アリス - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1969年11月号
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1. SFマガジン 1969年11月号

うな容貌をしてはいなかったけれど、何かおのずから人を惹きつけた。 るもの、アリスが働いていた・・の機械をめちやめちゃにし アリスはこわかったのだ。アリスの家族は貧乏だった。それがど てしまうにちがいないほどの磁力をもっていた。 んな意味をもつのかアリスには分っていた。とに角、低能や精神病 私はアリスに会い、磁気を帯び、極性を与えられ、茫然となつ者を別とすれば、誰がそういう日々をおそれない訳にいくだろう た。茫然として幸福だった。アリスに結婚の申し込みをし、アリスか。それだからアリスは安全性を、逃げ場所を求めていたのだ。あ がイエスと答えた時には、自分の運があまりにつきすぎているようの一九五〇年代の世の中には逃げ場などはなかったのだ。だがアリ で、実現しないのではないかと思ったほどだ。そして案の定それはスにそれを言っても何になっただろうか ? 実現しなかった。三週間かそこらたってアリスは指輪を返しにきた私はいささか痛飲した。自分は成功するのには適さない人間だと のだ。私と結婚はできない。みんな間違いだったといったことだっ いうことを自分に納得させるまで大いに飲んだ。ある考えを思いっ いたのは酒がさめて行く途中のことだった。私は世界を変えた考え 二日後私は偶然工場の廻廊でアリスに出くわした。アリスの指にのどれほどが二日酔の産物であったろうかと思う。 は、別のもっとデカいダイヤがはまっていた。私はアリスを引きと私には何日かの有給休暇があったからことは簡単だった。飛行機 めて荒々しく「誰なんだい ? 」と詰問した。 に乗り汽車に乗りおん・ほろ・ハスに乗った。それからぶどうづるの上 ためらいながら彼女は私に話した。相手は会社の下級幹部で家族を威勢よく歩き、そこからもうしばらく訪れたことのなかった農家 のコネと会社の株を持っていることで昇進間違いなしの若僧だつのドアへ続いている馴染の小道を登っていた。ここへ来なかった年 た。アリスは利ロな子だった。単に自分自身をもう少し高く売ろう月を勘定してみて私は驚いた。 としたたけなのだ。私はそのことについて幾分刺のあることを口に おばあちゃんは裏庭でつぎはぎ細工のシャッと色のあせたプルー したようだ。 の仕事着を干しているところだった。ちっとも驚かずにおばあちゃ 「違うのよ、オリ ー」とアリスは言い張った。「そんなことじゃんは言った。 あないの。ただあなたを愛していなかったからよ。愛したことなん「どうだい、オリバ てなかったんだわ」しかしアリスは私の目をまともに見ようとはし そして私がじれったさを我慢しながらみている間、おばあちゃん なかった。 はもくもくと仕事を片づけた。 少し冷静になってから私は、どうやらアリスは私に対して隠し立とうとうおばあちゃんは空になった洗濯カゴを持ち上げて家の中 てしているわけではないということに気がついた。アリスは自分自へ入った。暮れかかっていたのでおばあちゃんは台所の石油ランプ 身をだましている言葉で私にも嘘を言っただけなのだ。同時に、アに灯を入れた。鋳物のかまどの上では夕食が煮えていた。 リスの行いの小さな点まで思い起してみると、何故だか納得がいっ 「おばあちゃん」私はロごもった。「ここへ来たのはそのーー」

