娘 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1970年3月号
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1. SFマガジン 1970年3月号

宇宙船のコントロール・ルー人内部の沈黙は続いた。それは、娘て」 が宇宙船にはいった後に訪れた静けさと不思議によく似ていた。た . 「おれだって待つのは好きじゃないさ」と男。「よしーー」 リーは、あけつばなしの入口へ だ今度その静けさを破ったのは、娘たった。わずかに呼吸が乱れてもうまごまごしてはいられない。 いるが、それでも冷静で、力強く、大胆たった。「あたしは警告すと身をおどらせた。一瞬、夜会服を着た男と女の姿が眼にはいっ るために来ただけで、命令を押しつけに来たんじゃないわ。それた。男は立っており、女はすわっていた。きらめく金属的な背景 に、あなたたちが十五人分の生命エネルギーを補給しているのならも、意識のうちにあった。さきほど、その一部を見たにすぎなかっ いいけど、そうでなければ、何もしないほうが身のためよ。あたし たコントロール・ポードは、輝く計器類に埋めつくされた巨大な装 置であることがわかった。しかし、そんなものには目もくれず、彼 だって、そちらの正体を知ったうえで来たんですからね」 は叫んだ 「どう思う、マーラ ? この女がクラッグ族なのは、まちがいない 。オしか ? 」男「そこまでだ。手をあげろ」 か ? もっと高度なレネル・タイプだという可能性よよ、 それは、不意打ちのはずであり、状況の鍵を握っているのは彼の の声である。娘の言い分は認めた様子だが、そこには相変らず嘲り と、何物も抑えることのできない意志と、すさまじい確信がこもつはずだった。しかし、そう思ったのは、ほんの一瞬にすぎなかっ ていた。 た。誰一人として、彼のほうを向いたものはなかった。ジールと呼 の、いばれる男は、あの娘とむかいあって立っている。マ 1 ラと呼ばれる ところが、大立回りを目前にしているにもかかわらず、リー から脅威はとっぜん遠のいていた。彼の記者の頭脳は、今ここでお女は深い椅子に腰をおろし、金髪の頭をその背にもたせかけて、美 こっているできごとの途方もない意味を考えるほうに、いやおうなしい横顔を彼のほうに向けていた。彼のひとときの勝利感を打ち砕 いたのは、その女だった。女は彼を見ようともせず、男装した娘に くねじまげられていた。 言った 十五人分の生命エネルギー すべてがそこにある。想像を絶することだが、それで何もかも説「連れが、こんな間抜けな人間の男でかわいそうね。怪我しないう 明がつく。血液と生命エネルギーを吸いとられた二つの死体、たびちにさっさと逃げるように言ってあげたら」 ごめんなさい、あなたを巻添えにしてしま たび引合いに出される銀河オブザー 1 という言葉、その指令で動娘が言った。 って。あなたのはいってくる動きは、みんな聞かれ、観察されてい いている娘。彼は、女が話しているのに気づいた。 「クラッグよ ! 」女はきつばりと言った。「言いわけなんか気にし たの。あなたの心がこの情景に慣れたときには、もう遅すぎたの ちゃ駄目、ジール。知ってるでしよう、あたしは女には敏感なのよ」 ) ーっていうの ? 」女が問いつめるように言った。「はいっ よ。嘘ついてるんだわ。あたしたちが慌てふためくと思ってのこの「彼、 こやってきた馬鹿な女よ、きまってるわ。好きなように殺しちゃってきたとぎ、どうも見た顔だと思ったわ。新聞のコラムに出ている

