ろしい光景に出会った。道路に牛のひく荷車が一台置き去りにされ 囲網の外にいる。それにさわらぬように迂回してゆくのだーこ 彼らは、突撃と撃退とを物語る、海鳴りのような叫喚を耳にしなており、貧しい二、三の家財道具を積んだまま燃えているのだ。牝 がら、広い弧をえがいて進んだ。堡塁の兵たちはまだ孤塁を死守し牛は近くでのどを切られて死んでいる。また一人の男と一人の女 ていた。だがビクト人の金切り声はその凶暴さをゆるめてはいなが、裸にされ、手足をバラバラに切りはなされ、路上に横たわって いる。五人の。ヒクト族がそのまわりを踊っている。戦斧を揮い、グ 。そして最後の勝利を固く信じる勇壮なひびきをそれはもってい ロテスクな横飛びや跳躍をまじえた円舞である。なかの一人は殺さ バルッスが街道に間近いと分りかける前にもう、彼らは東へ向うれた女の血染めのガウンを振りまわしている。 この様子を見て、バルッスの心頭に憤怒の炎が燃えた。しずかに 大通りへでていた。 弓をとりなおし、燃える火を背に黒々と浮きでた踊りくるう人影を 「こんどは駆けるんだ ! 」コナンがうなった。バルッスは歯をくい しはった。ここからヴ = リトリウムまでは十九マイルあり、入植者ねらって矢を放った。殺戮者は痙攣したようにとびあがり、心臓を つらぬいた矢とともに即死して倒れた。すかさず二人の白人と巨大 の村がはじまるスカル。フ・クリークまででも優に五マイルはある。 アキロニア人の若者には、彼らがまるで何世紀も戦い、走りつづけが、びつくりして立ちすくむ野蛮人へつつこんでいった。コナンは てきているように感じられた。だが彼の血流を立騒がせる神経の興ただ闘志と大昔からの種族的憎悪だけで動かされていたが、パルツ 奮があった。彼はヘラクレスのような超人的努力へと駆りたてられスはそうではなかった。彼は憤怒の火で焼かれていた。 ていった。 彼は最初に立向ったピクト人をすさまじい打ちおろしで塗布頭蓋 スラッシャーが、二人の前を、頭を地面につけるようにし、低いを二つに割り、倒れる体をとびこえて他の蛮人とわたりあおうとし 声で唸りながら走った。二人が耳にするこの大の最初の啼声であっ た。だがコナンが、すでに選んた二人のうち一人を殺しており、ア た。 キロニア人の跳躍は一秒間遅すぎた。・ハルッスが戦斧をふりあげて いる間にもう、目指す戦士は長剣で刺しぬかれて倒れていた。残り コナンは片膝をつき、星あかりの地 「。ヒクト人が先にいるんだー のビクト人一人に向い立っと、それはもうスラッシャーが片づけて 面をすかしながら唸った。しばらくして、怪訝そうに首をふった。 いて、巨大な両顎から血を滴らせながら犠牲者のふところから起き 「なん人いるのか見当がっかん。おそらくは小人数だろう。とりで の陥ちるのが待ちきれんやつらに相違ない。入植者を寝床で屠殺しあがるところであった。 ようと先駆けしたのだ。来い ! 」 道路の、燃えている荷車のそばに横たわっている無残な犠牲者を とちらも若い 前方にあたって、樹の間をすかして小さな火がみえる。そして獰見おろしながら、バルッスはことばが出なかった。。 9 ことに女はまだほんの少女であった。なにかの偶然で、ビクト人た 2 猛な、おそろしい唄声が聞こえる。径はそこで曲っていた。彼らは 径をそこで横切り、藪のなかへ入っていった。しばらくゆくと、恐ちは少女の顔をいためつけてはいなかった。恐ろしい死の苦しみに こ 0
した : すいぶん遠い国のことをいくつもおっしやったですれ。ずいばに集って、渡ろうとしているのかもしれない。とりでを襲うため ぶん方々旅行したんでしよう ? 」 にた」 さまよ 「遠くまで流浪ったな、おれの種族のどのやつよりもたくさん旅を「かれら、足跡を見失ったとしたら、こんなに南までは来ないでし したからさ。 ( イボリア人、シエム人、スティギア人、ヒルカニアようね ? 」 まち 人などの建設した大きな都市はみんな見ている。おれはクッシュの 「足跡を見失ったにちがいないのた。でなかったら、いまごろはお 黒人諸王国の南にあるたくさんの名も知れぬ国々、ヴィラーエット れたちの首根っこあたりまで来ているはずだ。