「じゃあ、それが血清だよ . コウモリだった。巨大なコウモリの大群が、黒い塊になって頭上 を舞っている。 「むこうのドライバーが〈ヒッ。フおばさん〉をどこで渡ったかだ。 「きっと、何百って数だ、いや、何千かな : : : 」 そこまでは言わなかったろうな ? 」 「ほとんどロもきけなかったらしいぜ。持っていた手紙で、はじめ「そうらしい。一一、三年前にこっちへきたときより、また殖えたよ て様子がわかったんだ」 うだ。カールス。ハッドの連中も、頭をかかえてるだろう」 「ロスでは見たことがなかったがね。そうたいして害もしないんじ 「〈横丁〉を走りきるなんて、すごい腕をしたやつだったにちがい ねえ」 ゃないか」 「ああ。これまでにそれをやった男は、ひとりもいないって話じゃ 「ソルトレークへ最後に行ったときだったな、やつらが狂暴だって ないか」 話を聞いたのよ。、 。しつかは、どっちかが消えることになるぜ・・・ーーや 「おれの知るかぎりじゃな」 つらかおれたちの」 「その男に一度会ってみたかった」 「きみと乗っていると、まったく気分がうきうきするよ」 タナーはクックッと笑ってタバコをつけてから、「コーヒーでも 「おれもそう思うー わかしたらどうだ ? 」といった。「コウモリの心配は、おれたちの 「むかしのように、大陸を横ぎって無線がきかないのが残念だよ , 「なぜ ? 」 ガキどもにさせるさ。もし生まれてくればだが」 グレッグはコーヒー・ポットを満たして、。フラグをダッシュポー 「そうすれば、その男もやってこなくてすんだろうし、おれたちも わざわざこれを届けるだけの値打があるかどうか、途中でわかるつドにさしこんだ。やがて、ポットはゴボゴボと沸き立ちはじめた。 てもんだよ。ひょっとすると、連中いまごろは全減しているかもし「いったい、ありゃなんだ ? 」タナーはいって、。フレーキを踏ん れないんだからね」 だ。もう一台の車も、数百ャード後方で停止した。彼はマイクのス 「たしかにダンナのいうとおりだぜ。それにあと一、二日してみィッチを入れ、「三号車 ! あれをなんだと思う ? 」といってから 待った。 な、こんどは戻るほうが行くよりも骨だって場所へくる」 彼はそれを見つめた。天と地のあいだにかかった巨大な三角ゴマ 黒い形が通りすぎるのを見て、タナーはスクリーンを調節した。 が、一マイルほどむこうで、ぶるぶると前後左右に揺らめいてい 「おい、あれを見たか ! 」 る。数は十四、五ありそうだった。円柱のように静止したかと思う 「おれにはなにも見えない」 と、また踊りまわった。大地に食いこんで、黄色の砂塵を吸い上げ 「赤外ゴーグルをかけてみろ」 た。まわりは、いちめんに・ほうっとかすんでいる。その上空や後ろ 5 では、星が薄れ、あるいはかき消されていた。 グレッグはいわれたとおりにして、スクリーンを見上けた。
「おれをくそみそにこきおろしたのはだれだ。おれのようなやつが いということがわかったよ」 どうして生まれたと、ふしぎがったのは、どこの野郎だよ。おまえ 「おじけづいたのかグレッグ ? 」 は、世間からなにをされた、とおれにきいたつけな。なにもされね 「おれが死んじまえば、だれが家族のめんどうを見る ? 」 え、とあのときのおれは答えた。だが、いまのおれは、やつらにな 「じゃあ、なんだってこの仕事をひきうけた ? 」 にかしてやりたくなったのかもしれねえ。そんな気分になっちまっ 「こうひどいとは思わなかったんだ。そいつがいちおうわかってい たんだ。考えるひまがたっぷりあったもんでな」 ただけ、きみのほうが分別があったわけさ」 「きみは家族を養ってないからだ、ヘル。おれには、自分のほか 「まあな」 に、気にかけなくちゃならない人間がいる」 「もしおれたちがけつを割ったとしても、だれにも文句はいえない だろう。