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検索対象: SFマガジン 1968年10月号
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1. SFマガジン 1968年10月号

本事件の被告であるロポット・機械人間株式会社は、事件の理学教授が、まず喚問され、グッドフ = ロウ 好物 ) の名を汚すよ うな表情で型通りの宣誓を行った。 審理を陪審員ぬきの秘密裁判にもっていくだけの力をもっていた。 またノース・イースタン大学も、それを阻止する運動を強力に推慣例の冒頭訊問の後、検事はポケットに手をつつこんでいった。 進しようとはしなかった。理事たちはロボットの非行に関する事件「教授、ロポット号の雇用問題が最初にあなたの関心をひい たのはいつでしたか ? その前後の状況を話してください」 : 、たとえ非行自体はきわめて稀れであるとはいえ、社会にいかな る影響を及・ほすかということを十二分に知悉していた。そしてまた グットフェロウ教授の骨ばった小さな顔は不安な表情をうかべた が、円満な顔つきでないのはほとんど前と同様だった。 かれらの脳裡にまざまざとうかぶのは、アンチ・ロポット暴動が突 かれはいった、「わたくしはロボットの研究所長であります 如としてアンチ・サイエンス暴動に変ずるやもしれぬという危惧で アルフレッド・ラニング博士とは、職業上の接触があります、また あった。 またハ ーロウ・シ = イン裁判長によって代表される政府も同様に親しい知己でもあります。それゆえ、かれからかなり奇妙な提案を 事件の隠密裡の処置を切望していた。ロボットも学界も敵にま受けましたときには、若干の寛容さをもって耳をかたむけたのであ ります。あれは昨年の三月三日 わすにはまずい相手であった。 「二〇一二三年の ? 」 シェイン裁判長がいった、「報道関係者も傍聴人も陪審員もいな いのであるからして形式的な手続きは最少限にとどめ、ただちに審「そうです」 「お話を中断して申しわけありません。その先をどうそ」 理の核心に入りたいと思います」 いいながら硬ば 0 た笑いをうかべた、恐らくこの要請教授はひややかにうなずき、事実を確実に思いだすために顔をし かれはそう がいれられるという見込みははなはだうすかったからであろう。そかめ、やおら語りはじめた。 こでかれはせめて居心地よくすわろうと法衣をかきよせた。顔はさ グットフェロウ教授は不安な気持でそのロポットを見つめた。そ えざえとした赤、顎はふつくらと丸く、鼻は雄大、とびはなれてつ いている目は明るい色である。大まかに見ても司法官の尊厳とはほれはロボット貨物の地球内輸送管理規定にしたがって、コンテナに いれられたまま地下の倉庫に運びこまれていた。 ど遠い顔であり判事もそれはわきまえていた。 ーナ・ ( ス・亶・グットフェロウ、ノース・イースタン大学の物かれはそれが到着することをあらかじめ知っていた。不意をつか 9 4

