入っ - みる会図書館


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1. SFマガジン 1969年11月号

ト号の船首観測室で、いましがた入ってきたエヴ = レット船長を見もちこたえてくれなかった。ぼくは片眠と片腕の代償を払って、ま た一から出直した」 上げた。 船長はいった。「いま、トウースンの本社から宇宙電報が届い エヴェレット船長はこぶしをかためて、船体をなぐったーー・。星・ほ ガニメデのジョヴォポリスに寄って、オーロフ植民局長官を地しの光が、なんの妨げもなく入りこんでくる船体をである。びくと 球まで乗せて帰れという命令だ」 もしない表面にこぶしがぶつかる鈍いひびきーー・、だが、見えない壁 にはなんの反応も現われなかった。 「了解。ほかの宇宙船は見あたらないか ? 」 「むりだよ ! 定期宇宙航路からずいぶんそれているからな。太陽タトルはうなずいた。「頑丈なもんだーーもっとも、そいつは一 系がわれわれのことをはじめて知るのは、トランスペアレント号の秒に八千回の割りで点減してるんだがね。そのアイデアを思いつい ガニメデへの着陸の瞬間だろう。宇宙飛行としては、最初の月着陸たのは、ストロポ電球からだったよ。知ってるだろうーー明減のし かたがあんまり早いので、たえず点いているように見えるあれさ。 以来の最大の事件というわけだ」船長の声はとっぜんなごやかにな った。「どうしたんだい、 ( ル ? これは、つまり、きみの勝利じ「そいつを船体に応用してみたんだよ。空間がまいるほど長くは点 いていない。感知できるような空気の洩れが生じるほど、長くは消 ゃないか」 ( ル・タトルは顔を上けて、暗黒の宇宙に瞳をこらした。「たぶえていない。そして、正味の効果としては、鋼鉄よりもすぐれた強 ん、そうなんたろうな。十年間の努力たものね、サム。・ほくはあの度が得られるー タトルはそこで間をおいて、ゆっくりと言いたした。「しかも、 最初の爆発で、片目と片腕をなくしたが、ちっとも後悔はしていな こいつはどこまで伸びるか、ちょっと見当がっかないぐらいなん い。これは、その反動からきた虚脱なんだよ。問題は解決した。ぼ 。カ場を毎秒百万 だ。間歇効果をス。ヒードアツ。フさせるだけでいい くのライフワークともおさらばだ」 ロいや十億回まで点減させてみたまえ。原子爆弾の爆発にも耐 「太陽系のすべての鋼鉄外殻の宇宙船ともおさらばだな」 えるたけの強いカ場が得られるだろう。・ほくのライフワーク ! 」 タトルは微笑した。「そう。ちょっと、想像もっかない感じた エヴ = レット船長は、相手の肩をたたいた。「夢はそのへんで切 ね」外にむかって手を振って、「あの星ぼしを見たかい ? ある瞬 り上げておけよ。それより、ガニメデ着陸のことを考えてみろ。す 間によっては、あの星・ほしとわれわれのあいだになにもないときが ごい宣伝になるそ ! そうた、オーロフの顔が見ものだそ。史上最 ある。そう思うと、奇妙な感じにおそわれるよ」物思いにふけるよ うに、「九年間というもの、・ほくの研究はま 0 たくのむだた 0 た。初のカ場船体の宇宙船の乗客になれるとわか 0 たら、あの先生、ど んな気持になるたろうな ? 」 ・ほくは理論家じゃないし、自分がどの方向にむかっているのかも、 ハル・タトルは肩をすくめた。「そう、彼もまんざら悪い気持じ ただ、手あたりしだいになんでも試すだ はっきり知らなかった けだった。その試しかたがちょいと度を過ごして、空間がそいつをやないだろうねえ」 4

