話 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1969年11月号
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1. SFマガジン 1969年11月号

た。「わたしのやり方だと、電流の強弱は存在するイオンの性質いは、休養をとることも仕事の一部にふくまれていた。エジプトでお かんによっていて、外部からそれに供給される力には関係がない。 そろしく骨の折れる仕事をしてきたあとだし、その体内にはおそら 6 わたしは電流に力を送り込むということはしない。電流はそれ自身く熱帯産の病菌の二種類や三種類は取り込んできていたはずで、そ で力を生み出していくんだ」 いつを駆除してしまうというのも悪い考えではなかったろう。彼は 彼はそれから加湿溶液を調合して、粘土が徐々に水分を帯びるよ一つ二つ、講演を行ない、ある雑誌に小文を書き、博物館のスタッ うにした。そして発振器のスイッチを入れ、手の埃を払った。 フから求められれば、いつでも諮問に応じられるように待機してい た。けれどもなるべくは、休養するように心がけていた。 「さてと、これであとは待つばかりだ。もう一杯、どうだね ? 」 サム・トッドは、会ってみると、気ごころが合って、いい友だち 「いいや、けっこう」ディックは言った。「それよりあの水銀のこ とだが、きみは何をいおうとしたんだい ? ニューヨークでそんなになれそうな相手だった。その宿願もほとんど達成されようとして 話を聞くというのはおかしなことだ。アレクサンドリ アの一件にしおり、今や彼は依頼人たちにかなりの知識を提供し得るひとかどの ても、土地の住民は信じたかもしれないが、・ ほくは信じなかった。顧問犯罪学者になりかけていた。水銀の溜りを残して何かが消減 ましてそいつを、 いくら似ているからといって、大昔のパビルス文し、窃盗が行なわれる事件に関して彼はじつに魅惑的な資料をそろ えていた。そのリストは七十五年以上も過去にまでさかの・ほるもの 書にあったほら話と結びつけるのは、 いかにもばかげているよ ! 」 とれもみな、まったくあり得そうにない話だったので、活 「本気で言ったわけじゃない」モールトビイは言った。「きみは女だった。。 の子が消えて水銀が出現した話と、忘れられた王様が消えて水銀が字になったということはめったになく、またおなじ話がたがいに他 出現した話をもちだした。それで、わたしもサム・トッドが聞かせのそれを聞いたはずのない人間たちによって語られているケースが てくれた話を思い出したって次第さ。まだ一ト月ほどにしかならなすくなくとも十二件はあったにもかかわらず、ことさらに注目され いが、ある香水工場で金庫を開けると、一オンス何百ドルもする芳るということもなかった。ある有名な種馬の姿が見えないので馬丁 香油の壜がぜんぶ消えていて、そのあとに水銀が小さな溜りを無数の一人がその厩を覗いてみると、床のほうへったい落ちている水銀 につくっていたというんだ。妙な話だろう。それで、ちょっと言っの小さな溜りが四つ、あった。その馬はいなくなっていた。床の てみたのさ。それだけのことだ」 きわらのそこここに、ほかにも点々と水銀の小滴が落ちていたが、 「そのサム・トッドとかいう人物とぜひ話してみたい」ディックはそれらもやがて消えてなくなった。あとでその厩を探査したときに 言った。「ばからしい話にむきになるのはいやだが、しかしあまりは、水銀は一滴も認められなかった。古い家柄を誇るデルモニコ家 にも不思議な暗合だからーーー」 で、貴重このうえないワインが盗まれた。水銀が円や楕円の溜りを 残して消えていたが、その水銀もしばらくすると消えた。水銀はた ディック・・フレアは仕事にとりかかった。ただしさしあたってった一人の男しか見ていなかった。名もないダンサーでーーー才能も

