ーーー - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1969年11月号
67件見つかりました。

1. SFマガジン 1969年11月号

あいだに、多少のことはわかった。彼らは原子力も持ち、無線も持と木星人のあいだで発達していった信号を、構成したり、解釈した っている。それも、高圧下のアンモニアの世界でーー・・言いかれば、 りすることに協力した。だから、これからする話は決して受け売り じゃよ、。 ほとんどの金属が、可溶性のアンモニア錯塩を作る傾向のため、 っときも金属として存在できない世界でーーそれだけの高度な文明「あれは、とんでもなく骨の折れる仕事だった。初歩の算術的な信 を築き上げたのだ。そのことは、彼らが。フラスチックやガラスや珪号を理解できるようになるにさえ、五年もかかった。三たす四は 酸塩、その他の合成構造材を発達させねばならなかったことを意味七。二十五の平方根は五。六の階乗は七百二十。そこまできても、 する。そこから見ても、彼らの化学がわれわれのそれに劣らぬ段階その後の交信からたった一つの新しい思考断片を拾い出し、チェッ に達しているのは明らかだ。いや、わたしとしては、彼らがそれ以クをすませるのに、ときには数カ月かかることもあった。 上の段階にあると賭けたい」 「しかしーーーそしてここが重要なんだがーーー木星人が交信を打ち切 オーロフは、答えるまでに長い間を置いた。それから、「しか ったあの時点では、われわれは彼らのメッセージを完全に理解でき し、木星人の最後のメッセージなるものに、どの程度の信頼性がおるまでになっていた。われわれの解釈が誤っている確率は、ガニメ けるのだね ? 地球のわたしたちには、木星人があなたがたのいうデが木星の引力から解放される確率よりも少ないぐらいだ。しか も、彼らの最後のメッセージは、脅迫と破壊の通告だった。そうと ほどむやみに好戦的だとは、とうてい信じられないのだが」 も、疑いはないーーー疑いの余地はない ! 」 ガニメデ人は短い笑い声を立てた。「彼らはあの最後のメッセー ジのあと、いっさいの交信を断ってしまった。あれが友好的な態度二人は浅い山峡の道を通りぬけようとしていた。黄ばんだ木星の といえるだろうか ? 請けあっても、 ししが、われわれは彼らとコン光も、ここでは、まとわりつくような闇に席をゆずっている。 タクトしようと、全身を耳にして、きようまできたんだ。 オーロフは混乱した気持だった。この問題をこんなふうに持ち出 し力なる いや、まあ聞いてくれたまえ。そのまえに説明しておきたいことされたのは、はじめてなのだ。「しかし、その理由だよ。、、 がある。わがガニメデでは、この二十五年間、われわれの無電機器理由で、彼らはわれわれに対して にとびこんでくる不規則な断続音ーーー空電でずたずたにされ、重力「理由もへちまもない。単にこれだけのことさ。木星人はわれわれ で歪められたそれーーーの意味を解こうと、小さなグループなりに知のメッセージからーー・どこをどうしてかは知らないがーーっいに、 恵をふりしぼってきた。というのも、その断続音が、木星の知的生われわれが木星人でないことを発見した」 物とわれわれのあいだの唯一のつながりだったからだ。本来なら「わかりきった話だ」 ば、一惑星の科学者が総がかりでやるべき大仕事だが、ここの基地「彼らにとっては、〃わかりきった話″じゃない。彼らには、木星 にはせいぜい二十人あまりの人間しかいなかった。わたしはそもそ人以外の知的生物に遭遇した経験がないのだ。その彼らが、外空間 もの始まりからそのグループに加わり、言語学者として、われわれに生物のいる可能性を、おいそれと認めるだろうか ? 、

