る。きみの戦闘艇を動かすとなると、他の艇も動かさなければなら このあたりの死体は、すでに取りかたづけられ、洗浄機が泡沫を ん。面倒なことを言わないでくれ」 吐きだしながら、床を這いまわっていた。戦闘はこの近くまで拡大 「しかし、脱出したテラ星人を見逃がすことになります。いま追えされたが、ろくろく武器も持たないテラ星人たちは、緊急出動した ば、まにあいますー ザミーン兵士に包囲され、半分は惨殺され、残りの半分は捕虜にな ったという。 「たかの知れた一握りのテラ星人に、なにができるというのだ ? 惑星テラの宇宙基地は、全てわれわれの手に握られている。脱出し大会議室には、敵味方いりみたれた死体が、まだそのまま放置さ たところで、僅かばかりのテラ星人に、かまう必要はない。私は忙れていた。さっき、イスナード 6 の手で斃した五つの死体も、折り しいのだ」 かさなって倒れていた。 いた ムラドベイ 8 は、イスナードの意見に、まったく関心を示さなか イスナード 6 は、黒焦げになった死体を悼ましげに見やってか ら、ホールの奥へ進んだ。そこに、数人のテラ星人が、茫然自失の この司令の関心は、破壊された上層プロックの修復だけに集中し体で立ちつくしていた。 ている。視察団の到着が迫っているという事実だけが、ほかのなに 副盟主グランストン、保安局長キャンベルの姿がある。そして、 より優先しているのである。 非常事態がとかれてから、呼びよせられたのだろう。ャッシャ・ホ 化ハインの姿もあった。 イスナ 1 ド 6 は、沈黙した。これ以上なにを言っても、無駄であ ろう。これまでの経歴を大過なくすごしてきたムラドベイ 8 は、テ イスナード 6 は、なっかしくホル・ハインを見つめた。あの最後の ラ星占領を記念するモ = = メントの製作のことしか、興味を示さな晩に、コンタチバーヌ星人のドビイをまじえて話して以来、事故の かった。このモ = メントが、かれの経歴にもうひとつの功績をつ起こった ( ッチで無言の対決を挑んでから、ホル。 ( インには会って け加えることになるのだろう。 いなかった。いや、イスナード 6 のほうは、人工惑星アルカディア を脱出するホルインを、密かに見送っている。だが、いずれにし イスナード 6 は、豚のように肥えふとった上司のそばをはなれ、 司令室をあとにした。回廊にでると、ちょうど一個の彫刻が運びだても、あの最後の晩以来、イスナードは、ホル。ハインとは、ロを されるところだった。それは、光線銃を高くかかげたザミーン戦士きいていなかった。 の足もとに、四、五人のテラ星人が踏みつけられているという構図イスナード 6 には、無二の親友として過ごしていた頃のことが、 の彫像たった。踏みつけられたテラ星人は、ことさらに誇張されたまるで数十年も昔のことのように思えた。 グロテスクな表情をしていた。 今、イスナード 6 は、占領軍の一方の隊長として、テラ星に進駐 イスナード 6 は、胸がわるくなるような気がして、足早に彫像のしてきた。そして、ホルバインは、イスナード 6 の手にかかった同 おえっ そばを通りぬけた。 胞の死屍を前にして、嗚咽をこらえているのだった。 てい 3 ー 0
対して叛意を抱かせ、そを逆用して抹殺しさえすればよい。ムラド べイ 8 は、そういった任務には、まさに打ってつけだった。 イスナード 6 は、衛星就道の遙か下方に横たわる青く美しい大陸 と大洋を、じっと見つめていた。 惑星ザミーンのイスナード 6 は、テラ星大気圏外の衛星軌道にパ ークした宇宙船のなかで、圏内突入の指示を待ちつづけていた。 この惑星は、異星の友ホルバインの故郷である。コンタチ・ハーヌ この宇宙船は、かれの指揮している船団の旗艦であるが、近くに星に留学していた頃、い つの日か訪れたいと言ったことがある。そ 僚船の姿は見あたらない。イスナード 6 の宇宙船と編隊形をつくつの希望がかなって、イスナード 6 は、いま惑星テラを見おろしてい ているのは、ルンガ人の円盤や、コンタチバーヌ星人の左右不対称た。