とはいっても仕事に行く以上、カワードは、火星都市群の成立に まったく、連邦も、とんだ男をチームに組み入れてくれたもの ついて、ひととおりのことは頭に入れている。 舌打ちしそうになるのをやっとこらえて、カワードは、腰をあげもともと、火星に都市を作るというようなことは、宇宙開発の計 こ。 画には入っていなかったのだ。これは、火星に建設された恒久基地 「どれ、ぼくはそろそろ眠ることにするよ。ひょっとしたら火星ので生れた子供たちが、ロケット便の都合ですぐに地球へ送遠される チャンスを失い、そのまま低重力の火星で育った結果、一生を火星 連中なんて、われわれを眠らもせずにこき使うかも知れんからな」 ですごすよう運命づけられたのが、そもそものおこりなのである。 みんなも、にやにやしながら、それでも立ちあがった。 こうして作られた原始的な火星居住地に対して、地球側は充分な ・ツドになってし サロンの横手に細い通路が伸び、両側が三段へ ことをしたとはいえない。地球上に問題が山積していたのだから当 然ともいえるが、火星世界へ援助のため送られる物資は一定せず、 カワードは、身を横たえた。 時期もきわめて不規則だった。 火星についてからのことを思う。 しかしそこには、若かった頃のような野心や気負いといったもの火星の人々はたまりかねて、みずから科学力で自給自足体制を作 りあげたのだが、このときを、火星では新紀元年と呼んでいる。 は、微塵もなかった。プランナーとして生きて行くようになってか やがて、徐々に火星の人口は増加して行った。それとともに、地 ら、もう十五年以上になるが、その間の仕事と放浪の経験を通じ て、彼は、どんな大きな計画でも、やり終えてしまえば空しいこと球とはまるで違う形での工業化が進んだのだが、その頃になると地 を学んでいた。それが、雇われスペシャリストというものなのだ。球は火星に余力があると見て、移民を受入れることを要求した。 何もかもが所詮は空しい以上、くそまじめに熱をこめてやらなけれ火星は応じた。まだその時分の火星は弱体だったので、抵抗でき ばならないようなことなど、この世にあるわけがない。身につけたなかったのである。 才覚でゲームのように仕事を乗り切り、そうして獲得した報酬と自 しかし、火星世界が整備され実力がつくと、移民はおろか、地球 由な時間を、徹底的に享楽するのだ。それが人生なのだと考えるよに対するいっさいの協力を拒否し、火星上の地球側設備を接収する うになっていた。 と宣言した。 今度の仕事だって、いつもと同じことであった。テキニットと情勢は険悪になったが、火星側が従前どおりの協力をしてくれる 呼ばれる火星都市群が、五十年祭を挙行する、その企画と実施のプなら、移民受入れの要請は引っ込めてもいいという条件で折り合い レーンとして招かれたわけなのだ。連邦の専門委員会からの誘いに がっき、戦争は回避された。同時に、火星都市群は、テキュニット 応じたのも、まだ火星に行ったことがないからという、それだけのという包括名で、人類連邦にくわわったのである。 理由からであった。 そういう事情があるので、連邦は、テキュニットに対して、地球 る。 7 6
①ヴェルヌ地底旅行 / 海底二万リーグ ②ウエルズ宇宙戦争 / 透明人間 / タイム・マシン ③ドイルロスト・ワールド / 毒ガス帯 ガーンズ・ハックラルフ一二四 0 四一十 ④ ティン時間流 ワイリイ闘士 3 ライト時を克えて ステープルドンシリウス ⑥リ、イス沈黙の惑星より ⑦スミス銀河〈ト。ール / 宇宙のスカイラーク 0 次回配本〈月日〉第馬巻 0 べリャーエフドウエル教授の首 / 無への跳躍 エレンプルグトラスト ⑨チャベック山椒魚戦争 、ツクスリイすばらしい新世界 オーウエル一九八四年 ミルト / 時果つるところ ラインスターオペレーション外宇宙 ⑩ハインライン人形つかい / 夏への扉 ⑩プラッドベリ火星年代記 / 華氏四五一度 ⑩アシモフ鋼鉄都市 / 宇宙気流 ⑩クラーク幼年期の終り / 海底牧場 プラウン火星人ゴーホーム スタージョン夢みる宝石 のヴォクトスラン / 宇宙船ビーグル号 ベスター虎よ、虎よ、 ⑩・ ティック宇宙の眼 トリフィドの日 / 地衣騒動 ウインダム 《全巻巻 1 》内容 プリッシュ地球人よ、故郷に還れ シマック都市 ポール / コーンプルース宇宙商人 のエフレーモフ字宙船 / アンドロメダ星雲 ム砂漠の惑星 / ソラリスの陽のもとに ストルガッキー兄弟神さまはつらい のグロモワ自己との決闘 ゴ ルクムビ ・ハルンヤベル荒廃 タルトン禁しられた者の世界 ラード結品世界 のれーレディスグレイ ~ アド ク一フーク ー幼年期の終りー海底牧場 の安部公房第四間氷期他 星新一作品刪 ⑩小松左京果しなき流れの果に / 継ぐのは誰か ? 