閣下 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年10月号
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1. SFマガジン 1968年10月号

ウッドいっ着陸かね、マンネルハイム ? マンネルハイム六時間後であります、閣下。 ウッドあと六時間できみの任務が始まるわけだな。 マンネルハイムわたくしの任務とおっしゃいますと ? ウッド大統領はね、わたしを監視するようきみに命じたのだ。 あの委員たちのようにわたしも金星に残りはしないかと心配したの 」よ 0 マンネルハイム閣下、なんのことでしようか ウッドきみは秘密情報部員だ。 マンネルハイム閣下 ! ウッドきみのポケットには小型録音機がはいっている。 マンネルハイムいえ、そんな ウッドわたしにはわかっている。秘密情報部員として、きみは どんなことがあっても所属を明かしてはいかんのだ。ま、この話は よそう。われわれは二人とも事の重大さは心得ているのだから。 ないのだ。 マンネルハイム次の会話の相手はロワ大佐。着陸直前に観測室 マンネルハイム金星での事件にはいる前に、サ 1 ・ホレース・ で行なわれたものです。疑惑を招きたくなかったので、録音は困難 ウッド閣下の会話二件を再生いたします。はじめのは金星を目前にでした。空電もいくらかはいっております。 したときのものであります。金星は月ほどの大きさでありながら、 その輝きははるかに強く、宇宙空間に浮かんでおりました。白く、 まがまがしく。 ウッドロワ大佐、ひとっ訊きたいことがある。 ロワは ? ・ ウッド三年前、貴官はワルシャワを宇宙船デネブ号で攻撃され たな ? ロワは。 ウッド、 ノノイは宇宙船アルタイル号でだったな ? ロワそのとおりであります。 ウッドそれで思い出したのだが : : : ( あとは不明 ) ロワ ( 返答は不明 ) ウッドあの二隻とも旅客船に見せかけていたと思ったが。 ロワ計略であります。閣下。 ウッドこの船は、ヴェガという名だ。天文のことはよく知らぬ が、アルタイル、デネブ、ヴェガ、みんな夏に見える星ではないか ね ? ロワさようであります。 ウッド名はちがうが同じ船ではないのかね ? けい ロワご炯眼です。 ウッドいや、商売だ : ・ : ( 以下不明 ) ロワ ( 答え不明 ) 3 8

2. SFマガジン 1968年10月号

沈黙。 ウッドきみたちは貧困に暮らし、死に直面している。難攻不落ロワ閣下 ? の要塞にいるようなものだ。 ウッド交渉はむだだったよ、ロワ大佐。 ポンステッテンさ、行きたまえ。 ロワではミサイルを、閣下 ? ウッドボンステッテン、きみはえらい。きみは正しい。わたし 沈黙。 はまちがっている。認めるよ。 ロワ閣下に決定していただかねば。 ポンステッテンどうもごていねいに。 ウッドきみたちの貧困と危険な生活の話、感動した。 沈黙。 ポンステッテンそれはありがとう。 ロワ大統領命令ですそ。 ウッド自由連邦の外相でなかったら、わたしもきみといっしょ 沈黙。 に残るのだが。 ポンステッテンけっこうなことだ。 ウッド大統領が命じたのなら、ロワ大佐、ミサイルを発射した ウッドしかし、もちろん、かんたんに地球を見捨てるわけにはまえ。できる限り金星全域に分散させて。 ロワ発射準備。 ポンステッテンそれはたしかた。 声発射準備。 ウッドこの点についてわたしが自由でないのは悲しいことだ。 ウッドわたしの部屋に連れていってくれ、マンネルハイム。 ポンステッテン悲しがることはないさ。 足音。 ウッドミサイルは発射しな、。 ポンステッテンもうその話はよそう。 マンネルハイム閣下、ベルトをお締めします。 ウッド約東する。 ウッドどうぞ。 ポンステッテン達者で。 マンネルハイムこれでよろしいですか、閣下 ? ウッドがんがらじめだな。 ママネルハイム赤ランプです、閣下。二十秒で離陸します。 沈黙。 マンネルハイム第十一の録音です。宇宙船ヴ = ガ号は地球にむ けて離陸します。 8 9

