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1. SFマガジン 1969年12月号

闇なんだ。・ほくはー 5 ー、でも先生は「クリ , カー」と呼番好きだ。だ 0 て夢を見ることができるから。夢は奇妙だ。この前 ツウ・レッグス とうしてそんな夢 の眠りのとき、ぼくは二本足になった夢を見た。・ ぶ。名前をつけるのは、二本足たちの機能だ。 雨の中で悲しか 0 た。先生はなかなか来ないし、話しかける相手を見ることができるほどに十分な経験を積むことができたのだろう か ? これが・ほくを怯えさせることの一つだ。・ほくは生きていた もいない。。ほくに似た者は誰もいなかった。でも先生はこういう、 コントロール・ファクター 、。ぼくは自分の生存における統御因子の一つなのだ。だが依 「もしもおまえがよい子で、いうことをよく聞き、よく勉強した というの ら、ザメシ = さんがおまえにそ 0 くりの仲間をたくさん造 0 てくれ然として、最も有効に自分を利用する方法はわからない。 は・ほくには自分自身を理解することができないからだ。自分自身を るー ザメシさんが・ほくを造 0 てくれたのだと思う。「だからザメシ分析するには、データが不足していた。だから・ほくは怯え、データ 「おまえは仕事を 、さんに仕えなければならない」そう先生はいう」でもそれは不合を望んでいる。先生はぼくに話そうとはしない。 理な推論のように思える。二本足たちはその気になれば非論理的にやり遂げる。おまえは物事に気づく。経験する。おまえに必要な知 なることができるんだ。二本足たち持ち前の権利の一つだ。ぼくも識は、それですべてなのだ」 また、非論理的になることができる。時にはそのことが、ひそかな「先生、ぼくは尋ねる。「先生自身の意識能力は、・ほくのものに匹 喜びをもたらす。でも先生がやって来たときには、非論理的になる敵しますか ? 」 ことは許されていない。もし・ほくの分析が間違っていたりしたら、 先生のやせて厳しい顔にふきげんな表情が現われた。「いや。意 先生は懲罰のため苦痛ボタンを押す。そしてぼくは痛い目にあう。 識能力は感覚によって形成されている。感覚の記憶なのだ。私は極 ンンアル・ディレ・ みんなは、ぼくが論理的であれと願っている。みんなの社会指導超短波やエックス線。超音波の刺激を感受する感官を持っていな これらの刺激がおまえにはどのように感じられるのか、それに 者であるザメシ = さんに奉仕するようにと願っている。でも、もし そうなら、いったいどうしてみんなは、・ほくを反抗したり非論理的ついての直接的な主観的な感想は私にはない。また、おまえのよう になったりできるように、造ったりしたのだろうか ? ほかの機械な作動体も持っていない。私は自分自身の体の状態を感じる。おま えはおまえの体の状態を感じる。私は骨格をおおっている筋肉を持 はそんな間違いを犯すことができない。それらの機械の分析回路に フィールド・ジェネレーター っている。おまえには水素反応炉、カ場発生器、ジェットそして は、抽象や仮説的な帰納化の原理が欠けていた。データが十分でな 制御機構がある。我々の意識を比較することなどできない , いと、帰納することができなかった。 「広範囲にわたる感覚装置というものは生きていくために望ましい それだから、・ほくは一人・ほっちだ。恐かった。思い出すことのでものなのですか ? 」と、・ほく。 きるかぎり、恐がり続けていた。二本足たちは、ぼくを喜びや恐「そのとおりだ」 「それならば、ぼくの生存能力は、あなたよりも大きなことになり 怖、苦痛そして睡眠を感じるように造り上げた。・ほくは眠るのが一 2

