んだからな」 ようにすらすらとたどることもできなかった。しかし、どんな質問 「し 0 かり見張 0 ているよ。〈むこう〉からきたス。 ( イを、うろつをするべきかは、わか 0 ていた。 かせておくわけこよ、 冫をしかないからね、ラテイ「 1 は立ち上り、。 ( レ彼は ( ーンがかなり外向性のムードにな 0 ている、雨の晩をえら , トに明るくほほえみかけた。「じゃ、ぞんぶんに日なたぼ 0 こしんだ。ちょうどその夜、シド・ チェット : 」 カ前週に。フログラミング てくれたまえ、ジム」 しておいたコンビ = ーター構成のフィルムが、一時間の娯楽番組と ラテイーは道を登 0 てい 0 た。ひとしきりのち、。 ( レ〉トは松して映写されたのだ。〈むこう〉が親切にも送 0 てくれていた小型 葉杖にすが 0 て、体を持ち上げた。寄せる波を見おろしながら、松「ンビ = ーターに、 ( チ = , トは線の幅と長さ、灰色の濃淡度と画 葉杖の先を水につけると、小さなうごめくものが一、二ひき、あわ像単位の進行順序を規定して、ア = メーシ = ンができるように仕組 てて逃げ去 0 てい 0 た。やがて彼はきびすをめぐらし、収容所〈のんだのだ 0 た。それは単純だがすばらしく気のきいた映画で、退屈 長い坂をゆっくりと登りはじめた。 な夜を明るいものにしてくれた。 そのあと、 ーンがいつものガードをちょっぴり下げるほど寛い でいると見てとって、バレットよ、つこ。 。しナ「ハチェットはすごい才 人だな。遠征にでかけてしまったが、きみは彼と会ったかね ? 」 それから二日後に、やっと。 ( レットは ( ーンとふたりきりになる「わし鼻であごのない、背の高い人ですか ? 」 機会に恵まれた。内海遠征隊がすでに出発してしま 0 たのは、ある「それだ。頭のいい男だよ。一九年に逮捕されるまでは、大陸解放 意味で残念だった。チャーリイ・ノートンがいてくれれば、バレッ線戦で。ヒカ一のコンビ = ーター技術者だった。。 タンテル首相が政策 ト : ( ーンの鎧をひき剥がすのに、き 0 と役に立ってくれただろの自己批判をや「た偽放送も、彼が。フログラミングしたんだ。お・ほ う。ノートンは収容所きっての理論家で、およそ見こみのなさそうえているだろう ? 」 な材料からでも、弁証法の金銀紗を織り出せる男たった。もし、 「ちょっとおぼえがないですね ! ハーンは眉を寄せた。「それはい ーンのマルクス主義への関わりあいがどの程度深いものかを、見破っごろのことです ? 」 れる人間があるとすれば、それはノートンをおいてないはずだ。 「放送があったのは二〇一八年だ。きみはまだ小さかったかな ? ほんの十一年まえだが しかし、ノートンが遠征にでかけている以上、バレットがみずか ら訊問するしか、しかたがない。彼のマルキシズムはもう錆びつき 「ぼくが十九歳のときですね。当時はあまり政治に関心がなくて」 かけていたし、レーニン主義、スターリン主義、トロッキー主義、 「それより経済学の勉強で忙しかった、というわけだな」 フルシチョフ主義、毛沢東主義、べレンコフスキー主義、ムガンプ ーンはニャリと笑った。「そのとおり。陰気な学問に首までつ ウ = 主義といった分派のあいだの細道を、チャーリイ・ノートンのかってました」 6 2 5