2. SFマガジン 1969年11月号

贈物である製品を見つけ出しました〃なんて言って彼らを気絶させ私は心理学者ではないけれど多くの人の精神障害、それからこれ たりできないからね。うまいやり口が必要だ」 ほどまでに蔓延している不幸は、専ら自分自身をだますという、根 5 「何かやり方があるはずですよ」 強い習慣に起因するのではないか、といことに確信を持っていた。 「落着けよ、私がなんとかする。私は二十年間だてに商売していたしかしおばあちゃんの嘘つき石鹸を使ったこの人たちは、もう自分 訳じゃない。だが一つ大切なことは、このかけ引きがうまくいくま自身に対してすらも嘘がつけなくなったのだ。 この結果はわれわれの大胆な新世界により大きな真実性を期待さ で、君の魔法の飲料を私から遠ざけておいてくれなきゃいけないっ せると同様、すばらしさも期待させた。二、三日たって会社の重役 てことだよ」 結局私の出した考えによって確認が得られることになった。だが連中は生産開始の結論を下した。他の大手の会社がすでにあの化学 その可能性を探ってみたのはオ・フライエンで、詭弁だの甘言だのの式に食指を動かしているという噂だった。 莫大な量の頓服のおかげで、試験用の何百人という志願者を手配す商務省標準局の検査は問題なかった。つまるところ、原料と無害 ることができた。これらの人間モルモットには三十日分の歯磨きー性ということについて彼らを納得させればよいだけだった。たぶん ー普通の原料におばあちゃんの嘘つき石鹸を混ぜたもの・ーーが無料彼らはネズミに実験してみたのだろう : ・ で供給された。そして期間がすぎると、彼らは実験に対する感想を重役たちの決断を祝うために私はアリスとアリスの新しいフィア 求められた。 ンセをタ食に招待した。私自身、われわれが何を祝っているのかい ほとんど例外なしに彼らは非常に満足した旨を言明した。もちろささかあいまいだったので、彼らはやってきた時と同じようにきっ んそれは営業部門が聞きたがっていた言葉に違いなかったーー客はねにつままれたまま帰っていった。ただ私が持ち合わせの小さな白 満足をしているのだ。 い錠剤を投薬してから二人はさらにずっと率直になった。 われわれの対象者は新しい歯磨を使ってみた後でなぜいいと感じ私はその夜中、仕事に心を費し、十一時にアリスのア。ハートに電 たのかは、説明が出来なかった。なぜならそれがどうしてだか彼ら話をかけた。私は正確に時間を定めた。アリスは在宅たった。しか には分らなかったからである。ただ彼らの人生が明るくなったようもアリスの声から判断すれば泣いているようだった。 に思い、個人的なっき合いというものがーー二、三の不幸な家庭的「彼とかなりひどいことを言い合ったんだね」私は同情したロぶり いざこざはさておき・ーーーもっと喜ばしいもののように思えるようにで言った。「婚約解消のことはお気の毒だ」 なっただけなのである。その家庭的いざこざの犠牲者すら極めて嬉「ああ、身ぶるいがするわ ! 彼は言ったのよーーー認めたのよもし しそうにみえた。 私の胸のためでなかったらってことを認めたわーーそれで私は言っ 私は何故だか知っていた。私の大好きな理論が、効を奏し始めたてやったのーーああでもどうしてあんなことを言ったのかしら ? のだ。 でもオリ・ ( ー、どうしてあなた知ってるの ? 」

