. をてこ噎 親しませてきた。サ・フ・タイトルが「旅行、冒険および」とな っており、新しい文学としてのに、ソ連では一番早く目をつ け、その紹介にも努めてきた雑誌である。ソ連ではすでに古典的 作家として、ウエルズやヴェルヌと並んで高い評価を与えられて いるアレクサンドル・べリャーエフも、文壇ではひどく冷淡な扱い をうけたが、この雑誌では水を得た魚のように活躍した。 『探求者』を付録として出し始めてから、「と冒険」はもつば ら、それに任せ、大衆向け地理雑誌に専念しているが、編集長は パリンである。『世界めぐり』もそ 作家でもあるヴェ・エス・サ の付録誌である『探求者』も共に全連邦レーニン共産主義青年同盟 (Komsomol) 中央委員会の機関誌である。私企業としての出版活 いかめ 動が無いお国柄では、どんな大衆誤楽雑誌といえども、当然、厳し い組織や団体の機関誌であるわけである。″共産主義″青年同盟を当第 040 0 あまり固苦しく考えず、青年団とでもみれば、理解していたたける のではないだろうか。二七〇万部という膨大な出版部数は、たた人 口が多いことや「親方日の丸」式の出版だからというだけではな く、やはり内容も無関係ではなさそうである。 『探求者』を付録誌であるという言い方をしてきたが、実はこれは 日本でいわれる付録とは全く意味が違い、例え親誌を予約購読 ( ソ カ連では雑誌は年間予約購読が建前になっている ) しても、付録誌で ある『探求者』は、「おまけ」にはなっていない。読みたいと思え 識 知 ば別に改めて、予約代金を添えて申し込まなければならない。 『世界めぐり』の読者の中からや冒険もの ( スリラー、 イ、探険などひっくるめて ) にもっと頁を割けという声が多かった 結果、『探求者』が生れたのではないだろうか。もともとソ連では 推理小説や探偵小説はたいへん人気があり、当然、コナン・ドイ ル、エドガー・アラン・ポーはよく知られているし、「シャーロッ 4 ク・ホームズ張りの探偵」といえばソ連流の解釈による素人探偵を 、 3 豆 a 日Ⅱ e ー ハこ 0 Ⅱ a は 969 、 , 。 、、をこを A 『技術青年』
うかもしれんのだそ、わかってるのか ? 」 くちばしが小刻みに動いた。「スモー・フロッド ? スモープロッ 「ちょっと、頼むからこらえてくれ。・ほくはびつくりしただけなん ドなんてところは知らないな」 だーーー」小さな口笛の音が漏れた。「 コーントと間違えられた「この太陽系の外惑星だ」 ものだから」 「ああ、そうカ 、。ぼくらはガズムって呼んでいる。ある種の生物 「おまえはコーントじゃないのか ? 」 がそこに植民地を作ったって話は聞いたことがある。だけど・ほく 「・ほくが ? 冗談しゃない、もちろん違う ! 」圧し殺されたロ笛のは、そういう話にはあんまり注意を払っていないものでね」 音が、くちばしからまた漏れた。「あいにくと、・ほくとズ・フはパ 「時間を無駄にしてるそ、レティ ーフ」・マニャンは、そういうと、 ップなんだ。博物学を勉強してる」 「こいつらを縛り上げて、急いで宇宙船へ戻るんだ。そして逃げ出 「コーントそっくりに見えるんだがな」 すんだ。こいつのいったことを聞いたかーーー」 「全然似てないよーーたぶん地球人たちにはわからないだろうが。 「この下の入江に、コーントたちはいるか ? 奴らの宇宙船はどこ コーントたちは、みんな十フィ ートを越えていて、逞しい体の悪漢にあるんだ ? 」 どもだ。そして、もちろんだけど、けんかばかりしている。実際の 「タールーンに、という意味か ? もちろんいるよ。大勢さ。彼ら ところ、特権階級のなまけ者さ」 の冒険の一つに出かける用意をしてる」 「特権階級 ? おまえは、コーントたちがおまえたちと生物学的に 「それは、スモープロッドへの侵略のことだろう」とマニャン。 