言葉 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1968年12月号
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1. SFマガジン 1968年12月号

とすると、タダヴァスソルンフルヴァは、逐語訳で『金属物質につ でるんだね ? 」 いての知識』となるはずだ。つまり、治金学だよ。残りのマスザー 「そのとおりだよーベンローズがいった。「はしからすらすらと読 み上げているのさ。たた、原子量のあとにある二つの項目はわからル / ルヴォドは、どんな意味だろう ? 」これだけの長い期間といろ いろな事件のあとで、彼がそれを億えていることは、マーサをおど んがね。火星暦の月の名のようでもあるな。きみはあれをなんだと ろかせた。「『雑誌』とか『評論』、それとも『クオータリー』とい 思うかね、モート ? 」 ったことかな」 「それもいまにわかりますわ , 彼女は確信をこめていった。ここま トランターはロごもった。「まあ、原子量のつぎにくる情報とい でくると、どんなことも不可能でない気がした。「たぶん、別のほ えば、周期と族番号でしよう。しかし、あれは単語ですからね , うから 言いかけて、マーサははっと気づいた。「いま『クオ 「一番目の水素なら、どういう数字がつくのでしよう ? 」とマー ーター』とおっしゃいましたね。そうじゃなくて、『マンスリー』 サ。 「第一周期、—族。一つの電子殻と一つの電子だよ」トランターはではないでしようか。あの雑誌は、特定の月、第五番の月が、日付 彼女に教えた。「ヘリウムも第一周期だが、一つしかない電子殻がとしてついていました。そして、もしノルが十だとすれば、マスザ ールノルヴォドは『第十年』かもしれません。マスザールが年にあ 満たされているために、不活性気体元素のグル 1 ー。フに属しているん たる言葉だということは、きっとそのうちに確かめられると思いま 「水素がトラヴ。トラヴは一年の最初の月ですわ。そして、ヘリウすわー彼女はもう一度壁の表を眺めた。「さあ、あの言葉をぜんぶ 書き写してしまいましよう。わかっただけの翻訳もそえて」 ムがトラヴ、イエンス。イエンスは第八月なんですー 「まず一息入れようじゃないか」ペンローズは提案して、タバコを 「不活性気体元素はⅧ族とも呼ばれるからね。それから、三番目の とりだした。「それから、楽な姿勢で仕事しよう。ジェフ、すまん 元素リチウムは、第二周期の一族だ。これも合っている ? ー 「ええ、たしかに。サンヴ、トラヴ。サンヴは第二月でしたわ。Ⅷがシドといっしょにホ , ールへ行って、よその部屋でデスクに使える 族の最初の元素はなんでしようか ? 」 ようなものと、イスを見つけてきてくれないか。こいつはじっくり 「ナトリウム。原子番号十一 , 腰をすえてかかる必要があるよ」 「びったりですわ。クラヴ、トラヴですもの。じゃあ、暦月の名ま それまでなにか言いたそうにもじもじしていたチェン。ハレンが、 えは、一から十までの数字を文字に直しただけなのね」 堰を切ったようにしゃべりはじめた。 トーマは第五の月だ。きみの最初の火星語だよ、マーサ」ペンロ 「こりやすごいニュースだ。今週の特ダネとは格がちがう。貯水池 ーズがいった。「五にあたる単語だ。そして、もしダヴァスが金属や彫像や建物の発見、いや、動物や死んだ火星人の発見だって、こ に相当する言葉で、ソルンフルヴァが化学および ( または ) 物理学れとは比べものにはならんよ ! セリムやトニーがこれを見たら、 6 7