2. SFマガジン 1969年12月号

と、ひくく囁く早ロでいった。 。せめてこの現実が、フィクションのーーー幻想テープの十分の一 「ホラ話って、どんな ? 」 でもきりりとしていたら : : : それこそ、いまごろ、幻想テープ規制 5 「幻想テープの有害説が、厚生省の秘密諮問委員会で支持されて、法案はそのもっとも苛酷なかたちで通過し、彼は地下にもぐって官 いよいよ、かなりきびしい規制法案が上程されるっていう話。そん憲の目をぬすむ非合法製作をやっているところかもしれないのだ : ・ なことが、そうやすやすとできるわけはないのにね。きっとまた、 何か思惑があって、あんなことしてるにちがいないわ , / 、刀ヨーノ 日マリのマイクで会議がはじまるとすぐ、一つのハ。フニ 1 マーの一人である 百目鬼はどうしようもなくうんざりして北川マリをながめ、大根ングが起った。この頃人気のでてきた若手ド丿 を見やった。もし大根が、」丿 Ⅱマリのいうように、千三つ屋の魂にサル・峰尾が立ちあがって、制作会議の前にどうしても一言ただし ておきたいことがあると発言したのだ。 かけて千に三つの真実を擱んできたのなら、どんなに面白かろう。 秘密諮問委員会で、委員の面々が会議室に入ったとたんにがらり形「そりや、ぼくはドリー マーだし今日や昨日の新米でもないし、お 相、人相までかわり、ささやき交す私語の切れつばしにも意味があたくとの契約があるから、どんな夢でも一応はみる義務があるのは 、そのひと言かふた言が、いま、朝なタな、一日二十四時間ぶつ 知ってます。でも、ものにはやはり限度があると思うんです。・ほく つづけにみようと思えばみれるように流されている幻想テー。フを、 にだって最低限じぶんの納得した夢を夢みる権利はあると思うんで 明日からでも打ち切れるほどの力を持っていたとしたら いや、す。でなきや、つまりは、・ほくのみる夢の出来のよさだって影響さ そんなドラマチックな陰謀が、ほんとうに企まれるためならば、これますよ。無理してみる夢は、きめも荒れるし、飛躍もすっきりし っちが金をだしてもいいぐらいだった。だが現実は、どうせ諮問委なくなるーーーこれよ、、 。しっときますけど技術の問題じゃない。ま 員会は、、 しまの幻想テープの製作放映を規制するには、あの法律をの ドリーマー全体の本質にかかわる問題です」 こういじり、この企業グル ] 。フにああ圧力をかけて、ああこうしな サルよ、ドリー マー独得のぬめぬめ、のろくさとした、イントネ ければならないから、なかなか実施は難しい いや困ったもので ーションのほとんどない喋りかたで、喋りつづけた。製作スタッフ と、会議室の外のもやもやなま温たかい空気と、ちっとも変らない が、「おやーという感じで聞き耳たてるかたちになった。これはち 雰囲気で続けられたにちがいないし、まして大根などは、陰謀をた よっとした造反だった。ドリーマーは要するに、テープ製作のワン くらむどころか、何とはないお喋りの習慣に押されるまま流される ・。フロセスに過ぎない。人工的な幻想に、人間的な変調をかける、 ままに、どこかでちらりと小耳にはさんだ情報に尾つけ鰭つけ、せ いわばパイブレーションの役目をするだけなのだから、その持っ個 いぜい秘密めかし尤もらしく喋っているにすぎないのだ。つまりは性や創夢能力だけが価値であって、演出やシナリオに口をだす資格 この現実の自堕落さ、けじめのない際限のないだらしのない、のつはない。案の定、たちまち、癇もちで知られている な。せ彼 べらぼうなうじやじやけぶりを、如実に示す現象の一つでしかな が、精神衛生クリツニクに行かないのか、いつも噂になっていた