2. SFマガジン 1969年11月号

る。やがて、講義の要点は一冊のテキストになり、つぎにその著者る』といわなくちゃならない。すべての単語が当然ちがう意味を持 によって吸収され、かく利用しつくされた上で無に帰るのだった。 ってくるーーすくなくとも『継続』を表現する単語はぜんぶね。そ 春になって、サリヴァンはフットボールの試合に出場することにう簡単にいくでしようか」 なった。あるスポーツの予言書には、彼が大学チームの正選手とし「それじたいの条件の中では、なんらふしぎはないよ。摩擦はエネ て二シーズン活躍するだろうことが記されていた。予言書にもそこ ルギー計算への付加因子でなく、削減因子になるだろう。ざっとそ までは書かれていなかったが、彼の鼻柱がまっすぐになるのは、。 とんなぐあいだ。宇宙は膨張していくだろうーーわれわれは部屋を冷 うやらそのシーズン中のことであるらしかった。 却する代りに、温めなくてはならなくなる。草が種子から生えてく カレッジに入って一年ほどしてから、サリヴァンはツーヘイとい るだろう。そして、きみは食物を内分泌し吐き出す代りに、おそら う老プロフェッサーと親しくなった。そのために樽が用意されたツ くそれを体内にとりいれて老廃物を排泄することになるな。そのと ーヘイの自宅の地下室で、二人はしきりにビールを吐き出しながら、おりだよ ! 」 しばしば哲学を論じあった。「その問題もいちど話しあってみたい サリヴァンはニャリと笑った。「つまり、われわれは女の胎内か ね」よくそんなふうにツーヘイはロを切ってから、二人がせんだつら生まれて、死ぬと土に埋められるわけですかー て討論した題目へと遠回しに話を近づけていくのだった。「われわ「じっくりとそれを考えてごらん。それはまったく自然なことに思 れになにがいえる ? 体験的なそれとまったく正反対な因果律の連えるはずだよ。われわれは死から生へとさかさまに生きても、その 鎖も、充分ありうるかもしれん。因果関係は、結局のところ不定じ違いに全然気がっかぬかもしれん。牝鶏がさき、タマゴがさきか ? ゃないのかね」 いったい、因果 戦争が軍隊を生むのか、軍隊が戦争を生むのか ? 「しかし、「かなり奇想天外に思えますね」サリヴァンは慎重に答え律という言葉の意味はなんだろう ? ひとっ考えてみたまえ」 「フムム」 「それが想像しにくいのは、われわれがそれに馴れておらんから そして、おきまりの最後の質問。「サリヴァン、きみは因果律の さ。つまりは単なる観点の問題だ。水が高きから低きに流れる、と原理について、どう思うね ? 」 いうようにね。エネルギーも逆向きに流れるだろう , ー・・、全面的集中それが知りたい、と彼は思った。 から全面的な拡散へと。当然じゃないかー いまや五十二歳のサリヴァンにとって、世界は刻々と大きさと輝 サリヴァンはその奇怪な世界をまぶたに浮かべようとっとめた。 それは、なかば快感をともなった身ぶるいを起させた。自分の死ぬかしさを増しているようだった。彼はおそるべき精力の持ちぬしに 日付も知らずにいる世界なんて、想像もっかない : ・「なにもかもなり、雨でないかぎりは戸外で走りまわった。真冬でさえ外に出 逆になるわけですよ。もし『捕る』を意味したいときには、『投けて、冷たい地下水が吸水管から溢れ出るのを眺めたり、地上から灰 る。 キャッチ 4 2

3. SFマガジン 1969年11月号

声にはあ・つた。荷馬車の男がわなわな震えながら言った。「そいっ動物は死にかけながらも、苦しい息の下から悲鳴をあげようとし はーーお前さんがどこからきたのかを知りたがってるんだ」 ていた。ディックはふたたび、発砲した。動物は体をこわばらせ、 「そんなことはどうでもいい」ディックははげしい調子で言った。動かなくなった。荷馬車からおりてきた男は絶望の色をうかべて、 しきりに手を絞っていた。悲劇的な結末に、茫然となっているよう 「ぼくはあたらしく捕えられた捕虜たちがどこへ連れていかれたか 。こっこ 0 を知りたいんだ ! どこなんだね、それは ? 」 「なんてことだ ! 」男はカのない声で言った。「ああ、なんてこと 動物は言葉を解するようだった。信じがたいことだが、あきらか に、そのようだった。そいつはふたたび、やかましい喋り声を立てだ ! おれはもう、助からない。なにもかもおしまいだ ! 殺して た。荷馬車の男がうろたえた顔で言った。「ちがう、ちがう ! とみたところで、なにもなりはしないんだーーー」 んでもない ! お前にやわかっちゃいないんだーーこ 「おい、しつかりしろ ! 」ディックはどなった。「あたらしくつか 男は動物に話しかけているのだった。動物は首をめぐらして、男まった捕虜たちはどこへ連れていかれたかときいてるんだ ! それ のほうを見た。それだけだった。男はすすり泣いていた。彼は手綱に答えろ ! 」 を荷台のかどにひっかけた。そして車をおりにかかった。 銃口が男の上に荒々しく向けられた。つい五分ほど前には、ディ 「ちえつ、じれったいな ! 」ディックはどなった。「おれの質問に ックはタクシーに乗って、世界で最も文明の進んだ都市の通りの一 答えさえすりやいいんだ ! あたらしくつかまった捕虜たちはどこ つにいた。だが今は、その都市にいるのでもなければ、その文明の へ連れていかれたかときいているんだよーこ 倫理規定ないし法律にしばられているのでもなかった。 男は全身をガタガタ震わせながら、地面へ這い下りた。そして、 「・ほくはニューヨークからここにきたんだ。三日前に、女の子が一 なさけない恰好で、のろのろとディックのほうへちかづいてきた。人、ここへ連れてこられたはずだ。その娘はどこにいる ? 」 「おれをーーおれを殺したって、なんにもならねえだろう」男は喘ふり向いた男の顔には、半信半疑の中にも希望をよみがえらせた いだ。「おれは、お前さんにーー・・悪いことをしたお・ほえはねえ 表情がうかんでいた。 男をみまもる目のはしに、ディックはひらりと飛ぶものの姿をと「ニューヨークからきたんだと ? むりやり連れてこられたんじゃ らえた。とっさにそっちへ向き直り、彼は拳銃の引金を引いた。空なかったのか。お前さんには帰ろうと思えば帰れるのかい ? 信じ 中に躍り上がった動物の胸に大きな弾がぶち込まれ、動物はそこでられねえことだ ! ほんとに、帰れるのかい ? 」 身体をひきつらせた。そしてディックの何インチか手前に、どさり「ああ、その娘を一緒に連れて行ければな」ディックはざらついた 声を出して言った。「娘はどこにいる ? 」 と落ちた。激しいけいれんを起して、もがいていた。 「殺しちまってくれ ! 」男が喘ぎながら、金切り声を出した。「吠男は急に媚びるような態度になった。彼は荷車によじのぼった。 えないうちに殺しちまってくれーー」 そして車をディックのほうへひき寄せ、乗れという様子をしめし