光瀬龍 ⑩筒井康隆新作書下ろし長篇 眉村卓 ⑨世界の ()D 短篇集 ( クラシノク篇 ) 世界の短篇集 ( 現代篇 ) ⑩世界の IL 東欧ソ連編 @日本の LL 短篇集 ( クラシ / ク篇 ) 3 日本の I.L 短篇集 ( 現代篇 ) 巻講座 ( 白抜き巻数は既刊 ) 版頁円売 華 0 豪 ス均 0 日 ロ平間 ク 総版価 月 箱 4 定毎
就眠剤を飲もうとして、カワ 1 ドは、それを入れたッグを、サ一一記スワースモア・カレッジのスプロ そして今では、・ハーナード 1 星 ウル天文学者たちは、この星にも望 ロンに忘れてきたのに気がついた。 及び星と名づけられているけれ 遠鏡で観測できない伴星があると、 あかりをつけて他の人の眠りを邪魔したりしたくないので、彼は = もうずいぶん前から言っている。し ども、ひょっとするともっと小さな = かしその伴星というのは、我々の太惑星がさらにあるかも知れぬ、と言 手さぐりでべッドを降りた。 う。しかし、それらの上に果して我 陽の一〇〇分の一に近い質量を持っ 通路へ出る。 = た天体だと言うのだから、これはと我の地球上におけるような生命の世 = ても我々の太陽系内惑星とは比較の界がくりひろげられているだろうか サロンとの仕切りのカーテンから、光が洩れていた。 どうか、という点については疑問的 できぬ大きなもので、暗黒の恒星と まだだれか残っているのだろうか。 だ。なぜならこの・ハーナード星とい 考えた方がよいものだ。同天文台の うのは我々の太陽よりかなり小さい 天文学者たちは、もっと遠方にある サロンに入ると、ひとりの男が、壁ぎわでテーブルをおろして、 白鳥座六一番星にも同様の暗黒伴星ため ( 半径が約〇・一一倍ほど ) そ 何か書いているのが見えた。 の光量は非常に少く、太陽の二千分 = がある、と言っている。 これらの星はむろん暗黒伴星が主の一位にすぎないだろうと言われて = 例の、ショウヤ・タイだ。 いるからである。つまり、それだけ 星に及ぼす重力的影響ーーーっまり、 今ごろまで、何をしているんだろう。 = 運行上の「よろめき」によ 0 て推測の光と熟では、これらの惑星上に生 = したものだが、・ ( ーナード星の惑星命が発生し発展するのに低温すぎる カワードは近よった。近よってみると、ショウヤは、出発前に委 だろう、というわわけである。 の場合も、一九一六年から今日にい 員会の手を通じてテキュニットから送られた案内書を、しきりにチ しかし生命は、どういう環境のと たる、この星の写っている天空写真 = を何千枚となく綿密に調べあげた結ころにどんな形態のものが発展して ェックしているのだった。 いるか知れず、将来太陽系外の宇宙 果、運行の不規則さから惑星の写在 よほど夢中になっているらしく、すぐそばまでカワードが来て のみならず、その大きさ等を推測し探険が始まった際、まず最初に探究 = たものである。その結果この惑星されるべき天体である、と言えよ = も、判らない様子だ。 は、「地球のほば五〇〇借ぐらいの いや、宇宙探険と言えば、これら 大きさを持っ天体」ーーー我が太陽系 「お勉強かね ? 」 内で一番大きな木星と較・ヘれば、その他にももっとどんな近いところに カワードは声をかけた、 = のわずか一倍半ばかりの大きさを持単独もしくはいくつか星系をなした ショウヤは、ゆっくりと顔をあげた。 つにすぎない天体で、・ハーナード星観測で発見されていない暗黒天体が と命名されていた。