アンドロイド - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1970年2月号
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1. SFマガジン 1970年2月号

と、彼はもう一度、吼えるような声で叫んだ。 をやってみてくれないか ? 」 「ちがうはずはないだろう ? 」 「凍結措置はすませました」とアンドロイドの医師はいった。「ま 私は、ひざまずいた巨人の下腹にたくましくうずまく恥毛の間かあ、一応やってみましよう」 死んだニ ら、だらりとたれさがった巨大な陽物を顎でさした。 「あんたには、わかっていないんだ ! 」 ムフェットの、太腿ぐらいありそうな彼の男根は、血にまみれて赤巨人は両腕をつき出すようにして叫んだ。 黒く光った。 「まるきり何も : おれが : : : おれが、彼女におそいかかりでも 「あんな小さな、華奢な生き物をおそったりすれば、どうなるかわしたと思っているんだろう。ばかなー アンドロイドにはわかる かっていたはずだ : : : 」私は、梢のむこうの空中を近づいてくる救まい。おれは : : : 彼女は・ : おれたちは愛しあっていた。お互い 急機にむかって、手をふって合図しながらつづけた。「考えてみに、ひと目見た時からずっと : : : 」 ろ、ニムフェット族の成熟女性は、君たちギガンテス族の四歳児の「愛しあって ? 」私は、ちょっとおどろいてききかえした。「巨人 大きさしかないんだ。 かわいそうに、そんなことをすれば、一族とニムフェットが ? 珍しいことだな」 たまりもなく、裂けちまう」 「本当た。おれたちは愛しあっていた、 / 彼女がおれをどんなにした 「ちがう ! 」巨人はその一かかえもありそうな腕で、大地をどんってくれたか、おれにどんなにやさしくしてくれたか、どんなにか どんたたきながらわめいた。「ちがうんだー あんたは何もわかわいらしく甘えたかーーーわかるまい。あんたたち、″機械の神″に っちゃいないんだ ! 」 はわかるまい。おれたちは、ほんとうに熱烈に : : : 愛しあっていた 「なにが ? 」と私はきぎかえした。「なにがわかっていないんだんだ」 「愛が昻じてーー・この破目か ? 」 淡紅色の救急機からおりたった、アンドロイドの医師は、ニムフ 私は、ふといたましい気持ちになって、巨大な男をながめた。 ェットの死体の上にかがみこんで、無針注射器を彼女の心臓の上に 「だが、少しは自制心ってものがなかったのか 2 君のその体で あてたが、すぐ立ち上った。 は、抱きしめただけで彼女はつぶれてしまう」 「十中八、九、蘇生はむりでしよう」と、アンドロイドの医師は、 「ちがう ! 」巨人は両腕をつき出し、まっかになって叫んだ。「ち 巨人にきこえない電波回線をつかって私にいった。「腹腔破裂でがうんだ。 しい出したのは彼女だ。おれは何度も思いとどまら す。ーー・というよりも裂けてしまっています。ひどいことをやったせようとした。だが、彼女はきかなかった。彼女が懇願し、彼女が もんですね」 もとめた。まるで愛らしいだだっ子だった。彼女がみちびき、彼女 「めったにないことだがね」と私も同じ回線をつかっていった。 がむかえ入れようとした。 おれは度を失い、眼の前がまっくら 一「凍結措置と、輸血をやっておいてくれ。とにかく一応、蘇生手術になり、耳がガンガンなり、ただ彼女のいう通りに動いただけだ。 3 ー 2