4. SFマガジン 1969年11月号

連中がいるはずだ」 少年は仰臥の姿勢でぐっすり眠っていたーー子供にありがちの深 5 「でも、どう見ても迷子のようには見えなかったけど。二人とも、 、健康な眠りである。さいぜんべッドにはいるとき、彼は着衣を ここへこようとしていることを知ってたわ。わたしたちがここにい ることも知ってたわ。わたしをあの子たちの祖母だと言ったし、あ床に脱ぎ捨てたままにしていたが、いまは、彼女がおやすみを言い なたのことを訊ねて、あなたをお祖父さんと呼んだわ。しかもそれにきたついでに整頓してやったときのまま、きちんと椅子の上に畳 を信じきっていたみたい。最初からわたしたちを見知らぬ他人じゃんでおいてあった。 なく、よく聞かされてきた人物と見なしているようにふるまった椅子のそばに置かれた鞄は、蓋がひらいていて、二列のぎざぎざ わ。ほんのしばらく滞在するだけだと言い、またそのようにふるまの金属が暗いラン。フの明りに鈍く光っていた。影になった鞄の内部 いもしたわ。ほんとにちょっとした休暇で訊ねてきた親戚みたい には、およそ旅行鞄らしくなく、雑然と、そんざいに詰めこまれた に」 雑多な身の回り品が、黒い形を見せて積み重なっていた。 「こうしよう」と、ジャクスン・フォ 1 ・フズは言った。「明日、朝彼女はかがみこんで鞄をとりあげ、椅子の上に置くと、蓋を閉め 飯が済んだらネリーを馬車につけて、近隣一帯を訊ねてまわるんようと小さな金属片に手をのばした。せめてあけつばなしではな ど。だれかがなにか知ってるかもしれん」 、蓋ぐらいは閉めておかれるべきだ、そう彼女は自分自身に言い 「男の子は、父親はテンボラル・エンジニアだと言ってたわ。まる聞かせた。金属片をつまんでひつばると、それはなめらかに軌条の きり意味をなさないのはこれなのよ。テンボラルというのは、俗世上を走り、すこし行って止まった。なにか鞄からとびだしているも のがあり、それにひっかかっているのだ。 界の力とか権威とか : : : 」 「たぶんなにかの冗談だったんだろうよ」と、彼女の夫は言った。 それが一冊の書物であることを見てとって、彼女はそれを鞄のな 「父親が冗談のつもりで言ったことを、子供が真に受けてしまった かに押しこもうとした。そのとき、背革に記された薄れた金文字が のさ」 眼にはいったーー聖書。 「ま、なんにせよ、もう一度二階へ行って、眠ったかどうか見てく 指でその本をつかんだまま、一瞬彼女はためらった。それから、 るとしましよう。ラン。フを細くしてきたのよ。あんなに小さな子たゆっくりとそれを引きだした。それは、歳月を経て光沢を失った黒 ちだし、知らない家で心細いだろうと思って。もし眠ってたら、ラ い上等の革で装幀されていて、長く使われたため、ふちがひび割れ ンプを消してくるわ」 たり裂けたりしていた。金色に塗ったページのふちは色褪せてい ジャクスン・フォー・フズは、賛意のつもりで鼻を鳴らした。「危た。 ためらいがちにそれをひらいてみた彼女は、そこ、見返しのペー 険だからな、夜じゅうランプをつけつばなしにしておくのは。火事 ジに、古い薄れたインクで献辞が記入されているのを認めた になるおそれがある」

