ゅにへつ 『先生、妾にだッて飛行機は扱へますわ』と花枝嬢まで其容易な事それを適度に結附けたものです』 を説いた。 『えッ』 此所まで見送って上って居る三浦老夫婦は、これも笑ひを含みな『委しい学術上の説明は、一寸私には難しいのですが、日本の某深 がら、 山に二箇の不思議な鉱物が発見されましたのは、今から二十四五年 あけかち 『先生、大丈夫で御在ます。時々酔漢が手放しで乗って居て、上梶前です。此鉱物は世界の何処からも未だ発見されて居ないのでし を取った儘の為、月世界近くまで行き掛けたといふ話は有りますて、これを学名でミタマ、及びミツルギと命名されました。其ミタ が、落ちるといふ事は絶対に有りません。いづれ進行中に伜から飛マの方は太陽の引力を強度に吸収し、又ミツルギの方は地球の引力 行機の説明を申上げる事に成って居りますから、御安心なさっておを極度に吸収するのです。それを発見した結果、此二箇の鉱石を巧 乗り下さいまし』と老三浦が云った。 みに用ゐて飛行機の原動力に充てた訳なんです。安全弁の切方一ッ 『では、まア、安心して乗りませう』と中央部へ翁は乗った。右にで、機は太陽の引力に引附けられて、急速度を以て何処までも昇っ 小一郎、左に淑子、前に花枝、後に運転手が乗ってゐる。 て行きます。今が即ちミタマの動力を発揮してゐる時なのでして、 『ちやア行って参ります』と花枝嬢が云った時には、早や機は軽々若し下降しゃうと思ふ時は、ミツルギの動力に接ぎ替へます。然う と一直線に昇騰を始めた。 すると地球の引力で下へ / \ と降ります。これにも安全弁の附して 地上滑走を要しないのだ。 あるのは勿論ですと同時に、地球の引力の方を余程緩めて有ります 『やアーー、昇る / \ 。これは愉快だ。何処まで昇るのかね。あんから、幾分か太陽の方に牽制されつゝ下降しますので急転直下の墜 まり昇り過ぎて太陽へ達しては大変たよ。降りる時に地球が他方面落は充分に防禦されて居ります』 に廻転してゐて、知らない星の世界へでも降りたら大変だよ』と翁『それでは、上と下とへは巧く行けるとして、横行する場合には、 は洒落のツモリで云った。 如何するかね』 『先生、それは事実です。理論に於て太陽まで此飛行機は行けるの 『地球引力と太陽引力との争闘の余波が、プロペラーを回転せしめ ですが、唯空気の関係上、人の命が保たないので : : : 』と小一郎はる様な機械に成って居りますで、訳は有りません : : : おや / \ 余 説明に掛った。 り騰り過ぎたそ。運転手、既う好いよ。最少し下って、先づ上野へ 『なに、此飛行機で太陽まで行かれる ? 』 と遊ばんか』 『此日本式飛行機は、動力が従来のとは根本的に違って居りますの で、火力や、電力や、そんな旧動力に頼って居りません』 『だと、新動力を得た訳たな』 『左様です其新動力は太陽自からの引力と地球自からの引力と、 に 5
ポンステッテン忘れたのかね、ここが全地球の流刑地であるこ ボンステッテンコ・ハルトでくるんだやっか ? とを。人類は美しい部屋、もうかる土地を手に入れようと戦う。全ウッドコルトでくるんだやつだ。 員に共通のごみ捨て場のためにではない。われわれになど誰も関心 ボンステッテンそんなことだろうと思っていた。 をよせないよ。きみたちは、われわれを大のように戦いの車につな ウッドわたしは知らなかったのだ。大統領の命令だったのだ。 ぐために必要としているのだ。戦争がすめば、そういった理由もなきのうわかって驚いたのだよ、、ポンステッテン。 くなる。きみたちはそれからも囚人をここへ送るだろうが、帰還は ボンステッテン信じるよ。 強制できないね。きみたちはわれわれに対してとやかくいうことは ウッドもちろんわたしには辛い。しかし、われわれの立場は絶 できない。われわれを人類から追放したのではないか。