もちろん、こんな任務を帯びて、惑星テラへやってくることに なるとは、夢にも思っていなかったのである。 の宇宙船など、異星のものばかりだった。 イスナード 6 は、狡猾な上司シカンダルが、惑星ザミーンへ戻「大気圏突入の指令が入りました」 るとき指示していった言葉を想いだした。 とっぜん、イスナード 6 の背後から、若々しい声が呼びかけた。 若い士官ラタンポル 2 だった。この青年は、予備検定を通ったば ザミーンの宇宙船だけで編隊を組むなと、シカンダルは、言い かりの航宙士で、一年ほどまえからイスナード 6 の指揮下に配属さ のこした。 今にして考えれば、それは、テラ星人の抵抗を予想していたかられている。 である。ザミーンの宇宙船団は、編隊をとかれ、諸星の宇宙船団と「異星の僚船に、突入の指示を伝えろ」 イスナード 6 は、命令した。いつものラタンポル 2 なら、きびき 混合で再編制された。もし、テラ星人が抵抗しようとしても、ザミ 1 ンだけを敵とすることができないように、手をうっておいたわけびした動作で命令を実行するところだが、青年は立ちつくしたまま である。この隊形の船団に戦いを挑もうとすれば、テラ星人は、自だった。なにか言いたげに、じっと上司の顔を見つめている。 ら星間連合を敵とすることになる。そんなところには、妙に勘の鋭「どうした ? 」 いシカンダル川であった。 「船団司令、ついに、この日が来たのですね。憎むべきテラ星を占 テラ星占領軍の司令には、 8 の階級を持っムラドベイ 8 が就任し領できるのです。われわれ惑星ザミーンの宇宙関係者が、この日の た。この男は、これまで大過なく軍務を勤めあげてきた、さして有来るのを、どれほど待ちこがれていたか。それが現実のものとなっ 能とも思えない司令である。階級を笠にきて横暴だという噂のあるたのです」 男を、敢えてテラ星派遣軍の司令にすえたのは、シカンダル川の独ラタンポル 2 は、この感激を上司のイスナード 6 と分かちあいた せんぶ 断である。もともと、テラ星占領の任務には、住民の宣撫など必要かったのである。 イスナード 6 は、この青年の身上調書に書かれていたことを想い ではない。憎むべきテラ星人をできるだけ追いつめ、星間連合軍に 3 295
「イスナ 1 ド 6 」ホルバインが叫んだ。 これまでのホ化ハインはイスナード 6 を呼ぶとき、 6 という階級 称をつけて呼びかけたことはない。・ サミーンの階級称はテラ星でい 2 う敬称にあたるもので、新しい間柄ではつけないのが普通である。 「この五人を殺したのは、きみの仕業だということだな」 ホル・ハインの瞳が燃えていた。 イスナード 6 は、無言だった。殺さなければ、こちらが殺された」 という言葉を、喉の奥にのみこんでいたのだ。 「この男は、ジムといって、私の部下だった。アルカディアに監禁 5 され、地球へ送還されるなり、地下牢へぶちこまれた。だから、占 領を受けいれたといっても、なかなか承服しなかった。いい若者だ った。きみが殺したのだ」 ホル・ハインは、足もとに転がっている肉塊のひとつを見やった。 9 カ かってジムであったものを見つめるホル・ハインの表情は、やり場の ない憤激に紅潮していた。 イスナード 6 は、いたたまれない気持だ 0 た。どのように弁解しリ一を ても、ホルバインの心を和げることはできないだろう。そもそもの 2 根源は、テラ星を陥れたザミーンの奸策にあったのだから。 そのとき、背後で大声でわめく者があった。二人のザミーン兵士 に腕をとられ、ヤン老人が引きだされてきた。 ャン老人は、イスナード 6 とホ化ハインのあいだを通って、グラ ンストンのまえに連れだされた。イスナード 6 は、むしろ救われた ような気持だった。ホルバインの非難は、いつはてるとも知れなか った。そうして非難の矢面に立っているのは、イスナード 6 には苦「 だったからである。 ■中内正利著 活きた英語を習熟するには言葉だけ ! ! 」では十分ではない。本書はアメリカ : の風物 , 事物 , 習慣などを有名作家 の作品を引用し , 300 数葉の写真を 挿入して詳しく , わかりやすく論じ ! ながら , 活きた英語と生きたアメリ 力を学ばせる画期的な本 / 四六版特製 432 頁写真 300 数葉 ■定価 1300 円 0 絶賛発売中 3
