そういいながら、彼女は蠍の塊りを丸め、 私は彼女に声をかけた。 「なあに : ・ 「何か、あなたの持ちものか、髪の毛をちょうだいな」 といって、私の髪の毛をぬきとり、その塊りの中にねり込んだ。 精薄児独特の間のびのした声を出して彼女は手を出した。 「こうして、あなたの一部がこの中に入ったら、これがあなたの脳「のかたまりさ」 になるのよ 「伊藤さんのオバチャンとこにあったの」 しかし、私は眠かった。それに、こんなインチキ宗教論を聞かさ「そうだよ。今もらってきたんだ」 れるのにも、すっかりあきがきて、早くケリをつけて、眠りたいと「そう。どうもありがとー 髞った。 彼女はそれをポケットにしまうと、自分よりずっと年下の友だち 「だとしたら、もし、ご祈疇して、それが効かなかったとしたら、 を追って外に出て行った。 それはあなたの精神にさびがついていて、電流が流れないというこ 私は自分の部屋に戻ると、ふとんもしかずに畳の上に横になり、 とになるね , すぐに眠りに落ちてしまった。 彼女は手を止めて、私をにらみつけた。皮肉が通じたらしい やはり、自分でも祈疇師にいいすぎたと思っていたらしい。私は 「あたしは親切から、あなたを助けてあげようとしたのに : 夢を見ていた。祈疇師が怖い顔をして先頭に立ち、パンスケやャー ここでもう一押しすれば、寝に行ける。 公やダンプやおでん屋夫婦をひきつれて、私のところへ押しかけて 「親切は有難いが、ご祈疇の効果がなければ何にもならないさー 来た。 / 彼らは声をそろえて例のご祈疇を唱え、私をとらえるど私の そういって、私は立ち上がって、部屋の外に出た。 頭に釘を打ち込みはじめた。私は苦痛で目がさめた。 「いいわよ。そんな口のきき方するなら、もうご祈禧はしてあげな頭痛と、ご祈疇は現実のものだった。きっと、何もかけないで寝 いから」 込んだからか。せでもひいたのだろう。頭が脈を打つように痛かっ とげとげしい彼女の声がしたと思ったら、私の背中に何か物が当た。ご祈疇の声は ( さっき外に出て行った子供たちが、私の部屋の った。さすがにむっとしてふりかえったが、彼女は入口のドアをビ窓の外で、大きな声を出して唱えていた。毎日何回も祈疇師が唱え シャリとしめてしまった。彼女が投げたものは、例の私の脳をシンているので子供たちはすっかり覚えてしまったらしい。子供を教育 ボライズする蝋の塊りだった。私は苦笑しながら、それを拾い上げするのに、環境が大切だというのは本当だなと思う。 それにしても頭の痛さはひどいものだった。私はうめきながら立 そのとき、入口で子供の声がしたので見ると、管理人の娘が、四ち上ると、階下の炊事場に行って水道の蛇口をひねり、水を出して 五人の子供たちと外に出て行こうとするところだった。 頭を冷やした。しかし、 いっこうに痛みは去らない。それどころ 「アッコちゃん 。いいものあげよう か、だんだんにひどくなってくる。水をかけながら、私は脳貧血を 8 6
ロポットはロ早こ、つこ。 冫しナ「この時代の人間のだれよりも幸福に暮壁が、板金よろいのように彼の心をつつんだ。実用的な。ポ , トを 6 らせるだろう。問題はすべて解決できる , ーーサーンも含めて。待 0 つくることはできない。それは知 0 ていた ~ 聞いたことがあるのだ ィリノイ州中 ていろ」ロポットはあとずさりすると、。ヒオリア 彼は新聞記者ではなかったか ? 央部の都市 そうだとも。 東にはまったく縁のなさそうな、カーテン代わりの東洋絨緞のかげ に消えた。 喧騒と人ごみが恋しくなり、射的場に行くと、アヒルを二、三個 沈黙がおりた。 撃ちおとした。、平たいケースが、ポケットのなかで燃えていた。腕 ケルヴィンは変貌した腕時計から、手のなかにある平たい謎めい時計のにぶくひかる金属面のイメージが、記憶のなかで燃えてい た物体に目を移した。