2. SFマガジン 1970年3月号

娘は聞いていないようだった。二人は短い通路のつきあたりに来金属の壁がありコントロール・ポードの一部のように思われた。贅 ていた。すぐ手前に、鈍く光る金属面がある。すると娘が話しだし沢な感じのする寝台も、その一端が見えた。それらすべてが暗示し 8 た。「ここがドア。忘れないでね、あなたは護衛係よ。撃っ用意をているのは宇宙船であり、リーは愕然とした。あの娘は、彼をから して隠れているの。あたしが撃てと叫んだら撃って ! 」 かっていたわけではなかったのだ。信じられぬことたが、地中のこ 彼女は体をかがめた。緋色の閃光が、見えるか見えないかというんな場所、よりによってコンスタンチンの地下に、小型の宇宙船が ほど微かにひらめいた。ドアがあき、そのむこう側に第二のドアが隠されていたのだ。 あらわれた。ふたたび小さな緋色の閃光のひらめく一瞬があり、や 思考はそこでとぎれた。あけはなたれたドアのむこうの静けさ、 がてそのドアも開いた。 奇妙に長かった沈黙か、男の冷たい声に破られたからた。「もし、 それは、すばやく、あまりにもすばやく行なわれた。危機の訪れおれがあんたたったら、銃をあけるような真似はしないね。はいっ をリーの頭脳が把握する前に、娘は第二のドアのむこうにある、明てきてから、何も言わないところを見ると、おれたちはあんたが考 りの煌々と輝く部屋にずかずかとはいりこんでいた。 えていたのとはひどく違ってたんだな」男はおっとりと笑った。落 娘の行動にとまどいながら、リーは不決断に影の中にとどまって着いた、深みのある、嘲りのこもった笑い声で、それははっきりと いた。金属壁に面して、より暗い影の部分がある。彼は本能的にそ ーの耳まで届いた。男はさらに続けた。「マーラ、このお嬢さん こに体を寄せた。そして凍りついたように動きをとめた。敵は何人の行動の裏にある心理をどう解釈する ? おまえだってわかってる いるか、それさえわからない。その敵の巣窟へ、組織だった自衛のんだろう、こいつは女たよ、男じゃない」 計画もたてずにとびこんでいった愚かな娘を、彼は無言でののしつ豊かな抑揚のある女の声が答えた。「この女は、ここで生まれた た。いや、それとも、相手が何人いるのか彼女は知っているのだろのよ。クラッグ族の典型的な特徴がどこにもないもの。でも銀河人 うか ? そして相手は何者なのか ? には違いないわ。ただし銀河オブザー ・ハーでないことは、確かなよ その疑問は、彼を不安におとしいれた。しかし最後には、彼は冷う ね。この女、まさ・か一人できたわけじゃないでしよう。捜してみ ややかに考えていた。彼女はそれでもまったく無防備というわけでようかしら ? 」 もないのだ。少なくとも、彼はまだ見つかっておらず、銃を持って「よせ ! 」男の声は無関心だった。「クラッグの助手なんて、どう ここにいるのだから。 せタカが知れてるさ」 彼は緊張して待った。だがドアは開いたままで、そこへむかおう リーはゆっくりと緊張を解いた。だが、あとに残ったのは空しさ とする人影もない。 リーはゆっくりと体の力をゆるめると、余裕の だけだった。あの娘の確信ありげな落着いた物腰が、彼が自信をう できた頭で、記憶に残った最初の印象の断片を分析しはじめた。眼ちに奮いおこすうえこ、 はじめ 冫いかに大きな役割を果していたか、 にぐいった地底の部屋の一部には、小さな光点がいくつも明減するて気づいたのだ。それが、こなごなに打ち砕かれたのだ ! 相手方