金星はきみ望的なのだ。われわれの善意は疑わないでほしい。自由とヒ = たちよりもおそろしい。ここの土地を踏んだものは、金星の法に従 = ティは最後には勝つよ。 うことになる。いかなる資格で来てもだ。彼にあたえられる自由は ポンステッテンもちろん。 金星の自由だけだ。 ウッドいまわれわれは非常手段をとるよう強制されているだけ ウッドくたばる自由か。 なのだ。 ポンステッテン正しく行動し、必要事をなす自由だ。地球では ポンステッテンそれはそうだ。 それができなかった。わたしにも。地球は美しすぎる。富みすぎて ウッド本当に気のどくと思うよ、ポンステッテン。 いる。その可能性は大きすぎる。それが不平等を招くのだ。地球で 沈黙。 は貧困はけがれで、そのゆえに地球はけがれている。ここでだけ貧 困はなにか自然のものなのだ。われわれの食物、われわれの道具に ポンステッテンわれわれがきみらを援助しなければ、爆弾を見 は、われわれの汗がこびりついている。地球のように不正がでな舞うというのだな ? 。それだからわれわれは地球がこわいのだ。地球の豊かさ、偽り ウッドやむを得ないのだ。 の生活、地球の楽園がこわいのだ。 ポンステッテンわれわれはそれを阻止できない。 沈黙。 沈黙。 ウッドボンステッテン、真実を語らねばならない。われわれは ウッドきみらは全減だ。 爆弾を積んでいる。 ポンステッテン多数はな。助かる者もいるだろう。きみらが来 ポンステッテン原爆か ? たとき、船という船に警報を出しておいた。いつもはまとまって暮 ウッド水爆だ。 らしているのだが、いまはこの惑星全体に散らばっている。 6 9
衛星は三万六〇〇〇キロの静止軌道に打ち上げられ表わす場合に、よく使われる。それほど宇宙の天体の規 る。これまで、姿勢を保っため毎分一〇〇回の割りで回模は大きい だが、なかにはそうでないものもある。モスクワのシ 転をし、軸の方向を地球に向けていた。 = テルンベルク天文学研究所の・シクフスキー博 しかしこの衛星は、幅五センチ、長さ三十七メートル の細い金属棒六本を宇宙にくり出す「うち二本の金属棒士は誕生後一〇〇年ーーー一〇〇万年ではありませんそ の先端には、重さ三・六キロの錘りがついている から三〇〇年しか経っていない天体があるといい出 はじめ衛星は、大気圏外でぐらぐら動いている。しかして、世界の天文学界の話題を呼んでいる し地球の重力によって振子が止まるように、この衛星も 一〇〇年といえば、地球上には一〇〇歳以上の人がか なりいるから、生命の短かい人間より若いことになる。 錘りのついた金属棒を地球に向けて静止する。 軌道上の衛星は無重量状態となっているが、錘りの部まったくおどろいた話だ。 分は他の棒の先端より、 博士によると、一〇〇歳のは「一九三四マイナス六 いくらか重力の影響を受ける その差はわずか一〇〇万分の一ポンド程度だが、それで三」と呼ばれる天体。三〇〇歳のは「カシオペア座 < 」 なる天体。ともに強い電波源として知られている。 ももう衛星の位置を定めるには、充分だという。 0 それにしてもいった これまでは、 いどうやって、天体の 衛星を回転させ 重力偏差の金属棒を伸ばした応用技術衛犀 ( 想像図 ) 年齢を調べたのか博 るために、ガス 噴射装置をつけ 士は電波の弱まり方を Z 観測してつきとめたと たり、それを作 つまり減衰のカ 動させるための ープをたどっていけ 指示装置をつけ 、ヾ - 、一ば、誕生までの時間が たり、大へんな わかるというわけた。 苦労をしなけれ もっとも誕生とはい ばならなかっ ◇模擬の小さな月 ( 米 第【 4 っても「一九三四マイ 月はいつも同じ面を地球に向けている。地球をまわる ナス六三」の場合は、 しかしこの 間に、自分も一回転するので、地球に同じ面を向けるこ 恒星の爆発によって吹 「重力偏差法」 とになるのだ。 