」 い美人コンクールが開催されるのです。まずは、とりいそぎ : : : フ 「だが問題は密度だ、空間の密度だ ! 」物思いからさめたように、 ロナ・メッソン 天体物理学者は叫んだ。 「だれが期待しているというだ : : : 」がっかりした声でウオイノフ 「その密度なら、おれたちはどこかでうすめたじゃないか」パイロ よ、つこ。 ットは相変らずのんきであった。「ほら、爆発で穴があいたろう ! 」 、え、期待していいんですよーやさしくミセス・ザイラはいっ . 「それだよ、わたしが確信してるのは , 天体物理学者はいった。 た「これはね、もう一度わたしの信念を確かめたことになるんで 「あの現象は自然の手の仕事ではあり得ないってことだ。空間の密滝 す。つまり、この変った能力はだれにでも授かっていいというのは 度はあんなものじゃない」 でないでしよう。だから、わたしたちのやったことはまちがいでは 「すると、あれはよその文明からの昔の金星人の防御手段だってい なかったーーー宇宙観察の仕掛を作ったのも、人びとが変った電波の うのかい ? おれもいまそれを考えてたところだがね : : : 」 天体物理学者は。 ( イロットの顔を眺め、それからカルネの顔を眺放射を気まぐれに受けたようにするためなのだからね。それは実験 室の壁の中心で、人工の方法だけで、授かるべきものなんです」 めた。探険隊にとって金星上の一〇日目の一日はすぎていった : ・ 「すると、その効果はそれほど自然的なものにはならないでしょ う ? ・」ウオイノフはきいた。 ウオイノフは中和装置のある室内を大またに歩きまわっていた。 たったいま通風窓をあけて、換気扇のスイッチを入れたばかりであ「さあね、自然的というようなことは、まだはっきりいえる段階じ る。空気がどんより濁っていた。ミセス・ザイラが入ってきた。 ゃないわね」ミセス・ザイラは肩をすくめた。「いったい事件を予 「ママ、とうとうやっちまったよ、彼女がー これをよんでごらん知するというのは、人間に備わった性質でしようか ? もちろん、 なさい」 そうではないでしよう。人間にとって不自然な状態です。でも、ま 紙きれをびらひらさせて、ウオイノフはミセス・ザイラにかけよ た、超自然的なものでもない。人間電子計算機といわれている人は コン。ヒューターの速度で、いく 百万という数を頭の中で処理する。 〃ごめんなさい : ミセス・ザイラは声に出してよんだ。″わたまたいく年もねむらない人もある。どちらも普通の人にとっては不 自然ですがね、そういう人たちにとっては、生理学的にノーマルな しはお別れするつもりです。運命のいたずらのおかげで、予知とい うふしぎな、容易ならぬ才能をわたしは授けられました。そしてそ状態なのです。 の伺じ漣命がわたしをあなたに結びつけたことを、たい〈んうれし 宇宙から生物学的電波がとんできて、ある人びとの脳細胞の働き