3. SFマガジン 1970年3月号

の存在を 丿ーの視線は、穴のなこう側にいる娘にむかった。リー きって取材している人なら、真相をむのもきっと早いんじゃない かと思ったからよ。芝居がかったお膳立てをしたのは、このほうが意識する直前、その一瞬、彼女はどこかお・ほっかなげだった。顔を 説明するより納得がいくだろうと思って。まちがいだったようね」半ばそむけているが、右半分のプロフィールが見え、皮膚が緊張の 娘は彼のすぐそばまでやってきていた。彼女は体をのりだすと、彼あまり血の気を失い、唇がかたく結ばれているのがわかった。彼は の腕のわきの化粧台にリポル・ハーを置き、無関心な口調でこう締めそれを尻ごみと解釈した。彼の鋭敏な感覚は、一人の若い女が、つ かのまではあるが、その絶大な自信を失うさまを目撃していた。 くくった。「この武器は役にたつはすよ。とびたすのは弾丸じゃな と、娘は彼の存在に気づき、態度は変った。 いけど、引金があって、ふつうの拳銃みたいに狙いをつければいし の。もし勇気が出てきたように思えたら、あたしのあとを追ってす動作がぎごちなくなるといった変化ではなかった。彼には目をく ぐ地下道にとびこんで。たたし、あたしや、あたしが話しかける人れようともせず、穴の奥へと通じる階段の第一段に足をおろすと、 たちの邪魔はしないでね。隠れていて ! あたしの身が危険になつひとかけらのためらいもなく下りはじめた。しかし彼女が尻ごみし たときたけ行動をおこすのよ」 たという最初の確信に勇気づけられ、彼も眼を細めて歩きだしてい 地下道か。軽々と足早に部屋から出ていく彼女のうしろ姿を見なた。それと同時に、娘の顔につかのまうかんた明らかな恐怖が、と がら、リーは無感動に考えた。この部屋、三号個室の下に、地下道っぜんこの狂気を現実のものにした。急な階段を駈けおりる。気が つくと、彼は薄暗い光に照らされた滑らかな地下道の中におり、娘 があるという。自分か彼女か、どちらかが狂っているのだ。 そこで、ふと彼は思いあたった。あの娘の話しかたに、自分は本が唇に指を押しあてて立っていた。彼はようやく足をとめた。 ! 」と彼女は言った。「宇宙船のドアがあいてるかもしれ 来反発を感じなければならないのだ。こんなふうに好奇心のふくら「シーツ むままに、彼を部屋に残していったやり口が腹だたしかった。もしないわ」 丿ーをいらたたせた。この途方もない 自分が記者でなければ、そんな二流の心理作戦を使ったって何の役怒りがいきなりこみあけ、 にもたちはしないそと言ってやれるのだが。いらだったまま立ちあ冒険に加担してしまったからには、自分がリ 1 ダーたと勝手に思い こんでいたのだ。娘の要請も、その独断的な行動も、ただ彼をより がると銃をとり、そしてつかのま動きをとめた。ドアがしぶしぶ開 気短かにしたにすぎなかった。 奇妙な、くぐもった音が聞えてきたからだ。 ″はよしてくれ ! 」と強い調子で囁いた。「事実を教え 彼女はダイニング・サロンの左にあるべッドルームにいた。厚い ・グリーンの絨緞の一方の縁が巻き返され、彼女の足元の床にぼっかてくれればいいんだ、あとは自分でするから」 りと穴があいていた。けれども彼はほとんど驚かなかった。トンネ彼はロをつぐんだ。彼女の言った言葉の意味が呑みこめたのであ 9 ルをおおっていた四角い床板は、一見こみいった蝶番でとめられ、 る。怒りがたちまち薄らいだ。「宇宙船 ! 」と信しられぬように。 7 きちんと折り返されている。 「コンスタンチンの地下に宇宙船が埋まってるというのかい ? 」

4. SFマガジン 1970年3月号

しかし、その前に 説明しながら、リーはどうしても彼女にぶつからなければならな いつだ ? いと覚悟した。危険は伴うが、やむを得ない。彼女にうながされ、 リーは強引にその思考をおしすすめた。その前に、彼はハナーデ先に立って通路を歩きながら、彼は決意をかためた。意識のないハ イを倒している。そしてエレベーターで上への・ほったのだ。ところナーディを放りだした曲り角から、一つずつドアを数えていくあい が、今見ると彼は戻っている。眼の前がくらくらとしてきた。震えだも、決心はかわらなかった。 る指で、また頭を調べた。正真正銘、異常はない。ただ、と彼は思 「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。このドアだ ! 」 った、頭の中に何かきりきりとした痛みがあるほかは。 「あけなさい ! 」 われにかえると、娘は飾り気のない白いドレスのポケットから銃彼は言われるままにした。そのとたん彼はポカンと口をあけてい を抜くところだった。彼は武器を見つめ、そして考えた。「遅らせ た。内部はきちんと整った、居心地のよさそうな部屋だった。壁に る方法はないのか ? 」 は、美しく整理された書物がぎっしりと並べられている。そして、 彼は急いで言った。「では、今の話がきみには合点がいかなかっふかぶかとしたソフアがいくつか。床には、小さな布地を手でぬい たということにしよう。最初から考えるんだ。そんな部屋はあるのあわせたすばらしい絨緞。デスクが一つ。 かないのか ? あるんだろう ? 」 娘がドアを閉め、先に進むようにと彼をうながした。二人は六番 目の部屋に来た。 「やめて」娘はうんざりしたように言った。「あなたのロジックは 「ここが、あなたの言うエレベーターね ? 」 もうたくさん。あたしの知能指数は、二四三よ。あなたのは一一二 じゃない。あなたがどんなところから切りだそうと、論理の筋道ぐ リーはむつつりとうなずいた。全身が震えているにもかかわら らいは簡単にわかるわ」彼女は低い声で不愛想に続けた。「あなたず、彼はほとんど驚きを感じなかった。そこにはエレ・ヘーターはな が言うような、そんな″暗闇″の部屋はないわ。人間の頭にはいり く、人気のない静まりかえった通路が長く続いているだけだった。 こんでくる光る物体なんかも。一つの事実があるだけ。あなたの泊娘は背中をすこし彼に向けて立っている。もし今なぐれば、彼女の っているホテルの部屋に、ドリーフ族が忍びこんで、あなたに催眠体は戸口の柱にしたたかぶつかるはずだ。 術をかけたのよ。そのおかしな幻影も、きっと催眠術の副作用でし そのアイデアのあまりの残酷さが、つかのま彼をためらわせた。 ようーーーちょっと邪魔しないでーーーー」 そして、そのときにはすべてが遅すぎた。彼女はふりかえると、彼 リーが口を出そうとするのを、彼女は銃を乱暴にふってさえぎつ の眼をまともに見つめた。 た。「もう時間がないわ。どういう理由があるか知らないけれど、 銃口があがり、徴動もせず彼に狙いを定めた。「やめたほうがい とにかくドリーフ族は、あなたに何かをしたのよ。なぜか ? その いわ」と彼女は静かに言った。「あなたから手をだしたほうが、こ 部屋で何を見たの ? 」 ちらも仕事がしやすいと思ったけれど。でもそれは卑怯ね」彼女 8