き飛ばされた一団の粒 の開発により、 子であり、「カシオペ 宇宙開発陣にとって、これはまったくうらやましい現衛星にはそのよ 象だ。というのも、気象衛星や通信衛星など、地球を観 ア」は超新星の爆発に うな余計な装置 より生れた球体たとい 測したり地球と交信する役目の衛星には、何とか地球をを、いっさい積 向かせたい。しかし遠い大気圏外にいる衛星にそれを行む必要が無くな いまこの時・間にも、 った。アンテナ なわせるのは、至難の業たった。 宇宙のどこかで、新し しかしあれこれと知恵を絞ったあげく、アメリカの航やアレビカメラ を、地球に向けておくことも楽になった。 い天体が誕生していることたろう。恐らく他のどこかで 空宇宙局は、衛星に地球を向かせる方法を考えついた は、新しい生命も誕生しているにちがいない。いすれ「わ だれの考案であるかは明らかにされていないが、うま 「重力偏差法」と呼ばれみこの方法は、名前はいかめし いことを考えついたものた。 れわれは孤独ではない」ことが、立証されるでしよう ( 「 いが仕組みはごく簡単。今後、多くの衛星に応用される ものと期待されている。 ◇脳だけは生きている ( 米 ◇宇宙でもっとも若い星 ( ソ連 ) 衛星を月とするこの「重力偏差法」とは。応用技術衛 生物のからたの中で、もっとも重要なものは脳だが、 星ー A の場合をみてみよう ( 、 天文学的数字という言葉がある。べらばうな数や量を 0 こ 0
ジョン・スミス ( 低い声で ) ジョン・スミスです。 ウッドサー・ホレース・ウッドです。 ジョン・スミスこちらがペーテルセン氏とベトロフ氏。 ウッドこちら国防大臣閣下、こちら宇宙空間担当大臣閣下。わ たしの協力者です。 ジョン・スミス・地球自由連邦の代表の方々、ようこそ。。へトロ ジョン・スミスようこそ。 ウッドみなさん、この金星の土を踏んだ瞬間は、われわれにとフ氏は船のことで忙しく、失礼させていただきます。 りまさに大いなる瞬間であります。別の惑星のかくも異様なる大地ウッドわれわれの提案は重要なものなのです。交渉船の扱いは に立って感慨はひとしおであります。 ( 雷鳴 ) われわれを代表者とベトロフ氏以外にできないのですか ? ジョン・スミスほかに人間はおりません。 する地球の自由連邦は、われわれのーー・われわれの上に立ち、われ ( 雷鳴 ) ヒューマニズムとーーー ( 雷 われの目標であるところの 沈黙。 鳴 ) 自由の ( 雷鳴 ) 理想がーーー ( はげしい雷鳴 ) よし別の形であれ 金星にも見出されるものと信じて疑いません ( 耳をつんざく雷ウッドみなさん、わたしから金星の首都を交渉場所とすること 鳴 ) それゆえ、われわれは計算づくからではなくーー・ ( 吹きつけるを提案します。 強風 ) そのむかしトーマス・エリオットが述べたように自由意志か ジョン・スミス首都などありません。 ら参上したものであります : ・ ウッド比較的大きな町でも。 ジョン・スミス町もありません。 すさまじい雷鳴、形容を絶した突風、豪雨。 ウッド少なくとも地上にある部屋で : ジョン・スミス別の部屋などないのですよ。地面は不安定すぎ て家を建てられない。われわれは全員船で暮らしているのです。 ウッドそれならば好天を待っては。 マンネルハイム閣下のけっこうな演説は終わりまで行きません ジョン・スミス金星の天気はこれ以上よくなりません。悪くな でした。ものすごい嵐が起こって、交渉の場に決められた船へ走っ て行かなくてはならなかったのです。それは一種の原始的な潜水艦るばかりです。 ウッドこの嵐をやり過ごしたらどうです。 で、着いたときは全員ずぶ濡れでした。 驚きました。町か別荘で交渉するものとばかり思っていたのですジョン・スミス金星ではいつもこうなのですよ。これなど取る から。おそろしい条件下で行なわれた金星の全権との第一回会談のに足りないほうで。 一部を再生します。自由連邦の十二名の委員は、貧弱な照明のせま い部屋に押しこめられ、それが異星の海の波のために揺れに揺れる のでした。
