ラボール - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1969年1月号
10件見つかりました。

1. SFマガジン 1969年1月号

気マク 0 ′′ /. 、 0 : ク ′、画訳へま ☆☆ン ツ真伊リ エナ ー龜第 ⅵ引山とし . 、こ - % ロポットの約束通り、彼は富と健康と名 声を手にいれた。未来人の頭脳をのぞき こむ不思議なラボール装置のおかげでー

2. SFマガジン 1969年1月号

配はいらんよ。あんたの発見は、立派に百万ドルの値打ちはある。 その刺激さえ効果がなくなりはじめていた。酔いはさめ、あとには 有名にもなるだろう」 死体みたいに感じられる自分が残った。 「健康のほうは ? 」 ケルヴィンはうめき声をあげると、みじめに目をしばたたいた。 グラスをとり中身を飲みほした。だが、それも役にたたなかった。 「これからは病気はなくなるよ、当分のあいだ」化学者は静かにい 「これこそ本当の奇蹟だ」 なんて、馬鹿だ。あの化学者の名前さえ、知らんじゃないかー 「書類にしてくれーケルヴィンはわめきたてた。 曲り角のすぐむこうには、健康と富と名声が待っている。だが、 「わかった。提携書類は、あしたあげる。今のところは、これでい どの曲り角だ ? いっかは、新しい蛋白合成法のニュ 1 スが公表さ いだろう。おわかりだろうが、正当な権利所有者はあんたなんだ」れ、男の名前を知ることになるだろう。だが、いつだ ? そのあい 「インクで書いてくれ、鉛筆はだめだ」 だ、サ 1 ンをどうする ? をししインクを 「じゃ、ちょっと待ってくれ , と赤い口ひげの男よ、 そのうえ化学者のほうも、彼を見つけだすことはできない。ケル 捜しに行った。ケルヴィンは満面に幸福な笑いをうかべて、実験室ヴィンのことは、ジムという名で知っているにすぎないのだから。 を見まわした。 あのときには、どうしたわけか名案のように思えたが、今は違う。 ケルヴィンはラボール装置をとりだすと、充血した目で見つめ サーンが三フィート離れたところに実体化した。サーンは棒状の 武器を握っていた。彼はそれを持ちあげた。 た。クアラ・ヴィーか、え ? どちらかといえば、いま彼はクアラ ケルヴィンは瞬間的にラボール装置を使った。そしてサーンにあ ・ヴィーが好きになっていた。問題は、ラボールして半時間もする と、記憶がはっきりしなくなることだった。 かんべえをしながら、はるかかなたへテレポートした。 たちまち彼はどこかのトウモロコシ畑へ現われていた。しかし蒸今度は、サ 1 ンが数フィ 1 ト離れたところに実体化した、そのほ 留酒になっていないトウモロコシは、ケルヴィンの好みには合わなとんど同じ瞬間にボタンを押していた。 またもテレポーテーション。彼は砂漠のまんなかにすわりこんで もう一度試みた。今度は、シアトルに着いた。 それが、二週間にわたる、ケルヴィンの記念すべき大騒ぎと逃避いた。サポテンとジョシ = ア樹しか、あたりにはなかった。遠く に、むらさき色の山脈が見えていた。 行の発端だった。 ただ、サーンは、なかっこ。 彼の心は、おだやかではなかった。 ケルヴィンは喉のかわきをおぼえた。装置が、今ここではたらか 彼にあるのは、おそろしい宿酔いと、ポケットの十セントと、た なくなったとしたら ? そうさ、こんなことが長続きするはずがな まったホテル代だけ。えんえん二週間、テレポーテーションでサー 一週間にわたって頭のなかでもやもやとしていた決断が、とう ンより一歩先を越すのは、神経をすりへらすような負担であり、な とう結晶化した。結論はあまりにもわかりきったことなので、自分 んとかそれが続いたのはアルコ】ルのおかげだった。しかし今や、 ふつか 4 2