2. SFマガジン 1969年11月号

諸ーをイを ーを 新 / イ - き一ま第 0 0 QUIXOTE AND THE WINDMILL ドン・キホーテと風車 ポーノレ・アンタ・一スン 訳 = 伊藤哲 画 = 岩淵慶造 それは人間のあらゆる作業を 代行してくれる機械だ だが、果してロポットは 真の万能機械だろうか ? 世界最初のロポットが 緑の丘の上を歩いてき た。磨き上げられた金属 の肌に太陽の光がきらき らと輝いているーーー彼の 歩きぶりは流れるように 優雅で、猫属を思わせる 忍び足といってもいいく らいだ。だがーーーその巨 大な金属の塊が地面にふ れるたびに、それとは分 らぬ脈動が大地に伝わ り、彼の中に鼓動をつづ ける大きなエンジンが、 周囲の空気をあるかなき かにふるわせるのだっ た。 彼″だって ? だが、 ロポットはとても無性と 考えることはむつかし 。彼こそ、海軍砲や熔 鉱炉にも譬えられる荒々 しい男性味をもった存在 だったからである。完璧 な設計と工作の粋をこら した、つるりとした、な

3. SFマガジン 1969年11月号

膜のような翼を持っていた。明るい光線を当てられると、それはこされたためしのないことを、彼もサム同様、知っていたからだ。 ざかしげに眼をまばたき、枝に巻きついた身体をほどいて、室内の やがてサムは小刻みに身体をふるわせながら、頭をあげた。 空間に飛び立った。・ ティックとモールトビイは二人ともはっきりそ「妙なにおいだった」彼はだみ声で言った。「たとえば、その れを見た。 ( チドリをおもわす優雅な羽さばきで二人の頭上に舞っみずみずしい緑の草かなんかみたいな。待てよ、似たようなにおい たのち、それはさっと窓に向かい、そして外へ飛び出していった。 がするそ ! そうだ、おなじにおいだ ! これだよ、このにおいだ きわめて小さく、なんの危険も感じられなかったが、それは〈ビよ、ナンシイが消えたとき、おれが嗅いだのは : : : 」 だった。気味の悪いへビだった。しかも翼を持っていて、飛んだ。 そしてそのとき、ディックとモールトビイも、その鼻孔が異様な つまり翼を持った〈ビだったわけだが、だとすると地球本来の生物においでみたされていることに気がついた。昻奮のあまり、それま とはいえなかった。 で気づかずにいたのだが、出どころはあきらかだった。クラックス 二人の男がたがいに、文字通りわけのわからないことを言い合っ ・アンサータからにおってきているのだ。それは夜の密林のにおい ニューヨークのどまん中に ていると、ベルが鳴って、サム・トッドがあたふたとその部屋に駈に似ていた。そんな青臭いにおいが け込んできた。顔面蒼白だ。何週間もぶっとおしで飲みつづけたよあってーー・室内にはたちこめていた。 うな顔をして、恐ろしけに身体をふるわせている。 「ディック」彼はだみ声で言った。「きみをさがしていたんだ それから三日間、モールトビイは気違いのように働いた : 、 きみを。あれからおれはナンシイを警察博物館へ連れていったんだ ック・・フレアのほうは事実上、正気を失っていたも同然だった。な がね。仕事が終って軽く食事を済ませると、おれは彼女に車を呼んによりもいけなかったのは、もちろん、モールトビイがなに一つ約 でやった。車がちかづいてきたときーーなにかそのーーー妙なにおい束できずにいたことだ。問題は過去の時代からもたらされた例の道 がプンときた。例のあれーーー彼女が使っているあの香水の匂いじゃ具で、彼としてはその表側の透明部分とでもいうべきところを実験 ない、何かほかのやつだ。おれはあたりを見まわした , ・、・ーと、ナン用にそぎ取りたかったのだが、・ とうしてもその勇気が出ないでい シイの姿が消えかけてるじゃないか。身体の上半分はすでになくなた。分析するのよ、 ーしいが、ちょっとでも傷をつけたら全体が毀れて ってしまっていてーー腰があるはずのところに、水銀が大きく溜ましまうおそれがあった。彼はそれが伝導する光を調べてみて、環状 っていた。そうしてその水銀が下半身をつたって地面へ流れ落ちたの偏光が生じることを知った。それから全体の比重を小数点以下六 かと思うとーーー彼女は完全に消えちまっていた ! おれは頭がどう位まで調べ、それと、把手の端から削り取った , 雀月の密度とをつき かしてるのかもしれないが、とにかくそういうわけなんで : : : 」 合わせてみた。道具全体はビスマス青銅ーーーすなわち銅とビスマス 3 ディック・プレアは激しい怒りの声を発した。品物にせよ、人間の合金で出来ていた。通常、青銅は亜鉛、もしくは錫を含んでし にせよ、水銀の溜りとなってひとたび消えたがさいご、またと見出る。今、この道具の場合、かかわりのある物質といえば一つしかな