4. SFマガジン 1968年10月号

眠薬を飲んでぐっすり眠るんだ。車にまかせておけばまちがいな「家へ帰れば、かかりつけの医者が来てくれる。力になってもらえ 。わかったかね ? 」 たら恩に着る」 「ぼくを逮捕しないのか ? あんたは警察の人間だろう ? ぼくは真剣な表情だった。「急ぎの用事でもあるのかね ? 」 罪を犯したんだぜ」 「べつにないが : : : 」 生田はおどろいたようにいった。青白い顔が。ヒク。ヒクひきつって そこへ警察車が通りかかった。這うようにスビードを落して、車 の窓から警官が呼びかけた。 「どうしろというんだ。。 ふちこんでほしいというのかね ? 」 「なにかあったのですか」丁寧な口調だった。生田に声をかけたの 「こんな車に乗っているが、ぼくはただの人間だ。ぼくを特別扱い だが、警官の服は疑い深げに私の顔を睨んでいた。生田は頭を振っ こ 0 にしないでくれ」 私が生田にはっきりと興味を感じたのは、この一言だった。彼の 「いや。友人と話をしているだけですよ」 睡眠不足でやつれた顔には、明確に贖罪意識があらわれていた。 警察車はゆっくり走った。警官は首をねじまげて執念深く私を凝 「警官として、義務をはたせというのか。しかし、あいにくだが、視していた。 私は警察の人間じゃない。あんたを告発する証拠もないし、その意「家まで送 0 て行こう。どこに住んでいるんた ? 」 志もない。あんたがカン・ハ ーランド家の娘と結婚している人間だか「ローレル・スプリングス : : : 」 らじゃないんだ・せ。同じあやまちを何度もくりかえすような人間に 私は自分の車に場所を教え、尾いてくるように命じておいて、生 は見えないからだ」 田の車に乗った。まさに女王の品位を持った車だった。こんな車に 「・ほくがカン・ハ ーランドの娘婿たとわかってたのか ? 」 とっては、手動で動かされるのは侮辱にちがいなかった。 「カン・ハ ーランドは億万長者だからな。知りたくなくても、自然に 「まだあんたの名まえを聞いていなかった : : : 」 お・ほえるのさ。では、さよなら。車をだいじにしたまえ。その車は 生田の表情はさらに病的になっていた。意味もなく痩せた指の長 女王のようにあっかわなきゃいけない」 い両手を動かしていた。どう扱っていいかわからないといったよう 私は自分の車にもどりかけた。 「待ってくれ」と、生田が呼びかけた。 「アーネスト・ライト」と、私はいった。 「頼みがあるんだが・ : : ぼくといっしょに来てくれないか。ひとり「どんな仕事をしてる ? 」 で帰れそうもないんだ。助けてもらえたらありがたいんだが。歩く「失業中なのさ , 力も残ってないんだ」 「仕事を探してるのかね ? 」 「医者のところに連れて行こうか ? 」 「いすれ、そのうちにね」 4 2

5. SFマガジン 1968年10月号

「ほんの一分ですよ。万事うまくい「てました。ああ、たった一 「なるほど。ではなぜこの本がおもしろいというのかね ? 」 つ、言葉を訂正した箇所があったな。〈犯罪的な〉という言葉を 「それは人間を扱っているからです、教授、無機的素材や数学記号 を扱 0 ているのではないからです。あなたの書物は人間を理解しょ〈無謀な〉と訂正してありましたよ。前後関係からみて後の形容詞 のほうが適当だと判断したんですね , うと試み、人間の幸福を増進させようと試みています」 ニン ( イマーは考えこむように、「君はどう思ったかね ? 」 「そしてそれは君の試みるところであり、それゆえわたしの書物は 「そりゃあれと同じ意見です。あいつの訂正したままにしておきま 君の回路と合致するというわけか ? そうだね ? 」 した」 「そうです、教授」 十五分が経過した。 = ン ( イーはそこを出ると閉館間際の図書 = ン ( イーは回転椅子の上で身をよじり若い助手の方に向きな 「いいかね、二度とそんなお節介はしないでもらいたい。 館へ行 0 た。そしてロボット工学の入門書を探しだすあいだ閉館をおった。 あれを使うからには、フルに使いたいのだ。折角あれを使っても、 延長してもらった。かれは入門書をたずさえて帰宅した。 勤めがおろそかになれば、つまり監督が必要でも 最近の文献をときたま引用挿入する以外は、校正は全部ィージイ君のーーうう にまわされ、イージイから出版社〈戻された。はじめのうちこそ = ないのにあれを監督するためにだな、そうすれば結局わたしは何ひ ン ( イーの干渉が間々あ 0 たがーーー後にいた 0 ては皆無とな 0 とっ得るところがない。わか 0 たかね ? ニン ( イマー先生」とべイカーは感情をおしころした声で べイカーが不安げにい 0 た。「あれのおかげでぼくは無用の長物いった。 〈社会緊張〉の見本刷りが = ン ( イマー教授のオフィスに送られて になったような気がしますよ」 「新しい問題に着手する暇ができたとは思わんのかね , = ン ( イきたのは五月八日である。教授はばらばらとそれをめくりながら拾 い読みをした。それから見本刷りは片隅に押しやられた。 ーは社会科学大要の最近号のメモをとる作業から顔もあげずにいっ こ 0 , 「 = 明したようにかれはそれなりその本のことは忘れてしまっ た。八年を費やした労作ではあったが、この数カ月来ィージイがこ 「どうしてもあいつに慣れませんねえ。校正の結果が心配でならな の本の重荷をかれの肩からとりさってくれた結果、新たな興味がか いんです。愚かしい心配だとはわかっていますが」 れの心を奪っていた。大学図書館に贈呈することすらかれは思いっ 「そうだな」 「先日もイージイがゲラを戻す前に二枚ほどぬきと 0 てみたんですかなか 0 た。べイカーは、譴責をうけて以来、仕事に没頭し教授を 避けていたが、そのかれすら本の贈呈を受けなかった。 が」 六月十六日、破局がおとずれた。 = ン ( イマーは電話を受けた。 「なんだと ! 」ニン ( イマーがにわかに気色ばんだ。大要がばたり かれは。フレートの映像をぼかんと眺めた。 と閉じられた。「君はあれの作業の邪魔をしたのか ? 」 5 6