5. SFマガジン 1970年3月号

の二人の圧倒的な確信と、娘の男装を一瞬に見破った彼らの眼力のちにはわかるんだよ」 「この女をどうするの、ジ 1 ル ? 」 前には、彼女のどちらかといえば好もしい人格の効果も、それをは るかに凌ぐ力によって押し潰される脆い楯にすぎなかった。 男の声は冷たく残酷で、確信に満ちていた。「どうするもこうす 娘が話しはじめたので、彼は恐怖を押しのけようとした。彼女のるもないだろう。この女には血が流れてる、生命力も並以上だ。オ ーの最後通牒をはねつけたごとも、これでむこうにわかる 口から出る言葉の一つ一つを噛みしめ、その声にこもる確信を吸収・フザー・ハ し、勇気をふるいたたせようとした。彼女の勇気が見せかけであるだろう」 男はゆっくりした、驚くほど豊かな笑い声をあげながら、こう締 にしても、それは問題ではなかった。もう今では、彼もあの娘と同 じくらいのつびきならぬ深みにはまりこんでいるのだ。最大の勇気めくくった。「これから簡単な劇を上演することにしよう。このお だけが、いま二人をおびやかしている敗北を、勝利へと転じること嬢さんがいきなり銃口をあげて、おれを撃とうとするんだ。ところ が引金を引かないうちに、おれのほうが武器を抜いて、発射してい ができるのだ。 彼女の力強い声を、彼は感心しながら聞いていた。「黙っていたる。このお嬢さんにもそのうちわかるだろうが、すべては神経の統 のは、あなたたちが、あたしのはじめて出会ったドリーフ族だから御力の問題なんだ。人間なみに動きのおそいところが、クラッグの よ。もちろん、このあいだに興味深い観察もできたわ。言っておき慢性的な病気なんだ」 男の声がやんだ。笑い声が小さくなり、消えた。沈黙。 ますけど、驚いたわけじゃないのよ。でも、あなたたちがそんなと この何年か、機敏さではひけをとらなかった彼としては、これほ んでもない考えを持っているのなら、すぐ本題にはいったほうがい どふんぎりのつかない思いをしたのははじめてだった。感情は、今 ・ハーから指令を受けて、 いわね。あたしはこの星系の銀河オ・フザー あしたの朝までに退去するよう、あなたたちに伝えに来たの。こんだと言っている。この瞬間にも、彼女は呼ぶかもしれない。たとえ なふうに逃げ道を作ってあげるのは、これが世界に知れるとたいへ呼ばなかったとしても、ここまで来たからには自分の決断で行動し なければならない。とびこむのだ ! 撃て ! しかし彼の心は、た んなことになるから。もっとも、それは大して重大なことではない わ。地球も、そろそろ第四級の指定を受けるころだから。たぶん知とえようもない恐怖にかじかんでしまっていた。男の声には、何 ってるでしようけれど、非常の場合、四級には銀河文明の知識を与か、押しよせる怒濤を思わせる力がこもっていた。異常な、狂暴な えていいことになっているの。あたしたちの考えるその非常の場合強さが、そこにあった。これは本当に、星の世界から来た宇宙船な というのは、あしたの夜明け以降」 のだろうか ? 彼の頭脳は、その恐るべき思考を追求しようとはし 「けっこなかった。彼はうずくまったまま、あの娘からわたされた銃をまさ 「なるほどね」ーー男は平然と嘲るように笑っていた うなスビーチですな、なかなか迫力もある、だが所詮クラッグの浅ぐった。漠然と意識しているにすぎなかったが、銃の感触は、今ま 知恵だ、どんな真剣に話したところで、芝居だということはおれたで手にしたどのリポル・ハーとも違うものだった。 6

