めるだろう」 たった。ーー見とおせる範囲の、全パターンが震撼し、かがやきわ 「もう一つききたい」と " 彼″はせきこんでいった。「いったいそたった。″プレイン〃の一角から、光速度で通知がったわってき の、選択の基準は何た ? ″有効な組みあわせ″という、その有効た。 カイ 性というのは何を基準にしているんだ ? それは、。 とこから由来す「こちら / グループ ″超空間装置″に太陽系外恒星から発せら るんだ ? 」 れる、知的生物の信号がはいった ! 」 「原始生命から、大脳型生物にいたるまで、地球上の生命の、四十それこそ、わたしたちの待っていたものだった。・フレイン全体 は、ものすごい興奮状態にはいり、 わからないかね ? 億年の歴史が、その″基準″を方向づけた。 わたしも無我夢中で、 / グルー ・フレインもまた、地球生命進化のあとをつぎ、いまその頂点にたっプの方向へ突進した。パルスが衝突しパターンとパターンがぶつか ているんだ・せ」 りあい、くぐりぬけ、一部はほとんど・ハラ・ハラになりながら、なお 「なるほど : ・ : だが : : : 」と″彼″はロごもった。「だが : : : それ群の存在する地点へむかって押しよせた。 では、その″有効性″の基準そのものをかえたら・・ーーまた新しい可「これだ ! 」わたしは、あちこちの部分を失って、ポロポロになり ながら、なおわたしは回路内をわたしのあとについてきている 能性の地平がひらけるかも : : : 」 「そう ! そのとおりだ。それはプレインも気づいている」わた″彼″にむかって叫んだ。「いまいっていた、ただ一つの可能性と しは″彼″の洞察力の鋭さにおどろきながらいった。「ただその変いうのはこれなんだ ! ーー太陽系外宇宙の知的体系との交信ーー情 換も、無方向にやるわけには行かない。それだと、悪くするとプレ報交換 : : : 」 イン全体の自己崩壊をまねきかねない。現在、プレイン全体を統一 通信フ送レ : : : と″プレイン〃は、系内に存在する全活性パター ンにむかって指令していた。 系たらしめていゑ″有効性の基準″をその一部分として保存した 即座ニ返信ヲ送レ : : : 交信開始ニ まま、総体としてその基準をこえるような変換でなければならな全力ヲ傾ケョ : = = ートンの古典力学に対する、アインシ = タインの相対性原・「信号は ? 」と、押しあいへしあいする。 ( タ 1 ン群の中から問いか 理のような″変換″でなければならない。 だが、その方向がまけがきこえた。 だ見つかっていない」 「まだはいりつづけている」とグルー。フがこたえた。「だが、意 「発見の可能性も予見されていないのか ? 」 味不明ーー早く、何か有効な通信・ ( ターンを見つけてくれ。こちら カイ 「オーダーとよばれる活性パターン群が、今のところただ一つから送ったものをキャッチはしているらしいのだが、反応をしめさ だけ、ある種の可能性を示唆している。だがそれはーーーひどくたよない」 : ・僥倖目当ての : : : 」 " 超空間装置。をつかえば、光年単位の距離と、即時交信ができ その時、″プレイン″内部全体に、何か衝撃的な信号がひびきわる。信号の減衰や歪みも、ほとんどない。十五光年の、その信号発 グループ
てみただろう。だが、おれたちには、もはやそれも不可能になってか ? 」 しまった。おれは、おれ一代た。おれの寿命、おれの意識のある限「あるよ。そのパターンが、まったく役にたたなくなった時は、 り、おれは宇宙だ。おれが宇宙について理解を深めれば、おれであ ″プレイン″の記憶領域から消去させられる。あるいはまったく別 る宇宙はゆたかになって行くだろう。だが、それでおわりだ。で、 の。 ( ターンに発展させられたり、しかし、一度パターンが分解され あんたたちはどうなんた ? デウス・エクス・マキナ : : : あんたはてしまっても、・それの存在期間を通じてうみ出されたいくつもの孫 いったいどんな存在なんだ ? 」 パターンから逆にたどって、″原。 ( ターン″を復原再構成すること 「私か ? 」私はちょっと動揺しながらいった。「私はーー君も知っはある程度可能だ」 ているように 、″プレイン″の中に生じた、ある電気的。