6. SFマガジン 1968年10月号

かで泳ぐことしか、考えたことがないんですもの。みんなの目の前和装置はここの実験室にあるんですか ? 」 で泳ぎまわるーーーそれがどんなにたのしいことか、あなたにはとて「というと、母が国境でブレイゲンを骨抜きにしたあれかね ? 」ウ も想像できないでしよう。素はだかになって、海で泳ぐときのよう オイノフは笑った。 「たぶん、そうでしよう」 「でもね、この仕事だって、けっこうたのしめるとおもうんだが「あれなら、あるよ。そっくりそろってね , な、フロナ。海からは上らなければならない。さもなければ、溺れ「なんでもあっかい方がたいへん簡単だそうですが、ほんとかし てしまう。そこでこんどは新しいたのしみの波だ。まったくべつら ? パチッとスイッチをいれれば、予知能力がとたんに消えちま の、知的の波だ。方程式にとりくめば、波をきって泳ぐのとそっくって ? 」いかにもあどけないようすで、フロナはきいた。 りだってことは、わたしが保証するよ。新しい大洋がきみにひらか だが、その目つきは彼女を裏切った。預金をおろしにきた人を銀 れるんだ ! 」 行員がみるような、注意ぶかい目つきであった。 ふたりはミセス・ザイラのシベリアの研究所の一室にすわってい ウオイノフは警戒した。いまほど、事件を予知する自分の能力を た。仕事をはなれてくつろぐためにもうけられた壁煖炉つきの小さ働かせたいときはないような気がした。だが、なんということだ、 い気持ちいい部屋である。壁には黒板もなければ、映画のスクリー 隣りの部屋でたったいまミセス・ザイラの。ハイオジェネレーターが ンもない。窓の外にはシベリアの雪の原がひらけ、森の前の空地に運転しはじめたではないか。その場のカづよい影響はウオイノフの その能力をすっかり麻痺させた。 小さい赤い点てんが走っていた。スキーヤーたちが新しいシュプー ルをつけているのである。 「中和装置になにか用があるのかい ? 」間をおいて、ウオイノフは 「そりやね、あなたのおっしやるとおりでしようが、わたしには古きいた。 いことがなかなか忘れないのよ。お芝居にいけば、みんなはもう舞「いし 、え、べつになんでもないけど、ちょっと器械を見たくなった のよ。でもあなたはわたしのガイドにはなってくださらないよう 台をみないんです。みんなわたしの方に顔をむけました。舞台でハ ムレットがどんなにお to be or not to be" とさけんでいてもでね ? こ すよ。答はわたし次第でした」 「だって、そりや : : : あの器械はまだだれにも手をつけさせないこ 「わたしが演出者だったら、きみを劇場にはいれないな」ウオイノとになってるんだからね : : : 」 フは笑った。「映画なら、問題は別だがね。暗くて、きみが見えな「だれにもといったって、わたしはべつでしよう。おたのみすれ いからさ」 ば、あなたのお母さまだってわたしにはみせてくださるでしよう。 「映画にはね、あかりが消えてから入ることにしてるのよ」なにかでもね、わたしはあなたの説明がききたいんだわ」 うわのそらで、フロナは答えたが、ふいに話題を変えた。「あの中〃い や、とんでもないことになりやがった ! 〃 ウオイノフはいささ ー 70