3. SFマガジン 1969年11月号

その前の革新行政がまだ公衆の記憶に新しいために、市政の黒幕た るからね」 オ・フライエンは言葉通り非常によくやってくれた。二度ばかりわちの勢力がまだ強いのだった。 れわれは試行錯誤をかさねながら人々が本当に必要としているもの反対派は、われわれのことを何も分っちゃいない馬鹿で、悪に密 の製造に成功した。たとえば死を予防するようなものだとか ? 生通する無頼漢、理想主義的変人だと決めつけた。やつらは金があっ きる値打のある間は死なないようにするものなんかをだ。オ・フライたから、駅のフォームで、郵便を通してそれから通りをがなりたて てまわった録音で、その嘘の洪水をまきちらしたのである。結局わ エンは営業部門でわれわれの為に闘ってくれた。 ゴーリイ・アンド・ゴーリイでの立場について長々としゃべってれわれの候補者たちは予備選挙で大きく破れ、革新派は犬殺し役す しまった。というのもまず第一にこれは後に起ったことと、直接的らも投票用紙に刷り込んだ候補者名の中にのらなかった。 な関係を持っているからで、第二にはそれが、現代の若い世代には それは私のように傷つきやすい人間にとってはショッキングな経 想像もし難いような過去の時代の生き方だったからである。もちろ験であった。世界を、都市を浄める最初の段階としての地方行政浄 ん私は、あの二十世紀の半頃、その強制された進歩、あるいはその化に対する活動、演説、チラシ、家から家への戸別訪問、理想に満 進歩の手ごろな複写の、熱っぽい雰囲気につつまれた、時には光るちあふれた語句、それらの感動的な盛り上りの後では、余りにも打 ものが賞金であった時代のことをいっているのだ。 撃が強かった : それは前面を誇張して飾る時代だった。 / 後ろを誇張して飾る時代私はあの世界に対して新しい裸の目をもって相対するようになっ だった。そして真中にあるのはいかがわしいもの、スキャンダルとた。 中傷と悪質なべてんの時代だった。それはまた誰かが名付けたようそこでは大国のリーダーたちが毎日お互いを人類を根絶しようと に大いなる嘘の時代でもあった。しかしそれよりもさらに、ちっぽ陰謀する陰謀者だと指差し合っていた。そこでは「安全ーと恐怖は けな半ばな真実の世界であった。 ずんずん生育し茂りからみあい、普通の人間は本当に重要なことに 私が成長していったあの年月の間にーー今になるともうそれほどっいての真理については安心して自らを任すことの出来ない思想を にも感じないがあの頃は大変な毎日だったーーー私の教育もその他の鵜呑みにすることを学ばなければならなかったのだ。その結果とし て、そこは人騒がせな人物や内部をあばきたてる人々や、正真正銘 ことと平行して進んでいった。 の陰謀者たちが勢いよくはびこる世界だった。 私は政治の洗礼を受けた。 だが、ついに私はアリスとめぐり合ったのだった。 市政の黒幕に反対する革新候補者たちの指名を得ようとして働い ている熱狂的支持者たちに加わった。それが適当な時期でないと気 づくにはわれわれは余りにも無邪気すぎた。一つには、それは大統アリスはゴーリイ・アンド・ゴーリイの会計部門にいた。アリス恟 領選の年ではなかったから、投票は盛り上がらない筈だった。または表紙の写真家や映画会社のスカウトがよだれを流してとびつくよ

