マヤの王女をつれて、さまざまな時代を駈けめぐり、恋の逃避行をほうは、ほとんど変らない姿だった。それでも、気のきいたヒッ。ヒ 続けている。しかも、かれが行く先々の時代でしでかすことは、こー風のファッシ = ンくらいにしか思わないのだろう。この時代の人 8 とごとく歴史上の事実ということになってしまう。つまり、ワルタ人は、特に怪しんでいる様子もなかった。 ーの存在そのものが、われわれの歴史を動かすファクターのひとっ 工べレットは、マシンを一年ばかり進めてみた。二人は、この国 になってしまったのだ。 のなかの山地へ移っていた。自然のなかで育った王女には、機械文 「仕方がない。追跡にとりかかることにするか」 明のなかでの生活が、すでに苦痛になりはじめたのだろう。二人の 工べレットは、やっと顔をあげた。ワルターの . 立ちまわった先々異邦人は、スキー場のロッジに住みこんでいるのだった。 を、ひとつひとっ調べあげるしか方法はなさそうである。 さらに一年後になると、二人とも生活に疲れきっていた。郊外に 家をたて、しずかに暮らそうとしていた。 二人の外国人登録証の不備が問題になりはじめたのは、ちょうど 工べレットのタイムマシンがとまったのは、二十世紀の日本だっ た。四次元震動をとめずに、この時代に静止してしまうと、マシン三年目だった。そのとき、王女イスエクは、ワルタ 1 の子どもを妊 っていた。 のなかから観察をつづけることができる。もちろん、タイムマシン の存在は、この時代の人々には判らない。 ートコントロールで海底に沈めておいたタイムマシンを呼び マシンを隠したらしく、ワルターとイスエクは、キャッチされたよせ、二人は、十世紀のオーストラリアへ飛んだ。 ときは、首都の片隅でひっそりと暮らしていた。そこは、密入国者そこは、まだ平和な世界だった。広大な陸地に希薄にばらまかれ やマリファナの売人などが溜り場にしている終夜レストランだっ た原始人のほかは、有袋哺乳類しか住んでいなかった。 二人は、森林のなかに、堂々とマシンをとめ、丸太小屋をつくっ 「踏みこんで逮捕しましようか ? 」 て、家庭をいとなんだ。ワルターの光線銃が射とめてくるカンガル 1 の肉と、森のなかでとれる野菜や果物をたべながら、暮らしてい 「いや、この時代で三年を過ごした後、ワルターたちは、オースト くうちに、とうとう子どもが生まれた。二十世紀に疲れていた王女 ラリア大陸へ移る。つまり、ここでは逮捕されていないのた」 も、ようやく生気をとりもどした。 工べレットとキムは、二人を見おろす位置にとめたマシンのなか アリジン で、話しあ 0 ついた。マシンのある位置は、このレストランの天井だが、幸福は僅かしか続かなか 0 た。原始人の襲撃によ 0 て愛児 になっている。四次元震動を停止しさえしなければ、天井にはまりを失った二人は、ふたたび、タイムマシンに乗りこんだ。 こんだような二重の存在になっていても、なんの障害にもならない 工べレットとキムをのせたタイムマシンは、二人の逃亡者を追っ のだ。 て、また次の時代へ向かわなければならなかった。 ワルターは、すっかり二十世紀の衣裳にかわっていたが、王女の 二人がたどりついたのは、唐文化の花咲く時代だった。大唐帝国
る。ネビゲーター・シートのキムも、同じような変装にとりかかっ 「いったい、何事がおこったのですか ? 」 ていた。 「旅の人よ。マヤ。ハーンの都に災厄が見舞ったのじゃ。ポナム王の 二人の格好は、厳密な考証冫 こもとづいている。このマヤ。ハーンの王女イスエク様が、神隠しにあわれた。ウシュマルの御領主シュ。ハ 都のものでは、かえって怪しまれやすいので、はるか離れたウヌマ ーン様は、トルテカ人が掠ったのだと申され、トルテカ人は、シュ ンシタ河の住民の風俗になっている。マヤでは、旅人は尊敬されて 。ハーン様が隠したのだと言いはった。そして、血で血を洗う争いに いるから、この変装をつけているかぎり、生命の危険にさらされるなってしまった。ポナム王は、争いをとめようとなさり、流れ矢に ことはないだろう。 あたっておなくなりになった。