6. SFマガジン 1970年3月号

残らず見つけだす、驚くほど鋭い精神が、一つの個体にあらわれたとした推量では、ドリーフ族は小惑星の内部構造を完全に知ってい 数知れぬ事実をすべて考慮することによって得た、たんなる印象にるようだった。時間を何らかの方法で操作したものと思われる、あ の空間移動がおこったとき、精神体は彼の囚われの肉体を使って、 すぎないのだ。 続いて、娘の心理状態が水品のように澄みきったかたちで彼の意この場所をすっかり探険したらしい。そして今、彼は単純な、だが 識の中にうかんだ。クラッグ族の少女をすばらしい配偶者に育てあ恐るべき目的をもって、第四レベルにある作業室へとむかっている げる隔離養育法への賛嘆の念。それが客観的に理解できるのだつのだった。そこでは、アンガーン教授とハナーディが、新たなエネ ルギー防御スクリーンを作る仕事に精を出しているのだ。 た。そして次には ハナーディは離れたところにいた。震動する旋盤を前にして何か 目的 ! それは、ただちに実行に移された。リーは娘にむかって三歩足早している。あたりは騒がしく、忍び寄るのは簡単だった に進みでた。彼女がポケットから拳銃を出そうとしていることにも教授は、別の大きな部屋にいた。そこでは、巨大な発動機群が、 気づいていた。彼女の顔にうかぶ呆然とした驚きの表情。つぎの瞬圧倒的な力を内に秘めて、深みのある異様な唸りをあげている。教 、よ、ってきたとき、彼はドアに背をむけて 間には、彼は相手を組みふせていた。彼女の筋肉は、鋼鉄 2 ( ネの授は長身だった。リーが冫し 、た。しかし彼の反応は、ハナーディのそれより、いや、娘と比べ ようにうごめいた。しかし彼の超人的な力と速さの前には、効果は なかった。戸が半ば開いた洋服ダンスの中に、紐があるのを先に眼てさえも、はるかに敏速だった。危険を察知して、彼はネコのよう にとめていたので、彼はそれで娘を縛りあげた。 に身軽にふりかえった。しかし彼の体すら引き裂いてしまうほどの それから、うしろにさがった。リー自身の心にとっては、この出力強い筋肉の前に、たちまち屈服した。両手を縛る段になって、リ 来事は、畏怖を催すような信じられぬ事態だった。一見、何の変哲ーは初めて教授をまともに見ることができるようになった。 ドリーフ族の女マーラに説明したとおり、 もない出来事だが、実際にはそれは、慄然とするような超人的な力あのホテルの一室で、 と速さをもって行なわれたのだーー彼が部屋に足を踏み入れてか リーが見た写真では、教授は、疲労の影がのそく、神経質そうな、 ら、まだ一分もすぎていない。 上品な顔だちをしていた。しかし、いま見ると、そればかりではな 写真ではうかがい知ることのできない力が、教授の全身から発 彼個人の思考は、そこで終った。精神体が、ふたたび意識の中に 大きなかたちをとりはじめた。それは、いま自分がしたことと、こ散していた。ドリーフ族の狂暴な、邪悪な、そしてさらに強大なカ の小惑星が敵の手におちないうちにしなければならないことについ と比・〈れば、それは " 善 0 カと言える。 しかし、その強力な人格も宇宙的な疲労の影の前には光をなく て考えていた。 していた。その顔には皺が、驚くほど深い皺が刻まれていた。リー 吸血鬼族の勝利は近い 人気のない通路を抜け、階段をいくつかおりた。リー個人の漠然の頭に、ドリーフ族の女の言葉が一瞬よみがえった。すべてがそこ ー 05