「いいかね、われわれが地球を離れたのは、人類にとってそれが最 まから決定しよう」 小柄な赤毛の娘が手をあげた。 善の道だと判断したからだった。この場合、人類とは、むろんわれ 「はい、マーサ ? 」とカール。 われの母種族〈普通人〉を指す。だが、あそこでわれわれが見たも 「その判 と、ケンタウリ第三惑星の方角を指さして 「逆に、あそこで見てきたもののことを、いま話しあうべきじゃなのは いかしら。もしわたしたちが地球を見捨てたことが、地球の未来を断がまちがいだという、劇的な実証なんだ。人間社会を崩壊から救 、どうやら少数の〈能力人〉の存在が必要らしい。ひょっと あんなふうに運命づけるとしたら、いますぐひき返すべきだわー したら、われわれが一種の触媒作用をつとめるのかもしれない。な 角ぶちメガネをかけた神経質そうな青年が、すかさず反駁した。 「前進するにしろ、ひき返すにしろ、われわれの一生のあいだに大んであるにしろ、われわれは心要とされているんだ。もしいま人類 した違いは出ないのだから、たとえ地球に戻らなくても、われわれを見捨てて出てゆけば、これからわれわれの作るすばらしい新世界 が利己的だという非難を浴びるいわれはない。その違いの影響を受で、大手を振って歩くことができなくなるだろう」 けるのは、われわれの子孫だ。二日前、われわれの目のまえへふい カールは思いあまったようすだった。「きみの主張には同感だ に出現し、ふいに消失した奇妙な小男は、未来の子孫がどんなものが、もし地球へひき返せば、れいの未来の関係という問題に、また になりうるかの、具体的な実証だといえるーーただし、われわれがそろぶつかってしまう。いまのところは、われわれの人数もごく限 られているから、たとえ発見されても、奇形だぐらいで見逃がされ 孤立を保って、新しい能力を開発した場合のだよ。つまり、新しい 超種族の福祉のほうが、あとに残した〈普通人〉たちのそれより重るだろう。しかし、数がどんどん増えはじめたら、どうなる ? 特 要だと、・ほくよ 冫いいたいんだ ! 」 殊なパワーを持っ集団は、とかく疑いの目で見られがちだ。どう考 えても、われわれの子孫を、殺すか殺されるかの世界に残したくは ひとしきり同意の呟きがロぐちに洩れる中で、彼は着席した。 ないな」 「ほかに ? 」カールはたずねた。 半ダースほどの手がいっせいに上がったが、ファーディーが指名「万一最悪の事態になれば、われわれのやったように、地球を離れ ればいいじゃないか」ファーディーは答えた。「とにかく、たまた を受けることに成功した。 。しナ「いまのま移住案が最初に考えついた解答だったから、それに全力で打ちこ 「ぜったいにひき返すべきだ ! 」ファーディーま、つこ。 発一言者が非難うんぬんと述べていたが、わたしも個人的偏見で非難んだだけの話さ。探してみれば、ほかにも解決の方法はあるかもし を受けるいわれはないと思う。なぜなら、わたし個人としては、むれない。すくなくとも、試してばみるべきだよ」彼は角ぶちメガネ しろあと数年、宇宙の奥をめぐって、なにが起こっているかを探りの青年をふりかえった。「どう思うね、ジム ? 」 たい気持だからだ。しかし、留守が長いほど、正常な社会への復帰相手は不承不承にうなずいた。「どうも不安だが、いちおうひき 適応はむずかしくなる。 返して、あんたのいうような試みをするべきかもしれないな」語気