5. SFマガジン 1969年11月号

けてゆくのだ。つまり、サリヴァンは ( むろん、つつましやかなも ートは除隊をすませてきたのだ。息子ははじめ・ゲイナー・サリ のにはちがいないが ) 一種の公僕であり、退行の守護者ともいえるヴァンと名乗り、のらくらでわがままな態度をとっていたが、カレ のだった。 ッジに入寮することになって事情は好転した。そして、おどろくほ 歳月は足早やに過ぎていった。コッド岬の毎夏、サリヴァンは砂ど短期間ののちに息子はふたたび家で暮すようになり、それまでの 浜で鳴くダイシャクシギに耳を傾け、タ立が滝のように海面から水アパートでは手ぜまになった。一家はロング・アイランド・シティ を吸い上げるのを眺めながら、いっとはなくある不満を感じるようの一戸建てへ引っ越した。またまた女出入りがあって、サリヴァンと ーの父 になった。くちびるにくわえた薄色のハ・ハナ葉巻は、一インチもあ妻とのあいだは冷却した。彼は過労ぎみでもあった。工、、 るなめらかな灰のうしろからぼつぼっと伸びていき、やがて成長が親への巨額の返済も手つだって、事業のほうの好況がつづいたのだ。 終ると、彼はそこから炎をとりのそいて銀のナイフで先端をかぶ毎月の小切手の控え。あっちこっちから、金が湯水のように流れ ヒ 4 ーミダー せ、シガー入れの中へていねいにしまいこむのだった。工、、 ーのこんでくやーー食料品屋、服屋、医者 : : : 帳尻を合わすために、彼 髪はしだいに色艶を濃くしはじめた。二人はより多く語らい、より はいつも引出しに追われた。 いさかい 多く論をするようになった。ときおり、エ、、 ーが奇妙表情で夜になると、見馴れた自分の顔が、鏡の中からげつそりとやつれ をしったいどこへ行きた感じで彼を見つめるのだった。そこで彼の指がなめらかな頬に触 彼を見つめるようにもなった。このすべてよ、、 れる。カミソリが乾いた音を立て、シャポンの泡と生えそろったひ 着くのか ? 人生の目的とはなんだろうか ? ミリーと性に目ざめたー・・ーそれはげをうしろにひきずって、頬を上っていく。それから、温かい刷毛 十歳になって、彼ははじめてエ 短く不満足な体験で、その後しばらく繰りかえされなかった。そのがシャポン泡をとり去り、そしてひげをとりもどした顔が鏡からの そく。いちど、そいつをなめらかなままでほうりつばなしにしてお 二年後、彼はペギーと出あった。 いたら、どんな結果になるだろうか ? だがひげをあたるのはしき の中で起っ 出会いはある日の午後、彼のはじめて入るアパート た。向きなおった彼のまえでドアがひらき、そしてペギーが彼の顔たりなのだ。 をカまかせにひつばたいたのである。そのあと、しばらく二人は息工場は数回の引っ越しを重ね、結局プリーカー通りの屋根裏にお をはずませながらにらみあい、そして部屋の中に入った。サリヴァちついた。工程はむかしよりずっと単純になっていた。雇人もつぎ ンが彼女に対して感じた怒りには、自嘲と欲望がいりまじってい つぎに去っていき、ついにはサリヴァンとゲイナーと三人の職工だ けで用がたりるようになった。サリヴァンも、いまではときどき手 た。数分後、まだ仏頂面のままで、二人は服をぬぎはじめた・ : ペギーのあとにはアリス、アリスのあとにはコ = ーが現れた。一動印刷機を手つだいはじめた。いったんコツをのみこむと、金属の 九四二年、サリヴァンはいまや十五歳の男盛りだった。その年、彼あごがひらくアクロ・ ( チックな安全の一瞬に、空白のページを印字 の息子である見ず知らずの青年がイタリーからもどってきた。ロバ板からはずし、抹消すべきつぎのページをそこへのせる作業のリズ 2