それは、たてよこ約二インチ、女性の化粧道た。知識の漏出と、すぐそのあとの充填の思い出が、心のなかで燃 具入れくらいの厚さしかなく、側面の凹みには押しボタンがついてえていた。ほどなく。 ( ーのウイスキーが彼の胃のなかで燃えてい いた。 それをポケ , トに入れると、一「三歩前進した。インチキの東洋彼がシカゴを出たのは、たびたびぶりかえす、わずらわしい副鼻 絨緞のうしろを見たが、小屋の帆布の壁に、風にはためく切り裂き腔炎のためだった。。 こく変りばえのしない¯ 一。田鼻腔炎である。精神分 口ができているほかは、からっぽだった。ロポットは、・ コウ すらかって裂病でも、幻覚でも、壁のなかから聞える叱責の声でもない。 しまったようだった。ケルヴィンは裂け目から外をのぞいた。オー モリやロポットを見るようになったからでもない。あれは本当はロ ンヤン・。、 , ーク埠頭娯楽センターの明かりが見え、喧騒が聞えるだポットではなかったのだ。あたりまえの解釈があるはずなのだ。そ けだった。あとは、太平洋の、銀色をちりばめた、ゆれ動く黒い海うに、きまっている。 面。海岸の崖が目に見えぬカーヴを描いていて、遠くにマリブのか健康と名声と富。もしも すかな灯が見える。 スワーミ 小屋に戻ると、あたりを見まわした。インドの賢者の衣装を着た その考えが、稲妻のような衝激とともに、頭のなかにとびこんで 肥った男が、ロポットの指さした彫刻のある金庫のかげで意識を失きた。 っていた。彼の吐く息と、状況の推理から、ケルヴィンは男が酔っ そして別の思考。おれは気が狂いはじめてるー ばらっていたことを知った。 無言の声が何回も執拗に囁きはじめた。「サーンーーーサーン 途方にくれて、ケルヴィンはまた神の名を唱えた。とっぜん彼サーンーーーサーン は、アンドロイドのサ 1 ンとかいう誰れか、あるいは何かのことを そして別の声、正気と安全の声が、それに応え、それを呑みこん 考えている自分に気づいた。 だ。半ば声をだして、ケルヴィンはつぶやいた。「おれは、ジェイ 星うらない : : : 時間 : : : ラボール : : : やめてくれ ! 不信の防御ムズ・ノ = ル・ケルヴィン。新聞記者た , ーー特集記事、取材活動、 ん こ。
「やあ、きのうはどうも 「した。ブタを割った。ほんと , 「帰ってから、ど : オしふやったらしいな。眠そうな顔してるぜ , 泣きながら答えているのは精薄児らしい 「ちょっと事件があったもんだからー 「でも、あの人帰ってきたわよ。ちゃんとご祈しながら割った 「何だい」 の。うそっいたって、ちゃんとわかるからー 「その内にゆっくり話すよー 「ほんと。ちゃんと割ったわよ 受験課目が違っていたので、清水とはそのまま別れた。 私には、やっとあの祈疇師のインチキ呪術が急に効きはじめてき た理由がわかった。 午後の試験が終って、帰ろうとしていると友だちが大勢校門のと ころに固まって、何やら声をひそめて話をしている。 彼女には霊力のようなものはなかったのだ。持っていたのは、あ 「どうした」 の子供だ。そういえば、私の頭が痛んだときに、あの蠍の塊りをい 「清水が事故を起こしたんだ。オートバイで、止まっているトラッじくり廻してたのは子供たちだった。彼女もそれに気づいて、あの クに突っ込んじまったんだ」 子を使って人を呪い殺していたのた。隣りの部屋で、彼女が精薄児 「それでケガは・ : をせめている声を聞きながら、それまでわかりながら、報復手段を 「それどころじゃない。死んだよ」 もたない自分がはがゆかった。 「ハラ。ハラになっちまったらしい 次の日、学校から帰って来ると、隣室ではまた精薄児を痛めつけ ていた。 私はガンと頭をなぐられたようなショックを受けた。 「ほんとに、どこへやったの。