ってきた。 しないさ」 バレットはごっい手を上にあげた。 「新入りの肋骨に補充がないと困るからな」 「こりや傑作だ」ノートンはあまり面白がっている顔でもなかっ ーい、チャーリイ。気をつけないと、首の骨を折るそー 「ジム、わたしがどんな新入りを期待しているか、教えよう ノートンは小屋のまえで足をとめた。雨で、まばらな褐色の髪がた。 頭蓋に貼りついている。ぎらぎらと燃える、狂信者のように据わっか ? 保守派だよ。アダム・スミス直系の腹黒い反動だよ。ああ、 た限・ーー・・たぶん、それはただの乱視のせいかもしれない。息をはずそんな男がきてくれたらなあ」 ませて小屋の中へころげこむと、彼はずぶ濡れの小大のように体を「ポルシエヴィキの同志のほうが、気が合うだろうに」 震わせた。どうやら、三百ャード離れた収容所の本館から、走りづ 「ここは、ポルシエヴィキの目白押しだ」とノ 1 トン。「うす桃色 めに走ってきたらしい から真赤までな。いいかげんうんざりだと思わないかい ? 三葉虫 「どうして雨の中なんかに突っ立ってたんだね ? 」とノ 1 トンはたを釣りながらも、ケレンスキ 1 とマレンコフの功罪の比較とくる。 ずねた。 わたしは議論の相手がほしいんだよ、ジム。まっこうから、やりあ 「濡れるためさ」・ハレットは彼のあとにつづきながら答えた。「な える相手がね」 にかニュースかい ? こ 「わかったよーと、バレットは雨具を着こみながらいった。「それ 「〈ハンマー〉が発光してるんだ。お仲間がふえるらしい」 じゃ、きみの議論相手を、種も仕掛けもない〈ハンマー〉からとり 「どうして生きた輸送品だとわかるんだ ? 」 だしてみるか。首尾よく、ロうるさい客観主義者が出てきたら、お 「発光がはじまって、もう半時間になる。つまり、やつらがそれだ なぐさみだ」笑い出しながら、「いや、ひょっとすると、このまえ け念を入れているわけだよ。きっと、新しい囚人を送ってくるんの囚人がきたあとで、〈むこう〉に革命が起きたかもしれん。ひょ だ。とにかく、まだ補給品のくるころじゃない」 っとすると、左翼がもてて右翼がはみだし、ここへ送られてくるの ・ハレットはうなずいた。「わかった。すぐに行く。もし新入りだは反動分子だけになるかもしれん。そうなったら、どんな気がする ね、チャ 1 リイ ? 五十人から百人の突撃隊員だ。議論の相手にと としたら、ラティマーを相住まいにさせよう」 ノートンはきしるような笑い声を立てた。「新入りは唯物主義者って不足はなかろう。そうしているうちに、どんどんその連中がふ かもしれないぜ。ラティマーの神がかりなたわごとをしよっちゅうえてくるんだ。最後には、こっちが逆に数で圧倒されるようにな り、それを待って連中は反乱を起し、旧体制が送りこんでいたうす 聞かされたら、まあ気が狂うな。アルトマンと同居させたら ? 」 ぎたない左翼を残らず始末して 「半時間のうちに、おかまを掘られてしまうそ」 バレットは言いやめた。ノートンが愕然とした眼でまじまじと彼 9 「アルトマンはもうあの段階を卒業したよ」と / ートン。「こんど は本物の女の創造にかかっている。二流の代用品など、相手にしやを見つめ、当惑を隠すように、薄れかかった髪をしきりに撫でつけ
でかけるまでは、それもできなくてな」 きこんであった。当然のことかもしれない。 ここでは紙は払底だ 汗がバレットの顔に吹きだしていた。「いいか、ネッド、もしこし、明らかに ( ーンは〈むこう〉から用紙持参でやってきたらし 5 んどハーンが時間簾行装置のそばへいくのを見つけたら、すぐおれ い。だが、筆跡は明瞭だった。そして、その内容も明瞭だった。残 に知らせるんだ。ドンにも、だれにも、相談などせずに。わかった酷なまでに。 な ? 」 彼はホークスビル収容所の現状を分析し、バレットの知っている 「わかった」とアルトマンはいって、くつくっと笑った。「わたしあらゆるものがすでに饐えかけていることを、約五千語で総ざらい の考えを教えようか ? 〈むこう〉の連中は、われわれをみな殺ししていた。まず、住人たちは、むかしの情熱を腐らせてしまった革 にすることにきめたんだよ。 / 、ーンはその下調査にきた決死隊員命家のなれの果て、とあっさり片づけてあった。