6. SFマガジン 1969年11月号

ニコラス・オーロフよ、、、 。し力にもオックスフォード出のロシア人しかし、ガニメデ自治領政府がそれに強い不満を表明するに及ん らしく、生粋の英国風な物腰で左の眼にモノクルをはめてから、とで、オーロフは、〃うるさい田舎者を宥めつけろという指令を受 がめるような口ぶりでいった。「しかし、大臣、いかになんでも五けて、ジュヴォポリスへ飛ぶことになった。頭の痛い仕事だった。 億ドルとは ! 」 ーナムはしゃべりつづけた。「自治領政府は、のどから手が出 レオ・バーナムはものうげに肩をすくめ、長身をいちだんと小さるほど、その金をほしがっている。というより、もしその金が手に く椅子の中に折りたたんだ。「どうしても、それだけの支出金を承入らねば、すべての事実を公表しようとさえ考えているのだ」 認してもらわなくちゃならんのだよ、長官。このガニメデの自治領オーロフの冷静さは、ここにいたって完全に破れ、ポロリとはず 政府は、そろそろやけくそになりかけている。いままではわたしがれかけたモノクルをあわててつかみとった。「まさか ! 」 なだめすかしてきたが、しよせん、科学技術相ひとりのカでは、た「むろん、わたしにだって、それがなにを意味するかはわかる。極 かが知れたものだ」 カ反対はしたが、みんなの考えにも一理あるんだよ。いったん木星 「それはよくわかるが、しかし・ーー」オーロフは、絶望的だという人事件の内幕が公表され、一般民衆がそれを知れば、地球帝国政府 ように両手をひろげた。 の権力の座は、一週間ともつまい。そして、テクノクラート勢力が 「そうだろうな」とバーナムも相槌を打った。「地球帝国政府は、 その後釜に入れば、彼らはこっちの要求を無条件にのむだろう。で そっぽを向いているほうが楽だということをご存じだ。そして、こなければ、世論が承知しない」 れまでずっとその態度で終始してきた。全太陽系を脅かす危険の性「しかし、それと同時に、恐慌やヒステリーもーーこ 質を、わたしが彼らに理解させようと試みてから、もう一年になる「たしかに ! だからこそ、われわれもためらっていた。だが、こ が、どうやらそれもむだだったらし い。だが、長官、そこをまげてんどのは一種の最後通告と考えてほしいね。秘密主義は守りたい。 お願いしたいのだよ。いまのポストに就任早々のきみなら、この木秘密主義は必要だ。しかし、それ以上に、われわれには資金が必要 星人事件を手垢のついてない視点から見ることができるだろうからなのだ」 ね , 「なるほど」オーロフはすばやく計算を働かせたが、」 達した結論 オーロフは咳ばらいして、・フーツの爪先を見つめた。グリドリー はこころよいものではなかった。「そういうことだと、この事件の の後釜として植民局長官の椅子に坐ってから三カ月、その間、〃あ調査をさらに進めるのが望ましいだろうね。もし、・木星との交信に のあほらしい木星人のたわごとみに関する案件は、目を通しもせず関する報告書が、ここにあればーーー」 に・せんぶ握りつぶしてきたのである。というのも、彼が植民局入り「あるとも」とパーナムが皮肉たっぷりにいった。「そして、ワシ をするずっと以前から、木星人問題に″から騒ぎ〃というラベルをントンの地球帝国政府のもとにも、あるはずだ。だめだよ、長官。 貼りつけていた、内閣の既定方針に従ったまでのことだった。 あれは去年のうちに地球の役人たちがしゃぶり終ったかすで、結局