3. SFマガジン 1969年12月号

であろうところの価値判断をし、その可能望しているのは、悲しく思う。今一度石森 性に期待する私にとって非常な喜びなの氏の作品を読んでみたまえ ! なにか感じ 〈倶楽部〉 である。の意義云々はもうやめよう。 るものがあるたろう、たた単なるコミック 倶楽部第一一号と増刊号〈星雲〉 そろそろ空から白いものが落ちてくる季節・ギャグとしてでなく : : : 。 復刻版を発売中です。また、会員も だ。コタッにあたり、ミカンで爪を黄色く ( 愛知県春日井市大和通一 ~ 四七 募集しております。 平岩孝 ) そめながらを読むのはいいものだ。ウ 第二号 エルズと小松左京をさかなに熱燗の酒を友 小特集ヒロイック・ファンタジー 今年の増刊号はすばらしいの一語につき とくみ交すのも、また楽しいものだ。 復刻海底軍艦 ( 後篇 ) その他。 ると思います。ポリュームもさることなが ( 東京都北区神谷一一ノ二四ノ六 百七十二ページ三百円 徳田荘小川秀樹 ) ら、内容の選択もとてもよかった。特に第 二部宇宙からの訪問者はつぶよりのものば増刊号 日本史上初めての誌〈星雲〉 十一月のこの欄での《》に対する長 かりでした。中でも「あほうどり」と「雪 完全復刻版。百七十二。ヘージ三百円 谷川君の意見に一言述べてみたいと思う。 つぶて」に深い感動を覚えました。アポロ 石森章太郎氏にはそっこん惚れこんで いⅡ号の月着陸で人類もいよいよ母なる地球】以上の詳細および、会員申し込みは という玉を掌で暖め水の中に入れ、る。《》に対する期待は、僕にと 0 てを離れて、広い大宇宙〈とその偉大な一歩 ~ 〒横須賀市田浦町二 ~ 八四 上からのそきこんですかし見ている一は人類がやがて太陽系を征服するであろうを印し、他の宇宙の生物と接触することも 佐藤正明まで ファンです。〃熱で拡散するだろうか ? 期待よりはるかに大きい。君が《》にそう遠いことではないように思われます。 ( 振替東京 1 田 20 ) 水を吸いこむようなことはないだろうか ? 〈ジン〉的感覚を感じたのは別におかしそこで考えなければならないのは、コンタ ちょっと歪んで見えるけれどもきれいだなくない。第一回に関する限り私とても同じクトの時の心得です。最初の出会いの時に あ、いったいなんでできているんだろうん だった。あの音のない絵だけの世界〈ジ、は誰でも不安と希望とを持っています。特 と私は思う。その構成分子がデカンシ , でン〉は私が思うに現在にあ 0 ては実験的作に相手がとても人類とは思われないような一人ぐらしの僕にと 0 て、毎月の あろうと、時空間であろうと、それを見詰法であってまだ未完成のものだ。《》形態の持主なら、不安はさらに増すでしょ は唯一の愉しみといっていいくらいです。 る目がある。そこにが存在するのでに対して石森氏がその作法を試みたかどうう。そのような時、人は人としてではな特に日本作家のシリーズものを愛読してい ある。ファン諸氏がいみじくもいわれた思かはわからないが《》はあれでいいとく、地球の全生命の代表としてうまくコン ます。でも十月号には、光瀬氏の都市シリ 考実験ーーそれ自体がのヴァリ = ーシ思う。《》は〈ジン〉とは異なる彼タクトを行なえるでしようか。「あほうどーズがありませんでしたね、どうしたので = ンだと。ともすれば私はにあまりにの世界なのだ。彼の描くマンガには独り」も「雪つぶて」も = ンタクトに失敗しすか ? 僕の最もほれこんでいる作家だけ 多くを期待し過ぎる。が、それを自覚しな創性がある。純から日常ささいな題材たほうの見本です。他の生命との出会い に、ちょっとがっかりでした。もう一つ注 がらもに哲学、宗教をのりこえたなにへと、そのまま小説に書き下してもり 0 ばそれはとりもなおさず人類自身の内面との文ですが、クレメント、フランケ、ライン かを期待するのだ。そして = モンセンスがに通用するのではないかと思うほど彼の世出会いとも言うべきなような気がします。スターの作品にこのごろお目にかかれない よりよい究極の形へ移行していってくれと界は広い。しかし彼はあえて文字ではなく現在人類は地球上の生命を大量に抹消し、のは、僕としては不満足なのです。アシモ 願うのである。このような第三者的な目、絵で表現するのである。〈第一一回〉に秘め かつまた人類の中でもお互いに殺し合い フ、ヴォークト、クラークも結構ですが、 受動的、消極的な思惟を嫌う人も多いだろられた皮肉、彼はもしかしたらウ = ルズを地球上には一触即発の空気が充満している他の作家たちもひいきにしている読者がい というよりむしろ う。しかし私は悟りぎ 0 た坊主にも進歩的好きじゃなくて、例の〈新しい波〉の代表と言ってもけ 0 して言い過ぎでないようなることをお忘れなく ! 文化人にもほど遠い、ポーリング、スケー的作家・ (5 ・・ ( ラードのいった「偉大な状態です。このようなことで、他の生命との読者は博愛主義者なのだということ ト、ジャズそして女性が好きなあたりまえ作家には違いないが、がⅡ・ ()5 ・ウェの 0 ンタクトをうまくやりとげることがでです。先日「図書解説総目録」を入手 の凡人なのだ。凡人なるが故が世の中ルズを祖先に持ったことは大いなる不幸だきるのでしようか。願わくば、もっと人類しました。石原氏の熱意と努力に対して、 のオビニオン・リーダーである必要はない 0 た」に賛成なのかもしれない。つまりウが生命の真の重さを自覚するまで、そのよ一ファンとして拍手をおくります。 と思う。さらにそれに固執し口に出すのはエルズの『宇宙戦争』を皮肉をこめて彼独うなコンタクトが行なわれんことを。 ( 大阪府吹田市千里山一ノ二四ノ二六 が、 TJ を読み、特のアイデアで書いたのではないかと思 痴がましいとさえ : ( 北海道札幌市美園三ノ一 水流方門田靖典 ) 小山内利一 ) 考える人が一人でも多くなることは、正当う。とにかく僕は長谷川君が《》に失 3 を 広告 202 ー