まこと、おいたわしいことじゃ」 神官は、そういって、王城のほうを見やった。そこでは、まだ火 工べレットとキムは、ところどころに灌木の茂みのある台地を、 が燃えつづけていた。 三十分ばかり歩きつづけ、ようやくマヤパーンの都にたどりつい た。この都は、十あまりの朝貢都市によって支えられているだけ「王城へ行ってみましようか ? 」 「いや、それより、神隠しにあったという王女の館を調べてみよ で、たいした産業があるわけではない。猫の額のようなトウモロコ う」 シ畑があるだけで、それさえも、チッチェン・イッサやウシュマル の周辺とは較べものにならない貧弱なものにすぎなかった。 二人のタイム。ハトロール隊員は、ゆっくり歩きはじめた。殺戮の 市街に入りこんだ二人は、おもわす足をとめた。あたり一面、まあとは、むごたらしく続いている。血の溜りをさけながら、しばら さに死屍累々の有様だった。黒耀石を埋めこんだ武器を手にしたまく行くと、王城の右手の館にでる。后妃や王女にあてられた一画で ま息絶えている男たちは、マヤとトルテカの二種類の羽飾りをつけある。 た戦士だった。 二人は、杖に仕込んだ計器をしらべながら、館の裏手にでた。林 石灰を塗りたくった泥屋のまえに、死んだ息子の名を唱えながらのなかは、かすかな痕がのこっているので、計器をむけてみると、 坐りこんでいる老婆もいる。街路の死体にとりすがって、天をあお僅かながら放射能の反応があった。土に埋まったらしい円形の痕跡 いで呆然としている妊婦もいる。 をはかってみると、たしかにタイムマシンの着座したあとだった。 町のほとんどが焼けおちていた。黒焦げになった柱だけが、まの 「まさか、ワルターが、その問題の王女を掠ったのではないでしょ ぬけた風情で四本だけ残っている家もある。屋根に葺いた椰子の葉うね ? 」 とマゲイ草だけが焼けて、灰色にくすんだ吹きぬけの泥壁だけにな キムの表情が変った。歴史を改変しようとする時間犯罪者をとら った家もある。 ールが、こともあろうに自分の手で禁を犯す えるべき立場のパ ナコム 工べレットは、通りに立ちつくす人たちのなかから、下級の神官はずがないと、信じこんでいるようだった。 らしい男を見つけ、マヤ語でたずねてみた。 「わたしも、さっきの神官のいった神隠しという言葉が気になる。
数字は頼もしい」 二人は無言のまま騒々しくセックスした。彼らの得たオルガスム 「このこすっからいドイツ女め ! それになんだ、おれが思ったほ オしか、おまえは ! 」 スは、そのエージ・グループの平均を楽にうわまわるもので、しばど毛深くもないじゃよ、 らく後、二人は満ちたりた気分でその結果を祝福しあった。 スモッグ・フィズのグラスを前に、二人は仕事にかかった。ビー 続く二日間、トーラ・ビー・フライトは気が狂ったようにボタンを 十テライプラリ タトロムは衛星図書館にダイアルし、世界百科辞典の抜粋を入手し押して調査に没頭した。世界の五つの首都にちらばった、彼女の五 が南 ていた。彼はことの大きさを実感させようと両腕をひろげて言っ人の同僚たちにしても同様であった。三日目、フ = ス こ 0 「これはバカでかい仕事だぜ、 トーラ。来年は、新しい時代、極市から彼女を呼びだした。トーラはフ = スをよく知っていた。昔 核工学の時代が始まって百周年にあたるんだ」 はいっしょに仕事し、乱交した仲で、三五年のアメリカ自アメリカ ハルシ / ジェン 彼女はかわいらしく眉をひそめた。「今は〈精子養殖の時代〉だ 動乱以前、ヘミスフェア幻覚剤社の宣伝を担当したのも二人だっ と思ったわ」 た。用心深い態度から、彼女はすぐフェスに何か魂胆があると気づ 「そうだけど、主に〈核武力の時代〉なんだーーそして、それもも う終わりに来ている。宇宙空間での大爆発の記録が本当ならね。 「どうだい、最近は、ト 1 ラ ? 何か考えついた ? 」 ずれにせよ、今のわれわれなら、なんなく管理できるが」 「一つ二つ考えがないこともないわ、あなたは ? 」 テスクの上にちらばった 「〈核時代〉って : : : あたしには別に何も思いあたらないわ。