3. SFマガジン 1969年1月号

ろ。いま約東したとおり、それは星うらないよりはるかに効果的でいし ラボールは、その問題を解決する方向にはたらくーーーその に、きみに健康と名声と富をもたらすから」 男から見れば、非論理的な考えだ。きみは彼の心を読む。そして、 「ごめんだね。おまえさんがどんな手品をうったか知らんがーーー超何がどうなっているのか知る。限界はある、それは、やっているう 音波だな、しかしおれは ちにわかるだろう。そしてきみは健康と富と名声を得る」 「待て」とロポットはいった。「ボタンを押したことによって、き「本当にそういくなら、なんでも手にはいるはずだ。なんでもでき みは遠い未来に生きている人間の心のなかにはいったのだ。装置るようになる。だから、おれはごめんこうむるといってるんだ ! 」 は、一時的にラボールをつくりだすようにはたらく。ボタンを押せ「限界があるといったはずだ。きみが健康と富と名声を得たとた ん、装置は使えなくなる。そうなるように、わたしがしておいた。 ば、いつでもその人間と接触することができるのだ」 「とんでもない話だ」まだ冷や汗をかきながら、ケルヴィンはいっしかしそれまでは、きみにふりかかるどんな問題も、未来人のずつ こ 0 と優秀な頭脳を探るだけで解決できる。重要なのは、ボタンを押す リこ、爿題こむを集中することだ。それをしないと、サーンよりも 「考えてみろ、またとない機会だそ。原始人がきみの頭脳と接触し前冫尸 ~ ー っとおそろしいものが、きみを追いかけてくることになるそー たらどうだ ? 自分の望むことがなんでもできるようになる , しーし ロポットの話に、なんとかして論理的な反証をあげなければ、彼「サーン ? 「どうやらーー・アンドロイドらしい」ロポットは宙を見つめていっ は解放されないのだった。悪魔と議論する聖アントニウスのように 、として、わたしの問題を考えよ それとも、あれはルターだったか ? ケルヴィンは混乱するた。「合成人間だ : : : それはいし きん 頭で考えた。頭痛はひどくなっていた。飲みすぎたらしいそと、思う。すこしばかり金が必要なのだ」 た。たが、これだけいった。「原始人に、おれの考えることがど「そこだな、困るのは」奇妙な安堵を感じながら、ケルヴィンはい うして理解できるんだ ? おれに与えられたのと同じ条件がなけれった。「そんなものは持ってないぜ , ば、知識は応用できっこない」 「腕時計がある , ケルヴィンは腕をつきだして時計を見せた。「よしてくれ、これ 「とっぜん非常識なアイデアが頭にうかぶ、きみはそんな経験をし は高いんだ」 たことはないか ? 衝動といってもいい。 あることを考えついた り、計算の答えがわかったり、問題の解決法に思いあたったり、そ「わたしがほしいのは、おもて側の金だけだ」ロポットはそういし ながら、その目から赤みがかった光線を照射した。「ありがとう」 ういったことだ。とにかく、わたしの装置がいま焦点を合わせてい る未来人は、ケルヴィン、きみとラボ 1 ルをとっているのに気づか時計は、くすんだ灰色に変わっていた。 ない。だが、そういうこととは関わりなく、その男は衝動にまった「おい ! 」とケルヴィンは叫んだ。 く無抵抗なのだ。きみはある問題に心を集中し、ボタンを押すだけ「そのラボール装置を使えば、健康と名声と富は保証されるのだ」 きん 5