2. SFマガジン 1968年12月号

「大だ。走狗だ。あんたは、宇宙人の手先をつとめているんだ。地「わからん」ゲンは、ずん、とべッドに腰を落した。「ぼくには貴 球人のくせに、宇宙人の奴隷になって、捕虜と接するという、恥す様 , ・ーーいや、あんたが何をいっているのか、わからん , 「とにかく、外へ出るんだ、ゲン」相手は、手をあげて、壁のひと べき行為をやっているんだ」 つをさし示した。「外へ出れば、判る , 「やめてくれ」 そのときはじめてゲンは、相手が自分の名前を知っているのに気 うんざりしたように、男はいった。 がついた。 「恥を知れ ! ーゲンは、指を相手に突きつけた。「あんた : : : では 貴様のような奴がいるからこそ、戦争は終結しないんだ , なぜ、そんな役目をする前 「身分証明書を調べて、おまえのことはくわしくわかっているんだ 地球人類は勝っことができないんだ ! に、死ななかったんだ ? 」 よー男はうなずいた。「おまえが眠っているうちに性向も分析した 「やめろやめろー立体像は、ふわふわ笑った。「そんなことをしたし、それに、ほかの連中にもいろいろ聞いたしな」 って仕様がないじゃないか。おまえはそういう風に、宇宙軍将校と「ほかの連中 ? 」 しての典型的な反応を、こうあるべきだという反応を、無意識のう「おまえの艦には、たくさん乗っていたじゃないか」 ちにやっているだけじゃないか。この次は舌を噛み切って死のうと「 : : : みんな、いるのか ? 」 するだろう。死ぬのが将校として当然で、おまえはそのことを自分「ああ、みんな捕虜だ」 でも信じているがーー実のところ、一生懸命自分に目かくしをして 「その言葉をいうのはよせ ! 」 いるのさ。事実を見るんだ。事実を ! 」 「宇宙軍将校としての言動は捨てろといったじゃないか」 男はもどかしげに繰り返す。「俺だって、そうしているんだか ゲンは、不思議そうに立体像を見た。相手が何をいっているのやら , 「あんたが ら、もとよりわかりはしなかった。 「もうそのへんで、宇宙軍将校としての言動はやめてもいいんだ「俺は、もとは宇宙軍の艦長のひとりだ」 ぜ」男は、ゲンの肩でも叩きたそうな風情であった。「もう判って「 : : : ? 」 くれてもいいだろう。われわれは、戦争ごっこをやっているのだと「早く出ろー いうことを、な」 言葉のとおり、もう縦長の壁は、ゆっくりと割れはじめていた。 「え ? 」 「戦争ごっこだよー男はくり返した。「擬装宇宙人とのたたかいだ 出たところは、はば一メートルぐらいの廊下だった。大きなカー プをえがいて、左へまわり込んでいる。 よ

3. SFマガジン 1968年12月号

らまいた。一瞬後に塵は消えた。 居間は、ビルがあの器具をかかえて通ったのでちりひとつなかっ ビルが戻ってきたのでまた別の品物をもちださせた。 たし、ガレージもちょっとの間もちこんだのでこれまたきれいにな 何度もそれをくりかえしたのでビルはおかんむりだった。だが何っていた。調べてはみなかったがおそらく玄関からガレ 1 ジまでの 度目かにとうとうわたしのまいた塵が消えなかった。 道もちりひとつおちてはいないだろう。 「ビル、一番最初にもちだした品物をおぼえているか ? 」とわたし でわれわれは地下室へ器具をもちこんできれいにした。セメント ま、つこ。 くずがちらかっている隣家の裏庭へしのびこむと、あっという間に 「うん」 セメントくずは消えていた。砂利がすこしばかり残っていたが、砂 ~ しいがたいのだろう。 利は塵とま、 「じゃあ、それをもってきておくれ」 ビルはとりにいった。かれがそれをもって書斎の戸口にあらわれ これ以上っづける必要はなかった。 たとたんに、机の上の塵が消えた。 家の中に戻ってとっておきのスコッチをあけた、ルイスは台所の 「まあこういうわけだ」とわたしはった。 テ 1 プルに陣どって器具のスケッチをした。 「こういうわけって ? ことヘレンが訊いた。 わたしたちは酒を一杯のんでから書斎へ行き机の上にスケッチを わたしはビルが手にもっている珍妙な器具を指さした。「あれのせた。スケッチが消えたのでわれわれは待った。数分後にあの器 さ。掃除器なんざすてちまえ。雑巾なんざもやしちまえ。モップな具があらわれた。さらにしばらく待ってみたが何もあらわれなかっ た。 んざほうりだせ。家のなかにあれひとつありや : : : 」 ヘレンがわたしの腕の中にとびこんできた。 「たくさんほしいってことを知らせなきやだめだ」とわたしはいっ 「おお、ジョウー わたしたちは二人してジグをおどった。 「どうやって」とルイスがいった。「向うの数学記号はわからない それからわたしは、ルイスと手を組んだことに歯がみをし、かれし、向うもこっちのがわからないんだ。教える方法もないやね。な にしろ向うさまはこっちの言葉はわからないんだし、こちらはあち の助力なしで発見したんだから何とかしてあの契約を破る法はない ものかととつおいっ思案した。だがあいにくわたしは書面にしたあらの言葉がわからないんだから」 の条文をすべてはっきりとおぼえていた。だがどっちみち考えてもわたしたちはまた台所へもどって酒をのんだ。 無駄とわかった、ヘレンが向いのマージのところへとんでいったか ルイスは紙の幅いつばいにあの器具をずらりと並べて描き、その ら。 うしろにもいつばい並んでいるように描いた。 わたしはルイスの研究所に電話した。かれはすっとんできた。 それを送った。 二人で実地テストをした。 十四個の器具が送られてきた。ーーこれはルイスが一列目にかいた