スビ 「ちょっと変なアイデアなんだが」彼は、・ レインがモーガンに直接言ってきたのなら、大仕事には違いないよ ) をもてあそんでいるたけで、い ジ = ーク・ポックス ( 違うものらしい うだけど」 っこうにスクリーンにうつる彼女の像を見上げようとはしなかっ 「そうだ。これを祝う方法をがっちりと考えてきたやつは、ゼイダた。「この祝典はたぶん何か記念碑を建立するというようなかたち ・スミス・ワールドでモーガンに次ぐ地位を与えられそうだな。 で行なわれると思うんだーーストーンヘンジを再建するとか、そう っしょに考えよう、トーラ、アイデアをプ】ルするんだ」 いったことさ」 モーガンにー言たの 彼女はあざけるような眼付きでソールを見つめた。「あたしがあ「すばらしいアイデアじゃない、フェスー ノール・ビータフ ざけるような眼付きで見ているのに気がっかない、、 トロム ? 誰が誰にい。いくわせたと思う ? 」 「いや : : : そうだ、忘れてたよ。というより、ちょっと気になるこ 「もう何か考えついてるというのか ? 」 とがあったんだ、そのう、モ 1 ガンは・ほくらが彼と同しアイデアを 彼女は笑った。「とんでもない、まさか、おじさん ! それに考考えつくのを待ってるような気がするんだ。彼にはもう計画がある えついたとしたら、へへつ、あなたなんかに教えてあげるもんですんだとは思わないか ? 」 か ! 」
もスペース・オペラ的に発展し、ヒーローとヒロイ狭しと暴れまわる荒唐無稽かっ御都合主義の冒険たおじさんが亡くなり、路頭に迷ってしまう。雪の ンはいくたの難関を乗りこえて最後にはめでたく結だ。 荒野を無一文で歩いている途中、小屋らしいものを ばれる。テクニックは ( ミルトンに比べて抜群にう文明批評がどうの文学性がどうのといっても、そ見つけて中にころがりこんだのも、そんな事情があ まいけれども、それ以外では何一つ進歩していなんなものが年々出版されるの中で相変わらずかったからた。 ( 十九歳にもなる大の男が、学資がと 。そして、それが現代界でもトツ。フ・クラスなりの部分を占めているところを見ると、フアだえたからといって乞食みたいになるということ自 にはいる作家、キース・ローマーによって書かれてンはどうもその〈荒唐無稽かっ御都合主義の冒険体が、まずおかしいのだが、そのときにはもう作者 いるのた。 〉というのにヨワイらしい のテンボの早い文章にのせられてしまっていて、大 スペ 1 ス・オペラの時代は終わったはずではなか カし、つ・ほ / 、が、日ごろはニュ ・ウェーヴとして苦にならない ) ルフカっ・ か何とか言って気ところが、彼が小屋と錯覚したのは、宇宙人たち あちらの書評などを指針に、話題 勢をあげながら、の船だった。気がつくと宇宙船は、地球を遠く離れ 作を優先的にとりあげる関係で、こ 『銀河のオデッセた空間を飛んでいた。宇宙人とはいっても、彼らは のコラムでは、そういったマイナー イ』を ( その欠点 - ビリイと同じ人間で、地球は彼らが遠い昔に植民し な作品を紹介する機会はほとんどな ヒリイル」 一は重々承知のうえ忘れてしまった惑星らしい。船の乗員は、・ マ かった。だが、あらためてのつ で ) けっこう楽し除いて三人。二人の年配の男と、彼より少し年下く まっている本棚をながめてみると、 ロく読んでしまったらいの、目のさめるように美しい、レディ・レアと あることあること ! 通俗専門 のだから、なさけ呼ばれる娘だ。彼らは、銀河系中の原始的な惑星を ス よ、 0 のエース・ブックスなどは、大半が 訪れては、気ままに狩猟を楽しんでいるのだった。 そうで、ジョン・プラナー キ今月は、そうし三人から見れば、・ ヒリイは原始人である。彼は奴 ル・ビターヤ、ジョン・ラッカム、 た現代スペース・隷にされ、船内の雑役や、狩猟の伴をするようにな ジョン・ジェイクス、ジャック・ウ オペラの中から、る。ところが、やがて訪れた銀河系の辺境の惑星 ィリアムスン、マリオン・ N ・・フラ ランダムに三つので、男二人が死に、レディ・レアと彼の二人だけが ッドリイといったべテランや新人が 作品を選んで紹介取り残されてしまう。