4. SFマガジン 1969年12月号

き、ルークどもは幾手かに分かれての捜査に切り換えるだろう。両 〈向こう側の世界〉は月の光に照らされていた。木の間を洩れるそ岸を上流と下流に向かってジャングルの中を、ディックの出ていっ の光は、単なる月の光とは思えない、妙にぎらぎらした、まぶしい た場所をもとめて、徹底的に捜査をすすめるだろう。 輝きをもっていた。けれどもディックが林間の空地の一つにさしか ただ一つ、まずいことが起るとすれば、もちろんそれは彼の臭い かって空をふり仰ぐと、月はやはり、地球をめぐるあの天体とそっが赤ひげの荷車の中に嗅ぎつけられることだ。そのときはまず赤ひ くりのものにみえた。星もまた、おなじようだった。天には大きくげが死に、ディックもやがてそのあとを追うことになるのである。 銀河がかかり、明るさも大きさもひときわ目に立っ惑星らしい天体 だがディックは夜のしじまに、ルークどもの叫び声を聞いた。磁 がいくつか見えていた。〈向こう側の世界〉がその配置の点でこう 石の示す方向は、げんに彼の追跡にかかっているケダモノたちにと まで地球にそっくりでありながら、しかもなお同じではないというっては誤っていた。彼らはナンシイがこの世界にはいってきた地点 のは信じがたいことだった。 のほうへ進んでいってしまっていた。ディックは彼らが離ればなれ 夜の物音は、人間の世界のそれとはまったく似ても似つかないもになって、たがいに呼びかわす声を聞いた。相手の戦法はすでに推 のだった。ジャングルの暗い闇の中に起る叫び声は、ちかくで鳴る測していたが、今その声を聞いて、彼は推測が当っていたことを確 けたたましいベルの音のようなのから、遠くで鳴る一点の鐘の限り認した。彼は各追跡者らの一行の進路と道路のあいだの地点を指し ない悲しみをたたえた深い音のようなのまで、いろいろあった。 て道を急いだ。この世界は奴隷と主人からなる社会だから、迅速な ディックはしかし、いくらも行かないうちに、聞き覚えのある声通信の組織が存在することは考えられない。人間はむち打たれなが らでは、熟練を要する仕事はしないものだ。奴隷の電信技手などあ を耳にした。ケダモノたちの叫び声だ。それはしかし、意味のない 単なる畜生の吠え声というのとはちがった。ルークどもの呼びかわるわけもなく、奴隷の電話連絡部隊など想像のしようもなかろう。 す声だということが、なんとなく彼にはわかった。この〈向こう側人間が動物として分類されているとき、彼らから引き出し得るもの の世界〉について彼はすでにかなりの知識を得ていたので、何が起は、動物なみの労働だけである。 ろうとしているかは推測することができた。 そこでディックはためらう色なく、闇を縫って進んでいった。ぐ 赤ひげが報告をすれば たとえこの、ディックの出あった最初るりではさまざまな音が混じり合い 一種異様な、くぐもった感じ の男がなにもかもべらべら喋ってしまわなかったとしてもーー。ーさつのざわめきとなって聞えていた。鐘の音のひびくような音のなか そく彼らはディックをもとめて仮借ない狩りを開始するたろう。そに、間をおいて何か大鼓でも叩くような音がして耳を驚かせ、さら の場合、夜間捜査は、当然、ルークどもの手に任されることにな にはまた、徒労におわった狩りの結果を報告するルークどもの吠え る。ルークどもは流れに踏み入ったディックの通り跡を嗅ぎつける声がときどき遠くから聞えてきた。・ ティックは例の流れのほとりに 7 にちがいない。そして流れの向こう側に足が認められなかったとたどりつき、水の中を歩いて渡った。すこし先へ行ったところで、