4. SFマガジン 1969年11月号

けてゆくのだ。つまり、サリヴァンは ( むろん、つつましやかなも ートは除隊をすませてきたのだ。息子ははじめ・ゲイナー・サリ のにはちがいないが ) 一種の公僕であり、退行の守護者ともいえるヴァンと名乗り、のらくらでわがままな態度をとっていたが、カレ のだった。 ッジに入寮することになって事情は好転した。そして、おどろくほ 歳月は足早やに過ぎていった。コッド岬の毎夏、サリヴァンは砂ど短期間ののちに息子はふたたび家で暮すようになり、それまでの 浜で鳴くダイシャクシギに耳を傾け、タ立が滝のように海面から水アパートでは手ぜまになった。一家はロング・アイランド・シティ を吸い上げるのを眺めながら、いっとはなくある不満を感じるようの一戸建てへ引っ越した。またまた女出入りがあって、サリヴァンと ーの父 になった。くちびるにくわえた薄色のハ・ハナ葉巻は、一インチもあ妻とのあいだは冷却した。彼は過労ぎみでもあった。工、、 るなめらかな灰のうしろからぼつぼっと伸びていき、やがて成長が親への巨額の返済も手つだって、事業のほうの好況がつづいたのだ。 終ると、彼はそこから炎をとりのそいて銀のナイフで先端をかぶ毎月の小切手の控え。あっちこっちから、金が湯水のように流れ ヒ 4 ーミダー せ、シガー入れの中へていねいにしまいこむのだった。工、、 ーのこんでくやーー食料品屋、服屋、医者 : : : 帳尻を合わすために、彼 髪はしだいに色艶を濃くしはじめた。二人はより多く語らい、より はいつも引出しに追われた。 いさかい 多く論をするようになった。ときおり、エ、、 ーが奇妙表情で夜になると、見馴れた自分の顔が、鏡の中からげつそりとやつれ をしったいどこへ行きた感じで彼を見つめるのだった。そこで彼の指がなめらかな頬に触 彼を見つめるようにもなった。このすべてよ、、 れる。カミソリが乾いた音を立て、シャポンの泡と生えそろったひ 着くのか ? 人生の目的とはなんだろうか ? ミリーと性に目ざめたー・・ーそれはげをうしろにひきずって、頬を上っていく。それから、温かい刷毛 十歳になって、彼ははじめてエ 短く不満足な体験で、その後しばらく繰りかえされなかった。そのがシャポン泡をとり去り、そしてひげをとりもどした顔が鏡からの そく。いちど、そいつをなめらかなままでほうりつばなしにしてお 二年後、彼はペギーと出あった。 いたら、どんな結果になるだろうか ? だがひげをあたるのはしき の中で起っ 出会いはある日の午後、彼のはじめて入るアパート た。向きなおった彼のまえでドアがひらき、そしてペギーが彼の顔たりなのだ。 をカまかせにひつばたいたのである。そのあと、しばらく二人は息工場は数回の引っ越しを重ね、結局プリーカー通りの屋根裏にお をはずませながらにらみあい、そして部屋の中に入った。サリヴァちついた。工程はむかしよりずっと単純になっていた。雇人もつぎ ンが彼女に対して感じた怒りには、自嘲と欲望がいりまじってい つぎに去っていき、ついにはサリヴァンとゲイナーと三人の職工だ けで用がたりるようになった。サリヴァンも、いまではときどき手 た。数分後、まだ仏頂面のままで、二人は服をぬぎはじめた・ : ペギーのあとにはアリス、アリスのあとにはコ = ーが現れた。一動印刷機を手つだいはじめた。いったんコツをのみこむと、金属の 九四二年、サリヴァンはいまや十五歳の男盛りだった。その年、彼あごがひらくアクロ・ ( チックな安全の一瞬に、空白のページを印字 の息子である見ず知らずの青年がイタリーからもどってきた。ロバ板からはずし、抹消すべきつぎのページをそこへのせる作業のリズ 2

5. SFマガジン 1969年11月号

・よ 0 第 その二人の子供は、りんごの壜詰めをつくる季節、アキノキリン ソウが最初の花をひらき野生のシオンのつぼみがふくらみかけるこ ろ、てくてくと野道をやってきた。はじめ台所の窓からのそいたと き、めいめい本のはいっているらしい鞄をさげているところから見 て、彼女には彼らが学校帰りの子供たちのように思われた。ちょう どチャールズやジェイムズ、アリスやマギーのように、と彼女は思 ったーーーけれども、この四人の子供たちが、あの野道をたどって学 校に通ったのは遠い過去のことだ。いまでは四人とも子供の親にな り、その子供たちが学校に通っている。 ストープに向きなおり、広ロ壜がいくつもテーブルに並んでその 完成を待っているりんごの砂糖煮をかきまぜると、彼女はもう一度 窓の外に眼をやった。二人の子供はさらに近づいてき、いまでは、 二人のうち男の子のほうが年長であることもわかったーー・、おそらく 十歳ぐらいだろうか、女の子のほうは八歳にもなるまい きっとうちの前を通り過ぎてゆくのだろう、と彼女は思った。と はいえ、その野道はこの農場にだけ通じているのだし、ここより先 にはなにもないことを考えると、それもうなずけぬ話である。 子供たちは、納屋に達する前に野道から折れ、家へ通じる小径を しつかりした足どりでのぼってきた。そのようすには、ためらう気 配はすこしもなかった。行こうとしているところをよく心得ている という感じだ。 い度一侃 0 ' 町彼女が台所 0 網戸ま出 = ゆく 0 と同時 = 、一一人 0 ポ , = たど をフ深中 りついて戸の前に立ち止まり、彼女を見あげた。 可ー 0 、冫ク訳画少年が言った。「あなたはぼくたちのお祖母さんです。パパが言 いました、着いたらすぐあなたはぼくらのお祖母さんだと言いなさ いって」