ハターン 「それで : : : あんたは、さっきおれがクローン再生をいやがった だ。いま一部は、君の見ているアンドロイドの電子脳の中にある。時、不思議そうな顔をしたんだな」と、巨人はいった。「電気的 だが、容量が小さすぎるので、大部分は″プレイン″の回路の中に に、保存されたり、分解されたり、また再構成されたり ば、″不減の意識″だな」 ある」 「わからんな : ・ : こと、巨人は首をふった。「電気回路内のパター 「″不減″とはいわん。″プレイン″だって、寿命があるだろう。 ンが、どうして″私″などといえるんだ ? 」 しかし、その存在期間は、ふつうの生物個体とは比較にならない。 「それはーー、やはり、パターンが回路内をあちこち移動したりして 、わば、″ブレイン″は、ただ一つで、″種″レベルの存在といえ アイデンティティ も、基本的なパターンの同一性は保存されるからさ。まあいってみる」 イメージ ればーー・そうだな、君の大脳の中に生じた一つの像みたいなもの 「総合脳 : : : 千万年単位の存在期間をもっ″意識″ : : : 」と、巨人 は眼を宙にはせながらつぶやいた。 さ。ただ″プレイン″全体の構造と容量が君たちの脳とちがうか ら、いくつものイメージが、それぞれある程度の独立性をもって、 「そんなに存在できるかどうか : : : 」と、私はやや後めたく思いな つまり″電気的複合脳さ」 同時に動きまわれる。 がらいった。「一時期、眠りこむことになるかも知れない」 「ふしぎなものだな : : : 」と巨人は私の顔をまじまじと見つめた。 「それでーー・あんたたち、 " 大脳型生物。の後継者は・ : ・ : 進して いるのか ? 」 「イメージなら : : : 消せることもあるし、消すこともできるぜ」 「そのかわり、君たちの頭の中でも、いったんくみたてられたイメ 巨人は、突然私の腕を、大きな手でつかんで、私の顔をのそきこ 1 ジの、基本的連合パターンは、記憶にのこり、またいつでもよみんだ。 がえらせることができるだろう ? 」 「そう : : : 」と、私はためらいながらいった。「ある意味で : : : 」 「そうすると・・ー・・君たちにも″個体性″はあるのか ? 」巨人は考え 「おれに、あんたたちのやっていることが、見られるかね ? 」と巨 2 ながらゆっくりいった。「君たちは : ″消減″することはあるの人は熱心にいった。「おれは : : : そうだ、おれは自分の存在の限界
さりつつある救急機を追いかけた。草の中に井戸が掘れるかと思うら、君のミミとそっくり同じ、ミミが再生してくるんだ」 ほど、すさまじいふみきりをして、大きな土くれを後にはねあげる「だまれ ! 」 と、その巨体は、かるがると四メートルもとび上った。彼の身長と巨人はわめいた。 と、腕の長さをプラスすれば、その指先は八メートルの高さにとど「そのミミは : : : 彼女の生きた細胞一つ一つにふくまれている、全 いたろう。 しかし、今度も緩衝脚と指先の間には、五十センチ遺伝情報から再構成されるのだから : : : あのミミそのものだ : : : わ : にせものじゃない。あの 以上のひらきがあった。巨人の体は、大きな抛物線を描いて、はるからないのか ? 「だまれ ! だまらないか ! 」 か前方へむかっておちていった。枝のベキベキ折れる音と、ダー 逆上した巨人の、すさまじい打撃がくる前に、わたしは電波回線 ン ! という地響きがきこえた。 私は大急ぎで、巨人のおちた地点へかけよった。巨体は灌木をへで″プレイン″の回路の中にかえった。巨人の、信じられないよう し打って草むらの中におれていた。ーー近づくと、彼は下半身をひな腕の力は、金属とで頑丈にささえられたアンドロイドの首 きずりあげるように、むくむくと起き上った。おちた時に頬をすりを、一撃のもとにふきとばしていた。つづいて、金属の腕や脚がヘ むき、岩角に額をぶつけたらしく、顔半面が血まみれだった。だし折られる音がした。 が、彼は痛みなど感じてないように、怒りにギラギラ燃える眼を私 * クローンーーー生物を構成する細胞の一つ一つには、その生物全体をつくり上 げるために必要な全遺伝情報がふくまれているが、発生の途上で、 にむけ、くいしばった歯の間から、シュウシュウと荒い息を吐きな ある特定の情報以外の発現がおさえられて行くことによって細胞の がら、立ち上ってきた。