4. SFマガジン 1969年1月号

「いったいだれだ、あんたは ? 」 「ヴィールスは、アミノ酸の鎖だろう ? その構造を変化させれば 「ジムと呼んでくれ」ケルヴィンは、それだけいった。「さあ、黙 いいんだ。無害なものにしてしまうんだ。バクテリアも。それから って聞いてくれ」彼は、愚かな小さな子供に話す調子で、説明をは抗生物質も合成するんだ」 じめた。 ( 目の前にいるのは、アメリカの最高の化学者のひとりな「できればいいさ。しかし、ミスター のである ) 「蛋白質は、アミノ酸でできている。アミノ酸には、約「ジムでいし 三十三の種類があってー・ー」 「ああ。しかし、昔からみんながやってきてできたためしがない . 「ないよ , 「鉛筆を持って」とケルヴィン。「今からは、それができるんだ。 「あるんだ。黙って。その分子は、さまざまなかたちに配列するこ合成とテストの方法をこれからいう とができる。だから、ほとんど無限のヴァラエティを持ったアミノ彼は細大もらさず明確に説明した。ラボール装置が必要になった 酸があるわけだ。そして生きものは、みんな蛋白質がなんらかのかのは、二度だけだった。説明が終わると、赤い口ひげの男は鉛筆を たちで結合したものだ。完全な合成をするには、蛋白質の分子とはおき、。ほかんと見つめた。 つきり認められるだけの長さを持ったアミノ酸の鎖をつくらなけれ「信じられん , と男はいった。「もしこれがうまくいけば ばならない。それが問題だったー 「おれは健康と名声と富がほしいんだ」ケルヴィンは執拗にいっ た。「うまくいくさ 赤い口ひげの男は、興味を持ったようだった。「フィッシャー 「うん、しかしーーーあなた は、十八個からなる鎖をつくった」男は目をしばたたきながらいっ た。「ア。フデルハルデンは、十九までいった。そしてウッドワ 1 ド だがケルヴィンは強情にいった。さいわいなことに、赤い口ひげ は、もちろん、一万個の長さのものをつくりあげた。だがテストでの男の選抜テストのなかには、正直さと投機気質の審査も含まれて いたので、事態は、化学者がケルヴィンとの提携書類にサインする ことで終った。この。フロセスの商品的な可能性は、無限だった。デ 「完全な蛋白質の分子は、アミノ酸の完全な連続からなっている。 ュポンかが喜んでとびつくだろう。 だが相似体のセクションの」っか二つをテストしただけでは、ほか 「おれは金がほしいんだ。巨万の富というのがな」 の全部がそうだとはいいきれない。ちょっと待て」ケルヴィンはラ ポール装置をふたたび使った。「よし、わかった。とにかく、蛋白「百万ドルははいる」赤い口ひげの男は辛抱強くいった。 「じゃ、領収書をくれ。ちゃんとした小切手で、いま百万をキャッ 合成でほとんどなんでもっくれるんだ。絹、毛糸、髪ーー・だが、い ちばん肝心なのは、もちろんー彼はくしやみをしていった。「鼻カシュでくれるというなら話は別だ」 タルの治療法だ」 化学者は眉をひそめて首をふった。「そんなことはできん。テス トをしなけりゃならんし、交渉もはじめなきゃならんーー・そんな心 「それよ、 をししカ・ー・ー」と赤い口ひげの男はいった。