かえしなさい。かえさないとひどい 急いで帰ってみると、案の定、棚に置いた。ヒンクのガラスの豚が ない。しかしどなりこんだところで、昨夜の問答をくり返すだけでめに合わせるよ , 勝目はない。 「ごめんなさい。よっちゃんが持っていっちゃったの。ほんとよ , さすがの私もショックを受けて、その晩は安ウイスキーを一瓶の どうやら、今度は私の呪殺に失敗したことをせめているのではな んで寝てしまった。 いらしい 安物ウイスキーは焼酎と同じ宿酔いになる。息の臭いも、胸のむ「よっちゃんだって。それなら、すぐに探して、とり戻していらっ かっきも、そっくりだ。私は翌日のテストを振って、ふとんを頭ましゃい」 でかぶって一日中寝こんでしまった。 それからしばらくは、どなり声と泣き声がかわるがわる聞こえて 昼過ぎた頃、やっとむかっきがおさまって腹が空いてきたので、 きたが、やがて二人でどこかへ出て行った。 起きようとすると、隣室で祈疇師の声がする。 精薄児はその晩帰って来なかった。翌朝、近くの公園にしめ段さ 「どうして、おばちゃんのいう通りにしないの」 れた死体が見つかった。 4 7 ・
それから、彼女は、スリップの上のひもを肩からはずして、腰のるおいが出てきたような声がするが、それにしてもこのご祈の騒 あたりまでずり下ろした。彼女はプラジャーをしない習慣らしい ぎは相当なものだった。チン。ヒラも、さすがに同じ部屋にいてこの 6 そのままの姿でふらふらと立ち上がった。 騒音に耐えることはできないとみえて、ご祈の時間になると、階 「女の体つてえのは、こういうんだよ , 段を上がって自分の部屋に逃げ込む。 彼女は自分の体を両手でなぞるようにして、 「ほら、上がって来たぜ。たしかめてみるんだな」 「胸はこういうふうにふくらんでなきゃいけないんだ。あの女はど「ようし」 うだい。ペチャンコで、ユタンボに梅干をつけたみたいじゃないか , 彼女はそういうと、体の中ほどに一まとめに丸まっていたナイロ ダンプはそんな彼女には目もくれず、焼酎のコップを口に運ぶのン製品を、いっしよくたにずり下げ、とんとん足ぶみをすると、体 に忙がしそうだった。 には安香水以外には何もつけていない状態となった。そして、その 「そうだろ。学生さん , ままよろけるように廊下に出ると、彼の部屋に入って行った。 ダンプに無視された彼女は私にからみはじめた。 「なんだい。あいつは」 「あたしの方が、ずっと魅力的だよね。おまけに、道具だっていし ダン。フは無責任な声でそういうと、瓶の底に残った僅かな焼酎を んだよ」 ラッパ飲みに飲み干して、空の瓶を畳の上に投げ出すと、 あの時、なぜ私が彼女に欲望を感じなかったのか理由はわからな「じゃ、俺も帰って寝るか , 。しかし、飲み慣れない焼酎をコツ。フ一杯一気に飲んで、女どこ と外に出て行った。私は下の部屋から聞こえてくるご祈禧のリズ ろではなくなっていたのかもしれない。とにかく、すべてがうるさ ミカルな騒音を聞いているうちに、脳貧血でも起こしたように、急 く、一刻も早く眠りたい気分になっていたからかもしれない。 激に眠りに落ちてしまった。 「そんなこと、俺の知ったことじゃない。 とにかく、、あのチン。ヒラ どのくらい寝ただろうか、私はすさまじい悲鳴と、叫び声で目が には、あのババカいいんだろ。。 へチャンコな ' ハストが魅力かもしさめた。声はチン。ヒラの部屋の前でしている。パンスケと・ハバアが れないし、ニワトリのガラみたいな手足がいいのかもしれない。 タ何事かいい争っているらしい。私ははっとしてとび起きた。まだ デ食う虫も好きずきというからね」 焼酎で体中がぶんぶんするし、吐く息がアルコールの分解したいや 「ようし、それなら、あのチン。ヒラに聞いてやる。彼女とあたしな臭気がするが、たとえ三十分か一時間でも寝た後の頭には、この と、どっちがいしカー 騷ぎの原因がはっきりわかった。さっきパンスケは裸になってチン 「結構だね。おやんなさい」 。ヒラの部屋に押しかけた。おそらく酔いどれた全裸の女にくどかれ そのとき、タイミングよく、下の部屋から例の騒音がはじまった。 て、それをはねつけるほどの理性も意志もチンビラにはあるまい もっとも、男に不自由しなくなってから、例のキンキン声に多少うその現場にご祈薦の終ったババアがやって来たのだ。