つぎは、正真正銘 さ。いずれ、連中は〈 ( ンマー〉から爆弾を送りつけて、この収容のサイコと、境界線上にあるものと、ケサダやノートンやルディガ 1 のようにまだ正気に踏みとどまっているもののリストだった。ハ 所を爆破するだろう。それまでに、こっちの手で、〈 ( ンマー〉と かなとこ 〈鉄床〉を壊してしまうべきだ」 ーンがこの三人をさえも、重いストレスに悩んだ、いっ発狂するか / レットは興味をひかれ 「しかし、なぜ彼らが決死隊員を送りつけたりするんだね ? 」とラしれぬケース、と評価していることに、く ティマ 1 た。彼の目からは、ケサダもノートンもルディガーも、はじめてホ 「そのス。 ( イを救出する方法がないかぎりーー」 かなとこ 「なんにしても、うかうかしてはおれないねーと、アルトマンは反 1 クスビル収容所の〈鉄床〉に落下してきたときとおなじようにし 論した。「〈 ( ンマー〉を破壊しよう。〈むこう〉の連中の爆破計画つかりして見えるのだが、それは彼自身のぼやけた知覚の歪み効果 を不可能にしなければーー」 のせいかもしれない。ハーンのようなアウトサイダーには、それと 「それはいい考えかもしれない。しかし はちがった、そしてたぶんもっと正確な、観点があるのだろう。 「だまらんか、ふたりともーと 、バレットはどなった。「とにか パレットは、ハーンの彼への批評をとばし読みしたくなる気持と く、この書類を読んでからだ」 たたかった。 彼は二人の男から二、三歩離れて、平たい岩の上に腰をおろし いざ読んでみると、うれしくはなかった。「ハレットはーと、 た。そして読みはじめた。 ーンは書いていた。「内部から白蟻に侵された、巨大な梁を思わせ る。一見堅固に見えるが、強い一押しが加わればあっけなく折れる だろう。最近の足の負傷が、明らかに悪影響を与えたらしい。周囲 の話では、それまでの彼は強健な肉体の持主であり、その権威も巨 ( ーンのメモは、まるで紙をむだ使いするのが最大の罪悪と考え体と腕力にあずかるところが多かった、という。現在の彼は、歩く てでもいるように、最小限のスペースへ最大限の字数をぎ 0 しり書にも不自由な体である。しかし、彼の症状はホークスビル収容所の
それをだれにするか、と彼は自問した。 ほかの連中がでかけるのに、彼は残らなければならないと考える ケサダが第一の候補者だ。強さが必要なあらゆる面で、バレットと、妙な気持がした。それは、これだけ長いあいだここを支配した につぐ強さを備えている男は彼だった。しかし、ケサダは収容所か彼にも、退位が迫っているという認識たった。自分でそう認める気 冫。しかない。旅に医者が同行するのは望ましいにちがあろうとなかろうと、彼は見るとおりのかたわな老人であり、そ ら離れるわけこま、 がいないが、ここは医者なしではすまされないのだ。しばらく考えれは近いうちに決着を迫られるだろう事実なのだ。 たのち、バレットはチャ 1 リイ・ノ 1 トンの名を、隊長として書きその午後、内海遠征隊にえらばれた連中は、装備品を決め、ルー ノートンに トを計画するために集まった。。ハレットは集会に顔を出さなかっ とめた。それから、ケン・べラルディをつけ加えた こ。ショウはもうチャーリイ・ / ートンに譲り渡したのだ。ノート は話相手がいる。ルディガー ? 去年、バレットが負傷してからナ ンなら十回近く遠征に出ているし、やりかたはこころえているにち は、ルディガーは大黒柱のような存在になっている。しかし、バレ 、刀し / . し ットは、あまり長いあいだ、彼を収容所から手離したくなかった。 遠征隊に有能な人間が必要なのはたしかだが、かといって、本拠に しかし、バレットの中にある自虐的な衝動は、彼をひとりだけの 病人とキじるしと変質者だけが残るのは困る。