ふつうの状況なら、 海の東にあるたくさんの国々をさまよい歩いた。おれは傭兵の隊長森のなかを四方八方へ数マイルは捜すのだ。こっちのほうへ捜しに コルセイア だった、おれは公認海賊だった、コザックたった、一文なしの浮浪でたやつらは、この丘を見ずに通りすぎたのかもしれない。いや 者だった、将軍だった、ーーふん、何にでもなった、何でもしてきそうじゃない。いまやつらは河を渡る準備をしているに相違ない。 た、文明国の王さまにだけはまだなったことがないが。その王さまおれたち、危険だが、河へでてみよう , にも、死ぬまでには、なるかもしれんが」この思いっきは自分なが 二人は岩を這って降りていった。頭上の緑の茂みから矢の雨でも ら気にいったとみえて、にやりと憂欝な笑みに頬をゆがめた。そし降ってこないかと 、パルッスはひやひやした。。 ヒクト人がとっくに て肩をすくめると、岩のうえへ長体をながながと寝そべらせた。 二人を見つけていて、木の上で待伏せしているのではなかろうかと 「いまの暮しも、気楽でいいよ。あとどれくらい辺境地帯にとどま恐れたのだ、だが = ナンは近くに敵はいないと信じこんでいた。け るか、一週間、一カ月、一年、おれにもわからん。おれはだいたい つきよくコナンは正しかった。 が放浪の足をもっているようだ。だけど国境ぐらしも、他のどこに 「おれたち村から南へ数マイルくだったのた。ここからまっすぐ河 もおとらず気に入っているのさ」 へ向おう。やつらどの程度まで河そいに拡がっているか、わから スルッスはじっくりと腰をすえて下の森を眺めはじめた。葉のあん。やつらの河下から近づけることを祈るばかりた」 いだから恐ろしい塗布顔面がとびだすのではないかと、彼はしばら 。ハルッスには無謀としか思えないあわただしさで、二人は東へ急 くの間は半ば予期した。だが何時間かが、暗欝な静寂をかきみだす行した。森には生きものがいないように見えた。コナンは。ヒクト人 忍びの足音もなく過ぎていくと、ようやくバルッスもビクト人が二全部が、まだ河を渡っていないとすれば、グワウ = ラあたりに集結 人の足跡を見失い、追跡をあきらめたものと信じるようになった。 していると信じている。だがその彼も、ビクト人が日中河を渡るた コナンがいらだってきた。 ろうとは思わなかった。 「森におれたちを捜している隊がいるとすれば、これまでおれたち「森男の誰かが必すや、やつらを見て警報を送るはすたが : の眼についていなければならんはずだ。やつらが追跡をあきらめたつらの作戦は、哨兵の眼のとどかない、ずっととりでの河上と河下 とすれば、もっと大きい獲物をねらっているからだ。やつら河のそで河を渡るのた。他のやつらはカヌーをたくさん集めて、とりでの 320
ら後を追い、あたまが朦朧としながらも、どうやらカヌーへ這いのス・クリークがある。これが北の国境だ。ノース・クリークの先も ・ほった。コナンもカヌーへ攀じって入ると、すぐさま櫂をとり、東沢地だ。だから、攻撃はどうしても、・フラック河をわたった西から 2 っ ) 岸へむけて矢のようにカヌーを進めた。・ハルッスは陽焼けした皮膚でなければならない。コナジョハラは、幅十九マイルの穂先をもっ の下の、巨大な筋肉の働きを、ことばには出さなかったが、妬ました槍のかたちをしている、それがビクト族の荒野へ突きささってい い気持で讃嘆した。キンメリア人は決して疲れることをしらない鋼る恰好だ」 コナンはカヌーを東岸の浅瀬へ着けかけた。 鉄人間に見えた。 「わたしたち、なぜカヌーを棄てず水上を行くようにしないんです 「。ヒクト人に何て言ったんですか ? 」バルッスが訊いた。 「岸へ漕いでこいと言ったのだ。向うの堤防には白人の森林警邏がか ? 」 一人いて、おまえを射ようとしているから、と言ってやった」 「流れが速いから、溯るにはたいへんな力がいるからだ。それと河 「そりや公正なやり方じゃなかったですね」と・ハルッスが異議を唱がいくつも大曲りしているから、歩いたほうがずっと早く行ける。 えた。「かれは味方が話しかけていると思った。あなたはビクト人もうひとつ、グワウェラがとりでの南だろう。