荒涼とした惑星上で、二人は 入り乱れて書いている。 することにした。ともかく『銀河のオデッセイ』の奇蹟的に緑地帯を発見し、宇宙船が救援に来るまで いわゆるスペース・オペラ時代として悪名の高いストーリイをもう少し詳しく書いてみよう 生き伸びる希望が生まれる。 一九三〇年代のものに比べれば、文章その他では遙 かって、この惑星に宇宙船が墜落したことがあ かにスマ 1 トになり社会諷刺や歴史などを折りこん主人公のビリイ・デンジャーは、十九歳。あるカり、その緑地帯は、船内で栽培されていた植物が繁 で、一見高尚な印象を与えるけれども、根本は宇宙レッジに通っていたのだが、学資を出してくれてい茂したものらしい。 人間の姿はどこにも見えない 0 0 つ 0 0 、ノ 田 7
の主軸とし、その「機関誌」はファン出版のごく一部を占めるマガジンインデックス」 ( 六七年末 ) および「図書解説総目 にすぎない。 録 . ( 六九年三月 ) 出版、野田宏一郎の「イラストライ・フラリ ー」発行 ( 六八年夏より ) などがあげられる。私事にわたるが柴野 日本の各グループの定期会合中、重要なものをいくつかひろって みよう。 拓美の米国ファンダム招聘による六八年世界大会 e< 0 0 Z ) 出席も、それにつけ加えさせていただこう。 ■一の日会同好会 ) 毎旬一の日午後六 ~ 九時、東京渋谷道日本の年次大会は、冒頭にあげた三回のあと、六五年の「第四回 玄坂の喫茶「カスミ」にて。毎回二 ~ 三〇人あつまり、時おり作家日本大会 (eæoza) 」が東京で約四〇〇人の出席をあっ も姿をみせる。会合ファンのメッカ的存在。 め、このとき「日本ファンダム賞」がスタートした。以後、六 ・金曜会 ( ミュータンツクラ・フ ) 毎週土曜午後六時半 ~ 十時、名古六年は名古屋で第五回 (äQ*00Z) 、六七年第六回 (+OXO 屋駅裏の喫茶「クロー ・ハ」にて。一〇人前後。このグループだけの z 3 ) と六八年第七回 (e O O Z 4 ) がいずれも東京、とつづく 会誌「フライディ」が出ている。 が、六九年の第八回大会 (X>DOOZ) は遠く海峡をこえて熊本 ■アポロコン ( タイムパトロール他 ) 毎月第二第四日曜午後、大阪県杖立温泉で開催され、異色の運営で注目をあつめた。さらにその 一週間後には東京で、超人類・・ハグ集団共催の「フェスティ 北梅田新道の契茶「アポロ」にて。一〇人前後。 の会 ( 九州クラブ ) 毎月第一第三金曜夜、福岡東中州のル・ 2 」が、新たな大会シリーズとして・登場、作家を含む参加者一 」にて。一〇人前後。なおこのグループま 喫茶「プルーシャトー : 貢四〇をあつめ、若手ファンの成長ぶりを示した。このほか、マイナ 本でも不定期の「熊コン」を開く。 ーな大会では、毎年五月ごろ東京で開かれる「気流祭」同 この他、広島のイマジニア「例会」 ( 第三日曜 ) 、東京のサイレ好会 ) 、大阪の「ヌルコン」、名古屋地方の「ミ = ートコン」、前出 ントスター「月例会」 ( 第一木曜 ) 、アイ「マルグリート総会」 ( 第の「プラコン」などが、それそれ二回以上回を重ねている。 七 0 年には、・「第九回日本大会 (e 0 O Z 5 ) 」が連 二土曜他 ) 、超人類東京支局「エャーネ集会」 ( 第二日曜 ) などが おもなところ。 合会議主催で早くも予約受付を開始、 . また「フェスティル・ 会合だけの存在には、月一回東京渋谷の石原藤夫氏宅にあつまっ」は、超人類・パン。 ( カ集団共催により関西開催を予定してお て、自然科学の尖端的な話題を研究しあう「ファン科学勉強り、さらに新事業として、小松左京氏等を中心に、米英ソから作家 会」 ( 略称「フ科会」 ) があり、すでに二年近くつづいている。毎を招く「国際シンポジウム」の計画がもりあがっている。委員 回の出席は五 ~ 一〇人程度。このほか「東大研 , の会合 ( 渋谷長・野田宏一郎、事務局長・遠藤大也といった陣容である。 その一方では、政治活動とを直結させる一部学生ファンの間 の喫茶店「ミラ」 ) も有名であり、また「一の日会」の分派が東京 に、「 0 0 Z 5 粉砕」という造反の声もあがっているので、そ 新宿で月一回の「だけを語る会」をスタートさせるなど、ファ ・ファンダムの歩みも、しょ の結果がどういうことになるか : ン会合地図でもかなり変化はめまぐるしいものがあるようた。 冫ーし力ないもののようだ。 せん浮世の荒波を超越するわけこよ、 最後になったが、最近の個人的な業績としては、石原藤夫「 ( 筆者は同人誌「宇宙塵」代表 ) オフィシアル・オーガン
