声 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1969年12月号
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1. SFマガジン 1969年12月号

るロー。フを槍の鋭い刃で断ち切った。彼は自由を得て埠頭を離れかれるってわけさ ! 」 けるポートの舳にとび下りた。鎖につながれた男たち十二名は、身船首ちかくにいる男が呪詛の言葉を洩らした。船はしかし、漕ぎ 5 じろぎ一つしなかった。恐ろしさのあまり身体が麻痺してしまったつづけられた。やがて別の一人が、驚嘆のひびきを帯びた声で言っ こ 0 のか、ただじっと彼をみつめているばかりだった。 「漕ぐんだ、ばか ! 」ディックはどなった。「はやく、ここを離れ「この男はルークを殺したんだぜ ! 」 るんだー ディックは鋭く言った。 ちかくで、ばしゃんと水のはねる音がした。ルークの一匹が低く「これからも、もっと殺すそ ! 」彼は監督の。ヒストルをかざして見 唸りながら、盲減法に泳してした。・ : 、 - ティックは冷酷無惨にそれを殺せた。「。ヒストルを一丁、余分に持っていゑほしい者はいない した。そして漕ぎ手たちのほうを振り向き、もういちど彼らを叱咜か」 しようと口を開きかけた。だがそのとき突然、オールがいっせいに ふたたび、沈黙がおとずれた。ややあって、ささやくように言う 下ろされ、調子を揃えて水を掻きはじめた。 : 十ートは埠頭をはなものがあった。 れ、川中に向って勢いよく進みだしていた。ディックは十二の視線「そいつがあれば、ルークどもを殺せるな」 がじっと自分に注がれているのを感じた。それは驚きに大きく見開「監督どもだって殺せる」別の一人が押し殺した声で言った。 かれた十二名の眼の放っ視線たった。 「どんな相手だって殺せるさ」さらに一人が、・ほうっとしたような 「みんな聴け ! ー彼は声をはげまして言った。「ほんものの地球で、 声で言った。「。ヒストルがあれば、やつらを殺すことはできるんだ ある人間がこの世界へはいり込む道と向こうへ帰る方法を発見した んだ。ぼくがここへきたのは、たぶんきみらとおなじように誘拐さ とっぜん、みんなが喋りだした。何かにとりつかれたように、 : れた女の子を探すためだ。ぼくに協力してくれれば、きみらも帰れやがやと喋り立てていた。ディックはどなり声を発して、一同の声 るんだそ ! 」 が高まるのを制した。 漕ぎ手たちは無言だった。ただ機械的に漕ぎつづけた。彼らは生「みんな、黙れ ! 」とたんに静寂が返った。ディックの一喝に恐れ きた自動人形なのだった。日 丿岸の埠頭にちかいあたりは、ル 1 クどをなして、全員がほとんど人間並みに扱われていないふだんの自分 もの唸り声や吠え声で騒然としていた。やがてなかの一匹が一同をたちに逆戻りしてしまったのだ。漕ぎ方もふたたび、規則ただしい 黙らせたとみて、夜のしじまを遠くから、高く鋭い叫び声が水面を調子を取り戻した。 わたって聞えてきた。 「三日前にニ = ーヨークから女の子が一人、消えたんだ」ディック そのとき、漕ぎ手の一人がぼんやりした声で言った。 は嗄れ声で言った。「ここへくるまでに、ぼくは奴隷小屋を一つ調べ 「連中に告げているんだ。おれたちもいよいよルークどもの餌にさたが、そこにはいなかった。彼女はどこへ連れていかれたんだ ? 」