は同一なんだとでも、いうつもりなのかねーー」 「急がないと、レティ ーフ、最後に疎開する人々といっしょに、向 「全然違うよ ! くーップがコーントを受胎するなんて、考えたこ こうで捕まってしまうことになりそうーーー」 ともない」 「タールーンには、いったい、何人ぐらいのコーントがいるんだね 「おれがいしたいのは、おまえたちが同じ系統にあるんじゃないか 「大勢だ。十五人から二十人ほどはいるよ」 ということさーー・・恐らく、共通の先祖から進化してきたのたろう」 「ぼくたちはみんな、パッドの子孫なのだ」 「え ? 何が十五人から二十人たって ? 」マニャンの当惑したよう 「おまえたちとコーント族とは、どこが違うんだ ? 」 な顔つき。 「コーントが十五人から二十人さ」 「もちろん、コーントは議論好きで、誇り高く、人生の美しき物に 対する認識に欠けているんた。彼らの水準にまで堕ちることを考え 「コーント族ってのは、全部合わせて、たった十五人から二十人ぐ ると、そっとするよ」 らいしかいないっていうのか ? 」 「おまえは、スモー・フロッドの地球大使に送られた文書について、 またロ笛めいた音をさせて、「そんなことはない。この区域のコ 5 何か知らないか ? 」 ーントについてだけの話さ。他の中心巣にはもっといるよ。もちろ
「そんなものは無いんです。コーントたちはず「とあそこにいたん 「これはどうしたこ ニトワースは、マニャンの方を振り返った。 とだ。私の許可もなく、どこのどいつが補充兵たちに出発の命令をですよ。地下にね , 「地下 ? そこで何してたんだ ? 」 下したのだ」 「冬眠していたんですーーー一気に二百年間も」 「信越ながら、私が彼らに遂行すべき任務を与えました、長官」レ 、 0 こ。「シリウス星系にグロ 1 キ族が侵入していると外の廊下で、 = ャンはレティーフに追いついた。レティーフは 一アイ 1 ーフ、刀し↓ / パイロットの作業衣を着た背の高い男と立ち話をしていた。 いう、あのちょっとした事件がありましたね。彼らにそれを扱わせ 「レティ】フ、おれは、補充軍についてのおれの、じゃないーー我 るように送り出したのです」 君の計画の細部報告のためにかかりつきりにな 我の、でもない 「呼び戻せ。すぐ呼び戻すんだ ! 」 ーツ。フの政府を樹立するのを手 「残念ながら、呼び戻すことはできないと思います。任務を完了する」 = ャンがい 0 た。「新しい るまでは、完全に連絡を断 0 て、沈黙を保 0 ように命令致しました伝いに、君があの町まで行 0 たらどうだろうか」 「行きましよう、マニャン。ほかには ? 」 から」 マ = ャンが眉を上げた。「今日はいやに調子がいいな、レティー ニトワースは机の上で、指を叩いている。やがて、ゆっくりと思 慮に満ちた表情が浮かんできた。そしてうなずくと、「うまくいくフ。おれが飛行手続きを整えてーー・」 、 0 こ。「私は彼らを呼び戻すべきであ「心配いりませんよ、 = ャン。ここにいるサイが、私を届けてく かもしれん」ニトワースがしナ る。しかし艦隊とは連絡不能であ 0 てみれば、そうすることもできれますよ。こい 0 は我《を ~ ーリ , トエに運んでくれた。 ( イ ' ト ない。そのとおりだな ? とすれば、グ 0 ーキ族懲罰におけるいかです。思い出したでしまう」 マニャンはそっけなくうなずいた。 なる熱狂的な行き過ぎに対しても、ほとんど責任を持たなくてもい 「さっきの話、二つ三つ心当りの電話をあたってみる。そしたらす いことになる」 = トワースは片目を閉じると、 = ャンに向けて、 ぐ会おう、レティーフ」。 ( イロットはそういって、立ち去った。マ おおっぴらにウインクした。 ニャンはその姿を非難するような目つきで追った。「粗野な奴だと 「よろしい、今度のところは規則違反を見逃しておこう。マ = ャ イ = 、ー・ , , ドの住民に、現在のまま住んでいることができる前から思 0 ていたがね。君は、奴のようなタイプの男たちとは、打 ようにな 0 たと通知するよう、手配してくれ。ついでだが、万一 = ちとけた交際などしていないだろうね = = = 」 「そうはっきり決めつけるのはどうですかね」レティーフがし フィギュア 1 ントの使用している探知不能な推進方法を発見したなどというこ た。「ちょっと二、三、数字をいっしょに調べてみたいと思っただ とはないかね ? 」 けですよ」 (t の数字の両方を意味している え。ということは、発見したということです」 「なに ? なんだと ? 」 7 6
白い砂の固まりもそこにあった。未露出フィルムのように、塑像があらわれていた。「農場はどうなのかね ? 」ドークは言った。 製作者の指を待っている粘土のように、彫刻家ののみを待っている「彼らは穀物を農場で栽培しないのかね ? 大理石のようにーーケネディは頭を振った。トライヤーはすべての「火星で農場をみたことはありません」と、ケネディが答えた。 , い 1 ー 歩道のあらゆるカープ、すべての花壇 「というと水耕法だろうか」 、。、ールか珊瑚色の円い ムなどの細部にわたる完全な青写真を見ることを許可してくれた。 「前にはそういうことをしていたようですーケネディは答えた。彼 そうだ、トライヤーは言った。人口が増加していると。なるほど少は火星人がようやく意味が分ってそれに答えるまで、少なくとも五 しずつではあるが増加している。だから住むべき場所の増加も必要十回は同じ質問をしたものだった。「しかしここ五千年以内のこと なのだ ドークがまた話し出した。 ではないですね」 ケネディは時計をみた。彼はドークにもう五分っき合ってやれ 「私は火星人の食生活の習慣についての君の報告に大いに興味をそ そられたよ。君は彼らがおそらく主要ビタミン類は違うが、基本的た。 「だが彼らは穀物から食糧を作るんだろう ? 」 には我々と同じ基礎食品を食べていると報告している」 「そうです」ケネディは言った。 「そうですとも」ケネディは答えた。ケネディは水の供給を調査し 「しかし君は火星人の食糧供給の源を発見できなかったとつけ加えた折、そのことも調べて、同しような結果を得ていた。「彼らは貯 ている」 蔵所をあらゆる都市に持っていて、そこに穀物を貯えているんで ちょっとのあいだケネディは躊躇した。それはもちろん、報告書す。大部分は小麦のような穀物ですがね。彼らは我々が地球でやる の要点であった。それはまたトラキシアや赤い惑星の他のあらゆるのと同じように製粉します。上質な粉ができますよ。そこから粉は 個々の家庭へ送られ、ユッサと呼ばれる固いパンに焼かれるんです 都市の秘密でもあった。ケネディはゆっくりと頷いた。 「彼らの水源も発見できていません」と、ケネディは言った。 。トーーク、刀 「何てこった。彼らは食べ物を食うだろうが ? 」 「しかしどうやって穀物が搬送機に入っていくのかねフ たずねた。 ケネディは頷いた。 「彼らは水を飲むだろうが ? 」 「そいつが私にも分らないんですよ」と、ケネディは言いながら立 「飲みます」 ー・ドーク。お発 ち上った。「お目にかかれて光栄でした、ミスタ 「それはどこからかこなくちゃならないんだ。そうじゃないかねちになる前にもっとお会いするようになるたろうと思います」 ケネディは手を差し出した。 「そうですかね ? 」ケネディは言った。 ドークは別れを告げる客にたいして立ち上って送ろうとしなかっ ドークの顔にはこの研究員の態度も答えも気に入っていないこと こ。ドークには伸ばされた手が見えないようだった。ドークは目を ロ 2