だからビクト族が渡 そっくりにしゃべったーーー」 河しているとすれば、おれたちゃっらのどまんなかへ飛びこむこと 「おれたち、この舟が要ったのだ」コナンは漕ぐ手をやすめずに唸になる , った。「やつを岸へさそいこむにはあの手よりなかった。どっちが 二人が東岸へ上陸したころにはタ闇が忍びよってきていた。コナ 不公正だ ? ・ーーおれたち二人を生きたまま皮剥ぎしようというビクンは一刻も休まずに北を指した。バルッスの健脚も悲鳴をあける強 いのち ト人一人を瞞すのと、生命がおれたちが河を渡るか渡らんかにかか行軍である。 っているとりでのものたちを裏切るのと ? 」 「ヴァランヌスは、ノース・クリークの河口とサウス・クリークの でまる ・ハルッスはしばらくこの徴妙な倫理問題を思案していた。だがや河口に出丸を築きたがっていた」キンメリア人は唸った。「そうす がて肩をすくめると、たずねた。「わたしたち、とりでからどれくれば、絶えず河そいを巡邏できる。しかし政府が許さんのだ。 びろうど 天鵞絨のしとねにすわって、膝に裸の女どもをのせて氷入りの・フ らい離れていますか ? 」 ドウ酒を注がせている野郎どもーーー柔らっ腹の馬鹿ものたち、おれ コナンは、二人の下手数百ャードのあたりで東からブラック河へ はやつらの暮しっぷりをよく心得ているんだ。やつらは宮殿の壁か そそいでいる小川を指さした。 「あれがコナジョハラ州の南境になっているサウス・クリークだ。 ら先はまるで見えんのだ。外交折衝が聞いて呆れる、ちえッ ! や クリークの河口からとりでまで十マイルある。クリークの南は何マつらは領土の自然拡張なんかという屁理屈だけで。ヒクト族と戦おう イルも沢地がつづいている、沢地をわたってきてとりでを攻撃するとしている。こうしたハシにも棒にもかからん愚かものどもの命令 ということは考えられん。とりでの河上九マイルのところにノー に従わなければならんヴァランヌスとその部下が哀れだよ。あの低
コンパニオン〉みんな今週のトップのグラフは、イカロスにはどん「だって僕たちライセンスもないし、そんな飛行機やったことない なやつが住んでいるかという特集だ。このての雑誌は、子供よりもんですもの」伊藤が代表して抗議した。 「心配するこたあねえ。藤沢の飛行場は閉鎖になって工場が建つ予 大人の方が読んでるってんだろ。絶好じゃないか。さっきの第一の パターンの連中なんてのは物事を信じないみたいに見えるが、これ定が延び延びになってる。夜陰に乗じてあそこまで持ってこさせる からあそこで練習しろ。すこし飛べるようになったらこっそり地面 がインテリの悪いくせで、もっともらしい証拠でも見せられたひに や最初にひっかかる連中だ。第二、第三の連中に至っちゃおんなじすれすれで東京まで飛んできてデモンストレーションをやるんだ。 ことで、それらしい餌をまいときやみんなひっかかる。ラジオじやさっき言ったろ、みんなに信用させるための下地をこしらえるん ない、今度はテレビだ。生放送の真最中に円盤がひらりと降りてきだ」 て子供をさらってみろよ。こりやワクでエ ! 」 「整備はどうするんです。僕たちゃそんな大きなエンジンの整備な 「わくのよ、 をしいとして、どうやってその円盤を手に入れるんです」んてできっこないですよ」渡辺が口をとんがらした。 「実はこの手を思いついたのがこれなんだがな、立川のフィンカム「第 5 空軍の整備力を信用するんだな。を整備してる連中だ。 陸軍基地にというレ 1 ダー標的用の試作機が一機あっ間違いあるめえ。一週間や一〇日は手を入れなくた 0 て大丈夫だ」 「どうする、なべちゃん。困っちゃうよなあ、俺たち」伊藤が言っ て、いったいなんだって日本くんだりまで試作機をもってきたのか 知らないが、こいつを廃棄処分にするってんだ。こいつが君、主翼た。 がまん丸で、垂直上昇が可能ときてる。まるで空飛ぶ円盤よ。銀色「本当だよな」と渡辺も弱々しい声を出す。 『わんばく : : : 』がつぶれても仕 「ほう、するてえとなにかいー でな。ライカミングの空冷エンジンが載ってるんでエンジンだけで も払い下げると先方さんは言ってるが、なにしろ大きすぎてセスナ方がないってわけかーと牛川 やパイバーに載りつこない。