2. SFマガジン 1969年11月号

もちろん皆さんがたはこの話を信じるだろう。誰しもが信じるこを傾けたりといった、雑然としてどうという目的もない集まりの一 とだろう。おかしなことは、それが嘘になり得るということなのだつであった。 私は専ら耳を傾けている方だった。眼鏡をかけた真面目そうな青 そこのところをもっとはっきりさせてみよう・ーーっいこの間、私年がプルーストについて、知性的でもなくはなく論ずるのを聞き、 が文学愛好家と批評家の集いなるものにたまたま居合わせた時のこぶつきら棒な紳士がフォークナーについて無難で健全な批評をする とである。それは、例の、人々が飲物片手にぐるぐる歩きまわり、 のを聞いた。 小さな群になって話をしたり、さもなければ誰かが話をするのに耳誰も反対しなかったし、誰も議論をしようとしなかった。「しか し などという声さえ出なかった。 議論が時の流行だったころが、思い出されると いうものだ。 しばらくたってとうとうこらえきれずに私は切 り出した。 「ああいう駄作家連中についてお好きなことを述 べられるのは結構でありますが、誰もウルフの足 元には及びませんな」私は断固として宣言してた のだった。 トーマスですか」誰かが聞いた。ーーー私に異 議をとなえようとしたようすはなく、ただ真面目 に熱心に知りたいと思っているらしいのである。 、え、ハウリングですーあからさまな、皮肉 をこめて私は答えた。「ノース・ウッズの天才不 減の偉大なる作家、ハウリング・ウルフ ( 遠吠え する狼 ) をあなたは聞いたことがないとおっしゃ るんですか ? 人間の魂をその深さ、広さそして 角連動量において把握した、あの作家をご存じな い ? それなら誰が一体、個人製の絵筆でもって GRANDMA'S LIE SO 君戸 お ( まあちゃんの 嘘っき石鹸 ロ′ヾート、、ア / ヾーナシイ 訳 = 三田村裕 画 = 中島靖侃 9

3. SFマガジン 1969年11月号

ルトビイは言った。「わたしにはまた、電解質中に形成された気体 になって消えちまったというんだがね。女中どものけたたましい悲 鳴を聞いて親父さんがどうしたかというと、その場にぶつ倒れて悲の膜が、なにやらそんなふうにみえた経験もある : : : が、とりあえ 嘆に暮れるばかりで、やがてはかなくなっちまったという話だ。こず、ぎみのその粘土の塊りを検査する装置の組み立てにとりかかる としよう」 の出来事は新聞ダネになったが、アレクサンドリアの古老たちは別 に驚いた顔もしなかった。こんなことは始終起るし、時間の発生以彼は実験用の器具類を取り出した。建築物の腐蝕部を修復する独 来、しばしばあったことだと言うんだな。おかしいのは、その水銀特の方法と、そのための特殊な装備を彼は考え出していた。それは 実験室規模のものにすぎなかったが、いま粘土の試験には充分に間 云々の一件でーー」 そこではっとした面持になり、彼はロをつぐんだ。モールトビイに合った。プラスチック製の箱が一個あって、その両側に電極が付 いている。その箱に彼は古代の遺物を詰め込み、それでもなお空い が言った。「例のキプロスの王様のことだろう、さっき話に出た ? 」 ている隙ぎ間をさらに粘土を詰めてびったりと充たした。高周波の 「そ、そうなんだ」ディックは急に虚ろな表情になって言った。 「今の今まで、そこの関連に思い到らなかったよ。妙じゃないか発振器が活動を開始した。 え ? 」 「この物質には陰極としてつかえる金属はぜん・せん含まれていな モールトビイは慎重な口振りで言った。「わたしの知人に一人、 い」モールトビイは意見を述べた。「が、それはそれでかまわない。 犯罪学に打ち込んでいる男がいる。おそろしく変わったやつでね。 わたしはこの粘土塊のまん中に定常波を発生させるつもりだ。する 世界中の金をひとり占めしてるような大金持だが、顧問資格の犯罪と、そのまん中と外側の表面との間に、恒常的な電位差が生じる。 学者として身を立てようと、まるでビーヴァーみたいにあくせく働、粘土が湿り気を帯びると、あらゆる方向からその中心部に向かうメ いている。そいつがよくする話なんだが、いろいろと集めた記録のツキ用電流の間断のない流れが起る。やがて金属分子の一部が遊離 中にどうしても理解できないのがあるというんだ。ほかならぬこのしてくるだろう。その数は、おそらく五、六個だ。もしかすると、 ニューヨークのドまん中で、ものがひと溜りの水銀になって消えた電位の中心が一ダースぐらい得られるかもしれないがーー・いずれに という記録がいくつもあるらしいんだね。・ とうにもわけのわからんしても酸化物の密度の特に高いところには、かならず金属が析出す るはずだ。そうすれば、何が起るかは判明する。たぶん、すばらし 話で、だれ一人信じようとする者がいないんだそうだ。このさい い成果が得られるとは思うが、それまでにちょっとばかり時間がか そのキ。フロスの王様のことを話してやる必要があるようだな」 かるだろうな」 ディックは目をしばたたいた。 「いくらなんでも、そりゃあ気ちがいじみている ! 中東じゃ、水「博物館では、六カ月ぐらいと見込んでいるよ」ディックは言っ 銀ってやつは、とにかく摩訶不思議な物質と考えられていてーー」た。 「わたしは二週間と踏んでいる」モールトビイはそっけなく言っ 「自動車道路の蜃気楼でさえ、水銀にみえることがあってね」モ 1 7