2. SFマガジン 1968年10月号

れが、社会的プレスティジも高い、有利な職業〃だというので、供することができると思います、 。 ( トカーは、ようやく一台、二台と、キャン。 ( スを去りつつあっ 教授や研究者への道をえらぶものも数多い。しかし、それは、学者 リネン局長と、ヤング教授の話が、一段落ついて、・ほく になる , ーー・学問の道をえらぶ、ということと同義ではない。″学問 ステイタス の道みとは、そういった世俗的な身分や、社会生活上に必要な″基たちもまたいったん、寄宿舎へひきあけようということになった。 その時、。ほくは、すこしはなれたところで、ほっんと立って、沈 礎的教養〃とは、まったく別のーーー特殊な、きわめて困難な道なの ◆こっこ。 こんな沈痛 痛な顔で夜空を見上けているナハティガルを見た。 そして・・・ーー・ぼくたちはまだ、その〃選択〃の手前にある、気楽なな顔の賢者を、ぼくは見たことがなかった。 ーリネン局長とヤング教 そういえば賢者は、ついさっきまで、サ 〃青二才みたちだった。 「わかりましたーーー」サ ーリネン局長は、ヤング教授の微笑に、微授が話しあっているすぐ傍にたち、ヤング教授の言葉に、一語一 笑をかえしながらいった。「学問の道をはなれ、政治のー・ー権力の語、ふかくうなづくような眼つきをしめしていたが、ヤング教授の 機構に足をふみこんだ男に、貴重なことを思い出させてくださって熱弁がすすむにつれ、次第に深刻な表情になって行き、ついには、 ありがとうございます。しかし、若い人たちは、まだ学者ではなどうにもならないほど沈痛な顔つきになって、考えこむように頭を たれ、その場をはなれて行ってしまった。 。教授のいわれたことを、原則的に諒承した上で、なおこの若い 「賢者 : : : ーぼくは、そっと声をかけた。「おっかれでしよう。何 人たちに、手つだっていただきたいーーー私自身の、非公式のサブ・ ブレインあるいはサブ・スタッフになっていただきたい。なぜならにもありませんけど、ぼくたちの寄宿舎のサロンにきませんか ? いずれ、学者たちによる、正式の調査組織は編成されるでしよお茶でもいれますけど : : : 」 うが、私はやはり、こういった、まだ地位的にも、学問的にも、ま「タッャ : : : 」ナ ( ティガルは夜空の星を見上げたまま、疲れたよ 彼らうな、沈んた声でつぶやいた。「ヤング教授の話を、どう思うね ? 」 だかたまっていない、若々しく、自由な知性の協力がほしい。 , 「そう なんだかちょっと、眼をひらかれたみたいですね。漠然 のみずみずしい知性と感受性がそれに奔放柔軟なイマジネーション 。学問というものはーー奇妙な というものが、今度の事件には、。せひ必要だという気がするのでとは、ぼくらも感じていたけど : す。かまわないでしようか ? ーー、彼らの、将来ある立場を、絶対にものですね。どうして人間は、あんな立場を見つけ出してしまった のかしら ? 」 傷つけない、ということは、私が職を賭して保証しますが : ャング教授の 「けっこうですーー」ャング教授は、眼鏡の奥の眼をしばたたいて「知性というのは、ああいうものだよ、タッャ。 いうのがただしいのだ。人類がほろびようがさかえようが、そんな いった。「そこまで守ってくださるならーーー彼らの学業には役にた もし、その価値や善悪をいい出すなら たんでしようが、彼らの人生にとっては、、、 し勉強になるかも知れことは一向にかまわない。 人類は、自分で自分に価値をあたえるしかないのだから、そん ろいろと判断の材料を提 ません。私も、学問的な立場からなら、い

3. SFマガジン 1968年10月号

生田はあわただしく、シャツのポケットをさぐり、六〇〇〇ドル 「原稿が失くなったというのか ? 」 の小切手をとりだした。小切手を私の胸もとにさしつけた指はこま 声がふるえた。これほど烈しい反応を予期していなかったので、 かく慄えていた。私はうしろへさがった。 私は驚いた。 「かねは受けとれないよ。しかし、主人のきみに退去を命じられた 「そうかも知れない。奥さんも知らなかった。昨夜はあれだけ客が 押しかけていたんだ。だれかが、いたずら気をおこして持ち去ったら、出て行くほかはないだろう。おとなしく立ち去るが : : : またも どってくるかもしれない . のかも知れない」 「ライト。ぼくはきみのためを思っているんだ・せ。ぼくのことは忘 「そんなはずはない れてくれ。オリヴィアのことも忘れるんだ」 生田の顔にじわじわ汗がにじみだしてきた。 彼は絶望的に叫んだ。力の抜けた指の間から小切手が床にひらひ 「原稿はともかく、ロボットまで行方不明というのはうなすけない な。しかし、きみがあの小説を書いたのなら、あらすじぐらい話せらと舞い落ちた。 ゴットマンという男を知っているか るだろう。私の読み残したページにどんなことが起きたのか、話し「オートマトンのハリー・ てくれー ね ? 」 「だめだーと生田は鋭くいった。顔から表情が失われ、仮面のよう この質問は強烈な一撃のように、生田をぐらっかせた。彼はぐっ に硬ばった。 と息を呑み、必死に自分を抑えて切りぬけようとした。成功したと ライト、すまないが、今すぐこの家を出はいえなかった。 「なにも話すことはない。 「知らんな : : : どんな男だ ? 」 て行ってくれー この家へ来たところを見かけ 「おかしいね。急に風向きが変ったじゃないか。なにが気になるん「ロポット造りの名人だ。おととい た」 だ ? 」 「なにも訊かないでくれ。ライト、きみはいい人間だ。・ほくはきみ「話をしたのか : : : ー声はおののくようだった。 が好きだ : : : きみの身になにか起きてもらいたくない。出てってく「顔を眺めあっただけだ。そんなことが気になるのかね ? 」 れ。たったいま、この家から立ち去ってくれ。たのむ : : : 」 彼はべッドをとびおりた。 私は残酷そうに笑った。われながら、いやな響きだった。 「きみの話を聞くまで出ていかないといったら : : : 」 「これで別れるが、さよならはいわないよ。また会おう」 「ぼくはこの家の主人だ。きみはここにとどまる権利はない。たの押しつぶされたような沈黙を後に、私は立ち去った。オリヴィア 5 んでいるんだぜ、ライト。約束したかねはきみのものだ。持ってつはすがたを見せなかった。私は自分の車を呼び、やってきた車にの 4 りこんで邸をはなれた。奇妙な非現実感にとらえられていた。振り てくれ」