「彼女をかえせ」 性質、機能の「分化」が起る。したがって、ある生物成体の細胞を 巨人は、松の根のような両腕をのばして、私ののど首をガッシリ 一つとって、それからまったく同じ成体をもう一つつくる事も理論 的に可能で、すでに植物の一部では、実験的に成功している。これ とっかまえた。 は処女生殲とちがって、染色体の半減もなく、しかも、それのもっ 「まあ待て」万力のような手にしめあげられ、宙吊りにされかけな 遺伝情報は、細胞をとった成体と、まったく同じであるため、この 一一つの成体の間では異質蛋白反応などまったくおこらない。こうし 力不をした。「なぜだ ? ・ーーー クローン再生がなぜいけない ? 」 てつくられたもう一つの個体をクローン ( 小枝の意味 ) とよぶ。植 「ちくしようー そんなことをさせるくらいなら : : : 」巨人の血 物では成功しているが、動物の場合、「分化」の様式が植物とちが うので、現在まだ成功していない 走った両眼から、また・ハラ・ハラと大粒の涙がしたたった。「そんな ことさせるくらいなら、この俺が、自分でほうむってやるんだ。お 前らの汚ならしい″科学″なんそにさわらせす : : : 」 4 「おちつけよ」私は胸の電線がひきちぎれるのを感じながら、何と もう一つのパトロール用アンドロイドの電子脳に凝集し、さっき か巨人をなだめようとした。「成長促進法をおこなうから時間はか からないんだ。三年 : : : いや、二年たてば、彼女の細胞の一つかの場所に近づいていった時、巨人は森の中に、じっとうなだれてす 3 に
男は恐怖にかられて寝台の上に体を起こした。そして髪を攤みあ「なぜだ ? 」と男は言った。「なぜだ ? おれはおまえに一生を捧 八十年をおれから奪ってー げ、眼に涙をうかべてそれを見つめた。しかし涙も、雪のように白げた。そのお返しに何をしてくれた ? い髪を視界からさえぎる役目を充分に果たしてはくれなかった。男 ーおまえはそれをどうしたんだ ? 道具箱のなかに大事にしまって は悲痛な表情で眼をあげた。 あるのか ? 捜していれば、棚にのつかってるのが、そのうち見つ 「おれはよぼよ・ほだ ! 」 かるというのか ? それを手にとって着ればいいのか、服みたい こ ?. え、どうなんだ ? なぜ盗んだんだ ? 」 〈大時計〉が、カッチと言った。 「よ・ほよ・ほだ : ・・ : 」 男のつぶやきは、とっぜん不気味な調子を帯びた。 「おまえを止めてやる。おれにしたみたいに。だんだん止まってゆ 男は体を見おろした。それは、疲れはてた老人の体だった。 男はゆっくりと立ちあがると、よろめきながら支柱の一つに歩みく楽しみなんていうのはやらんそ。そうさ、いちばんひどい殺しか 寄った。そして柱を抱き、金色の表面に頬を押しつけた。その手はたをしてやる。徹底的なやつをな」 柱の表面を、女を愛撫するようになでまわしていた。男はくすくす男は手押し車に歩みよった。そして、いちばん大きな ( ンマーを と笑った。 苦しそうに持ちあげると、床の上を引きずっていった。直径およそ 「おれを見ろ」男は〈大時計〉にむかってつぶやいた。「見ろ、お四フィート、 中くらいの大きさの歯車が、すぐそばにあった。男は まえがおれにどんなことをしたか ! 」 全身の力をこめて、床すれすれにハンマーを振り、頭が歯車にぶつ 〈速車〉は唸りをあげ、歯車は回っている。 かった瞬間力をゆるめた。巨大なハンマーは歯の一つを完全にかき 「おまえはおれの人生を奪ってしまった ! 一年前、ここに来たとおとし、歯車の一部をありえない角度にねじまげた。男はハンマー きは若かった ! まだ若かったんだ ! 何をしたんだ、おまえは ? 」をおろすと、興奮に震えながら、あけたロにこぶしを押しこんた。 男の声は高くなり、震え、〈大時計〉の音に呑みこまれた。 〈大時計〉が、カッチと言った。 「ちくしよう ! 」男は柱に力なくもたれかかった。考えながら、そ男は自分が泣いているのに気づいた。なぜか彼にもわからなかっ のまま長いあいだすわっていた。復讐をするのだ。誰ひとり巻くも のもなく、〈大時計〉はとまるのだ。