それでそのまんま基地の格納庫に入っ 「わかったよ。それじゃ俺と牛ちゃんと二人で飛ばす。その代り、 なま てる。そこでだ」と僕は声をはりあげた。「さいわいに、ここにい本番の生中継は二人でちゃんとやってくれるだろうね。いっとくけ なま るお若いお二人さんは」と僕は伊藤と渡辺をちらりと見た。「大学ど生だよ。トチナたらおしまいだよ」と私。 時代に航空部で活躍なさってる。な ! そうだろ ! 」 「そ、そんな無茶な ! 」二人がいっしょに言った。 「え、ええ、ま、まあ、そんなところで、二人はひどくとり乱し「無茶は承知の上よ。どっちでもいい方をやってくれよ、私は煙草 に火をつけた。 「あわてるこたあねえだろ。なんか、金さえありやビーチクラフト しばらくたってからか・ほそい声で伊藤が言った。 でグアム島まで海水浴においでなさるとかいう奪もちらほらと」牛「やりますよ。やりやいいんでしょー中継をやるといわれたらえら 9 いことだと私は思ったのだが「おっこちたって知らないから . と渡 川が援護射撃をやった。
員は三十人、カメラマン、医師、教授、画性、近くその旅行記を出版する人とだけ聞全身が。フラスチックかガラスのような感じ 家、軍人、判事、弁護士などさまざまな職いて突然訪ねて行ったのに : ・ : 。私はどうのほっそりした女性のようだった。彼女は 業の人が参加していて、すでに五年以上活してそんなことがわかるのか理由を聞いて怒って無礼を非難したが、相手は無言のま みた。 動している。 まいきなり右手を伸ばした。そのとたん指 かれらは①目撃の調査、②資料の交換、 アレ ] ゼはうなずきながら私を奥の一室からなにやら光線のようなものが出て、ア ノとなっ ③資料の発表、④記録、⑤天体観測、⑥無へ連れて行った。 レーゼは目がくらみ、頭がポー 線の六グループに分れて活動し、不定期な そこには数点の宇宙人の絵が飾られてい た。さらに相手の右手がクルリと回るや彼 こ 0 がら会報も出している。 女の体がス】ッと浮き上り、アレーゼは気 「この人と私はテレバシー交信するのでを失ってしまった。 意識を取り戻したとき、彼女の体は畑の 水星に行ってぎた女 アレーゼの話によると、毎週水曜日のなかにある見なれない金属物体のそばにあ 夜、水星人に教えられた方法で自己催眠をつた。 かけ、水星人の「アグ」とテレ。ハシーによ それが空飛ぶ円盤であることを知らなか 「オリオン星と水星から日本へも円盤は行 って話をするのだそうだ。 ったアレーゼは、スー。フ皿に茶碗をふせた っている。特に昨年八月、北海道へオリオ 宇宙人とのテレ。ハシー交信 : ようなその物体を呆然とながめていたが、 ン星の円盤が着陸し、そこの植物と石を持 私はとても信じられなかったので、かなやがてそのなかへ乗せられた。 ち返っている。日本にも宇宙人とのテレバ り意地の悪い質問をしてみたが、アレーゼ 「どうするつもりなの ? 」 シー交信ができる力を与えられた人が三人 は平気な顔で、今に不思議に思わないです恐怖を感じたアレーゼは相手の手をふり いる。そのうちの二人は女性で、あなたは むときがくるといい、 水星へ連れて行かれほどいて逃けようとしたが、その力は強く その一人を知っている」 たときの話をはじめた。 どうにもならなかった。彼女はやっと坐っ サンパウロ市の高級住宅街に住む女流画 一九五八年二月二十一日、彼女がリ ていられるぐらいの小さな部屋に押しこめ 家アレーゼ・マドウルガを、ギリエルメ氏 オデジャネイロ市のアングラバスレースのられ、体をバンドでしめつけられた。目の の紹介で訪ねたとき、彼女は私を見るな 教会へ画を描きに行っていたときのこと。 前の金属板仕切りには四角いテレビ・スク り、こっちがびつくりするようなことをい 「アレーゼー リーンがあって、左右には窓があり、物体 い出した。 私は返す言葉もなく呆然と彼女を見つめ夜、二階の寝室でパジャマ姿のまま本をの外側が見えた。 読んでいると、突然聞きなれない声がした大きな音がして外側の四個所から青白い 「あなたの来られるのも宇宙人から知らさかと思うと、開いていた窓から人の姿がフ炎が吹き出たかと思うと、外側がクルクル ワリと飛びこんできた。 と右回転をはじめ、やがて物体は宙へ浮き れていた。十三日も前に」 入って来たのは目が異様に青白く光り、あがり高度を急激に増した。アレーゼの目 円盤にのせられて水星〈行ってき女