4. SFマガジン 1968年10月号

あったはずです。とすれば二十七台目にも欠点がない理由はないでイージイがあんなことをしたのかわたしにはわかっています。命令 されたんです ! このことは弁護士さんには説明いたしましたか しよう ? 」 「はじめの二十六台はどこも悪くはなかった、ただああいう仕事をら、あなたにもここでご説明しましよう」 ートスンは驚いて訊ねた。 ( だれも やりこなすほど複雑なものではなかったということだ。かれらは電「命令された、だれに ? 」巳 ( 子頭脳をもったロポットとしては最初のもので、はじめはまあ行きわたしには何も教えてくれない ) とかれは腹立たしく思った。 ( 研 あたりばったりに作られた。しかし三原則はかれらをがっちりと縛究所のやつらは自分がロポットの所有者だと思いこんでいる、 っていた。どのロポットも三原則の抑制がきかないほど不完全ではあきれたものだ ! ) なかった」 「原告によって」とキャルビン博士がいった。 ートスンさ「いったい何でまた ? 」 「ラニング博士からそれはうかがっていますよ、ロ 「なぜだかまだわかりません。おそらくわれわれが訴えられてかれ ん、わたしはよろこんで博士の言葉を信じます。しかし判事はそう はいきません。ロポット工学のイロハも知らぬ、したがって迷いのがいくばくかの現金を入手するということかもしれません , がら彼女の目がきらりと青く光った。 道にさそいこまれるかもしれぬ誠実なる知識人の裁断をわれわれは 「ではなぜィージイがそういわないのだ ? 」 仰がねばならんのです。たとえばあなたかラニング博士かキャルビ ン博士が証人台に立って電子頭脳は行きあたりばったりに作ったな「それは明白ではありませんか ? 黙っていろと命令されたんです どといおうものなら、検事は反対訊問であなた方をずたずたに引きわ」 ートスンはかみつかんばかり 裂いてしまいますよ。この事件からわれわれを救いだしてくれるも「なぜそれが明白なのかね ? 」と のは何もなくなってしまう。だからこそそれはぜひとも避けねばな 「ええ、わたしにとっては明白ですわ。ロ、ポット心理学がわたしの らないのです」 ートスンはうめくようにいった。「イージイに喋らせればい職業ですから。ィージイはそれについて質問に直接答えないにして 尸題の核心に近 も、問題の外郭については質問に答えるでしよう。 いんだが」 弁護士は肩をすくめた。「ロポットは証人としては能がない、何づきながら、かれの返答の躊躇の度合を測定することによって、あ るいはカウンターポテンシャルによる放心状態と緊張状態の度合を の役にもたちませんよー 「少くとも多少の真実が明らかになるだろう。あれがなぜあんなこ測定することによって、かれのトラブルが第一条の拘束力をもっ た、黙否しろという命令の結果であることは科学的正確さをもって とをしたのかがわかるはずだ , そのときスーザン・キャルビンが憤然とした様子でくちばしをい立証することができます。つまりかれは、喋れば人間に危害がおよ れた。頬にかすかに血がのぼり声には心なし熱がこもった。「なぜぶといわれているのです。おそらく沈黙の = ン ( イマー教授、つま