こらした。 三十五 : : : 三十四 : : : 三十三 : 突然、すさまじい衝撃が船尾の方向からどうんとおおいかぶさっ るのだった。 てきた。一瞬すべての照明が消え、船室内の固定していない物体が 「右舷レスポンス 0 ー ョウレのいつもと変らない声が操縦士の「一ウのイヤホーンなだれのように船尾方向〈吹「飛んだ。。 ( イ 0 , ト。ラン。フが無数 に流れこんできた。強度というのを = ウレはなぜかレスポンスの閃光とな 0 てひらめいた。「ウは無意識に非常脱出用の船室切 OE という云い方をする。おそらく = ウレがむかし所属していたど離し装置のレ。 ( ーを握りしめた。一瞬のうちに作動をはじめたあら こかの宇宙船技術者の集団での仲間うちのそれが云い方ででもあ 0 ゆるダメージ・ = ント 0 ールのパワー = = ' トがのサインを出 たのだろう。宇宙船技術者はみな、船内の装置の呼び方やさまざましはじめた。と 0 さにそれを視界の端におさめると、「ウ「は送話 な用語について、それそれ特有な呼び方をする。航路管理局や宇宙器に向 0 てさけんだ。 「非常脱出用意よし ! 」 省はそれをたいへんに嫌ってきびしく禁止もしているが、クルーの 「そのまま待機 ! 」 中ではごくふつうに使われている。今も操縦士のコウマの全身にヨ ョウレの声がイヤホーンの中に近づいてまた遠のいた。もう一 ウレの言葉が強力な鎮静剤となって浸透していった。コウマは大き 度、軽い衝撃がおそってきた。暗黒の中で青緑色のレーダー・スク く息を吸いこむと、額のあぶらあせを手の平でぬぐった。 リーンに無数の金色の波紋がゆれ動いた。状況がまったくわからな 7 「左舷レスポンス 0 い中で ) 不安な一秒一秒が過ぎていった。ようやくョウレの声が聞え コウマは乾いた唇を送話器に寄せた。 第を「 0 0. 宿を、「三「ま 0 〉 0 、 " ~ ー ~ 0 ・第 0 ・ ~ 0 ・ハイロット 「ヨウレ、プレーキ・ロケットをし・ほろう 「大丈夫だ」 すぐョウレの答えがもどってきた。 「大気圏まであと一周。八十二秒だ。も ったろう。それまで」 プ八十一 = = = 八十 = = = 七十九 = = ・・七十八 = コウマは胸の中で必死に秒数を数えな がらレーダーのスクリ 1 ンにひとみを ・カー
気マク 0 ′′ /. 、 0 : ク ′、画訳へま ☆☆ン ツ真伊リ エナ ー龜第 ⅵ引山とし . 、こ - % ロポットの約束通り、彼は富と健康と名 声を手にいれた。未来人の頭脳をのぞき こむ不思議なラボール装置のおかげでー
って来るのにパッタリ出会った。 起こしてしやがみ込んでしまっ - た。 「頭の痛いのなおったの」 「どうしたの」 彼女はさぐるような目付で私の顔をみながら声をかけた。 ふり仰ぐと祈疇師が立っていた。 「うん。ご祈の声がしなくなったからね」 「頭が痛いーーーか。せをひいたらしい」 私はせいいつばいに皮肉な調子でいった。 私はやっと答えた。そのとたんに腹が立ってきた。 「おまけに、近所のガキどもが、あんたのまねをして、インチキ祈「おまけに忘れものも思い出したよ。どうやらご祈薦がない方が霊 験あらたかなようだね」 疇をわめきやがるから寝てもいられやしない」 彼女はしばらく私をながめていたが、ふと気がついたように、表「本当にそう思うの」 何やら、いやな目付で彼女はいった。 