地球の調査を してまわったのしゃ 、 ? とね その附近の一一 住民たちは なんかのかたちて 宇宙人に感化 2 れただろう 一七三八年ごろ 地方に - シルハリー 突加百人あまりの " 寬女。が現れて 処刑されたという 記録がある なにか特殊な 能力をもった人間が つまりエスパーの一種だが 突然変異のように現れるとすると それは なにか特殊な 』ラ大きな力が のじゃないか ? やつの絵を ・も、つす・こし だまって 見てる こったな :
めか、ロのなかで繰り返し呟いていた。 そういえば、おかしいことはいろいろあった。 なんだか、ひどく長閑だった。 だいいち、あのとき、なぜ彼は、この姦夫姦婦めが、この色気ち 2 午後の陽はうらうらと温かく、そうして背をまるめうずくまってがいが、この売女めがと叫んで、二人に飛びかからなかったのか。 いると、背中から首筋にかけてちょうど程よく温まって、何とも平 いくらショックが大きかったからとはいえ、目の前でそんな有様見 和な、穏やかな、何事もない太平楽の気分ーーー・まるまっちく着ぶくせつけられて、黙って引きさがるほど気の弱い男では、村松はなか れて、ちょこまかそのあたりを歩きまわっている幼児を見ても、背ったはずだった。いやむしろ、日頃は冷静ぶり、計算たかいリアリ にもう一人背負い、鼻歌めいた子守歌うたっているねんねこ姿の女ストぶるくせをして、実は暴発しがちな鉄砲よろしく、すぐカッと を見ても、風にふきあげられた塵のため黄色つぼく見える空と、そなる欠陥人間だったから、ことによったら、女の首すじぐらい絞め こに、はげしく首ふりながら浮かんでいるアド・ハルーンを見てもー かねなかったはずなのだ。それを、絞めるか逃げだすか、二つに一 ーそれらのものと、わが身とのあいだにちっとも落差が感じられつ選・ほうという気さえ起さなかったというのはおかしい。 ず、そのまま、春風に吹かれる昼さがりの市街の絵におさまってし たい二には、、 しくらあの道の好きな女とはいえ、いくら発情して まいそうなのだ。 しまったからとはいえ、白昼、御用聞きや郵便配達、同じア。ハート あまりのショックにうつけになったか。それとも、怒りも悲しみの奥さん連がふいに訪ねて来ないものでもない時間に、不用心に鍵 も、重さも焦燥もすべてなしくずしにしてしまう、あのニヒルな日もかけず、男とよろしくやるなんそは、ぜったいにおかしい。たと 常の心理になってしまったのか。そのどっちでもなさそうなのだえば村松と寝るときなど、村松のほうでどんなに唐突に欲情しおそ が、とにかく、「いまおまえは、おんなをねとられていたことを、 いかかって、半分裸かにしてしまっても、かならずドアに鍵をかけ めのまえでみせつけられてきたのだそ」と、子供が本を読むよう に行くか、彼にそうしてちょうだいと強請するかどちらかしたもの に、一字一句わが心に読んできかせてやらなければ、そのままずるなのた : ・ ずる、その陽なたくさい温かい、眠けを誘う絵のなかへ、とけこん そしてだい三には、たとえばどんなに快楽のきわみにあったとし でしまいそうになることだけは確かだった。 ても、その最中、いきなりドアをあけられて、二人が二人とも、ぜ じっさい、そうしてふと思い返してみると、いまさっき、確かにん・せん気がっかないという法はない。女のほうはともかくも、男の この目ではっきり見た、あの猥らな、あの落花狼藉の光景が、そしほうは、最後の瞬間をのそいては、たいてい女より覚めているもの て思い起せばたちまち眼前にありありと甦ってくる裸形の蠢めきで、村松などは、よほど酔っぱらってでもいないかぎり、わりと小 、カ 、しかし果して本当に起ったことなのか、それとも彼が恣に、勝さい物音にも敏感に反応する、ましてやあんなに乱暴に、ドアをひ 手にでっちあげた空想なのか、いやそれとも、たたの白昼夢にすぎきあけられ枕もとに立ちはだかられでもしようものなら、村松の場 ないのか、自信がなくなってくるのだった。 合は大あわて、すつばだかのままはねおきるか、ただしは毛布をわ