からも、明らかに一般的な傾向として、はとして、抱き合 せから独立する気配がある。こうした動きが、『探求者』から新し い雑誌を生みだすことになるのかもしれない。 しかし現実には、『探求者』は「と冒険」の雑誌であり、差 し当ってはソ連の rn 雑誌の代表ということになっている。 ソ連の出版物は日本の規格から見れば、変形サイズで、『探求 界 世者』は日本式で言えば変形の縦長である。多色刷りの表紙は、 誌 必ずその号に載った作品のどれかに関連のあるイラストで飾ること になっており、それは百六十頁の頁数と共に変っていない。著しい の 変化があったのは、発行部数で、親誌の『世界めぐり』の二七〇万 一者 。求部には遙かに及ばないが、創刊から一九六二年の二年間が一〇万、 翌一九六三年が二〇万、それ以降現在まで三〇万部を、隔月刊で出 している。先にも触れたように、年間予約購読が建前になっている から、読者はほぼこの数に近いと思われる。 内容は、号によっていわゆる冒険が多かったり、が多くなっ ポーベスチ たりするが、最近の傾向としては比較的長い中編 ( 四、五十頁 ) を 現わす言葉になっている。しかし、現代欧米のものについては、ま載せ、創刊当初のような、科学読物、マンガ、科学ニ = ースなどは だそれほどではないが、最近、『外国のディテクティ・フ・ストーリ 極端に削ってしまっている。明らかに作品中心の編集を行ってい イズ』という翻訳短篇が出版されたのをみても、今後はこの分野のる。創刊以来今日まで変らないのは、「古い頁を繙いて」というリ 翻訳紹介は多くなると思われる。 。ハイ・ハル欄である。全体として感じられるのは、われわれのマ そういう意味での″冒険″とは、特に出版物に現われる扱わガジンと比べると、この雑誌の編集は相当大雑把であるといえる。 れ方として、あまり区別されず、ほとんど抱き合せの形をとってき編集者の顔ぶれに、創刊当時はエフレーモフの名前が見えたが、 たが、最近、ここ数年の間に『外国の』シリーズ ( この中には、今は退いており、若手のド = = プロフが代って顔を出している。他 日本短篇集が二冊含まれている ) 、『ソビエトの』シリーズに創刊以来の編集者に、日本ではあまり知られていないヴェ・エス ( エフレーモフの『アンドメダ星雲』の続編といわれる『丑の ・サ。ハリン ( 『世界めぐり』の編集長でもある ) 、ア・ペ・カザンツ 刻』・が間もなく出版される ) 、『世界文庫』 ( 全十六巻、安部公 エフが関係では名前を列ねている。 房の『第四間氷期』の他、小松左京、星新一などの短篇が収録され ここでは、″冒険″には触れず、最近のいくつかの号から、 エス・エフ ている。東欧諸国の作家が多いのが注目される ) 、『中』など矢の紹介をしたい。 継ぎ早にだけを扱ったシリーズ、全集などが出始めていること
肩の腕を払いのけようとした。それは鉄の棒のようにしつかりとく目の中にさしこんでくると、われないのが辛くなってきた。 締めつけていた。 「心配するな」とオークは言った。「兄貴、おれ「どうしたって言うんだろう ? ーと彼はきいた。 が面倒を見るぜ」 「一巻の終りさ」その男が元気よく言った。「箱詰にされたんだ 酒場が・フレインの頭の中で物すごく回転し始めた。彼は突如としよ、おれと同じように。やつらは、お前を荷物のように箱詰にして て悟った、自分は直接経験というお・ほっかない方法で二一一〇年をここへ運んで来たんた。あとはお前を木わくにつめてラベルをはる 探り出そうとしていたのだと。とても手に負えそうもない、これく だけさ」 らいならほこりつ。