だから、これはあるかも知れないし、げんに我が太 「あんたか」 に発見された最初の惑星ら太陽系外陽系の冥王星の行動は、充分にその一一 内側の天体、海王星の軌道のズレを らしい惑星と言えるわけなのだ。 「そんなことをしたって、あんまり意味がないんじゃないか ? 」 ところが、最近になって、ファン説明することがでぎないと言うか カワードは、なかば笑いながらいった。「だいたいそいつは、テ ・ド・カンプ博士は、・ハーナード星ら、我々の太陽系自体の周辺にも、 のまわりを廻っている惑星は、一つ未発見の惑星が存在する可能性もあ キュニットが、連邦の連中に見られてもいいように形を整えた案内 ではなく二つあり、ともにほぼ木星る。宇宙探険の未来は、大いに興味 書だよ。そんなものを四角四角に書き取らなくなったって、じき 津々たるものがあると言えよう。 位の大きさで、ほとんど完全に近い ( 近代宇宙旅行協会提供 ) 一一 9 に、自分の目で本物を見られるじゃないか。違うかね ? 努力屋さに円形その軌道はである、と言い出し 世界みすてり・とひっく ~ 三三ⅱ ん」 こ 0
や月の国家あるいはユニットと称される共同体の場合のような、立 入った干渉はできないでいる。それどころか、テキュニットの内部 太陽系外の太陽系 で何がおこなわれているかということについての、くわしい調査さ - えできい始末だった。 我々の太陽系外のどの星に、我々 ・カレッジにいるオランダ生れの天 - の地球や火星や金星のような惑星が文学者ファン・デ・カンプ博士だ とはいえそこに何があるのかということに関する噂なら、カワー めぐっているであろうか ? が、その星とは、我が太陽系から約 ドも何度か耳にしていた。テキュニットはおそるべき全体主義社会 この問題は、我々人類の月面初到六光年の距離にある・ハーナード星で 達の成功にともなって、より広く人ある。 であり、成員はこまかく階級づけされて、ろくに自由も与えられて i ■ 人の関心を惹き始めた問題だろう。 この星のことをちょっと説明する . し / . し : ・ : しかも成員自身は自分たちが不自由だとも不幸だとも考 だが、この間題はまだ視覚的には とーー我々の太陽系を出て一番先に えておらず、テキュニットがかれらの共同体であるという感覚を抱 解決できない問題である。というの遭遇できる恒星は、約四・二光年の - は言うまでもなく、太陽系外の天体距離にあるプロクシマ・センタウリ いている : : : こんなことが成功しているのは、支配者たちが巧妙だ 星、次に、それよりいくぶん遠い距 はみな、何光年から何千万光年とい からだ : : : その支配者たちは一種のオルガナイザーで、支配者とし う遠方にあるため、そのまわりを廻離にあるのはアルフア・ケンタウリ っている小さな惑星を見つけること 星と星の二つだが、この三つの ■ ての姿を見せず、管理者の中にまぎれ込んでいる : ・ はとうていできそうにないだけでな星は実は重力的に相関連して一つの く、何しろ我々の地球上からの観測星系をつくっている。つまり星と どれひとつをとりあげても、あかるいものはなかった。あんまり ■ では、大気の厚い層を通しての観測星とは、お互いの重心のまわりを 考えたくないような噂ばかりだった。 だから、その大気の揺動に邪魔され約八十年の周期で廻っている二重星 て、どれほど大きな望遠鏡が建設さで、それから約一一度離れて、それら だが、そんなことを本気で考えて、何になる ? れようとそんなちつにけな天体がは とほとんど平行に宇宙を進行してい 所詮は、遠い、関係のない世界のことではないか、これからカワ るように見えるのがプロクシマ・ケ つきり観測できるようになろうと は、とても考えられない。 ンタウリ星なのである。ところが実 ード自身がそこへ行くのは事実だが、だからといって、そのテキュ その点今や地球人類は、近い将来はこの星も、二つを合せたもの ニットをどうこうするとか、成員が不幸だと腹を立てても仕方がな■ - 地球の大気圏外に天体観測所を設置と共通の重心のまわりを、なんと約 して、邪魔な大気の層を通さずに他三十万年という途方もなく長い周期 いことではないか ? 