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検索対象: SFマガジン 1969年10月臨時増刊号
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1. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

おれはかれを外へ連れだした。外に寝かせてから道具をとりにも さんざん聞かされていたので、はじめて見る感じがしなくて、何だ かこう、古巣へ戻ってきたような気がした。七フィートの高さの、 どった。外で笑っている声がまだきこえた、はじけたような笑い声 亜鈴の形をした大きな機械と、かれがアンテナといっていた、てつ が谷じゅうにこだました。荷物をまとめて背中にしよい、圧力ラン ペんにマカロニのかたまりみたいなものがついている円筒形の小さ。フを消そうとしたとき、カチリという音がした。 な機械。 あの送信機だった。赤くて黒い小さな円盤がくるくるとまわって 圧力ランプをつけるとばっと光りがあふれーー九ー九ぐらいの狭いる。おれは突ったってそいつを眺めた。三分か四分まわって止ま くるしい場所だった かれは機械にとびついた。 った。それからそいつは熱くなってきた。 どこやらひっかきまわしてワイヤをひきずりだそうとした。が、 おれはこわくなった。大急ぎで穴から這いだすとサイクスをかっ とっぜんびたりと手を止めて、ぽかんとした顔でおれを見つめた。 ぎあげた。そう重くなかった。おれは穴の中をのそいてみた。ほら 「どうした、先生 ? 」とおれはいった。おれは先生と呼ぶことにし穴は明かるかった。真赤だった。あの機械が、さくらんぼ色から麦 ていたんだ。 わら色、そして白とみるみるうちに変っていった。。おれは見た。お かれはごっくりと生唾をのんだ。 れは走った。 ルがからだ。からつ。ほだ。八インチしかワイヤがない。たっ いつどうやってロー。フのところへたどりついて、サイクスをしば たの ーそういってかれは気絶しちまった。 って、よじの・ほって上からひつばりあげたのかお・ほえていない。か すぐにとびついてゆりうごかすと、かれはばちばちと目をあけれはすっかりおとなしくなっちまってたがまだ意識はあった。かれ た。おきあがり、ぶるぶる震えていた。 をかついで歩きだしたが、谷あいの光りがおれの足を止めさせた。 「補給したんだ」とかれはいった。すごいしやがれ声だった。「ケおれはふりかえった。 ンプ ! やつらはここへ来たんだ ! 」 谷へおりる道がはっきり見える。そこは溶岩でいつばいだった。 おれにもだんだんのみこめてきた。下段のリールはからっぽだっそいつが砂漠一帯を明るく照らしだした。おれはあんな熱い目にあ た。だが上段のやつにはいつばいつまっている。新しく記録をとるったことはない。おれはまた走りだした。 ためのお膳立てがすっかりととのっている。じゃあサイクスの三十車にたどりつくとサイクスをほうりこんだ。かれは座席の上で少 年間の仕事はどこへ行っちまったんだ。 し身うごきした。工合はどうかとおれは訊いた。答えはなかったが かれはげらげらわらいだした。おれはかれを見た。耳つんぼにな何やらぶつぶっとつぶやいていた。 こんなようなことだった。 りそうだった。狭いところでがんがんひびいた。あんな笑い声はき いたことがない。短い悲鳴のような声が矢つぎばやにほとばしつ 「かれらはわれわれが原子力時代に到達したことを知った。かれら はその時期を知りたがっていた。送信機はその役目を果した。かれ た。ひいひいとかれは笑いつづけた。

2. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

に去っていく灰色の巨人に眼をむけた。ひげと髪の毛を風になびか断崖のヘりから、海上にむかって突きでている、天然の石橋が見 せ、たたかいの大槌を幹のような肩に載せて、大股に歩き去ろうとえた。橋幅はきわめて狭い。凸凹のはげしい岩頭のあいだに黒々と 口をあけている、対岸のほら穴まで伸びているようだ。 している姿を、いつまでも見送った。 「ライコン、ここで待て。この径をたどるのは、おれひとりでたく アインゲルの姿が、ようやく視界から遠ざかると、エラークはラ さんだ」と、エラークはいった。 イコンにうなすきかけた。 小男はその言葉に頷こうとはしなかったが、エラークの主張はさ 「どうやら、えらい男を味方に得たらしいそ。あの男は、必要欠く べからざる同胞になってくれるだろう。だが、いまはーーーマヤーナらに頑強だった。 のことが先だ。もし、彼女がカルコラの秘密を本当に知っていると「そのほうが安全だからだ。ふたりそろって同じ罠にはまるわけに すれば、たとえ泳ぎ渡ってでも会いに行かねばならん」 はゆかん。もし、おれが日暮れまでに戻らなかったら、そのときこ 「その必要はないようだな」ライコンが口をぬぐいながらいった。 そ後を追ってくれーーーおぬしの手助けが必要になるのだからな」 「それにしても、うまいはちみつ酒だったぜ。まあ見てみろ。島に そういわれてみると、ライコンも、かれの主張に理を認めざるを はちゃんと橋が架かっておるではないか。狭い橋だが、渡ろうと思 得なくなった。かれはぶ厚い肩をすくめていった。 えばけっこう役にたつだろう。もっとも、あの女が、張り番に竜で 「わかった。おれはアインゲルのほら穴で待っことにしよう。なに も放っていなければの話だがな」 しろ、あのはちみつ酒はめつ。ほう旨いからな。あれをほったらかし ておく手はない。ま、幸運を祈ってるそ、エラーク」 アトランティス人はコックリと頷いて、橋をわたりはじめた。ど うやら、橋の下を覗きこまないほうが得策のようだ。岩にくだける 波の怒号が、橋の上まで伝わってきていた。海鳥が鋭い啼き声を発 していた。体の平衡をとりながら進むエラークの体に、風がはげし く吹きつけた。 ようやくのことで、かれは橋をわたり切った。沓が、微動もしな い岩盤をしつかりと踏みしめた。かれは振り返りもせず、穴の入口 へむかった。洞穴の中にはいったとたん、外のざわめきがうそのよ うにしずまった。 9 径は、下方に傾斜して伸びていた , ーー岩の間をくねくねと蛇行し郷 ているところを見ると、おそらく天然の地下道なのだろう、ゆかの かしこ海藻にうずみ尽くされたる高き尖塔に、 年ふりた青白きむくろ流れ寄る、 そは王侯と、恋する者どものむくろ、 恋女の甘きくちびると、暗殺者の短剣とによりて、 ふかで 致命の深傷を負いたるがゆえ、 もはや苦痛をなむることもなし 6 マヤーナ オペリスク ーー沈塔賦

3. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

がきっかけでみんなが喉か足かで物音をたてずにはいられない気持 らは記録をとりにきて、補給をしていった。 かれらは、コントロールされた原子力のみが破りうると考えられになった。検死官が片手をあげた。 「ケン。フ兄弟が何を心配しているかようくわかっとるよ。もしその ているあるものであのほら穴を封じた。今回、あの送信機は、あそこ にいた人間によってスタートさせられた。きみのトーチランプだ、話がほんとうなら、もう一度よく考えなおさにゃならんわ」 「こいつはうそっきだ」とべンチの山師がいった。「人殺しでうそ かれらはわれわれが ケンプーー・あの三百年先のトーチランプだ うちの餓鬼もそういうような本を読んでるが、わしや、 つきだ ! かれらは戻ってくるそ ! 」 原子力をもっていると考えたのだ ! ししか、やつはいますぐここからずら あんな本は読ませたくねえ。 「だれが、先生、だれが ? 」とおれはいった。 「なぜだれかがーーあるいはどかる魂胆だ。このケン。フって野郎は絞り首にしたほうがいいんだ」 「わからん [ とかれはつぶやいた。 「この男を殺すにしても、 こかの生物が・ーーこういうことを知りたがるのかという理由はたつ「待て、ジ = ド」と検死官がどな 0 た。 た一つある。そうすればわれわれをおしとどめることができるから」合法的にやりたい、いいな ? 」騒ぎはおさまり、検死官は囚人をふ 「いいかね、ケンプ・・ー・・ーちょっとばかり思いっ りかえっていった。 いたことがあるんたがね。最初の核爆発からあの穴がふさがれたと そこでおれは笑いとばした。車にのりこんでエンジンをかけ、そ きまでどのくらいの時間がたっているのかね ? 」 こでまた笑いとばした。 「さあ。二年ぐらいかな。もうちっとかな。な・せだ ? 」 「先生」とおれはいった。「おれたちはもうおしとどめることがで 「それからサイクスが死んだという晩から今日までどのくらいだ きないんだよ。新聞にも書いてあるけど、おれたちは原子力時代に いるんだよ、どうあがいたって。お扣たちは永久にこの時代にいる ? 」 ことになるんだよ。なぜって、人類は原子力時代をぬけだす前に、 「殺されたといえ」と山師がわめいた。 「だまってろ、ジェド。さあ、ケンプ ? 」 みな殺しにされちまう運命にあるんだからな」 いや二年になるかな」 「十八カ月ぐらい 「わかっている、ケンプーーわかっている、・ーーわたしもそれがいい たかった。わたしたちは何をした ? わたしたちは何をした ? 」 「それじゃあ」と検死官は両手をひろげた。「もしお前の話がほん しばらくしておとなしくなったなと思って見るとかれは死んでいとうなら、だれかがおれたちをやつつけにくるというあの死人のた とさくさにまぎれておれは姿をく わごとがほんとならーーそろそろやってくる時分だな ? 」 た。それでここまで運んできた。・ らました。・ とうみても歩がなかった。だれもこんな話は信じちゃく どっと笑い声があがった、その刹那、農協ホールの片隅が火柱と ともに消えうせた。叫びと悪罵に悲鳴をまじえながら、かれらは先 れないと思った。 を争って月光に照らしだされた道にとびだした。 法廷はしんと静まりかえっていたが、だれかが咳をすると、それ空には宇宙船がむらがっていた。 3

4. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

郭が定かでになかった」ただ、人間よりも皆の高いも 2 そしてさ憂欝な哲学のびとかけらをらすとともに、皮革の輪型を握り、 して太いものでないことだけはわかる。そのものは不気味な燐光を径をあるきだした。 閃かせた。淡い青炎のようであった。事実、その不気味な鬼火だけ が、唯一の触知しうる怪物のあかしであった。深まりゆく森のなか 第二章グワウェラの魔法使い を、知性と目的をもって彷徨する火炎の化身ででもあろうか ? コナンは凶暴な呪詛をひとっ軋らせるとともに、必殺の意力をこ とりで めて手斧を投げつけた。だが怪異のものは、針路を変えず滑走し トスケラン堡塁はプラック河の東岸にそびえていた。とりでの防 た。二人がとらえ得たものは数瞬の、飛び去る姿だけであった。茂柵の根を河波が洗っている。防柵は丸木であった。とりでの内部も みのなかを漂うように通った、背の高い、烟霧のような炎につつま丸木造りである。とりでの本丸もそうだ。本丸などと、単に威厳を れた奇態な影であった。怪異なものは去り、森林は息をつめた静寂よそおうためにそう称んでいるにすぎない。本丸からは防柵とそば のなかに沈みこんでいった。 を洗れる不機嫌な。フラック河が一望できる。ここに総督の住居があ った。河向いは広大な欝然とした森林地帯であり、じめじめした河 コナンは歯をきしらせると、木の葉をわけて径へでた。ルッス がふらっきながら後を追う。コナンの呪詛はつづいた。恐ろしい 岸にそって、ジャングルのように濃密な森林の前線が迫っていた。 気味わるい、怒りをしたたらせた呪詛がつづいた。キンメリア人丸木づくりの胸壁にそった歩橋を哨兵が日夜をわかたず往復して、 が、チベリアスの死骸がのっている担架のわきに立っていた。死骸濃い緑の壁を監視している。怪しいものの姿はほとんど見られな にはもう首がなかった。 い。だが哨兵たちは、自分らが見守られているのを知っている。大 昔からくすぶっている根強い憎しみをもって、凶暴に、執拗に、無 「あのいまいましいネコ声でおれたちをたぶらかしやがったー ナンは、巨大なだんびらを頭上に振りまわしながら、憤怒をわめき慈悲に見守られていることを知っている。河むこうの森は、事情を しらぬものの眼には、荒涼として生きものが棲んでいないように見 ちらした。「おれとしたことが , 計略を見抜けたはずのおれが ! える。だが事実は逆であった。鳥けものの類はおびただしく、また ちきしよう、これでゾガールの祭壇を飾る首級が五つになったか」 「だけどあの、女の泣き声と悪魔の笑い声 . ーー・あんなものをだせる人間もたくさん住んでいた。あらゆる狩猟族のうちでももっとも獰 のは何でしよう ? 」 / / 、 くレッスが青白い額の汗をぬぐいながら訊い猛な種族が住んでいるのであった。 た。「そして、樹の間をとおるとき、まるで鬼火みたいに光った」 文明はこの堡塁でとまっていた。トスケランとりでは文明世界の 「沢の悪魔だよ」コナンが不機嫌に答えた。「その棒を持上げろ。最僻遠の孤塁であった。それは支配者である ( イボリア諸種族の、 首無しでも、とにかく運ばにゃならん。それだけ荷が軽くなったと西へ突きだされた最遠の橋頭堡といえた。河をこえた向う側では、 ぬし まだ未開の民が、影深い森林の主であった。草をふいた小屋には、 いうもんだ」 コ 297

5. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

おれにもわかっていた時期があった。 , ーー少年の時だ。だが、そ生きている水は、たちまち四方からドラの体をつつみこみ、ドラ の時期はすでにすぎ、おれは、女でも、若者でもない、ごっい、荒の体をゆりあげ、泳ぐよりはるかにはやい速度で、沖へむかっては 荒しい存在になってしまった。男の、おとなだ。グスタフと二時間こびさった。 ドラがこっちへむかって、白い腕をあげるのが見 半、わたりあえるだけの力がおれの中にそなわり、そしてそのカえた、しかし、次の瞬間、ドラは水のやさしい愛撫に、歓喜の声を は、苛酷なものだった。おれは、若年の酩酊、あのはてしない耽美あげ、水面を身もだえしながらころげまわるように、沖へ沖へとは と中毒から、すさまじい苦痛をへて、自分をもぎはなす快感を味っこばれていった。 た。そして、それがすんだあと、おれは別のものになっていた。ビ おれは、水ぎわで、光線銃をにぎりしめてつったっていた。 イ。ヒイいう女や、嘴の黄色い、口先ばかりは一人前の、ひ弱な小僧水にとびこんで、その愛撫に抵抗する自信はなかった。水の舌は、 っ子とちがった、人間の、成熟した雄に : それになることのでまたそろ、そろそろとおれの足もとにはいよろうとしていた。おれ きない連中には、絶対理解できない、荒々しい、孤独で、空虚で、 はそいつにむかって一発うった。 しかも力のみなぎった存在に : おれは宇宙にむかって立った。 ようこそ・ : : ・・ : 空虚につきささる巨大な男根のように : と、突然、湖面にたちの・ほる霧の中に、サインがひらめいた。 「私はここにいるわ、・ : : : 」 ドラは、ひややかなまなざしを ようこそ、・ : : : と発光昆虫が空中に描いた。 俺に投げた。「私はーーこの星の生物の仲間入りをするわ、そして ようこそ : : : ようこそ : : : ようこそ・ 死ぬまで、この星で、ほかの生命といっしょにとけあって生の至福と、夜光虫の光が、月光にきらめく湖面のうねりがよびかけた。 の時を味わうわ。さよなら、・ーー・私のことは忘れても、この私たちは、あなたを歓迎する : : : ようこそ、強い男 : : : あなたは 星のことはお・ほえていてね」 男だ : : : あなたを待っていた : ドラの長広舌がすんだら、おれはドラの顎にかるく一発くれて、 おれは汗をかいていた。光線銃をかまえたまま、眼にしみる汗 イオン・カーにかつぎこむつもりだった。 トラは一瞬早を、夢中で片手なぐりにふいた。 く、水にむかってかけ出した。 きて : : : と、今度は、はるかに湖水の彼方にそびえる、ねそべっ 「いかんー ドラ ! 」とおれはどなった。「水にはいっちゃいかた女のような山がよびかけた。 ん。その水は、生きているんだーこ きて : : : 私の中に、はいってきて : : : 私の下腹の、深い、あたた だが、おれの制止もきかず、ドラの裸身は月光にきらめく水玉をかい穴にはいってきて : : : あなたは男 : : : つよい男 : : : あなたは、 はねかえして、湖水の中にはしりこんだ。その見事にはった、満月男根 : のような臀の双球が、水面にふれるくらいすすんだ時、ドラは何か ちくしよう ! とおれは心でうめいた。 ーーー覚醒剤の注射器をつ に脚をすくわれたように、水にたおれこんだ。 かみ出すと、自分の腕にたてつづけに三本うちこんだ。

6. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

て、ようやく訪問者たちは彼らの車の蓋を閉めた。 ウォルトばいったん口をむすんでから、「それがな、青かったよ」 「なんとか装置のなんだかが、あれでぐらっかなきや、 . し . し、力 / 「青」とトル・フリッジが叫んだ。 ・ : 」華やかな色彩のほとばしり、ガラガラゴ 0 ゴロ、そして、くぐ「そうさなあ : ・ : ・」ウォルトはそれじゃ融通をきかせようかという もった吠え声の連発。「だめだあ、やつの悪態を聞いてみろよ ! 」 ロぶりで、「緑だったかもしれねえ」 とウォルト。とっぜんゴロゴロがやみ、色彩が白いもやの中に薄れ「緑」 ていった。「うまくいっこ : : ほら、明りがぐるぐる回ってるだろ「いったいど 0 ちなんだね ? 」だれかがたまりかねたようにし : 行っちまった。・ とこだか知らねえとこ 0 ウォルトはあやふやた。「青か緑か ? 」 に結論した。夫婦は玄関を閉めた。エマがため息をついた。 ウォルトは依然として我関せずといった口調で答えた。「青緑 「お客がきてくれるって、 しいもんだわねえ。でも、こんどうちへ ヨー・トロプリッジが何か言いかけようとした。「それとも だれかがきてくれるのよ、、 冫しナいいつのことかしらん ? 」 緑がかった青 , ウォルトは相手の出鼻をくじくようにそういった。 訪問者たちは彼を取巻いた。「彼らはどんな服を着てました ? 」 それはきっかり三時間と五分後だった。田舎道をふっとばしてき ウォルトはまたくちびるをきゅっと結んで、「それがな」といっ た二台の自動車が、キ 1 ッと急・フレ 1 キをかけた。人びとがばらば た。「連中が着てたのは、そのう、猿股みてえな : : : 」 らと跳びおり、小 道を駈け上って、タウンズ家のドアをノックし「猿股」 た。玄関に出たのはウォルトだっこ。 エマは不安そうに周囲を見まわした。訪問者たちはあまりウォル まず、訪問者たちはいっせいにしゃべり出し、気がついていっせ トの話を気に、いっていないらし、。、 ししや、皆目といったほうがいし いに黙りこんだ。やがて、一人の男が代弁に立った。「わたしはジ ・ノヨー・トロブリッジが前ににじりよってきた。「で、彼らはな ョ 1 ・トロ・フリッジといいまして、 ><oo—つまり、未解明んの目的で地球を訪れたかを話しましたか ? こジョーの訪問には、 空中ーーいや、じつは、この近くで目撃の報告があったんですよー さっきまでの熱心さがいくらかもどってきていた だが、ほんの いくらかである。 あなたもごらんになりましたか ? 空飛ぶ円盤を ? ええ ? 」 ウォルトはおもむろにうなずいた。「じゃ、あれがそうだったん ウォルトはこっくりうなずいた。「ああ、いったとも。はっきり なだ。おれはまた飛行船かと思った」 いった。赤んぼの哺乳びんをあっためさせてくれろ、とな」群集の トロ・フリッジは顔を輝かした。一同がまたがやがやしゃべりはじ中から、小バカにしたような笑いが洩れた。「あれ、ほんとだって めた。トロプリッジはいった。「見たんですな ? 近くでですか ? ・ : 」ウォルトの声は自信なげな尻切れとんぼで消えていった。 はあ ? おい、みんな静かにしてくれ ! おたくの前の芝生 ? 彼ジョ 1 ・トロ・フリッジと名のった男が、唇を曲げて彼を眺めた。 らはどんな姿でした ? どんなーー・・ ? 」 「まあ、ちょっと待ってください。ちょっと待ってくださいよ : : : 」 っ

7. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

「ご夫婦らしいわね」とエマがいった。ウォルトは、歩みよってく ? 」とエマがきいた。 る相手が季節はずれの軽装なのに気づいた。 ウォルトはもじもじしながら、「むこうじやわかると思ってるら 「おい、ありやおまえ、そのーー・・・猿股ひとつだ。せ、連中が着てるのしいがね、どうもおれにやさつばり見当もっかねえ」 はさ。もっとも裾は長いし、よっぽど上のほうまであるけどな」 エマはなかば気色ばんでいった。「あんただってわかるはずだ 「シーツ ! あら、こんばんは。あたしはミセス・タウンズ、こちわ。この奥さんはねえ、『車が故障しちゃったんですけど、赤ん・ほ らが主人のミスター・タウンズです。あなたがた、なにかお困りなの哺乳びんを温めさせてもらえませんか ? 』そうおっしやってるの しいですとも。さあ、台所へいらっしゃいな」 んですか ? 」 ウォルトは耳を掻きながら、もう片方の相手を見つめた。相手も 相手はすこし離れたところで立ちどまった。その距離からでも、 彼らがタウンズ夫妻よりずっと背が低く、そして幅広い体つきをし彼を見つめた。 「なんだ、そんなことかい」と、やがてウォルトはいった。「じゃ ているのが見分けられた。 「まあ、コートも着ずにそんなとこへ立ってちゃ、カゼをひくじゃあ、いっしょにあんたのエンジンを見てみようや。あの音はただご ありませんか ! 」エマが叫んだ。「お顔がまっさおよ ! 」実をいうとじゃなかったでな」 とそれは一種の青緑色だったが、相手の気をわるくしたくなかった のである。「さあ中へ、さあさあどうそーとエマは手まねきした。 彼らが家にもどってきたのは、それから半時間ほどあとだった。 「なんとか装置の 彼らは中に入った。キャンキャンいう音がまたはじまった。「そ「すっかり直してきたぜ」とウォルトはいった。 ら。ずっとあったかでしょ ? 」エマは玄関のドアを閉めた。 なんだかがぐらついてたんだ : : : 赤ん・ほはどうしたい ? 」 もの : いま寝ついたとこ。あったかいお乳と乾いたおむつが 相手の片方が、その一本 ? ー・・腕 ? しか考えられない の屈曲部から、キャンキャンいう音の源をとりだした。エマはそれほしかっただけよ」 をのそきこんだ。 そこでいっとき沈黙がおり、それからとっぜん、みんなが同時に しゃべり ( あるいは吠え ) はじめたーー、もちろん、声をひそめてだ 「まあおどろいた ! 」とエマは言い、ウォルトと顔を見合わせた。 「お父さんに生き写しね ! 」相手の二人の顔に、微笑と思われる表ったが。「あら、どういたしまして、お安いご用ですわ」とエマ。 情がうかんだ。 「また : ・ : こっちへお出かけのときは、ぜひ寄ってくださいねえ。 片方の生きものがその着衣の中をさぐり、卵形の容器をとりだしもっとゆっくりしていらっしゃればいいのに」 「そうだよ」とウォルトも口をそえた。「ゆっくりしていけや」 て子供のほうへ押しつけたが、不機嫌な鳴き声を聞いて、またひっ 9 5 こめてしまった。それからエマを見つめて、おずおずと吠えた。 エマがいた 「ここはとても淋しいんですよ。お客さんなんて 「あなたったら、この奥さんのいうことがわからないの、ウォルト めったになくて : : : さよなら ! さよなら、おだいじに ! 」そし

8. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

そっくりの味がするわ。高蛋白果実は、このほかにいくらでも種類 理由のない怒りがこみあげてきて、おれは手足の花もひきちぎがあるのよ」 り、草をふみにじった。グスタフの頭蓋骨は、胸から五十メートル「食ったのか ? ことおれはきいた。 ほどはなれたところにあった。 もり上った灌木の上にささえら「すてきよ。ミート・ローフみたいな味がするわ」 おれはやけた果実を口にはこぼうとしていたチャーリーにとびつ れ、その頭蓋には、蔓草の花冠がかざられ、その眼窩から、鼻腔か いて、その手から果実をたたきおとした。 ドラの襟がみをつか ら、がつくりひらいたロの中から、無数の花が吹き出し、咲きみだ まえると、ロの中に指を二本つつこんで、食ったものを吐かせた。 れていた。 「何をするの ? よして ? 」とドラは悲鳴をあげ、手足をパタ・ハタ 4 させた。、ーー眼には涙をい 0 ばいため、唇のまわりを汚物でよごし ながら、憤然としておれに食ってかかった。 「君はどうかしてるそ、ドラ : とおれよ、つこ。 をしナ「このティ そのあと、しばらくさがしたが、のこりの隊員の痕跡は附近に見 ムの唯一人の生化学の専門家のくせに、なんてざまだ」 あたらなかった。 のこりの連中は、生きているのか、死んでい 「どうだっていうの ? ーーー神経質すぎるわよー るのか : : : おそらく生きてはいないだろう。森の中か、丘のむこう おれはまじまじとドラの顔を見た。 いつもの彼女がいうせり か、どこかで花に埋もれた骸骨になっているにちがいない。 見とおしのきく湖水のほとりで、おれたちはキャンプすることにふじゃない。 「ドラ した。イオン・カーの中は、三人ねるにはせますぎる。気候はいし しいか、こいつは君がしよっ中おれたちにいってきかせ から、草の上にじかにねてもいいのだが、おれはエア・テントをはてくれたことだ。果物だって、完全にその成分と性質がわかるまで り、三時間交替で一人が見張りをすることにした。 は、やたらにロにいれるべきじゃない。こいつが、ヘデスの三種の 周囲を一通り見まわってかえってくると、キャン。フのほとりに、 ざくろかも知れない。数年前、アンタレス四番惑星にはじめて探検 何か香ばしい香りがただよっていた。ーー手もちの食料ではない、 隊がついた時 : : : 」 かわったにおいだ。 「わかったわ、もういいわよ、 e ・」ドラはツンとして横をむい 「この星は、エデンの園よ。 ごらんなさい、・」 た。「でも、ある意味じや手おくれかも知れなくってよ。私たち、 ドラがほほえみながら、小さな洋梨形の実をさし出した。 中この星の大気を精密検査もせずに、吸っちゃってるんですものね」 にやけたうす赤い果肉がぎっしりつまっており、やきたての肉のよ このことは、おれも気がついていた。 おれたちは、第一歩か うなうまそうな香りをはなっている。 らミスをしてしまったのかも知れないのだ。第一次、第二次調査隊 「ちょっと分析してみたけど、良質の蛋白質なのよ。ゃいたら、肉の、「すてきな星だーこという上ずった報告を鵜のみにして、今や 2 3

9. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

「先生。あのう、これなんすけど」 「そっち逃げたそ」 「ああ。これですか。えつ、君。まだこんなことしてたんですか。 「つかまえろ」 これ、もういいんですよ。すんでるんですよ。あっ。どうしてそん 「こっち来た。来た」 「注意しなさい。それ倒しちゃいけないよ」 なもの持ってるんですか。それ、どこからはずしてきたの。それ、 るつぼ 。それ、はすし 「もう時間ないし、今日はもう、これ、できませんわね先生」 あれでしよう。坩堝でしよう。霊菌の入ってる : 「いや。やりましよう。いそぐから , てきちゃいけないですよ。困りますよ , 「ひとりじゃ、できないわー 「でも、いちど鱗木につけてテストして見ようかと思って : : : 」 「三木君と、それから君ね。そこから中へ入ってくたさい。い や大「そんなこと、しなくていいよ。いやいや、したら大変たよ。誰が いわないでしよう 丈夫、そこはもう冷えてるから。三木君ちょっと、双極子の回転をしなさいと言いましたか。・ほく 布原さ 見なさい。あ、それから君ね、このパイ。フそこへつないでくださ「はい。もしもし。そうです。え、布原さんですか。はい。 、。で、先は外へ出して : : : それは外じゃないよ。こっち向けて。 ん、お電話です , そうそう。イオンを移動させますからね」 「はいどうも。もしもし。布原です。ああ。こんにちは。ううん。 「そんなこと、できますの先生」 まだ終らないわ。そうねえ。だいぶ遅くなるわ。そうね。ええ。じ 「できます。だけど、あれはもうできてますか。誘電体は」 や、そうしてちょうだい。え、何。ふふ。馬鹿ねえ。いやね。はい 「あれ、先生がやられてたんじゃなかったんですか。わたしそう思はい。じゃあね」 ってたから : : : 」 「布原君。君ね、あのふたり、見て教えてやってくださいね。あ、 「ぼくですか。ぼくはしてないですよ。誰に頼んだかな。ええと、それから今の電話、誰」 あれはたしか、結品になるかなんかたったんだけどな。その結晶構「清水さん。三科の」 造、早く見とかないといけないんですよ。おそらくね、そうなると「ああ。緑肥作物やってる人ね」 思うんだよね。結晶にね。だけど等軸結晶になっても困るんだよ「先生。できました」 ね。結品にならないとね・ガチッとね」 「え。できましたか。ああ。できましたね。すぐ使いましよう。い そぐからね。これが一般多様体ですね , 「誘電体は誰がやりましたかあ」 「まだですう」 それからこれが、自分自身への連続写像。これが、それに 「この中にいる人よ。三木君よ」 対する不動点の代数的個数です同位相の方は : : : 」 「いや。わかってます。わかってます。じゃあ君ね、さっきあの中 「じゃ、ぼくがやりましよう。しかたがないから。えと、航海用六 へ、三木君と、それからもうひとり入っていったでしよう。あの子 分儀どうしたかな」 0 5