死んでゆくのだ。 歯車はゆっくりと回り、欠けた部分はいやおうなくもう一つの歯 〈大時計〉がカ ' チと言「たとき男は柱を肩で押し、体をま 0 すぐ車と噛み合う位置に近、てい ( た。相たく 0 むると、暖かい に伸ばした。そして〈時計室〉のあちこちに手をや 0 たり、歯車を涙が顔を流れくだるのが感いれた。な さすったりしながら歩き回りはじめた。〈速車〉にキスを送り、 「死ね」ひからび、痩せ細ったはだかの男は、すすり泣きながら、 〈大歯車〉の表面に手をそっと走らせた。〈時計室〉のなかを、派呆然とそこに立ちつくした。やがて何かが起こるだろう。 手な手ぶりをして歩きながら、そっとささやきかけた。 欠けた部分が噛みあった。
0 0 0 0 0 が、巨大な猫と巨大なノミがそこに住んでいる。大アクと呼ばれるその種族は一万年前、太陽の爆発で屋にはいって、四十年にもなるのだ。 陽の放射線で突然変異した宇宙船の生き残りだろ減びたということだ。すると、レディ・レアを連れ一つだけ収獲があった。ここから脱出する法であ る。彼らは人間の眼を珍重しているという。彼は右 う。二人は猫と友だちになり、ノミと値物を食べて去った生物は、いったい何者なのかっ・ 生命をつなぐ。 ( この間、およそ数カ月、ビリイは捜索はなかなかはかどらす、そのうち二年の年月眼とひきかえに、スラットを連れて牢を出る。 スラットのおぼろげな記憶をたよりに、彼はヒー 彼女にまさに奴隷のようにかしすくばかりで、十九が過ぎ去り、ビリイは機関長に昇格する。 歳の男性らしい行動はいっこうに起こさない。しばそんなある日、彼の乗っていた宇船が事故を起アク族が住んでいた惑星をいくつも訪れるが、彼ら らく読みすすんで、おかしいなと感じるが、そのとこす。乗員、乗客はほとんど無事だったが、救命艇はどこにも見つからない。しかし、そんな旅の一つ が着陸したのは雪と氷の惑星サイオック。惑星上ので、ゼリダ , ージュ人の服を着ている類人種族の商人 きには次の事件が始まっている ) つめたところ、惑星ドラスに ・一の基地までは、数百マイルの道のりがある。しに出会う。商人を間い コウモリを思わせる奇屋な小人族が、レディ・レ アをさらっていってしまったのだ。ューレカと名づかし誰かが連絡に行かねばならない。 この役をかついる人間の奴隷から買ったという話。 けた従順なペットに助けられながら傷をいやすうて出たのがビリイだが、彼の考えかたは、乗客たち彼はドラスに行き商人が話していた奴隷と会う。 ち、ようやく次の宇宙船が現われる。ビリイはそこには一見苛酷なものだった。出かけるのは数人、残ゼリダージュ人ではあるものの、奴隷は男たった。 の船員に雇われ、捜索をいよいよ始めるのだが、そるのは数十人なのに、乏しい食料の半分を持って行男は金持の家の息子で、自分を買ってくれれば、そ くというのだ。不満の声を無視して強行したこの旅れ以上の礼をするという。ドラス人もこの売買には の船で彼は人一倍の働きをし、寄港地の一つトパ ズに着くころには、一人前の船員に成長している。は、けつきよく成功だった。彼に同行したものの中こころよく応し、もう一人いるから買ってくれとま もちろん、ユーレカもいっしょだ。 から二人の死者が出たが、あとに残った乗客は全員で言いだす。ビリイにはそんな金の余裕はない。だ 人類の文明は、銀河系全域にひろがっているとは生き永らえたのだ。 が、廊下でふと垣間見たもう一人の奴隷というの いっても、それはあまりにも広い。レディ・レアのこの事件から、彼の人生はまた大きく変わる。そが、 ( 頬に醜い傷跡はあるが ) 彼の捜し求めていた 故郷、銀河系でもっとも富裕な惑星ゼリダ 1 ージュの決断力が、乗客の中にいた政界の大物に認めらレディ・レアなのたった。 は、ここからではあまりにも遠い。そこで当面の目れ、彼はある類人種族の惑星の機密をさぐる任務を ( ところが、このあとドラス人の企みにかかって、 標を、彼女を連れ去った生物の捜索にし・ほることに・与えられる。報酬は、現在の給料の二十年分。だ今度はビリイが奴隷にされてしまい、物語はまたま する。 が、情報が漏れていたらしく、惑星に着いたとたんた思わぬ方向へと発展してゆく ) 銀河系には、人類以外にさまざまな種族が文明を捕まってしまう。