5. SFマガジン 1968年10月号

だ。調べてくれてもいい」 殺用のボタンを兼ねているのだ。 時速二五〇キロは出していたにちがいない。掠めるように私の車「いまにもぶつ倒れそうじゃないか。どうしたんだ」 や、四日か、五日か を追い抜いていったとき、車の側面をもぎとっていったような気が「よく眠れないんだ。三日も眠っていない。い : はっきりわからない : ・ : 」舌がもつれて、はっきりわからない した。蛇行しながら、妙な具合に尻を振っていた。車に神経症の表 ロぶりだった。うそではなさそうだった。眼のまわりがどすぐろく 情があるなら、まさにその通りだった。 なっていた。 異変を察知して、私の車はス。ヒードを落しはじめた。コンビュ ターが、前方に発生する事故に備えて、充分な車間距離をとりはじ「ぼくはなにをやったんだろう ? 」 マニュアル 「公道上の無暴運転だ。私の車を追い越すとき、。ヘイントを剥いで めたのだ。私は読みさしの本を隣りのシートにほうり投げ、手動に いった。そんなにくたびれているのに、なぜ手動操作でやったん 切換えてコン。ヒ、ーターの心配を肩代りした。私の車は警察車並み の特殊装備がしこんである。サイレンと、電子装置を殺すしかけがだ ? 」 そうだ。私は加速して三〇〇キロ近くスビードメーターをはねあ「わからない : : : 頭がおかしくなっていたのかも知れない。迷惑を げ、一気に追いつくと短くサイレンを咆えさせた。これで停止しなかけたのならあやまる : : : 」 エレクトロ・キラー ければ、電子装置殺しを使用しなければならない。しかし、一声で「あやまるだけではすまないんだよ。起さんでもいい事故を起した 充分だった。相手は意外におとなしく停止命令に従った。私は前方かもしれないんだ。死人が出るかも知れん、あんたを警察に連れて に車を停め、外へ降り立った。そばへ寄って行くと、ガラス越しに行かなきゃならない。病院に入れて、監視をつける必要がありそう 月のような青白い顔がぼんやりと私を眺めた。痩せぎすの若い男だだ」私はきびしい口調でいった。 った。私が制服警官なら、さそいやな気分がしただろう。相手が上「まったくだ。一言もない。たしかに精神病院にぶちこまれても文 院議員の息子かも知れないからだ。えたいの知れない政治的圧力と句はいえない。ぼくが悪かった : : : 」 年収一千万ドルの高名弁護士を敵にまわす自信がないからだ。たと誠意がこもっていた。性質のよさそうな男だった。 「あんたの名前は ? 」 えその勇気があろうとも生命が短かすぎる。 しかし、私は平気だった。ガラスを叩いて窓を開けるように合図「生田トオル。職業は作家 : : : 立体テレビのじゃない。自称作家に した。若い男は、すなおに窓を開けた。 近い : : : 本は数冊出したがさつばり売れなかった」 「飲んでるのかね ? それともラリってるのかね ? 」と、私は直截「この時勢ではむりもないね。この車はあんたのものかね ? 」 、 / しュノ 「妻の車なんだ。ぼくに買えるような車じゃない。ぼくの金ではマ 「すまない : ット一枚買えない」 若い男はぼんやりした口調でいった。 うそじゃないん「手動で動かすのは、もうよすんだな。気をつけて帰りたまえ。睡 「酒はんでない、それにヤクも使っていない。 マニュアル 3 2