ルディガーは残留徒歩旅行に追い立てるのだった。今年の西の海を見ることができな だ。その釣仲間のうち、二人はリストに入った。そして、シド・ いなら、せめて、すぐ裏庭の大西洋だけは訪問しておきたい。・ハレ ジャン = クロードも。 チェットとアーニ ットは診療室に立ち寄り、ケサダが留守なのをさいわい、鎮痛剤の ( レットは、ドン・ラティマーを入れるかどうかに迷った。ラテ注射筒を一本失敬した。本館から二、三百ャード、東への道をたど ったところで、ズボンをおろし、まず良いほうの足、つぎにびつこ イマーはポーダーライン的な精神病症候を見せているが、超心理学 的な瞑想にふけるとき以外はけっこう正気だし、これまでの遠征での足の太腿へ、すばやく薬液を注射した。こうして筋肉を麻痺させ も役に立ってくれている。だが一方では、ラティマーはルー ておけば、少々の遠出をしても、関節に火のような疲労の抗議を感 ンの同居者であり、パレットはラティマーが身近にハ 1 ンを観察しじなくてもすむだろう。もっとも、いまから八時間後、鎮痛剤の効 てくれることを望んでいた。彼は二人をいっしょに簾へやることも果が薄れたときには、百万本の短剣のように、酷使の衝撃が一度に 考えてみたが、それは断念した。ハーンはまだ未知数的な人物だ。 おそってくるにちがいない。しかし、その代価は甘んじて払う覚悟 。こっこ 0 今年の遠征隊に参加させるのは冒険すぎる。だが、来春の人選には 考えてみてもいいだろう。 海への道は、長く、もの淋しかった。ホ 1 クスビル収容所は、陸 ようやく、。ハレットは十二人の男をえらんだ。彼は食堂の前の石地の東端、海抜八百フィートの高度に位置している。最初の五、六 板にその名前を書き出し、それから朝食中のチャーリイ・ノートン年のあいだ、収容所の人びとは、切り立った絶壁を伝う自殺伺然の を見つけて、彼を隊長にしたことを告げた。 ルートをたどって、海まで降りていたものだが、その後バレットの 7 4
ている。 いる。まばらな間隔で、岩盤の上へグテスクな緑色のお化けキノ ハレットは、自分がたったいま ( ホークスビル収容所で考えられコそっくりに首を出しているのは、個人用住居の。フラスチック・・ハ 3 る最大の罪を犯したことに気づいた。すっかり、ロのしまりをなくプルだ。中には、パレットの小屋のように、〈むこう〉からの補給 してしまったのだ。そんな醜態を演じるような原因は、なにもなか 品を廃物利用して、プリキ板の覆いがついているものもある。残り っこ 0 ナここでの彼は、強者であり、大黒柱であり、みんながよりか は、成型機から出てきたままのかよわい作りだった。 かることのできる誠実さと信念と分別を持った男だと見なされてい 小屋は約八十棟ある。現在のホ 1 クスビル収容所の総人員は約百 る。それが、だしぬけに自制を失ってしまったのだ。わるい前兆だ四十人、これまでの最高に近い。久しく、〈むこう〉から建築材料 った。傷ついた足がまたもや疼きはじめている。たぶん、それが原の補給がないため、新しく到着する囚人は、だれかとの同居を強い 因だったのだろう。 られていた。く ノレットをはじめ、二〇一四年以前にここへ流刑にな こわばった声で、・ハレットはいった。「さあ行こう。ひょっとすった古参者だけは、希望に応じて独居できる特権を与えられてい ると、新入りがもう着いているかもしれない」 る。 ( 中には一人住まいをいやがる人間もいた。。ハレットがそうし 二人はおもてに出た。雨は上がりかけていた。嵐が海のほうへ去ているのも、権威を保つ上で必要だと感じたからだった ) 新しい流 っていく。東のほう、のちに大西洋と呼ばれるだろうものの上に刑者は、到着といっしょに、まだ独居している連中のところへ、古 は、まだ灰色のもやを煮つめたような空があるが、西にはすでに、参の逆から割り当てられていく。