4. SFマガジン 1969年11月号

しまった。それがすむと彼らは赤ひげの男のまわりにあつまってき糧の生産と薪拾いをやらされたりするんだ。命令は槍で武装した男 たちがあたえる。ルークどもはその命令が奴隷たちの手で滞りなく て、どこまでも事務的な仕方で彼を追い立てはじめた。 赤ひげの男はケモノたちに取り巻かれて、何マイルもの距離を遂行されるのを見張る役だ。食糧と燃料の一部は、確保し、使用す 引き立てられていった。槍をたずさえた男は、一緒に歩きながら、 ることが奴隷たちにも許されている。だがその大部分は川岸へ持っ 終始一貫それを無視しつづけていた。途中でいちど赤ひげは恐怖とていかれ、鎖につながれた男たちの漕ぐ船に積まれて、どこかよそ へなへなと地面に崩折れかけた。ケダへ運ばれていく。奴隷たちは住居の小屋にあっても、つねにルーク 不安から足が動かなくなり、 モノたちはしかし、牙をむきだして彼を追い立てた。 どもから監視されている。何かの仕事に派遣されるときは、ディッ ようやく着いたところは奴隷置場だった。お粗末きわまる丸太小クの見た赤ひげともう一人の男の場合同様、かならずルークの一匹 屋が一軒、柵に囲まれて立っていた。赤ひげはその中に追い込まれが付添っていく。そしてその四つ足の監視者に奴隷たちは絶対服従 とこかしなければならないのだ。槍を持った男は奴隷たちの主人ではなか た。そこにはほかにも、大勢の人間たちが収容されていた。。 ら見ても本質的には家畜小屋に変わりない建物の、わらを敷いた床った。単なる監視者なのだった。主人はーーあるいは主人たちと複 川の向こう側の宮 の上に男と女が雑居して暮しているのだ。つまりは自分たちが家畜数で呼ぶのか、そこのところはわからないが なのだと彼らは赤ひげに語った。もとの身分をただせば、ありとあ殿に住んでいる。宮殿について奴隷たちが知っているのは、彼らと ともに働くべく送られてきた奴隷の一人から聞いたことだけだっ らゆる種類の職業についていた人間たちだった。それがみんなおな た。その奴隷は鎖につながれた男たちの漕ぐ舟の一隻で川を渡って じ経験をしてきているのであるーーー檻罠に落ち込み、ルークどもに 裸にむかれたうえで、生捕られた野獣かなんそのように、この奴隷奴隷小屋に連れてこられると、わなわな震えながら、自分の体験を 小屋に追い立てられてきて、以後ずっと馬車ウマなみの取り扱いを語った。その話はけっして愉快なものではなかった。そして何日か すると、その奴隷はルークどもに餌としてあたえられてしまった。 受けているという話だった。 ディックはそこでロをはさみ、ナンシイがその奴隷小屋に連れて ここまで話がすすんだとき、マンハッタン島の巨大な木々の繁み こられていたかどうかを鋭い口調で訊きただした。赤ひげは、絶対の向こうに日が落ちはじめた。夕暮が迫っていた。赤ひげは手綱を にそのようなことはないと答えた。三日どころか、もうずいぶんひ 引いて、馬に速度を落とさせた。 さしく、その小屋に新しい奴隷が連れてこられた事実はないという「ここだ」彼はいまいましげに言った。「ここでおりるとしし のだった。 れは奴隷だからね。人間なみに暮せる世界へ戻るってわけにやいか われわれがこんな憂き目を見るのは手があるせいなんだと、赤ひないんだ。おれはこのまま行って、おれ流に作って話をするとしょ う。こんなふうにいうんだ、おれのルークが待ってるように命じて げはつづけた。なまじ手なんそもっているものだから、毎日ルーク どもに追いたてられ、馬の手綱をあやつったり、畠を耕したり、食行っちまったんで、おれは命令どおり待っていた。だがそのうち 円 6