4. SFマガジン 1969年11月号

いることだ。だから、相手の好むと好まぬとにかかわらす、知らぬ しかし君なら比較的目立たぬ立場にいる。それに君は来年一杯の 間に吸入させられてしまうことになる。しかも、ただの一回吸った長期休暇をとっている。君が行方をくらましたとて誰もおかしくは だけで中毒患者になってしまうほど強力なものらしいのだ。君には思うまい連中にしてみればそこがつけ目だ。私が君と会うことを こんなに慎重に連んだのも君の正体をやつらに見破られないためな これが大衆に与える危険についてはよく理解できるだろう」 んだ」 ケンには理解できた。はっきりと。 「しかし、なんらかの方法でそれとなくしなければ、私そのも 「わかりますとも。われわれがいまだそれにやられていないことの 方がおどろきですね。ビルの換気系統ーーー宇宙船の内部ーーーどこでのの存在を彼らが知らないままに終るでしよう」ケンは指摘した。 「手は打っ いや、実はもう打ってあるんだ。このことは勘弁し だって大量のお客を作れるじゃないですか。どんな奴が売ってるの て貰えると思う。なにしろ大変に重要な仕事なのだ。君が、あの惑 かは知らないがでも、なせ一般にひろがらないんでしよう」 星ストルン レードははじめて微笑した。 「理由はふたつあるようだ。聞くところによると製造が大変にむずを爆破した かしいらしい。それから、その物質は通常の温度下では保存できな爆弾の製作 極低温下に冷凍しておかなけりゃならないんだ。もしも普通の者だという コンディションの中に置くと数秒で分解してしまう。私は、その分噂を犯罪者 解によって生ずる物質が曲者だと信じているのだが、それをつきとグループの めようにもサンプルを手に入れたものはまだいない」 間にすでに 「それじや私はなにをすればいいんです。サン。フルがなければ私が流した。我、、 分析しようがないじゃないですか。他にやれることはなにもありま我は君をち よっとした せんよーーー専門の化学者でもない、並の教師ですから。なにか他に 有名人に することでもあるんですか ? 」 「教師だから君をえらんだのさーー自分の専門分野のことしか知ら 。薬をつ ない連中とちがって教師というのはなんでも屋だから 「二度と私 くることに因難があるらしいことは今言ったが、やつらが製造量をが正業につ ふやしたが「ていることは間違いない。そのためには、第一級の製けないよう・メ、 造技師を欲しがっているにちがいないんだ。ところがそんな技師をな有名人に やすやすと仲間にひき入れられるわけのないことは君にもわかるた ろう。そんな連中がコソコソ危ない仕事に噛み込みつこない。万一 「いや、君 ( の上司や、 にも噛み込んだら、こっちがすぐィモヅル式にその親玉をつかまえ 警察なんか てしまうだろうしな。 6

5. SFマガジン 1969年11月号

テキュニット 眉村卓画 = 岩淵慶造 科学技術と人間管理の粋を尽して 築かれた火星の共同都市ーーー だがその繁栄は 成員の厳しい階級づけと 自由抑圧の上に成り立っていた ! イきーを コニ一