4. SFマガジン 1968年12月号

・ : ありあまるほどの″外部〃の情報に接しながら、閉鎖的な、長にむけて情報サービスをはじめた時、彼らの社会の中に、あること 老支配の、理性に由来するとはいえ、タブーだらけの社会に生きねがおこったのだった。すでに、二十世紀末から、〃偵察員〃をかね ばならない、精神的に未成熟な世代に、深い衝撃をあたえた。そして人類社会へ派遣されていた〃留学生″たちによって、コンビュー て、これ以後、ククルスク一族が、さらに不可避的な〃歴史の運ターの存在は知られていたが、全世界のコン。ヒ、 1 ターをリアルタ イムでつなぐ回線ーーむろん、自動管理方式をとっており、一部は 命〃にまきこまれて行くにつれ、いったん否定されたこの思想は、 に、ひそかにわりこむことに成功し 再び急速に支持者を得はじめることになる。 通信衛星で中継されていた 第二次大戦以後、ククルスクの閉ざされた世界に、さらに衝撃的た時、彼らの社会に、一つの転機が訪れた。最初の接触は、カラカ スⅡボゴダ間のメーザー回線に、樹木で擬装したアンテナでもって な、第二、第三の〃外部世界の波″が押しよせはじめた。 は、テレビ放送の開始だった。音声電波とはまったく性質のちがうわりこむことによっておこなわれた。方式でおこなわれる この〃映像電波″に、ククルスクは最初とまどったようだが、すぐコンビューター間の通信を解読するのに、すこし時間がかかったよ しかし、そこで送受される信号から、彼らの特異な発達 訓練によってが生理的に″キャッチすることをお・ほえる。彼らに は、・フラウン管こそなかったが、彼ら自身の発する電波の反射波ををとげた脳の中に一つのパターンが直接形成されることを知った とらえ、それを大脳の中で″映像〃にくみたてる、一種の〃レ , ーダ時、彼らは人類社会の中に、が新しい仲間 4 がうまれたことを知っ 1 装置〃をもっていた。すでに、彼ら自身手にいれていた″愚かなて、驚倒した。彼らは、同じ方式ーーー新しい変調方式をお・ほえるこ るもの″の社会で開発された技術を補助的手段につかい、 一部とは、彼らにとっては、新しい〃言葉″をお・ほえるのと、同じくら の材料は、″偵察者〃たちが、街で購入し、一部は彼ら自身がくみい簡単なことだった。その変調方式によっておくられる信号のが体 たてた , ーー・彼らは、〃テレビ画像〃を、音声もろともキャッチする系〃を見出すことはもっと簡単だーーーでもって、回線に簡単な〃通 インクワイアリイ ことができた。ーー余談ではあるが、彼らの社会の若い世代にも、信を送ってみた。回線は、ただちに″問い返し〃を送ってきた。 コンビュータ 1 テレビはかなりな影響を及ぼした。心理的にでもあるが、それ以上 システムにしてみれば、どのラインに″質 がテレビ映像みに育った子供たち、マイクロウェーヴから : 尸力のっても同じことだ。しかし、サービス・システムの端末器 帯へかけての、〃生理的電波感受機構が、異常に発達する傾向のナン。ハーが、信号にはいってこないと、質問にこたえずに、故障 を見せたのである。 箇所発見の " 問い返し〃をおこなう。彼らはそのことを知って、た そして、彼らの社会に、さらに決定的な影響を及・ほしたのは、二 ーの〃信号みを盗んだ。 ( よりによって、 だちにある端末器ナンく 、ハーだった、という ! ) その最 十世紀末になって完成した、″世界コン。ヒュータ 1 ・ネットワ 1 コロンビア政府通信省長官室のナイ ク〃だった。ーー・全世界の主なコン。ヒューターが、メーザー回線で初の、コンビューターとの〃対話は、ちはうど、ベルが最初の電 むすばれた時、そして、 ( 国際情報サービス ) 社が、全世界話で送った、が ワトソン君 : ・ : が云々の言葉と同じように、彼らの