7. SFマガジン 1968年10月号

「あなたはロボット号が校正した校正刷を一度もごらんにな「全面的に信じておられたので、助手のべイカー博士がロポットの 8 校正をチェックしようとしたとき、あなたは博士をひどく叱責なさ 6 らなかったのですか ? 」 「はじめは目を通しておりましたが無駄な作業のように思われましったのですね ? 」 たので。わたしはロポットの主張を依頼しました。あの馬鹿げ「叱責したわけではありません。わたしは単に時間を 改竄は、あの本の終りの四分の一にのみなされたも浪費してもらいたくなかったのです。少くともあのときは時間の浪 のでありまして、わたくしの推察するところでは、ロポットはそれ費だと思いました。あの一語の改変の意味に思いいたらずーー」 弁護人はたつぶりと皮肉をこめていった。「あなたは、あの言葉 までに社会学に関する知識を充分吸収したのではないかとーー・」 「御推察には及びません ! 」と弁護人はいった。「あなたの同僚のの改変の件を記録にとどめんがために言及するようにと入知恵され , かれは検事の異議中し立ての たことは疑いないと思いますが べイカー博士はその後の校正を少くとも一回は見たと諒解します。 あなたはそういった意味のことを証言なさいましたね ? 」 機先を制しすぐに話題を変えた。「つまりあなたはべイカー博士に 「ええ。さきほど述べました通りかれが一頁見ましたところロボッひどく腹をたてておられた」 「いいや。腹をたてていたわけではありません」 トは言葉をひとっ訂正していたと申しました」 「あなたは出来あがった本を受けとったとき、かれに進呈しなかっ ふたたび弁護人はロをきった。「あなたはロボットに対する年ごたではありませんか」 しの根深い敵意にもかかわらず、また最初からロ飛ットの使用に反「単に忘却しておったのです。図書館にも渡しませんでした」ニン 対票を投じ、またロポットを使用することを拒否していたにもかか ( イマーは用心深い笑みをうかべた。「教師というものは・ほんやり わらず、突如としてあなたの著書、あなたの nagnum opus ( 偉大が多いものでして」 なる業績 ) を口飛ットの手に委ねる決意をしたというのはいささか「一年余も完全な仕事をしていたロボットがあなたの本の中で誤り 奇妙ではありませんか ? 」 をおかしたのは奇妙ではありませんか ? つまりあなたによって、 いいかえればだれよりもロボットを憎悪していた人間によって書か 「奇妙なことはありません。わたしはただあの機械を使ったほうが れた本の中でです ? 」 便利だと思ったまでです」 「そしてあなたはロボット号に絶大な依頼をよせていたので「わたくしの本は、ロポットが直面せねばならない人類の問題をあ 突如としてですよーー・あなたは校正をチ = ックしようともなさつかったかなり大きな仕事です。当然ロポット法三原則にひっかか ります」 らなかった ? 「ニンハイマー博士 , と弁護人はいった。「あなたはときどきロ、ポ ううロ、ポットの 「さきほど申しあげた通りわたくしは ット工学の専門家のような話し方をされますな。あなたは明らかに 宣伝文句を信じたのです」