ほい図書館の方がましだったかも知れないと彼は ・フレインはその男の言っていることがのみこめなかった。二一 思った。 〇年のスラングを判読する気持にはなれなかった。彼は頭をかかえ 酒場が一段と早く回り始めた。そしてプレインは意識を失った。 て言った。「・ほくは金も持っちゃいない。な・せ彼らは・ほくを誘拐し たんだろう ? 」 「くだらん」その男が言った。 「な・せやつらが箱詰にしたかって ? それはあんたの体が欲しいからさ」 彼は小さな薄暗い照明の部屋で意識をとりもどした。家具も戸も「ぼくの体だって ? 」 窓もない。ただ天井に換気口が一つだけだった。床と壁には部厚い 「そのとおり。宿主の体さ」 ドがつめてあったが、パッドはもう長いこと洗われた形跡がな宿主の体ーーっまりいま自分が持っているような体だ・ーーとプレ く、悪臭を放っていた。 インは思った。無理もない。当然のことだ。考えてみればすぐわか ・フレインは身体を起こした。二本の赤熱した針が目にさしこんでることだった。この時代は種々雑多な目的のために宿主の体が必要 なのだ。・こが、・ きた。彼はふたたび横になった。 ナとのようにして宿主の体を手に入れるのか ? 木に 「落ち着けよ」声がした。「あの薬からさめるにはもうしばらくの生えているわけではなし、ましてや土から掘り出せるものでもな 辛抱がいる」 人から手に入れるほかはないのだ。自分の体を売り出そうなん パッドのある部屋にいるのは彼一人ではなかった。部屋のすみにてする奇特な人もまずいまい。体のない人生なんて、まったく、無 坐って、彼を見つめているもう一人の男がいた。男は半ズボンをは意味なものだ。では、どうして必要を充たしているのか ? 答えは いていた。・フレインは自分の体をちらっと見て、自分も同じ服装を簡単だ「だまされやすい男を選んで麻酔薬を飲ませ、人の知らない させられているのに気がついた。 ところに隠して精神を抜きとってから、体を手に入れるのだ。 彼はゆっくりと起きあがって、壁に体をもたせかけた。一 , 瞬、 面白い考え方だったが、プレインはそれ以上っいていけなかっ 2 まにも頭がわれるのではないかと思った。だが、針がいっそうひどた。頭の中はいよいよ爆発寸前だった。 6 ホスト ホスト
った。「正常です、まったく正常です」 ここで彼はなにをしているのか ? なにが起ったのか ? 「しつに不思議たーと、あから顔の男が言った。 さっきのひげを生やした医者が、若い女を伴ってもどって来た。 「不思議しゃない。いままで、死の衝撃を過大視していたたけなの「先生、この方は大丈夫なんですか ?. と、若い女がきいた。 です。極端に過大視していたんです。近く出るわたしの本がこの点「まったく正常です」と、老人の医者が言った。「模範的接合とで を解明しますよ」 も言いましようかね」 . 「うむ。それにしても、再生の抑圧は , ーー」 「では、インタビューを始めてもよろしいですか ? 」 「ナンセンスですーと、老人がきめつけた。 「いいですとも。もっとも、この人の行動は保証しませんよ。死の 「・フレイン、気分はいいかね ? 」 衝撃が非常に過大視されていたのは確かですが、やはり多少の危険 「ええ。しかし、これはいった、 「どうです ! 」と、老人の医者が勝ち誇ったように言った。「生き「ええ、けっこうです」と、女は・フレインに近・つくと身をかがめ 返って、しかも正常です。さあ、レポートに連署してくれますねた。なかなかの美人だ、とプレインは思った。目鼻立ちがはっきり し、目が生き生きとかがやくようだ。長い、つやつやした茶色の髪 「止むをえないでしような」と、あから顔の男が言 0 た。二人の医は、小さな耳のうしろに、すこしきつめなほどひきつめられ、あた 者は出て行った。 