5. SFマガジン 1969年1月号

理詰めでいくんだ。 クアラ一ヴィーには、しかし、些細な問題だった。彼は問題を解 窓の外では、街の灯がついたり消えたりしている。夜の闇に妖精くと、ふたたびシリウス人とのゲームに戻った。 の文字を書き続けるネオン・サイン。彼はそれにもまた、なにか馴 ケルヴィンは、ニ = ーオーリンズのホテルの一室に戻った。 染めないものを感じた。だが、それをいえば、ケルヴィンじしんの ひどく酔っていた、でなければそんな危険なまねはしなかっただ 体だ 0 てそうた 0 た。彼は笑いだしたが、くしやみがそれを中途でろう。目的を達成するには、まず彼の頭脳をこの二十世紀の現在に さえぎった。 ある別の頭脳に同調させることであり、それには彼の要求に合った おれがほしいのは、と彼は思 0 た。健康と名声と富だ。それが手波長が必要であ 0 た。経験、投機気質、地位、知識、想像力、正直 にはい 0 たら身を固め、気苦労も心配も忘れて、一生を幸福に暮らさー・・・そうい 0 た因子の総計が、その波長となるのである。だが、 すんだ。ハツ。ヒイ・エンドさ。 三つのほとんど正解に近い総計を手に入れ、しばらくためらった 衝動的に、彼は箱を出すと、それを調べた。こじあけようとした末、や 0 と見つけた。それが、小数点以下三桁まで正解に近か 0 た が、失敗した。指がボタンの上で迷った。 からだ。泥酔したまま、ケルヴィンは思考のタイト・ビームを固定 どうしてこんなことがーーーと考えたとたん、指が半インチ動いたすると、テレポート装置をつけ、ビームに乗 0 てアメリカを飛ん だ。着いたところは、設備の行き届いた実験室で、ひとりの男が本 を読みながらすわっていた。 酔っぱらっているので、それほどの異質さは感じられなかった。 未来人の名前は、クアラ・ヴィーだった。それに今まで気がっかな 男ははげ頭で、逆立っ赤い口ひげをたくわえていた。ケルヴィン かったのは不思議だが、自分の名前をしよっちゅう考えている人間のたてた物音に気づいて、男はふいに顔をあげた。 ー・」と田刀ま、つこ。 がどこにいるだろう ? クアラ・ヴィーは、チェスに似たゲ 1 ムを「おー をしナ「どんなことをして入ったんた ? していた。だが彼の対手は、太陽系をかなり離れた、シリウスのあ「クアラ・ヴィーにきいてくれ、とケルヴィンはい 0 た。 る惑星上にいるのだった。駒は見たこともないものだった。クアラ 「たれ ? なんだって ? 」男は本をおいた。 ・ヴィーの心をよぎる、複雑な、目くるめく四次元的な差し手に、 ケルヴィンは記憶を呼びおこした。忘れかけているようだった。 ケルヴィンは聞きい「た。そこ〈ケルヴィンの問題が挿入され、衝彼はラボール装置を一瞬つかうと、記憶をあらたにした。今度も、 動がクアラ・ヴィーを襲った。そして それほど不快ではなかった。い くらかクアラ・ヴィ 1 の世界がわか 内容は混乱していた。じ 0 さい、問題は二つあ 0 たのだ。風邪 ! ・るようにな 0 ていた。好ましい世界だ 0 た。しかし、それもそのう ー鼻カタルは、どうしたらなおるか。もう一つ、有史前 , ーークアラち忘れてしまうだろう。 ・ヴィーにとってはーーの時代で、どうしたら健康と富と名声を得「ウッドワードの蛋白質相似体の改良だ」と彼は赤い口ひげの男に ることができるか。 いった。「簡単な合成でできる」 2 2