とにかく、ここまでがんばったんだ」 「おまえはトンズラするときでも、きいたふうな屁理屈をこねるや 「おまえがいっか講釈してくれた、 : - ホストンの連中はどうなるんだつだな。つまりこう言いてえのか。おれは別におじけづいちゃいね えが、おふくろや弟や妹を世話しなくちゃならねえし、それに惚れ 「もういまごろは、みんな死んじまってるさ。疫病ってやつはぐずた女もいる。だからこの仕事をオリるんだ。ほかに理由はねえ、と」 どうな しーーし ぐずしちゃいない」 「そのとおりなら、しようがないじゃないか , 「あのプラディって男はどうなる ? やつはその知らせを届けるた ってるんだよ、ヘル ? おれには、きみって人間がぜん・せんわから めに死んだんだぜ」 なくなった ! もとはといえば、きみがおれの頭にその考えを植え 「やつは走りぬいた。その努力は心から尊敬するよ。しかし、もうつけたんだそー 四人も仲間がいのちを落としたんだぜ。全員ががんばりぬいたこと「じゃあ、そいつをひきむしっておれに返しな。でかけようぜ」 を見せるために、そいつを六人にふやさなくちゃならんのか ? 」 グレッグの手がドアに固定された拳銃へ這いよるのを見て、彼は 「グレッグ、おれたちはロスにいたときよりずっとポストンの近く まできているんだ。タンクには、ポストンまで行くだけのガソリン火のついたタ。ハコを相手の顔に投げつけ、ひるむすきにみぞおちを はあっても、ひきかえすだけのガソリンはねえぜ」 一発なぐったーーーカののらない左のパンチだが、その姿勢ではそれ 「ソルトレークで補給すりやいし : 精、つばいだった。 こんどはグレッグが体当たりし、彼は座席の背に押しつけられ 「ソルトレークまでもっかどうかも、あやしいもんだ」 「ちょいと計算してみれば、そいつは出るさ。なんなら、最後の百た。二人はもみあい、グレッグの指が彼の顔をかきむしりながら、 あれなら、眠にむかって伸びてきた。 マイルかそこいらは、積んであるバイクを使えばい、。 ナーは肱から先の両手が自由になるのを待って、グレッグの頭 ガソリンもそう食わない」 7 8
ステップ わいそうな逃亡女を追いかけている。白痴みたいな愚かな女、だが りの草原でコチコチになって死んでいるとばかり : 2 愛くるしい逃亡女をもう一度手に入れようとしてうつつを抜かして「おれ以外はみんな死んだ、こんちきしようめ ! おれはナ、こう 0 やってうぬと会うことばかり考えていた。イ。ハラの間を腹ばうとき 「いやです ! ー女は身をよじらせ、ひたひたと葦の根もとを洗っても、蟻に肉をくわれながら岩の上に寝ていたときも、首まで沼につ いる水のほうへ眼をむけた。 かっていたときも、そればかり夢みていたが、それがほんとうにな 「行くのだ ! , 火打ち石から発した火花のようなあらわな怒り。やるとは思ってもみなかった。うおう ! 地獄の神々、お、おれはど わらかい女の四肢の抵抗を、眼にもとまらぬ早さで排除して、男はんなにこの機会を待っていたことかー 女の手首を握った。女は無残にねじふせられて膝をついた・ 荒くれ男の血に渇えたよろこびようは、見ているのもそっとする 「強情女めが ! 馬の尾にむすびつけてアキフまで曳いてゆくべき恐ろしさである。両顎がひきつったようにがつくりと噛み合さり、 ところだが、情けをかけて、鞍の前輪へのせてやる。すなおに有難黒ずんだ唇からは泡がとびだしている。 いと思え。それなのに 「近よるな ! 」シャ 1 ・アムラートは眼を細くすがめながら男に警 そのときである。葦の茂みから物の怪のような人影が飛びだし告した。 た。アムラートは言薬にならぬ憎悪の叫びをあげながら、女の手を「フフフフ ! ー嘲笑は森林狼の吠え声に似ている。「アキフの大公 放し、剣を抜きつつ数歩さがった。 