二〇一五年度の流刑者の大半は、 好天を意味するふつうの濃さの灰色が現われていた。ここへ送られすでに同居人を押しつけられていた。あと十人ほどの囚人がくれ てくるまえによ、く ば、二〇一四年度のグループも、二人住まいをはじめることになる / レットは黒に近い空を予想していたものだっ た。光を散乱させて空を青く見せる塵埃の微粒子が、少ないからとだろう。もちろん、着順の新旧に関係なく死者は出るし、おなじ屋 いう理由である。しかし、実際にきてみると、空は単調なべ 1 ジュ根の下に話相手をほしがるものは多い だった。理論はあてにならない。 しかし、無期徒刑の宣告を受けた人間には、本人の希望するかぎ 小降りになった雨の中を、二人は本館へ歩いた。ノ 1 トンはパレりプライバシ 1 の権利を与えるべきだと、・ハレットは感じていた。 ここでの彼の最大の問題は、人びとを発狂から守ることなのだが、 ットの歩調に合わせようとし、パレットは松葉杖をせわしなくつい て、相手を送らせまいとした。二度ばかり、危うく転びそうになあまりにもプライ・ハシーのないことが発狂の原因なのである。親密 り、ノートンに気づかれぬように、必死にこらえた。 さが、こういう場所では、かえって耐えられないことにもなる。 ホークスビル収容所の全景が、二人のまえに現われた。 ド 1 ムを指さ ノートンは、本館の大きな、びかびかした、緑色の 約五百エーカーにわたって、それは広がっていた。中央の大きなした。「見ろ、アルトマンが入ってゆく。ルディガ 1 もだ。それ ド 1 ムが本館で、ここに各種の設備や補給品の大部分がおさまってに、ハチェットも。こりや大ごとだぞ ! 」
った。いまに、知りたいことは全部わかるだろうし、わかったとこ帯感が失われたのだ。ホークスビル収容所での二十年を経たいま、 くレットにとって非現実的なものになり、彼の 9 〈むこう〉はジム・ / ろでたいした慰めにもならない。 エネルギーは、『彼自身』のもの . と考えるようになった時代ーー・後 ・ハレットは本を手にとろうとした。だが、収容所内を歩きまわっ た疲労は、自分で思っている以上に烈しかった。ちょっとのま、彼期カン・フリア紀ーーーの危機や難問に集中するようになったのであ はページを眺めた。それから本をむこうへ置き、目を閉じて、うたる。 そんなわけで、。ハレットは耳を傾けてはいるものの、関心は〈む たねに落ちた。 ・ハーン自身について、なにが語 こう〉の近況よりも、むしろル 1 られるかということにあった。そして、ルー ・ハーン自身について 語られることは、ほとんどゼロに近かった。 ハーンはあまりしゃべらなかった。まるで、わざと質問を回避 その夕方、いつの夕方もそうするように、ホークスビル収容所の し、はぐらかしているようだった。 人たちは、食事と娯楽を求めて本館に集まった。それは強制ではな チャーリイ・ノートンがたずねていた。「あのインチキな保守主 く、中にはひとりきりの食事をえらぶものもいる。しかし、今夜だ けは、満足な心身機能保持者のほとんど全員が、顔を揃えていた。義に、まだ衰えの気配はなさそうかね ? つまり、連中はもう三十 新来者が到着して、人類の世界の近況が聞けるのは、め 0 たにない年近く、巨大政府に区切りをつける約東を口癖にしているだろう ? だがそういいながら、政府はどんどん巨大になっていくんだ」 出来事なのだ。 ハーンは、イスの中でもぞもそと身じろぎした。「まだその約束 ハーンは、とっぜんのこの人気に不安を感じているようすだっ はつづいてるようです。情勢の安定を待ってーーー」 た。元来の内気な性格が、みんなの注目の的になるのを、受けいれ 「とは、、 しつのことだね ? 