6. SFマガジン 1969年1月号

だった。嬉しいことに、テレポ 1 テーションにも限界はあるらししてからが、考えることはショッキングなほど違っている : : : はっ い。風は冷たかった。ケルヴィンは、足元のまわりでみるみる大きくしょん ! もう一杯。 くなる水たまりに立っていた。あたりを見まわした。 ロポットの話では、装置は、ケルヴィンが健康と名声と富を得た 通りの先にトルコ風呂の看板を見つけると、ぐしょぐしょの体をとたん効力を失うという。気の減入る考えたった。かりに待望のゴ その方向に向けた。頭のなかは、罰あたりな考えでいつばいだっ 1 ルに達したとして、小さな押しボタンが役に立たなくなったと き、サーンが現われたとしたら ? いやだ、いやだ。それがまた酒 こともあろうに、彼はニュ 1 オーリンズにいるのだった。ほどなをあおぐ呼び水となった。 せんもう く彼はニューオーリンズで酔っぱらっていた。考えは頭のなかを堂 アルコール性譫妄症の幻覚みたいな常識はずれの問題にア。フロー 堂めぐりしていた。スコッチはその上等の緩和剤であり、優秀なブチするのに、節酒は禁物である。とはいえ、たまたま知ることにな レーキだった。自制力を取り戻す必要があった。ほとんど奇蹟的なったその科学が、理論的にまったく可能なことをケルヴィンは知っ 能力を得た今、思いがけない事態が起きないうちに、効果的にそれていた。ただし、今の時代においてではない。はつくしょんー を利用できるようになりたかった。サ 1 ンか : 要領は、正しい問題を提起し、それを、溺れているときや、あの 七本指の手に不気味な棒状の武器を握って 彼はホテルの一室にすわりこんで、スコッチをがぶ飲みした。理ひげのアンドロイド いるやっ 詰めでいくんだー の脅威にさらされているとき以外の場合に用いること くしやみをした。 ど。問題を見つけよう。 問題は、もちろん、彼じしんの心と未来人の心との接触の機会が だが、未来人の頭のなかのいやらしいこと。 少なすぎることだ。しかもラボールがとれるのは、危急の場合だ と、とっぜん、酔った加減で頭がすっきりしたのだろう。ケルヴ け。アレキサンドリア図書館にはいるみたいなもので、一日に五秒インは、そのもうろうとした未来世界に内心ひきつけられている自 だ。五秒では、翻訳にとりかかるヒマさえありやしない : 分に気づいた。 健康と名声と富か。彼はまたくしやみした。あのロポットは、大未来世界の全体的なパターンを見ることはできない。だが、なぜ 嘘つきだったのだ。健康状態はますます悪くなっていくようだ。い か感覚的にわかるのだった。そちらの正しいことが、ここよりもは ったいあいつはなんだ ? どうしてまた、あんなところへしやしやるかに優れた世界であることが、わかるのだった。そこに住む、そ りでてきたんだろう ? 未来からこの時代にとびこんだ、といっての未知の男になることができれば、すべてがうまくいくだろう。 いた。だがロポットはみんな嘘つきだ。理詰めでいかなくちゃあ。 男たるもの、最高のものを願わねばならない。彼は苦々しい気持 どうやら未来は、フランケンシ = タイン映画のキャストみたいなで考えた。おっと、それにしても、彼はビンを振った。いったい、 いわゆる人間に 連中でいつばいらしい。アンドロイド、料ポット、 どれくらい飲んだんだ ? 気分はよくなっていた。 こ . 2

7. SFマガジン 1969年1月号

ロポットはロ早こ、つこ。 冫しナ「この時代の人間のだれよりも幸福に暮壁が、板金よろいのように彼の心をつつんだ。実用的な。ポ , トを 6 らせるだろう。問題はすべて解決できる , ーーサーンも含めて。待 0 つくることはできない。それは知 0 ていた ~ 聞いたことがあるのだ ィリノイ州中 ていろ」ロポットはあとずさりすると、。ヒオリア 彼は新聞記者ではなかったか ? 央部の都市 そうだとも。 東にはまったく縁のなさそうな、カーテン代わりの東洋絨緞のかげ に消えた。 喧騒と人ごみが恋しくなり、射的場に行くと、アヒルを二、三個 沈黙がおりた。 撃ちおとした。、平たいケースが、ポケットのなかで燃えていた。腕 ケルヴィンは変貌した腕時計から、手のなかにある平たい謎めい時計のにぶくひかる金属面のイメージが、記憶のなかで燃えてい た物体に目を移した。それは、たてよこ約二インチ、女性の化粧道た。知識の漏出と、すぐそのあとの充填の思い出が、心のなかで燃 具入れくらいの厚さしかなく、側面の凹みには押しボタンがついてえていた。ほどなく。 ( ーのウイスキーが彼の胃のなかで燃えてい いた。 それをポケ , トに入れると、一「三歩前進した。インチキの東洋彼がシカゴを出たのは、たびたびぶりかえす、わずらわしい副鼻 絨緞のうしろを見たが、小屋の帆布の壁に、風にはためく切り裂き腔炎のためだった。。 こく変りばえのしない¯ 一。田鼻腔炎である。精神分 口ができているほかは、からっぽだった。ロポットは、・ コウ すらかって裂病でも、幻覚でも、壁のなかから聞える叱責の声でもない。 しまったようだった。ケルヴィンは裂け目から外をのぞいた。オー モリやロポットを見るようになったからでもない。あれは本当はロ ンヤン・。、 , ーク埠頭娯楽センターの明かりが見え、喧騒が聞えるだポットではなかったのだ。あたりまえの解釈があるはずなのだ。そ けだった。あとは、太平洋の、銀色をちりばめた、ゆれ動く黒い海うに、きまっている。 面。海岸の崖が目に見えぬカーヴを描いていて、遠くにマリブのか健康と名声と富。もしも すかな灯が見える。 スワーミ 小屋に戻ると、あたりを見まわした。インドの賢者の衣装を着た その考えが、稲妻のような衝激とともに、頭のなかにとびこんで 肥った男が、ロポットの指さした彫刻のある金庫のかげで意識を失きた。 っていた。彼の吐く息と、状況の推理から、ケルヴィンは男が酔っ そして別の思考。おれは気が狂いはじめてるー ばらっていたことを知った。 無言の声が何回も執拗に囁きはじめた。「サーンーーーサーン 途方にくれて、ケルヴィンはまた神の名を唱えた。とっぜん彼サーンーーーサーン は、アンドロイドのサ 1 ンとかいう誰れか、あるいは何かのことを そして別の声、正気と安全の声が、それに応え、それを呑みこん 考えている自分に気づいた。 だ。半ば声をだして、ケルヴィンはつぶやいた。「おれは、ジェイ 星うらない : : : 時間 : : : ラボール : : : やめてくれ ! 不信の防御ムズ・ノ = ル・ケルヴィン。新聞記者た , ーー特集記事、取材活動、 ん こ。