た。人目につかぬよう地下にかくれ、ひそかに地球住民たちの生態ている。グナギ星の科学力とやらの産物なのだろう。ダムとディー を観察している。だが、観察すればするほど、珍妙きわまる星とわはさらに言う。 かってきた。こんな連中の星では、かりに占領してみたところで、 「そして、あれが案内人」 どうにも支配のしようがない。時機をまてば、少しはましな状態に あらわれたのは、さっきのウサギだった。ウサギはウインクしな がらあいさつをした。 なるかもしれない。二人はようすを見るため、ここにとどまった。 「あら、お客さまですのね。ようこそ」 そのうちに何百年かがたってしまった。しかし、地球人の珍妙さは 「あなたのような魅力的なウサちゃんに会うのははじめてですよ : ・ さらにひどくなるばかり : 「そんなにこの地球は珍妙な星ですかねえ : : : 」 男爵がにやにやし手をのばしかけると、ダムとディーが言った。 と男爵は言った。占領されないのはありがたいが、占領にもあた いせず、笑いものにされるだけというのもいい気分ではない。人類「おっと、ご注意しときますが、それはロポットです。ちょっとい いでしよう。こういう外見にしておくと、なにかの時に人間の目に の一員として抗議もしたくなる。 「そりゃあ珍妙さ。あなたはそうも感じてないかもしれないが、裏ふれても、幻覚と思ってくれます。チョッキから時計を出し、急げ から見ると興味しんしんです。なんでしたら、ご自分でごらんになや急げなんて言うウサギを見て実在と考える人はいないようですー ったらどうです。道もできているし、乗り物もあるし、案内人もお「手がこんでいますなあ。じゃあ、お言葉に甘えて、ウサちゃんに 案内していただくとしますか : : : 」 せわします」 感心する男爵に、ウサギはスチュワ 1 デスの如くきびきびした動 「道とか、乗り物とか、案内人とか、なんのことです」 男爵がふしぎがると、ダムとディーはポケットから装置を出して作と声とで言った。 ボタンを押した。あたりが明るくなる。男爵は驚いた。地下道がそ「どうそこちらへ。この吊り革におっかまりになって下さい。進行 こにあったのだ。直径二メートルほどの円筒状の道で、ずっと遠く中はお手をおはなしにならぬよう。はなして道に落ちても危険では までつづいている。 ございませんが、乗り物をとめ拾いに戻らなければなりません : 「こんな地下道が完備しているとは、少しも知らなかった。どうや って作ったのです。二人ではさそ大変だったでしよう , 教えられた通りに男爵がっかまると、乗り物はたちまち動き出し 「グナギ星の科学力をもってすれば、簡単な作業です。そこにある た。高速のためからだは横に浮いた形になるが、ゆれもなく音も静 のが乗り物。つかまってボタンを押せば、高速で走ります かで快適だった。それになれ、男爵はウサギに言った。 銀色をした大きな砲弾状のものがあった。前方はとがっており、 「まさか、こんな道があるとはなあ : : : 」 後方にはボタンがいくつかと、吊り革のようなものが数本くつつい 「それは当然でございますわ。あたしがたえず見まわり、土木工事 6
すれにせよ、これから先は行ってもむだ 挿画にでていましたね。い くれちや大変。 ウサギは生垣の下の大きな穴のなかに入っていった。男爵もつづだ。本で読めばすむ。帰ります。さよなら」 「お仕事がおいそがしいんでしたら、お引きとめはいたしません いて飛びこむ。その穴は暗く、しばらくはトンネルのように平坦だ ったが、やがて急に下方にまがっていた。すなわち井戸の如くになよー とダムとディーが言った。そっけなくされると、もっといたくな っており、そこへ落ちたというわけなのだ。 それはけっこう深かった。男爵はパノラマ視現象を持てあましる。それに帰ったところでべつに仕事もないことに気がついた。男 た。