3. SFマガジン 1968年10月号

号のお客さまはご乗船ください。 足音。 ウッド美しい朝だ。 マンネルハイム赤ランプです、閣下。二十秒で離陸します。 ウッド残念だな。釣りに行きたかったのに。 マンネルハイムあと十秒。 船長閣下。 ウッド太陽もの・ほるな。 ウッド船長かね ? マンネルハイム発進です。 ーです。船室へ御案内いたしましようか ? 船長は、リ ウッド船長、わたしのような人間にたいしてそれでは親切すぎ かすかな機械音。 るよ。外務大臣にはもっとぶつきら・ほうにふるまうものだ。 ウッドほほう、もう首府が見える。海も。マンネルハイム、地 船長ここでございます、閣下。 球が落ちてゆくな。 ウッド奇妙な部屋だな。 マンネルハイム加速圧はだいじようぶでしようか ? 船長マンネルハイム博士がお世話にあたりますが。 ウッドだいじようぶだ。 ウッド亠のりがと ) つ。 マンネルハイム強くなりますよ。 マンネルハイム閣下、ベルトをお締めします。 ウッドおかしなものだね、初めてだと。 ウッドどうぞ。 マンネルハイムしずかに呼吸を。 マンネルハイムこれでよろしいですか、閣下 ? ウッドやってみよう。 ウッドがんがらじめだな。 マンネルハイムコラミン錠をさしあけましよう。それから酸素マンネルハイムヴ = ガ号は時速三万六千キロメートルにまで加 速しなくてはならんのです。 とヘリウムを部屋に入れます。 ウッド感心せんな。車では七十以上出させたことがない。 ウッド良いように。 沈黙、機械音のみ。 気体のもれるかすかな音。 ウッドマンネルハイム ? マンネルハイム発進をごらんになりますか ? マンネルハイムは ? ウッド見たいね。 ウッドきみ、大統領の侍医だったね ? マンネルハイムあれが空港です。 マンネルハイム旅行時だけです。火星に大統領とごいっしよし ウッドフム、人影がないな。 ます。 マンネルハイム待避所にかくれているのです。 9

4. SFマガジン 1968年10月号

ウヅドわたしは ? ロワ盟下 マンネルハイムたんばくが出ています。 ウッド ( ゆっくりと ) 用件は ? ロワ大佐。 ウッドいつものことだ。 ロワ閣下はご存知のはすです。 ウッド ( ためらいながら ) あのときの話を思い出させに、たな マンネルハイム血沈も思わしくありません。 ロワは、閣下。 ウッドかまわん。 ウッドどのくらい マンネルハイム熱もございますな。 ウッドなやまされたためだよ、マンネルハイム ロワ十発であります。 マンネルハイム国防大臣がお見えです、閣下。 沈黙。 ウッド大臣、わたしのべッドに腰をかけてください。 国防相ありがとう、けっこうです。はじめ、われわれは殺人者ウッド自由連邦大統領の命令で ? に共産主義者と交渉した。つぎは街娼で、それを国家主席に任命し ロワ大統領命令で。 た。このつぎは誰が出てきても驚きませんな。煙突掃除夫かもしれ 沈黙。 ん。変態殺人者かもしれん。われわれ、もっと別の相手をさがすべ きではなかろうか。 国防相不愉快であることは知っている。あなたはいつも理想を ウッド海を航行中の船はわすかしかいない。われわれには発見かかげて行動してきたからね、ウッド。しかし、面倒なことを言わ できないのです。 ずに、最後通牒を次官に持たせて連中のところへ派遣したまえ。 国防相無電を使って。 沈黙。 ウッド応答なしですよ。 ウッドわたしが行くよ。マンネルハイムだけ連れて。 国防相しやくにさわるのは、連中がこっちになんの関心も示さ ないことだ。好奇心ぐらい見せてもよさそうなものだが。 マンネルハイムロワ大佐がご面会です。 沈黙。 ウッドどうそ。 沈黙。 マンネルハイム第十の録音。閣下とわたしが、あの街娼のおし でつんぼの亭主に案内されて、病院船の食堂にはいると、濡れた部 屋のくらがりに六十歳あまりのやせた男が待っておりました。 ーーーミサイルをー・・・ー積んでいるのかね ? 3 9