らん すりが取り壊され、ザミーンから運ばれたと思われる彫刻のある闌 ラタンポル 2 は、済まなそうに答えた。この若い土官は、命令さ ヴィジフォーン 干に取りかえられていた。 れるままに映話のまえに、かじりついていたのだろう。この男を 0 リフタ スライド - ・ウェイ また、昇降機や走路を示す標識などは、全てザミーン文字の責めても仕方があるまい ものに付けかえてあった。 イスナード 6 は、ただちに屯所をとびだした。いちばん近くにあ る昇降機にとびのって、そのまま地上へ向かった。 イスナード 6 は、これらの変化に、たまらなく異和感を抱いた。 総司令ムラドベイ 8 のやりそうなことである。惑星ザミーンの勝宇宙市の地表部分は、広大なベトンの原野になっている。そこで 利を印象づけるため、このような取るにたらぬことから、手をつけ は、数十台の作業車が動きまわっていた。コン。ヒ = 1 タの誘導によ たのだろう。イスナード 6 は、近いうちに、惑星ザミーンから占領って、幅五メートルもある。フラシを引きずりながら、ザミーン文字 の歓迎の言葉を塗りたくっている車もある。スペースフレーム構造 行政を視察するため、政府高官がやってくることを、聞き知ってい た。ムラドベイ 8 は、それら視察官を満足させるため、改装工事をの歓迎台を即製で造りあげている車もある。反重力の干渉で割れた 部分を修復している車もあった。 優先したに違いない。 イスナード 6 は、そんなことより先にしなければならないことが それらの作業車は、全てテラ星のもので、誘導にあたっているの 山積していると思った。 は、テラ星のエ人ばかりだった。イスナード 6 の部下は、武装をつ 惑星テラの工業生産量の調査、宇宙船の船籍簿と拿捕した船舶とけて、テラ星人の作業を監督していたのである。 の照合、過去数年間の貿易収支と在庫品の確認、さらに武器のリス使役されるテラ星のエ人たちは、無念そうに唇を噛んで、作業車 トと押収した兵器とをチェックすることなど、すぐにでも着手しなのコントローラーに向かっていた。 ければならない仕事が、いくらでもあるはずだった。 とっぜん、文字を描いていた作業車の一台が、クルリと向きを変 とん イスナード 6 は、回廊を走りぬけて、自分の部下の屯所にあてらえた。作業車のプラシは、これまでと異る動きをはじめた。右から れたプロックへ駈けつけた。だが、かれの部下の姿はなかった。そ左へ向かって、ザミーンのものでない文字が描きだされた。 のかわりに、広い屯所のなかで、ラタンポル 2 たけが、ただ一人す〈地球は亡びない〉 わりこんでいた。 その文字は、テラ星の言葉で、そう読めた。 「私の中隊は、どこへ移動したのだ ? 」 文字を完成させたとたんに、テラ星のエ人は、コントローラーを 「宇宙市の地表部分に、視察団歓迎の文字を書く作業に当っていま突きたおして、立ちあがった。その男が、ベトンの原野を駈けぬけ る。 す。ぼくだけは、連絡用に残されました」 「直属の上官の命令もなしにか ? 」 その後姿めがけて、ザミーンの兵士たちは、、 しっせいに光線銃の 「なにしろ、司令官命令ですから・ : 銃口をそろえた。幾筋もの光条が、テラ星人の姿を押しつつんだ。