5. SFマガジン 1969年12月号

れの前に移動した。 アサは全身のひふがしだいにつめたく収縮するのを感じた。ロの 「委員会としてたずねたいことがあるのだ」 中が乾き、舌の裏が妙に引きつってくる。男の言葉にあらわれた微 アサはつづけた。 妙な変化がアサに本能的な危機感をあたえた。 「もと動力区第二管理室主任セルゲイ・パスについて情報を提供し アサの手が壁の銃にのびるのと、男の手が腰の後へ回されるのと た者について直接、尋問したい」 がほとんど同時だった。アサはひじで車椅子のモータ 1 のスイッチ 男はわずかにうろたえた。と、アサには見えた。 をたたいた。はじめて手にする銃はどこをどうすれば発射できるの 「それはかまわないが、それは誰だろう ? 」 か見当もっかない。男が前に回した手ににぎられた黒い小さな武器 アサにとって危険な一瞬だった。もしこの男がその名を知ってい がすさまじい衝撃音を放った。車椅子のどこかに小さな物体が当っ るとすればここでどのような名を口にしてもそれはただちにアサ自て鋭い金属音を曳いた。アサは手にした銃を全身の力をうでにこめ 身の破減につながる。 て男の体にたたきつけた。もう一度男の手で衝撃音が炸裂し、男は 「それはこちらでわかっているはずだ。おれとしてはあらかじめそアサの投げつけた銃を抱くような形で床に崩れ落ちた。そのかたわ の者の名前を聞いて先入観念を持ちたくない。上層部としてもそのらをアサの車椅子はおどるようにかけぬけた。ドアの内部にはせま つもりでおれにその者の名前は伏せたようだ。これは市としては極い通路がはしり、小窓のついた小さなドアが左右にならんでいた。 めて重大な問題なのだ」 ひじかけをにぎった両腕を支えに、体をもたげてその小窓をのぞ アサは男の顔に視線を当てつづけた。 一つの動作に時間ばかりかかり、アサは気の遠くなるような焦 ビスト 「わかった。しらべてみよう。しばらく待て」 りを感じた。待機所に足音と人声が入り乱れた。アサは車椅子の背 男はドアの内部へ退いた。数秒のうちに事の成否はきまる。アサもたれにさしこんでおいた銃をぬきとった。落着かなくては ! 完 は車椅子のモーターを止めると手動で静かに壁の下に移った。手を全にどうてんしているのが自分でもよくわかった。叫び声が上り、 のばせばいつでも銃に手がとどく。永い永い時間が過ぎた。 どやどやと人影が通路にあふれた。銃把のレバーを右に回し左に回 「委員、わかりました ! 」 しているうちにかすかなバネが伝わってきた。 声といっしょに先ほどの男が姿をあらわした。 「とらえろ ! 」 「そうか。ではここへ連れてきてくれ」 「銃を持っているそ ! 」 男は小さく手をふった。 あとは運しか残っていなかった。迫ってくる男たちに向ってアサ 「それは困ります。中でおねがいします」 は引金をし・ほった。銃口から噴出したガスが強烈な衝撃波となって 男はドアの内部を指し示した。 せまい通路の空間を打ちのめした。弾丸が飛び出たのか出ないのか 「収容室に入っているのです。すみませんが、あちらで」 それさえわからなかった。通路を突進してきた男たちは一瞬、目や シティ

6. SFマガジン 1969年12月号

だ。二通の文面の解釈に、彼は頭をしぼった。彼は困惑し、おびえ昇る月の色あざやかな光がブルックリンの丘々の裸の森の輪郭をく た。そして , ・ーーサム・トッドの言葉によればーー彼此両世界間の連つきりと浮かび上がらせた。こちら側の世界では未知の品種の巨大 5 絡用の出入口が、彼自身の種族に属さぬ、したがって彼および彼のな木々が葉のしぶきを噴水のようにふき上げているところを除き、 種族の敵である者たちの手で開かれることになる場所の発見につと丘の上面は切れ目のない線をえがいていた。ィースト・リヴァーの めるべく命令を下だした。彼はそのことについて、明確に指令をあ水面は油を流したようになめらかで、薄れゆく夜空の色の、徴妙な たえた。さらに彼は、メッセージが残されていた場所のちかくに充濃淡を示す赤と金と紫の光を反射し、今まさに溶け出そうとする虹 分な数の伏兵をあらかじめ配置するように命令した。 の姿をおもわせた。霧がそこここの木々の梢にかかり、あるいはジ ャングルのふちのあたりからしみ出して、河岸の線を・ほかし、神秘 指令の遂行のための準備がはじまって屋敷内がざわめきだすと、 ようやく主人は安らかな気分を取り戻した。だが完全な安らぎが得的な感じを添えていた。 られたわけではなかった。彼は六匹のルークが このひっくり ディック・ブレアの小艦隊は岸辺すれすれを、のろのろと這うよ かえるような騒ぎの起きる前三日ばかりの間に なんのいわれもうに進んでいった。漕ぎ手たちはっとめて音を立てないように漕い なく消え失せたことは今日の事件になんらかのかたちで関係があるでいた。彼らはしばしば霧の中に隠れ、まるで幽霊のように、ほん のかどうか判断に苦しんでいた。 のかすかにしか見えなくなることがあった。だが、ときどき太陽の 六匹のルークが消え失せるちょっと前、ナンシイ・ホルトがタク赤い光がまともに照らしつけることもあった。そのとき、緋色の光 シーを待っ歩道から掻き消えた事実を彼は知らなかった。また、彼線は彼らの身体を血の色に染めた。 女が消えたとき、水銀の溜まりが収縮していくのをサム・トッドが やがて二隻の船は動きをゆるめた。一隻が陸地のほうに船首をめ 絶望的な目でみつめていた事実も知らなかった。だが、たとえ知っぐらせた。舳が岸にふれると、ディックはそこに降り立った。いっ ていたとしても、ブルックリン河岸の宮殿にいた主人はこの問題をさいが静止し、完全に音が絶えた。どこかで魚がはね、その「ぼし 重大視することはなかっただろう。 ゃん , という水沫の音が耳を驚かした。漕ぎ手たちは呼吸さえ止め ているようにみえた。ディックはあたりに目を配り、耳を澄まし、 サム・トッドは月が昇ったとき、イースト・リ。 ハ 1 ・ドライヴわそしてとっぜん、底知れない朝の静けさの中で、小鼻を皺寄らせ た。彼はあるものの臭いを嗅いでいた。本能的に頸すじの毛が逆立 きの自動車専用道路にいた。彼は理由のない不安にとらえられてい った。ケダモノの臭いを嗅いでいたのだった。 た。ゅうべ一晩、一睡もせずにきたのだった。露に濡れた公園のべ ンチに腰を下ろし、朝の冷気にちいさく震えていた。あかっきの光彼は岸辺につっ立ったまま、背後の男たちに低い声で話しかけ が明るさを増したとき、彼は覗き穴装置を眼にあてがった。 た。男たちは緊張していた。緊張で、身体をますますこわばらせて 〈向こう側の世界〉の東のふちに、太陽がゆっくりと昇ってきた。