5. SFマガジン 1968年10月号

わかれか。ほかの諸君はもう乗ったね。 マンネルハイム閣下、帽子とサングラスをおつけください マンネルハイムヨーロッパ・アメリカ自由連邦大統領閣下、会ウッドわかった。 談にもどる前に、本官が閣下の御要請でヴ = ガ号作戦中に採録し、 マンネルハイムスパイにかぎつけられるかも知れません。 サー・ホレース・ウッド閣下にも、また彼の担当する討議にも関係ウッドその危険は絶えないな。 ある録音を再生させていただきます。現在という暗き時代にあって マンネルハイムサー・ホレース・ウッド、宇宙飛行は初めてで いらっしゃいますか ? ・ も変わらぬ忠誠と尊敬をこめて。秘密情報部員、医学博士マンネル ウッドそう。意外かね ? このごろはどんな子供でも月に遊山 まず出発時の録音を。 に行く。火星にも旅行する。われわれの夢は実現したのだ。しかし ね、わたしは地球を愛すること多すぎ、夢を愛すること少なすぎる 地球を離れてはまあまあという気候もないそうだが。 声宇宙船ヴェガ号のお客さまはお乗りねがいます。 マンネルハイムそのとおりです。閣下。 ウッドさて、われわれの番だな、マンネル ( イム。地球ともお声宇宙船ヴ = ガ号のお客さま、お乗りください。宇宙船ヴ = ガ 登場人物 マンネルハイム サー・ホレース・ウッド 丿ー船長 カミル・ロワ大佐 国防相 宇宙空間担当相 次官 ジョン・スミス べーテルセン イレーネ ポンステッテン 声 0 この風変りな S F ラジオドラマの作者フ ) ードリッヒ・アユレンマットについて は , ミステリ読者のほうがよくご存じかも しれない。ここ数年間に , 彼のミステリ 『約束』『嫌疑』などの問題作が我が国で も翻訳出版され , かなりの評判をとったか らである。とはいってもデュレンマットは ミステリ作家でもない。彼は「ドイツ語で 書く現存の劇作家中もっとも強力な才能の 持ち主」といわれるスイスの劇作家であ 1921 年生れで第二次大戦末期の 1943 ー 4 年頃から戯曲や小説を書ぎはじめたが , 1 7 年今でも代表作とされる戯曲「そは録 されたり」が大当りをとって以来ョーロッ パー流の作家として活躍中である。彼はつ ねに政治と人間の問題を描きつづけるが , その中で , 原水爆の恐怖とか未来の宇宙戦 争といった SF 的発想もしばしば使い , そ れがその主テーマへのアプローチに効果的 に作用している場合も多い。 SF がほかの 現代文学の領域からとり入れるべきものは 多いが , この作家などからは特に学ぶべき ところがあるはずである。彼の作風はよく ポッシュやプリーゲルの絵画にたとえら れるが , その暗い幻想的な雰囲気は確かに よく似たものを持っているようだ。 ( 福島正実 ) 政治と人間を描く作家 8 7