6. SFマガジン 1969年11月号

まことに残念な気がするのである。本編の方はあきらかにそんな線 引用してみよう。 The first novel in ov 讐 half a 第 a 「 brings, Hal Clement telling でーーーといっても最初の十ページ位までだがーー・ーちゃんと進んでい るのだから、編集者側の責任ということだろうか ? とにかく始め Of an intersteller narcotics agent and a world Of terribl% unap- : ou earth 一 のところを紹介してみよう。 サルマン・ケンは、自分がレード proachable cold : の頼みを承諾してしまったことが賢明だったという自信をどうして 念のために訳をつけておくと、 ( ル・クレメントがはじめて世に問う長編 ( 『二〇も持っことができなかった。自分が警察官でないことはよくわかっ 「構想半年 ! ている。冒険がとくに好きというわけではない もちろん彼は、自 億 : : : 』は中編とみなくてのことだろう ) は、星間麻薬取締官と、 分が少々位の苦難になら平気で堪え得る人間だと信じてはきたが、 何人をも寄せつけようとはしない酷寒の惑星ーーわが地球のものが それでも、今、カレラの舷窓から見える光景はそんな自信を揺がせ たり ! 」てなところか。 残念なのは、ここでもってもう話のケツが割れてしまっているこすにはおかないのである。 レードが公正だったことは認めなければならない。 この麻薬取締 とである。惑星サアルの人間にとってとても信じられぬほど低い 温度の惑星とはいったいどこなのかという興味が、読み進んで行く官の元締が自分の知っていることのすべてをぶちまけてくれたこと よ は明らかである。それだから、ケンは、想像力を十分に働かせさえ うちに、ーーーその寒さときたら硫黄が固体になっているほどだ どという表現にオンヤとおもい、その矮星の一番内側にある自転しすれば、こんな破目になることがあらかじめ予測できたはずなの ていない惑星の太陽側に前進基地を置いて辛うじて暖をとり、三番だ。 「今のところ大した影響はない」とあのときレードは言った。「商 ううわけなの 目の惑星ヘーーとまで読んできて、あれまア、そ とにやりとする : : : みたいな話の段取りが、さっさと前説で人どもがそれをーーほんのちょいと嗅ぐだけのそいつをなんと呼ん でいるのかさえわかっていなし 、。ほんのここ数年のことだ。それが プチこわされてしまっているのはどういうつもりだか知らない・、、 始めてあらわれたときには我々も大い に警戒したのだが、大したことにもな らないようなのでみんなすぐに忘れて しまった」 「なにがそんなに危険なのですか」あ のときケンはそう聞いたのだった。 「もちろん、習慣性のある薬はすべて 危険だーーー・君がもしそんなことを知ら なけりや学校の科学の教師はっとまら んだろう。しかしこの物質の特に危険 な点は、それがガス体の中に含まれて 0 3 5

7. SFマガジン 1969年11月号

とかかわりのない連中にはまったく知られない社会での有名人に仕旅の二十二日は長 い旅だ 立てあけることができるー に、どこへも寄港 そんなわけで主人公のケンは不定期貨物宇宙船カレラからのさそしないとなると。 しかし今、窓外 もうすこし原文を いにのって技術者として乗組むことになる : に浮かんでいるそ つづけよう。 の惑星から仮にも ケンは、なぜ自分がそんな頼みを承諾してしまったのか、まなにかが得られる などとは到底考え だはっきりとはわからなかった。彼が警官という仕事にーーー今や、 実験室にこもりぎりの方が多いような仕事になってはいたがーーー意ることができな 、。それは細い三 識の底で魅 力を感して日月型に見えてい いたのだろる。つまりその惑 星は今、宇宙船 彼はそのと、それからおど 薬が惑星のろくほど弱々しい 外から入っ太陽とのほ・ほ一直 てきている線に近い位置にあ る。残りの夜の部 ことは知っ 分はまばゆい銀河 ていた。 よの中の馬いしみの だが彼ー ように見え、それが、その惑星には大気さえ存在しないらしいこと それがサリ ア惑星系のを示していた。山が多く、荒涼として、寒い。 この三つ目の事実は太陽の姿を見ればよくわかった。なんらの保 外から入っ てくるもの護眼鏡もかけずに直視することができるほどなのである。ケンの眼 にその太陽は、赤味をおびた陰影のように見え、しかもかなり収縮 ・ことい、 ) 」 とまでは知した形をしていた。あんな恒星からこれほどはなれた惑星には苛酷 な寒さ以外なにものも存在しないように思えた。 らなか もちろんレードによるとその薬をつくるには低い温度が必要だと た宇宙の