国防相無から政府をでっちあげられますまい ね、まさか。 ウッド無からにはちがいないが、国防大臣、はじめから投げる ウッドわれわれの唯一のチャンスですそ、国防大臣。 ことはない。われわれはこの政府に、地球の自由なる部分の連邦の 国防相ウッド、何を言われるつもりか 支持と力を約東してやるのですよ。 ウッドわれわれは同盟者を見出さなくてはならない。 宇宙空間担当相警告致します。ペーテルセンは犯罪者ですぞ。 国防相金星ではむりだ。 このことは第一回宇宙空間担当閣僚会ウッドそれがどうだというのです ? われわれが地球で同盟関 ウッド金星でしかない。 係にある政府は、犯罪者から成っている。第二に、この惑星住民が 議で確認されたのです。 われわれと結んでロシアを征服した場合、彼ら全員に地球帰還を約 宇宙空間担当相反対します。わたしはいつも警告してきた ウッド諸君、ここでうろたえてはいけない。でないと破減に陥束する。 る。われわれはこれまで金星の事情を誤解していた。何を期待して国防相行きすぎではありませんかな ? ウッド大目的のためには行きすぎもやむを得ない。 よろしいかは知らなかったが、地球の場合と似たものを見出せると っこ、どこに住まわせるの 信じていた。しかしそれがそうではなかったのだ。この惑星の住民宇宙空間担当相それでもですな、いナし は自然界とのすさまじい戦いの渦中にある。彼らはこの戦いに勝ちです。わたしは警告を ウッド地球ならどんな気候でも楽園でしよう。 ぬき、よりみじめなものであろうともなんらかの形で生きぬくこと 以外の理想を持っことはできない。彼らにとって、われわれはどう 沈黙。 でもよい存在なのだ。しかし、われわれが彼らの生活を変えてやる 希望を呼びおこすその瞬間に、われわれは重要な存在となる。そし マンネルハイム閣下。 ウッドなにか ? てわれわれにはその能力があるのですぞ。 宇宙空間担当相大臣は楽天的ですな。 マンネルハイム金星住民が望まなかったらーーー ? ウッド相手は人間なのです。われわれと変わりはなく、われわウッド何をだね ? マンネルハイム帰還をーー れと同様誘惑に弱い。 ウッド ( いらいらと ) ばかな、マンネルハイム。地獄を離れる 国防相金をやるおつもりか ? のをいやがる人間がいるかね ? ウッドもう少しましなもの。権力をね。 マンネルハイムボンステッテンのことをお考えください。彼は 宇宙空間担当相何をもくろんでおられるのです ? ウッドスミスと。〈ーテルセンを全権代表と認め、それによっ残りました。ほかの派遣委員も。 ウッドきみ、心配せんでよろしい。わたしはポンステッテンを て、金星には政府がないのだから、彼らを政府に任命するのです。 8 8
☆コンテストについての詳細は、一七五ページの募集要項をごらんください。 ☆今月はほかに次の方々が入選しましたーー東京都根守克己様、同小石光様、大阪府中本一郎様 二〇〇一年夏。 「極めて興味ある事実が、この統計からお判り頂けると思います」 所はスペースマン・センター。正式には、国際連合宇宙開発機 構、宇宙空間作業要員訓練局という長ったらしい名前のオフィス で、若い事務官が主任に報告していた。 「訓練局発足以来の宇宙要員適性検査合格者を調べていて発見した のですが、この通り合格者のうちニホン国出身者が二十二・五パ セントを占めております。現在ニホンの人口は地球人口のわずか一・ 八パーセントにすぎませんから、これは異常に高い数値であります ご承知の通り適性検査の主要項目は次の三つであります。 C 異常環境耐久能力 即ち、酸素不足、異常高温、異常高湿度等に耐える能力 @耐加速度能力 つまり体の各方向から、強いショックや圧力を加えてどこまで耐 えられるか 閉所耐久能力 即ち、狭いところに閉じこめられて長時間耐えられる能力という ような点にありますが、これらの項目でニホン人は抜群の成績を示 しております。 おそらくニホン政府は、早くから宇宙要員を養成するための計画 的訓練を、大規模に実施していたものと思われます : : : 」 ( 作者の住所は杉並区荻窪一ノ四地主方 ) け 9