6. SFマガジン 1968年10月号

ウッドれで彼は、わたしを金星に送っていくよう、きみに命ウッド去年ハノイの奇襲攻撃を画策された御仁だな ? ロワは、閣下。 じたわけだな ? ウッドで、三年前にはワルシャワで同じことを ? マンネルハイム光栄です、閣下。 ウッドフム。 ロワすぐれた記憶力をお待ちです。 ウッド商売だからね、ロワ、ただの。おや、国防相だ。 マンネルハイム黄色のラン。フ。最大加速圧です。 国防相やあ、ウッド。あっという間に宇宙空間。すごいもの ウッド言われんでもわかる。 マンネルハイムグリーンのラン。フです。必要速度に達しましだ。二十年前初めて体験したときには夢中になったものだ。いや、 宇宙旅行も楽になったね。このあいだ会ったじいさんだが、その曽 た。地球重力圏を脱出したわけです。 祖父というのがパイオニア時代の闘士でね、そのころの連中は天使 ウッドやれやれ。 よろしく口ケット内部に浮かんでいたし、発進のときはかゆみたい 機械音やむ。 にペチャンコになったものだ。自家発生重力もなければ加速防御装 置もない。原始人みたいなものだった。おお、まだ地球が見える マンネルハイム地表上八千キロメ】トル。 そ。すごい。宙に浮かぶ球。地理の時間の地球儀そっくりだ。濃い ウッド高いものだね。 スミレ色の空には太陽と数百万の星くず。ウッド、 絶景じゃない マンネルハイムペルトをお外ししましようか ? か。外務省の諸君も、広い視野を持っということの意味がわかると ウッドそのほうが楽だ。きれいだね、地球は。 いうものだな。 マンネルハイムそうですね。 ウッド反りをうった楯だ。惜しいことにうそっきだが。 マンネルハイムとおっしゃいますと ? ウッド住人がかならずしも真実を語らない。 マンネルハイム観測室にお出かけになりますか。 ウッド御案内ねがうか 足音。 マンネルハイムロワ大佐をご紹介いたします。 ウッドカミル・ロワ大佐か ? ・ ロワは、閣下。 マンネルハイムその三日後、ヴェガ号船内で行なわれた会議の 模様を再生します。大臣と次官の全員が出席、サー・ホレース・ウ ッド閣下が議長をつとめました。 ウッド諸君、まず概況の説明を、われわれの希望と義務をこの 際明確にしておこう。 一九四五年以来、大規模な戦争はなくなっ た。それから三百十年になる。もちろん局地的な紛争はつづいた。 0 8

7. SFマガジン 1968年10月号

マンネルハイムあと十秒。 ウッドだめだったか。 マンネルハイム出発 ! かすかな機械音。 ウッドマンネルハイム。 マンネルハイムは ? ウッドロシア人が来て、彼らと話をつけるかも知れないな。 マンネルハイムそのとおりです。 ウッドちょっと考えられないが、あり得ないことではない。 マンネルハイム遺憾ながら。 ロワミサイル準備よろしいか ? 声準備完了。 ウッドどんなに小さな可能性でも、それがある限り、爆弾を投 じなくては。 ロワ発射孔ひらけ ! 声ひらきました。 ウッド万全を期さなくては。 マンネルハイムそうですとも、閣下。 ロワ発射 ! 声発射しました。 ウッド高度は ? マンネルハイム百キロメートルです。 ロワ最大速度に , 声最大速度。 ウッド宇宙空間担当大臣は ? マンネルハイム正気にもどりました。 ウッド国務大臣は ? マンネルハイム完全に復調です。 ウッドわたしも気分が良くなった。 マンネルハイム明日、閣僚会議があります。 ウッド政治は進行するな。 ロワ命中したか ? 声命中しました。 沈黙。 ウッド効果は ? マンネルハイム観測できません。が、推測はできます。 沈黙。 ウッドああ、胸が悪くなる。おそろしい所だ、金星とは。結局 ここの連中はすべて犯罪者なのだなあ。ポンステッテンはロシアと 同盟するつもりだったのだな、まちがいない。彼らの行動はいやら しいまやかしだったのだ。 マンネルハイム同感です、閣下。 ウッド爆弾は投下された。じきに地球の上でも降ることになる だろう。核待避壕があって助かるよ。役得だな。戦争になると、外 務大臣はずっと休暇のようなものだ。しかし、魚釣りだけは遠慮せ ずばなるまい。古典を読もう。トーマス・スターンズ・エリオット リスに帰化した二十世紀最大の文人の一人力いい。あれがいちばん心を落ち つけてくれる。手に汗を握らせる読書ほど健康に悪いものはない。 マンネルハイム至言でございます、閣下。 9 9