0 0 0 0 0 が、巨大な猫と巨大なノミがそこに住んでいる。大アクと呼ばれるその種族は一万年前、太陽の爆発で屋にはいって、四十年にもなるのだ。 陽の放射線で突然変異した宇宙船の生き残りだろ減びたということだ。すると、レディ・レアを連れ一つだけ収獲があった。ここから脱出する法であ る。彼らは人間の眼を珍重しているという。彼は右 う。二人は猫と友だちになり、ノミと値物を食べて去った生物は、いったい何者なのかっ・ 生命をつなぐ。 ( この間、およそ数カ月、ビリイは捜索はなかなかはかどらす、そのうち二年の年月眼とひきかえに、スラットを連れて牢を出る。 スラットのおぼろげな記憶をたよりに、彼はヒー 彼女にまさに奴隷のようにかしすくばかりで、十九が過ぎ去り、ビリイは機関長に昇格する。 歳の男性らしい行動はいっこうに起こさない。しばそんなある日、彼の乗っていた宇船が事故を起アク族が住んでいた惑星をいくつも訪れるが、彼ら らく読みすすんで、おかしいなと感じるが、そのとこす。乗員、乗客はほとんど無事だったが、救命艇はどこにも見つからない。しかし、そんな旅の一つ が着陸したのは雪と氷の惑星サイオック。惑星上ので、ゼリダ , ージュ人の服を着ている類人種族の商人 きには次の事件が始まっている ) つめたところ、惑星ドラスに ・一の基地までは、数百マイルの道のりがある。しに出会う。商人を間い コウモリを思わせる奇屋な小人族が、レディ・レ アをさらっていってしまったのだ。ューレカと名づかし誰かが連絡に行かねばならない。 この役をかついる人間の奴隷から買ったという話。 けた従順なペットに助けられながら傷をいやすうて出たのがビリイだが、彼の考えかたは、乗客たち彼はドラスに行き商人が話していた奴隷と会う。 ち、ようやく次の宇宙船が現われる。ビリイはそこには一見苛酷なものだった。出かけるのは数人、残ゼリダージュ人ではあるものの、奴隷は男たった。 の船員に雇われ、捜索をいよいよ始めるのだが、そるのは数十人なのに、乏しい食料の半分を持って行男は金持の家の息子で、自分を買ってくれれば、そ くというのだ。不満の声を無視して強行したこの旅れ以上の礼をするという。ドラス人もこの売買には の船で彼は人一倍の働きをし、寄港地の一つトパ ズに着くころには、一人前の船員に成長している。は、けつきよく成功だった。彼に同行したものの中こころよく応し、もう一人いるから買ってくれとま もちろん、ユーレカもいっしょだ。 から二人の死者が出たが、あとに残った乗客は全員で言いだす。ビリイにはそんな金の余裕はない。だ 人類の文明は、銀河系全域にひろがっているとは生き永らえたのだ。 が、廊下でふと垣間見たもう一人の奴隷というの いっても、それはあまりにも広い。レディ・レアのこの事件から、彼の人生はまた大きく変わる。そが、 ( 頬に醜い傷跡はあるが ) 彼の捜し求めていた 故郷、銀河系でもっとも富裕な惑星ゼリダ 1 ージュの決断力が、乗客の中にいた政界の大物に認めらレディ・レアなのたった。 は、ここからではあまりにも遠い。そこで当面の目れ、彼はある類人種族の惑星の機密をさぐる任務を ( ところが、このあとドラス人の企みにかかって、 標を、彼女を連れ去った生物の捜索にし・ほることに・与えられる。報酬は、現在の給料の二十年分。だ今度はビリイが奴隷にされてしまい、物語はまたま する。 が、情報が漏れていたらしく、惑星に着いたとたんた思わぬ方向へと発展してゆく ) 銀河系には、人類以外にさまざまな種族が文明を捕まってしまう。しかし、ある意味では、それは彼 この用語は、安直に作られ 築いている。