シャー・アムラートー・・ 会いたかったそ、会いたかったそ ! おれ はげたか オリヴィアが蹲った姿勢から見上げると、野蛮人か狂人か、一人の仲間を禿鷹の餌食にし、両方から荒馬に挽かせて八ッ裂きにし、 こやっ、薄汚い犬 の荒くれ男が必殺の身構えでしずしずとシャー・アムラートのほう眼玉をえぐり、手足を切りきざんだうぬにー め ! ー声は狂気の叫びに高まり、男は猛牛のように躍りかかってき へ進みでているのであった。紐をつけた腰布一枚以外はまっ裸の、 這しい体つき。腰布は血に染まり、乾いた泥がへばりついている。 男の荒くれた形相に立ちすくみながらも、オリヴィアは、刃を合 黒い蓬髪にも泥がっき、血のかたまりがまつわりついている。胸に も手足にも乾いた血が条をつけ、右手のまっすぐな長剣にも乾いたせたとたんに男が倒れるのを垣間見ることができた。狂人であろう 血のりがある。乱れた前髪の下で、血走った両眼が青火をだした石と野蛮人であろうと、どうして素っ裸で、鎖かたびらに身を固めた アキフの征服者に太刀向うことができよう。 炭のように燃えている。 二つの白刃が火を発し、からみあう瞬間があった。触れあったか 「うぬーーーヒルカニアの大め ! 」物の怪のような荒くれ男は粗暴な と思うとさっと離れた。だがつぎの瞬間、直長の広刃が細身のサー なまりで言った。「復讐の鬼がうぬをここへおびきよせた ! 」 ・アムラートの一方の肩にがっしと食い 「コザックめがー シャー・アムラートはあとずさりながら、「うべルを過ぎて閃き、シャー 、つこ。振りおろしのものすごさーーーオリヴィアはあっと声をあげ む、きさまが逃げたとは知らなかった。今頃はイルバルス河のほとしナ
そうな声が聞えてきた。「ジニー、助けてくれ」息がつまってうま係員は眠そうに彼女を見て、まばたきした。「ここにーーここに く言葉がでない。「頼む、来てくれ。どうしようもないんだーーー」男の人、はいりました ? 」 こんなことが何回か前にもあった。今ではすっかり思いだしてい 係員はうさんくさそうにうなずいた。「シカゴ行きの・ハスですが た。おそろしい闘いで半死半生の目にあい、い つも折れるのは彼のね。、もう出ますよ」 ほうだった。幽霊や魔法や呪いなどというものを信じたことはな お金を投げると、小さな白い切符をひったくった。何秒か後、彼 い。だが肉体のうちにひそむ、得体の知れない、冷たい、黒い、強女は通路をシカゴと大きな文字の出ている・ハスにむかって走ってい 大なものが、さからいがたいカで彼を強いているのは確かだった。 た。ステップをころがるようにあがると、ジョーが見えた。 彼は歯ぎしりしながら、べッドの縁にすわっていた。そのあいだ彼はうしろの座席にすわり、目をとじていた。血の気のない顔 も、叫び声はますます大きくなっていくのだった。止まることなんで、青いズックの鞄を握りしめ、全身をぶるぶる震わせていた。彼 かできはしないそ、ジョー、・ とんなことがあろうと、おまえが家を女はゆっくりと奥へ進むと、隣りの席にすわった。「まあ、ジョ 持っことはないだろう、永遠に、永遠に、永遠に 、ごめんーーーどうしようもなかったんだーーー」 彼女が着いたとき、部屋はもう空だった。すすり泣きをこらえて 「わかってるわ、ジョー」 ドアをしめると、疲れきって壁にもたれかかった。遅すぎたのだ。 目を丸くして、彼はジニーを見つめた。彼女はうなずくと、彼の タンスの抽出しはあけつばなしのまま。べッドの下には、よごれた がっしりした手を両手でつつんだ。そのとき彼は切符に気づいた。 靴下の片方が落ちている。鏡台の上には、くしやくしゃのハンカチ が」枚。彼の姿はなく、ズックの鞄も消え失せていた。 「しつ。いわないで」 そのとき彼女の視線はフロアに落ちている一枚の折りたたんだ紙「しかし、きみにはわかってるのか ! 家庭はこんりんざい持てな の上におちた。震える指でつまみあげた。筆跡は見おぼえのあるも いんだぜーー・・ぼくらは。どんなに努力しようと。これからの長い旅 のだった。かすかな叫び声をあげると、ポケットに紙片をつつこを考えてみたまえ、ジニー 世界中をいつまでもいつまでも放浪 み、玄関の階段をかけおりた。