りにはほのかな芳香がただよっている。本当はもっと美しくてもよ ・フレインは、三人がなにを話していたのかもわからぬまま、出て いはずなのだ。表情に動きが少なく、ほっそりとした体に整いすぎ 行く二人の後姿を見守っていた。太った、母親タイ。フの看護婦がべ た固さがあるために、美しさが損われているのだ。この女が泣いた ッドのそばへやって来た。 り笑ったりするのを想像するのはむずかしかった。まして寝た姿を 「ご気分はいかがです ? 」 想像することは無理だった。彼女には、どこか、狂信者、あるいは 「いいです」と、・フレインは答えた。「でも答えてください 」献身的な革命家といった風情があった。だがそんなことは本人の好 「申しわけありません」と、看護婦が言った。「まだ質問は一切いき不好きだ。他人の詮索すべきことではない。 けないことになっています。ドクターの命令です。これを飲んでく「こんにちは、・フレインさんーと、女が言った。「わたくし、マリ ださい。元気が出ますよ。さあさあ。心配はいりませんよ。万事う ・ソーンですー まく行っているんですから」 「こんにちは」と、・フレインも元気よく答えた。 看護婦は出て行った。彼女のはげましの言葉は、彼をふるえあが「プレインさん、ここはどこだと思っていますか ? 」 らせた。万事うまく行っているとはどういう意味なのだ ? それは「病院のようですね。ぼくはーー・・」彼はロをつぐんだ。女の手に握 6 なにかが悪いということなのだー なにが ? なにが悪いのだ ? られている小さなマイクに気づいたからだ。
丿ーの通信局員としての頭脳が、その高度に発達した特殊な機能に立ってたんだ、すると小僧がわしンとこへ来て、旦那を指さし が、数知れぬ思考の断片とともにぐるぐると回りはじめ、たちまちて、それからわしに五ドルとこの紙東をくれてから、旦那にこう言 7 一つの堅固な輝くパターンをかたちづくった。その緊密に組みたてえと言うんで、それで・ーー」 られたデザインの中には、こみあった通りでこの男が彼に近づいて「子供だって ! 」とリー。最初の衝撃が新たに戻った。 きた出来事を、たんなる偶然として受けとめる場所はなかった。 「ああ、十六ぐらいの小僧でさ。いや、十八か二十ぐらいかな : 「見せてくれ ! 」そう言いながら、彼は手をのばした。 そいつがわしに紙をよこしてーーー」 「その子供だが、大学生ぐらいに見えなかったかい ? 」 紙束は苦もなく男の指を離れ、彼の手にはいった。しかしリー は、それに目をくれようともしなかった。彼の頭脳は水晶のように 「そうでさ、旦那、わかったでしよう。そう、それくらいなんで。 澄みわたり、その眼は冷たかった。彼はぶつきらぼうに言った。知ってるんですか ? じゃ、わしの疑いは晴れたわけだ、このくら 「あんたが何を企んでいるのかわからないが、三つききたいことが いで勘弁してください 一つ。こんな混雑した通り ある。それに、すぐ答えるんだな ! 「待ってくれ」 ! リーは呼んだ。だが小男は、逃げるにかぎると急 で、どうして・ほくがわかったか ? なぜ名前や仕事を知ってたか ? の前から永久に に思いあたったようだった。男は街角を曲り、リー この町へ来たのは、一年ぶりなんだ」 姿を消した。 男はロごもりながら、わけのわからぬことを言った。リーは聞き リーは眉を寄せ、立ったままの姿勢で、薄っぺらな紙の東を読ん 流した。そして容赦なく続けた。「二つ、アンガーン教授はあと三 だ。小男のとりとめのない話につけ加えるような収穫はなかった。 時間ほどで木星から着く。その教授が、ほんの二日たらず前に書いルーズリーフのノート用紙で、そこにはさまざまな事実が順序を追 たものを、なぜあんたが持っているんだ ? 