2. SFマガジン 1969年12月号

かった。五十ャード、二十五ャードと距離が詰まった。相手船の舵「抵抗を止めろ ! オールを逆に漕いで船を後進させるんだ ! さ 手はふたたび呼びかけてきた。どこまでも針路を変えずに直進するもないと沈めるそ ! 」 ディックがわの尊大さに、よほどえらい人物の乗った船とでも思い 捕獲された船は完全に停止し、その中で鎖につながれた漕ぎ手た ちがえたか、今度はばかにヘり下だった感じの声だった。そして相ちが恐ろしさに震えていた。 手船が道をゆずろうとするのを見ると、ディックは厳しい形相で舵 もちろん、ナンシイは乗っていなかった。だれ一人、ナンシイの 柄をまわし、なおも真正面から迫っていって、衝突は必至の形勢とことは聞いてもいなかった。 なった。彼は声を殺すようにして言った。 ディックはこうなる可能性は考えないようにしていたのだが、そ 「しつかり漕げ ! 」 うはいっても無理だった。マンハッタン島には、奴隷小屋は二つあ 相手船の舵手は動揺しながらも、はげしい口調で命令を発した。 ったが、ナンシイはそのどちらにも連れていかれてはいなかった。 けだもののロを洩れる騒々しい声が聞えてきた。それは吠え声でもまた、・フルックリン海岸の支配種族の宮殿へも、現在捕獲されてい 唸り声でもなく、その中間の、何か意味をもった話し声のようだ「る二隻のカッタ 1 でははこばれていなかった。残る可能性の中、 た。相手船のル , ・クどもはこちらにも仲間のケダモノが乗っているちばん考えられるのは、負傷して動けずにいるところをルークども ものと思い込み、それに向かって呼びかけてきているのだった。 に貪り食われてしまったのではないかということで、ディックはそ やがて恐慌にとりつかれた相手の舵手はきっと船首をまわしてかれを思っただけでかっと頭に血がのぼり、人間らしいものの考え方 らくも正面衝突を避けた。ディックはとっさに進路をそらせ、相手ができなくなってしまうのだった。 船の船尾ちかくに、どしんとばかり船を横づけにした。ロー・フを着この〈向こう側の世界〉の奴隷たちが彼女の消息をなにも知らな た男が舵柄にとりつき、ルークが二匹、危うく姿勢を立て直して跳し冫 、のま事実だった。それをはっきりと知る道はただ一つ 躍のかまえにはいるのをディックは見た。だがそのルークどもの、 二つだけしかない。監督の一人を生け捕りにできれば、そいつを問 ディックや乗組員をみつめる目には、不安の色があった。 い詰めることにより、ナンシイの運命を知ることができるかもしれ ない。しかしそれも、そいつが知っていればの話であって、もしだ ディックは彼自身の船の後部が相手船の舷側をぎりつとこすった その瞬間、二発、つづけざまに直射を浴びせた。けたたましい悲鳴めなら、あとはもう宮殿そのものに忍び入るしかないのだが と唸り声が同時に起った。男の一人が。ヒストルのホルスターをつか今はしかし、彼には命令どおりに動かすことのできる二十四名の んで立ち上がる。負傷したルークがすでにディックの船の中部甲板男たちがあった。この男たちの運命は、もちろん決まっていた。監 に乗り移ってきていて、そこでは激しい戦闘がはじまっていた。ふ督や奴隷が殺されるのを目撃した奴隷は生かしておいてもらえるわ たたび、ディックが発砲し、ことはそれで済んだ。 けがなかった。なぜなら、もし彼がそのことを喋れば、ほかの奴隷 彼は相手船の乗組員らに、鋭い声で呼びかけた。 たちのあいだに反乱への希望が芽生えかねないからだ。同様にま っ 4 5