」 かねているように見える。二十歳から三十歳年上の連中にとりまか 「さあ。あれは一種の口実じゃないでしようか」 れて、質問ぜめにあっている彼は、どう見てもたのしそうではなか 「じゃあ、火星革命政府のその後は ? 」と、ハチェットが質問し た。「地球へ地下運動員を送りこんでいるようすかね ? 」 片隅に坐ったパレットは、討論のほうにはあまり加わらなかっ た。〈むこう〉の思想的変遷に対する好奇心は、とっくの昔に薄れ「なんともいえません」 ている。かっての彼が、流刑にされる危険さえ冒して、サンディカ「地球総生産の数字だが」と、メル・ルディガーが知りたがった。 リズムや、プロレタリアート独裁や、年間保証賃金制といった観念「最近はどんなカー・フだ ? まだ横這い状態かね、それとも下降を に夢中になったことが、なにか信じられない気持だった。人類に対はじめたか ? 」 ハーンは耳たぶをいじりながら答えた。「ぼつぼっ下降ぎみのよ する関心が薄れたのではないが、二十一世紀の政治問題に対する連 4
ど政治活動に深入りしていたにちがいない。だが、それらしい気配 うでした」 はどこにもないそ、ジム ! 彼は頭のいい青年だが、われわれが重 「指数はどの程度だね ? 」ルディガーはたずねた。「ここでわかっ ている最後の数字は、二五年の九〇九なんだよ。しかし、それから要視するようなどんな問題にも、縁がない感じだ」 ケサダ医師が話に割りこんだ。「ひょっとすると、政治犯じゃな 四年経っているからーーこ 、、 1 ノま、つこ。 いのかもしれんよ。ここへきて、連中が毛色の違う囚人を送りはじ 「いまでは八七五ぐらいかもしれませんね」と / 経済学者ともあろうものが、基本的な経済統計の数字にあやふやめたとしてみたえ。手斧殺人犯とか、そういったたぐいだ。物静か 、、 1 ンな青年が、ある日曜の朝、物静かに十六人の人間を切り刻むことだ なのはちょっとおかしい、とパレットは思った。もっとも / が〈 ( ンマー〉にかかるまでに、どれだけの期間刑務所入りをしてってある。当然、政治なんかには無関心だろう」 ・ハレットはかぶりを振った。「それはどうかな。彼が殻に閉じこ いたかはわからない。たぶん、最近の数字にくわしくないというこ もっているのは内気さか、まだ落ちつけないかのどちらかだと思う となのだろう。 チャーリイ・ / ートンが、市民の法的権利のことで、いくつかのね。考えてもみたまえ、彼にとってはここでの第一夜だ。いましが 質問をした。 ( ーンは答えられなかった。ルディガーが、天候制御た自分の世界から叩き出されたばかりで、しかも帰れる望みはな い。おそらく、妻や幼い子供をあとに残してもいるだろう。ひとり の影響についてたずねたーー保守的と目されている解放者政権は、 まだ計画された天候をむりやり市民に押しつけているのだろうか ? きりになって心ゆくまで泣きたい心境のときに、あそこへ坐って、 、、ーンはよく知らないようすだった。一八年の自抽象的な哲学論をとくとくとしゃべれるわけがないじゃないか。ま これについても / 治権賦与令で裁判所から奪われた権限が、その後復活されたかどうあ、今夜はそっとしといてやるべきだな」 ケサダとノートンは、それで納得したようすだった。二人は同意 かにも′ 、、ーンは満足のゆく答ができなかった。人口調節というき わどい話題が出たときも、ほとんど発言をしなかった。つまり、彼を示して首をうなずかせた。しかし、パレットは、みんなにむかっ の話しぶりで印象に残ったのは、具体的な情報の乏しさということてその意見を口にはしなかった。ハーンへの質問がつづいて、やが て自然に興味が衰えてゆくのにまかせた。人びとは席を立ちはじめ だけなのだ。 た。