5. SFマガジン 1969年11月号

あいだに、多少のことはわかった。彼らは原子力も持ち、無線も持と木星人のあいだで発達していった信号を、構成したり、解釈した っている。それも、高圧下のアンモニアの世界でーー・・言いかれば、 りすることに協力した。だから、これからする話は決して受け売り じゃよ、。 ほとんどの金属が、可溶性のアンモニア錯塩を作る傾向のため、 っときも金属として存在できない世界でーーそれだけの高度な文明「あれは、とんでもなく骨の折れる仕事だった。初歩の算術的な信 を築き上げたのだ。そのことは、彼らが。フラスチックやガラスや珪号を理解できるようになるにさえ、五年もかかった。三たす四は 酸塩、その他の合成構造材を発達させねばならなかったことを意味七。二十五の平方根は五。六の階乗は七百二十。そこまできても、 する。そこから見ても、彼らの化学がわれわれのそれに劣らぬ段階その後の交信からたった一つの新しい思考断片を拾い出し、チェッ に達しているのは明らかだ。いや、わたしとしては、彼らがそれ以クをすませるのに、ときには数カ月かかることもあった。 上の段階にあると賭けたい」 「しかしーーーそしてここが重要なんだがーーー木星人が交信を打ち切 オーロフは、答えるまでに長い間を置いた。それから、「しか ったあの時点では、われわれは彼らのメッセージを完全に理解でき し、木星人の最後のメッセージなるものに、どの程度の信頼性がおるまでになっていた。われわれの解釈が誤っている確率は、ガニメ けるのだね ? 地球のわたしたちには、木星人があなたがたのいうデが木星の引力から解放される確率よりも少ないぐらいだ。しか も、彼らの最後のメッセージは、脅迫と破壊の通告だった。そうと ほどむやみに好戦的だとは、とうてい信じられないのだが」 も、疑いはないーーー疑いの余地はない ! 」 ガニメデ人は短い笑い声を立てた。「彼らはあの最後のメッセー ジのあと、いっさいの交信を断ってしまった。あれが友好的な態度二人は浅い山峡の道を通りぬけようとしていた。黄ばんだ木星の といえるだろうか ? 請けあっても、 ししが、われわれは彼らとコン光も、ここでは、まとわりつくような闇に席をゆずっている。 タクトしようと、全身を耳にして、きようまできたんだ。 オーロフは混乱した気持だった。この問題をこんなふうに持ち出 し力なる いや、まあ聞いてくれたまえ。そのまえに説明しておきたいことされたのは、はじめてなのだ。「しかし、その理由だよ。、、 がある。わがガニメデでは、この二十五年間、われわれの無電機器理由で、彼らはわれわれに対して にとびこんでくる不規則な断続音ーーー空電でずたずたにされ、重力「理由もへちまもない。単にこれだけのことさ。木星人はわれわれ で歪められたそれーーーの意味を解こうと、小さなグループなりに知のメッセージからーー・どこをどうしてかは知らないがーーっいに、 恵をふりしぼってきた。というのも、その断続音が、木星の知的生われわれが木星人でないことを発見した」 物とわれわれのあいだの唯一のつながりだったからだ。本来なら「わかりきった話だ」 ば、一惑星の科学者が総がかりでやるべき大仕事だが、ここの基地「彼らにとっては、〃わかりきった話″じゃない。彼らには、木星 にはせいぜい二十人あまりの人間しかいなかった。わたしはそもそ人以外の知的生物に遭遇した経験がないのだ。その彼らが、外空間 もの始まりからそのグループに加わり、言語学者として、われわれに生物のいる可能性を、おいそれと認めるだろうか ? 、