7. SFマガジン 1969年11月号

を名乗るものはいないし、本人たちがなんと言おうとも、この子供「なにか新製品だろうな」ジャクスン・フォー・フズが言った。 たちは見知らぬ顔なのだ。 んな田舎にひっこんでるんだ、わしらが見たことも聞いたこともな 二人がミルクを飲み、クッキーをたいらげるのに忙しいのを見届いものがたくさんあるだろうて。発明家と称する連中がいつばいい けて、彼女はストー・フのそばに戻ると、もう一度りんごの鍋を手前て、しよっちゅういろんなものを発明してるんだからな」 に移し、木杓子で砂糖煮をかきまわした。 「それにあの男の子のズボン、あれにもおなじものがついてたわ。 「お祖父さんはどこ ? 」エレンが訊ねた。 べッドにはいったあと床に脱ぎ捨ててあったのを拾いあげて、畳ん 「お祖父さんは畑よ。もうじき帰っていらっしやるわ。もうクッキで椅子の上に置いてやったの。そのときこの金属のレイル、ふちが ーは食べてしまったの ? 」 ぎざぎざになったレイルを見たのよ。それからあの子たちが着てい 「ぜんぶ食べちゃったわ」少女は答えた。 る服。男の子のズボンは膝の上で切ってあるし、女の子のドレスは 「それじやテ 1 プルをかたづけて、お夕食の用意をしなきゃね。あばかに短くて : : : 」 プレーン なた、手伝ってくれるでしょ ? 」 「平原のことをなにか言ってたな」ジャクスン・フォー・フズがぼっ エレンはびよんと椅子からとびおりた。 りと言った。「だがわしらの知ってるプレーンじゃない、なにか人 戸ケット 「手伝うわー が旅行するときに使うものらしい。それから狼火ーー・まるで毎日狼 火があがってて、それも地球上だけじゃないみたいだ」 「じゃあ・ほくは」と、ポールが言った。「薪を運んであげよう。パ パが言ったんだ、よくお手伝いしなきゃいけないって。薪を運んだ「もちろん質問することもできないし」フォー・フズ夫人は言った。 「あの子たちにはなにかがあったわ、なにかわたしにもおかしいと ほくにも : : : 」 り鶏に餌をやったり、卵を集めたりすることなら、・ 「ねえポール」と、フォー・フズ夫人は言った。「それよりおとうさ感じられるものが」 彼女の夫はうなずいた。「それに怯えてもいた」 んがなんのお仕事をなさってるか、それを話してくれないこと ? 」 「あなたは怯えてらっしやる、ジャクスン ? 」 「パパは」と、少年は言った。「時間技師なんだ」 「わからん。だがほかにフォー・フズという人間はおらんしな。すく 二人の雇いの作男は、台所のテーブルでチェッカーの盤をかこんなくともこの近くには。チャーリーがいちばん近くだが、あれだっ て五マイルは離れている。それにあの子たちは、ほんのすこししか でいた。老夫婦二人は居間にいた。 「あんなようなもの、一度も見たことがないわ」と、フォー・フズ夫歩かなかったと言っていた」 人が言った。「小さな金属片がついていて、それをひつばると、べ「あなた、どうするつもり ? わたしたち、どうしたらいいの ? こ つの金属のレイルにそっと動くの。すると鞄があくってわけ。逆に「さつばり見当もっかん。郡都に行って、保安官に話してみるか。 ひつばると、それが閉まるのよ」 あの子供たちは迷子にちがいない。だれかあの子たちを捜している テンボラル・エンジ - 一ア 5 5

8. SFマガジン 1969年11月号

た。「わたしのやり方だと、電流の強弱は存在するイオンの性質いは、休養をとることも仕事の一部にふくまれていた。エジプトでお かんによっていて、外部からそれに供給される力には関係がない。 そろしく骨の折れる仕事をしてきたあとだし、その体内にはおそら 6 わたしは電流に力を送り込むということはしない。電流はそれ自身く熱帯産の病菌の二種類や三種類は取り込んできていたはずで、そ で力を生み出していくんだ」 いつを駆除してしまうというのも悪い考えではなかったろう。彼は 彼はそれから加湿溶液を調合して、粘土が徐々に水分を帯びるよ一つ二つ、講演を行ない、ある雑誌に小文を書き、博物館のスタッ うにした。そして発振器のスイッチを入れ、手の埃を払った。 フから求められれば、いつでも諮問に応じられるように待機してい た。けれどもなるべくは、休養するように心がけていた。 「さてと、これであとは待つばかりだ。もう一杯、どうだね ? 」 サム・トッドは、会ってみると、気ごころが合って、いい友だち 「いいや、けっこう」ディックは言った。「それよりあの水銀のこ とだが、きみは何をいおうとしたんだい ? ニューヨークでそんなになれそうな相手だった。その宿願もほとんど達成されようとして 話を聞くというのはおかしなことだ。アレクサンドリ アの一件にしおり、今や彼は依頼人たちにかなりの知識を提供し得るひとかどの ても、土地の住民は信じたかもしれないが、・ ほくは信じなかった。顧問犯罪学者になりかけていた。水銀の溜りを残して何かが消減 ましてそいつを、 いくら似ているからといって、大昔のパビルス文し、窃盗が行なわれる事件に関して彼はじつに魅惑的な資料をそろ えていた。そのリストは七十五年以上も過去にまでさかの・ほるもの 書にあったほら話と結びつけるのは、 いかにもばかげているよ ! 」 とれもみな、まったくあり得そうにない話だったので、活 「本気で言ったわけじゃない」モールトビイは言った。「きみは女だった。。 の子が消えて水銀が出現した話と、忘れられた王様が消えて水銀が字になったということはめったになく、またおなじ話がたがいに他 出現した話をもちだした。それで、わたしもサム・トッドが聞かせのそれを聞いたはずのない人間たちによって語られているケースが てくれた話を思い出したって次第さ。まだ一ト月ほどにしかならなすくなくとも十二件はあったにもかかわらず、ことさらに注目され いが、ある香水工場で金庫を開けると、一オンス何百ドルもする芳るということもなかった。ある有名な種馬の姿が見えないので馬丁 香油の壜がぜんぶ消えていて、そのあとに水銀が小さな溜りを無数の一人がその厩を覗いてみると、床のほうへったい落ちている水銀 につくっていたというんだ。妙な話だろう。それで、ちょっと言っの小さな溜りが四つ、あった。その馬はいなくなっていた。床の てみたのさ。それだけのことだ」 きわらのそこここに、ほかにも点々と水銀の小滴が落ちていたが、 「そのサム・トッドとかいう人物とぜひ話してみたい」ディックはそれらもやがて消えてなくなった。あとでその厩を探査したときに 言った。「ばからしい話にむきになるのはいやだが、しかしあまりは、水銀は一滴も認められなかった。古い家柄を誇るデルモニコ家 にも不思議な暗合だからーーー」 で、貴重このうえないワインが盗まれた。水銀が円や楕円の溜りを 残して消えていたが、その水銀もしばらくすると消えた。水銀はた ディック・・フレアは仕事にとりかかった。ただしさしあたってった一人の男しか見ていなかった。名もないダンサーでーーー才能も