3. SFマガジン 1969年12月号

ては起き、起きてはまた倒れながら、よろめき歩く仲間たちのおそ彼はなおも諫止しようとするわれとわが心を、ねじ伏せ、とりび ましい姿を、ちらりとかいま見たような気がした。その痩せさらばしいで、声のほうをふりかえった。視力を失ったはずの両の眼を開 いて見た。そして、やはり幻覚に過ぎない、と思った。ばかばかし え、すすけ、黒ずんだ無惨な姿は、すでに人間というよりは焼けて 半ば木炭化した焼死体が、なおも執念の塊りと化し、まぼろしの幽いまぼろしでしかない、と思った。 鬼となって蠢いている姿とも見えた。その証拠に、まだ、い くら行見えるはずのないものが見えたからである。その方角に火がなか っても、ついにカ尽き果て命絶えて、地上に殪れた骸には行き会わったからである。渦まく黒煙も、波うつ熱気も、悪臭も生きた火の ないのだ : 粉もなかったからである : : : そのかわり、みどりの草と、水々しい 葉を生い茂らせたしっとり小暗い木立ちと、そしてその下に、ちい また声が聞こえた。 さくはあれ、浅くはあれ、青いーー何ともいいようなく澄んだ青い 彼はふと、わが耳を疑った。 空をひっそりうっした池があったー その声には、彼の忘れかけていた何かがあった。すくなくともそそれでも、それを幻影だと思うだけの意志の力はあったのだ。業 れは、あの、無限の恨みをこめ、尽きることもない苦痛にうちひしのふかい懐疑心、用心第一、うかと損などしてなるかといういじま がれた、おどろおどろしい亡者の声ではない : : なぜか、耳を傾けしい小泥棒の習癖、何ひとっ失ってはいなかった、にもかかわら ただけで、爽やかさを感じとれるような、この世ならぬ涼しい音ず、彼は幻影そのものを求めた。両の手を、腕の長さ精一杯にのば 色がその声にあったのである。この世には、あり得べからざる音し、ロ開き、鼻孔をおしひろげ、その芳しいみどりの香を、すこ 色が : しでも多く、ひと息でも長く吸いこもうと、グロテスクに喘ぎなが 彼は立ちどまり、耳すまし、その声をもう一度聞こうとした。幻ら、その方向へ突進した。思うように動いてくれぬ萎え脚をのろ い、たけりたっ心にともなわぬまどろこしい体をさげすみ、罵り、 聴であろうことは百も承知で、せめて方向を確かめようとした。 うめき、狂いたちながら、せめて一歩でも近づこうと足掻いた。 ーい。こっちへこい」 その声は、あまりにも明らかに、あまりにもはっきりとそう聞こ足掻けば報いが待っていた。行手はにわかに険しくなり、たちま ち目の前は坑が口を開いて、なかにあふれ返り、渦巻きよじれる猛 、 - とうしようもなく、胸の奥に、 えた。幻聴にしても、凝ってした。・ まだ生き続けていた希望の残滓が、蠢めきはじめるのを感じて、そ火が、舌なめずりして彼を迎えた。避けようとして避けられず、ず んなおのれのみじめさに、なけなしの気力をふりしぼり、彼はそれでんどうと坑の底に落ち、骨の髄まで焼けぬかれる苦痛に最後の意 識も喪われようとするが、ただひとつ、その先にある池への執念、 を、とって抑えようとカんだ。 ーい、はやく来い。池があるそ。つめたい水が飲めるそ。すず辿りつかばやの怨念が再び坑から彼を這い上がらせた。 坑から顔を出すたびに、今にも泉が、今度こそ木立ちがこれ見よ しい木影もほらあるそ ! 」