8. SFマガジン 1969年11月号

たほうがいいんだ」 新紀五十年祭の仕事が今ではきわめて順調に進行しており、カワー カワ 1 ドよ、、 カっとなった。 ドにとっては、ほとんどルーティン・ワークというべきものを片づ 何をいっているんだ、こいつ。 けて行くだけでいいところまで来ている。そのお蔭だった。 もっとも、それはカワードだけではなかった。他の連中もそれそ「きみはーーー」 れ自由な時間には、やりたいことをやっており、お互いに干渉しあ しいかけたカワードの腕を、ショウヤがっかんだ。 わぬ黙契が成立している。 「まあ、まあ」 「離せ ! 」 ただ、ショウャだけは別だった。ショウヤは例によって仕事が一 段落ちつくと、さっさと姿を消してしまうのだが、そうしたことを しかしショウヤは、そのままカワードを、廊下の中央に引っ張っ やりながらも、他の・フレーンたちの動静を観察しているらしかった。て行った。 クエンスたちとはじめて出会ってから一カ月ほどたったある日。 「離せというのに ! 」 ふたりを送り出そうとしたカワードは、個室へ戻ろうとして、通「静かに ! 」 りかかったショウヤに声をかけられた。それはーーひょっとすると突然、ショウヤは声をひそめた。「この、廊下の中点なら、声も そう見えただけで、ショウヤは機会を狙っていたのかも知れない 聞かれないし姿も見られない。 ここは、監視されていない場所のひ 「成果はあがっているのか ? 」 とつだ。大丈夫。確認してあるー と、ショウヤはいっこ。 「え ? 」 「成果 ? 何の成果だ ? 」 「あんたの目には、ここがまったく自由で開放的だと映るかも知れ 「きまっているじゃないか」 の監視機構の網は、至 オしが、とんでもないことだ。テキュニット ショウヤは、含み笑いをした。「あんたのテキュニット成員の意るところに張りめぐらされているんだぜ。効率的に配置された装置 識改革の試みが、だよ」 によって、われわれをも含めた全テキュニットの成員は、たえず会 「何をいうんだ」 話や動作の。ハターンをとらえられ、記録され計算されているんだ」 、、、・ころう」 「かくさなくっても 「ーーまさか」 ショウヤは、へんに馴れ馴れしい口調でいう。「だけど、ね。そ「信用しなければ、しなくていい」 ショウヤは、ぞっとするような微笑を浮かべた。「ごく一部を除 いつは駄目だ。それは失敗する。そんなことは、不可能さ」 いて、テキュニット成員だって、このことは知らないんだから、無 「何だって ? 」 「テキュニットの成員というのは、そんなことぐらいでは陥落しな理もないがーーー監視機構は、すべてお見通しなんだ。居室の中や廊 いよ。成員に限らずテキュニットは難攻不落さ。われわれは、諦め下の曲り角、コンビューターに統御された無数の目と耳が仕掛けら 8 7

9. SFマガジン 1969年11月号

もろもろの話をさ。 く喉が乾いているにちがいない。太陽がひどく熱い。わたしも喉が 腹が立つよ、本当に。事実は事実で充分じゃないか。これだけで乾いた。 も充分恐ろしく、野蛮で : : : おう、あいつら、知ったかぶりをしゃ 一人の兵士がポスカ、つまり酢と水で作った兵士たちの飲み物だ がって が、その桶にスポンジをひたしたところだ。いま、その兵士が地面 教授、ダイジョウブカ ? に落ちていた葦の茎に、そのスポンジをつけた。スポンジをイエス なに ? のロに当てている。 ダイジョウブデスカ ? 気分ガ悪イノデハ ? イエスは : : : それを吸ってるそ。唇が震えている。ひどい味だろ : じようぶ。ありがとう。 うなあーー苦くて、生暖かくて。おい ) なぜあいつらは、本当の飲 ドウナッテル ? み物をやらないんだ ? ーー冷い水をさ。あいつらには憐れみの情は ないのか、あの人に対して 教授、ソロソロ戻ル用意ヲシテクレ。モウ四十五分近クタッティ ル。キミノ仕事ハスンダ。 教授 ? 待て、また連れ戻さないでくれーーーまだ。もうちょっと。ほんの あの目。あの目だ。なんと、あの目のーー痛ましいこと ! 自分ちょ 0 と。わたしは大丈夫だから。本当に大丈夫なんだよ。たのむ の子供になぐられている父親の目だ。それでも、まだ子供を愛して イエスのそばにいさせてくれ。連れ戻すな、待て。お願いだ。 いる親の。愛するものに責められ、衣をはぎ取られ、なぐられ、釘 ジェイラス教授 , を打たれ、卑しめられている人の ! だれか、いないのか あの目、あの目 , ・ーーあの目が ! おう、天なる神よ、あの目がわ 教授 ? たしを見てる ! イエスがわたしを見てる ! たしかに見てる ! 。こ、・こ、。こ、・しよ、つ - 、ふ 0 。こ、 たいじようぶ。ただ、ちょっとわたしを見てる ! : 気を取り乱してしまった。この人は何もしていないのにーーお サア、連レ戻スゾ。 う、ちくしよう、はえが唇にとまってる ! 飛べ , いや、まだだ。どう どうしても : : : おれは : スクリ 1 ンノ外ニ出ルナ。 スクリーンの外 ? ああ、たぶんーーー出ないで : サア、戻ルンダ。 ドウシタ、ジェイラス教授 ? ダイジョウブカ いやだー いやだ、戻そうとしたら、スクリーンを破るそ ! お いま、かれらはイエスに飲み物をやろうとしている。かれはひどれは、おれは大丈夫だ ! おれはこれからー、ーほっといてくれ ! 9