8. SFマガジン 1968年10月号

「はあ、すると・ほくはこの第一章に無駄な時間を費したわけです「すぐのみこむでしよう」 「確かめたいのだ , ね」とべイカーは気まずげにいった。 ニンハイマーはイージイに面会するのに予約をしなければなら 「無駄ではない。機械の結果と君のと比較検討できるだろうー ず、ようやくとれた時間は夜中のしかもたった十五分という短時間 「先生がおのぞみならですが、しかしーー」 であった。 「しかし ? 」 だが十五分で充分であることがまもなく判明した。ロ。ホット 「イージイの仕事に誤りが見つかるとは思いませんね。誤りはぜっ 号は引用挿入の問題を即座に理解した。 たいしないと考えられているんですから , ニンハイマーはロポットを間近かで見るのはこれがはじめてだっ 「まあな」とニンハイマーは素気なくいった。 たが、いい気持のものではなかった。かれは無意識に相手が人間で 第一章は四日後べイカーによ 0 てふたたびもちこまれた。今日はあるかのような口調でい 0 た。「君は仕事が楽しいかね ? 」 = ン ( イマーの分のコ。ヒイで、イージイとその附属装置とを収納す「とても楽しいです、 = ン ( イマー教授」とイージイは重々しくい った。眼の役目をする光電管が正常な深紅色にきらめいた。 る特別室からもってきたものである。 「君はわたしを知っておるのかねー べイカーは相好をくずしていた。「ニン ( イマー先生、あいつは、 「あなたが校正刷に関する附加事項を示された事実から、あなたが ・ほくの見おとした誤りを一ダース ・ほくの見つけた誤りばかりか 著者であることがわかります。著者の名はむろん校正刷りのあたま も見つけましたよ ! しかも所要時間はたったの十二分です ! にいちいち記されています」 ニンハイマーは余白にきちんと校正記号の書きこまれたゲラ刷り 推理をするのだな。ところでひとっ の束に目を通した。「これは君やわたしがやるほど完全な出来では「なるほど。君は ないな。低重力の神経学的影響に関するスプキの論文の引用を入れ聞かせてもらいたいがーー、」かれは衝動に逆うことができなか「た 「この書物をどう思うかね、これまでのところ ? 」 ィージイはいった。「校正するのがとてもおもしろい本です」 「社会学評論にのった論文ですか ? ー 、ヘノスノ ・ーー感情のない機 「おもしろい ? それは奇妙な言葉だな 「そうとも」 「しかしイージイに不可能なことを望むのは無理です。あれはわれ械の感想としては。君には感情はないときいておったが , 「あなたのご本の言葉がわたしの回路と一致するのですーとイージ われにかわって文献を読むことはできません , ポテンシャルをほとんど示しませ 「それはわかっておるよ。実をいえば引用の部分は用意してきたのイは説明した。「カウンター 加筆の扱い方を知っておるかどうか確ん。このメカ = カルな事実を〈おもしろい〉という言葉に飜訳する だ。あの機械が のはわたしの頭脳回路です。感情的な前後関係は偶然です」 められるいいチャンスだ」 4 6

9. SFマガジン 1968年10月号

ラニングは眉をあげた、眉は毛むくじゃらのココナツッケーキのの式と整合するためにはマイナス記号であるべきで・ーー」 ように見えた。かれはいった、「イージイはカだめしをしようとい 「待った ! 待った ! ーと教授は叫んだ。「かれは何をしておるの うんじゃない、本を二つに引き裂くような真似はしませんよ。われだ ? ー 冫しナ「なにをおっし われと同様、本を丁寧にあっかうことを知っています。さあ、はじ「している ? 」ラニングはじれったそうこ、つこ。 めなさい、イージイ」 やるんです、教授、かれはもうしてしまったんですよ ! あの書物 「ありがとうございます」とイージイはいった。それから金属の巨の校正をしたんです」 体をややかたむけてこうつけくわえた、「お許しがいただけますで「校正をした ? 」 しようか、グッドフェロウ教授」 「そうですよ。頁をばらはらとめくっている間に、綴り、文法、句 教授はまじまじと目を見張った。「あ、ああ、 しいとも 読点の誤りをことごとく見つけだしたんです。語順の誤りを記憶し ィージイは金属の指をゆっくりと確実にうごかして本の頁をめく矛盾を発見した。かれはその情報を永久に完全に記憶しているでし り、左の頁を一瞥し右の頁を一暼した。ふたたび頁をめくり、左をよう」 一警し右を一警する。頁をめくり左、右。 教授のロがばっくり開いた。かれはラニングとイージイのそばか その力量感は、かれらが立っているセメント壁のだだっぴろい部らとびはなれ後じさった。そして腕組みをしてかれらを見すえた。 屋を小さくみせ、二人の観覧者を実物よりかなり小さくみせた。 かれはようやく口を開き、「するとこれは校正ロポットなのか ? 」 グッドフェロウ教授は呟いた、「明りのエ合がよくないがー ラニングはうなずいた。「かれがなしうる数ある仕事のなかの一 「かまいませんよ」とラニングはいった。 つです , グッドフ = ロウは鋭味をおびた口調で、「だがかれはいったい何「しかしな。せわたしに見せたのかね ? 」 をしているんだね ? 」 「大学に購入していただくようおロ添えを願おうと思いましてねー 「ご辛抱を、教授ー 「校正のためにかね ? 」 最後の頁が繰られた。ラニングがすかさず訊いた、「どうかね、 「数ある仕事のなかの一つです」とラニングは辛抱強くくりかえし こ 0 ィージイ ? 」 ロ、ポット斗よ、つこ、 冫しナ「これはたいへん正確な書物で、指摘しうる教授はひきつった顔に苦々しい不信の色をうかべた。「しかし馬 箇所は少ししかありません。二十七頁、二十二行目、 Positive の綴鹿げたことだ ! 」 りが P-o-i-s-t-i-v-e になっています。三十二頁、六行目のコンマ 「なぜ ? ー は不必要です。また五十四頁、十三行目にはコンマを用いるべきだ「大学はこんな半トンもあるーー・少くとも半トンはあるにちがいな 校正係りを雇う余裕はありやせん [ 0 たでし、よう。三三七頁のー 2 式におけるプラス記号は、その前 5