2. SFマガジン 1970年2月号

私はその生き物をそっと草の上に横たえた。その時わたしは「人 草むらに横たえられた、美しく、愛らしい生き物の体は、巨人 類界」パトロール用のアンドロイドの電子脳の中に凝集していた。 の天地もとどろけ、といわんばかりの慟哭の中に、刻々と冷たく、 電子脳の容量は小さかったが、で″プレイン〃とつながってかたくなっていった。 いるので、不自由はなかった。 ニムフェット族ーー新種人類の中で、もっとも美しいといわれ 巨人族の、とりわけたくましく発達した体驅をもったその男は、 る、その一族の中でも、彼女は特に美しく、愛くるしい一人だった。 きやしゃ 豆ほどもある大粒の涙をポロポこ・ほしながら、私の後からのそき身長は一メートル四 0 そこそこ、巨人の半分にも及ぶまい。華奢で こんでいた。 優美で、まるで空気の精のようにほっそりして、そのくせぞくそく 私は、その小さな、白い、おどろくほど優美な生物の、かわいらするほどセクシイだ。ーーー信しられないほど美しくととのい、かっ しくふくらんだ胸に手をあてた。 脈搏は弱まりつつあり、私の愛くるしい顔だち、肩にうずまく漆黒の髪、青ざめた″死″の氷の 見ている前で、そのかよわくせわしない搏動は、よろめき、つまず手にだきすくめられながら、なおいきいきとした色つやを失わない き、停止していった。すきとおるように白い、臘のようになめらか雪白の肌、かわいらしくふくらんだ双つの胸のふくらみの上の、珊 な裸身が瞬時に青ざめ、その肌からはみるみるうちにぬくもりが消瑚の珠のような優美な乳首、大理石をきざんだような、なめらかな えていった。 腹と二つの腿 : : : だがその下腹と腿のあわせめは、むごたらしく血 むくろ 「死んだ : : : 」私は、つぶやいて、ひざまずいていた生き物の骸のまみれになり、びったりと、小さな椀をふせたようにもり上る。美 「たったいま、死んだ。 いったい何をしたしい恥毛は、なお傷口からあふれ出るまがまがしい血のためにぬれ 前からたち上った。 そ・ほっていた。 死因は出血多量たった。そして、下腹部のすさ んだ ? 」 ウォッー まじい裂傷は、彼女の上に何が起ったかを、一眼で理解させた。 というような声をたてて、巨人が号泣をはじめた。ふしくれだつ「蘇生措置はとった。ーーすぐ救急機がくる」私は時計を見ながら た指で顔をおおい、よろよろとくずれおれるように腰をつくと、松 いった。「だが、出血がひどすぎる。よしんば、蘇生に成功したと の根のようなすさましい拳で、ドンドンと胸をうち、髯だらけの頬ころで、酸素欠乏で、彼女の脳は完全にはもとにもどるまい。記憶 が涙でずぶぬれになるのもかまわず、天をあおいで、手ばなしに泣の多くは失われるだろう。ーー何て馬鹿なことをしたんだ ? 気で きはじめた。 もちがったのか ? 」 「ちがう : : : 」 オウ : : : オウ : : : という悲痛な叫びが、森の梢にこだました。こ んな巨人で、こんなにもいたましい号泣というものを、きいたのは巨人は、泣き腫らした眼を、びつくりしたように見ひらいて、私 はじめだった。もし私ののりうつったアンドロイドの顔面に、涙腺をまじまじと見た。 「ちがう ! 」 がしかけられていたら、思わずもらい泣きしたところだったろう。 ギガンテス