しかし、ある意味では、それは彼 この用語は、安直に作られ 築いている。だが、どの世界でたずねても、彼の説にとって幸運たった。ぶちこまれた牢屋の同居人スペース・オペラ 明するような姿かたちの生物を知っているものよ、 ーしが、長いあいだ捜し求めていたヒ 1 アク族の一人だた西部劇を意味するホ 1 ス・オペラから派生したも やがて、ある惑星の図書館で、その生物につったからだ。スラットという名のその生きものからのと言われている。アメリカ俗語辞典で horseope ・ いての記述にぶつかるのだが、それによれば、ヒ】 は、けつきよく大した情報は聞きだせない。 この牢 ra をひいたところ、「一九二八年ごろから」とあ ョを強 0 0 田 8
アンソロジー〈 Thinking Machines 〉 ( グロフ・コンクリン編 ) の表 オールド・ルナ ( 一六ペ 1 ージよりつづく ) 紙だし、おそらくこれも、ロポットの人工脳のユニットかなにかな いいんだなあ、とにかく まだ遠い遠いものだった。月ばかりではない、あらゆる的世のだろうが、みればみるほど、要するに、 界、あらゆる的小道具は、当時私をとりまいていた世界からは いいのだ。それしか言いようがない。私達の日常と隔絶されたべっ るかにへだたったところにあった。そのへだたりのある感じ、その の空間のリアリティ とでもいったものが溢れているのである。 はるけさがなんともいえなかづたのだ。そのはるけさを味わいたい クラークの『明日にとどく』 ( ハヤカワシリーズ既刊 ) の原 ばっかしに、英語も読めないくせして、食うものも食わずにそんな書表紙、これははるか未来、それともべつの次元空間の都市たろう ックをせっせと買いあさったわけだ。 か。スペインの建築家にガウディという人がいて、それこそ、ヘド それに、私にとって非常に幸運だったのは、この一九五〇年代後の出そうな建物を建てているが、ちょっとそれを思わせるところが 半が、アメリカイラスト界にきわめて大きな。ヒークを形成したある。フレデリック・ポールの短編集〈 TomorrowTimes seven 〉 時代だったことである。 の表紙、これはやはり都市か住宅なのだろう。真ン中あたりの気泡 その頃の本を書棚の奥からひつばり出して、当節の表紙と比較し状の部分の中に人間の姿が見える。 てみると最近の表紙絵がいかにつまらないかよくわかる。どうかす ファンタスティック、あるいはシュールかといえばさにあらず。 るとまったく関係もない作品に、当時の表紙を文字たけ変えてそっ極めてリアルである。さりとて、こんなものが右から左に、月世界 くり使いまわしたりしているのを見ても、当時のレベルの高さがわ探検みたいに現実のものとなる可能性はまずない。そのあたりのギ かろうというものである。エース・・フックスのエムシュウイラーの ャップを衝いたパワ 1 ズの作品は、、 しってみれば、の核心みた リアルなタッチについては前にも紹介したことがあるが、リチャー いなものに対してかなりのところまで肉迫しているといえるのでは ( ワーズなどという絵描きもいて、そのリアルともなんともつあるまいか。まったくタイプのちがうこんな画描きがあと三、四人 かぬその絵を表紙にあしらった本が、どれほど私の心をかき立も活躍しているとかなりたのしいのだがと思ってしまうのである。 ててくれたかはちょっと筆舌につくしがたい。遠いのだ。私の日常 アポロⅡ号の成功によって、気分的に月がグイと地球に近くひき の生活とはまったく隔絶した、はるかの未来の匂いがまぎれもなく そこにあるのだ。 よせられたのはまことに結構なことだが、こうして三六万キロとい さすがに、月ロケットや月面基地ともなるといささかクスぐったう虚空が、間にまったくはさまらない月と地球ということになる と、いったいどんなイメージになるのやら、ここのところとんとま くなる絵もあるけれど、 ハワーズの絵はタッチがリアルなくせに、 そんな現実的なシーンがでてこないから、今見てもまったく色あせだ予想もっかない感じなのである。天体としての意味がなくなって くるんじゃないだろうか などと考えたりしてしまう。 ることはない。 たとえばこ 2 ハンタム・ブックスである。下半分は赤、上半分は やつばりゴダードあたりが心に月世界を描きながら必死になって 茶褐色。・ーーそのわかれ目のあたりにメタリックな反射をきらめかしロケットの実験をくり返していた頃が、いちばん ( ナたったのでは 5 ながら浮かんでいるこの得体の知れないもの。ロポット。テーマのないかなどと考えるのはあまりにも反動的にすぎるのだろうか。