8. SFマガジン 1968年10月号

イレーネわたくし、街娼だったのです。 イレーネお望みなら。 ウット ( はけしく ) 望みます。あなたにはわれわれの使命の意 沈黙。 、。いったん宇宙船にもどり、明日また 義がよくお分りでないらしし 来ます。そのとき誰と交渉することになるか分らないが、われわれ ウッドあんた : イレーネ国家主席と話していらっしやること、お忘れにならなの提案を金星住民に伝えることだけは確実にやっていただきたい。 ようこ。 イレーネそれほど大事とお考えになるなら。 ウッドマダム。もう一度約東しますが、戦争でわれわれの側に 立てば、地球にもどれるのですそ。 イレーネわたくしたち、もどりたくございません。 沈黙。 ウッドマダム、いまやすべての人びとの名においてお話しにな っていることをお忘れになってはいけない。あなたが個人的理由か 重い息づかい。 らもどるのを欲しないことは理解できます。しかし、地球で自由の マンネルハイムカルシウム注射です。 ため、尊い生活のために戦ったおかげで金星に流された人びともい ウッドどうそ。 るのです。そういう人たちは帰りたいでしよう。 マンネルハイム酸素をもう少し部屋に入れます。 イレーネ帰りたがっている人など、一人も存じません 宇宙空間担当相暑い : : : 暑い しゆっというかすかな音。 マンネルハイム閣下、宇宙空間担当大臣が失神なさいました。 ウッドどんなあんばいかね、宇宙空間大臣は ? ウッドマンネルハイム、診察してさしあげろ マンネルハイム感心しません。 マンネルハイム宇宙船にもどらなくては、閣下。大臣の生命が ウッド国防大臣は ? 危険です。 国防相ウッド、 わたしももうだめだ。汗がすごい。あんたの顔マンネルハイムそれほどでもないようです。火星担当次官が発 も死人みたいだそ。 進のとき発作を起こしました。 コステロ。出発しよう。 ウッド気のどくに。どうだ ? ウッド ( やっと声になる ) よろしい イレーネ、わたしの提案は金星住民に伝えていただけますな ? マンネルハイム絶望的です。 マンネルハイム第九の録音であります。ヴェガ号のウッド閣下 の私室。金星上空千五百キロメ ] トル。

9. SFマガジン 1968年10月号

をという御要求に基づき、一言述べさせていただきます。着陸した ウッド : ロワ、きみは危険な人物だな。 : ( 不明 ) ・ とき金星から受けた印象には筆舌に尽くしがたいものがあり、地球 8 ロワ軍人であります。 で聞いていた話とはまったくちがっておりました。われわれは指定 ウッドなるほど。して、ここに乗船しておられるな。 された地点、すなわち惑星の北極付近、ニ = ートン島の海岸に降り ロワ大統領命令でありまして。 ウッド いくつかのーー・爆弾とともにな。ワルシャワと ( / イのたのであります。たしかに、学校で習った金星地表の特徴はそのと おりでした。巨大な植物群。火山のつらなる地平線 : : : 。しかし、 とき同様。 恐ろしいのはこれではなく、暑さと大気の湿気と絶えることのない ロワわかりかねますが。 ウッドわれわれから金星住民への提案に威厳をそえるため。 地震でありました。地震は大地を掘りかえし、様子を変え、ぶち壊 ロワお答えしかねます、閣下。 し、また創造するのです。日光は地球のとはまったく異なり、寄妙 ウッド答えずともよろしい、ロワ。金星住民は平和の船が来るな感じでありました。空には太陽がなく、重くたれこめた雲のねっ ものと思っている。われわれは武器を携えずに行くと約東したのとりしたスー。フが波をうち、すさまじい嵐が荒れくるい、ぎらぎら だ。大佐、きみを見て驚いたよ。しかしそれ以上この問題を考えると銀色に輝いているのであります。あたかも蒸気と豪雨の塊りの背 ことは、自由連邦の外務大臣たるわたしにはできない。外交官とし後で劫火が燃えさかっているようで、それがまた絶え間のない空中 放電のため、さらにものすごい印象をあたえるのであります。進入 て左手のなすことを右手が知っている、これ以上苦しいことはない。 声船室におもどりください。船室におもどりください。ベルトのさいから直径数キロメートルにおよぶ球電を目撃しましたが、そ をおつけください。ベルトをおつけください。ヴェガ号は金星大気れはトクサとシダの巨大な原生林中を荒れくるっておりました。わ れわれが船を出ると大地は揺れ、ふるえており、背後の想像を絶す 圏に突入します。ヴェガ号は金星大気圏に突入します。 ウッドロワ、この話は忘れよう。 る原生林は絶えず水滴をたらし、前面は灼熱の赤い砂を経て、やが ロワかしこまりました。閣下。 てはもやをぬけて荒海につづいておりました。ウッド閣下は演説の ウッドわたしにこのことを思い出させないでいただきたいもの草案を手に、角縁めがねをかけてあらわれましたが、・ほろ・ほろのシ ャッとズボン姿の男三人しか見あたりません。三人は海岸からそろ だ。わたしもそう努めるから。 そろ接近して来ました。彼らが会談の場所に案内してくれるものと 声船室におもどりください。船室におもどりください。ベルト はかり思っていたのですが、驚いたことにそれが全権代表自身だっ をおつけください。ベルトをおつけください たのです。 マンネルハイム大統領閣下、次の録音に移る前に、詳細な報告