つまり、これまでのかずかずの冒険をあっというまに回想しつ爵は少し話しでもしていこうと思った。 「それにしても、こんなところでお二人にお会いできるとは意外で くし、さらに時間があまったのだ。どうなるかと思っていたら、 ままでに読んだの未来物がつぎつぎと頭に浮かんできた。まだした。あなたがた、おうまれはどこなんですか」 「われわれはグナギ星人。あなたがたからいえば宇宙人ということ 読んでないのまで出てくれるとありがたいがなと期待していたが、 になるー そうはいかず、ふわりと底に到着した。厚く枯葉がたまっており、 「変じゃありませんか。宇宙人なら空のかなたにいるべきですよ。 さほど痛くなかった。 「変なところに来てしまったな。戻ったほうが賢明かもしれぬ。しそれが地下の穴の奥にいるなんて、常識を無視しています。むちゃ かし、穴というやつは、落ちるのは簡単だが出るのは容易でないとくちゃだ」 「その理由を知りたいでしよう」 くるし : : : 」 あたりを見まわす。どういうわけか、そのへんはいくらか明る「ええ、話して下さい」 男爵がたのむと、ダムとディ 1 は待ってましたとばかりに合唱し そこに二人の男が立っていた。若くもなさそうな顔つきなの に、子供っぽい服を着ている。いずれも背は低く、まるまるとふとはじめた。 っている。ふたごの如くにそっくりだ。おたがいに肩を組んで並ん「トウィードルダム、トウィードルディー 地球調査の命令うけた。 で立っている。男爵はあいさつをした。 そこでわれらは円盤に乗り 「こんにちは。わたしはミュンヒハウゼン男爵です」 宇宙を越えて旅に出た : : : 」 ふたごはつぎつぎに言った。 ふたごの合唱も若い女性歌手ならまだしも、中年男のような顔の 「わたしはトウィードルダム ふとった小男となると、あまり芸術的ではない。しかし、歌詞の内 「わたしはトウィードルディー」 容のほうは興味あるものだった。 それを聞くと、男爵はうんざりした。 「やつばりここはアリスの世界だ。あなたがたは鏡の国のアリスの地球を支配下におく方針がきまり、二人は偵察として派遣され
かもしれんじゃないですか ? 見たんですか ? 」 恐怖の形相がアキロニア人の心に憑いて離れないのだ。葉むらのな 「チベリアスはちゃんと武器をもっていた」コナンがしやがれ声でかから、気味わるく笑いながら覗きだしたどんな恐ろしいものを見 言った。「ゾガール・サッグが悪魔どもを加勢に呼びだす力があるて、この哀れな商人はこんな恐怖の相に固定されてしまったのだろ なら、どれを殺しどれを放って置けと命じる力もあるはずだ。おれうか ? が見たのかって ? いや見てはおらん。おれの見たのはただ、悪魔「悪魔を尾けようなんてムダなこった」腰帯から森男用の短い斧を が逃げたとき藪が揺れたことだけだ。しかし、おまえがもっと証拠ひきぬきながら、コナンが言った。「おれは、やつがソラクッスを が欲しいというなら、ここを見てみろー 殺した直後に後を尾けようとした。だが十歩もゆかぬうちに見失っ 殺戮者は、死体が横たわっている血溜りへ踏みだした。径の小わてしまった。翼を生やして翔び去ったか、地面へ沈んで地獄へおり きの草藪の下に、固い土壌へひろがった血のなかにひとつの足跡がたか、と思われるほどのすばやさだった。おれは騾馬も追わない よ、ムダなこった。。 とうせ、とりでヘ戻っているか、どこかの入植 見えた。 者の小屋へ逃げていったかだろう」 「人間がこんな足跡をつけるか ? 」コナンが言った。 ・ハルッスは頭髪の逆立つのを覚えた。人間はもちろん、彼の見た コナンはしゃべりながら、斧で径わきの木を伐るのにいそがし どの野獣だって、こんな奇妙な、三本指の怪物的な趾跡をつけるも い。いくどか斧を揮うと、九ないし十フィートはある二本の若木を のはいない。鳥類と爬虫類とがいっしょになった奇怪なもの、だが切り倒した。小枝を払った。それから近くの藪なかを這っているヘ 正確にはそのどちらでもなかった。彼は趾跡に、触れないように注ビのようにくねった長い蔓草をとってきて、若木の端から二フィー 意しながら、指をひろげてみた。