6. SFマガジン 1969年11月号

しを科の顔に浮かんだ皮 く、ティカを介科 新しい恋人に何かを感づかせる 肉な微笑上い 、田愴畴にをきかなくな 0 た。 のに十分に のでもなかった。倉科とティナとは嘗って知り合い 恋人同士として暮し、そして別れた。ただ何となく、おたがいが 好意 鼻につぎし灣からだった。月ならばどこに行ってもあるーーーそれこそ月並みな話にすぎ なかった。せまい月世界の限られた月市民社会のなかだから、別れた女と別れた男が、し ばしば、、あちこちで顔を合わすことは避けられなかった。嘗ての自分の女が友人の女にな るこもあ力、この間までの自分の男が、いまの男の別れた女の恋人になることだって、 稀でない 3 、地球的な結婚生活に執着している小数の例外をのそけば、それが月植民地の 俗 、つ ( いのだから、いまさらそれが気にくわないといわれても、どうしようもな いこと・ それ 、が前ま倉科を、心底にくんだ。 倉科は テ→第第いしたわけではない。 もちろ ・のとねんごろにな 0 たとい 0 て嘲笑 0 たわけでもない。ただ、ティ ナが、新を翁第再び生気をとりもどし、むかし彼が知 0 ていたのと似た反応 をしめしたの五せ第のいあば可愛げのあるくり返しが、ふ 0 とおかしくな 0 ただけの話 だ。憎まれてに謎マ中田の態度は非常識だ 0 た。月生活にまだ馴れないから、む って聞かすべきだった。個人的な感情の齟 オをま , 、生そならテ→ナが、い 齬を、仕事のなカ、ぢこむのは、中田もわるいがティナもよくない。中田の憎しみ しみもこめられている。そう思うと胸くそが悪かった。たま 冫冫明らかこ も . 中田といっしょに行かなければならなくなったとき、中田以上 たま、今度の 1 故に原因があるとするなら、それが唯一の原因をつくったのだ。 もちを をは決して口をきかなかったし、互いの行動に必要以上の注意をす そうすれば、かならず感情の激発を招くおそれがあったからだ。そ 一 = ケーションの断絶の谷間に、万が一の事故がしのびこんだのだ。だ 一 , の間にこうした心理的葛藤がなかったならば、あるいは事故は未然に防げ ・謇 ~ 物ま 13. 、 . -- をレニ ド・ - ト