をという御要求に基づき、一言述べさせていただきます。着陸した ウッド : ロワ、きみは危険な人物だな。 : ( 不明 ) ・ とき金星から受けた印象には筆舌に尽くしがたいものがあり、地球 8 ロワ軍人であります。 で聞いていた話とはまったくちがっておりました。われわれは指定 ウッドなるほど。して、ここに乗船しておられるな。 された地点、すなわち惑星の北極付近、ニ = ートン島の海岸に降り ロワ大統領命令でありまして。 ウッド いくつかのーー・爆弾とともにな。ワルシャワと ( / イのたのであります。たしかに、学校で習った金星地表の特徴はそのと おりでした。巨大な植物群。火山のつらなる地平線 : : : 。しかし、 とき同様。 恐ろしいのはこれではなく、暑さと大気の湿気と絶えることのない ロワわかりかねますが。 ウッドわれわれから金星住民への提案に威厳をそえるため。 地震でありました。地震は大地を掘りかえし、様子を変え、ぶち壊 ロワお答えしかねます、閣下。 し、また創造するのです。日光は地球のとはまったく異なり、寄妙 ウッド答えずともよろしい、ロワ。金星住民は平和の船が来るな感じでありました。空には太陽がなく、重くたれこめた雲のねっ ものと思っている。われわれは武器を携えずに行くと約東したのとりしたスー。フが波をうち、すさまじい嵐が荒れくるい、ぎらぎら だ。大佐、きみを見て驚いたよ。しかしそれ以上この問題を考えると銀色に輝いているのであります。あたかも蒸気と豪雨の塊りの背 ことは、自由連邦の外務大臣たるわたしにはできない。外交官とし後で劫火が燃えさかっているようで、それがまた絶え間のない空中 放電のため、さらにものすごい印象をあたえるのであります。進入 て左手のなすことを右手が知っている、これ以上苦しいことはない。 声船室におもどりください。船室におもどりください。ベルトのさいから直径数キロメートルにおよぶ球電を目撃しましたが、そ をおつけください。ベルトをおつけください。ヴェガ号は金星大気れはトクサとシダの巨大な原生林中を荒れくるっておりました。わ れわれが船を出ると大地は揺れ、ふるえており、背後の想像を絶す 圏に突入します。ヴェガ号は金星大気圏に突入します。 ウッドロワ、この話は忘れよう。 る原生林は絶えず水滴をたらし、前面は灼熱の赤い砂を経て、やが ロワかしこまりました。閣下。 てはもやをぬけて荒海につづいておりました。ウッド閣下は演説の ウッドわたしにこのことを思い出させないでいただきたいもの草案を手に、角縁めがねをかけてあらわれましたが、・ほろ・ほろのシ ャッとズボン姿の男三人しか見あたりません。三人は海岸からそろ だ。わたしもそう努めるから。 そろ接近して来ました。彼らが会談の場所に案内してくれるものと 声船室におもどりください。船室におもどりください。ベルト はかり思っていたのですが、驚いたことにそれが全権代表自身だっ をおつけください。ベルトをおつけください たのです。 マンネルハイム大統領閣下、次の録音に移る前に、詳細な報告