6. SFマガジン 1968年10月号

リトンがびひしナ 頃を亡尢佐はぎいた」目が怪しく光カテーをぎつくしめ 「よけいな口だしをするな、スペンサー ! 」大佐はどなった。 たくびすじが赤くなった。 シア人は生物学的予知能力の方法を発明したのだ。おしまいだよ、 「すこし弱くなったようですが、落ちたということはありませんー スペンサー ! 」 胸を張って。ヒーターは大佐の言葉じりをとがめた。 「だがその器械には〃ザイル 2 〃とあったのだろう ? それからそ デスクの下のボタンをさぐって、大佐は声をきった。 の男は、前もってしまっておいた写真をポケットから出したのだろ「さあ : ・ : ・」大佐は弦を張ったようにまっすぐあがると、右手を壁 う ? 」 のほうにつきだした。「お前はそこから出ていけ ! 」 大佐はいすから腰をうかせた。えりくびはもうまっかになり、顔壁は音もなく二つに割れた。ふらふらする足どりでビーターはそ ヒーターはそのえりくびをみて、度を失っこにはいったーー荷物のエレヴェーターのがらんとしたオリであっ は憤怒の形相に変った。。 た。いまにも大佐がげんこつをふりあげて、とびかかってくるのでた。壁は閉った。。ヒ】ターは下にはこびおろされた。出口はアヴェ ーか、それともストリートか。白いくるま、タイヤのきしりの をないかとおもった。目からウロコが落ちたように、かれはついに この。ヒーター 理解したのた ・ブレイゲンになにが起ったかを。するところ、いそがしい人間もかるく息することができるところ : 「お前はザイラの中和装置にかけられたんだ、うかつ者め ! 」。ヒー 「スペンサー」デスクの下の、ボタンを押して、大佐はいった。「黒 ターをするどい目で射すくめながら、大佐はよくひびくささやき声 できめつけた。「予知能力はお前にはもうけっしてもどってこな人、、 ( ストのウィリアム・ヨリッシ = をさがしてくれ。やつは大草 ・ブレイゲン。もっとも、原、あるいはジャングルにいるはずだ。要するに、アフリカなんだ 忘れたほうがいいだろう、。ヒーター もどらないほうがいいかも知れぬ。もうすこし頭がよければ、お前よ , 大佐はカラーをはずして、いすに沈んだ。 はもっとはやくここへ来ただろう。そうすればお前の好きなだけ、 もらえたのだ。一〇億、二〇億、いや、もっとか ? それをお前は 「フロナ」アレクサンドル・ウオイノフはいった。「きみの予知能 取引所できたない投機をやり、あの国の個人企業の組織を乱した。 それでなくても、あそこでは、この組織はいまにも息を引きとりそ力はますますきみを苦しめるとおもうんだが、でも、いつまでもあ った方がいいような気もするね。それがなかったら、こうして会う うな状態なのに。お前はまたすばらしい能力を天から授かった人た ちを殺した。それはお前なんかよりずっと頭が働き、当方に真の利ことができなかったんだ。まったく、そのおかげで、いまもこうし 益をもたらすかもしれない連中だった。お前は殺人犯だ、ビタ ・ブレイゲン ! 」 「わたしにとっては、頭を使う仕事なんて、考えられもしないわ」 「大佐、もうすこしおしずかに」デスクの下からだれかの明るい フロナは答えた。「いままでわたしは美人になって、大勢の人のな 「ロ