合だからである。すでに、副盟主のクラーク・グランストンという論した。反論というより、むしろ、たしなめるような調子である。 男が、協力を申しでている。私は、この男を盟主に昇格させ、占領「もちろん、そのことは、私も承知しております。しかし、グラン 行政に協力させようと考えているのだ」 ストンが、タクマールから、それほど信頼されていたからには、な ムラドベイ 8 は、主だった高級将校を集め、陽気な口調で言いわにか理由があるはずです。司令のいわれるように節操のない人間な たした。高級将校たちは、一も二もなく賛成した。唯一人イスナー ら、これほどの地位に昇進できませんー ド 6 だけが反対した。 「そこが、テラ星の制度の欠陥なのだ。グランストンのように事務 「グランストンは、処刑したタクマールにつぐ要職にある男です。的才能のある人間が不足していたから、副盟主の地位を与えられ アスト戸ゲーター その男が、先方から協力を申しでるということ自体、あまりにも話た。だが、一般の航宙士は、この男を無能呼ばわりしていたとい がうますぎると思います。テラ星人が、おめおめと占領を受けいれう。とにかく、きみ一人の反対で、決定をくつがえすつもりはな たのは、なにかの裏があるからに違いありません。協力者を募るこ ムラドベイ 8 は、イスナ 1 ド 6 の反論を封じてしまった。 とに、異議はありませんが、グランストンをはじめとする旧幹部を 追放すべきだと思います。協力者は、残りのテラ星人のなかから、 会議の結果、グランストンを盟主に昇格させ、一応はテラ星の自 選ぶべきです」 治を保たせる。ただし、生産区など重要なポイントは、占領軍によ イスナ 1 ド 6 は、親友ホルバインの性格を想いだしながら発言しって確保される。グランストンの閣内の人選は委せるが、特に反ザ ようかい た。ホルバイノよ、、 、をしったん決めたことは、どんなことをしてもや ミーン思想の持主だと判断される人物の起用には、断乎として容喙 りぬく性格だった。おとなしく占領され、そのまま引きさがるとはする権利をザミーン側に留保する、などの決定が行なわれ、第一回 思えなかった。 の会議は散会した。 どうやら、ムラドベイ 8 をはじめとする惑星ザミーンの上層部イスナード 6 は、ほかの高級将校と別かれ、ただ一人、議場とな は、占領の成功に有頂天になり、テラ星人をみくびりはじめたようった司令区をでた。テラ星人から押収した地図を頼りに、この宇宙 である。 市のなかを歩いてみるつもりだった。 「イスナード、私は、ろくろく調査もせずにこのような重大な決定宇宙市の内部は、森閑として静まりかえっていた。惑星ザミーン をしたわけではない。グランストンの立場を考えてのことた。このの占領軍は、地下市街の上層プロックを確保しているだけで、下層 男は、航宙士偏重のテラ星の制度のなかで、たいへん不満を感じて。フロックには手をつけていない。 力しらし イスナード 6 の行手の架廊では、テラ星の壁画が塗りつぶされ、 いたという。つまり、われわれから見れば、傀儡としてもっとも利 つづれおりどんちょう 用しやすい男ということになる , そのうえにザミーン風の綴織の緞帳が掛けられていた。その下にあ ムラドベイ 8 は、ものの判ったような口調で、イスナード 6 に反る吹抜けの大ホールを見わたすあたりでは、惑星テラの中世風の手 つの 30 ー
イスナード 6 は、年老いだサイボ 1 グを連行した兵士に、歩みよは、まるで大死だった。私のいうことをよく聴いてくれ。今後、私 の命令に叛く者があれば、容赦なく処分する。今度の叛乱の首謀者 った。「その老人は ? 」 「叛乱の首謀者だと自称しているので、司令のところへ連行しましは、ただちに分子破壊機で処刑する」 グランストンは、厳しく言いわたした。その一 = ロ葉の裏には、硬い たが、グランストンに渡せといわれました」 ザミーンの兵士は、首をかしげている。せつかく捕えた反乱の首決意があふれている。 謀者を、テラ星人の実力者に渡せと命令されては、疑問に思うのも「処刑したらよかろう。わしは、すでに三世紀も生きてきた。憎い 無理ではない。おそらく、ムラドベイ 8 の頭は、テラ星人の武装蜂青面鬼にひれ伏してまで、生きながらえようとは思わぬ。グランス 起の真相を追及することよりも、視察団歓迎の準備のことでいつば トン、おぬしは、盟主ハサン・タクマールの信頼を裏切った卑怯者 いだったのだろう。 