海、燃える大陸、灼熱の砂漠、たけり狂う空。そのかわりにどんな 沈黙。 認識を得たのかね ? ポンステッテン人間とは尊いもので、その生命は恩恵であると ウッドそれで ? 、うこと。 ポンステッテンみたまえ、いまわたしは医者た。 ウッド冗談を。そんなことは地球でも昔から分っている。 ウッド麻酔なしで手術をしている。 ポンステッテンそうかね ? きみたち、この認識に従って暮ら ポンステッテンタバコはもう味がしない。 この湿度ではけむる しているのかね ? 。はかり。 沈黙。 沈黙。 ウッドで、きみらは ? ウッドのどが乾いた。 ボンステッテン金星はわれわれがこの認識に従って生きること ポンステッテン湯ざましがある。 を強要する。そこがちがうのた。ここで互いに助けあわなかった ウッドあの窓の光を見ろ。オレンジと黄がまじったような。そ ら、破減してしまう。 れにこの鼻につんとくる水蒸気、目まいがする。 ウッドそれだからきみはもどらなかったのだな。 ポンステッテンほかの空気はない。光だけは変わる。黄がかっ ポンステッテンそうだ。 たオレンジ、それに派手な銀、それから朱とね。 ウッドそれで地球を裏切った。 ウッド知っている。 ポンステッテン脱営したのだ。 ウッド楽園の地獄へか ボンステッテンわれわれはなんでも自分で作らなくてはならな ポンステッテン帰ることになったら、われわれはひとを殺さね 。工具、衣服、船、無電、巨獣を倒す武器。欠けているのはすべ ばならんだろう。きみたちの間では助けることと殺すこととは同じ てなのだ。経験、知識、始終変わる大地への信頼ーー・・、。薬はない 植物、果実は得体が知れず、その大半が有毒だ。水にしても慣れるだからな。われわれはもはや殺せないのだ。 冫をⅢカカカる 沈黙。 ウッドすごい味だ。 ウッド理性的になろうではないか。きみらだって危険にさらさ ポンステッテンそれでも飲める。 れているのだ。ロシアは、われわれに勝ったら、ここにも来るそ。 沈黙。 ポンステッテンこわくはない。 ウッドきみら、政治情勢を誤認している。 ウッド穏和な地球とくらべて何がいいのだ ? 湯気をたてる 5 9
ポンステッテンウッド、ようこそとは言い難いな。きみは悲し ウッドほかの連中にも知らせてくれたか ? 4 い使命を帯びている。 ポンステッテンほかの船に無電で、もどりたい者はいないかと 9 ウッドきみは 訊いてみた。 ポンステッテンポンステッテンだ。オクスフォードとハイデル ウッド答えは ? ベルクではいっしょだったね。 ボンステッテンみんな断わった。 ウッド変わったな。 沈黙。 ポンステッテンかなりね。 ウッドプラトンとカントを二人で読んだものだな。 ウッド疲れたよ、ポンステッテン、すわりたい。 ポンステッテンそうだ。 ポンステッテンたんばくが出て、熱があるだろう。ここでは最 ウッド気がつくべきだった。きみが背後で操っていることを。初みんなそうなのだ。 ポンステッテンわたしは操ってなぞいない。 沈黙。 ウッドきみはわれわれの派遣委員だった。どうやら金星を手に 収めたようだな。 ウッドきみたちのうち、帰りたい者はいないのか。 ポンステッテンばかな。わたしは医者になった。いま非番なの ポンステッテンそういうことだな。 だ。つまり全権代表さ。話をしよう。 ウッド理解できない。 ウッドロシアの派遣委員は ? ポンステッテンきみは地球から来た。だからなのさ。 ポンステッテンクジラを追っている。タ・ハコはないかね ? ウッドきみらだって地球生まれではないか ウッドマンネルハイム、一本さしあげてくれ。 ボンステッテンそんなことは忘れてしまった。 ポンステッテンこの十年すったことがない。どんなかおりがすウッドここでは暮らせないー ることか。 ポンステッテンわれわれは暮らしている。 マンネルハイム火をどうぞ。 ウッドものすごい生活にちがいない。 ポンステッテンありがとう。 ポンステッテン真正の生活だ。 ウッドと一 = ロうと ? ・ ウッド事情は知っているのだね ? ボンステッテンもちろん。イレーネが全部話してくれた。彼女ボンステッテンウ , ド、地球でならわたしはなんだろう ? 外 を国家主席に任命したのは大出来だな。われわれは彼女を閣下と呼交官だ。イレーネは ? 街娼だ。ほかは犯罪者であり、どこかの国 ぶことにした。 家機構から追われた理想主義者なのだ。