7. SFマガジン 1968年10月号

「ちがう : : ぼくにそんな趣味はな、。 いんだ。ほかに要求はしない。 一日について二〇〇ドル提供しょ 若いハンサムな黒人に下心 を持っ同性愛者は多いかも知れないが : : : きみの想像はまちがってう。 拘東料だ。いやになるまでいてくれ , るよ、ライト。若い男を拾ってきて、美人の妻をあてがい機嫌をと私はカプセルを数え、生田に口をあけさせて舌の上に載せた。 り結ぶ、大金持の変態性欲者 : : : 赤雑誌にはむいてるが、・ほくの趣「飲みたまえ、二〇時間はたつぶり寝られる」 味じゃな、。 何日も眠れなくて、身体が弱っているのはほんとう 生田はカプセルをぐっと呑みこんだ。のど・ほとけが大きく上下し こ。 だ。きみはぼくに親切にしてくれた。なにも最後だいなしにするこ とはないだろう」 「きみは失業中だといったじゃないか。かねに不足があるんなら : 「私はどんな想像もしてない。眠れないのなら、睡眠薬を呑んだら どうだ」 「その話はあとだ、あんたの頭が正常にもどってからだ」 「では、・ 「いまだって正常さ。・ほくが眼をさましたとき、きさがまだいた ほくの妻に対する態度が気に食わなかったんだ。オリヴィ アは上品な女だからね。だが、 オリヴィアは気にしてない。きみもら、さっそく小切手を書こう。かねに糸目はつけないよ : はや 気にしないでくれ。昨今では偽善は流行らないんだぜ。ゲ口をぶち生田はグロテクスなウインクのように開けていた片目を閉じた、 まけて、スカッとするんだ。カン。ハ ーランドの金メッキ主義は、前もうロはきかなかった。いきなり眠ってしまったのだ。私は薬瓶を 世紀の恐竜みたいにコッケイだよ。純金の器に受けても糞はかぐわ手に持ったまま、彼の寝顔を眺めていた。呼吸は正常だった。こん しく臭いたてる。オリヴィア・カンバ ーランドが、おとぎ話の王女なに早く睡眠薬が効くはずはない。暗示にかかったのだ。私は物音 を立てないように寝室を出た。 のようにみえても、うわべにごまかされちゃいけない : 「たしかに、あんたは作家だ。美人の中に醜悪なものを見つけなけあやうく私はオリヴィアに身体をぶつけるところだった。彼女ま れば気がおさまらない。成果よりも不純な動機に関心を持つ。くす寝室のドアの前の廊下にたたずんでいたのだ。美しい顔には、とく りはどこにある。たまには貪欲な作家精神を休ませるんだね。くすに際立った表情はなかった。 りは浴室か ? 」 「話があります、奥さん , 私は小声でいった。「ご主人に、話相手 になってくれと頼まれました。この家に逗留してくれというので 私が豪華な浴室から、睡眠薬の瓶をとって戻ってくると、生田はす。しかし、ご主人とはさっき逢ったばかりなのです。私について しかし、作家の 片っぽうの眼だけ開けていた。 なにも知らないんです。常識では考えられないが、 「きみが気に入ったよ、ライト。きみのものの考えかたをもっとよようなアーティストにとっては、当りまえのことかも知れない。仕 く知りたいんだ。きみは刺激剤になる。、、 しし作品が書けるかも知れ事の役に立つのかも知れない。報酬は一日に二〇〇ドルといわれま ない。しばらくこの家に逗留しないか。話し相手になってもらいたした。私にとっては、突拍子もない申し出です。奥さんの意見を聞 8 2

8. SFマガジン 1968年10月号

ぼくの比類なき潜在意識が創造した人物は数多いのでねー 職業意識は、私の自我のしんまで食い荒らしていた。 「気がかわったのなら、そういってくれ、すぐに消えてやるよ」 建物の前部に面した側の窓を開けて、外の景色を眺めようとして「そのままでいたまえ。気は変っていないよ。きみがいてくれると しいと思ってたんだ。・ほくの提案を本気で受け取ってないような印 いるとき、車が一台やってくるのが見えた。私は首をつきだして、 入口に停まった車を見おろした。・ へつに仔細はない。ただの好奇心象を受けたんでね : : : 約束の小切手を持ってきた。金額に不満があ だった。痩せた背の高い、明らかに老齢の男と、小柄な白服を着たったらいってくれ」 男が車を降りて扉に向った。オリヴィアが扉を開けたらしい。彼ら生田は、椅子にすわった私の膝に小切手を落した。私は首をまげ はしばらく話しあっていたが、あいにく上から見おろす角度が悪くて数字を読んだが、手は出さなかった。 て、唇の動きを読むことができなかった。白髮の男は突然頭をあげ「とりあえず、一カ月分を前払いで : : : どうした、気に入らないの て、鋭い視線を二階の私に送ってきた。私が見ているのに感づいた か ? 」 のではなく、オリヴィアに教えられたからだろう。視線がまともに 「六〇〇〇ドルとは大金だ。しかし、これは受け取れない。私はこ ぶつかりあっていたのは、一秒間に充たなかったが、私は老人の顔れを持って今にも消えちまうかも知れないんだぜ」 に定着している不断の警戒心をはっきり読むことができた。背の高 「ばかなことを : : : 電話一本で無効にできるんだー生田は歯を見せ い老人は、オリヴィアとの話を打ち切り、私の視線を意識しすぎたて苦笑した。 ぎごちなさで車に戻った。白服の男を残したまま、車がいきなり走「きみはそんなことをする人間には見えない。小切手はとっておい り去った。私はますます興味を惹かれた。背の高い老人の見せた表てくれ。出て行きたくなったら、いつでもいってくれればいいんだ」 情は、私にとって親しいものだったからだ。道で拾った財布をねこ 「ともかく、これは受けとれない。早くひっこめてくれ、喉から手 ばばした人間の顔だった。私はもちろん、その理由を考えようとしが出てひっ掠わないうちに : ていた。どんなことも見落さない訓練のおかげだった。 、というんなら : 「なぜだ。現金のほうがいし 「ちがう。ただかねでしばられる気分がいやなんだ。大金持のあん 生田が、私にあてがわれた二階の部屋に入ってきたのは、翌日のたにはわからんだろうが、六ドルのはしたがねで見も知らぬ他人の 昼すぎだった。うす笑いを漏らして私を見つめた。暗うつな表情は喉を切る人間もいるんだぜ。あんたは一億ドルも持っている。こっ 依然としてとどまっていたが、昨日より憔悴した感じはうすらいでちはなにをさせられるかわかったもんじゃない」 いた。生ける骸骨のようには見えなかった。一昼夜の眠りが効いた生田は唇を噛んで、私を見つめていた。しばらくして、ゆっくり のだ。 うなずいた。 「きみの気持もわからんでもない。好きなようにしてくれ。小切手 「まるで夢のようだ。きみが実在する人物だとは思わなかったね。 キャッシュ 0 3