8. SFマガジン 1969年1月号

「待て」ロポットは命じた。「きみはわたしに不信感を抱きはじめないだろう。だが彼自身と比べれば、おそろしく正気だった。非ュ ている。どうやら強盗のアイデアを吹きこんだのを後悔しているよ ークリッド幾何学のもっとも複雑な原理を、子供部屋にいるころマ うだな。そそのかしにのって実行しはしないかと。それは安心してスターしてしまった人間の正気だった。 よい。きみから金を奪って殺し、犯行を隠すこともできる。しか 感覚は、頭脳のなかで一種の共通語、万国語に合成されていく。 し、わたしは人間を殺すことができないのだ。代わる手段として、 一部は聴覚的なもの、一部は視覚的なもので、ほかに嗅覚や味覚や きん 交換経済の利用がある。少量の金をくれれば、お返しに何か高価な触覚も感じられる。よく知っている感覚もあれば、まったく異質な ものをあげよう。そうだな」多面体の目は、天幕のなかを見わたすものがつけ加えられている感覚もある。またそれは混沌としてい と、すこしのあいだケルヴィンに射るような視線を注いだ。「星うた。 らないは」とロポットはいった。「健康と名声と富を人間が手に入 こんなふうに : れる助けとなる。しかしそれは、わたしの専門ではない。だが、ロ 「ーー今季は、大トカゲが増えすぎているーーー飼いならされたスレ ジカルな科学的方法で、きみに同じものを贈ることはできよう」 ヴァーはみんな同じ目付きだな、カリストではそうでもないが 「ほうーケルヴィンは疑わしげにいった。「いくらかかるんだ ? もうじき休暇だーー銀河系がいい 太陽系は狭くるしすぎる どうしてきみはその方法を使わないんだ ? 」 あしたはバイアンドするか、もしスクエア・ルートラとアップスラ 「わたしには、ほかにしたいことがある」ロポットよあ、ま、こ、 。しし冫しイディング・スリーカーーー」 った。「これをとれ」カチャリと短い音がした。金属の胸のパネル だが、これは言語で表記したものにすぎない。主観的には、それ が開いた。ロポットは小さな平たいケースをとりだすと、ケルヴィ ははるかに複雑なディテールを持つ、恐るべき代物だった。さいわ ンにわたした。ケルヴィンは無意識に、冷たい金属のケースを両手い反射作用がはたらいて、ケルヴィンの指はほとんど瞬時にボタン で隠すように持った。 から離れた。彼はかすかに震えながら、そこに立ちつくした。 「気をつけて。ボタンはまだ押すな。指示を 今では怯えていた。 だがケルヴィンはすでに押していた : ロポットはいった。「わたしの指示を受けてからラボールをはじ 彼は、いわば制御のきかなくなった車の運転手だった。何者かめるべきだったのだ。これで困ったことになる。待て」ロポットの が、頭のなかにいるのだった。精神分裂病みたいに、二本の道をつ目の色が変化した。「うん : : : サーンが行動を起こした : ・ ・ : たしか っ走る車であり、スロットルを握りしめている彼の手もそれを停めだ。サーンに気をつけろ」 ることはできなかった。精神的なハンドルは故障していた。 「おれはいやだよ、こんなものに関わりたくはない」ケルヴィンは だれか別の人間が、彼の頭のなかで考えているのだ , 急いでいった。「そら、これは返すぜ」 人間ともいえない。ケルヴィンの標準からすれば、正気ともいえ「それでは、きみはサーンに対して無防備になる。装置は持ってい かね 4