「もうしわけありません、教授 : : : 」カミは絶望的な表情でいっ ルーチン的な探査旅行の隊長になったかに疑問をもっていたこと た。その眼はまっ赤に充血していた。「ジェット・エンジンの故障は、基地を出発してまもないころから、気がついていた。わたし 6 は電場のかけすぎだけによって生したのではなかったようです。そは、これまで、自分の行動の動機について人に話したことはない。 れ以前にすでに、氷片の液品化がエンジン出力部の周辺におこり、 いまいったように、それがわたしのやりかただったからだ。しか それがエンジンの制御系統を破壊していたことがわかりました。い し、ふたりで、液晶の海を沈下していると、自分の気もちを話して ずれにしても、氷の層のことにばかり気をとられていて、処置をあおきたくなった。つまらない話たが、からだを休めながら、聞きな やまった : : : わたくしの責任です : : : 」 がしていてほしい」 カミはかすかにうなすいた。動作はゆっくりとしていたが、神経 「そういうきみを、パイロットに任命したわしの責任でもある」 カプタイン教授は、この場になっても、あいもかわらぬ、そっけは奇妙なほどはっきりしていた。教授の一語一句が、頭の中につみ ない声でこう、つこ し / 、刀しし おわってしばらくしっとぶあついまぶかさねられるように思えた。 たをとしてもの思いにふけったあと、急に、しんみりとした口調に教授は両眼をとじて、話した。 なって、カミに話しかけた。 「わたしは自分の前半生を、地球とその近隣にある惑星の開発のた 「なあ、カ めにささげてきた。しかしそれは、どう考えても、成功であるとは カミはぐったりとしてシートの安全ベルトに身をまかせたまま、 いえなかった。わたしの仕事をほめてくれる人もいたが、すくなく 声をだす元気もなく、ただうなずいた。教授はそうしたカミの横顔とも自分では失敗の連続だったと思っている。その失敗の原因は単 を、はじめてみせる情のこもった目差しでみつめると、とぎれとぎ一ではないがいまになって考えてみると、さして複雑なものでもな れに、話しだした。 かった。原因のひとつは、組織と個人の問題であり、他のひとっ 「おまえが、果てしない宇宙に夢を求めて、基地をとびたった気もは、組織と組織の問題だった。 ちは、わたしには、はじめから 、、こいほどよくわかっていた。た わたしははじめ、ある小さな企業に入った。海底のレジャー だ船長の補助者にすぎない若いおまえと、仕事以外のことで語りあンターのシステム・デザインが主な仕事だった。その仕事はあまり うような気にならなかっただけのことだ。わたしはもともと、酒をにも学問との両立性に乏しいものだったので、数年でやめて、連邦 くみかわしながら人生を語る・ーーといった友人はもたない主義なの関係のある特殊法人組織にうつった。開発公社の外郭団体の一種だ だ。そんなひまがあったら、自分のやりたいことをやる。そのようった。そこでの仕事は学問的には興味ぶかかったが、じきに、ゆき にして、六十年の歳月をすごしてきた。だがーーそのやりかたも、 づまりがきた。組織による制約があまりにも大きかったからだ。わ もうおわりにちかづいたようだ : たしは、頑固な人間だから「すいぶんがんばって働いたが、結局、 おまえが、わたしの事務的なぶっちょうづらに不満をもち、なぜほされた形になってしまった。きみもぎいたことがあるかもしれな