」 って書きこまれていた。こうして文字になってみると、宇宙船とそ の乗員の物語には奥行きが欠けており、読みすすむにつれ、ますま 「ねえ、旦那」男は震え声で言った。「それは考え違いだーー」 リーは冷酷に言った。「殺人事件の細かい点を、あすそらそらしくなっていくようだった。どのページのあたまにも、 「第三の質問」 んたは前もって知っていた。それを警察にどうやって言いわけす金文字で″アンガーン〃と印刷されているのは確かである。だがー る ? リーははじめて憐れ愚劣なでっちあげの印象は強まる一方で、リーは腹がたってなら どうだ ! 」小男の眼に涙がうかぶのを見て、 みをおぼえた。彼はいたわるように「「それだけだ、話してくれ」なかった。「あの大学生が本当にこの企みの張本人なら、すぐにも 言葉はよどみなく流れでた。はじめ、それらは意味のない音にすインタビューを打切ってやる」思考は跡切れた。その可能性もま た、今までにおこった数々のできごとと同様に、筋の通らぬものだ ぎなかった。内容がしだいに一貫してきたのは、しばらくたってか ったからである。 らだった。「ーーーそれが、こんなふうなんでさ、旦那。わしはそこ はたち
でもおこりうることだという暗示がちゃんとついてる。気をつけつばられて、 リ 1 はようやく、通行人がまちがってぶつかったので ろ、市民諸君か。そのうえ、この惑星間飛行の時代においては、つはないことに気づいた。 ぎの殺人は今夜どこで行なわれるかわからないという、警告のおま ふりかえると、そこには皺たらけの褐色の顔があった。彼は相手 けまである。さっきも言ったが、うまいよ。これで、今夜一晩もつの熱をおびた黒い眼を見おろした。小男は、一束の紙を目の前で振 っこ 0 リーはその紙の上の手書きの文字を一瞥した。と、男がぶつ くらいのネタにはなる。おっと、忘れるところだったーーー」 「何ですか ? 」 ・ぶっと喋りはじめた。「リーさん、百ドル出さないかね、こんな : : こんな話は 「半時間ばかり前、子供がきみに会いにきたぜ。約束したと言って た」 「ほう」失望を感じながら、リーはていねいに言った。「プラネタ リアンのオフィスへ持っていってくれませんか。値打のある記事な 「子供 ? 」リーは眉を寄せた。 「名前はパトリック。高校生、十六ぐらいだろう。いや、考えてみら、主幹のジム・・フライアンが買います」 ると、第一印象はそんなふうなんだがね。十八、もしかしたら二十それで問題は片づいたものと漠然と納得して歩きだした。すると ぐらいかもしれん。自信たつぶりで、居丈高で、頭のよさそうな感不意に、小男がまたもや腕を引っぱった。「特種なんだ ! アンガ 1 ン教授の日記でさ。星の世界から来た宇宙船のことがみんな出て じだ」 「思いだしました」とリー。 「大学生です。大学新聞のインタビ、る。それに乗ってた悪魔が、血を吸って、キスで人を殺すことも ーを約束したんです。きようの午後、電話があって。よくいる演説 ! 」 「困るねえ ! 」とリーは腹をたてて言いかけたが、そこでロをつぐ のやたらにうまい連中の一人でしよう。こっちも、よくわからない うちに、コンスタンチンでタ食をいっしょにするとうけあってしまんだ。不気味な冷たい風が体を吹きぬけた。頭脳の中で一つの思考 : かたちをとった。その衝撃でかすかに体がゆらぐのを覚えなが ったんですよ」 「なるほど。むこうは念を押してったよ。行ってもいいんだろうら、立ちつくしていた。″血″や″キスのディテ 1 ルまで載って いる新聞は、また街頭には出ていないはすた。あと五分たたなけ リーは肩をすくめた。「約束しちゃったんですからね」 「ほら、どのページのあたまにも、金文字でアンガ けれども、遅い午後の日光が降りそそぐ通りに出たときには、彼男は言った。 ーン教授の名前があるでしよう。十八光年も遠くにあった宇宙船を の頭に、大きな意味のある考えは何一つはいっていなかった。予感 はじめて発見したときのこと、それがどうして何時間もしないうち など、なおさらのことだった。 にここまで飛んできたか、全部書いてある : : : そして、それが今ど 5 周囲では、人ごみがしだいに密度を増している。巨大なビル群か こにあるかもーーー・」 ら、五時退社の人の波の第一波があふれでてくる。二度、袖口を引 はたち トクグネ