10. SFマガジン 1968年10月号

ジョン・スミス ( 低い声で ) ジョン・スミスです。 ウッドサー・ホレース・ウッドです。 ジョン・スミスこちらがペーテルセン氏とベトロフ氏。 ウッドこちら国防大臣閣下、こちら宇宙空間担当大臣閣下。わ たしの協力者です。 ジョン・スミス・地球自由連邦の代表の方々、ようこそ。。へトロ ジョン・スミスようこそ。 ウッドみなさん、この金星の土を踏んだ瞬間は、われわれにとフ氏は船のことで忙しく、失礼させていただきます。 りまさに大いなる瞬間であります。別の惑星のかくも異様なる大地ウッドわれわれの提案は重要なものなのです。交渉船の扱いは に立って感慨はひとしおであります。 ( 雷鳴 ) われわれを代表者とベトロフ氏以外にできないのですか ? ジョン・スミスほかに人間はおりません。 する地球の自由連邦は、われわれのーー・われわれの上に立ち、われ ( 雷鳴 ) ヒューマニズムとーーー ( 雷 われの目標であるところの 沈黙。 鳴 ) 自由の ( 雷鳴 ) 理想がーーー ( はげしい雷鳴 ) よし別の形であれ 金星にも見出されるものと信じて疑いません ( 耳をつんざく雷ウッドみなさん、わたしから金星の首都を交渉場所とすること 鳴 ) それゆえ、われわれは計算づくからではなくーー・ ( 吹きつけるを提案します。 強風 ) そのむかしトーマス・エリオットが述べたように自由意志か ジョン・スミス首都などありません。 ら参上したものであります : ・ ウッド比較的大きな町でも。 ジョン・スミス町もありません。 すさまじい雷鳴、形容を絶した突風、豪雨。 ウッド少なくとも地上にある部屋で : ジョン・スミス別の部屋などないのですよ。地面は不安定すぎ て家を建てられない。われわれは全員船で暮らしているのです。 ウッドそれならば好天を待っては。 マンネルハイム閣下のけっこうな演説は終わりまで行きません ジョン・スミス金星の天気はこれ以上よくなりません。悪くな でした。ものすごい嵐が起こって、交渉の場に決められた船へ走っ て行かなくてはならなかったのです。それは一種の原始的な潜水艦るばかりです。 ウッドこの嵐をやり過ごしたらどうです。 で、着いたときは全員ずぶ濡れでした。 驚きました。町か別荘で交渉するものとばかり思っていたのですジョン・スミス金星ではいつもこうなのですよ。これなど取る から。おそろしい条件下で行なわれた金星の全権との第一回会談のに足りないほうで。 一部を再生します。自由連邦の十二名の委員は、貧弱な照明のせま い部屋に押しこめられ、それが異星の海の波のために揺れに揺れる のでした。