に出て行った。私はようやくの思いで自室に戻ると、窓をあけて、 うるさいガキどもをどなりつけてやろうと思った。しかし、私がど「頭痛というスイッチの方が、電灯がつくんじゃないかな」 「そう思いたければ、そう思っていることね」 なる前に声が止んだ。見ると、祈禧師が、精薄児に何かいってい 私は鼻先でふふんといって、アパートを出た。 る。子供たちはその周囲をとり巻いて、口々に何かいっていたが、 やがてうなずくと、例の蠍の塊りらしいものをとり上げて彼女に渡二、三日して、私が試験勉強をしていると、パンスケがやって来 こ 0 した。彼女はそれをしばらくこね廻すようにいじっていたが、やが て小さなものを引き出した。さっきこね入れた私の髪の毛らしい 「あたしの部屋に泥棒が入ったらしいよ」 おもちやをとり上げられた子供たちは、すっかり興をそがれたよ彼女は気味悪そうにいった。 うな表情で、祈禧師と精薄児を残して解散してしまった。私も静か「何かとられたの」 になりさえすれば、別に用もないので、窓をしめて畳の上に寝ころ「別に金目のものじゃないけどね。人形がなくなっているのよ」 「いわくでもある人形かい」 んだ。・ カキどもの騒音がなくなったせいか、頭痛はすっかりなくな 「ううん。ただのぬいぐるみだけど」 ってしまった。もしかすると、歯が悪いのかもしれない。歯医者に 行って来なければ、と思ったとたん、例のノートを置き忘れた場所「いやにかわいらしいものを持っているんだね」 を思い出した。徹夜のあと、歯をみがきに階下におりるとき、洗面「うん。子供の頃から、何となく持っていたのよ。でも、あんなも の、何だって盗んだんだろうね」 道具を入れる棚の上にひょいと置いたのだ。 がのっていた。今日返す約束だ「さあね。子供の泥棒じゃないか , 棚の上には上田から借りたノート といってから、二人は同時に気がついた。このアパート ったから、持って行ってやらないと、野郎は怒るだろう。私はそれ を持って階段を下りて行った。入口で、祈師が精薄児をつれて入由に歩き廻れる子供といえば、一人しかいない。 の中を自 9
四八〇は、ほっそりした身体つきの二〇五六に向っていった。 かせた。 「そうすると、彼もやつばり ? 」 「こうやって、手に力をこめずに撫でてやると、二〇五六はとても 3 二〇五六は澄んだ高い声でいった。 喜ぶんだ。寝るときだって、ひとつの寝棚にいっしょに入って寝る 「そうなんだ。・ほう 0 としてたからね。こ 0 ちにも覚えがある。すんだぜ : : : び 0 たりく 0 ついてると安心なんだ。・ほくのほうもね」 ぐびんときた」 「ずっと前から、そうだったのか ? 」 「わかるわかる。薄い膜がはったような眼つきだろう ? やつば 「いや、三週間ほど前から。夢を見はじめるようになってからだ り、こわい夢を見て泣いたのかな ? 」 な。二〇五六が目をさまして泣いているのを見て、夢の話をしてる 「だと思うよ。まだ聞いていないけど」 うちにおぼえたんだ。きみも試してみないか ? 」 四八〇と二〇五六はたがいに相手の身体に手をかけ、くつつきあ「ほんとこ、、、 冫ししの力い ? 」 って寝棚にすわっていた。身体を接触させていることで、快感を得「やってごらんよ。ぼくはかまわないから」 ているようだった。なにかしら妙な感じだ「た。五〇二は、同室者と、二〇五六が甲高い声でいった。大きな瞳は潤って、黒い水た のアリシア六三に対して、一度もそんな衝動をお・ほえたことはなまりのように光っていた。 かった。それは無意味なことだ : 彼はためらいがちに寄っていって、二 0 五六の隣りにすわった。 