要するに、求められた仕事をちゃんとやって の天体を観測できる時代に一歩一歩で廻っている第三の星なのである。 報酬を貰いさえすれば、それでいいのた。それ以上の、自分の手に i 近づいてきたのだから、幾分は期待つまりこの三つの星は、三重星系を が持てる : : : とは言うものの、実際形づくっているわけだ。 負えるはずもない問題に頭を突っ込んだところで、どうにもなりや さて、この三つの星の次に太陽に 上中心の天体が余りにも明るすぎた しない。そんなひまがあったら、優雅に一生を送るほうがいい。す i 場合、そのごく近辺を廻っているご近い距離にあるのが、この・ ( ーナー ■ く小さい無発光の天体を観測するこ ド星である。だから、我々の太陽系 くなくとも自分にはそのほうが性に合っている。 とは非常に困難だろう。そんな時、 から言って二つ目の星系と言えるわ 今日すでに太陽系外のある星にはたけ。さらにそこからもう二光年ばか そこまで考えて来て、カワードは時計を見た。 しかに惑星が公転していると主張すり離れて、ウルフ三五九という星が 横になってから、もう三十分以上も過ぎている。 る天文学者がいる。それはアメリカあり、それから八・ = 一光年先にララ のペンシルヴァニア州スワースモア こんな調子では、寝不足になってしまうそ。 ンド二一一八五という星がある。前 8 6
して、月面物質を顕微鏡で徹底的に捜した はるかに鮮明で、火星の「運河」が実はクレークー が何も見つからなかった。したがって発見供 群の見あやまりであったらしいことなども判った された有機物質は、地上のものが混人したト が、同時に学者たちのあいだで、その光景が「月よ ものにちがいないといって、同紙の記事を フ りはやはり地球にちかい」という意見を持つものが 否定した。また同博士は、月面物質を注射 増え、論争が始まった。さらに、議論は、マリナー 冠 した二十四匹のハッカネズミを解剖したル 6 号 7 号の、大気組成についてのデータの喰いちが 極 の が、内臓その他に、有機物質があれば当然ワ いからも起こった。大気の濃度は、赤道付近で最大 星 起きたであろう変化が全く一認められなかっド くル、一〇〇〇ミ リ・ハールの地球と較べ一 イ たことも明らかにした。 た一一五分の一以下とますます稀薄なことが確かめられ ジョンソン博士もやはり同意見で、月面 さ一たが、問題はその組成、で 6 号の紫外線分光器の観 影 物質から発見された有機物質は、宇宙飛行 測によると炭酸ガス、一酸化炭素、水素、オゾンは 士がサンプルをとったとき、器具に付着し 接検出されたが、窒素、アンモニア、水蒸気のスペク 近一 ていた脂がまじったか、月試料研究所でサ トルは見られす、これで生命の存在は決定的に否定 ン。フルを処理したとき、真空室のゴムの油 されたと思われた。い うまでもなく、それらは生命 がまじったかのいずれかだろう、といった の発生に不可欠のものだからた。ところが翌日 7 号 のだ。 の送ってきたスペクトル分析の結果は、意外にも極 かくて、月面生物説は簡単に葬り去られ 冠付近の大気中にアンモニアとメタンガスの存在を た感があるが、予期していたこととはいえ、宇宙空間に生命の発生する条件示してきたのだ。・これについてカリフォルニア州パサデナのジ = ット推進研 の難しさを、ひしひしと味わわされた一幕ではあった。 究所の科学者たちは、マリナー 7 号の測定を支持し、赤外線分析担当のカリ さらに、こうした話が人々の関心をひきつけていた同じ頃、去る七月三 フォルニア大学のビメンテル教授は、「これらの化合物が生物の起源のもの 十、三十一日の両日あいついで火星に最接近 ( 約三四〇〇キロ ) した無人探であると考えてもおかしくはない」と言明。またホロビッツ博士は「生物は 測器マリナー 6 、 7 号から送られてきた火星表面のクローズアップ中継九九パーセントいないかもしれないが、あとの一。 ハーセントを目指してわれ と、精密な観測器械による火星大気の組成のデータや極冠の様子をめぐっわれは研究を続ける」といった。 て、火星に生命があるかという議論が再燃した。 生物の起源をさぐるというむすかしいが最も本質的な重要性をもっ研究に ます写真は、火星表面が月面によく似た、クレーターの多い荒涼たる容貌とって、たしかに同博士のような研究態度こそ、もっとも望ましいものだろ を持っことを再確認させたが、五年前マリナー 4 号が電送してきた写真より うーー・・生命の存在が確証できるかでぎないかはともかくとして。 7