9. SFマガジン 1969年11月号

に答えるだけで、ロをきかなかった。ランドールはタイム・スクリ ・ : 」手を振って、「 : : : われわれの計画にもね , ーンのことを話していた。 「よくわかっている」とジェイラス。「・ほくにも思慮分別がある チェンバー 「あの箱はタイム・トラベルの乗物としては危険だから、やめる 安心していてくれ」 ランドールは一つうなずくと、両手を出し神経質に指をつぼめことにしたのさ」とランドール、「きみは丸いエネルギー・スクリ て、「ウェイドのことは知っているな」 ーンに入って行くんだ。これなら、きみの見ている相手から、きみ 「噂は聞いている」ジェイラスが答えた。「こまかいことは知らなの姿は見えない。きみの手で、このスクリーンを破ることはできる が、それがいかに危険なことか、胆に銘じておいてほしい」 いがね」 「ウェイド教授はこの前の転移で行方不明になったんだ」フィリプ「たのむから、スクリーンの中に留っていてくれよ」フィリ。フスも チェン六 ス博士が落ち着いていった。「箱は空で戻ってきた。かれは死ん念を押した。「いいかい」 「ああ、わかった」とジェイラス。 だと考えざるをえない」 「あれは九月の初めだった」とランドール。 「それから、つけ加えておくが」ランドーレ ; 、 / 力しった。「胸のスビ ーカーで連絡を取ってくれ。見たままを知らせてよこすんだ。そし 「二か月以上もかかって、もう一度実験をさせてくれるように、や て、もし不安を感じるとか、なにか危険な兆候でもあったらーーそ っと委員会を説得したんだよ。もしも、今度失敗すると : : : そう、 う、一言そういってくれればいい。すぐきみを連れ戻すからね。ど 完全におじゃんになるんだ」 ちらにしても、きみの : : : 訪問、といっていいだろうが、これは一 「なるほど」とジェイラス。 「うまくやってくれよ、教授。うまくやってくれよーフィリプス博時間を超えることはない」 士が口を出した。「大事な瀬戸ぎわなんだからね」 一時間か、とジェイラスは思った。永年のインチキをあばくには 「まあ、おどかすのはこのくらいにしておこう」ランドールは疲れ充分すぎる時間だ。 たように微笑した。「それに、きみも承知していると思うが、大勢「きみの健康と教養と経歴をもってすれば」ランドールは喋ってい の人が命と引きかえにしてでも見たがっているものを、きみはこれた。「まったく困難はないはずだ」 から見るんだよ」 「一つわからないのだがージェイラスはいった。「ほかに事件はい 「わかってる」ジェイラスは答え、同時に、その大勢の人ってのは くらでもあるのに、なぜ、この事件を選んだんだい ? 」 馬鹿なんだと思った。 ランドールが肩をすくめて、「間もなくクリスマスがくるから ノ、刀、し / 「じゃ、でかけようか ? ・」ランドーレ : 、 三人は廊下に足音をひびかせながら、〈装置室〉に向った。ジェ センチなやつらだ、とジェイラスは思った。 イラスは手をコートのポケットに入れたまま、二人の質問に手短か 三人が〈装置室〉の重い金属製のドアを押して中に入っていく っこ 0