4. SFマガジン 1969年12月号

ディックはきっと目を向けた。月光を浴びた幅広い川のまん中 ながい沈黙があって、一人の声がロごもりながら言った。 「われわれはそんな女の子なんそ乗せて川を渡ったことはない。ルを、上流からポートが一隻、下だってくる。対岸の海軍造船所があ ークどもと監督たちのほかは、だれも川を渡しちゃいない」 るあたりの村に向かっているようだ。ポートは大きさを確認するこ 「すると、彼女はマン ( ッタン島にいるわけだな」ディックは歯をとは不可能だったが、ウ = ルフ = ア島の真向かいのマンハッタン島 軋らせて言った。「そっちに奴隷小屋は、あといくつぐらいあるんのどこかからきたとしか考えられなかった。そのもう一つの奴隷小 屋からやってきたものにちがいない。今、ナンシイをその村へはこ だ ? 」 んでいくところなのではないか。すくなくとも乗組員たちは彼女の 別の声が重苦しい口調で答えた。 「向こうの温室部落のそばに一つ、ある。上流のほうだ。・フラック身に何が起ったかは知っていると思われる。 ディックを舵柄を大きくまわした。 スウエルの島ーー・ーいや、・フラックウエルズ島らしいところの向こう 「さあ、力いつばい漕いでくれ」と彼は命じた。 がわでね」 この名称の使用ひとつでわかったことだが、この男は地球の双子二隻のポートは両方からしだいに近づいた。相手のポートはコー こちらの連中同 スを変えようとしなかった。その漕ぎ手たちは のようなこの世界で、もうずいぶんながく奴隷をしているのだっ かたくなに感情を押し殺 た。・フラックウエルズの島はとっくの昔に、ウエルフ = ア島と改名様、鎖でつながれているにちがいなく した様子で漕ぎつづけていた。しかし今、ディックのほうの乗組員 されていたからである。 「では、さっそくそっちへ向かうとしよう、ディックは厳しい口調たちには、徐々にだが、気力のよみがえりつつある徴候が見えはじ めた。やがて、一つの声がささやいた。 で言った。 「あのポートを乗っ取ろうというんですかい ? 」 漕ぎ方はつづけられた。奴隷たちの動作はなにか虚ろで、活気が 「そうだ」ディックは答えた。「例の娘について何か情報がっかめ なかった。ディックは舵柄を目にとめて、ポートをまわした。男の ればと思ってね」 一人がおそるおそる言った。 おなじ男の声が血に餓えたように言った。 「その余分のビストルというのをわたしにくれませんか。どうして どうせ、わた も殺してやりたい監督が一人、いるんだ。わたしの娘をルークども「あんたーー・とにかく、その槍をかしてください , しは死んだも同然の人間だが、しかし、ひょっとするとーー」 に投げあたえた野郎なんでね。ピストルを貸してくれませんか」 「ピストルはこれからまだ、いくらでも手にはいる」ディックは言 ディックが黙って槍をわたすと、男はオールを漕ぐ手は休めず った。「まずーー」 に、その槍の柄をつかんだ。 舳ちかくにいる男が泣くような声で言った。 相手のポートは百ャードばかり前方に迫っていた。そのポートか 「ポートがくる : ・・ : ルークどもを乗せているそ : ・・ : 」 らディックの知らない言葉でさけぶ声があった。ディックは答えな 5

5. SFマガジン 1969年12月号

燃えさかり、青に赤に、黄に緑に、また紫にあかね色に、極彩の色 ′ h0 ) s your enemy 「 7 ご The man who— を転回して燃えた。 The man who—what 髪が、衣服が、眉毛が、手が顔が、たちまち焼け、ただれ、焦げ —who killed my dream. るのが感じられた。眼球が、劇痛にえぐりだされそうになり、鼻孔 百目鬼はとっぜん覚った。 と口から、情容赦なく熱気がとびこみ、咽喉を焼き、呼吸ができな これは知っている女ではない。百目鬼の幻想テ 1 プのユーザーのくなりかけた。 一人なのだ。そしてたぶん、ときたまいるといわれている幻想中毒 「 Hey, come on up 一 , 患者だろう。なぜか、警備会社の目をかすめて、百目鬼を訪ね、こ どこからか、だれかの声がした。 こまで入りこんだにちがいなかった。 火に責めさいなまれ、火から逃れようと必死に足掻し百目鬼の耳 この世ならぬ涼しさを に、それは、信じられないほど爽やかな 百目鬼は確かに危険を嗅ぎとった。答えてはならないと思った。持った音色に聞こえた。この世には、ありうべからざる声ーー・・しか だが声が、彼の内奥、意識のよどみの底深くから、答えてしまっ も、どこかで聞いた声 Hey, Come up here Oh, 一 ) お me, ma'am. l'm the man. 彼はかすかに目をあげて、声の方を見た。赤いミニの女が、両脚 会 As I guessed ・ を踏んばって階段のーー・。、はるか、無限に遠い彼方に立っていた。 白人女は、につこり笑った。赤い唇がばっくりひらいた。そし尖 Come on up quickly, here's a fountain, you can drink you て、赤いスカートのうしろに隠していた手をだすと、そこには壜が wantto, ou can get out of fire, there!" にぎられていた。 女が赤い口をあけていった。 You must die 一 And go to hell 百目鬼はそれを信じた。足も手も顔も身体も火にさいなまれ、芥 声とともに壜が飛んだ。 子粒ほども焼かれないところはなかったにもかかわらず、ただやみ 身をかわすと、壜は百目鬼の立ったところから二、三段上の階段くもにそれを信じた。 にあたり、割れ、そして一瞬に、あたりいちめんが火になった。 この階段を上りきれば、そこに泉がなくてもいい、火から逃れら ただ、もしここを逃れることができたら、こい どっと燃えあがる火のなかで、百目鬼は何か喚きながら、階段をれなくてもいし かけあがろうとした。すると白人女が二本めの火焔壜を投げた。火つを幻想テープに、つくらずにはおくものか。 はさらに燃えひろがった。 ただひたすら、それを思ったのである。 あっかった。見えるもの・せんぶが火になっていた。烙は、渦巻き 会お会 こ 0 ー 55