たのかも : ・ いや、そんなことはない。 倉科は首を振った。万が一の事故である限り、二人のあいだに何がなくても ~ 起ると ・には起 0 たはずだ 0 た。事故とそれとは、全く無関係なのだ。 そう思 0 たとたんに、それまでなかなか像を結ばなか 0 たティナの表情躔心の表面に かびあがってきた。 ) 〔【、「物〕「三 ~ ( デそよ ! あなたが殺したのよ ! わたしがあなたを憎んだから、そのしな」にあな ミ、ト 4 いー たが殺したのよ ! ) ティナが叫んだ。 ・急に、重さが、またもどってきた。今度は心までが重かった。重くて、重くて 0 特ち耐 ゞられそうになくなった。 、ス踵い = 。 = もういいじゃないか、そんなことは。ど 0 ちみち、おれも死ぬん応ば・ な平等じゃないか。そんなことより、重すぎる : : : ) 科は一みるみる、その重さに負けていく自分を感じながら、 みと目があいた。 第しの外に、紫色の空があるのが、最初に意識にとびこんでき「 ) 一は - ? をを - おこサ七、 下には、火星特有の赤い砂漠がひろがっていた。 また「同じ夢を見たのか : : : ) 科は、頭をかかえて、基地ドームの天井を見あげた。 、でりあの遭難事故で、結局彼らは二人とも救出され、病院生命をと 康を恢復して、中田はそのまま月に、彼は火星基地一・属によこ。「 ( ~ 、・ もうずいぶん日がたっというのに、倉科は、しま られもちろんそれは、月の倍ある、火星の三分の一 れでは、無重量状態でいられる宇宙ステーシ = ン助務墾でもかえ、てもら・わけ 、は、つくづく思 0 た。でないとこの重さの感覚がいは . るイ上心とがめのよ れるからだった。 第おイ
ろうか。分っているのなら、どうか、教の結果が、これである。 一旅の、たんなる結論的な段階にすぎないと 、きれな - みなすことだ。そうでないとはいし えていただきたい。ぼくだって、べつだ ではどうしてであろうか ? - いはずである。『火星人』と先生の妻は、 ん、好んで沈黙をつづけているわけでは 『人間そっくり』の多意性にもかかわら 、先生の中に自分たちの共同の仲間を見つけ ないのだから : Ⅱ以上原文 ず、それの基本的な思想は、極めて具体的 - たのだ。他にも、この小説の中には、特別 ( 毎日、きまった時間に、わたしのとこである。 、の手掛りになるものがあるから、さらにい ろへ、医者と看護婦がやって来る。医者 つまり、先生が敗れているのは、言葉の フィナーレ 、くつかの仮説をあけてみることはそれほど は全く同じ質問をくりかえす。わたしは 小説ででもないし、かれの惨めな幕切れ - 難かしいことではない。 沈黙を守り、看護婦はその長さをストッ ・、、たった一度の神経のショックの結果で プウォッチ ( クロノメーター ) で測る。 だが、分析というものはすべて、合成に あるわけではない あなたが、わたしの立場なら答えるこ - よって締め括りをしなければならないこと デモクレスの剣のように、かれの頭上に とができるだろうか ? ・あるいは、あな 、は避け難い。あり得るにせよ、せぬにせ 迫った仮借なく火星に近づく口ケットは、 たには、医者を満足させるためにどう答 、よ、すべて仮説というものは、正しくもあ 生命のない火星が、ラジオ番組「こんにち えたらいいのか分っているのかもしれな 一れば、また間違いでもある。それらすべて わ火星人 , の足元から基盤をたたきこわし いですね ? もし分っているのなら、わ - が、この驚くべき小説には納まっている。 ている以上、崩壊の結果でこそあれ、その たしに教えて下さい。わたしが黙ってい - 実は、問題は、安部公房が意識的に、明白 原因ではありえない。 