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検索対象: SFマガジン 1969年10月臨時増刊号
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1. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

、 0 これはあのほら穴のある干あがった峡谷へ行きつくまでの道々話 ないようにすばやくひきはなすことがどうしてもできなかった。 ようやくかれはワイヤに鋼鉄のかたまり二個をおもしにのつけてしてくれたことだ。 ワイヤがややのびるのを待ってから、ワイヤを切るための剪断機に たどりつくまでにどれほど苦労したか信じちゃもらえないだろう 十二トンの圧力を加えた。剪断機はイリジ = ウム・スチ 1 ルの合金な。あの年寄りがあそこまでたどりつくエネルギーをもっていたの が不思議なくらいだ。ここから二十マイルのあたりで車をとめて、 だったが、それがへこむくらいだった。 だがワイヤは切れた。大きなス。フリングにワイヤをしばりつけてあとはおしていかなくちゃならなかった。 おいたので、切れたとたんにばっとはなれた。このきれつばしを手あの辺の土地ときたらひどいもんだな。もしまだ金の面をおがん にいれるのに二度も切らなくちゃならなかった。それから両はしをでなけりや、くそくらえというところだ。砂と熱気とでつかい岩 合わせたら自然に溶接しちまった。両はしというのはきれつばしのと、そこらじゅうに落ちたら首の骨を折っちまうような裂け目があ いやはや ! った くつついた跡も、でこぼこ 方の切ロと機械の方の切ロのことだ おれはト 1 チラン。フやガソリンや発電機なんかを背負っていっ ものこらなかった。 た問題の裂け目にたどりつくとかれはロ 1 。フをだして近くにあっ さて、あんた方は、おれたちがあの装備をかついでここへ着いた ときのことや、車を雇って砂漠へ出かけていったときのことをお・ほた侵食された石柱にしつかりとしばりつけた。スリツ。フどめもつけ た。まずかれがおりて、おれは道具をおろしてからおりた。 えているだろうな。、その間、じいさんは子供みたいにはしゃいでい 兄弟、そこはまっくらだったよ。百五十ャードほどのぼるとサイ 「ケンプくんや」とかれはいった。「わたしはこいつを解読したんクスは壁の前で立ちどまった。かれの懐中電燈の光りで、数年ごし だよ。あのテープが読めるんだよ。それがどういうことかきみにわたいてきた野営のたき火のあとが見えた。 「ここだ」とかれはいった。「みんな、あんたの腕にかかっとる、 ことごとくわかるんだよ。 かるかね ? 人類の歴史のすべてが この地球上に、この地球に住む人々の上におこった出来事のすべてケン。フ。その三百年先のトーチランプがうまくいくかどうかーー・証 明してみたまえ」 、刀 おれは荷物をおろして仕事にとりかかったが、なんてたって容易 このテープがどれほど詳細に記録しておるかきみにはわからんだ ろう。だれがアレキサンダー大王をあのような過激な行動にはしらなこっちゃあない、たいへんな手間がかかった。・だがおれはやって せたか ? ペリクレスの愛人の名前は何というか、きみは知りたくのけた。這いこめるぐらいの穴をあけるのに九時間、そこを冷やす ないかね ? わたしは知っているんだ。失われた大陸のインディアのにまた一時間かかった。 ンやギリシアの伝説は ? フォート の火球は ? 鉄仮面の正体は ? その間じゅうじいさんは喋り通しだ。ワイヤを解読したっていう わたしにはわかっとるんだよ、きみ、わかっとるんだ」 協 9

2. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

の横っ面をガンとはりとばした。手かけんし おれは、チャーリ 1 ておこう。 : おれとここにいてくれ : : : 」 をふりかえ 0 た。ーー、すばらしく美しい、黒たつもりだが、チャーリーははねとんで、イオン・カーの〈りに頭 おれは、チャ 1 リー 人の若者の裸体がそこにあった。贅肉の一つもない、スラリとしをぶつけた。 「なぐってくれ : : : 」チャーリーは、のろのろと、起き上がりなが た、鞭のようにしなやかな体が、漆黒の、なめし皮のような皮膚に つつまれて、手をさしのべていた。投光器の光の中に、それは黒いら、また手をのばした。「おれは : : : あんたに、すがらしてほしい アドニスの塑像のようにかがやいていた。ひきしまって、しかもたんだ : : : でないと、おれは : : : あんたがしつかり抱きとめてくれな くましい胸と臀、長い脚ーー先のわずかに赤みをおびた黒いたくま ・パーカー。おとなになりたかった 「自分で立つんた、チャーリー しい陽物は、わすかに持ち上り、おれの手のふれるのをまちかまえ ら、おれにすがるな」おれは、新しい線源を、光線銃にチャージし るようにふるえている。 : ドラのことなんかうつながらいった。「興奮剤をのめ、三粒だ。ーー頭がしやっきりした 「おれと : : : おれと森へ行こう、・ : いっかのように、おれを抱いら、服を着てドラを探すんだ。三十分たったらいったんここへかえ ちゃっておいて : : : おお、・ : ってくる。 いいな」 てくれ : : : しつかりと : : : あんたはすごいセックス・マシンだ : どうな 抱いてくれ、・ : : : でないと : : : でないと、おれは : るかわからない ! 」 5 ・ : 」おれは冷酷にいっ 「ズボンをはけ、チャーリー・ なまあたたかく、ぬめぬめと おれは森へとびこんでいった。 た。「残念ながら、お前のような餓鬼は、おれの趣味じゃないん いっかお前を抱いて、そのことがはっきりしたんだ。もうした、いやらしい森だった。なめらかな樹木の肌が、息づきながら : お前がもうあと十セ肌をよせてくるようだった。はいって百メートルほど行くと、ドラ 十五、年をとれよ、、チャーリー・・ ンチ大きくなって、もう三十キロ目方がふえたら、そしたら抱いての宇宙服がぬぎすてられ、高い枝にひっかかっているのが見つかっ さらにしばらく行くと、 おとなになれよ、チャーリー・ ーカー : : : 餓鬼にた。彼女が自分で投げたらしかった。 やるよ や、金輪際わからない世界があるんだ。餓鬼なんてものア女と同じ靴が片一方あった。その先に、下着がふわりとおちていた。 だ。男の世界の仲間入りはできない。餓鬼なんて、何もわかっちゃ森の奥の、そこだけ木のはえていないまんまるな空所の中央に、 しとね ドラは、裸になって横たわっていた。草の褥の上に、白や黄色の花 いないんだ。おれにかわいがってもらうにやまだ早すぎるよ」 「おお、 e ・ : : : おお、・ : : : 」チャーリーは手をつき出しが咲きみだれ、冲天にの・ほった。ヒンクの月が、夢のように、花と雪 たまま泣き出した。「おれを抱きしめてくれ、おいてかないでくれ白の裸身を照らしている。周囲の闇の中に、瞳のない眼のように、 ポッと青白く光るいくつもの点は、発光茸らしかった・ : おれを一人にしないでくれ : : : どうなっちゃうかわかんない」 0 - 」 0

3. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

に去っていく灰色の巨人に眼をむけた。ひげと髪の毛を風になびか断崖のヘりから、海上にむかって突きでている、天然の石橋が見 せ、たたかいの大槌を幹のような肩に載せて、大股に歩き去ろうとえた。橋幅はきわめて狭い。凸凹のはげしい岩頭のあいだに黒々と 口をあけている、対岸のほら穴まで伸びているようだ。 している姿を、いつまでも見送った。 「ライコン、ここで待て。この径をたどるのは、おれひとりでたく アインゲルの姿が、ようやく視界から遠ざかると、エラークはラ さんだ」と、エラークはいった。 イコンにうなすきかけた。 小男はその言葉に頷こうとはしなかったが、エラークの主張はさ 「どうやら、えらい男を味方に得たらしいそ。あの男は、必要欠く べからざる同胞になってくれるだろう。だが、いまはーーーマヤーナらに頑強だった。 のことが先だ。もし、彼女がカルコラの秘密を本当に知っていると「そのほうが安全だからだ。ふたりそろって同じ罠にはまるわけに すれば、たとえ泳ぎ渡ってでも会いに行かねばならん」 はゆかん。もし、おれが日暮れまでに戻らなかったら、そのときこ 「その必要はないようだな」ライコンが口をぬぐいながらいった。 そ後を追ってくれーーーおぬしの手助けが必要になるのだからな」 「それにしても、うまいはちみつ酒だったぜ。まあ見てみろ。島に そういわれてみると、ライコンも、かれの主張に理を認めざるを はちゃんと橋が架かっておるではないか。狭い橋だが、渡ろうと思 得なくなった。かれはぶ厚い肩をすくめていった。 えばけっこう役にたつだろう。もっとも、あの女が、張り番に竜で 「わかった。おれはアインゲルのほら穴で待っことにしよう。なに も放っていなければの話だがな」 しろ、あのはちみつ酒はめつ。ほう旨いからな。あれをほったらかし ておく手はない。ま、幸運を祈ってるそ、エラーク」 アトランティス人はコックリと頷いて、橋をわたりはじめた。ど うやら、橋の下を覗きこまないほうが得策のようだ。岩にくだける 波の怒号が、橋の上まで伝わってきていた。海鳥が鋭い啼き声を発 していた。体の平衡をとりながら進むエラークの体に、風がはげし く吹きつけた。 ようやくのことで、かれは橋をわたり切った。沓が、微動もしな い岩盤をしつかりと踏みしめた。かれは振り返りもせず、穴の入口 へむかった。洞穴の中にはいったとたん、外のざわめきがうそのよ うにしずまった。 9 径は、下方に傾斜して伸びていた , ーー岩の間をくねくねと蛇行し郷 ているところを見ると、おそらく天然の地下道なのだろう、ゆかの かしこ海藻にうずみ尽くされたる高き尖塔に、 年ふりた青白きむくろ流れ寄る、 そは王侯と、恋する者どものむくろ、 恋女の甘きくちびると、暗殺者の短剣とによりて、 ふかで 致命の深傷を負いたるがゆえ、 もはや苦痛をなむることもなし 6 マヤーナ オペリスク ーー沈塔賦

4. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

しこみ、彼女が発揮する能力は「妻」あるある。いつまでも、どこまでも男と女とを彼らの反戦のスロ 1 ガンや生活、あるい いは「母」としての能力だけにとどめよう区別して考える、男女平等の思想だ。男女は、男女別を否定した服装などに、わずか とはかるのだから。 平等には、ひとつの大きなまやかしがあではあるが、しかしはっきりと読みとるこ このような夫をほ・ほ全面的に受入れな いる。男と女とを同一平面に置き、平等ですとができる。 限り、妻の結婚生活は成立していかない。 よ、と言ってみせることにより、男と女と「女らしさ」の否定、つまり男がおこなっ 妻も夫も、同時に「生活」の被害者であを永遠に対立する異ったふたつの種族にした「女」の定義を拒否することは、女性に り、妻にとっては「結婚」が、そして夫にてしまうのだ。 とっては、女としての情緒を結婚のために とっては「仕事」が、人間としての自分た 男と女とは、肉体的な差異を当然のことっかわないことを意味する。マイ・ホーム ちの将来を決定する重要な要素になる。 として完全に忘れたあと、人間として対立のなかで妻という女が持っていた情緒的な 核家族のなかの夫が外に出て働き、なんしなければならない。だのに結婚は、人間価値は、そのほとんどが存在しなくなる。 らかの報酬を持って帰り、妻が家にいて夫の対立をうばい、男と女の対立だけを残結婚、そしてそのあとに来る核家族は、 じつにあっさりと変質しなければならな の給料で家計をきりもりしていく、というす。この対立関係は、結婚とほ・ほ同時に、 「女らしさ」の提供が夫への依存の代 生活が常識になったのはいっからだろう単純な依存関係に変質させられる。 か。この常識が夫にも妻にも有効に作用し 肉体的なちがいだけを土台にして考えた償にはなり得ない結婚とは、どのような結 えないことが判明したあと、それではこの場合の男と女とが、これからあとの社会で婚だろうか。一種の同志的な結合としての 常識はいったい誰のためにあるのか。 持ち得る最大の未来は、いまの社会に生き結婚しか、考えられない。なんらかのかた 経済の各部分を独占していく資本主義にている、男と女とをわけて考える本能が完ちでのクリエティヴな作業を共通の生活に した、同志的なつながりあいだ。同志とし とっては、核家族が無数に散らばっていた全にとりはらわれ、忘れられた状態だ。 ほうが、いまのところとりあえず便利なの 男と女とをわけて考えないやり方が、男ての夫婦の、その共通の生活のなかでの能 力と役割りは、対等である。 だ。しかし、本格的に独占を目ざすならだか女だかわからない人間の出現として、 これまでの結婚は、ひとっところに定着 ば、核家族というこまかな枠などないほう具体的なかたちを持ちはじめた事実を、歓 がはるかにやりやすい。だが、いまの資本迎しなくてはならない。男の側におけるして「人生」を生きることを、価値とし た。しかし、定着していてはクリエティヴ 主義は、そこまできていない。結婚をけし「男らしさ」の放棄であり、女の側では かけ、核家族の生産にはげむ方向に、現在「女らしさ」の否定だ。「男らしい」男はなことをおこなえない社会になったなら、 の資本主義は、向っている。 資本主義体制の食いものであり、「女らし動くことが価値の基本になるから、たとえ 」女は、「男らしい」男の犠牲となってば住む場所としてのホームは、その機能も ひとりひとりの人間を、この資本主義とい おなじ方向に向かわせるためには、ひとま一生を終る事実が、たとえば知的精神主義形態も、根本的に変化せざるを得ない。ど ず結婚させねばならない。 上の冒険者であるヒッ。ヒーたちには、わかう変化するかは、なにがクリエティヴな作 そしてその結婚には、ひとつの大前提がりはじめたのだ。わかりはじめた証拠が、業とされるかによって、さまざまにちがっ 5

5. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

然ながら少し心配になっていましたし、時刻も一時になりかかってれほど驚きませんでした。わたしはかれに楽しい旅でしたかという いたのですから。でもかれは微笑して親しげに手を振りながら何かようなことを言い、かれはええと答えましたが、どうも疲れている ようで、そばまでやってくると、トップを下ろしていた車の側面に 言っていましたが、まだだいぶ遠く離れていたので、何を言ってい るのかわかりませんでした。でもかれはそれまでよりずっとはっきもたれかかりました。 り見え、背が高く黒くて、いますぐには名前が思い出せませんがイ これまでに申し上げておかなかったかもしれませんが、かれは大 ギリスの映画俳優にどこか似ているように思えました。それまでに変な美男子で、わたしたちはしばらく話をし、わたしはイグニショ ナしふ少なくなっていたガソリンを節約するため わたし口紅をぜんぶ吸い取ってしまっていたはずなので、わたし化ンを切りました。ど : 粧道具を取り出して少しつけました。そのとき、かれはたぶん二十で、前にも言ったとおり車がほとんど通らない二〇二号線のまん中 フィ】トほど離れた道ばたまで来ていました。 で立往生してしまいたくなかったからです。 かれはわたしにわからないことを何か言いましたが、わたしが首 ジガーはわたしのことを尋ね、わたしはかれにいろいろ話し、そ を振ると英語で話しはじめ、星の彼方から挨拶しに来たとかいうよれからかれは自分のことを話しはじめました。かれはその空飛ぶ円 うな何か変なことを言いました。それでわたし、ハローとか何とか盤にただひとり乗っていたのです。だって、地球までの長い旅は何 といっても相当危険なものですから、当然同じ円盤におおぜいの人 馬鹿みたいなことを答えたように思います。 申し上げましたとおり、かれは親しげにしており、鉄砲などは何を乗せたりしないんです。それでわたしが、こんなに家から遠く離 も持っていませんでしたが、着ているをのはちょっと変でした。われたところへひとりだけでとは本当に淋しいでしようね、というよ たしはアクセルを踏んですぐにその場から離れるべきだったのでしうなことを丁寧に言うと、かれはそうだが、いまはわたしに会った ようが、ただそんな失礼なことはできませんでした。それまでのと からそれほどでもないと言いました。 ころ、かれは完全な紳士だったのですから。 それからジガ 1 は、かれの空飛ぶ円盤を御覧になりませんかと言 次にかれが言ったのは、かれの名前はジガーだということで ( とうのも忘れていて失礼しましたと言い、わたしは映画に出てくるも の以外は一台も見たことがないと答えました。それでわたしは車か にかくそう聞こえたのです ) 、わたしはかれに、わたしはジェニー だと言いました ( それはわたしの本当の名前ではありませんが、ら下り、かれはわたしの腕を取って空地を横断してゆき、そのとき を立てられるのを防ぐためにその名前にしておきます : : : つまり、 かれは紳士なんだなって思いました。 わたしはジェニーではないわたしの本名を言ったのです ) 。 わたしたちは空飛ぶ円盤のすぐそばで立ちどまりました。それは かれは、わたしに会えて嬉しいと言い、かれは金星から来たのだ近くで見るとずっと大きく、わたしは月光を浴びて銀色に光る金星 からの宇宙船のそばに立っているなんて、すごいことだわとぞくぞ と言いました。わたしがそれまでに読んでいたものにすると、そう いう代物がたくさん来るのはそこからだそうですから、わたしはそくしました。そのとき初めてジガーは腕をわたしにまわしたんだと

6. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

とは速く伝わるもので、わたしのポーイフレンドの耳に入り、かれ国際問題を抱えている女の子にとってそれは結構なことですが、お わかりのようにわたしの問題はそれよりずっと大きなことですわ。 はひどく怒ったのです。 かれは初めのうち怒っていませんでした。初めのうちかれは空飛それにもちろんジガーは正確にはわたしの良人ではありません ぶ円盤のことなど全く信じませんでしたし、わたしも自分だけの秘が、かれはそれに近いものと言っていいでしようし、わたしがこの 密にしておけばよかったのです。でもお喋りなわたしは、本当に起町に住みつづける積りなら、そうなってくれたほうがいいのです。 こったのだということを証明しなければいけなくなり、わたしはか それでもしあなたの国連に、こうした空飛ぶ円盤の人々の行動を れを二〇二号線へ連れてゆき、その場所を見せました。 記録している局があり、かれらの行先についての記録があるなら、 かれが言ったことをお聞かせしたいぐらいですー わたしをその局の方に紹介していただき、ジガーの居所を突きとめ かれが怒鳴り文句を言い続けていたことでわたしがかれに証明しることができれば、本当にありがたいと思います。もしかれの政府 たのは、空飛ぶ円盤を見たということではなく、もうひとつの点だ がかれに、たったひとりで空飛ぶ円盤を動かすことを任せたのな けだとわかりました。わたしの言っている意味はお分りでしよう。 ら、かれはきっとだいぶ重要な位置にいる人だと思いますし、わた これでわたしがどれほど困った状態になっているかおわかりでししは別にかれを面倒な目に会わせたくありません。かれに伝えてく ださい、わたしが本当に怒っているのでないことを。わたしはただ よう、事務総長さま。 かれにちゃんとしたことをして欲しく、わたしと結婚して、わたし わたしのポーイフレンド、元のポーイフレドと呼ぶべきだと思い ます。だってもうふたりの仲は終りだとかれが心を決めたのもわかを身持ちの正しい女として扱ってほしいのです。御面倒なことをお りますし、それほどかれを責める気にもなりません。わたし自身が掛けするのを前もってお詫び申しあげておきます。 ( 名前を秘す ) 惑星間の友好関係にあまり深入りしすぎたことでの問題を解決する ただひとつの方法は ( もしあなたが女で、小さな町で男に捨てられ ることなど問題でないと考えられるなら、小さな町を御存知ないと〔第ニの書類〕 宇宙旅行者 << 3 7 9 (ä・ジゴラ ) より いうことです ) 、わたしがお話した金星からやって来た背が高くて 黒くてイギリスの映画俳優に似ているこのジガーを突きとめること 探険隊道徳管理局記録保管者へ だけです。 内容第三惑星 ( 地球 ) への訪問報告 さて、わたしが最初に言おうとしたことで、先日新聞で読んだの は、国連が妻を捨てて他国へ行ってしまった良人たちを探す法律を親愛なる保管者どの 通したということなのです。その新聞によると、国連はそのような これまでの三百七十八人にのぼる宇宙旅行者の報告の概要を注意 連中を突きとめて、やるべきことをやらせるのだそうですね。ただの深く調べた結果、附表 1 および 2 に示す技術的データ以外、つけ加

7. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

す。しかしねえ、あいにく、わたしの話はだれも信じてくれないんり、なかからは人間のあらゆる不幸、悩み、病気のたぐいが飛び出 し、世界中にちらばたっというわけさ。しかし、箱の底には〈希 ですよ」 「まあ、いし 、さ。神々というものは気が長いんだ。空を支えてた時望〉というものが残っていた : : : 」 とちがって、これは確実に人びとの役に立ってるんだしね。そうそ「ええ、その物語なら読んだことがあります」 「しかし、人間というやつは、どうもそそっかしい。〈希望〉を全 だいぶ前だが、地上から人間がやってきたことがあったよ。マ グマを噴出させたら、ここが神々のカジ屋かと思いこんで帰 0 てい部とり出せばいいのに、少しだけ出して、あわてて箱のふたをして しまった。そして、火口から地下に捨てた。だから、わしのそばに ミュンヒなんとかという、妙な名の男だった」 「ミ = ンヒ ( ウゼンでしよう。それでしたら、わたしの祖先ですは希望があるというわけだ」 「なるほど、そうでしたか。あなたの楽天的な原因がわかりまし よ。旅行記のなかに書いてありました。シシリー島のエトナ火山の 火口から入って、カジ屋の神のパルカンに会ったとありました。訂た。また、地上の世界の不幸や悩みと、希望とのバランスがとれて いない理由もわかりましたよ。地上は、絶望過多の希望不足だ。し 正しておきましよう。この箇所ですー 男爵はポケットから小型版の本を出し、そこを示した。だが、アかし、アトラスの神さま、あなたのご苦労も大変でしようが、少し わけて下さいよ。地上へ持って帰りたいんです」 トラスは首をふった。 「そんなことはしなくていいよ。いっかは理解される時が来るはず男爵はたのみこみ、人類のためだとねばりにねばり、なんとかア トラスを承知させた。ウサギからビンをかり、それにつめてもらっ - 」 0 ー 0 、 / ンドラの箱のなかにある時は結晶状だったが、ビンに移すと 「いやに希望的ですねえ。このいっ終るともしれない退屈のなかに あっても、希望を捨てない。その点にも敬服します。さすがは神だ高度に圧縮された虹色の気体という感じになり、キラキラと美し 。男爵はお礼を言う。 けのことがあります」 「どうもありがとう。ご恩は忘れません。全人類にかわって感謝い 「いや、それほどでもないさ。そのわけは、その箱のなかにある」 アトラスはあいているほうの手で指さした。トランクを大型にしたしますー たような箱がころがっている。マグマをあびてもとけないところを「さよなら。核戦争にでもなって地上が焼野原、大噴火させてもい い世になったら、わしも手を抜いてゆっくり休養しましよう。しか みると、神秘的な材料で作られたものにちがいない。男爵は聞いた。 し、その時になったらなったで、またいやな運命がわしを待ちかま 「なんですか、あの箱は。なかになにが入っているんでしよう」 「あれがつまり、パンドラの箱さ。ギリシャ神話にでているはずだえているにちがいない。月が落ちてくるというような : : : 」 が、早くいえば神々が人間たちに与えた玉手箱。あけちゃいかんと いう箱なのだが、そういうものは必ずあけられる。あけてびつく気の毒な古代の神アトラスと別れ、男爵は地下道に戻る。ウサギ

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それにほんとうに手助けがいるように見えた。いやはや、まるで リング型のエレクトロマグネットを噴射口にセットして凝縮する ことを思いついたんだ。そいつは水素原子をはねとばして凝縮させポーイスカウトみたいな心がけだな。いまもいった通り、金のある ほんとに何でも焼ききれるんだ。そいつのなしにかかわらずかれが好きになった、きっとただでも手をかす気 た。そいつは何でも 特許をとってからかかってきた電話といったら。どれくらい大勢のになったたろうな。 それから二度ばかりかれはやってきて、いっしょにこまかい予定 やつらが、銀行の金庫室や質屋の裏口を破りたいと思っているか、 をたてた。こんなわけでおれたち二人は汽車にのりこんで、おれの あんたらには想像もっくまいな。さて、そのサイクスだけれど : ーチランプやその他の装備は貨車に積みこんだ。あんた方の中に おれは、あの雑誌の記事は少々オーパーだが、そういう道具はた しかにもっているといった。実例を二、三見せてやるとかれは満足は、おれたちがここへついたときのことをお・ほえてるひともいるだ したらしかった。そこでおれは用がなけりや時間の無駄だといってろうな。かれはここの人間をよく知っているようだった。ね ? お れはそう思った。長いことスイッチパスで暮してきたんだといって やった。 かれはおれのトーチランプがすっかり気にいったらしくてさかんたよ。 にうなずいていた。 ほかにもいろんなことを喋った。おれがいままで会った中じゃい 「あるとも。ただし二週間ばかり日をとってもらわにゃならん。西っとうお喋りの方かな。話の九分の一がとこはわかった。きっと淋 へ行くんだ。アリゾナ。そこのほら穴に入る道をつけるんだ」 しかったんたろうと思うな。仕事の手伝いを頼んだ最初の相手だっ 「ほら穴だって ? 」とおれはいった。「合法的なもんかね ? 」おれたんで、これまで一人で働いてきた長の年月のことが堰をきってあ は面倒なことはごめんだった。 ふれたんたろうな。 「いくら ? 」 「もちろん合法的だとも」とかれはいった。 このスイッチ。 ( スの仕事についてはこういっていた。また大学出 かれはかけあいはごめんだといった。 たてのほやほやのころ、自分は考古学が専門だったので、古代のイ 「きみがわたしをあそこへ連れこんでくれたらーーそれからこれがンディアンの遺物、花瓶たとか矢じりだとかいうものを探しに砂漠 禺然、岩の深い裂け目の 合法的なものだと納得がいったらーーー五千ドルだすーとかれはいつをほっつき歩いていたころのことだった。イ 底でこのほら穴が見つかった。 このことを喋るときのかれはとってもいきいきしていた。 粘土時代とか石版画とかわけのわからないことをべらべらとまく いや、五千とくりや御の字だ。しかもたった二週間ぼっちでね。 それにおれはじいさんの面つきが気にいったんだ。まるで九ドル札したててね。おれが現実にひきもどしてやると、そのほら穴はうん 岩の中にあるんだと説明 みたいにおかしな顔で、どっか奇妙なくせのあるやつだが、かれがと古い 二十万年か五十万年ぐらい 申し出た金ぐらいの値うちのあるやっ、とおれは見た。 してくれた。