7. SFマガジン 1969年11月号

共同使用人に加工したのだ。 はカワードのせいでもあるのではないか ? チロンが忘れていたも ほんのさっきまでクエンスは、チロンが無事で帰ってくることをのを揺りさまし、あからさまにテキュニットに反抗するようになっ ひそかに夢見ていた。 たのは : : : そして共同使用人などにされたのは : : : カワードがあん でも、もうその可能性はない。ここにいるのがチロンなのだ。こな風にふたりとかかわりを持っことを強いた、その結果ではなかっ の白痴がチロンなのである。 たのか ? 白痴にされて、それでもチロンは、わずかに残っていた記憶にみ カワードにこのことを認めさせなければならない。カワードに、 ちびかれ、本能的にあの公園に来たのであろう。いつも来ていたとこの責任をとって何とかさせなければならない。 ころにすわっていたのであろう。そのことを思うと、クエンスの頭クエンスは、いやがるチロンの手を引いて、エレベータ 1 に乗っ の中には怒りがどっと燃えあがって来た。 十 3 レ・ヘルにも、人々はむらがづていた。クエンスのレベルより どうすればいい ? 自分はこのチロンに何をしてやれるというの も多いくらいで、かれらは、クエンスと、クエンスにひきずられる 共同使用人を見て、好奇に満ちた顔を向けるのだった。 テキュニットに訴えて、もとの身体に戻して貰うか ? そんなことは、あり得なかった。テキュニット。 : カ反逆的性向を カワ 1 ドの個室の前まで来たとき、クエンスは、部屋のあるじ 見せた者にこういう処分をするのなら、クエンスもまた、チロンと が、荷物を載せた車を共同使用人に押させて出てくるのを認めた。 同じ運命をたどるのは確実だった。それではチロンは救われないの 「カワードー・ クエンスは敬称抜きで呼ばわった。「カワード、話がある」 いやーーーテキュニットには、何を求めても無意味なのではない 「これは、クエンス」 カワードは、ちょっと足をとめた。「ちょうどよかった。・ほくは もはやクエンスは、テキュニットの何をも信じてはいなかった。 これからテキュニットをおさらばして、地球へ帰るところでね。挨 テキュニットに何ができる ? できっこないのだ。やりはしないの拶ができるとは思わなかったよ。それじゃいずれ・ーー・」 だ。テキュニットは : : : そう、クエンスが考えていた共同体などで歩み去ろうとするカワードの服の袖を、クエンスはあいたほうの はないのだ。 手でつかんだ。 とはいえ、テキュニットに生れ、テキュニットに育ったクエンス「待ってくれ」 が、そのテキ一ユニットを否定したとき、何の方法が残る。 「急ぐんだ、クエンス」 カワ 1 ド・こー 「話を聞いてほしい。 それにーーー頼みたいこともあるんだ」 クエンスは、かっと目を剥いた。もともとこんなことになったの 「悪いんだが、ぼくは今、大切な用をかかえている」 0 、」 0 こ 0 7 9