9. SFマガジン 1969年1月号

この物語は、。こうして終った そして一生を幸福に暮らした : ・ ジェイムズ・ケルヴィンは、彼に百万ドルを約東した赤い口ひげ の化学者に、カのかぎり思念を集中した。それは、たんに化学者の これは、物語の中間部分 ル 頭脳に思考波を同調させ、精神的結合を確立するだけの問題だっ帆布のカーテンを押しあけたとたん、何かーー無雑作にそこらに た。前にも、やっていることである。だが、それが、今までになく 引っかけられていたロープだったーーーが顔にぶつかり、角ぶちメガ 重要なのは、これが最後の機会だからだった。彼はロポットにもらネがずりさがった。同時に、鮮やかな青みがかった光がひらめき、 った装置のボタンを押し、精神を集中した。 彼の無防備な目を射た。所在感がなくなり、すべてが移り変わって はるかかなた、無限の距離を越えて、精神的結合の相手が見つか いくような奇妙な感覚が急に襲ったが、それもほとんど一瞬に消え 目の前のものが、安定を取り戻した。彼はカーテンをおろし、そ 彼は思念のタイト・ビームをしつかりと固定した。 ーーーあなたの未来を知ろ の上にペンキで書かれた文字「星うらない そしてビームに乗った : う」をふたたび見えるようにしたーーそして、その奇妙な占星術師 赤い口ひげの男は目をあげ、ロをぼかんとあけると、嬉しそうに を見つめたまま立ちつくした。 顔をほころばせた。 占星術師はーーーそんな、ばかな ! 「おう、あんたか ! 」と男はいった。「来てたとは知らなかった。 よかったよ、この二週間、捜し続けてたんだ」 ロポットは、感情のない、正確な言葉でいった。「きみは、ジェ 「一つ教えてくれ , とケルヴィン。「あんたの名は ? 」 イムズ・ケルヴィン。新聞記者だ。年令は三十才。独身。医師のす 「ジョージ・べィリーだ。ところで、あんたの名前は ? 」 すめで、きようシカゴからロサンジェルスに着いた。そうだね ? 」 だがケルヴィンは答えなかった。ボタンを押すとラボールが確立 びつくり仰天して、ケルヴィンは神の名を唱えた。そしてメガネ されるこの装置について、ロポットが教えてくれたもう一つのことをかけなおすと、以前書いたことのあるいかさま師の暴露記事を思 が頭にうかんだからだ。彼はボタンを押したーーー何事も起こらなか いだそうとした。奇蹟みたいに見えるが、こういったものの裏に った。装置は使えなくなっていた。その仕事は終ったのだ。という は、何かわかりきった仕掛けがあるはずなのだ。 ロポットは多面体でできたその一つ目で無表情に彼を見つめた。 ことは、明らかに、彼がついに健康と名声と富を手に入れたことを 意味する。むろん、ロポットがまえもっていったことだった。装置「きみの心を読んだところ」それは、ペダンティックな調子で続け は、特殊な一つのはたらきをするために組みたてられたものだっ た。「今年は、一九四九年であることがわかった。計画を修正せね た。欲するものを彼が得た今、それはもう動かなかった。 ばなるまい。一九七〇年に着くつもりだったのだ。きみの助けを借 りたい」 ケルヴィンは百万ドルを手に入れた。 っこ 0 こ 0 2