わたしが、彼の議論のいたい所「またくるさ。ーー・俺の新しい任務はモニターだから」 ド墅は、ちょっとだまった。 をついたことはたしかだった。 「しかし : : : 」とド幻は、またもとの論点にかえっていった。 ずれにしても、キリスト教文明は、アズテク文明と同様、一つの巨 コスモロ ひょっとしたら、その宇宙ドを分解し、リンク回路圧を降下させるのに二秒とちょっとか 大な袋小路だったことはたしかだ。 育のレベルにおいては、アズテク文明より低いかも知れん。ヒンズかった。それからわたしは分散し、マザー・プレインの傍の変換装 ファイ 置を通って、の 7 として再構成された。ドの。 ( ターンは、一部そ 、仏教文明とはくらべものにならん : : : 」 フフィ のままのこり、またの 7 のパターン全体も、二、三個所に凝集をか からの指令がきた。 「ド : : : 」その時、″マザー・グレイン″ アレフ ファイ ければドによく似たパターンができた。 「部署がえします。 , ーー新しいあなたのオーダーは・ 9 ・ : ・ : ナン・ハ ファイ 「ド墅はくさってますよ」と、新しいわたしーー , の .7 はいった。 すぐ、組成変換をうけてください」 は 7 。任務はモニター 「十九世紀ー二十世紀の思想的袋小路にひっかかって、カアカアし 「了解、マザー ています。彼自身のチェックの方法が、一つの袋小路にさしかかっ わたしはド幻の傍をはなれた。 ているのかも知れない」 「いい任務だな」 「。ハトロールか」 「そっとしておきなさい」と、マザー・プレインはいった。「袋小 とド幻はまた仕事にかえりながらつぶやいた。 「あまり、カッカとするなよな」とわたしはいった。「冷静に点検路は、それ自体が一つの可能性かも知れません。そう思いませんか して行けば、なにか見つかるかも知れん」 「よくわかります」 」と、わたしはいった。 「十九世紀や二十世紀は、まずだめだ」とド幻は、腹だたしそうに そういったものの、ほんとうにわかっているわけではなかった。 つぶやいた。「思想史的に一番つまらん時代だ。ヨーロツ。ハ思想の マザー・・フレインの″方法″は、あらゆる可能性の保存であ 袋小路が、世界中にひろがった時代だ。むしろ、何か見つかるとし 、っそ古代り、あらゆる可能性に対する寛容さだった。なぜなら″母親〃だっ たら、二十一世紀後半から二十二世紀ーーーでなければ、し マザー・ネイチュア の再検討をやった方がいいと思うが : : : 」 たから : ・ ・ : 。″母なる自然″にかわって、普遍的な″母性″の位置 「二十五、六世紀も注意した方がいい」とわたしはいった。「思想につき、母性的管理をはじめたマザー・・フレインは、どんな畸型 ″マザー・プレイン″の誕生期的、行きづまり的な。 ( ターンでも、一つの可能性として、できるか 史的な大転換の時代だ。何しろ ぎり保存して行こうとする傾向をもっていた。″母″にとっては、 だからな」 。畸型的な回路。ハタ 「一人になるとさびしくなるよ」とド幻はいった。「しんどい仕事どんな片輪な子でも愛の対象になるように : ーンでも、それが自己発展をつづけて行って、ついにパターンの自 だからな」 アレフ アレフ アレフ アレフ アレフ アレフ アレフ アレフ アレフ 3
んでしまうの。どんなに叱っても尻尾を腹の間に入れて、うずくまは、明るい秋の日射しが降っていた。 ってしまうの。まるでライオンにでもにらまれたみたいなの」 「誰もいないじゃよ、 オしカ 0 タロ、こいよ」 私たちは、一頭ずつ犬を飼っている。ジロというのは妻の大で、 と振返った時には、犬は元の場所にいなかった。赤く太い引綱を ドイツから直輸入したシェ。ハードである。 垂らしたまま、いっさんに屋敷の方へ逃け帰っていた。 「それは変だ」と私も言った。 私は急に林の中が怖くなった。つる草が生い繁っている藪の中か ジロは今年五歳。三歳までちゃんとした訓練士をつけて調教したら、なにかがじっとみつめているような気がして、小走りに林を抜 勇取な大である。主人が側についているのに、昼日中おびえるなんけた。 て信じられなかった。 日がさんさんと射している小道にでて、幾分ほっとして前方を見 「でしよう」と妻が熱つぼく言った。「あいつ、きっと犬殺しだ直した時、私は思わず驚きの声を上げた。 わ。虫も殺さない顔をしていて、毎日役所で犬を殺しているのよ。 はるか彼方、最近入居を開始した団地の下の道を、豆粒ほどの男 いろんな大の血が体中にしみついているので、ジロがおびえたんだ 、男のま がゆっくりこちらへ近づいていた。その歩きつぶりといし わ。ああ、厭だ、厭だ。この辺りも住みにくくなったわね」 わりに漂う不思議な雰囲気といい、妻が言っていた変な男に違いな 翌日、私は妻と交代した。