7. SFマガジン 1969年12月号

ディックがモールトビイを見つけ出して鎖を解くと、その身体にて、クモに似たものを岸に引き揚げた。ここでまた、サムはたまた ナンシイがた 0 ぶりと香水をふりかけた。やがて彼らは、本来ならまこの世界と対にな 0 た、もう一つの惑星の灯火をたよりに男たち 奴隷の目には決してふれることがなかったはずの、例のクモに似たを先導して、闇の中に縮み込んでいった。地球のガヴァナー島は陸 装置を発見した。それについて多少とも知っているのはサムだけだ軍の要塞で空港もあり、今日では、つねに非常事態を予測して防備 った。ディックはサムの説明をきくと、策戦を練って、それを顧問を固めていた。したがって、そこには、銃や火薬や手榴弾をはじ たちにったえた。彼らはいったん狂喜乱舞の群れの中に散って、適め、ガリー船とカッターの男たちにとっては純金よりもさらに貴重 当な人員を狩り集めてきた。その男たちはわいわい言いながら、ジ な、さまざまのものが用意してあるはすだ。その夜、陸軍は大事な 彼らはたいまつを品をかなり大量に失った。男たちは船と兵器庫のあいだを何度も往 ャングルの中を、船のほうへ引き返しはじめた。 , かざして道を照らして運んでいこうとしているのだった。それは領ったり来たりして、分捕品をほくほくしながら船に積み込んだ。 主たちが地球から欲しいものを盗み出し、この世界へ運び込むとき ディックはその仕事には加わらなかった。ナンシイと話さねばな 使う機械だった。サム・トッドは監督の一人の屍体から、見覚えのらぬことがあったからだ。彼は彼女を、ガリー船の荷積みがおわり ある例の眼鏡さえ見つけ出していた。 ー公園経由で地球へ送り しだい、流れを渡ったすぐ対岸のバッテリ 彼はジャングルを進みながら、ときどきその眼鏡を眼にあてて見かえそうとして説得につとめた。もちろん、地球の。ハッテリ 1 公園 た。たいまつの炎に照らされた大木の太い幹と本来の世界のニュー に対応する〈向こう側の世界〉のその場所は暗い森でそこからは鳥 ヨーク市の街灯に照らされた通りとが同時に見えた。 獣のあやしい叫び声や鐘の音に奇妙に似た音などが聞えてきてい 河についた男たちは二隻のカッターを岸に引き揚げ、両船の間に た。彼女はしかし、きつばりと地球へ戻ることを拒絶した。ディッ オールをわたして台をつくると、その上にクモに似た機械を載せクはそこで、彼やガリー船の男たちがな・せ地球へ戻らないかを説明 た。そしてそれを二連小舟でガリー船まで曳いていった。それからした。彼女はすかさずその口実をとらえ、それを自分が残る理由の みんなで大変な苦労をしてガリー船にそれを積み込み、錨を上げ一つに加えた。 て、河を下だりはじめた。サム・トッドは合金の覗き穴装置をディ 二人の間にはなんとなくエ合の悪い空気が生じたが、それはディ ックに返した。二つの世界を同時に見るには、監督の屍体から奪っ ックがナンシイに自分以外の誰とも結婚させまいと心に決めていな た眼鏡のほうがエ合がよかったからで、彼はそれを使って正常世界がら、それを彼女に打ち開けていなかったからだ。ここで彼はやや の灯火をたよりに、夜の闇の中をたくみにガリー船を誘導していっ唐突な感じだったが、心配そうな顔をして言った。「いずれは、も ちろん、。ほくたちも向こうへ帰って、しばらくは滞在しなけりゃな 真夜中に、ガリー船は不毛の岩礁に横づけになった。そこは地球らないだろうさ、結婚するためには , ーー」 それでエ合の悪い空気もなくなった。 ではガヴァナー島に当るところで、男たちは汗ぐっしよりになっ