5. SFマガジン 1968年12月号

ことになった。ニスカレーターを。ヒッケルの先でそろそろとつつい てから、マーサは階下への道の先頭に立った。 六階もダルフフルヴァだった。壁画の性質からすると、軍事とエ 学技術の歴史らしい。彼らは中央ホールを見終ってから、五階へ降 りた。ここも上の階そっくりだったが、方形の広間には埃まみれの 家具や箱が積み上げられていた。投光器を持っていたフィッツジェ フルドが、それをゆっくりと一回転させた。ここの壁画は、地球人 ヒコイック・サイズ と見誤るほどの姿をした火星人たちの超等身の肖像だった。それ それがなにかの品物ーーー本や、試験管や、科学器具を持ち、その背 景には、実験室や工場、炎や煙や閃光が描かれている。四方の壁の 上に書かれた文字は、すでにマーサにとっておなじみのものだった ソルンフルヴァ。 「ごらんよ、マ 1 サ。あの言葉だ」フィッツジェラルドが叫んだ。 「きみの雑誌の表題にあったやつだよー壁画を眺めて、「化学か、 それとも物理学だ」 「両方だな」。ヘンローズが意見を吐いた。「火星人は二つのあいだ にはっきり区別を置いていなかったようだから。見たまえ、あのも じゃもじゃのあごひげの老人は、きっと分光器の発明者だ。それら しいものを手に持っているし、虹をパックにしている。それから、 そのとなりの青い上っ張りの女性は、有機化学関係たろう。うしろ とういう言葉を使え の長い鎖状分子の化学式から見てもそうだ。。 ば、化学と物理学を一つにした学問という意味が伝えられるだろ う ? 」 「ソルンフルヴァ」とサチコがいった。「もしフルヴァが科学とい うような意味なら、ソルンは物体とか、物質とか、自然物を意味す るのにちがいありませんわ。マーサ、あなたが最初からいっていた ンハッタン地区の南部地城で、眼をつも黒い穴が開きだした。 そんなことで大騒ぎをしているう 痛くさせる悪臭のきついガスが襲っ ちに、三月十二日夜、食事中に突然 てきた時にも、近くのニュージャー アレン夫妻が失神してしまうという ジー州にある精油所がその原因では ないかと言われたが、この場合にも事態がおこったのだ。 そして、意識をとりもどすやいな そんなガスがどんな具合にして、当 日の風の方向にさからってニーヨや、これ以上どんなことが起らぬと ーク市やプルックリンのあたりまでも限らないと思い、一家をひきつれ て、着のみ着のまま自宅から逃げ出 引漂ってきたのか、説明がっかなかっ した。 同様の被害は、同家から三マイル 一九六三年の一月を皮切りに、オ ルズ半ばかり離れたウッドロウ・マイヤ クラホマ州東端のロジャ 1 ス家でも起り始めた。 郡の一劃に突発した事件はもっとひ 同家では、三人の子供が、急にせ きをし出し、吐き気をもよおし、皮 これまた「くさった卵」のような 引悪具を放つ「何か」が何カ月にもわ膚が赤くはれ、下痢を起こし、顔色 たってその地域の上に停滞し、そのも青く、病気勝ちとなり、歯がぬけ ため人盲ともに非常な被害を蒙った出したのだ。同時に家畜類も不可解 な病気にかかりはじめ、さらにはね のだ。 ことのおこりは同年一月、同地域ずみ、小鳥、昆虫にいたるまで、あ たり一帯のあらゆる生物が倒れだし = にあるダニエル・アレンの家で始っ こ 0 こ 0 たまりかねた同地区の農家四十軒 ある日突然、同家族はその嫌な臭 が、同州の知事へンリイ・ベルマン いに襲われ、息がつまり、せきが 出、腹がくたり、皮膚が赤くはれ上に、その被害状況を訴え、保健・教 育・福祉局が実状調査にとりかかっ ったのだ。 たが、同地区に影響を及ぼすような そのうえコンクリート・・フロック 汚染源はなく、ついにその原因がっ 建ての同家の壁にひびわれが生じ、 かめなかった。 こなごなに砕けて落ち始め、何週も 或る日、突如としてある地区を襲に たたぬうちに、べンキやしつくいに 、住民を地獄さながらの苦しみに もひびわれができたりふくれ上った りし、カーテンや衣類がポロポロ崩おとしいれる「くさった卵」のよう な匂いーーー正体はおそらく硫化水素 れだした。 そればかりではない。食器棚の皿であろうがーーーその原因はいったい どこにあるのか ? すべては謎に包 のまわりが、まるでねすみがかじっ たようにギザギザになり、銀食器やまれている。 ( 近代宇宙旅行協会提供 ) ステンレス製の台所用品にまでいく 世界みすてり・とひっく - 三 " ::: こ 0 6