6. SFマガジン 1969年12月号

0 0 物 たらぬ所でね」とコガ氏は残念そう べたんでしよう ? 」 「しつ ! 」チェン氏は、あたりを見すようなゼスチュをした。 むろん ああいう所の監視員は、またまだ一 がききますからね。です薄 - をふむような思い でーーそれだけに、スリルが味つになって ( これがまた チェン氏はひつひっ、という な声で笑い、コガ氏は面 うな顔をした。休 午後の明暗 暇で穴場をあてた人と、はずれ」と・いー・回線の両端で倦まにみちこ がわかれる ク一フ 「ところで : ・・ : 」とチェン氏は、 2 いわくありげに声を る。「今日 ・フにいらっしゃいませんか ? 」 「なにかーーー」コガ氏もついつりこ 、をびを、た。「面白いことがありますか ? 」 「別に : : 」と、チェン氏はかるく片眼をつ せる。「例の奥の小部屋で、四、五 人でブリッジをしようと思いまして : : : 」 レートよど 「プリッジですと ? 」コガ氏は眼をかがやかせた。「ひさしぶりですな。 のくらいです , 「 5 です」とチェン氏はおごそかにいった。 コガ氏は眼をむいた。 「ほう ! それは高い そんな高いのははじめてですな」 「しかし、それだけの値打ちはある、とクラブのマネージャーはっておりすチェン 氏はぶあつい唇をちょっとなめながらいった。「最高のゲームでよ。今日は 「行きます。かならず !. とコガ氏は興奮して叫んだ。「おさそくたすってあり。とう。 じゃ午後一時に : : : 」 ・レト 5 電話を切ると、コガ氏はごくりと唾をのんた。 ひさしぶりプリッジ : ・ : 最高のゲーム : タレリ 「かえるそーと、コガ氏はクレジット・ブックをポケットにいれながポット秘書に声 をかけた。「あとをたのむ : お前もすこし、電子脳を冷やしたらどうだ 社長ーとロポットは抑揚のない声でいった。 クラ・フは閑散として、一種倦怠の空気にみちていたーー居眠りしたり、ポソボソ話し と とはうら 9