だ。それほどまでにして、ザミーンの悪魔の機嫌をとりたいかー 「私が、この男を調べようー ャン老人は、傲然とうそぶいた。だが、グランストンは、なにも イスナード 6 は、年老いたサイボーグに向かいあった。・ サミーン答えなかった。 の兵士は、厄介ばらいができたというようにホ ] ルから出ていった。 ャン老人は、やにわにイスナード 6 を無視して、グランストンの 8 まえにとびだした。 つらよご 星間連合軍の占領を受けた地球上各地は、大混乱に陥っていた。 「臆病者のモグラモチめ。おぬしは、地球人の面汚しだ。わしら アストロゲーター 宇宙市では、ザミーンに擁立され盟主の地位についたグランスト 航宙士は、おぬしのような情ない男を、盟主として迎えることは できぬ。これを見ろ。多くの若者が、地球の汚名をそそぐため、喜ンは、叛乱に加わった者を捕え、ことごとく地底の牢獄に押しこめ んで死んでいったのだ。おぬしのようなモグラモチには、われわれた。その他の人々は、連日にわたって、奴隷に等しい労働にかりだ の気持が判らんのだ」 され、宇宙市の模様替えなどに使役された。 ャン老人は、あちこちに倒れている若者の死体を見まわしなが ザミーンの宇宙軍司令ムラドベイ 8 は、占領軍の諸星の派遣軍 ら、しわだらけの顔をぼろ雑布のように歪めて、グランストンに噛を、それそれ地球上各地のローカル宇宙基地に割りあて、ヒマラヤ みついた。サイボ ] グ化された老人の体のうち、人間の組織のまま宇宙市をザミ 1 ・ンだけの手に掌握してしまった。諸星の連合軍が各 残っているのは、首から上の部分だけだという。人一倍に喜怒哀楽地に移動すると、ザミーンの横暴は、ますますはなはだしくなり、 の激しい老人の性格は、この僅かばかり残った部分に、はっきり現地球人の虐殺さえ行なわれるようになった。 占領軍はヒマラヤ宇宙市の処分を完了すると、各大陸のローカル われていた。 「老人、私は、あなたを責めたくない。だが、死んでいった若者宇宙基地の解体にのりだした。 3
遙かに進歩しているらしいが、共通したものがほとんどない。占領 4 軍に加わっていても、隠者のような立場しかとることがないだろ まばゅ さらに、その隣りにある眩いばかりの光球の乗員となると、テラすさまじい音をたてて、ヒマラヤの山々が鳴動していた。その震 やザミーンの理解を超越した存在である。かれらカペラ系のエネル動は、宇宙市の地下深くにある司令室まで伝わっていた。 ギー生物は、あまりにも生活譜が違いすぎて、占領行政そのものと副盟主グランストンは、テレスクリーンを見つめて、不安そうに も無縁になってしまう。噂によれば、宇宙船と称する巨大な光球目をしばたたいていた。そのそばに、保安局長キャンベルをはじめ は、接合したカペラ系人の体そのものであるという。かれらの体組として、宇宙市の要人の姿が全員そろっている。 デマテリアライズブオトン 織にとりこんだ物質を、非物質化し光子の光茫として一定方向に噴「惑星ザミーンは、諸星と混合船団を組んでいる。ザミーンの宇宙 船だけ撃墜することは、とても不可能だ」 射しているだけらしい このように星間連合軍のメイ ( ーを見わたすと、実際の占領行政ャッシャ・ホルバインの傍らで、いまだに抗戦の意志を捨てきれ を行なううえで、テラ星人と接触するものは、イスナード 6 の種族ないャン老人が、無念そうに舌打ちする。負けん気の老人にも、こ の状況は、よくのみこめているらしい。 の他にはないということになる。 テレスクリーンには、さまざまな形の宇宙船の着陸が、巨大な重 イスナード 6 は、機関室のラタンポル 2 を呼びよせて、命令をく 量感を持って写しだされていた。 だした。 「大気圏に突入する。目的地は、テラ星のユーラシア大陸の中央ヒマラヤの大地の鳴動は、これらの宇宙船団によってつくりださ れた。反重力装置が生みだす強大な重力場が、周囲の大気に干渉 部。ヒマラヤ山中にある宇宙市に着陸するー まもなく、コン。