6. SFマガジン 1968年12月号

めでたくうまれて、育って、その と、・ほくはいった。「実をいうと、 h ア・バスの中で、最強にして「そしたら、その時の話だ。 いれつばなしにした検出器の針が、君が横切るたびに時々ふれるの子が成人するまでに、われわれの遺伝工学が、その問題を解決する ことを祈ろうよー を見た時、妙な気持だった。でも、ーーー君が、ホアンの〃副作用″ ・ほくはフウ・リャンを抱きしめ、唇をあわせた。 これは、こ という言葉をきいて、ーの注射を猛烈にこばんたので、はっ きりした。君が注射をいやがったなんて、あの時がはじめてだものの救いのない事件の、ほんの余白につけたりのように書かれた、さ さやかなハツ。ヒイ・エンドなのだろうか ? と接吻しながら、・ほく ね」 は思った。 ぼくたち青二才にとって そんなこと知るものかー フウ・リャンは両手で顔をおおって、すすり泣き出した。 「でもーー・だめよ、もうだめ、私、ーを注射されちゃったー は、一切のことがはじまりであって、〃エンド〃などはまだどこに そして、ナハティガルがいったように、人間 「でも、ペンタヨーデイロンは飲まなかった。それに腹の中の胎児もないのである。 というものは、行為において、いつも慎重さを欠いているものなの は、半分はホモ・サビエンスの遺伝子がはいっている」 「妊娠三カ月から五カ月の間なら、百パ 1 セント死産か流産だってだった。 いうわ」 ( 完 ) 「純粋な人類の場合はね。しかし、まだ生きているじゃないか 何カ月 ? 」 「三カ月ちょっと : ・ とフウ・リャンは蚊の鳴くような声でいっ た。「私ーーーうめたらうむつもりだったわ。でも : 「ぼくもーーーできれば、うんでほしいね。そして、いよいよだめだ ったら、胎外成育をさせてみる。それでもだめだったらーーーぼくの 子をうむんだ」 ・ほくは、そっとフウ・リャンの肩を抱きよせた。 「いずれにせよ、君が、お腹の中に、たった一人で秘密を抱いてい るなんて、・ほくにはたえられないんだよ。 ぼくにも、君の荷物 を半分もたせてほしいんだ。それは、のこされた可能性の片鱗かも 知れないし」 「たとえ無事にうまれてもーーー」フウ・リャンは、やっと少し唇を ゆるめていった。 「この子はーー、生殖能力をもたないのよ」 20 ー