7. SFマガジン 1969年12月号

ークを殺せるチンスをつかんだから ! 」 彼は下生えの中に踏み込んでいった。 ディックは弾の詰め直しにかかった。灌木の茂みからは野獣ども 遠い森のどこかで断続的に、おこったかと思うとすぐに止む咆え 、 - のが唸りながら、つぎつぎと躍り出てきた。かれらは怒りに狂って、 声がしているほかは、完全な静けさがあたりを支配してした。川 中ほどの小島の岸にしずしずと何かが踏み出してきたかと思うと、吠え立てた。ディックは言った。 角張った長い翼をひろげ、とっぜんさっと舞い上がって、水の上、 「恐れ、うろたえ ( いるようなふりをしろ。そう、信じ込ませるん ほんの二ャードほどのところを飛びわたっていった。一本の木の梢だー から、ちちちちという、けたたましい小鳥の囀り声が聞えた。船の漕ぎ手たちはわざと不器用にオールを動かし、さかんに水をはね 男の一人が突如、姿勢をあらため、ばちゃんとオールを水に突っ込かした。ある程度はうろたえていたことも事実だったが、おおかた んだ。 は見せかけだった。カッターは二隻とも、岸から十ャードと離れる その小さな音が合図ででもあったかのように、ディックの姿の消ことなく、乗組員たちはどこまでも恐ろしさに腰を抜かしでもした えたあたりで大騒ぎがはじまった。まず一発、轟然と弾の炸裂するような恰好をして見せていた。茂みの中から男たちのどなる声がし 音がして、木々のあいだにひびきわたった。ケダモノが悲鳴をあげて、ルークどもがいっせいに水にとび込んだ。 る。二発目、三発目の銃声が鳴り、そこでその自動拳銃は弾が尽き ディックは血に飢えた声で言った。 うまく たとみえ、第二の拳銃が忌まわしい仕事を引き継いだ。ケダモノた「ちょっとだけ先きへ出せ ! 連中をおびき寄せるんた , ちの低く唸り、あるいは甲高く叫ぶ声に男たちの怒号と銃声が入り泳がせるところまでもっていけたら、ぶち殺してやろうじゃない 混じって、それはもう、たいへんな騒ぎになった。そこへさらに、 か ! 」 銃身を短かく切った散弾銃がより低く、より太い声で咆哮を発し 二隻のカッターはうろたえたようにむやみと水をはねかし、よた よたとぶざまな恰好で岸から遠ざかると、しだいに明るむあかっき ディックが残忍な微笑いを浮かべた顔で、灌木の茂みからとび出の光の中に出ていった。ケダモノどもは殺戮の本能に駆られて知性 してきた。そのあとを追うようにして、跳ねるような恰好で躍り出を忘れ、唸りを洩らしながら船を追って泳ぎだした。 てくるものたちがあった。ディックは足をとめて、二度、発砲し、 「今だ ! 」とディックがさけんだ。 それからまた駈けだして、岸に乗り上げた船のところまでくると、 彼自身が持つもののほか、武器は船に槍と拳銃がそれそれ二丁ず ばちやばちゃと水をはねかしてその舳にちかづき、乗り込んだ。 っしかなかった。だが乗組員たちは突如、追手らに向かって敵対行 裸かの男たちは恐慌におちいりながらも、船を押して岸を離れさ動をとりはじめた。ルークたちはそれでもまだ、奴隷がはむかって せた。ディックは艫のほうにまわっていって腰を下ろすと、落着きくるなどということは考えられずにいた。奴隷自身にさえ、それは ほとんど信じられないことだった。ディックの乗っている船の漕ぎ はらって言った。「あんまり遠くまで離れるな ! また何匹か、ル こ 0