だが、どの世界でたずねても、彼の説にとって幸運たった。ぶちこまれた牢屋の同居人スペース・オペラ 明するような姿かたちの生物を知っているものよ、 ーしが、長いあいだ捜し求めていたヒ 1 アク族の一人だた西部劇を意味するホ 1 ス・オペラから派生したも やがて、ある惑星の図書館で、その生物につったからだ。スラットという名のその生きものからのと言われている。アメリカ俗語辞典で horseope ・ いての記述にぶつかるのだが、それによれば、ヒ】 は、けつきよく大した情報は聞きだせない。 この牢 ra をひいたところ、「一九二八年ごろから」とあ ョを強 0 0 田 8
ようになる。色素が増し黒光りしてくるのだ。その後小色素脱出斑 た。は私の胸の上に優しく手を置いて、大丈ま行かせてあげる、 が密生して白っぽく変る。同時に皮膚は萎縮し厚味も減って細かな と言った。そして三日後私が再び自転車に乗れるようになるまで、 皺が出る。脳の淡蒼球などの錐体外路障害に似て、筋緊張昻進、仮 長い物語りを語り継ぎ語り継ぎ私に聞かせてくれた。 ーキンソン病、ウィ 面性顔貌、運動減少、手指振顫などを伴う。 ルソン病に見られる症状と同じだ。 人類が遠い過去に置き去りにして、忘れてしまった病気がある。 石人病もます体の末端が固くなりはじめる。指、掌、腕とどんど 医学の進歩で、やがてはそうなるかも知れないのが黒死病だが、 をしかたまりと が私に教えたのはその類いのものではなかった。人間が石化し、数ん進み、顔はまるで仮面で最後には毛髪までが白っま、 千年の眠りから覚めると、その内部機構が変質していて不死の生命なり、曲げればポロリと折れてしまう。だが本来人体は水分が大部 となる奇病た。も医学の深奥をきわめたわけではないから、彼が分だ。放置すれば萎縮して死んでしまう。・誰が最初にそうしたか、 書物を漁って調べた範囲を出ないが、おそらく人種が幾つかの異根時の彼方に霞んで判るはずもないが、古代人たちはこれに多量の人 として発生したことによる人類の宿命的な疾病と言えはしないだろ血を与えてきた。副腎皮質が効果を顕わすことと言い、原始宗教に いけにえ うか。異根の二人種が混血したとき、稀れにこの怪病が発生した。見る犠牲の真意が此処に隠されている。キリスト教には塗油儀法が 近代病理学は体液病理、器官病理、細胞病理とその分野を拡げて残っているし、・ ( イ・フルで。 ( ウロも、人は自らのうちに変身し第二 きたが、最も新しいのは細胞間質病理学である。細胞間を埋める物の生誕を行なう。イ = スの神秘な血を飲んで自らを神性に依 0 て満 質に異常が生じて起る疾病は、その細胞間質の呼称から膠原病ともすべしと述べている。 しかしこれは石人病の第三則に入ってからのことである。第三期 呼ばれ、病変は類繊維素病変と血管組合組織病変に二分されるよう だ。どれも完全に解明されていないものばかりで、人為的に発病さが終ると、私がの家の横穴で見た隅田賢也のように石化して、二 千年ないし六千年の眠りに就く。人間本来の組織構造は石の皮膚の せるのが可能なのは血清病だけだという。 は石人病 : : : 彼の呼び方だが、その石人病は膠原病か、おそら下でゆっくり変化を続け、やがて不死の超人として再生する。 くそれに非常に近い病気の一種だと考えているらしい。全身性播種しかし蘇生するとき、介添する人間が必要である。ごく徴量たが きようひ テマトー 状紅斑性狼瘡や全身鞏皮症、結節性多発動脈炎、リウマチ熱、慢性人血を必要とするのだそうだ。舌端に異常発達した細胞が残ってい 関節リウマチ、皮膚筋炎がその仲間で、治療法は副腎皮質ステロイて、それを脱落させねばならない。石人から接吻を受ける相手が必 うつ ドホルモンが対症的に効くだけた。これらは一時平癒に向っても時要なのだ。しかもその細胞が脱落する時、石人から病源が染され を置いて再発し、その都度進行の度を深めるという厄介な疾患なのる。数千年の空白ののち、次代の石人病がこうして拡まるのだ。 メガリス 7 昭和三十年代のある時期、女流カメラマンで巨石遺構研究家でも だが、その中の全身鞏皮症が石人病によく似ているという。 2 鞏皮症は初めむくみ、やがて皮膚が硬化して一種の光沢を発するある椎葉香織という人物が偶然のことからヨーロッパにおける石人