9. SFマガジン 1968年10月号

飛躍的断定をすることを許してくださるの結果も、その推理を支持するようです。とにかく、ヘンウィック し、今の段階で、こういう 青年の体内には、筋肉や、内臓の一部を変化させた、デンキウナギ ならばーーー実際にいたのです。それも彼のすぐ傍に : やシビレエイのような、かなり大容量の蓄電器官があったようで 「新人類の出現の可能性と、その考え得るパターンの考究などとい おそらく彼は、筋肉の運動につれて う学問の〃遊び〃は : : : 」ャング教授が、愛弟子に対する哀悼の意す。それも相当発達した・ : をこめたような沈痛な声でいった。「要するに、彼や、彼らのよう発生する電気も蓄電できたでしようし、また、電線などにさわっ な、若い学生たちの〃頭の体操〃の一種であり、〃思考の遊び〃だて、充電することも可能だったでしよう。それ阜ーー絶縁性の高い ゴム靴をはいて、化繊の衣服を着ていれば、その摩擦たけで、相当 しかし、彼がその抽象的可能性に と一般に思われていました。 ついて考えついた時、実はそれが、遠い未来において、実現される量の電気を発生蓄電することができたでしようね」 それで、クーヤはいつも、あ かも知れない、といった呑気な話ではなくて、すでにわれわれのすそれでーーと、ぼくは思った。 人間の推理力や想像力の方ついゴム底の靴をはいて、音もなく、猫のように歩いていたのかー ぐ傍に、出現していたのですね。 それでーーー彼の最後もよくわかるような気がした。あるいは、 が、事実におくれていたわけです」 覚悟の自殺だったのかも知れない。彼の死んだ今となっては、たし 「ですが、そう断定することは、まだ尚早ではないでしようか ? 」 かめようもないのだが、最後に警官を、電撃によってはねとばして 生物学のドライエル博士が、半信半疑といった表情でつぶやいた。 「彼ーーーヘンウィック青年が、実際に〃電波をあやつることのでしまったあと、すっかり放電して、からっぽになってしまった体内 きる、新種の人類である、ということが、直接的に証明されたわけ蓄電器に、充電しようとして、あやまって高圧側にふれた、という ではないでしよう ? ドラリュくんも、せつかくの〃検出器〃で、 ことも、充分考えられることである。そして ぼくは、突然妙なことを思い出してしまって、なんとなく、襟も 彼の出している電波を検出したわけじゃなし : : : 」 ゅうべ、フウ・リャンが、酔っぱらってし 「いや , ーー・それは、検出されたんですーとデイミトロフが口をはさとがそそけ立った。 んだ。「ぼくとアドルフは、あのさわぎがあった時、現場へ検出器やべったが、彼女がクーヤに惚れて、くどいた時、クーヤはいった 〃ぼくに惚れると危険だよみと : をもち出したんです。ーーー指向性アンテナで、彼の出している電波らしい。 は、はっきりキャッチでき、記録もしました。数キロサイクルかんな〃人間発電器″を相手に、セックスなどした日にはーー・そりや ら、数メガサイクルまで、非常に幅のひろい変調が、彼には可能だ 〃しびれる〃かも知れないが、へたをすると一命をとりおとす。 ったようです。それにーーーあの ()5 〃ロポットに〃指令〃を出そのことを、となりのフウ・リャンにそっと耳うちすると、彼女 したものと思われる部分も、記録されています」 は、最初は赤くなって、ぼくの腿をつねったが、次の瞬間、気がっ いたと見えて、まっさおになった。 「それから ・とフランケル所長は、アイドホールスクリーンを 指さした。 T 今ここに、中間報告が送られつつありますがーー・解剖「それから・・ーー」とフランケル教授は、アイドホールで次々にうつ こ 8 2