コートの裾がひるがえっていた。 するんだーーー星へさえ行くことになるかもしれない ひとけ 通りは暗く、人気はなかった。むかい側で、街灯が一つポツンと彼女はやさしくうなずいて微笑した。「でも、あなたはこれから 輝いていた。街はずれ近くにもう一つ街灯があり、闇のなかで陰気一人ぼっちではなくなるわ」 な黄色いしみのように見えていた。彼女はいっそう足を速めた。乾「ジ = ー、そんなことがーー」 いた歩道に、靴音が荒々しく鳴りひびいた。やがて彼女は、通りの 「やってみせましようか」彼女はそういうと、ジョ 1 の肩にそっと はずれにある、明りのこうこうと輝くビルにかけこんだ。 頭をもたせかけた。 4 3
しいでしよう」ウイングロープは上向きにひっくりかえるめながら尋ねた。 と、手をかざして、明るい空を眺めた。「まだ、思案してるんです「滝のそばでは小鳥がおれに向かって、さえずりかけたつけ , ウィ ね ? 」 ングロ 1 プは質問に知らん顔で、うっとりといった。「すてきな歌 「そうだ」サールは下唇を噛んだ。「思いつける限り、あらゆる角だったな。あとで気がついたんだが、あれはプルプルだ。つぐみに 度から検討してみたんだが、どうしても同じ結論になってしまうー似たやつで、地球にいたな、たしかべルシャに。おかしいでしよ、 ーここに、釘づけだ。この船は正式には、最小限度四人で動かせねえ ? 」 る。だがビンチの時には三人でもどうにかなる。二人じゃ操縦して「同じ条件なら、同じ効果、同じ結果がでるかもしれん」 帰るわけこよ、 ーー・不可能なんた」 「たぶんね」ウイングロープが譲った。「だが、どうもそれだけじ 「ええ、わかってます」 ゃないような気がするんだなあ。似ているところが多すぎる。もっ 「だから、あの気のふれた二人の馬鹿者のうち、片方か両方が帰るとほかに、こんなに多くの暗合を、うまく説明できるものがありそ うなものですよ」・しばらく、草の茎を噛みながら考えこんでいた 気を起さない限り、おれたちはこの惑星に貼りついたままだ」 ハートの印しを見かけた。壁や、木や、岩 「もっとひどい場所に、釘づけになる可能性だってあったんですが、「今日も、四つの よーウイングロープはいって、紺碧の空と、みずみずしい風景を指や、いろいろな所に書いてあった。種族標識みたいなものだと思う 差した。「ここよ、、 冫しればいるほど、故郷みたいな気がしてくるなんだが。見るたびに、覚えがあるような気がするーー・だが、わから あ . ごろりと寝返りを打って、一輪の花を引き抜き、相手の目の前ない。思い出せないものかなあ」 にさしだした。「ごらんなさい 「町には近づかなかったろうな ? 」 やぐるまぎくだ」 「ええ、艇長。離れていましたよ、ご命令通りにね」 「それがどうした ? ーサールは苦々し気に、ちょっと眺めただけだ 「それから、だれにも会わなかったな ? 」 「遠い地球にも、やぐるまぎくがあったなあ」 . 「あの四つのハ 1 ト型のものがわからんなあ」ウイングロー・フは草 「思い出させてくれるなよ」うらめしそうにサール。 の茎を噛みながら、、つこ。 しナ「どうも気になる」 「それに、ひなぎくも、きんぼうげも、はつかの花も。あの岡のあ「だれにも会わなかったんだな ? 」サールが念を押した。 を見たことがあるんだが、はっ たりをぶらついていたら、全部ありましたよー短く、変な笑い方を「地球で、何度もあの四つのハート して、「考えてごらんなさい、いかつい宇宙ルンペンが、ひなぎくきり思いだせない や、きんぼうげに気を魅かれるなんて。あんな辛い目にあうと、ど サールは仁王立ちになり、濃い眉の下からウイングロープを見つ うなるかって証拠ですよ」 めた。「そんな話はやめろ ! シラをきるんじゃない。おまえはこ 「どんな目だって ? 」サールは眉をしかめてウイングローブを見つこ一週間以上も、午前と午後にとび出していってる。目をぎらぎら っこ。 「ま、 4 4