10. SFマガジン 1968年10月号

ンをずらりとならべたパネル、テレックス、模型電送装置といった ーグ教授、医学部遺伝研のフランケル所長など数名、そして、局 4 ものは、すべて完備していた。この会議室は、また、国際通信特別長とリンフォード博士 : : : どうやら、前々から、サーリネン局長の 9 回線につながっていて、いながらにして、全世界の大学、全世界の影の〃ブレイン〃だった人たちがほとんどと見え、ぼくたちがおず 重要官庁と、即座に連絡がとれる。 この会議室の一廓が、そのおずと〃大会議室〃にはいっていった時には、もう黒板をかこん まま学長室になっていて、学長は、やろうと思えば、この大会議室で、四、五名の学者が何か議論をしており、それにサーリネン局長 の施設を、自分の部屋から利用できた。 もくわわって、しきりに何かまくしたてていたし、そのほかにも、 三人、四人とかたまって、話しをしていた。 世界各地の有名大学でも、これほど完備した会議室をそなえてい る所はなかった。 こんな″情報センター〃式の会議室は、今の ノーしオし力と思ってさが ほくたちは、その中に、ナハティガレよ、よ、 ところまだ、モスクワにもパリにもなくて、日本の、富士学園都市したが、賢者の姿はなく、そして会議がはじまっても、彼のあらわ に、これよりもうちょっと小規模のものがあるだけである。アメリ れる気配はなかった。 それにしても、集ったメンパーの顔ぶれ コムサット 力のベル電話会社と、—ee それに通信衛星会社が共同出資してでと、雰囲気のものもしさま、、 ~ しったい何事がおこったのかと思わせ インターナショナル・インフォーメーション きた、 ( 国際情報サービス ) の寄贈になるもので、今はた。キャンパスでおこった、いわば″ささやかな〃事件が、国際科 インフォーメーション・アンド・コ 押しも押されもせぬ、世界的—OA ーー・・つまり、情 報学警察局長を出馬させ、世連検察機構を動かし、世界連邦総裁をま ミュニケーション 通信デザイナーとしてから独立し、世界連邦本部、南極きこみ、そして、しずかな、一見牧歌的なのどけさにみちたヴァー ーシティ・タウン 開発本部、月日宇宙ステーションⅡ地球間などの、情報通信施設をジニア大学都市に、錚々たる世界の頭脳を急拠集合させるにいた デザインしたロッド・ ハリスンの、最初の仕事だった。 たとえ、 リやモスク : いったい、あの″事件みの中に 午後三時からの″秘密会議みには、ぼくたちサ・ハティカル・クラ ワにおける同種の事件と一連のものであったにせよ これほどの スの八名をふくめて、二十数名の人々が出席した。 頭脳と機構を、″極秘裡に″動員させるにいたるほどの、要素が、 いったいどこにあるのか ? サーリネン局長の妄想でなければ、 ぼくたち八名の″青二才をのそいては、テレビや、写真で知っ ている、錚々たる大学者や、名前をきいて、ああ、あの人が、と見いったい何が起りつつあるのだろうか ? なおすようなばかりで、ぼくたちは勢い、隅っこにかたまっ て、小さくならざるを得なかった。ー」・ロンドン大学の人類学の・ハ 会議は、最近の会議の通例として、開会の辞もなにもなく、い リイ教授、ケンブリッジ大学の生物学のドライエル博士、パリ大文なりはじまっていた。 サーリネン局長は、短かくヴァージニア 化人類学のランべール教授、その他ノールウェ ソ連の学者たちにおける事件の経過を報告した。メン・ハー各自の席のテーブルにく それに 0 のメン・ハ ー二名ーー・・これがヨーロッパ勢だつみこまれた、四面のヴーアーには、事件の要点が一目でわかるよ た。地元からはメイヤー学長、ヤング教授をはじめ、生化学のロンうにレイアウトされた報告書がうつっており、その上を、赤い光が テレフォン