3. SFマガジン 1970年2月号

わっていた。ーー顔から流れた血は、茶色にかわき、その足もとに 「いわれた通りにしてやれ」と、私は電波回線で、救急病院へ通知 は、金属の四肢をへし折られ、電線をずたずたにひきさかれた、先した。 刻の″私″だったアンドロイドの残骸が投け出されていた。 「だが、わからんな : ・ : ・」と、私は音声で彼にいった。「なぜ、ク 私が近づくと、巨人はしずかに視線をあげた。 。いって見れば、遺伝子レ その眼は、まロ】ン再生がいけないんだ ? ーーそれよ だ悲しみにみちていたが、もう荒れくるった怒りの嵐はしずまってベルで再生された、 , 彼女そのものだぜ」 「あんたらにはわからないんだ : : : 」と巨人は悲しみをこめてつぶ 「すまなかった : : : 」と、彼は私を見て、低い声でいった。「さっ ゃいた。「彼女は : ・ : ただ一回、たった一人の存在だ。たしかにク きは かっとしていたものだから : さっきの : : : だろう ? 」 ロ 1 ン再生をすれば、彼女に非常によく似た : : : 遺伝子レベルでは 「そうーーー」と私はいった。「だが、よくわかったな」 そっくりそのままの個体はうまれるだろう。だが、それは彼女その 私は、巨人にひきさかれたさっきの″私″と全然ちがったスタイままじゃないことは、おれにはわかっている。 クローン再生さ ルのアンドロイドの中にはいっていた。 うつろない にもかかわらず、彼がれたものは、彼女という存在の、いれものにすぎない。 ひと眼で″私みと認識したので、すこしびつくりした。 れものだ。そこにはまたまったく別の″経歴″がもられて行く。お 「わからないでどうする : : : 」彼は、私をゆっくりとながめながら れの彼女は ーーミミは、彼女がこの世に存在しはじめてから今ま つぶやいた。「どんなかわった姿かたちをしていても、人間は、勘で、二度と同じもののあり得ない彼女自身の″体験の歴史。の集積 で一度あったかどうかわかるものだ」 をふくめて彼女なのだ。そうだろう ? その集積は、彼女の脳の 「なるほど : : : 」と私はうなすいた。「そういった瞬間的、総合的中にある。そして、もうそれは分解してしまった。 , 彼女は二度とか な。ハターン認識は、君たちは特に発達しているものだな」 えらない。彼女はこの宇宙の中で、たった一度きりしか存在しな 「彼女をかえしてくれ : : : 」巨人は、深い悲しみをたたえた声でい い、たった一人の存在だった。その彼女が失われたら、もうこの宇 った。「おねがいだ。デウス・エキス・マキナ : : : 。蘇生させられ宙の中では、二度と同じ彼女は出現しない : ないなら、かえしてくれ。クローン再生など、やらないでくれ。彼私は、ちょっと畏敬の念にかられて巨人を見つめた。ーーー冷静に 女の亡骸は、おれが自分で葬る」 なった彼の中には、何かその知性の″偉大さ″のようなものがあら 彼は視線を木立ちのむこうにうっした。ーーー木立ちが切れて、丸われていた。彼は大きく、その分だけ深く、大きく考え、″大きな く草原のひろがった中央に、すでに大きな、深い穴が掘られてあっ知性″をもっていた。それだけのことはあったろう。彼は見たとこ た。穴の傍には、それで掘ったらしい泥まみれの木片が投け出さろ、百五十歳くらいだった。平均寿命二百五十歳、稀に三百年も生 ギガンテス れ、いつの間にはこんできたのか、巨大で扁平な自然石もころがっきる巨人族の中では、ようやく″壮者″の段階に足をふみいれたと ている。 ころたった。 ニムフェット族は、四十歳ぐらいでそのあわただ 3