五〇二の奇異な眼つきを見てとって、四八〇は彼をさしまねい他人の体温がじかに伝わってくるのを感じるのは、はじめての体験 こ 0 だった。 「きみもこっちに来て、いっしょにすわらないか ? 二〇五六と身彼はおずおずと手を二〇五六の身体にまわし、無器用に抱きしめ 体をくつつけてると、なんとなく気分がよくなるよ」 た。相手のなめらかで繊細な頬の皮膚が彼の顔に触れた。彼の腕の 「どうして ? 」 中にあるしなやかな存在は、やや異質な匂いをはなっていたが、そ 「理由なんかない。つい二、三日前発見したんだ。二〇五六もいやの体臭は必ずしも不快なものではなかった。 がってない、そうだろう ? 」 微妙な震えが身体の深奥から湧いて、彼は二〇五六が自分の内部 「そうだな、ぼくはべつに : : : さわられるのは、、やな気分じゃなへしずかに入りこんでくるような、ひそかな快感をお・ほえた。 いけどー 彼がためいきを漏らすのを聞いて、二〇五六はくすくすとかわい 五〇二はあっけにとられて、身体をおしつけあうふたりを見つめい声で笑 0 た。彼があまりにも、しゃちほこば 0 ているのがおかし た。四八〇は、二〇五六のほそい首に手をまわして、喉のあたりをかったらしい やさしくくすぐりはじめた。ほっそりした身体つきの二〇五六は身「どうだ、気持がいいだろう ? 」 をくねらせていたが、やがてうっとりと眼を閉じて、愛撫に身をま と、四八〇がちょっとした優越感をこめていった。「気に入った
「もういいだろう。大人しくしな」 やはり、私の想像通りだった。チンビラの部屋の前の廊下で、ス リップの残骸とパンティーの名ごりを体につけた祈師と、そうい 私が声をかけると、力を抜いた。 う切れはしをまったくつけていないパンスケが女子。フロレスよろし「もういいわよ。おつばいから手を離してよ」 翌日からご祈禧の声が違ってきた。メロディ 1 もちがえば、リズ く、髪の毛をつかみ、爪をたて、噛みつきながらくんずほぐれつの 大乱戦を演じている。そのそばにはチン。ヒラが、いずれに手をかムもちがう。何をいっているのかはわからないが、まがまがしい感 ししまま し、いずれを押さえるべきか決断もっかぬままに、ぼんやりとつつじがすゑ彼女は本気でパンスケを呪い殺すつもりらし、。、 でのご祈疇はうるさいながらも、何か陽気さがあったが、今度のは 立っている。 低いつぶやきに似て、時間も長くかかるようになった。 「この・ハイタ。殺してやる。呪い殺してやる」 「・ハカヤロ、おまえみたいなインチキご祈禧で殺せるものなら殺し「いやだねえ」 昼前になって、昨夜の下着を取りに来たパンスケは体をすくませ てみやがれ , 「イタイ。殺してやるとも。おまえの腹わたがぶちまかれるようなるようにしていった。 「だけど、あいつのご祈疇なんか、効くわけはないけどねえ。感じ 死に方をさせてやる。呪いで、。ハラ。ハラにして殺してやる」 とにかく、このままほっておいては、呪い殺す前に、両方とも相が悪いよ」 ししゃないか」 手の ( ラワタをつかみ出しかねまじき勢いだ。私は、そのときよう「しかし、感じが悪いだけですめば、、ゞ やくとび出して来たダンプに目くばせると、それそれパンスケと祈「それはそうだけど。でも、さっき部屋の前をうろうろしていたし 禧師の後から抱きついて無理やりに引き離したしかし、汗だかよさ、管理人のとこの・ ( 力をつかまえて、あたしのこと指さして何か 、ったりしているんだもの」 だれだか血だかでぬるぬるして暴れている裸の女を押さえつけるのし 「管理人のとこのバカ娘は、彼女のごひいきだぜ。別に今はじまっ は楽じゃない。ともすればするりと手が離れる。するとそいつは、 後からはがいじめにされて、飛ディがあけつばなしになっている相たことじゃあるまいに、それに、部屋の前をうろついていたからと しいじゃない って、何もデパもっていたわけじゃないんだから、 手に、痛烈な一撃を加える。