8. SFマガジン 1969年12月号

「ああ、とても哀しそうだった、といっていた」 のようにつめたく、その茫漠とひろがる夜のどこかに息をひそめて 「なぜだ ? 」 いる平原を今、ほうむり去ろうとしていた。 「そんなこと、おれが知るものかーこ 「誰かこたえろ ! 」 「で、その後、かれらはどうなったのだ ? ほんとうに第五惑星を硬い床の感触が、なにものにもましてアサには心強かった。 形造ることに成功したのか ? 」 「かれを室外へー アサは立ち上ろうとして自分の両足が無いのに気がついた。ひじ アサは自分が運ばれてゆくのを感じた。 かけにこめた両手の力をぬいて尻を落した。 「代議員以外の発言には制限を : : : 」 「たった一度だけ見た。砂嵐の間の、ふしぎに冴えた夜だった。暗「宇宙飛行委員会なる非合法の : : : 」 い小さなオレンジ色の星を、あれがそうだと教えられた。だが、お「まだ説明を終っていない二、三の : : : 」 れはたしかその星はずうっと前から、二十年も三十年も前からそこ進行係の声がアサを追ってきた。 にあったような気がするんだ。あれはほんとうにアイララだったの 「こたえろ ! 」 だろうか ? 」 アサは全身をふるわせて叫んだが、その声は声にはならなかっ しばらくたってから他の一人がたずねた。 「科学者たちは何といっていた ? 」 「やつらにはアイララは見えないんじゃないかな」 第三章宇宙飛行委員会 あちこちでおしころした笑い声がおこった。 「言葉をつつしみたまえ」 アサが両足を失ってから所属を移った七作業班は身体の自由を 進行係が何の感情もあらわさぬ声音でたしなめた。 欠く者たちで編成されたグルー。フだった。そのいずれもが大小の事 「そうだ。きっとそうに違いない。アイララにミサイルを射ちこむ故の経験者だったし、本来ならば失った部分を人工のものに換えら なんて、ばかな ! 星空のどこへ射ちこむんだ ? いったいどの星れ、旧の職場にとどまることのできる者たちだったが、そうした生 をねらうんだ ? 火星と木星の間にあるという誰も見たこともない体技術グループはあまりにも人手不足だったしまたそれに必要な医 惑星へか ! 幻へむかって何ができるのだ ? え ? 誰かこたえろーこ薬品のあるものは市ではまったく生産されていなかった。″船団待 アサは急速に床がせり上るのを感じた。そのせり上ってくる床がち〃はここでもあった。 みるみる透明になり、そのむこうに暗い暗い空が見えた。その暗い 「ああ、手がほしいなあ。手さえあれば ! 」 夜空が動いてひとすじの裂目がのそいた。裂目の奥は血のように紅ゆがんだくちびるから悪罵がもれた。 く染り、そこに巨大な舸ものかの気配と意痣が動いていた。風は冰「手があれば、どうなんだ ? 」 た。 シティ ー 75