6. SFマガジン 1969年11月号

「分っていますよ , おばあちゃんはさえぎった。「この新しい入れそれなくして他の罪はあり得ない」 ー ? 」おばあちゃんは驚くほど歯をむき「それで」おばあちゃんが口をはさんだ。「お前さんは私の嘘つき 歯、どう思うかいオリ 出してみせた。「今日はあたしの誕生日なの。九十一か九十四かな石鹸の調合の仕方を知りたいのかい」 んかその辺だったよ。ちょっと忘れちまったがねーー・・そんなもん「ああ、そう、そうなんです」私はあいづちをうった。「それなん で、あたしゃ町まで行って新しい入れ歯を買ったんだよ。きれいかですよ。あなたと僕の先祖にはこんなに長いこと、それを秘密に所 持する権利はないと思うんですよ、ねえ、おばあちゃん。が働い え、坊や。十年か十二年は役に立ってもらわなきや」 てる会社はうがい薬や歯磨きなんかを作っています。何百万という 「そうですとも、おばあちゃん」私は半ば茫然として言った。 人々がうちの製品を使っています。だからもし新しい『奇蹟の原 おばあちゃんは探るように私を見た。 丿・ー ? 言ってごらん。困ってるのね、ちゃんと書料』が正当な方法で宣伝されたら他の何百万もの顧客をかかえてい 「何なの、オ 1 ハ る会社だって、それを採用しない訳にはいかなくなりますよ , いてあるわよ、お前さんに」 私は説得力ある演説をいくらかは下稽古してきていた。しかしお私はオ・フライエンをあてにしていた。私が彼に単刀直入に説明す ばあちゃんのランプの灯の台所に坐っていると私は年月が流れ去っれば、どうにかうまくやれるだろう。 てしまって、何だか自分が家出をして後悔をして帰ってきた小さな おばあちゃんは立ち上ってお鍋をかきまわした。私は息を呑んで 少年のような気がした。 いた。とうとうおばあちゃんはロを開いた。 いいかげん支離減裂気味に、私はどのようにして世の中に飛び出「お前さんに調合の仕方を教えてあげるよ、オリバ し、それがどんなものかを知っていったことを話し出した。私は何私の心臓は早鐘を打った。 「ーーーだけど十年か二十年先のことだね。もうちっと注意力を養っ もかも報告した。私の仕事、それが私に意味しえたであろうことに 比べたら何とちつぼけなことであったろうか。人々がどんな風に扱てからでないと駄目。あたしも一度はお前さんの年頃だったことが あったよ。そしてあたしも明日の朝には世界を作り変えて、明日の われるかについての私の経験。アリスのことまでもすべて話した。 とりわけ、すべての曲り角でどんなに私が嘘に泣かされたことか、午後は坐ってその世界を嘆賞すればどんなにかステキだろうと思っ そして人々が互いに嘘を言い合っていること、自分自身にすらをたものだよ。だけど今ではもっとよく分ったつもり。お前さんも分 るようになるよ」 言っているように見えることを強調した。 おばあちゃんは聞きながら一、二度うなずいた。それで私は勇気私は嘆願しかけ合った。しかしどうにもならなかった。この老婦 づけられた。私はいろいろ述べようとした論議の中の一つを思い出人ときたら石のように頑固だった。ついには私もむつつり黙り込ん おばあちゃんは夕食の仕度をととのえにかかった 「なんとかって哲学者はかってこう言いました。嘘は原罪である、 7