し空想癖が強すぎたというだけさ。彼がくらいこむもとになったのろがそのうち、わしの言っていることが呑みこめてくると、ぜひそ は、自分の新皿洗い用洗剤が、手のために良いとテレビで宣伝した こへ行ってみたいと言いだしたのだ。 ことだった。その洗剤をテストしたところ、それがでたらめだって そこでわしは、警察本部ビルから二、三プロック離れた《ポーイ ー》は、イー ことが発覚したわけだ。わしはいつも思っていたものだよ、やったさん》へ、彼を昼食に連れていった。《ヘル・オしハ ことの割りには、彼はきびしすぎる罰を受けたんじゃないかってレイ地区でまっさきに開業した全自動式レストランだったんだ。人 ね。しかしーー当時は詐欺計画罪ができたばかりのときでね、取締間の従業員は機械管理班の連中だけで、それも週に一度顔を見せる りに本腰を入れていることを市民に知らせるために、テスト・ケー きりだった。他のものはすべて、調理場からクローク係の女の子ま スにはうんと厳しい態度で臨まなきゃならなかったわけだ」 で、ひとっ残らず機械だった。わしはまだその店で食事をしたこと 「いまなら当然、臓器銀行ゆきだろうがねー 「当時はまだ、犯罪者を臓器銀行に送ることはしなかったんだ。あ「ではどうして、そこのことをそんなによく知ってるんだね ? 」 んなこと、もともと始めなきやよかったと思ってるよ。 「その一カ月ほど前、ある男を追跡してその店にはいらなきゃなら とにかく、そんなわけで、わしの証言によってドリーマーはブタ 箱行きになった。五年後、わしは本部長に昇進した。さらに二年なかったからさ。そいつは身の代金めあてに子供を誘拐し、その子 後、彼は仮釈放で出てきたというわけだ。彼があらわれた日のこと供を人質にして逃走中だった。すくなくとも、われわれはそう思っ た。それはまたべつの話だがね。ともあれ、どうやってそいつに接 だが、その日わしはとくに忙しいということはなかった。それで、 ー》の構造を上から 来客用の酒壜を持ちだしてくると、二人でそれをコーヒーに入れて近するかを考える前に、わしは《ヘル・オしハ 乾杯した。そして話をした。ドリーマ 1 は、過去十年間のシャパの下まで知る必要があったんだ」ルークは鼻を鳴らした。「あの金属 事情を知りたがった。わしを訪ねてくる前に、ほかの友達にも会っのお化けを見たまえ。まだわれわれの注文を待っていやがる。お ここへヴァーグーズ・マーティニを二つー てきていたから、多少の知識はないでもなかったが、それにはいろいー いろ奇妙なギャツ。フがあって、うつかりするととんでもない陥穽に それを聞くと、ポツ。フ・アートの床屋の看板は、一インチほど床 陥りかねなかった。たとえば彼は、木星探査ロケットのことは知っから浮きあがり、すべるように姿を消した。 ていたが、硬質ぶらいすのことも軟質ぶらいすのことも聞いたこと「どこまで話したつけな ? ああ、そうだ。運よく店は混んでいな 。、よいという始末だ。 かった。わしらはテー・フルにつき、わしはドリーマ 1 のやっこさん ロポット・レストランの話など始めなければよかったと思うよ。 に、どうやって呼出しボタンを押して給仕を呼ぶかをやってみせ 3 4 はじめ彼は、むかしあった自動販売式食堂の、もうちょっと大がた。当時すでにやつらは給仕と呼ばれていたが、形のほうは、い かりな、もうちょっと本格的なやつを考えているようだった。とこ ここにいる連中とは似ても似つかないしろもので、つまるところは