4. SFマガジン 1970年2月号

さりつつある救急機を追いかけた。草の中に井戸が掘れるかと思うら、君のミミとそっくり同じ、ミミが再生してくるんだ」 ほど、すさまじいふみきりをして、大きな土くれを後にはねあげる「だまれ ! 」 と、その巨体は、かるがると四メートルもとび上った。彼の身長と巨人はわめいた。 と、腕の長さをプラスすれば、その指先は八メートルの高さにとど「そのミミは : : : 彼女の生きた細胞一つ一つにふくまれている、全 いたろう。 しかし、今度も緩衝脚と指先の間には、五十センチ遺伝情報から再構成されるのだから : : : あのミミそのものだ : : : わ : にせものじゃない。あの 以上のひらきがあった。巨人の体は、大きな抛物線を描いて、はるからないのか ? 「だまれ ! だまらないか ! 」 か前方へむかっておちていった。枝のベキベキ折れる音と、ダー 逆上した巨人の、すさまじい打撃がくる前に、わたしは電波回線 ン ! という地響きがきこえた。 私は大急ぎで、巨人のおちた地点へかけよった。巨体は灌木をへで″プレイン″の回路の中にかえった。巨人の、信じられないよう し打って草むらの中におれていた。ーー近づくと、彼は下半身をひな腕の力は、金属とで頑丈にささえられたアンドロイドの首 きずりあげるように、むくむくと起き上った。おちた時に頬をすりを、一撃のもとにふきとばしていた。つづいて、金属の腕や脚がヘ むき、岩角に額をぶつけたらしく、顔半面が血まみれだった。だし折られる音がした。 が、彼は痛みなど感じてないように、怒りにギラギラ燃える眼を私 * クローンーーー生物を構成する細胞の一つ一つには、その生物全体をつくり上 げるために必要な全遺伝情報がふくまれているが、発生の途上で、 にむけ、くいしばった歯の間から、シュウシュウと荒い息を吐きな ある特定の情報以外の発現がおさえられて行くことによって細胞の がら、立ち上ってきた。「彼女をかえせ」 性質、機能の「分化」が起る。したがって、ある生物成体の細胞を 巨人は、松の根のような両腕をのばして、私ののど首をガッシリ 一つとって、それからまったく同じ成体をもう一つつくる事も理論 的に可能で、すでに植物の一部では、実験的に成功している。これ とっかまえた。 は処女生殲とちがって、染色体の半減もなく、しかも、それのもっ 「まあ待て」万力のような手にしめあげられ、宙吊りにされかけな 遺伝情報は、細胞をとった成体と、まったく同じであるため、この 一一つの成体の間では異質蛋白反応などまったくおこらない。こうし 力不をした。「なぜだ ? ・ーーー クローン再生がなぜいけない ? 」 てつくられたもう一つの個体をクローン ( 小枝の意味 ) とよぶ。植 「ちくしようー そんなことをさせるくらいなら : : : 」巨人の血 物では成功しているが、動物の場合、「分化」の様式が植物とちが うので、現在まだ成功していない 走った両眼から、また・ハラ・ハラと大粒の涙がしたたった。「そんな ことさせるくらいなら、この俺が、自分でほうむってやるんだ。お 前らの汚ならしい″科学″なんそにさわらせす : : : 」 4 「おちつけよ」私は胸の電線がひきちぎれるのを感じながら、何と もう一つのパトロール用アンドロイドの電子脳に凝集し、さっき か巨人をなだめようとした。「成長促進法をおこなうから時間はか からないんだ。三年 : : : いや、二年たてば、彼女の細胞の一つかの場所に近づいていった時、巨人は森の中に、じっとうなだれてす 3 に