中の二、三人は、いまのハーンの漠然とした報告を、手書きの 「あれじゃなにも言ってないのとおんなじだ」と、チャーリイ・ノ 〈ホ 1 クスビル収容所新聞〉のトップ記事にするために、奥の部屋 ートンは無言のパレットに不平をこぼした。「たいした煙幕だよ。 へ入った。ルディガーはテー・フルの上に登って、これから夜の漁に 知っていて話さないのか、それとも、ほんとうに知らないのか」 「たぶん、あまり利ロじゃないんだろう」と。 ( レットはいってみ出ると大声で宣言し、四人の男が参加を申し出た。チャーリイ・ノ トノま、、 、をしつもの討論相手であるニヒリストのケン・べラルディ 「ここへ送られてくるような男がかね ? そうなった以上は、よほを探し出し、おたがいにわめきだしたいほど飽き飽きしている計画 4
かぶりを振って、 ーンはドアのそばを離れた。バレ , トは先にむりもないがね。そらーーこの鎮静剤を打 0 ておけば、す 0 かりよ 立 0 て廊下を進み、診療室に使われている小さな明るい照明の部屋くなる。すくなくとも、ここでは最高の健康状態に戻れるよ」 に入 0 た。そこには、ケサダ医師が待ちうけていた。ケサダは本物彼は ( ーの頸動脈にチ = ー・ , をあて、先端を押えた。亜音波が の医師ではなか 0 たが、むかし医学機械の技術員をしていた経験を唸りを上け、鎮静剤が男の血流に注ぎこまれてい 0 た。 ( ーンはそ 買われたのである。色の浅黒い小柄な男で、自信た 0 ぶりな表情のく 0 と身ぶるいした。 持ちぬしだ 0 た。あらゆる事情を考えた場合、それほど多くの患者ケサダはい 0 た。「五分間安静にさせておこう。それで峠は越え を死なせているとはいえない。く 一レットは、彼が沈着そのものの態るだろう、 度で虫垂炎の手術をするのに、立ち会ったこともある。白衣を着け ーンを吊り床に残して、二人は診療室を出た。廊下で、バレッ たケサダは、医者という役柄にけっこう似つかわしく見えていた。 トは小柄な医師に向きなお 0 てたずねた。「ヴァルドストの経過は バレットはいった。「先生、新しくきたルー ・ハーンだ。時間シ ? 」 ョック症らしい。よろしくたのむよ」 ヴァルドストは、数週間前に精神異常をきたした男である。ケサ ケサダは新来者をうながして、気泡ネ , トの吊り床〈寝かせ、青ダは彼に睡眠薬 0 投与を 0 づけて、ゆ 0 くりとホークビ ~ 収容所 い上衣のジッパーを開いた。それから、医療キットをひきよせた。 の現実へ戻らせようとしているのだ。肩をすくめて、医師は答え いまでは、ホー , ビ ~ 収容所にも、たいていの急患に対する設備た。「現状維持だね。けさ、眠りぐすりからひき離してみたが、こ が揃っている。〈むこう〉の連中は、非人道的と言われまいとし れまでとおなじ調子だ」 て、麻酔剤や、外科用鉗子や、治療薬や、皮膚探測器など、役に立「癒る見こみはなさそうか ? 」 ちそうなあらゆるものを送りつけてきたのだ。しかし、あるものと 「おそらくね。一生あのままだろうな。〈むこう〉なら、まだなん いえばからっぽの小屋だけで、怪我をすればまず助からなかった収 とか手の打ちょうもあるだろうが 容所の初期のことを、バレットはいまでも忘れていない。 「わかった , とバレットはいった。〈むこう〉へ戻してもらえるぐ 「アルコールは与えておいたぞ」と 、くレットよいった。 らいなら、ヴァルドストははじめから気が狂わなかっただろう。 「それは知 0 てる , ケサダはつぶやいて、短く刈りつめたロひげを「じゃ、あいつの喜ぶようにしてや 0 てくれ。正気に戻れなくて 掻いた。吊り床の中の小さな診察装置がすばやい活動をはじめ、 ( も、せめて居心地よくな。アルトマンのほうはどうだ ? まだ発作 ーンの血圧や、カリウム計数や、拡張指数など、さまざまなデータが出るか ? 」 をば 0 ば 0 と示した。ケサダはそのデータの速射を、充分のみこん「女を作りにかか 0 ている」 でいるようすだった。まもなく、彼は ( ーノこ、つこ。 、冫しナ「べつに病「チャーリイ・ノートンもそういってたな。材料はなんだ ? ポロ 気というほどでもないな、そうだろう ? すこし動転しただけだ。 か、骨かーーー」 フォーム 4 3