10. SFマガジン 1969年10月臨時増刊号

頭上にかぶさる絡みあった枝のなかに、幽霊のような乳白色がび 壁の角から祭儀を見物していやがった。おれはうしろから近づい ろがりはじめた。透いて見える空のパッチの色調が変化し、・ハラ色 て、両手で頸の骨を折ってやった。何が起きたかわからんうらに、 やつはこと切れたろう。おれがヘビへ投げつけたのは、そいつの持から青へと移ろった。・ハルッスは胃がしばられるような空腹をお・ほ えた。彼らがすそをまわった流れで、渇きだけは癒してあったが、 っていた槍だよ。おまえのその斧もそいつのだ」 「だけど、あれは何でしたーーあんたが祭壇小屋のなかで殺したも食べものはどうにもならなかったのである。二、三度小鳥が囀った のは ? 」パルッスは、薄暗がりで見たあの恐怖図を憶いだして身震ほかは、丘一帯は完全な静寂に占められていた。もうドラムもひび いてはいなかった。。ハルッスの思念は、祭壇小屋の前で展開された いしながら訊いた。 「ゾガールの神さまのひとつよ。ジ = , バルの子どもたちの一人陰惨な地獄絵〈ともど 0 ていった。 「ゾガール・サッグのつけていたあのダチョウの羽根ですね。わた だ、その由来を憶えている能力もないし、祭壇にくさりでしばりつ けられているよりしようがない。牡の大猿だよ。ビクト族は、大猿しはあれを前に見たことがあります。国境の大侯たちに伺候した馬 にのって東からくる騎士たちのかぶとにあれが飾ってありました を毛深いものヘ捧げる神聖な生贄と考えているんだ。毛深いものと よ。ここの森にはダチョウはおらんのでしよう ? 」 いうのは月に住んでいる、グウラーというゴリラ神だよ。 そろそろ明るくなってきた。このあたりが手頃だ。やつらがおれ「あれはクッシ = から来たものだ」コナンが答えた。「ここからず っと西のほう、国境をいくつも越えた、海べりにある国だよ。ジン たちの足跡にどれだけ近づいたか、見きわめるまでここに隠れてい ガラの船がときどきやってきて、海べ住まいの部族たちに武器や装 よう。河へもどるのは、たぶん夜まで待たなければなるまい : 小高い丘がそびえている。周囲も頂上もこんもりとした樹木と灌身具や・フドウ酒などを売り、毛皮、銅鉱、砂金などを仕人れてくる 木でおおわれていた。コナンは頂上近く、つきだした無数の大岩でのだ。ときたま、ジンガラの商人は、スティギア人から仕入れたダ 迷路のようなところへ滑りこんだ。岩にはびっしりと藪が冠されてチョウの羽根を売りつける。スティギア人はダチョウの羽根を、ス ティギア国の南にあるクッシュの部族たちから買っているのだ。。ヒ いる。ここに潜んでいれば、下の密林は手にとるように望め、しか クトの呪い師たちは、ダチョウの羽根をとても大切にしている。し も下からは見られないだろう。潜伏と防衛には格好な場所であっ かし、この交易はひじように危険があるんだ。。ヒクト人が船を拿捕 こ。・ハルッスは、四マイル、五マイルと続いた岩だらけの地面を、 しようとするからだよ。それに陸そいは航海が危険だ。おれは・ハラ どんな。ヒクト人も二人の足跡をたどれまいと思った。だが、ゾガー ル・サッグの命令に従う野獣のことが気になる。奇妙なシンポルのチ諸島の海賊といっしょだったとき、あの陸そいを航海してよく知 っている。・ハラチ諸島というのはジンガラの南西にあるんだー 効験に対する信頼も、いまとなるとパルッスにはすこしぐらっきだ ・ハルッスは讃嘆のまなこで仲間の男を見上げた。 していた。だがコナンは野獣が尾けるという可能性を一笑に付し 「わたし、あなたがこの辺境地帯で一生をすごしたとは聞いていま こ 0 おか おか 田 9