8. SFマガジン 1969年12月号

き、ルークどもは幾手かに分かれての捜査に切り換えるだろう。両 〈向こう側の世界〉は月の光に照らされていた。木の間を洩れるそ岸を上流と下流に向かってジャングルの中を、ディックの出ていっ の光は、単なる月の光とは思えない、妙にぎらぎらした、まぶしい た場所をもとめて、徹底的に捜査をすすめるだろう。 輝きをもっていた。けれどもディックが林間の空地の一つにさしか ただ一つ、まずいことが起るとすれば、もちろんそれは彼の臭い かって空をふり仰ぐと、月はやはり、地球をめぐるあの天体とそっが赤ひげの荷車の中に嗅ぎつけられることだ。そのときはまず赤ひ くりのものにみえた。星もまた、おなじようだった。天には大きくげが死に、ディックもやがてそのあとを追うことになるのである。 銀河がかかり、明るさも大きさもひときわ目に立っ惑星らしい天体 だがディックは夜のしじまに、ルークどもの叫び声を聞いた。磁 がいくつか見えていた。〈向こう側の世界〉がその配置の点でこう 石の示す方向は、げんに彼の追跡にかかっているケダモノたちにと まで地球にそっくりでありながら、しかもなお同じではないというっては誤っていた。彼らはナンシイがこの世界にはいってきた地点 のは信じがたいことだった。 のほうへ進んでいってしまっていた。ディックは彼らが離ればなれ 夜の物音は、人間の世界のそれとはまったく似ても似つかないもになって、たがいに呼びかわす声を聞いた。相手の戦法はすでに推 のだった。ジャングルの暗い闇の中に起る叫び声は、ちかくで鳴る測していたが、今その声を聞いて、彼は推測が当っていたことを確 けたたましいベルの音のようなのから、遠くで鳴る一点の鐘の限り認した。彼は各追跡者らの一行の進路と道路のあいだの地点を指し ない悲しみをたたえた深い音のようなのまで、いろいろあった。 て道を急いだ。この世界は奴隷と主人からなる社会だから、迅速な ディックはしかし、いくらも行かないうちに、聞き覚えのある声通信の組織が存在することは考えられない。人間はむち打たれなが らでは、熟練を要する仕事はしないものだ。奴隷の電信技手などあ を耳にした。ケダモノたちの叫び声だ。それはしかし、意味のない 単なる畜生の吠え声というのとはちがった。ルークどもの呼びかわるわけもなく、奴隷の電話連絡部隊など想像のしようもなかろう。 す声だということが、なんとなく彼にはわかった。この〈向こう側人間が動物として分類されているとき、彼らから引き出し得るもの の世界〉について彼はすでにかなりの知識を得ていたので、何が起は、動物なみの労働だけである。 ろうとしているかは推測することができた。 そこでディックはためらう色なく、闇を縫って進んでいった。ぐ 赤ひげが報告をすれば たとえこの、ディックの出あった最初るりではさまざまな音が混じり合い 一種異様な、くぐもった感じ の男がなにもかもべらべら喋ってしまわなかったとしてもーー。ーさつのざわめきとなって聞えていた。鐘の音のひびくような音のなか そく彼らはディックをもとめて仮借ない狩りを開始するたろう。そに、間をおいて何か大鼓でも叩くような音がして耳を驚かせ、さら の場合、夜間捜査は、当然、ルークどもの手に任されることにな にはまた、徒労におわった狩りの結果を報告するルークどもの吠え る。ルークどもは流れに踏み入ったディックの通り跡を嗅ぎつける声がときどき遠くから聞えてきた。・ ティックは例の流れのほとりに 7 にちがいない。そして流れの向こう側に足が認められなかったとたどりつき、水の中を歩いて渡った。すこし先へ行ったところで、