5. SFマガジン 1970年2月号

てみただろう。だが、おれたちには、もはやそれも不可能になってか ? 」 しまった。おれは、おれ一代た。おれの寿命、おれの意識のある限「あるよ。そのパターンが、まったく役にたたなくなった時は、 り、おれは宇宙だ。おれが宇宙について理解を深めれば、おれであ ″プレイン″の記憶領域から消去させられる。あるいはまったく別 る宇宙はゆたかになって行くだろう。だが、それでおわりだ。で、 の。 ( ターンに発展させられたり、しかし、一度パターンが分解され あんたたちはどうなんた ? デウス・エクス・マキナ : : : あんたはてしまっても、・それの存在期間を通じてうみ出されたいくつもの孫 いったいどんな存在なんだ ? 」 パターンから逆にたどって、″原。 ( ターン″を復原再構成すること 「私か ? 」私はちょっと動揺しながらいった。「私はーー君も知っはある程度可能だ」 ているように 、″プレイン″の中に生じた、ある電気的。ハターン 「それで : : : あんたは、さっきおれがクローン再生をいやがった だ。いま一部は、君の見ているアンドロイドの電子脳の中にある。時、不思議そうな顔をしたんだな」と、巨人はいった。「電気的 だが、容量が小さすぎるので、大部分は″プレイン″の回路の中に に、保存されたり、分解されたり、また再構成されたり ば、″不減の意識″だな」 ある」 「わからんな : ・ : こと、巨人は首をふった。「電気回路内のパター 「″不減″とはいわん。″プレイン″だって、寿命があるだろう。 ンが、どうして″私″などといえるんだ ? 」 しかし、その存在期間は、ふつうの生物個体とは比較にならない。 「それはーー、やはり、パターンが回路内をあちこち移動したりして 、わば、″ブレイン″は、ただ一つで、″種″レベルの存在といえ アイデンティティ も、基本的なパターンの同一性は保存されるからさ。まあいってみる」 イメージ ればーー・そうだな、君の大脳の中に生じた一つの像みたいなもの 「総合脳 : : : 千万年単位の存在期間をもっ″意識″ : : : 」と、巨人 は眼を宙にはせながらつぶやいた。 さ。ただ″プレイン″全体の構造と容量が君たちの脳とちがうか ら、いくつものイメージが、それぞれある程度の独立性をもって、 「そんなに存在できるかどうか : : : 」と、私はやや後めたく思いな つまり″電気的複合脳さ」 同時に動きまわれる。 がらいった。「一時期、眠りこむことになるかも知れない」 「ふしぎなものだな : : : 」と巨人は私の顔をまじまじと見つめた。 「それでーー・あんたたち、 " 大脳型生物。の後継者は・ : ・ : 進して いるのか ? 」 「イメージなら : : : 消せることもあるし、消すこともできるぜ」 「そのかわり、君たちの頭の中でも、いったんくみたてられたイメ 巨人は、突然私の腕を、大きな手でつかんで、私の顔をのそきこ 1 ジの、基本的連合パターンは、記憶にのこり、またいつでもよみんだ。 がえらせることができるだろう ? 」 「そう : : : 」と、私はためらいながらいった。「ある意味で : : : 」 「そうすると・・ー・・君たちにも″個体性″はあるのか ? 」巨人は考え 「おれに、あんたたちのやっていることが、見られるかね ? 」と巨 2 ながらゆっくりいった。「君たちは : ″消減″することはあるの人は熱心にいった。「おれは : : : そうだ、おれは自分の存在の限界