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方柵をめがけて真っすぐに横切る。攻撃をはじめるとすぐ、東岸の情緒とか優雅な些事、そういうものは一切この男には無意味なの 森にひそんでいたやつらがいっせいにあちこちの側からとりでを襲だ。オオカミが時のはすみで番犬といっしょに走るようになったと う、そういう寸法だ。やつら、この作戦を前にもこころみて、とりて、しよせんはオオカミなのだ。流血と暴力行使と蛮性とが、コナ で守備隊の度胆を抜いた。だがこんどはやつら大変な人数を狩りあンのたどってきた人生の根本要素であったのだ。この男は文明化し た男や女たちにはかくも親わしいこまごまとした小さな事柄は、と つめているから、一気にとりでを揉み潰すかもしれん」 うてい理解もできまいし、理解しようともしないだろう。 二人は小休止もせずに突進した。パルッスはときどき、枝をとぶ 彼二人が河へたどりついて河にせまった茂みを覗いたとき、影は長 リスを懐しそうに見つめた。斧をつかえば撃ちおとせるほどだ。 , かみてしもて は溜息とともに幅広のベルトを吊りあげた。原始の森の、どこまでくなっていた。彼らは上手、下手一マイルばかりも窺うことができ た。不機嫌な流れは、何も浮べず、寒々とからっぽに、ただ静かに 続くかわからない静寂と物淋しさとが、ようやく彼の心を圧迫しは じめていた。彼はタウランの、下草を刈りとった風通しのいい森流れていた。コナンは対岸を凝視しながら顔を憂欝にしかめた。 と、木の葉をすかして斑に陽が射した牧草地とを想いだしている自「おれたちここでもう一度、勝負にでなけりゃならん。河を泳いで 分に気がついた。急勾配の草ぶき屋根をもった、そして内部は菱型わたるのた。やつらがすでにわたったかどうか、わからない。あそ の鏡板をはったあの父の家のなかで、いつもひびいていた粗野な笑この森は、もしかすると、やつらがいつばいかもしれない。しか しし・カここは いの団欒、草丈のある茂った牧原を食みながらすすむ牝牛の群、そし、やらなければならないことはやらねばならん。 グワウェラから六マイル南だ」 して節くれだった若い耕夫や牧童たちのあたたかい友情など、想い 弓弦が鳴るとともに、コナンは踵を返し、身を低めた。藪のなか 出は尽きなかった。 連れはありながら、彼は孤独を感じた。この荒涼とした森野の一を白線のような光が一本ひらめいてとおった。・ハルッスはそれが矢 部ですらあるコナンと、それらとはまるで異質な自分とが対比されであると知った。コナンがトラのように一と跳びして藪へ入ってい った。ルッスの眼は鋼鉄のきらめきをとらえた。コナンが剣をふ た。キンメリア人は世界じゅうの大きな都市で何年も過ごしたかも るったのだ。つぎの瞬間、彼は藪をわけてキンメリア人のあとを追 しれない。文明の支配者たちといっしょにあるいたかもしれない。 こうたん いっかその荒誕な夢を現実にして文明国の王と成上るかもしれな すでにあり得ないような珍しいことが世の中にはいくらも起こ 頭を割られたビクト族が、うつぶせに地上に倒れていた。草をつ っているのだから。たがそれにもましてこのキンメリア人は野の蛮かんた指がびくびくと痙攣的にうごいた。六人ばかりの他の戦士 族なのだ。この男の関心は、主として生きるためのギリギリの条件が、剣と斧をふりあげてコナンへ襲いかかった。こんな近接戦では だけである。たとえばリスとか小鳥とかいう、ロ 可愛い小さなものヘ無用の長物と、かれらは弓を投げすてていた。下顎は白いチョーク のあたたかい優しさとか親近感、多くの文明人の生活を潤しているで塗ってあり、黒い顔と強烈なコントラストをなしていた。筋肉の ゆする 32 ー

10. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

いで次の行動を起さなくてはならない。ぐすぐずしていると、おれ感じ、考えてるの、 炉仕事″って、そんなものいったい何 ? だってどうなるかわからない。 私たちは″仕事〃をするために生れてきて、″仕事〃をするために ドラはまた服をつけず、すつばだかのまま湖水の岸に立ってい 生きているの ? どこにそんなことをしなきゃならない理由があっ た。覚醒剤がきいたのか、表情ははっきりとしていた。湖水をわたて ? この星へきて、私はしめて生きている意味がわかったわ、 って吹きよせてくるなまあたたかい微風に、髪をなびかせながら、 ・人間ってーー生物って、何もすることを強制されたり、仕 彼女はしつかり脚をふんばって立っていた。 事を義務づけられたりしないのよ。宇宙をさぐって、開発して おれは、彼女が湖水の上に見ているものに気がついた。 湖水そんなこと、 いったい何のためにやるの ? なんのために、あくせ の上で、発光昆虫が、みごとな光の・ ( レーを見せていた。渦巻、縄くと、貴重な人生の時間をすりへらして、苦しい思いをしたり、人 線、真内、そして時に波型 : : : そして、湖水の水面では、発光虫と争ったり、けがしたり、事故で死んだりしなきゃならないの ? が、まねくような波のうねりにのって、巨大な矢印のように点減しなんのために ? e ・ そんな理由はないのよ。私たちは、 ている。湖水のむこうにむかって : 私たちの偶然にあたえられた生の喜びを、生きるための法悦を、せ 「チャーリーは ? 」とドラは、湖水を見つめたままきいた。 しいつばいに味わって生きればそれでいいの。このすばらしい 「森へ逃けた」とおれはいった。「光線銃でねらったが、あたったおだやかで、美しくて、生の歌にみちた星にきて、私ははじめてそ かどうかわからない」 れがわかったわ、心底から、理解できた : 「殺したの ? 」 「生物はそれでいいだろうーとおれは、つぶやくようにしナ 「いいや、わからん」おれはドラの裸の肩に手をかけた。「行こう、「だが、人間は : ドラはうたうようにいっこ。 ドラ。服を着て、すぐ出発だ。とにかく、衛星軌道にほうり出して「人間だって生物だわ、・ーー、」 ある宇宙船まで、一気にかえるんだ」 「生物として、ずいぶん無理をしているけどーー・・それでも私たちが 「私もここにのこるわ、 e ・ドラは、私の手をはらいのけるよ考えてるより、はるかに生物なのよ、そして、生物として、あたえ うにふりかえっていった。「ここはすばらしいもの、あなたにはわられているもろもろの喜びの深さを、不自然な人間としての部分、 からない ? こ あのがつがっした欲望の犠牲にすることなんてできないわー 「わからんことはない、 「あの花の根が、そんなによかったか ? ドラ : だが、仕事は仕事だ」 「〃仕事〃ってーーーそんなもの何よ、なぜ、私たちは、仕事なんて 「あなた下品ね、・ーーーまるで野獣たわ。ううん、ゴリラ以下 ものをしなきゃならないの ! 」 ゴリラの方がもっと優雅よ。もっとデリケートな、生の味いを 「覚醒剤をもう一本うとうか ? ドラ : 知っているわ。あなたは″美〃や、繊細さや、生きていることの法 「私の意識ははっきりしてるわよ。ちゃんと理性的に、心の底から悦なんて、これつ。ほっちもわからないんだわ」 4