10. SFマガジン 1969年1月号

とはしたくないのに気づいたのだ。今ここで起こっていることよ一 り、どういうものかもっとおそろしいのが、、あの異質な頭脳のなか - 冫。しることだった。 彼は化粧台の前に立っていた。鏡のなかでは、指のあいだにある - 片眼が彼を見つめていた。メガネのきらめくレンズをすかして見て一 いる目には、気違いじみた光があった。だが、どうやら自分の目の一 マ ようだった。彼はおそるおそる手をどけた : ・ レ年 レ この鏡は、サーンのほとんど全身をうっしだした。見なければよ一 モデウ かった、とケルヴィンは思った。サーンは、何かつやつやしたプラ アヒグ次 コ スチックでできた、膝までの白いプーツをはいていた。ターバンと - ブーツのあいだには、同じつやつやしたプラスチ , クの、申しわけ一一 タ一作京 , い正 , 程度の腰巻きのほか、何も着けていなかった。非常にほっそりした - 体格だが、活動家らしい。ホテルの部屋にひょっこり現われてもお かしくないほど、活動的な印象を与えた。その肌はターパンよりも一 白かった。両手の指は、やつばり七本ずつだった。 ケルヴィンはふいに背を向けた。しかしサーンは狡知にたけてい 回 ス た。暗い窓ガラスの光を照りかえす表面に、腰巻きをつけた痩せた - 気一課 姿が現われた。はだしの足は、手よりもさらに異様だった。ラン。フ一 ? 計・フ ロロかガ の台の磨かれた真鍮の表面にうつった小さな歪んだ顔も、ケルヴィ - はヴ一子 ンのではなかった。 号作正宙イ界 月継校宇サ限 ケルヴィンは光を反射する物体がない片隅を見つけると、そこに はいりこみ、両手で顔をおおった。手にはまだ平たい装置を握って一 年 6 位 順 なるほど、そうか、彼は苦々しく思った。何にでも、付帯条件が一 あるんだ。サーンがこう毎日現われるなら、こんなラボール装置が あったって何の役にたっ ? おれが気が狂ってるだけかもしれん L- - = 一口ロ 71 っっ 0 4 LO ・ 0 ・・ 0 0 ・ 0 0 0 ・・ 0 0 0 ・・ 0 0 ・・ 0 ・ 0 0 0 ・ 0 ・・ 0 ・ 0 ・・・ ・ 0 0 0 ・ 00 0 0 1 点台の評点が出たのは , まったく久しぶり , 去年の 7 月号の 『子供の部屋』 ( 1.84 ) 以来です。物語がきわめて SF 的展開に入 ったためと思われます。また 2 , 3 , 4 位が接戦 , 4 位が 3. とい う数字にご注目ください。 本号掲載の全 10 篇に対し , 順位をつけて小社編集部人気力ウンタ ー係 ( 住所は目次参照 ) あてお送りください。住所・氏名・年令 を必ず明記のこと。〆切は 1 月末日。抽選で 5 名の方にハヤカワ S F シリーズ最新刊を進呈。今月は下記の方に『縮みゆく人間』 ( リ チャード・マティスン ) をお贈りします。 埼玉県鳩ヶ谷市坂下町 3 ー 7 ー 5 時田武美様 , 東京都中野区中央 2 ー 54 ー 6 野村草史様 , 愛知県名古屋市中村区長箴町ト 31 西口委佐 子様 , 島根県松江市南田町 69 本多一彦様 , 長崎県佐世保市汐見町 ー 12 土山方今村実様