ヒ = ータの計算により、突入開始の指示が機関部し、竜巻きのような上昇気流を発生させ、高原の冷気を攪拌してい に伝えられた。反重力装置によって室内にショックが加わらないよるのである。 うになっているが、始動の瞬間の小さな衝撃が、イスナード 6 の体宇宙市のベトンの原野をとりまく山々には、春の残雪の白い斑点 が、シンメトリカルな模様を描いていた。高原の丈低い樹木の緑 を僅かだけ揺さぶった。 下方に拡がる惑星テラの大地は、白い雲にさえぎられ、青味をおは、萠えはじめた生命の息吹きを、あたり一帯に振りまいていた。 アストロゲーター かって地球の航宙士たちは、異星の財貨を満載して帰投する びた美しい模様のように見えた。 と、針葉樹の林や誇らしげに自然を歌う小鳥や、睡けを誘う犂牛の 咆声に迎えられ、このベトンの原野に降りたったものである。 をれは、地球という絆で結ばれた全生物が、遠い星の世界へ進出 かくはん 298
グンドルフとタッカーは、ヘリカーのフードのなかで顔を見あわ 見おろす架廊の一端へ走った。 核手榴弾に使われるカリフォルニウムは、臨界量わすか一・五グせた。 ラム つまり、直径二・七ミリの球体ほどの量があれば、臨界爆「モグラモチめ。ザミーンの走狗になりはてたな」 発を起こす。 「突っ走りましよう。あの顔を見ていると、胸くそが悪くなる」 グンドルフの手を放れたカリフォルニウム手榴弾は、はるか下方タッカーは、吐きすてるように叫んで、猛然とヘリカーをスター のゲートの基部にむかって落下していく。ゲートの上方の架廊に伏トさせた。ヘリカーは、はるか上方のハッチにとびこみ、地表にお せたまま、グンドルフは、爆発までの数分の一秒を、信じられない どりでた。それにつづいて、凍りついた池から飛びたっ野鴨の群の っせいに浮かびあがった。 くらい長く感じた。 ように、数十のヘリカーがし 幸い、自動迎撃装置がとりはずされたあと、これといった対空砲 まもなく、架廊全体をふるわせて、小規模の核爆発が起こった。 「よし、行け」グンドルフが、身を起こして、光線銃をふると、百火は設備されていない。地表にいた作業監督のザミーン兵士が発砲 したため、十数台のヘリカーが撃墜されたが、残りの大部分は遙か しっせいにはねおぎて、非常階段を駈けおりた。 人近い一行は、、 ポリスチール ゲ , ートの基部に降りてみると、部厚い重合鋼の隔壁が、溶融され彼方に逃がれさった。 イスナード 6 は、上層。フロックの叛乱を鎮圧し、司令室のスクリ て大穴をあけていた。 ーンに写しだされたヘリカーの編隊を見つめていた。 ゲートの隔壁の向こう側は、ヘリカーのガレージになっている。 タッカーとグンドルフは、手近な〈リカーの一台に乗りこんだ。厚「急いで作業を完成させろ。大会議室の壁にあったザミーンの紋章 いベトンの隔壁を信用したためだろうか、ザミーンの占領軍は、〈も破壊されている。それから、第 6 回廊のザミーン美術展の装飾も リカーのエネルギーまでは手をつけていなかったらしい 修理して . おけ」 ムラドベイは、忙しく出入りする兵士たちに、叩きつけるように いつばいに上がっているエネルギー・ゲージを確認し 二人は、 命令を与えている。 て、につこりとうなすきあった。 「司令、あのヘリカーを追わないのですか ? 」 タッカーとグンドルフが、ヘリカーの熱交換エンジンをスタート イスナード 6 は、肥えた司令のそばに歩みよって、スクリーンの させた時、ガレージの天蓋いつばいに、副盟主グランストンの顔が 光景を指さした。「なんのために、追うのだ ? 」 写しだされ、ポリュームいつばいの声が流れだした。 「航宙士諸君、きみたちの叛乱は失敗した。武器を捨てて投降すれ「やつらを逃がしていいのですか ? 私に追跡を命令してくださ ヘリカーなど、戦闘艇が一隻あれば、全部たたきおとせるので ば、生命を保証する。きみたちの暴挙が、どれほど地球人類の立場 を危くし、人類を苦境に陥れたか、考えてみるのだ。ただちに投降す」 「戦闘艇は、視察団歓迎のため、隊列をととのえてパークーしてあ せよ。さもないと、陽子砲を用いてただちに撃減するー 309