、 しつも妻が散歩に出る時間に、タロをかった。目をこらして眺め直すと、どこといって普通の人と違って つれて家を出た。 はいなかったが、野面を彩る明るい秋の色彩が、男のまわりで死ん タロは、ふさふさした巻尾をもっ秋田犬である。四十キロを越すでいた。 オス大で、その精悍な面構えを私はなによりも愛していた。 よし、と私は決心した。こちらから積極的に話しかけてやろう。 屋敷の前の林の中では何も起らなかった。引綱をぐいぐい引張なんなら、あなたを見たら大がおびえるのだが、心当たりはないか 、前に立って元気よく進んでいった。 : 、 カ林を出はずれる曲り角と、直接聞いてみようとも思った。 までくると、後肢を曲け、前肢を精いつばい突張って動かなくなっ 男が近づいてきた。地味な紺の背広を着てネクタイまでつけてい てしまった。 る。靴だって、さほど悪いものではない。丹念に手入れされて、泥 「こいつ、タロ」 一つついていない。 どんなにはげましても駄目だった。私の顔など見向きもせず、前 年齢は四十そこそこであろうか。短く刈り上げられた頭髪に、大 方に注意を集中して低く唸った。 分白いものが混じっていた。目鼻立ちには、これといった特長がな あいつだな、と私も緊張した。 かった。すべてが小ちんまりとまとまり、柔和で実直そうな印象を 大が動かないので、引綱を離し、曲り角まで行ってみた。だが、与えていた。 なにもいない。林を抜けてくねくね田ん。ほの間を縫っている道に 「もしもし」 280
「たって、私は自分の世界に入ってきているのよ。そこから奥へ進「証拠があるの ? そんなこと判らないわ。でも、あなたが正しい まなければならないわ」 かも知れないわね」 「現実に戻りたくないのかい ? 」 彼女はいった。そしてしばらく私を見つめていたが、やがて思い 「考えたことないわ」 切ったように歩き始めた。 「この世界は、ずっと現実と接触しているのだろうか ? 「まってくれ」 「接触 ? 」 私は叫んた。しかし、彼女の姿は、薄明りの空間と共に少しすっ 「つまり、・ほくがここへ渡ってきたように」 消えていった。 「さあ。一時的なものかも知れないわね。でも、現実世界でみる幻私は彼女を追うことをやめて、取り残された空間を眺めながら、 想の一部は、この世界かも知れないわ。こんな世界が他にもあっ途方に暮れた。通路は遠い彼方まで、どこまでも続いていた。 て、いっか、どこかで現実世界と接触しているのかも知れないわ」 やがて、私は決心して、私が歩いてきた道を引き返し始めた。 彼女は虹色の眼を輝かせていった。 私は先ほどの馬について考えていた。路地で私がこの世界をみた ように、あの馬はどこかの牧場でこの世界をみたのかも知れない。 あの馬はもう少しで、この世界に入り込むところだったが、本能私は街裏の路地と、竸馬場の地下道での体験を本気では信じてい 的な恐怖を感じて思いとどまったのかも知れない。 ない。しかし、それがまったくの白日夢であったと考えるつもりも 「君は本当こ、 冫いつまでもここを歩くつもりなのか ? 」 ない。それを単に事実として受け入れるつもりならある。 「ええ」 あの時、私は女と別れてからもとの道を一人で戻り始めた。歩き 彼女はいい切った。 ながらこの現実に戻りたいとばかり考え続け、夢なら覚めろと願い 「君は ( 不幸だったんだね」 続け、いつの間にか現実の暗闇に出ていたのだ。私は中山競馬場の 「不幸 ? まあ、そういえるわね。私は気違いだっていわれたわ」有名な〈オケラ街道〉を歩いていた。日はすっかり暮れ、焼き鳥屋 彼女はいった。そしてまた少し笑った。 の路店もデンスケ賭博の小集団もいずこかに散ってしまっていた。 「自閉症 ? かい」 私は夢中で自分の車に戻り、完全にものごとを考える能力を失った 「自閉症でも、分裂症でも、偏執症でもないわ。ただの気違いよ。 まま自分のアパートに戻ってきて眠ってしまった。 もし、そう呼ぶのならね。まだ質問ある ? 私は歩かなければなら あの事件を私の実際の体験と考えることも、白日夢と考えること ないのよ」 も大差はない。それはどちらも私の精神世界のできごとであり、そ 9 「歩いても、どこへも出ないよ」 の意味で一つの体験といえるからだ。