6. SFマガジン 1970年2月号

には自転車やコン。ヒューターに、本気で″惚れ″て、人間同士のセして、唯一の夫。ーー二〇三三年式、出力十五キロワット」 ックスに全然興味をしめさない男女が激増したのである。″アンド とかいった、奇妙な墓碑銘を : 一ギガンテス ロイド〃の出現は、この傾向に拍車をかけ、二十二世紀初頭には、 そういった、一時の傾向から見れば、この巨人族の一人と、ニム ″まち の一人との″恋″などは、まだまともだった。 実に成年男女の十七パーセント以上が、何らかの形でぬきさしならフェット ない″機械愛″にはまりこんだり、″機械姦みに夢中になったりし 力い″といっても、素朴なものだ。だが、それだけに巨人の嘆き ていた。彼らは、その″愛人″である機械を、人間の″愛人″とまは、 いっそういたましいものにうつった。三メートル二〇、二百五 ったく同様にあっかった。 ( そしてまたそのころには、多くの機械十キロ以上ありそうな巨体を折って、ニムフェットの死体の傍にひ が、″愛にこたえる〃機能をもちはしめていたのである ) 例によっざまずき、顔をおおって号泣しながら、「ゆるしてくれ・ ・ : 生きかえってくれ、 私が悪かった。・ : ・ : 苦しかったろう。 て、ビュリタン系の″正常派″が、この″おそましい、悪魔の業の異 常性学″の撲滅にのり出したが、大した効果はなかった。ーー彼ら と身もだえしてくりかえすのだった。 を機械からひきはなそうとすると、彼らは実の恋人からひきはなさ れる時のように、泣き叫び、もだえ、ついには自殺までしようとす「さあーーもういい」とアンドロイド医師は、巨人の肩をたたい るのだった。事実、″異常性愛撲減同盟″の強制措置にかかって、 た。「早く病院へつれて行かなけりや : : : 」 悲劇の終末をとげた、人間と機械のロメオとジュリ ェットが、何十「生きかえるか ? 」巨人は涙にぬれた顔をあけて、すがりつくよう 組もあったのである。ーー・愛する機械が、ついにスクラップになるにいった。「私の : は、もとの体にかえるだろうか ? 」 時も、彼らはスクラップ置き場になど棄てに行きはしなかった。ち「わからない」救急機に = ムフェットの体をつみこみながら、首を ゃんとした墓地に埋め、ちゃんとした葬式をやり、りつばな墓をたふった。「だが、たとえだめでも、クローン再生という手がある てて、とりのこされた″恋人″は、その墓石の上に泣きくずれるのさ」 ! 」っこ 0 今でも、北米大陸やヨーロツ。ハ、それに日本などの墓「なんたと ? 」 地遺構へ行けば、そういった″機械の恋人″の墓碑銘を読むことが 巨人は、突然つむし風のような勢いで、はね上った。 てきる。 「クローン再生だと ? , ーし はかな ! そんなことは許さないそ ! 」 「ゴールデン・スター 地上におけるわが最愛のもの。わが恋人 だが、その時、救急機は音もなく離陸していた。 ーーーその緩衝脚 にして、わが友、わが娘。二一二一没。享年二十一歳。七百二十馬にとびつこうと、彼はほとんど助走をつけず、ものすごい跳躍をこ ころみた。だが、もうちょっとのところで、その太い指は緩衝脚に 彼よあきらめず、・ハネの とどかず、巨人はドタッと地面におちた。 . , 。 ハートンⅡ世、ここに眠る。彼こそわが真実にようにとび起き、草の葉を蹴ちらしながら、猛烈ないきおいでとび とカ 「いとしのジェフ・ 田 4