ドアが押し開かれ、武器を手にした数十人の地球人が、血相かえて 「パルス射ちだ , 乱入してきたのである。 あとじさ 大ホールをとびかう光条は、。 ( ネルライトの壁を吹きとばし、取地球人の一人が、恐怖に怯えた声をあげ、後退りした。その男に いっせいに後退し姿を消した。 つづいて、他の地球人も、 りつけたばかりのザミ 1 ンの紋章を粉砕し、議場のステップやテー ザミーン戦士イスナード 6 は、テー。フルや議事レコーダーの影か ブルを蒸発させた。 ムラドベイ 8 をとりまく士官の一人が、すばやく電磁パリャーのら這いだした部下たちを集め、きびしく命令した。 遮断壁を降ろし、昇降機につながる後部入口と、要人のいる前部入「脱走したテラ星人を捕えろ。昇降機や走路の電源を遮断し、かれ ロとを分断した。後部にとり残されたザミーンの兵士は、次々に地らを追いつめて降伏させろ , ザミーン兵士たちは、イスナード 6 の命令を実行するため、四方 球人の銃火に斃されていったが、その間にムラドベイ 8 やグランス トンの一行は、前部入口から脱出することができた。 に散っていった。 リャーのエネルギー盤を射ちくだき、 その頃、アーガトン・グンドルフは、ホル。ハインの制止を振りき 勝ちほこった地球人が、・ハ ムラドベイたちを追おうとした時、前部入口から一人のザミーン戦って、昇降機にとびこみ、上層プロックにたどりついた。ここまで リフタ 士が戻ってきた。メタリックに輝く制服の胸に、ザミーンの文字でやってきたのは、グンドルフのグループが最後だった。昇降機の電 6 の階級章が縫いつけてある。 源が断たれたため、それより後発のグルー。フは、地下に取りのこさ 「無益な抵抗は止めろ。きさまたちのしていることのため、テラ星れたのである。 グンドルフは、先発のタッカーを追って、地の理を心得た上層プ は今より以上の苦境に立たされるのだぞ」 ロックを駈けまわり、押収されぬままになっていた武器庫から、核 ホールの大半を占拠した地球人のまえに、単身おどりこんできた ザミーン戦士は、恐れる様子もなく言いはなった。その言葉には、手榴弾と光線銃を手にいれ、五十人ばかりの仲間とともにゲートに 向かった。 悟すような暖い感情がこもっていた。 スライド・ウェイ だが、地球人の血に餓えた耳に、ザミーン戦士の警告は通じなか停止した走路の上を走りぬけると、ゲートの近くの架廊の上 で奮戦しているタッカーの一行が目に入った。グンドルフは、ただ った。五人の地球人が相手を一人とみて猛然と銃を振りあげた。 その一瞬、ザミーン戦士の右手が腰のホルスターにかかったかとちに救援にかけつけ、ザミーン兵を追いちらした。 思うと、五つの閃光が断続して閃いた。吐きだされた紫色の閃光「ゲートが破れないのです」 タッカーは、息せききって、グンドルフにかけよって訴えた。 は、正確に〇・一秒のパルスをきって、五人の地球人をとらえた。 「そのために、こいつを用意して来た」 肉の焦げる臭いと体組織の蒸発した煙りが去ったあと、ザミーン グンドルフは、ベルトにつけた核手榴弾を抜きとって、ゲートを 戦士は、つい今まで人間であった肉塊を見おろして、堂々と立って 308
の生れる前の姿だ、と考えられてい まさしく前記と同じ一立方センチに かれらのテラ星人に対する態度は、過酷なものになっていくであろ = る。この雲が次第に凝縮して高密度一万原子程度なのである。 う。シカンダル川は、そのことを見越していたに違いない。 こう書いてくると、星の生れてく となり、温度が上り、果ては一つの る過程は簡単明療のようだが、どっ 星として燃え出す、というのだ。 イスナード 6 は、テレスクリーンに写る異星の宇宙船に、目をむ こいそうはいかない。いたるところ - しかし、その過程は、まだまだは けた。 つきりとはつかまえられていない。 