れたものだった。砕かれた足をぶらんと垂らして、らくらくとそれ 8 によりかかっていた。去年、〈内海〉の沿岸まで旅をする途中で、 2 岩崩れの下敷きになったのである。これが故郷で起ったのなら、す ハレットはホークスビル収容所の無冠の王者だった。だれよりもぐ補綴手術をほどこしてもらえたろう。新しい踵、新しい足の甲、 古顔であり、だれよりも苦労し、だれよりも奥深い内的能力を持っ靱帯と腱の再訓練。だが、故郷は十億年の彼方にある、文字通り帰 ていた。 るすべのない故郷だった。 事故に遭うまでは、腕力でも彼にかなう者はいなかった。いまの 雨は烈しく彼を打ちすえた。バ レットは大男だった。六フィ 1 ト 彼はびつこだったが、カの霊気のようなものはまだ身辺にただよっ半の身長、奥にひっこんだ黒い瞳、とがった鼻、あごの王様のよう レットのところへ ている。収容所になにか問題が起きたときは、パ なあご。壮年のころの彼は、二百五十ポンドの体重があった。旗幟 持ちこまれるきまりだった。当然である。彼は王者なのだから。 を掲げ、声明文を叩きつけるアジテーターだった、古きよき時代の その王国の広さも、かなりのものだった。かけ値なしに、極から話である。だが、いまの彼は六十の坂を越えて、そろそろ猫背にな 極、子午線から子午線までにまたがる全世界なのだ。ただし、そのりかけ、かって隆々とした筋肉のあったあたりにも、皮膚のたるみ 世界にどれだけの価値があるかとなると、これは疑問だった。 が目につきはじめていた。ホークスビル収容所で体重をたもつの また雨が降っている。すばやい、無造作な動きで立ち上った。 ( レは、至難のわざだった。食物は栄養価はあるとしても、濃厚さがな かった。・ ヒフテキがないのは淋しい。腕足類のシチューや、三葉虫 ットは、そのおかげでぶりかえした無限の苦痛を慎重に押し隠しな がら、自分の小屋の入口まで足をひきずっていった。雨はいつも彼の炒め煮では、なにかがちがう。・ ( レットは、しかし、あらゆる苦 を苛立たせる。波形・フリキの屋根に叩ぎつける、ぬるぬるした大粒しみをすでに卒業してしまっていた。それが、リーダーと仰がれる ・パレットのような男でさえ気が狂いそう理由の一つでもあった。彼は愚痴をこ。ほさなかった。 , わめきたても の雨の音を聞くと、ジム しなかった。運命に甘んじ、永遠の流刑に耐えている彼だからこ になるのだ。彼はドアをそっと押しあけた。戸口に立った。ハレット そ、人びとが心臓をかきむしられるような過渡期を克服するのに、 は、彼の王国を見わたした。 ほとんど地平線までつづいた、不毛の岩盤。むきだしの苦天石手をかしてやれるのだった。 が、どこまでもどこまでも甲羅をつらねている。その大陸のような雨の中を小走りに人影が近づいてくる。ノートンだ。トロッキス 岩の一枚板の上で、雨しぶきが踊りまわり、跳ねまわる。一木一草ト的傾向を持った、純理論家肌のフルシチョフ主義者だった。小柄 もなし 、。・ハレットの小屋の背後には、灰色のだだっ広い海が横たわな、血の気の多い男で、収容所にニュースがあったときは、ちよく っている。空も、雨降りでなくてさえ、灰色なのだった。 ちよくメッセンジャ 1 を自分で買って出る。彼はつるつるした岩の 彼はびつこをひきながら、雨の中に出た。松葉杖の扱いはもう馴上でさかんに足をとられながら、・ハレットの小屋へむかって走りよ