るのは、別にそれが気に入っているから 、なもの、一意的であると思われているもの 先生は、かれを取り巻く世界、つまり、 一の足元から「その基盤をうちこわしている ではないのです : : : ) Ⅱ以上露訳文からの物や金、東の間のセンセーシ = ンと人為的 再訳 - ことにあるのだ。 なプームの挑発、また、人間が簡単に他の 最後に言わなければならないことは、な 新しい、未調整のメカニズムに換わる、必 この問は、読者に向けられている。 、ぜかれはそれをしたかということである。 いっ要な付属品でしかないような世界との衝突 たい何と答えたら、不幸な先生へのアドバ 一前例のない告白の最後の言葉になってい に、先生は耐えられなかったのだ。機械と - る小説の結びの数行が、まさにそれに当イスになるのだろうか ? 機械、機械の個々の部品とユニットの間に 問題は、実は読者もその答を知らないこ は相互理解は存在し得ない。 とにある。それは、先生と同様に、読者に もし、そんなことが起るとすれば、その - 毎日一度、きまった時間に、医者と看もどうすれば多くの手を持っ神との戦いを意味は、人間が戦争のために奮起するとい - 護婦がやって来る。医者が同じ質問を繰終らせられるのかわかっていないからであうことである。 小さなマトリヨーシカから跳び出す大 人間相互の理解こそ、どんな人間でも、 - り返えす。・ほくは、沈黙をまもり、看護る きなマトリヨーシカが、先生に対すると同人類だけのものであると自覚しているとい - 婦がそれを、ストップウォッチではかり 様、読者にも強烈な印象を与えたからであ つづけている。 うことを、安部公房は自分の作品でいわん それともあなたになら、答えられるのる。 としているので、ある。これは、他のすべて - だろうか。なんと答えたら、医者が満足 論理的なフェンシングの姑息な手段、詭のかれの創作と同様に、厳しくかっ真実の - するのか、あなたになら分っているのだ弁、敗北が転じた勝利、殄減を覚悟の譲歩著書である。 ー 30
テキュニット 眉村卓画 = 岩淵慶造 科学技術と人間管理の粋を尽して 築かれた火星の共同都市ーーー だがその繁栄は 成員の厳しい階級づけと 自由抑圧の上に成り立っていた ! イきーを コニ一
とかかわりのない連中にはまったく知られない社会での有名人に仕旅の二十二日は長 い旅だ 立てあけることができるー に、どこへも寄港 そんなわけで主人公のケンは不定期貨物宇宙船カレラからのさそしないとなると。 しかし今、窓外 もうすこし原文を いにのって技術者として乗組むことになる : に浮かんでいるそ つづけよう。 の惑星から仮にも ケンは、なぜ自分がそんな頼みを承諾してしまったのか、まなにかが得られる などとは到底考え だはっきりとはわからなかった。彼が警官という仕事にーーー今や、 実験室にこもりぎりの方が多いような仕事になってはいたがーーー意ることができな 、。それは細い三 識の底で魅 力を感して日月型に見えてい いたのだろる。つまりその惑 星は今、宇宙船 彼はそのと、それからおど 薬が惑星のろくほど弱々しい 外から入っ太陽とのほ・ほ一直 てきている線に近い位置にあ る。残りの夜の部 ことは知っ 分はまばゆい銀河 ていた。 よの中の馬いしみの だが彼ー ように見え、それが、その惑星には大気さえ存在しないらしいこと それがサリ ア惑星系のを示していた。山が多く、荒涼として、寒い。 この三つ目の事実は太陽の姿を見ればよくわかった。なんらの保 外から入っ てくるもの護眼鏡もかけずに直視することができるほどなのである。ケンの眼 にその太陽は、赤味をおびた陰影のように見え、しかもかなり収縮 ・ことい、 ) 」 とまでは知した形をしていた。あんな恒星からこれほどはなれた惑星には苛酷 な寒さ以外なにものも存在しないように思えた。 らなか もちろんレードによるとその薬をつくるには低い温度が必要だと た宇宙の