0 0 0 0 0 こと - もなく今なお銀河系の広大な渦の中を運行してれば殺していたかもしれない。 追手は、大規模な艦隊をくりだして、族の いた - ~ エドワ 1 ズはあわてて大学の学部主任にそれそこへアレグザンダーがとんできて、踏みつけら兵器が地球人の手にわたるのをくいとめようとす を報告する。 れている男は、本当に旧植民星のスパイであることる。数百年前、地球に疫病が蔓延し、地球上の人類 この発見が、どれほど重大な意味を持っているかがわかる。女の子は、エドワーズが銃をつきつけらの九十五パ 1 セントまでが死んで、当地の植民星へ 思い知ったのは、兵器庫探検の任務が自分に回ってれたのを目撃して、悪漢退治に手を貸してくれたのの補給が長いあいだ途絶えたことがあった。その苦 きたときたった。 しい時代の出来事を歴史の授業でたたきこまれてい この兵器庫探検は、考古的に重要なばかりではなところが、スパイよりもっと始末のわるいのがジる旧植民星人たちは、今でも地球人を激しく憎悪し 。もし、まだ使用できる武器が見つかるなら、最一ンジャ 1 ・コリンズと名乗るその女の子。二人が何ているのだ。 近とみに険悪になっている旧植民星との関係を、一か秘密の使命を帯びてどこかへ行こうとしているの三人は、ついに兵器庫を発見する。上空では、彼 挙に地球に有利に持ちこむことができるのだ。 だと早合点し ( 実際そうなのだから、なおわるい ) 、らを守るために地球の艦隊が待機しているが、旧植 問題の惑星マーミオンが、旧植民星の支配下にあ行先が同じなのを幸い、すぐ二人にかまをかけてく民星の大艦隊の前には、多勢に無勢。一方ドワー るので、探検もできるだけ秘密裡に行なわなければる。 ズたちの手もとには、どれほどの威力があるか知れ ならない。一行は、保安局から派遣されたアレグザ ( このあたり、テレビのナポ・ソロ・シリ 1 ズをそない兵器が無数に眠っている。これを何とか使えな ンダー・アロディアンと名乗る青年と、彼の二人たのまま宇宙にもっていったようなスパイ・コメディ一、 しものだろうか : : : というところがクライマックス け。 で、気がつくと三分の一ほど読み進んでいる。このだ。 エドワーズたちは観光客に変装して、地球をあとまま行けば、ちょっとした拾いものになるのではな ◇ にする。ところが出発直前、もう情報がどこかに漏いかと期待したのだが、主人公が一人になると急に れたらしい、宇宙港の雑踏の中で = ドワーズはうし真面目になってしまったり、そのあたりがちぐはぐ数ある現代スペース・オペラの中から、ランダム ろから銃をつきつけられる。彼はみごとに体をかわでどうもいけない。として見れば、三十五世紀に選んで紹介した一一一編。しかし、こんなふうに要約 す。これまでいつも研究室にとしこも「ていた彼でありながら、どこもかしこも現代と少しも変わらしただけで、ラインスタ 1 は別にして、あとの一一編 に、そんな芸当ができたのは、数日前からアレグザないのが難といえるだろうーーそこが、スペース・のおもしろさは伝わっただろうか。ぶつぶつ文句を ンダーに手ほどきを受けていた護身術の続きだと感オ。ヘラである所以かもしれないが ) 言っている・ほくだが、読んでいるときには、理屈抜 違いしたからだ。 とにかく、そんな変わりばえしない世界で追いっきに楽しんだことは確かなのだ。しかし、こんなこ 男は一目散に逃げてゆく。しかし、そこへとんで追われつの活劇を演じた末、三人は ( ジンジャーもとをくどくど書く必要はないかもしれない。スペー もない伏兵が現われた。いきなりとびだしてきた若その間のはたらきにより、臨時の探検隊員に加えらス・オ。〈ラのおもしろさは、ぼくよりあなたのほう い女が、男をつかまえて地面につきたおし、 ( イヒれている ) とうとう目的の惑星マ 1 ミオンに到着すがよく知っているはすだから。 : ルで踏んづけはじめたのだ。彼が止めに行かなける。 0- 」 0