7. SFマガジン 1968年12月号

確率は、。 こく低いという結論を出していることも、・ほくは知ってい 「生きて虜囚のはずかしめ : : : さ . 立体像は、じわりと肩をすくめるんだ」 る。「おまえは捕虜なんだ」 「低いが : : : ゼロではあるまい ? 」 「捕虜 ? 」 「ゼロではないが、可能性としては、無視していい程度のものだ。 「不本意だろうが、まあそういうことだな」 ゲンは、相手を見た。「あんたのそうしたもののいいか 突然、ゲンは笑いだした。かん高く、部屋の壁いつばいに反響せたや態度から、ぼくは直観的にそう思ったんだ」 男は、にやりとした。 よと笑いだしたが : : : 壁は高性能の吸音力を持っているらしく、少 しもひびかなかった。自分の生命力を吸いとられそうに感じたゲン 「なるほどね。直観という手もあるのか」 は、笑いだしたのと同しように、だしぬけに声を切った。 「いってくれ [ ゲンは声をはりあげた。「あんた、人間なんだろ 「どうした ? 」 う ? 」 「やむを得んな。 と、立体像が、意地悪くいった。 そう。ご正解だー 「捕虜だなんて : : : まさか、あんたたちの捕虜になったんじゃない 「人間なんだな ? われわれと同じ : : : 地球の人間なんたな ? 」 だろうな ? 」 「少し違うかも知れないが : : : まあ、そういうところだ」 「ところが、そうなのさー 「そうか ! 」ゲンは、起きあがった。「救助されたんだー 「馬鹿馬鹿しい。あんたは人間じゃないカ は、助かったんだ。そうだろう ? 」 「そう見えるかね ? 」 「違う」 いわれて、ゲンはもう一度、仔細に立体像をみつめた。 男は、明快に否定した。 「やはり人間みたいだ」ゲンは呟いた。「とにかく、宇宙人みたい 「なに ? 」 には思えない」 「いっただろう。おまえは捕虜なんだ」 「おいおい、おまえ」立体像は、呆れたようにいう。「どうもそれ「冗談は、もうやめろ ! 」 は、宇宙軍将校の言葉とも思えんな。宇宙人が、なぜ人間と違う、 「冗談ではない」 グロテスクで奇怪な姿でなければならないんだ ? もしも代謝機能「すると、どういうことなんだ ? 」 が同じとすれば、姿恰好だって同じになるかも知れないんだぜ」 ゲンは、はっと、相手に不信の目をむけた。 「そんなことは、宇宙生物学の基礎講座で習ったとも」 「ふむ : ・・ : そうか : ・・ : あんたは、大なんだな ? 」 ゲンは、はね返した。「だが、地球のコンビ = ーター一族や学者「大 ? 」 たちが、われわれの戦っている相手が、人間と同じ姿の生物である 男は、顔をしかめた。 9 8