瞬間には、どちらもシ神と剣を合せてい かもしれない。 一的労働契約、人間迫害、人間 0 ロポット 化、これらすべてが、過去の総決算であることを忘れている。論理の勝利は、かれ『火星人』は、まさにその基準での人間的 、る。しかし、それが秒毎にロケットが飛びらの不可解な相手を、自動的に人間にかえ本源の権化であり、またそれが先生でもあ いったい明る。ただ人間だけが、アリストテレスによる。だから、なにがラジオの人気番組「こ 一立っ明日へのスターでもある って究められた形式的な科学に逆うことがんにちは火星」の作者を精神病院へ連れて 、日とはどんなものなのだろうか ? 「カマ いくことになったのか、われわれには分っ 、ガサキ二〇一三年」のロポット乞食のことでき、詭弁によって間違った三段論法をつ くることができる。そこに、先生と読者のていない。 一なのだろうか ? しばらく立止ってよく考 しとも従順に 恐らく、かれの魂を焦したのは他人の狂 、えてみよ ! 愚かしい廿日鼠の輪から脱け主要な誤りがあり、読者は、、 、出せ ! これが、小松左京が読者に呼びか先生にしたがってしまう。論理が最終的に気の息であろう。なにしろ、かれは喘息を 、けていることである。 勝利をおさめたと思うその瞬間に、シ。ハ神おこしかけていたので、ふだんと精神状態 の別の手に新しい剣が現われる。勝利が敗が違っていた。だから、よろこんで窓を開 、さて、ここで、このアンソロジーの中心 北に変り、敗北が勝利に化けてしまう。わけ放ちたくなるような西風が吹いていると 、的な作品でもある安部公房の『人間そっく ロシアの民族的玩 いうのに、先生の部屋は、窓には厚手のカ れわれは、マトリヨーシカ 、り』に注意を向けてみよう。まず第一に、 具、人形。胴で二 インテレクチャル ーテンが降り、机の電気スタンドの花だけ 、これは、現代の精神的小説である。これつに割れるようにな「ており、中に、さらに小さい人形 が入っている。同じように次々と数個から場合によると が、たちこめるタバコの煙を通して見えて 、には、ほとんどこれといった動きはない 十数個の人形が現 ) をあけると中に別の人形、 われる。訳者註 いるだけであった。それはなぜだろうか ? 、し、話は断片的で、軽妙な線で展開してい 、く。対話と内的独白が基本的な位置を占めしかも、もとのより寸法が大きい人形を発それは、精神的発作の徴候だろうか ? 抑 、ており、語り口は、凡人が六本の手を持つ見する。理性喪失の共犯に似た感じ、奇妙欝状態にあ「たためだろうか ? それとも で、どっちつかずの感じである。こうし 心理的圧迫の徴候なのだろうか ? 主人公 、シバ神と剣を合せるような激しい口論にも て、論争は、新しい、より広範で危険な舞 自身が自分の忌しい精神状態について語っ 、似ている 台へ移っていく。 ている。 、見たところ、普通の人間の論理の方が勝 ロジック 先生の精神世界は、われわれに近いもの しかし、他のやりかたも出来たはすであ 、っているようにみえる。論理が、ゲームのであり、よく理解できる。しかし、『火星 る。先生は、平凡な人間の衣服をまとった 、相手の間違いを見つけ出し、激しい一撃で人』の攻撃の巧みさと激しさは読者をとま 信じ難い者と顔を会わさないですますこと ワリアント 一相手の武器をうちくだくが、その一撃はい どわせる。ここには、カミュが、『異邦人』 も出来たのだ。最後に、第三目の見方があ 、つもわずかだが遅れる。だから読者は、ラ の中で強調したあの不可解さと混濁があ る。それは、先生が話していることは、な 、ジオ番組「こんにちは火星人ーの作者より る にもかも、まったくのたわごとであるか、 、ほんの一瞬だが早く一撃を加えることに成 また、ナタリ・ サロットの『黄金の実』 一功する。しかし、読者と番組の作者はいっ の匿名の主人公の口論の裏に潜む、直観的あるいは、極めて陳腐な話を、病的に歪曲 した絵であると考えることである。しか 、も同時に勝利を祝うようになっている。こ に推測できる不自然さが感じられる。 し、さらに異った意見を述べることもでき 、れは人間の論理の勝利であるが、奇妙で、 9 多くの手を持っ神と人間との決闘に、小 る。それは、われわれがこの告白で読んだ 説の本質を帰着させるなどということは、 、あいまいな、なにか具合の悪いシチ = 工 ことはすべて、われわれには理解しがたい 一ションから出た結論である。そして、その許し難い単純化であるとの謗りを免れない