驚愕のうなり声がのどをついてほ トばかりのところにしつかりと結びつけ、それをもう一本の若木へ とばしった。指を大きくひろげても趾跡が測れないのだ。 回わし、二本の間を往復させた。たちまち、粗末ではあるが頭丈な 「いったい何ものでしよう ? こんな趾跡をつけるけだもの、見た担架ができあがった。 「できることなら悪魔にチベリアスの首をとらせたくない」コナン ことありません」 「おまえだけじゃない、正気の人間は見たことがあるまい」コナンが唸った。「死骸をとりでヘ運ぶんだ。三マイルよりは、遠くはな このふとっちょの馬鹿者は虫が好かなかったが、。ヒクトの悪魔 は暗欝に答えた。「沼地 - の悪魔なんだよ プラック河の先の沼沢 地にはこいつらがコウモリのようにはびこっている。暑い晩に南かどもに勝手気儘に白人の首を取らせておくわけにはいかん」 ら強い風が吹くと、こいつらの咆え声が、地獄へ堕ちる亡者のすす。ヒクト人も色は黒いが白色人種であった。だが辺境のひとたちは り泣きのように聞こえてくる」 。ヒクト人を白人とは呼んでいなかったのである。 5 こんべき 9 コナンは担架へ不運な商人の死体を無造作にのせ、・ハルッスは後 2 「わたしたちどうします ? 」アキロニア人は紺碧の藪影をこわごわ 覗きこみながらささやいた。死人の青ざめた顔に凍りついている、尾を握った。二人は森の小径をできるだけ足早やに急いだ。コナン
とにかく彼を自分にひきよせることができるので、自分に辛辣な審美眼があ ャーリ 1 が、それと関係があるのかどうか知らない。 は、気のやさしい、黒人特有のゆたかな感受性をも 0 た青年で、ドると思いこんでしま 0 ていた。こんなやつを、グスタフは何だって 調査隊にくわたのだろうと、つくづく呆れるのだが、その理由はわ ラとは、〈コントラ・カップル〉のくみあわせでえらび出されてい ーリーは、グスタフが、四十こえてからはじめて知 ティーモロジイのさまざまなくみあわせ方の中で、論争的かっていた。ュ った同性愛の相手だった。 あの堂々とした智恵と意思と行動力 な関係におかれるようなカップルである。だが、二人は、この星に 来てから、まだ論争らしい論争をやっていない。それどころか、この塊りのようなグスタフとは、おかしな組みあわせだったが、この の星にくる途中で、何か妙な要素がはいりこんでしまい、この星に道ばかりはどうにも理性ではかりきれない。ューリーがみじめにな ればなるほど、グスタフはそんな彼を哀れみ、夢中になって彼につ ついてからは、それがますます妙なことになってきた。 ーリーが、女のくさったような、はたで見ていて くしてやった。ュ だがおれは、そんなことは別に、気にかけなかった。 身うちが不快なうずきでいつばいになるような、哀れっぽい愚痴 2 や、いやらしい見えすいた手管をつかい、それにグスタフが 〃プロクシマ・ケンタウリのヘラクレス〃とよばれた堂々たる偉丈 丿ーの〈日記〉を、もう一度。 ( ラ夫が、手もなくのせられて、やさしくいたわり、気嫌をとり、あや おれは何度も読みかえしたユー パラとめくった。表紙に〈日記〉と印刷してあるだけで、実のとこしてやったりするのを見ると、グスタフの親友だったおれは、情な くって反吐が出そうになるのだった。 ろ、日記や手記のていをなしていない。だらだらと、くだらぬ、小 一度、ユ 1 丿 ーの件で、おれとグスタフは、二人ともあやうく地 便くさい小伜でも書きそうな一人よがりの感想や、虫唾が走るよう 球送還になるほどの壮烈な殴り合いをやった。最後に保安員の麻痺 な気障ったらしい詩のようなもの、隊員の誰それが気にくわない、 とか、誰それが自分に意地悪をするとか、隊員はみんな、俗物で、銃でとどめをさされるまでの二時間半、今でも・ 0 Ⅲ基地の語り 1 丿 1 で、火 ーリーだった。おれが一度、やつのことをどなりつ すばらしい天分や才能を理解しないとかーーー犯人のたわ言としか思をつけたのもユ えない、女のくさったようなうじうじとした愚痴を書きならべてあけたのを根にもって、あることないことグスタフに、たきつけた。 る。 ーリーは、だめな奴で、うぬぼれ屋で、過度のアルカロ グスタフはその足でおれの所へとんできて、おれの胸倉をつか イド性飲料の中毒で、年よりはすっとふけてみえ、意思薄弱で、詩んだ。 ー丿ーを殴った ? 」 人になりたがっていたが、意思薄弱のためになりそこね、何一つち「な・せ、ユ ゃんとできないくせに、やたらに人をうらんだり、陰口をいったり体重百二十キロ、身長二メートルの大男は、理性を完全に失い する男だった。陰口がこの男の一番得意で、その時だけ他人の注意眼をまっかにもえ上らせて、その鋼鉄のような腕で、おれをストウ こ 0 ュ 第レミック