すると相手も痛さとくやしさで身をよい じって、ようやくとり抑えたこっちの下腹をけり上げる。業をにやか」 したダンプは、自分の腕の中で暴れ廻る祈師の横面をいきなりな「そうね。呪いだけだったら、どうせききっこないんだから、気に ぐりつけた。彼女は廊下の壁にたたきつけられるようにしてふっとしなくてもいいね、 たしかに、ご祈禧はきかなかったようだ。一週間たってもパンス ぶと、どたりと倒れた。そして声を上げて泣き出した。ああいうの ケの血色はますますよく、商売も繁盛しているようだった。 を号泣というのだろう。 祈疇師が方針を変えたという情報が入ってきたのは、ポン引き兼 パンスケもこれに毒気を抜かれたらしい 5 6
ロケットを建造し、勇躍月へと向かうのである。ところがこれも定に船艙からしのび出た技師の手によって、ロケットの外に閉め出さ 石のひとつだが、船艙の中に、かって博士がクビにした技師がしのれてしまったというのである。食糧も残りすくないらしい。そこに びこんでおり、二人に向かっていきなりビストルを発射する。きわ地球では博士の財産をめぐる騒動がおこるが、偶然にも、もう死を どいところで直撃を避けはしたものの、弾丸はロケットに積まれて予期して送ってぎた博士の遺言によってうまく解決しそうになる。 いた受信機に命中して木っ端みじんにしてしまい、地球は、ロケッ ところが、サインはないし、第三者にその声が博士だと証明する方 ト側からの通信を受けるだけしか消息がわからなくなる。無重力状法はないし、それが遺言として効力があるかどうかが大問題とな 態の中で大格闘を演したあけくにやっとのことでそいつをとり押さ る。やっとのことでその声を〈フォノ・フォト・グラフィカル・プ え、縛りあけて船艙に放りこんだまま、ロケットは無事に月世界へ ロセス〉で分析して、その。 ( ターンがまぎれもなくジャーヴィス博 到着する・刻々と入る博士からの月面の状況にわき返る地球基地た士の声であることを証明できたのはいし 、としても、月面上の博士の が、五日ほど経 0 たある日、これからロケ , トを出て山の頂上を調命はもはや風前の灯、どうやら、技師の方は早いところ片をつけよ 査に向かうという信号を寄せたまま、ふつつりと消息が途絶えてし うと、銃を持ってロケットから外に出て、岩蔭にかくれる博士たち まう。焦燥の色濃い地球基地に、突然かすかな信号が入ってきた。 めがけてブッ放しはじめたらしい。そして通信が途絶えた。博士の 博士の携帯無線機から発信されたもので、博士と助手は、留守の間 死はもう疑いのない事実。そこに天文台から入ったのは、月面上の ロケット が出発したという報告。地球上は沈痛な空気に包まれる。 しかもひどいことには、その技師が仮に、無事、地球に帰りついた としても、そいつを殺人罪として死刑にするわけには行かないとい う。なにしろ刑法は地球上の犯罪にしか適用されないのである。そ うこうしているうちに、ロケットはぐんぐん地球に近づいてきた。 やがて大気圏に突入し流星のような光を放っロケットから、。ハッと 挿脱出した男が一人、つづいてもう一人。なんと、地球に戻ってきた の のは悪党の技師ならぬ博士とその助手 ! 例の技師はどうなったの 女 かと、無事に着地した博士に聞いてみると、月面上で死んでしまっ 月 たという答えである。なぜ ? と聞くと、自分の弾丸が背中にあた ったという。 つまりは孫衛星の仕業であった。月のは地球の六分 の一しかない。ズドンと一発、技師の発射した弾丸はおそろしいス ビードで月を十、圏コースでぐるりと一周して、見んごと技師の背中 を貫通し、今もなお月のまわりを回っているだろう、めでたし、め でたし というお話。 係衛星と言われれば、ロケットか死体が月のまわりをまわってい 9