8. SFマガジン 1969年11月号

ハル・クレメントが『重力の使命』を執筆したとき、その舞台と なる惑星メスクリンの環境をどんな風にして設定したか、彼はその くわしいいきさつを〈アスタウンディング〉の一九五三年六月号に 「 HIRLING WORLD という題で発表しているが、これは、ハ ドファンが随喜の涙を流すほどのものである ( ハヤカワ 『重力の使命』のうしろに載っている ) 。 これを読むと、よし俺も一丁ーー・てな気になるから不思議なもの である。これは、その種のを書こうとする人達にとってきわめ ら、箱の入口についている光電管に入る光の断続を見て、およそのて貴重な参考書だといってよい。 ICE WORLD の場合、 ハル・クレメントのこの姿勢は表面にあ ことを推測する他にないのが玉にきず。 ところが、地球の住民が入れたいろいろなものの中に彼等は大変らわれていないけれども、随所にその萠芽みたいなものが感じられ る。おそらく、この作品を書いているうちに、次作『重力の使命』 に貴重なものを発見したのである。 の発想を得たのではあるまいか。 こういっこ、 ードな作品のイラストにとってまず要求されるのは さきに話をぶちまけてしまうと、たぶんもうすでにお気付きのこ ととおもうが、このサアル人達が麻薬としてひそかに利用しはじめ緻密なタッチだとおもうのだが、この当時、その要求に堪え得る画 家といえば他にはカーティアぐらいしかいなし たのは地球人の常用する紙巻タ。ハクだったのである。 しかし、カーティアのタッチは緻蜜だが、どこか素っと・ほけたム サアル人が箱の中に入れておいたいろいろな石ころの中から、白 ードな感じがない。だからどう考えてみ ートがあって、ぜんぜんハ 金の塊らしいものだけをとり、その代りにポケットのなかに入って いるいろんなものをつっ込んだのがそのウイングという男であっても、ヴァン・ドンゲン以外、この種の作品をこなせる人は見当ら ないのである。 もうすこしヴァン・ドンゲンの作品を追っかけてみよう。 三〇年も昔、彼が学校を出たての頃の話である。それ以来、白金 やイリジウムと交換にタ・ハコを輸出 ( ? ) する取引きが毎年ずっと つづいているというわけである。 ケンはそんな、靴をへだてて : : : みたいなコミニュケーションを なんとかもっと効果的なものにしようと試み、更にその地球という 寒い寒い惑星の状況をくわしくつかもうと努力する結果、ついに自 ら耐寒服をつけて地球へのり込み、ウイング一家と対面することに なる : SF マガジン用の美麗・堅牢な特製フ ァイルです . 簡単な操作で 6 冊ずつの スマートな合本にすることができます 価 150 円送料 55 円 、 0 759

9. SFマガジン 1969年11月号

は、地球で考えられないほどの設備と労力が必要であるか、そうな いた。 れば、たとえあんな形ででも、テキュニットのために働いてもらう そればかりではない。 、刀、を子ー . し という説明を聞けば、それが嘘であろうと本当であ まさかと思っていたにもかかわらず、カワ 1 ドたちは、テキュニ ろうと、そういうものだと納得するのが礼儀というものだ。 ット内部を、いつでもどこへでも行っていいといわれたのである。 ・ほんやりそんな思いを追っていたカワードは、そのとき、人が近 もちろん、一 5 レベルから十レベルまであるテキュニットの、し かも廊下や公共設備だらけの全フロアーを、くまなく歩きまわるとづいてくる気配を感じて、顔をあげた。 一組の男女が、あいたガーデンセットを探しながら、歩いてくる いうのは狂気の沙汰だが、気分の上では束縛された感じがなくなっ ところだった。あいにくどこもふさがっていると見えて、小声で話 たのも事実だった。 こうした措置も、ショウヤにいわせれば、われわれのテキ = ニッしあいながら、カワ 1 ドの前を通り過ぎようとする。 トに対する疑惑を巧妙にそらす手段だということになるのだが、も男のほうは、これといった特徴のない、テキュニットでなら、ど ートはどこかカワードには うカワードは、そんな話を本気で聞くつもりはなくなっていた。 こにでも見られるタイプだった。所属バ たしかに、テキュニットそのものには、あまり賛成できないよう判らないが、一般技術者の、しかし上層の制服を着ている。まるで な事柄も多い。たとえば階層秩序というか、ランキングが徹底して制服のために生れて来たのかと思うぐらい、よく似合っていた。 いることは驚くばかりで、それが生活水準や服装や行動様式までを女はーーカワ 1 ドは目をみはった。男よりも背が高く、すらりと 規定しているにもかかわらず、テキュニットの成員たちが、定めをしていて、肌は抜けるように白いのだ。つれの男の被護登録者の服 後生大事に守っていることなど、カワ 1 ドには鼻持ちならなかつをまとっているが、ちっとも板についていない。こんな女には、テ た。 キュニットの制服ではなく、地球の上流婦人の豪華なドレスを着せ がーー・フレーンとして、上級技術者グル 1 。フなみの特権を与えらるべきなのだ。 れているカワ 1 ドたちにとって、これは必ずしも不都合というわけ「ここへ来ませんか」カワードは、思わず地球での習慣を出して、 ではない。 声をかけた。 いいではないか。 ふたりは、あり得ないことがおこったかのようにはっと顔をあ 要するにカワードたちは、ここへ契約を結んで招かれているのでげ、カワードが外部プレーン ( それは、上級技術者集団の一員とし ある。ここの人々がどうであろうと、そんなことに心を労する義務て待遇されている ) の制服を着用しているのを見て、棒立ちになっ はないのだ。はじめて見たときはぎよっとしたあの共同使用人だっ にわかに、カワードは、好奇心が湧きあがるのをお・ほえた。そう 3 て、テキュニットとしてはどんな白痴や狂人でもその生命を保証し なければならず、しかも、火星で人間ひとりを生存させるために いえば彼は、まだここの人々と、純粋に私的な会話をかわしたこと