: 君から、ユー 丿ーをうばった星ーーーユーリ ーをうばわれ くさった愛情にさめ、まっすぐおれのところへやってくることは、 たために、君はユーリーをしめ殺し、その悲しみのあまり自殺した時間の問題だということが、わかっていた。だがらおれは、あせら のだろう。ひょっとしたらあの″星は、君がほしかったために、 ず待っことにした。君がこの調査からかえってきたら : : : だから君 君からユーリーをもぎとったのかも知れない。だがそんなことは知が消息をたったときいた時から、さがしに行き、始末をつけるのは ったこっちゃない。いずれにしろ、あの星は、女みたいにべタベタおれだ、と心にきめていたのだ。 して胸くそが悪い。グスタフ : : : おれのこの、やけくその行為は、 もう、二度とーーそう、この上いくら宇宙をかけめぐろうと、君 君に対するせめてもの、はなむけだ。君を失ったおれの悲しみは、星のようなグ男みにあうことはあるまい。君は″男みだった。おれも の一つや二つぶっとばしたくらいで晴れるものじゃないのだが・ : ″男みた。ヘラクレス同士の愛が、去勢された役人どもや、ひ弱な グスタフ : : : おれこそ、君を愛していたのだ。君だって、そのこ ガキどもに理解できるわけはない。だから、俺のこの傷心も、誰も とはわかっていたはずだ。そしておれたちこそ、真のカツ。フルにな理解できまい。だが、君なら、君だけはわかってくれるだろう、グ れたはずなのた。おれにとっての君、君にとってのおれ : : : これほスタフ : どふさわしいもの同士が、またとあろうか ? そう、おれはー・ーーおれたちは、″宇宙の毒かも知れない。だが ュ 君もそのことはわかっていたはすだ、グスタフ : ー丿ーのこんなおれたちもまた、宇宙がうみ出した。君のないあと、おれは ことでなぐりあったあの時、ほとんど最後ちかくなって、何かのは宇宙の破壊者になるかも知れない。理窟もくそもないが、おれの中 すみに、おれはひょいと君の男根をズボンの上からっかんでしまっ に″毒みがうまれ、それがこの宇宙につきささる。傷心はいやされ た。あの時間ーーー君はとまどいしたようにおれの眼をのそきこみ、 ることなく、やがては自身の″毒みのため、おれはたおれるだろ おれも一瞬、顔を赤らめて君を見た。二人はまたすぐ殴りあった う。かまうものか、グスタフ。おれは、宇宙につきささる毒の槍、 ガイア ウラヌス が、そのあとの殴りあいは、何だか、二人がいちゃっきあっている毒の男根だ。地母神の腹につったてた天神のペニスを針でかりとっ ように、妙なものになってしまった。あの時 : : : おれが君をつかんて父を殺す、二人の子供、クロノスた。おれは傷心のためにくるつ だ時 : : : 君があの地点から、もうちょっと進めば、そのことがはっ た。もう基地なそへはかえらない。やけくその、むちゃくちゃもま パラライザー きりわかったはずだ。だが二人は麻痺銃で始末され、二日を病院で た、〃生命〃にあたえられた生き方の一つであり、おれにはそれを 呻吟した。 おれには、その間にはっきりわかった。君がユーリ やる権利がある。誰も、おれをとどめることはできない。宇宙だっ ーをつれて、あわてて・ O Ⅱへ行ってしまったのも、君がそのこてとめられまし 、。″男〃の怒りは、むちゃくちやで不条理なもの とに気がっきかけて、とまどいしたからだろう ? そうだろう ? だ。それをとめられるのは、グスタフ、君一人だ。 だが、その グスタフ。 君は、もうこの広大無辺の宇宙の中のどこにもいないのだ。 わかっているのた。おれにはわかっている。君がユー リーとの 5 4