8. SFマガジン 1968年12月号

「なに ? 」 「われわれと連繋を持っていたコンビ = ーターや高官は、全部死ん 9 「しかもおまえは送還によって、必死で獲得した地球での地位が、 ゼロに還元するかも知れぬことを知っている。といって、まだ名誉だらしい。今はわれわれが宇宙人だと本気で信じている奴らだけし に殉じるほどの大きな名誉をつかんだとは思っていない。とすればか残っちゃいないんだ ! 」 すでに十人、二十人と、ドームから外の廊下へ走りはじめてい 結論はひとつじゃないかね ? 」 た。どこかから絶叫が聞えた。「大変だそ ! 休戦協立を結ぶため ゲンは答えない。 まだ迷っているのだ。あらゆる条件をはかりにかけーーその計算の宇宙船がやって来るそ , を、実はたのしんでいるのかも知れなかった。手に入るもののう「どうします ? 」ゲンは、元艦長を見た。 ち、いちばんいいものをつかむ、その決断までの過程を、何度とな「おしまいだ」元艦長はうめいた。「休戦交渉だなんて : : : そんな くくり返しているのだった。 ことをやれば、われわれが人間だということがわかってしまうー 「なあゲン」 いっさいがおしまいだーこ 元艦長がいいかけたとき、ド 1 ムの中がにわかにざわめきだし狼狽する元艦長を、人々を、ゲンはしばらく眺めていた。 た。低いアナウンスの声につれて、騒ぎがしだいに大きくなりはじ喜劇だった。平和が達成されるそのことが破局を意味するとは・ めていた。 : 喜劇でなくて、何であろう。 「何がーーこ しかし、ゲンにはそんなことはどうでもいいのであった。この出 来事のおかしさを感じる前に、彼は、自分自身の結論に到達してい 元艦長が立ちあがる。アナウンスが大きくなった。 「各部門の責任者は至急集合せよ ! 至急集合せよー 「どうした ? 」 「やりましよう ! 」ゲンは叫んた。「その休戦交渉に来る宇宙船を 元艦長の投げる言葉に、そばの男たちが応じた。 爆破するんです ! 徹底的な抗戦の態度を通すんです ! 」 「休戦た ! 「休戦 ? 」 「それしかないじゃありませんか ! 」 「地球の低能の反戦主義者どもが、行動をおこしたんだーこ ゲンは、元艦長の肩を叩いた。「やりますよー ・ほくはみなさん 口々に、わめきたてた。「戦争をこれ以上っづけさせてはならなの仕事を手伝いますよ ! 」 いというロ実で、連邦ビルに原爆を持ち込んで、自爆した奴がある ゲンは有頂天であった。再び、彼は特定の目的のための仲間を んた ! 得、仕事を得たのであった。 元艦長の顔色が、すっと引いた それで充分ではなかったか ?

9. SFマガジン 1968年12月号

・ハープル・ストライプト・グラバー ミッグのチョコレ 1 トーーグレゴール、アーノルド、フリンに使う「ふーん。赤い縞の欲張りだって ? それで締めくくりりがっき そうだ。全部がびったりと合うからな」 と最高のソースみ 「何が合うんだ ? 何のことなんだ ? 」 グレゴールの指は光線銃の握りにかかった。かれは尋ねた。 「まず、ぼくが言う通りにしてくれ。はっきりさせたいんだ」 「きみはおれを食べるつもりだったのかい ? 」 アーノルドの指示に従ってグレゴールは荷物の中の化学研究用品 「ああ、そうだよ」 薬品とたくさんの物を並べた。かれ と、欲張りは言った。グレゴールはもう銃を握っていた。かれはをほどき、試験管、レトルト、 グラバー 安全装置を外すなり発射した。まばゆい閃光が欲張りの胸を滝のよは指示されたように混ぜ合わせ加えたり減らしたりして、やっとで きた混合物をストープにのせて熱した。 うに流れ、床、壁、グレゴールの眉毛と焼き焦がした。 グレゴールは無電の前に戻って言った。 「そんなもの痛くも何ともないよ。ぼくは背が高すぎるんだから 「さあ、どういうことなのか教えてくれ」 ね」 グラ・ハー グラ 欲張りはそう説明した。光線銃はグレゴールの手から落ちた。欲「ほいきた。ぼくはツガスクリットという言葉を調べてみた。・オパ ル星語だったよ。その意味は、たくさんの歯がある幽霊だ。太陽 張りは前へかがみこんで言った。 信仰者たちはオパールから来た。それで何か勘づかないかい ? 」 「ばくはいまきみを食べやしないんだぜ」 いまいま グレゴールは忌々しそうに答えた。 「食べない ? 」 ホーム・タウン 「連中は故郷の町の幽霊に殺されたってことだな。連中の船で密航 グレゴールはやっと声を出した。 「ああ。明日にならなきや食べられないんた、五月の一日だろ。そしやがったんだな。たぶん呪いか何かがあってそれで : : : 」 「まあ落着けよ。これには別に幽霊などいやしないんだ。溶液はも れが規則だもんね。ぼくが来たのはお願いがあったからだけなんだ う沸騰しているかい ? 」 「何をだ ? 」 グラ・ハ 欲張りは勝ち誇ったように微笑した。 「沸騰したら教えてくれよ。さて、きみの動き出した服のことだが そのことで何か思い出さないかい ? 」 「きみ良い子になってリンゴを少し食べてくれないか ? そうして くれると肉が素晴しくうまい味になるんだよ」 グレゴールは考えた。 そう言うなり縞の入った怪物は消え失せてしまった。 「そうだな : : : おれが子供のころたったが : ・ 両手を震わせながらグレゴールは無電を操作し、アーノルドに起アー / ルドは言い張った。 こったことのすべてを話した。 「そのことを話してくれ」 いや、そんな馬鹿ら 8