10. SFマガジン 1969年11月号

まことに残念な気がするのである。本編の方はあきらかにそんな線 引用してみよう。 The first novel in ov 讐 half a 第 a 「 brings, Hal Clement telling でーーーといっても最初の十ページ位までだがーー・ーちゃんと進んでい るのだから、編集者側の責任ということだろうか ? とにかく始め Of an intersteller narcotics agent and a world Of terribl% unap- : ou earth 一 のところを紹介してみよう。 サルマン・ケンは、自分がレード proachable cold : の頼みを承諾してしまったことが賢明だったという自信をどうして 念のために訳をつけておくと、 ( ル・クレメントがはじめて世に問う長編 ( 『二〇も持っことができなかった。自分が警察官でないことはよくわかっ 「構想半年 ! ている。冒険がとくに好きというわけではない もちろん彼は、自 億 : : : 』は中編とみなくてのことだろう ) は、星間麻薬取締官と、 分が少々位の苦難になら平気で堪え得る人間だと信じてはきたが、 何人をも寄せつけようとはしない酷寒の惑星ーーわが地球のものが それでも、今、カレラの舷窓から見える光景はそんな自信を揺がせ たり ! 」てなところか。 残念なのは、ここでもってもう話のケツが割れてしまっているこすにはおかないのである。 レードが公正だったことは認めなければならない。 この麻薬取締 とである。惑星サアルの人間にとってとても信じられぬほど低い 温度の惑星とはいったいどこなのかという興味が、読み進んで行く官の元締が自分の知っていることのすべてをぶちまけてくれたこと よ は明らかである。それだから、ケンは、想像力を十分に働かせさえ うちに、ーーーその寒さときたら硫黄が固体になっているほどだ どという表現にオンヤとおもい、その矮星の一番内側にある自転しすれば、こんな破目になることがあらかじめ予測できたはずなの ていない惑星の太陽側に前進基地を置いて辛うじて暖をとり、三番だ。 「今のところ大した影響はない」とあのときレードは言った。「商 ううわけなの 目の惑星ヘーーとまで読んできて、あれまア、そ とにやりとする : : : みたいな話の段取りが、さっさと前説で人どもがそれをーーほんのちょいと嗅ぐだけのそいつをなんと呼ん でいるのかさえわかっていなし 、。ほんのここ数年のことだ。それが プチこわされてしまっているのはどういうつもりだか知らない・、、 始めてあらわれたときには我々も大い に警戒したのだが、大したことにもな らないようなのでみんなすぐに忘れて しまった」 「なにがそんなに危険なのですか」あ のときケンはそう聞いたのだった。 「もちろん、習慣性のある薬はすべて 危険だーーー・君がもしそんなことを知ら なけりや学校の科学の教師はっとまら んだろう。しかしこの物質の特に危険 な点は、それがガス体の中に含まれて 0 3 5