10. SFマガジン 1969年11月号

びではっきりと紅潮している。「すべてのものが、とつ。せん、あるのことだ。さあ、きたまえ」腕時計をちらと見て、椅子からとび出 べき場所におさまったんだ。はめ絵パズルのように。あんなことはした。「あと半時間しかない。行こう」 ドアの外には、電気自動車が待っていた。プロッサーは低いハム 生まれてはじめてだ。まさに欣喜雀躍だよー 「れいの、圧縮したカ場が完成したんですな ? 」オーロフが思わずを上げる車を、基地の深部〈むか 0 て下り坂を走らせながら、興奮 した口調で語りつづけた。 興奮にかられてきいた。 プロッサーは気をわるくしたように、「いや、そうじゃない。別「理論だ ! 理論 ! それだよ、大切なのは。技術者にある問題を 異次元空間への入口は、いつどこにパックリとロろそろ砂箱のところまで集 0 て来て、子供のおもち入口ができたのではなかろうか、と言われて、ふる これは、そういう実例やを拾い上げては中へ投げこみはじめた。砂の上にえ上った。 を開くかもわからない。 そこでその日の夕方、夫が帰ってくると、さっそ 落ちた玩具類はみんなーーー小さなダンプカーもゴム の一つなのだろうか ? くそのことを打明け、夫の友人の心霊学者を呼んで 木でつくった枠の中に砂を入れて子供たちの遊びの小さな人形も砂・ハケツもプラスチック製のポート もーーーほんの二、三秒の間に砂の中にのみこまれて来てもらって、調べてもらった。 場としたいわゆる「サンド・ポックス」 ( 砂箱 ) か だが、せつかくの砂箱がばらばらにこわされてし ら、いろんなものがいずくへともなく際限もなく消見えなくなってしまったのだ。 ス びつくりしてみんな家にとって返し、長い柄のつまっているのでは、もうどうにも調べようがない、 クえ去る : ・ いた掃木や、ツルハシや、熊手などまで持ち出してと言われた。 ッそんなファンタスティックな怪事件が、この宇宙 そこで夫人は・ハラ・ハラになった砂箱をもう一度組 ボ時代にあ 0 てはたまらない。しかしまさにそんな出きて、砂箱の中をひ 0 かきまわし、のみこまれたは 来事が、現実に一九六一年の春、アメリカの。〈ンシずのおもちゃ類を探してみたがひとつも出てこなみ立て中に砂を入れてみたが、もう前のような不可 思議きわまる現象は二度と起らなかった。 ルヴァニア州ハリスプルグのペティット家の裏庭でい。 そして数日後、その気味の悪い砂箱もどこかよそ そればかりか熊手で砂箱の中をかきまわしていた 起った。 ン へもって行って捨ててしまったから、この謎はもは 。へティット夫人は、突然何かがそれをグイとひつつ 裏庭においてあった砂箱の中で遊んでいた同家の サ 三人の子供が、その中に入れたおもちゃが次々と消かんだように思ったのでびつくり仰天、カ一杯それやどうにも解きようがなく、世にも奇怪な出米事と の して今日まで残っているのだ。 え去り、しまいには子供たちまで吸いこんでしまいをひき出して大きな悲鳴をあげた。 し そうになった、といって泣きながら駈けこんで来た すっかり昻奮した近所の人たちは、あまりの不気今日の科学では、この現象を説明する方法はまっ : と笑い なのを聞いた母親は、まさかそんなことが : 味さに耐えかねて、よってたかって手に持ったツル しかし、それらの玩具がたしかにその砂箱の砂の ハシなどでその箱をひつばたき、とうとう・ハラ・ハラ 底そうになった。 中に沈んで行き、それがもう一一度と発見されなかっ も しかし、ともかく子供たちと一緒に裏庭に出て、 に破壊してしまった。 当然、箱の中の砂はあたり一面にちらばったのたということは、同家の夫人と二人の子供ばかりで に言われるままにその砂箱の中にポールを一個投げこ なく何人かの近所の人たちがはっきりと目撃してい で、それをさらにかぎまわして、中に入っているは 世んでみて驚いてしまった。 るのである。 ポールはゆっくりと砂の中に沈みこみ、影も形もずの玩具を見つけようとしてみたが、けつきよく、 我々をとりまいているこの空間には、現在の物理 やつばり何ひとつ出てこなかった。 なくなってしまったのだ。 いったいせんたいこれらの玩具はどこへ行ってし学者たちが考えている以上の、何か神秘的な要素が そこで大騒ぎしていると、近所の人たちが何ごと かと思って出てきたので、その話をしたところ、誰まったのだろうか ? べティット夫人は近所の人か具わっているとでも考えるほかはなさそうである。 ( 近代宇宙旅行協会提供 ) もはじめは信用しようとしなかったが、それでもそら、この砂箱の中にはあの世へ通じる目に見えない 世界みすてり・とびつく 7 3