7. SFマガジン 1970年2月号

1 Ⅲ日ⅢⅢⅢ川ⅢⅢⅢ川ⅢⅢⅢⅢⅢ川ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ川ⅢⅢⅢ川ⅢⅢⅢⅢⅢⅢ川日Ⅲ川ⅢⅢⅢ川リⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ川Ⅲ叫 は無気味な一群を発見したのだ。 が十人以上いた ! ) ″盛り場で花売り娘をうのはまことになげかわしく、かっ無気味 「ぼくは貧しい家の子供です。毎朝新聞をやってるみなし児の少女″ ( その半分以上なことではなかろうか ? なんとかそのロ くばっているので、クラスではみんなにパ ーラースケートぐらいの手を考え出して欲 は意地のわるいおばさんに毎日泣かされて しいものだ。そしたら、こっちはアイデア 力にされています。お父さんは一カ月前に いる ! ) がやはり数百人もいたのであるー 死にましたが、死ぬまえの日、″ああ、お油断もすきもならね工というのはこのこ賞をさしあげたいくらいである。 思考のステロタイ。フ化 という ~ 事が一言 父さんがよくなったら自転車を買ってやろとたろう。しかし、そのタチの悪さにおど うね″といいました。ぼくのクラスではぼろいたわけではない。われわれはいつも子出されてから久しいし、案外、人類という くだけが自転車を持っていないのです。ぼ供からもっとコッびどい目に散々あわされやつは常にその先輩の世代からそんなポャ ている。 くに自転車を下さい キを聞かされているのかもしれないが、来 日本各地から、字の上手下手、文章の違不気味に感じたのは、それら殺し文句が たるべき将来その巨大なコミュニケーショ いはあっても要旨はまったく同一の手紙やステロタイプにはまっているそのひどさでン体系がじかに送り込んでくる穴。 ( ケの情 ハガキが数千通もやってきたのだ。 「どうある。われわれが子供の頃、学校をズル休報にアップアップする宿命にある世代にお も日本全国の小学校の各クラスにや、必ずみしたときに申し立てたセリフのバラエテける、この傾向はこれからますます強くな 一人だけ自転車をもってないやつがいて、 イとオリジナリティに富んでいたことー る一方だろう。そして日本中の子供がいっ そいつらは全員が新聞配達をやっていて、 ローラースケートの片っ方をなくしたがせいに、おなじ素材によるティーチング・ 一人のこらずクラスでみんなに馬鹿にされ「オマワリさんにヨコセといわれてとりあマシンで学習をはじめたときに人間の個性 てみんな親父が死ぬ前におんなじことを言げられた」と言い立てて「片っ方しか持つは伝説と化すーーーはちょいとオー・ハーだ ったらしいな ! 」とわれわれは苦笑したがてかなかったのか」と切り返されたら、 が、しかし、それが重大な転機となること いろいろチックしてみても、べつに同一 「片足のおまわりさんだった」とケロリと はまずまちがいのないところだ。 人とか、ひとつの文例をもとにして手別け答えたという笑い話がある。 穴バケの情報にとり囲まれ、穴。ハケの知 をして書いたのでないことは確かである。 どうせたった一台の自転車である。日本識を身につけた人間のグループ。いわばホ その当時のちびつこ諸君の、人に同情を中から申し込みが殺到することはわかりきモ・ゲシュタルト。そいつらがまったくの 乞うときのシチュエ 1 ションの平均的なパ ってる。そうとなりや、ウソ八百もこきま一団となってワッとばかりにあっちの流行 ターンが、この新聞配達ー・・・・・・・・・ー・ハ力にされー ぜてお涙頂戴でせまるのが得策なのはわか にとびつき、こっちのファッションにうつ ー父が死んでーー・・前の日「ー・自転車ーーーポりきっている。そんなことでどうのこうのつをぬかす時代。規格製品ーーーアンドイ ーオし。だというのに、それそれ ク一人というものらしいのだ。そこで分類と言う気よよ、 ドの出現以前に人間そのものが構造的には してみたら、″先月家が火事になったた が別々に智恵をしぼり、どっととびついたアンドロイドと化す : : : 。モノ戸イドの時 め、お小遣いをためて買った自転車が焼けそのアイデアが、まったく同一の、しかも代ーーー無気味だとあなたはおもわないか ? ( 筆者はフジテレビ・ディレクター ) てしまった子が数百、 ( 親の焼け死んだの実に安つぼく見えすいた身上話だったとい