無線が反復しつづける命令は、丘の上へ近づくにつれて大きくぎ「なぜおれたちをとめようとしたんだろう ? こえはじめ、彼に受信の確認を要求していた。 「おれたちがなにを運んでるか知らなかったんたーー・それとも、こ 8 長いカープを回りきったところで、彼はプレーキを踏んた。グレ の車をほしかったんだろうよ」 ッグの「どうしたんだ ? 」にも答えない。 「ぶつ壊しちまえば、元も子もないだろうに」 道路をふさぎ、いまにも発砲しようとしているそれを見たとた「手に入らねえとわか 0 たものを、やつらがおれたちにだま 0 て持 ん、彼は反射的に行動した。 たせると思うかい ? 」 相手は道幅いつばいもありそうなタンクだった。大きな砲口が、 「やつらがどんな考えかたをするかは、知りつくしてるってわけ まっすぐにこっちを狙っている。 眼が相手の横をすりぬけるコースを探しもとめ、それを発見して「ああ」 いるうちに、彼の右手はスイッチを叩きつけて、三発の徹甲ロケッ 「タバコどうだ ? 」 ト弾を送り出し、左手は時計の逆回りに ( ンドルを切り、足はアク タナーはうなずいて受けとった。 セルをぐっと踏みつけた。 「かなりひどい道中だったよ、なあ」 車が道路を半分とびだしたかっこうで、側溝にそってバウンドし「異議はねえな」 たとき、タンクが炎のおくびを一つもらした。狙いはそれ、逆にタ 「 : : : おまけに先はまだ長い」 ンクのほうがぐしやっと潰れて、火の花を咲かせた。 「ああ、だから早いとこでかけようぜ」 彼がタンクの背後でもう一度路上に戻り、そのまま疾走するのと「まえにきみはどうい 0 た ? 成功するとは思わない、とい 0 たの 同時に、小銃の発射音がきこえた。グレッグは擲弾筒で左右へ一発はだれだ ? 」 ずつぶちこんでから、五〇口径を掃射した。車は突進をつづけ、四「考えが変わ「てな。いまのおれはやれると思う」 分の一マイルほど行ってから、タナーはマイクをとり上げていっ 「あれだけいろいろなことがあってもか」 た。「わるかったな。プレーキがきかねえんだ」 「あれだけいろいろなことがあってもだ」 応答はなかった。 「これから先、どんなしろものと渡りあわなくちゃならないんだ ? こ 「そこまでは、おれも知らねえ」 四方に見通しのきいた平地に出るのを待 0 て、タナーは車を停「だが、通 0 てきた道のほうは、もう見当がついた。どうやれば難 め、グレッグが運転席に入った。 所をよけられるかもわかっている」 「やつら、あのタンクをどこで仕入れたんだろうな ? 」 タナーはうなずいた。 「知るもんか」 「まえに一度、きみはずらかろうとした。いまになって、むりもな か」
そしてもうひとつ、 〃ごめんなさい〃がある。本誌昨年十二月号追跡用にみんな Z ()0 が押えてるから駄目だとか、そんなことい 本爛七ページの図表中上から七行目〈アメージング〉の左に刊行冊わないでなんとか割りこませろのやれ衛星の方はどうだな カーンズ / ど、そんな電話のやりとりをコーヒーでも飲みながら聞いているだ 数 3 7 とあるのは、・ くック自身の編集した冊数で、ガーン ック、 <t ・リンチ、 C ・スローンの編集を経て一九三八年四月けでなにかこっちの胸がわくわくしてしまう。そのうちにフロリダ 行きの飛行機は押えてあるかとか、ケープケネディの立入りのパス 号を最後にジフ・デーヴィス社に移行するまで〈アメージング〉は 計一二八冊。従って 3 7 という数字を 12 8 あるいは 3 7 十 6 (< がどうしたとかいうところまで話が進んでくると、せつかくニ ヨークまで来ていながら、我が担当番組〈ちびつこのどじまん〉の リンチ ) 十 8 5 (O ・スローン ) と訂正させていただきます。ま ことに申しわけありませんでした。 アメリカ版をつくるだけで帰るのが残念で、こっそり、マイアミま での飛行機の値段を調べてみたりするが、とてもしゃないが乏しい 滞在費でまかなえる額ではない。実を言うと、同行する子供たちの 十二月の半ばに、十日ほどニューヨークに仕事で出張してきた。 くわしい話はまた別に紹介する機会もあると思うが、とにかくどこ見学スケジ、ールの中にもそこは抜かりなくまず最初にケープケネ いうまでディが入れてあったのだ。