椅子に似た乗物との輪郭をかたちどった赤い像が、小さく なわぬ概念を唯一の礎として構築された文明、そんな文明を、か や、はるかに遠く、あざやかに浮かびあがっていた。だが、その驚れは理解しようとしたが、ついにできなかった。その概念がまった くべきへだたりの与えるとてつもない距離感に、ワ 1 ナーは声ひとく否定し去られたとき、その上に立っ文明がどのようにして崩壊し つ出ず、ただ愕然としてその場に直立するだけだった。 ていくか、かれは理解しようとしたが、やはりだめだった。だが、 たとえ理解できようとできまいと、そのような文明がたしかに存在 それだからこそ、かれはいま、単純でたしかなものごとにだけーし得ること、これだけはかれにも納得できた。わずか一瞬のあいだ ー墓を掘り、銃をみがき、足を運ぶことにだけ心を集中させていたとはいえ、かれにはとうてい理解し得ないものを、赤い螺旋のうず のである。めくるめくほどに赤い、あの螺旋が消えてからすでに数の中にかいま見た以上 : 時間、しかし、その残像だけはいまだにハッキリと、かれの脳裡に かれは目を閉じ、眉をひそめた。「深く考えないことにしよう」 焼きついていた。おそらく、その残像が消えることは、永久にあると、かれはつぶやいた。あの旧人類のことを、あの異星人のことを まい。赤いうずを目撃した瞬間、かれは、自分の意識がその中へ巻 かれらが新しい星を見つけ出さねばならないことを。『ソノ前 きこまれ、奈落の底へ押し流されていってしまうようなーーー奈落をニワレワレハ死ヌダロウ』かれらの死とは、、 しったいどのような死 越えて、見も知らぬ未知の果てへ突き出ていってしまうような、譬なのだろうか ? そして、死んだあとに、何がやって来るのだろう えようもない不安に襲われた。そしていま、この朝、かれは依然とか ? 死後の生活。 して、ふと気をゆるめれば、自分の体がアッという間にうずの底へ 巻きこまれてしまうのではないかと憂慮しつづけていたのだった。 かれは笑った。やつらが死んだら、きっと天国へ行くさ。 林道へもどるつもりで、小暗い森陰をさまよっているうちに、か そう考えたあと、かれは、異星人たちにとって天国が何を意味す れは、あの奇怪な邂逅が行なわれた地点にたどりついた。足もとのるものか想い返した。それを想い返したとき、笑いが消えた。笑う 地衣のうえにも、むこうの灌木のそばにも、死んだネズミの毛深い理由など、・ とこにもーーなにひとつなかった。かれは灰塵に目を落 体が横たわる前方の岩場にも、もやもやとした黒い灰塵が散在してとした。笑う理由は、・ とこにもなかった。 いた。あるものは発煙筒をたいた跡を思わせ、またあるものは錆の 死んだネズミが見える岩場に腰をおろしたかれは、両手にあごを ふき出た金属片に似ていたが、そばに必ず、生き物の死骸が横たわうずめて思案にくれた。どうやって、いったいどうやって、この出 っているという点では、ともに共通していた。 来ごとを他人に話したらよいのたろうか。 かれは足をとめた。フェローも、あのネズミも、またあの地衣 も、あの木葉も、すべて死んでいた。人間だって、きっと死ぬにち 、よ、。文明といえども、おそらくは減びるだろう。実体をとも こけ 9 4