に、不確かだったり、納得のいかな い部分があるのだ。 電波望遠鏡でたしかめられたガス 腕足類の貝殻を合わせたように見えるのは、ルンガ人の円盤であ 例えば、電波望遠鏡で測定された ii 雲の密度は、一立方センチにつき原 る。かれらルンガ人は、空中窒素の同定によって生命を維持してい 子一個から百個という稀薄さであ前記のごく稀薄な星間ガス雲の質量 - は、大きく二つにわけられる。太陽 る。このままではとても星は生れる るから、惑星テラの大気を苦にしないだろう。だが、かれらは、非 の質量の三〇倍より小さいか、また はずがない。もっと凝縮し、さらに 常に臆病な生物であるから、なるべくテラ星人との接触を避けよう = 高密度になったときはじめて星の生は太陽の質量の三百借より大きい 0 れる可能性が生じてくるのだ。 か、である。なぜその中間の質量を とするに違いな、。 もっガス雲が存在しないのか ? そこで登場するのが、「グロビュ 左右不対称で、岩屑をつけあわせたように見えるのは、コンタチ「 また 0 星やウルフ・ライエット ール」と呼ばれる、チリとガスとの 塊である暗い小さな星間雲だ。その星の他に、やはり若い星と考えられ バーヌ星人の宇宙船である。かれらフォーマルハウト系の臭素生物 密度は、その不透明さから見て一立るものに、 e ・タウリ星と呼ばれる弸 は、はじめて惑星テラを訪れた種族である。外形的には似たところ「方センチにつき一万原子、そしてそ種類の星がある。これらの星は太陽 の質量はだいたい星の質量程度より表面温度も明るさも少し明るい : ないが、惑星テラの悲劇にかなり同情的で、むしろ惑星ザミーン と考えられている。 程度と思われ、スペクトル分析によ に敵意を抱いていると思われるふしさえあった。特に、かれらの司 この「グロビ、ール」こそ星が生ると周囲の大気が非常に荒れている のでまだまだ平衡状態に達していな - れる直前のガス雲の状態ではないか 令ドービイを扱う際には、もつばら懐柔策をとるよう心掛けなけれ い若い星と考えられている。 と天文学者たちは考えている。しか だが、その前身がどんなものかは ばならない。・ トービイは、イスナード 6 にとっても、恩師にあたる 、それを裏づける証拠はあるだ まだ皆目見当もついていないのだ。 ろう・か ? ・ 存在である。コンタチ。ハーヌ星の言葉で、ドビヌプリポッムヌビロ 考えようによれば、前記の稀薄な たくさんの「星団」や「星群」の 盟 ガス雲のうちで太陽の質量の = 一百借 : という長ったらしい本名を持っドービイは、惑星ザミーンの運 中に、濃淡さまざまのガス雲にかこ 以上のものが収縮して OX 星などの まれた無数の星を見出すことが 命すら左右しかねないキャスティング・ポートを握っている重要人 できる。これらの星の輝きとガ大きな星となり、三〇借以下のもの が収縮して e ・タウリ星などになっ 物である。 ス雲の濃度を比較してみると、より たとも考えられるが、それもまだ臆 明るく輝いている星ほど、より厚い コンタチパ ] ヌ星の宇宙船の近くにある長楕円形のものは、アケ ガス雲に包まれているのである。と測の段階を出ない。 だが、天文学者たちは日夜営々 いうことは、これらの 0 星はまだ ルナー系の珪素生物の乗船である。かれらの体組織は、炭素の代わ ごく若い状態で、それらのガス雲と精力的に研究を進めている。星々 りに同じ四価の珪素で置換したような、複雑な化合物で造られて、 し = は、中心の星が凝縮したガス雲の誕生の秘密が明るみに出されるの タイム・スケール へだた は、そう遠い先の話ではあるまい。 の残りではないかと考えられる。こ る。まるで、かれらの時間の基準が、ザミーンやテラの種族と隔っ ( 近代宇宙旅行協会提供 ) のガス雲の密度を測定してみると、 ているようなものだ。われわれの一日が、かれらの一時間にしか相 当しない。かれらアケルナー人の科学技術は、・ サミーンやテラより 世界みすてり・とひっく ! - - ミミ 297