10. SFマガジン 1969年11月号

見られても当然だという気がする。 きれいな肌だ。もちろん汚れてはいるが : : : きれいだ。ロはやや 大きく、唇が厚い。力強い線だ。鼻は鉤鼻ではない。まるでーーーな んていったらよいかーーギリシャ的とでもいおうか。実にハンサム だ。うん、実にハンサムな男だ。目は : ドウシタ、教授 ? イエスがいま : : : 喋った。 いったんだ。「エロイ」って。自国語で「神よ」っていったん だ。顔は蒼白で、ゆがんでいる。苦痛のしわが刻まれている : 顔がーーーとても : ・・ : とても和やかになった。こんな恐ろしい苦痛 を味いながらも、この人は : 教授 ? うん、後世に書かれたこのはりつけに関する記事が、ほとんど全疑いなく、これは自己催眠だ。体が消耗していて、情緒的にたか 部、予言を種本にしているという、われわれの理論が少くも証明さぶっているから、かんたんにかかるのさ。きっと、このあわれな男 人は、ある種の : : : 強烈な苦痛の恍惚感を味わっているにちが れたわけだ。この場面に関するパイプルの記述はほとんど事実に合 痛みなど・せんぜん感じていないのかもしれない。おそら っていないということが、これではっきりした。ョ ( ネもいなけれ ば、イ = スの母親もいなければ、グダラのリアも、その他、こく、高揚した肉体機能、アドレナリンの盛んな流出ーーで感覚が麻 イエスは何も喋らない痺しているんだ。これで完全に説明がつく。こいつの目は : し十ノし こにいるといわれている人物も、 つのーーこいつの目は : し、あの盗人以外にはイエスを罵るものもない。あの盗人たって、 もつやく 天変地異ノ兆候ハアルカ、ジェイラス教授 ? 没薬を入れたブドウ酒のおかわりが飲めなかったので、腹を立てて きみたちはたぶをーー地震があったとか、空が暗くなったとか、 悪態をついたにすぎないんだ。それに、天変地異も起りはしない 墓が割れたとか、その他半ダースもの、・ ( イ・フルなどに書かれてい よ。 、方をすれば後世の年代記筆者る異変のことをいっているのだろうが いや、もっと当り障りのないいし いや、残念ながら、ない。 は、昔の詩篇の予言が実現したことを立証したいばかりに、手元の 旧約聖書と、このはりつけの話を、い 0 しよくたにしてしま 0 たん空も暗くならない。太陽は今も明るく輝いているし、ひどく熱 地面は岩みたいにしつかりしている。記録がちょっとばかり間 だ。ありあわせの詩篇、一三番、三一番、三八番、六九番と、キリ スト教的想像を結びつけ , ・・、ーこのはりつけに特別な意味を持たせ違 0 ているのさ。明らかに、記録者たちはこの情景に満足できなく 9 4 実物とは全く別のものにしてしま 0 たのさ。わたしが今ここでて、宗教的な意味を付け加えることにしたんだ。さもなければ、宗 教とは全く縁のない場面だからね。神の御手とか、そのたぐいの、 現ているものとは。あたしは : : : オウー