8. SFマガジン 1970年2月号

S F でてくたあ 新聞小説に初めてが登場した。大岡昇回りを演したり、米軍基地に侵入して兵器研国出版社・ 300 平の『愛について』 ( 毎日新聞夕刊 ) である。究所を丸焼きにしたり、アメリカの諜報組織円 ) と、都筑道天 司 現代における愛のさまざまな姿を描いた、十の美女と格闘したり・ : ・ : 痛快な娯楽で、監修『海底の人魚』 話から成る新趣向の作品だが、結末に近い第大藪春彦の。 ( ロディ版の趣きがある。一匹狼 ( 同・同 ) の二冊 ョ 九話〈地球光〉が本格的になっている。を文字通りに具象化してみせた水平思考的発は、〈 5 分間シリ - ン 「或るマニアがアロ十一号月着陸のニ想も面白いし、「血も凍りつく恐ろしい妖怪ーズ〉の姉妹篇で、 ク石 ュースを聞いて書いたサイエンス・フィクシは人間です」という狙いも生きている。あち前者はシュールな ョン」という但し書つき。秋の一夜、作者からの軽 ( ードイルド作品そこのけの語り口味をもっ篇 本 ら親しくその構想を聞く機会を・ほくは持ったも板についてきた。日本のの貧血症状が ( 星新一、小松左 当 日 が、詳しい紹介は完結後にして、とりあえず救われるためには、このような作品がそくそ京、光瀬龍、石原 日一 藤夫、豊田有恒、 ニュースとしてお知らせしておきたい。三島くと生まれることが必要なのだろう。 由紀夫が《新潮》に連載中の大口マン『豊饒眉村卓『虹は消えた』 ( 早川書房・ 380 眉村卓、都筑道夫、 の海』第四部 ( 近くスタート ) とともに、円 ) は、著者の三冊目の短篇集で、近作十五平井和正、筒井康 ファンの楽しみが増えたわけである。 マン隆、生島治郎、河野典生、石川喬司 ) 、後者 篇を収録してある。お得意のサラリー 1 ー、い・ノョ ト然篇 ( 陳舜臣、福 は各種ショ を中心に、宇宙ものあり、次元ものあり、 純文学畑の作家の的試みといえば、北 杜夫の『星のない街路』 ( 中央公論社・ 45 経済ものありで、テーマは多彩だが、・ほくに島正実、西東登、樹下太郎、久野四郎、結城 0 円 ) も見逃がせない。あまり知られていなは、生きることの痛みをとらえた「針」「ス昌治、多岐川恭、藤村正太、斉藤栄、笹沢左 」「・ほくの場合」の三つが保、西村京太郎、星、小松、筒井、都筑、眉 い初期の中短篇 7 つを集めたものだが、このラリコ・スラリリ うち「人工の星」 ( 文芸首都浦年 7 月号 ) 「不とくに面白かった。この方向をさらに開拓し村、生島、河野、石川 ) を集めてある。 倫」 ( 近代文学年月号 ) の二篇がシリアていけば、より広範な読者の共感を誘うこと『中井英夫作品集』 ( 三一書房・ 1800 円 ) で 6 年ぶりにリ・ハイルした『虚無への スなとして注目される。「海野十三の昔ができるにちがいない。 供物』は、戦後に書かれた推理小説の最高傑 を除き、冗談をいえば、私は戦後日本界アンソロジーが三冊。 の最初期の作品を書いた一人といってよいか筒井康隆編『異形の白昼』 ( 立風書房・ 6 作ではないかと・ほくは思うが、〈反宇宙での も知れぬ」と作者はあとがきで回想している 80 円 ) は、〈現代恐怖小説集〉という副題反人間のための物語〉と作者がいっているよ が、宇宙ステーシ = ンが打ち上げられる近未が示すように、恐怖をテーマにした筒井好みうに、ファンにも楽しめるミステリーで 来の中年男の倦怠を鮮かに描いた前者も、愛の十三篇 ( 星新一「さまよう大」遠藤周作ある。 の悲しみを異星人に託した後者も、ともにこ「蜘蛛」小松左京「くだんのはは」宇能鴻一現代コミック『っげ義春集』 ( 双葉社・ 5 の作者のシリアス路線につながる佳作で、マに 良「甘美な牢獄」結城昌治「孤独なカラス」 90 円 ) 、『白土三平選集〈ワタリ〉 1 』 ( 秋 ンボウ路線のショート・ショートしか知らな眉村卓「仕事ください」筒井康隆「母子像」田書店・ 650 円 ) などについても触れたか い読者には興味深いたろう。 ったが、スペースがなくなった。 生島治郎「頭の中の昏い唄」曾野綾子「長い 《キネマ旬報》臨時増刊『世 暗い冬」笹沢左保「老人の予言」都筑道夫雜誌では ◇ 「闇の儀式」吉行淳之介「追跡者」戸川昌子界映画大鑑』 ( 大伴呂司編集・ 450 円 ) 平井和正『狼男だよ』 ( 立風書房・ 420 「緋の堕胎」 ) を収めてあり、その大半がが圧巻。楽しさいつばいの映像版・ 円 ) は、『メガロポリスの虎』『アンドロイとしても堪能できる。このうち笹沢の作品である。 同人誌では、《イマジニア》連載の「 5 ドお雪』につづく長篇第三作。超能力を持つは未読たったが、″未来からやってきた幽霊″ マクロバイオティックス」 ( わたなべ・しん ) 不死身のルボ・ライタ 1 ( 実はオオカミ人という趣向に感嘆させられた。 間 ) が、吸血博士の殺し屋どもを相手に大立同じく筒井康隆監修『夢からの脱走』 ( 新がますます面白くなった。