7. SFマガジン 1969年11月号

「そうなることは分っていたよ、今きみは家に一人でいる。私がそ「時にはすることだ 0 てあるさ」私は言 0 た。「待っていなさい。 こにいて慰めてくれればいいなんて思いながら : : : そうじゃないかすぐに行ってあげるよ」 女が男に一度真実を告げたら、彼らの間のすべてが終るかすべて 私にはそれと分るある種の沈黙があった。それからアリスは締めが始まるかどちらかである。 つけられたような声で言った。 これから後の話は大たい歴史的なことになる。 「ええ、ええ、そうよ。だけどオリ・ハ ー、人はそんなこと ゴーリイ・アンド・ゴ 1 リイのヴェロリン入りの新しい改良歯 天文学でとはなんのことかご存じか ? ーーってしまっている。 ク州立大学のローラ・ファシオカヌト博士の三人ー Litt1e Green Men ( 緑の小人 ) の省略だ : : : と このわれわれの地球でさえも、そのようなぐあい によって提出された。 言えば、おやまた空飛ぶ円盤から出てきた小人宇宙に中性子だけから成り立っとすれば、直径わずか九 といっても、この説は前記の考え方をまったくひ 人のお話か、と勘ちがいされそうだが、これが今 0 メートル以内の小さな塊になってしまうほどであ つくり返してしまうのではなくて、中性子星のまわ 問題のナゾの天体「パルサー」のあだ名なのである。 りにある磁場の中を自由自在に動きまわっているた る。 そのような中性子ばかりでできている天体が回転 くさんの電子を想定し、それらの電子が光を規則的 あた名の由来はこうだ。この天体は非常に規則正しているとしたら、観測されるような規則正しい に放出すると考えるのである。 しいリズムで強烈な電波を送り出しているので、初しかも非営に強烈な電波の放出が説明できるのであ カ牛め発見された時、これはひょっとすると宇宙人の通る。 ではどうして、電子たちが光を規則的に放出する 信ではないか ? と勘ぐられ、それが空飛ふ円盤か ところが、一方ではこの臆測に水をふつかけるよのかと言えば、電子がちょうど原子の中におけると ら立ち現れてくるといわれる緑色の小人と結びつい うな事実がある。 それは、初め電波望遠鏡でば同じくらいの小さな軌道を描いて回転していれば、 たのである。 かり観測されていたこの種の「天体」が、三つまでそれがとる道の数は、原子の中におけると同じよ しかし現在では、そうしたロマンチックな夢は消も普通の天体望遠鏡でも目撃されるという事態が生 うに定まってくる。 を えうせてしまって、もっと現実的な、何か自然的原じたからである。しかも、それらの天体から発せら そしてそれらの電子が、ちょうど発光している原一 因にもとづく現象として説明しようとする努力が、 れる光は、電波同様、明るくなったり暗くなったり子の中におけるように一つの軌道から別の道へ ここ数年来世界の天文学者たちによって盛んに続けしていたのた ! と、ひょいひょいととびうつると、そのたびに光が られている。 これは、まことにぐあいがわる というの発生するわけである。 サでは、この「地球上の大方の時計よりも遙かに正は、前記のような中性子ばかりから成る星は、強烈 そしてその天体が回転していれば、回転によって レ 確だ」とまで形容されている規則正しい電波の放出な電波は放出するが、光を放出するとは考えられなその光がごく規則的に明るくなったり暗くなったり は、どう説明すればよいのだろうか ? いからである。 する、というわけである。 これまでに提出された最も妥当たと思われる考え そこで、これはどうしたものだろうか、と世界の なるほど一応理屈にあった考え方ではあるが、果 方は、星が完全につぶれて中性子ばかりになってい 天文学者たちが困惑している時に、これはひょっとしてこれが最終的な解釈であるかどうか ? るような天体だと考えることだった。 すると物になるかも知れぬと思われる新らしい理論 と、もか ~ 、、リトル・グリーン・メン ーー・。ハルサー こうした星では、星を構成する原子から電子がすが、三人の学者ーー・一 : ーヨーク宇宙研究アカデミ は目下天文学上一番大きな謎の天体なのである ! べて失われて中性子ばかりになっているのだから、 ーのホン・イーよチュー博士とビットリオ・カヌト ( 近代宇宙旅行協会提供 ) もともと大きなサイズの星でも非常に小さな塊とな博士、それにスイート・プルックにあるニーヨー 世界みすてり・とびつく