見学の方も—を通して C をとり に行っても、〈 Twenty-First 〉のことでもちぎりだった。 いわくつき。 もなく、アポロ 8 号打ち上けの日付のこと。我社のニューヨーク支つけてあったのだが、予算の不足で涙をのんだという 局に行けば、打ち上げ実況の宇宙中継でコムサットあたりとなにや出演する子供たちより先着していた小生、期くなる上は、猛威をふ らわアわアやっていて、インテルサット 4 号衛星の回線はアポロのるっているホンコンフルーで支局員が一人倒れてくれれば人手不足 で″お前、。ヒンチヒッターで行け ! 〃などということにもなりかね ないと毎朝ひそかにみんなの顔色を伺うのだが、とんとその気配も 号 なく、ついに後髪ひかれる思いで帰京したというお組末。 刊 創 ショップで朝飯をくえば、店のおやじがカウンタ なにせコーヒー ー越しに「トーキヨーしや、トラフィック・オフィサアーに化けた タ やつが八十何万ドルとか持ってったそうだな」と始まるのだが、結 局は「二十一日は店を休んで避寒がてら見に行こうかと思ってる。 あれはべリー・ エキサイティングなもんだぜ。アトラスだってかな ダ りのもんだったから、今度の奴は : : : 」などと・フタれる始末 ワ ニューヨーク自然史博物館 ( ここの恐竜の骸骨については話した ス ン いことが山ほどある ) のヘイドン・プラネタリウムを見に行けば、 イちょうどクリスマス・シーズンで、〈キリスト生誕の頃の星空〉と いうテーマでやっていて、あたりがさっと真っ暗になったかと思う とドーム一杯に展開するヒイラギとポインセティアの花、わき上る Science 7
それからわしは六人をテーブルに坐らせ、動かないように注意しから、彼が人間のために造られたのじゃないドアをくぐって、全自 た。女客のひとりが睡眠薬を持っていたから、わしはその三錠を足動式の調理場へはいっていったことを思いたさずにはいられないん を砕かれた男に服用させた。 だ。ああいった調理機械は、牛一頭分の脇肉をまるまる処理するこ そしてわれわれは待った」 とができる。ドリー マーは明らかにロポットではない。とすれば、 「訊きたくはないんだがねーと、マスニーが言った。「いったいな迷いこんできた彼を、調理機はなんと受け取るだろうかね ? 」 にを待っていたんだ」 マスニーはしばらくそれを考えた。 「むろん閉店時間をさ ! 「ははあ、なるほど。で、・ とうなった ? 」 デザートが終りになるころ、やっとマスニーはそれに思いあたっ 「午前一一時に、われわれの給仕どもはシュリノブ・カクテルとカナ ・ロレンツオを運んでくるのをやめて、勘定書を持ってきた。 「むむむ ! うむむむ ! 」そして彼は眼を白黒させてロのなかのも 昼からのシュリン。フ・カクテレこ、つこ、、 ノ冫しナししくら請求してきたか、 のを呑みこんだ。「ちくしよう、やられた ! あんたは殺人課から 話しても信じてはくれまいな : わしらはめいめいの勘定を払まっすぐ本部長になったんじゃないか。詐欺取締り課なんかにいた 、足を怪我した男を担いでやっとそこを出た。それからその男をことはないんだ ! 」 病院に担ぎこむと、とってかえして電話にとびつき、いあわせたか「いっそれに気がつくかと思ってたよー ぎりの関係者を呼びあつめた。 「それにしても、なんでそんな作り話をしたんだ」 翌日、《ヘル・オしハ ー》は修理のために閉鎖された。それは二 「わしがロポット給仕を嫌っているわけを、きみがしつこく聞きた 度と再開されなかった」 がったからさ。なにかを言わなきゃならなかったんだよ , 「ドリーマーはどうなった ? 」 「なるほど。まんまとだまされたよ。では、あらためて訊くが、な 「それこそがその店が二度と再開されなかった理由のひとつなのだんであんたはロポット給仕を嫌っているんだね ? 」 よ。それきり彼は見つからなかったのだ」 「嫌っちゃいないさ。きみはたまたま悪いときに顔をあげたんだ 「まさかただ消え失せたなんてはずはあるまい」 よ。あのときわしはこう考えていたんだ、これがグラウンドⅡ ェクト・ミニスカートだったら、どんなにこの給仕のやっ、ばかげ 「はずがないかね ? 」 て見えるだろうか、ってね」 「はずがあるかね ? 」 「ときどきわしはこう思うことがある、彼はチャンスとばかりにそ れを宣伝に利用したのにちがいない、とね。前科とは無縁の人間に なって、どこかで新しい人生を送っているのさ。だがそう思うそば ー 47