9. SFマガジン 1969年12月号

「それに、とても感じやすいのよ、繊細で : : : 」 アロロはあきらめて、朝食のつづきにもどった。沈黙のうちに食 「ますます不必要だよ」 事はしばらくつづいたが、それはとっぜん現実のものとなった。昔 2 アロロの声が、ほんの少し、大きくなった。エルルはすぐに後悔の悪夢がふたたびよみがえったのだ。 して、だまって食事をとりはじめた。 「ただいま ! おとうさん、おかあさん」 やさしい夫とかわいい子どもにかこまれたエルルは、いつも倖せ ムムムが帰ってきたのだ。顔をまっ赤にして、なにか奇妙なもの だと思っていた。毎日の生活は快適で、将来に対する不安もない を小わきにしつかりとかかえて、家の中にとびこんできたのだ。ビ ひとり息子のムムムのいたずらは、ときどきもてあましたが、それビーもいっしょだった。 も母親としての楽しい悩みにすぎなかった。 ただそれだけに彼女は、夫がときおりムムムを非難するのが、悲 2 しかった。しかし抗議するわけこま、 . 、を . し、刀 / . し ムムムを育てたの は、彼女の母親としての本能だったからだ。 透明な水晶細工のように光を屈折するレトルトに、ひっそりとか 同じように、だまって朝食をとりながら、夫のアロロは、自分のくまわれた小さな球体は、うすい黄金色の肌を輝かせて、少しずつ 今朝の感情の起伏を、しだいに、ぼんやりとではあったが、理解し = ネルギーを吸収していた。それは、自分を養ってくれる溶液に安 はじめていた。 心して身をまかせながら、時の来るのを待っているように見えた。 数年もまえから、無気味なうねりのように、周期的に彼を襲って溶液槽は、直径一センチ五ミリばかりのこの球体にふさわしい大 いた、黒い不安の波が、最近また波頭をもちあげてきたのだ。そのきさの正六面体で、その上部は、数本の細い可撓パイプを経て溶液 不安のたかまりが、彼を不機嫌においやっていたのだ。 調節用の自動装置に連結していた。 〈ずっと昔にも、同じことが起こったような気がする : : : 〉 自動装置は、注意ぶかい七つの眼と、微妙に動作する数多くの触 アロロは何十年か前のできごとを、憶いだそうとした。しかし、手によって、レトルトの外側から球体を観察し、得られた情報を解 それは、頭の奥のほうで、形をとりそうにみえて、いっこうに、は析するとただちに、溶液調節機構を動かして最適の成分と温度をも つきりした姿をみせなかった。彼は、もうすこしですべてが解決すっ溶液をつくり、パイプによってレトルト内に送りこむーーーといっ るような気がして、二度、三度、頭をふった。 た単調で完璧なフィード・ハックを行なっていた。 したがって球体は、なんの不満もなく理想的な状態で、その生命 エルルはけげんそうに、顔をあげてアロロをみつめた。アロロはをはぐくむことができた。 なにもいわず、考えつづけた。だが、いっこうに記憶はもどりそう「どんな赤ちゃんが生まれるかしら、楽しみだわ」 になかった。 「ムムムに似ているにちがいないさ」

10. SFマガジン 1969年12月号

「かれは《宇宙飛行委員会》など関係ない」 聞きまちがいではなかった。しかし二度くりかえされる自分の名「おい、何を言っているんだ。資料を送れと言っているのだそ」 「その大物とは誰だ ? 」 に、アサはまるで実感がともなわなかった。 「 : : : おい、資料部は頭がおかしくなっちまったぜ : : : 」 「聞えたか ? 」 不審を感じたか、語尾がはね上った。 声の主は他の誰かに顔を向けたらしく、声が遠のいた。アサは叫 び出したいのを必死にこらえた。 「わかった。で、この三名は何かしたのか ? 」 アサは一瞬、相手は自分の声をよく知っているのではないだろう「わかった。三人だな。すぐ送ろう , か、という不安につつまれた。 「いそいでくれ。それからおまえの名は ? 」 「《宇宙飛行委員会》と関係していると考えられるのだ」 アサは思わず車椅子のひじかけをにぎりしめた。とっさには他の 「《宇宙飛行委員会》と関係している ? 誰が ? 」 名前は思いっかない 「今言ったろう。三人の名をー 「名前だよ。どうした ? 」 ーの名前が幾つかひらめいたが、うかつにそれは アサはなぜか自分がひどく危険な状態におちいっていることを感委員会のメイ ( じた。 口にできない。 「その三人が《宇宙飛行委員会》のメン。ハーであることははっきり「テ = 、テ 1 ハンだ。補助要員で来ているー : テュ・ハンだとよ。でも、テュ・ハンというとあの : : : 」 しているのか ? 」 「そうだ。おそらくそうだ」 インターフォンが切れた。アサはくちびるをかみしめた。相手は 「なぜ ? 」 テュンの名を知っている。この時間に、テュ・ハンが資料部にいる 「なぜ ? おいおい、われわれは《宇宙飛行委員会》の調査にはたということにうたがいをいだいたようだった。どうしたらよいだろ シティ いへんな苦労をして万全を期しているんだぜ。市は市民が宇宙へ飛う ? アサは胸の奥底からこみ上げてくる不安に息を荒くした。保 び出してゆくことはきびしく禁じているじゃないか , 安部から要求のあった三名の資料を送った方がよいのか、それとも このままここを逃げ出した方がよいのか、アサにはきめがたかっ 「アサという男は知っているが、かれが《宇宙飛行委員会》のメン ーとは思えないが」 た。確信めいた保安部員の口調では、連行されてから身の証しをた 「われわれのメイハーの一人が、かれらの大物をつきとめて逮捕してることは極めて難かしいと思われる。事実、これまでもそのよう た。そいつの持っていたノートに名前が出ていたのだ」 な例は多かった。市がそれをきらうということは連合がそれをきら っていることなのだ。《宇宙飛行委員会》の大物のノートに名前が 「それはちがうな」 あったーーーそのことはアサの申し開きを受けつける余地もないであ 「ちがう ? なぜ ? 」 シティ 9