10. SFマガジン 1968年10月号

るエロ映画に刺激された連中が、あたりはばからぬからみあいを演 暗闇でひとり泣くばかり : 泣き声、快感のうめき声。禁制の幻覚剤か麻薬 ずるかも知れない。、 「もう、 しい」私はいった。「やめろ」 を持ちこむ連中もいるだろう。すると、ラリった男女が涙やよだれ アンドロイドはびたりと歌いやめた。おしひしがれた絶望の叫びをたれ流したり、失禁したりする。階段から転げ落ちたり、二階の が、中空にひっかかっていた。 窓から飛びおりたりしないともかぎらない。邸中の床や絨毯の上に 「おまえを昨日ここへ連れてきたのは、だれだ。背の高いとしより体液がこびりつき、ゲロの醜悪な花が咲くのだ。正気の人間にとっ て、これほど不愉快な眺めはない。そして、私が正気を失うことは ゴットマンですだ。工場の技師長さまですだよ . 一瞬たりともないのだった。 「オートマンのか ? 私は窓を閉めきって、騒音を追いはらった。階下には降りて行か よ、つこ。 「へえ。さようでございますだ。旦那さま、ご用がなければさがっ ドアにノックがし、オリヴィアがうすいブルーでドレスアップし てもよろしゅうございますだか。パ たエレガントなすがたを見せた。部屋が眩しいほどの光輝に充たさ 「行っていい。 このワゴンを持ってってくれ。おれは食わない アンドロイド・ニグロは再びティーワゴンを押して出ていった。 れたようだった。 私はいまだに信じられぬ思いだった。ロポットの合成音声が魂を持「なぜ降りていらっしやらないの、ライトさん ? 主人が待ってい ますわ。あなたをお友だちに紹介するのですって : : : 」 しかし、現にオートマンの技師のだれかが てるはずがない。 私は椅子から立ちあがった。 ゴットマンという人物に その奇跡をなしとけたのだ。私はハリー・ ーティはきらいなんです、奥さん。騒々しいのはきらいだし、 俄然会いたくなってきた。 酒は呑めないし、人見知りするたちなんです。ご主人に私は失礼す 夕刻を過ぎるころから、車がそくそく集まってきた。さまざまなるといってくださいませんか , タイプの、色とりどりの車が門の中にびっしり並んだ。部屋の窓を「気のおけない人たちばかりの。 ( ーティなんですのよ。みんな、主 あけていると、邸の中の騒音が昻まっていくのがわかった。楽器を人の芸術家部落時分の知りあいなのです。おわかりでしょ ? ご近 抱えた連中が小型。ハスで到着すると、一時に喧騒に弾みがついた。所の方たちはお招きしていませんのよー お定まりのらんちき。 ( ーティがはじまるのだ。きちがいじみた音「奥さんはご存知なのですか ? 芸術家部落の連中のパーティを : ・ 楽、酒に勢いをつけられて大声で交わされる会話、笑い声、議論、 オリヴィアはうなずいた。「知っていますわ。あたくし、そうい 猫撫で声のお世辞。罵声がとんで撼みあいがはじまるかも知れな うパーティで主人と知りあったんです」 。原因は必ずこの世でもっともくだらないことなのだ。上映され ーティの仕度がございますんで」 ソウル 3 3