9. SFマガジン 1969年12月号

いが、彼らは人間の声に似たさえすり声で、なにやら、しきりと語 のホールに坐 りかけてくる っているのは 1 刻一刻と衰えつつある地球上で細々と生きている人間を含めたあ僅かに二〇〇 らゆる生物たちは、お互に、訳がわかろうとわかるまいとそのカン人たらず 高いさえすり声をかわし合って、自分たちの生きていることをたし これが地球参 かめあうのだった : の現状であ 0 第 しかし、惑星間の交通は頻繁に行なわれており、時には月一回、 た。都市の人 = ( 0. 一 多いときは一日に三回も宇宙船が発着することがあった。もちろん口が昔でいえ 超光速航行が開発されているから、やってくるのも種々雑多な連中ば小さな町ひ である。ある生物はテレバシーで = ミ、 = ケーシ = ンを行ない、あとっ分位の人 . る生物は手真似だけで用を足し、ある生物は体毛を振動させて意志 ロ、そして町 を伝え、またある生物は自分に代って手真似をやる機械を持ちこんひとつは昔の できたりした。アンドロメダ星系のクーヴァからやってきた生物な 村ひとつ。そ どは眼もないし、ロもなく、ただ、体の一部をお互いに接触させてして村といえ 地球人と = ミ、 = ケー , を行なうのだが、それでいて相手の容ばせいせい四、一、、 姿をちゃんと見抜くことができるのである。 軒か五軒がひ とかたまりに このあたり、カーティアにでも描かせたら、百鬼夜行、さそかし なっているに 面白いものになったろうとちょっと残念なのだが : すぎな、。こ ぶん、地球の , 、第 : イ ~ - ~ さて、主人公はメリザンドとなのる当年とって七〇〇才の少女。 もちろん病気などというものはとっくに征服しているから、地球人こそこ位のも はほとんど不老不死に近い状態なのである。樹々のびっしりと生い のであった。 茂るうす暗い森の中を飛び交う鳥や虫共と声をかわしながら、彼女 ガランとしたホールに、講師の呼びあける声だけがひびきわた る はいともたのしけにスタスタと歩いて行く。そして、さっと視界が 「 8 ワ 8 、く ひらけると、眼の下の谷間に大きな建物が見える、そのまわりをと まるでトランペントのようなカン高い響 りかこな芝生、花園、そして噴水。彼女はその建物の方へ近づいてき。「第 6 号室」 行った。そして贅をつくした階段から高い天井の下につづく廊下を 大きな男が立ち上り、椅子の間をぬけて、ちょうどやってきたメ 進むと、四千人は入ると思われる広大なホールに出た。しかし、そ リザンドとすれちがった。 ラッセル作 FAST FALLS THE EVENTIDE の挿画 4

10. SFマガジン 1969年12月号

鼻孔といわず、ロといわず、情容赦もなく飛びこむ熱い灰と、辛みも、苦しみも、たちどころに消え去って、えもいわれぬ甘美な悦 い煙が、舌を焼き、ロ腔内をただれさせ、咽喉を焼いて、もう、呼楽、至上の恍惚と変貌するかと思えた : : : だが、な・せか、そのたび に、おのれの意志ではない何かが、抵抗し難い恐ろしい力をふるつ 吸も満足にはできない。 それでも、不思議と渇きは感じた。とはいっても、もちろんそれて、業火のなかから彼をみあけ、灼熱の大地から引き起し : : : そ は、もう世のつねの渇きなどというものとは較べられず、ロ腔からして彼は、再び、何十度めか、何百度めかの業苦の行進をつづけな 咽喉もとへ、食道をさし貫ぬいて胃の肺まで、太く熱く、焼けただければならないのだった。 れた鉄串を、ぐさとばかり突っこまれ、ゆさぶられ、かきまわされ「おーい、 おたけび狂う火の中に、またもやだれかの声がした。それは、彼 るほどの疼痛たった。 いや、なぜにまだ、こうと同様に、この焦熱の無限地獄に陥されて、ただひたすら火に責め 気力はもう、とうに尽きかけていた してよろめき歩くだけの体力が残されているのかが、どうにも腑にさいなまれ、火から逃れようと空しい足掻きを続ける仲間の叫びら いや、ことによったら何百度もーーー裸足しかった。もう助けを求めてすらもいないーー苦痛をせめて柔らげ 落ちなかった。何度か ただ、そうするしかないために、身体 の足の裏を焼く大地へ、身体ごとのめっていこうとしたか知れなかようとする悲鳴でもない や、ことによったら、仲間の誰の声でもな った。ごおとおめいて、正面から迫ってくる猛火のなかへ、身を投があげる声である : : : い く、彼自身、さっきから、絶え間なくあげているはずの己が声を聞 げようとしたか知れなかった。 いていたのかもしれなかった : いや、確かに身を投げたと思ったことさえ、やはり何十、何百 度、あ 0 たか知れないのであゑすると火餡も、焦熱も、渇きも痛だが彼は、びようびようとゆれはためく熱気のその彼方に、倒れ ダ〉・引第イ ー 43