オリヴィアも仕方なく男の言いつけに従った。二人は崖をくだ 「ここへ碇をおろして、わたしたちを捜すつもりじゃないでしよう しいつの時代のも り、台地を横切り、ふたたびあの薄気味のわる、 か ? 」オリヴィアは急に恐怖に衝かれ、早口に訊いた。 「そうじゃあるまい。あれは北からやって来たのだ。おれたちを捜のともわからない廃屋へと近づいていった。その頃になると、日は す連中のはずがない。何かのわけでここへ碇をおろすようだったすでに台地のヘりの向うへ沈んでいた。二人は崖のそばで木の実を ら、こっちはできるだけ隠れていなけりゃならんが。しかしおれのみつけ摘いでおいたので、それをタ食にし、飢えと渇きをみたした。 見当では、海賊船か、でなけりや北を荒しまわってから戻ってきた夜は南のほうからすみやかに濃くなり、青黒い空のここかしこに ヒルカニアのガレー船だろう。ヒルカニアのガレー船なら、こんな大きな星がまたたきはしめた。コナンはしぶるオリヴィアを曳きず ところに立寄りはしない。だがおれたち、あの船が見えるかぎりはるようにして、暗い廃屋のなかへ入っていった。彼女は壁にそった 海へはでられん。おれたちの行く先が北だからな。あの船、おそら険しい顔の黒い彫像をみて身震いした。星明りのかすかにもれてく く今夜あたりこの島を通過するだろう。おれたち夜明けにここを発る闇のなかで、彼女は像たちのたたずまいを識別することができ とう」 た。待機したままーーーそうだ、何百年もあるいは何千年も、こうし 「では、今晩はここで夜をあかしますの ? 」オリヴィアは顫え声でて何かを待ちつづけている像たちのおそろしさ。 コナンは、たっぷりと葉をつけた柔軟な小枝を一と抱えたずさえ きいた。 しとね 「それがいちばんだよ , てきていた。それで褥をつくってくれ、オリヴィアはそこへ身を横 たえた。まるでヘビの隠れ穴へ寝るような、おそろしい、奇妙な感 「では、ここで眠りましよう。岩のかげで」 男は、崖上のちびた樹木の群、崖下の欝蒼たる森林、崖のまわり触であった。 彼女のそばに尻をつ の中腹を触手でなでまわしているような緑のかたまりを眺めまわし コナンは女の寝るところには寝なかった。 , ながら、頭をふった。 き、石柱に背をもたせかけ、剣を膝に横たえた。タ闇のなかのヒョ 「木が多すぎる。おれたち、あの廃墟でやすもう」 ウのそれのように、コナンの両眼は見開いていた。 「眠るんだよ、娘。おれの眠りは狼のように浅いのだ。どんな生き オリヴィアは思うさえ恐ろしく泣きだした。 「あそこだったら、おまえに害をするものは何もないよ」と男は慰ものがこのホールへ忍びこんできても、おれは目が覚める」 オリヴィアは答えなかった。木の葉の褥の上から、彼女は薄明の めた。「おれたちに石を投げつけたやつらは、森からでて来るおれ なかにぼんやりと浮ぶ動かない男の輪郭をじっとみつめていた。幼 たちを尾けていない。廃墟のなかには恐ろしい生きものが潜んでい い頃、その話を聞くだけでも震えあがった野蛮人種の一人と、こう る兆候はなかったよ。それにおまえは肌が弱い、家のなかにばかり いたし、よいものを着ていたからな。おれなんざ雪のなかで眠ってしていっしょに歩き、世話をされ、保護をうけている。なんとふし この男は、人殺しを何とも思わない、 ぎな回りあわせだろうか , も平気だが、おまえは夜露が毒だよ、戸外でねたら」