10. SFマガジン 1968年12月号

れの腕を試してみるように噛んだ。 欲張りは苦痛の悲鳴を上げてかれを離した。そいつは高く空中に かれは後ろに飛びのき、自分の腕を見た。そこには歯型が残って飛び上がり姿を消した。 いた。血が流れていたーー本物の血が かれの血が。 あの植民者たちは噛まれ、切られ、裂かれ、引きちぎられていた グレゴールは椅子に倒れこんだ。危いところたった。もう少しの のだ。 ところだった。同じ死ぬにしてもこんなのはまったく馬鹿げた死に その瞬間、グレゴールは以前に見たことがある催眠術の実験を思方だーーー自分自身の死を望む潜在意識に引き裂かれ、自分自身の想 い出した。催眠術師は被実験者に火のついた煙草をその腕に押しつ像に切り刻まれ、自分自身の信念に殺されるとは。かれがあの言葉 を憶えていたのは幸せだった。さあこうなってはアーノルドが急い けると言った。そのあとそいつは鉛筆でその場所に触れたのだ。 数秒のうちにまっ赤な水ぶくれが被実験者の腕に現れた。つまりでくれないことには : かれは嬉しそうな低い笑い声を耳にした。それは半ば開いた押入 かれが火傷をしたと信じこんだからなのだ。もし人の潜在意識が自 分は死んだと考えれば、その当人は死ぬのだ。もしそれが歯型の紅れのドアの闇の中から響いてきたものであり、ほとんど忘れかけて 斑を命ずれば、その通り現れるのだ。 いた記憶を思い出させた。かれはまた九歳のころに戻っており、影 グラバ シャドウワー かれは欲張りの存在など信じていなかった。 法師ーー・かれの影法師ーー・は奇妙に薄っぺらなそっとする生き物で だが、かれの潜在意識は信じているのだ。 あり、ドアのところに隠れ、べッドの下で眠り、暗くなってからだ グラバー グレゴールはドアに向かって走ろうとした。欲張りは通せんぼをけ攻撃してくるのだ。 した。そいつはかれを爪でつかまえ、頸に向かってかがみこみ始め「明かりを消せよ , シャドウワー と、その影法師は言った。 魔法の呪文だ ! 何だった ? 「馬鹿いうな」 グレゴールは叫んだ。 と、グレゴールは言い返して光線銃を抜いた。明かりがついてい 「アルフォイスト ! 」 る限り、かれは安全なのだ。 グラ・ハ 欲張りは言った。 「消したほうがいいんだぜ ! 」 「違ってるよ。そうじたばたしないで」 「いやだ ! 」 「レグナスティキオ ! 」 「ようし。工ガン、メガン、デガン ! 」 「違うよ。騒ぐのはやめろったら。すぐすんじまうからさあ、きみ 三匹の小さな生き物が部屋の中に走りこんできた。そいつらは近 くにある電球に向かって走り、飛びつくと飢えたように呑みこみ始 「ヴゥーシュベルハッビロ ! 」 めた。 ドウワー グラ・ハー シャ 2