7. SFマガジン 1970年3月号

であり、反乱の事実上の終止符ともなった。長身の偉丈夫ジャンダ 「どういう意味た ? 」 二等航行士はちょっとあたりをうかがうようにして答えた。最近は勇敢な反逆者、剽悍な土賊だった。ノガラの統治するエスチール のフラムランドで、知らず知らず身についた癖なのだ。 「こういう帝国に対して、すべての望みが絶たれるまで戦いつづけ、ついにカ ールセンに降伏したのだ。 やつを聞きましたか ? ノガラは神であるーーしかし、彼に仕える 宇宙飛行士の半数は、無神論者である」 かってカールセンは、一知人に私信のつもりでこう書き送ったこ 「ノガラは暴君とは言えんよ。工とがあった。「誇りがわたしに敵を征服せよと命じる。しかし、廉 ホルトは苦笑しただけだった。 スチールだって、銀河系最悪の政府じゃない。お人よしじゃあ、暴恥心はわたしに、敵を卑しめ、憎むことを禁じる」しかし、マイカ ルの政治警察は、それとは別の哲学を持っているらしい。 動の鎮圧もできんしな」 ジャンダの長身はいまでも変らないかもしれない。しかし、ホル 「カールセンはよかったがねえ」 トは彼が背を伸ばしたところを、まだ一度も見たことがなかった。 「そのとおりだ。カールセンはよかった」 一一等航行士は顔をしかめていった。「まあ、考えようによっちその手足を締めつけた枷は、皮膚を傷つけないと称するプラスチッ まとなっては気ちがいじみた目的しか果たしておら や、ノガラなんて、まだましなほうかもしれない。なにしろ政治家ク製たが、い ですからね。だが、ここ数年、あのまわりに集った取巻き連中にず、できることなら、ホルトはすぐにもそれを外してやりたかっ がまんできませんね。この艇の中にも、連中のやりくちの見本こ。 なにも知らない人間が、ジャンダのかたわらで彼に食事をさせて が乗っている。正直いって、カールンの亡くなったいま、あたし やちょっぴり怖くなりましたよ」 いるルシンダを見たら、おそらく彼女をジャンダの娘と思うだろ 「ところで、まもなくその連中に会うわけだな」ホルトはため息をう。ほんとうは、ジャンダの五歳年下の妹なのだ。同時に、ルシン ダはたぐいまれなほど美しい娘でもあった。マイカルの警察が、こ つき、伸びをした。「〉しゃあ、おれは囚人たちのようすを見てく プリッ . の娘の体を傷つけず、洗脳もしないで、ノガラのもとに送り届ける る。航行士、船橋をたのむそ」 「はいつ、交代します。ねえ、艇長、できることなら、あの男をひことにした裏には、慈悲とは別な動機が働いているのかもしれなか った。高官たちがある種の娯楽にふけって、女をつぎつぎにとりか と思いに死なせてやってくださいよ」 しばらくのち、特務艇の拘禁室につうじる監視スクリーンを眺めえているのは、もつばらの噂なのだ。 ホルトはこれまでそんな噂を考えないことにして、信じまいとっ ながら、ホルトも心からの同情で、その囚人を死なせてやりたいと とめてきたのだった。いま、彼は拘禁室のドアをひらきーーそれに 思った。 その囚人は叛徒の首領で、名をジャンダといった。その男を生捕錠をおろすのは、かよわい子供と変わるところのないジャンダが、 りにしたことが、フラムランドの前司政官カールセンの最後の成功外へさまよい出て怪我をするのを防ぐためなのだーーそして、中に

8. SFマガジン 1970年3月号

そう、観察しているのだ。 の中にある精神体がもそもそと動きだし、彼の眼球を通して、あた そのとき、狂乱状態の中で、彼はその正体に思いあたった。もうりを眺めはじめたのだ。それは、一心不乱にすべてを観察した。 一心不乱に。 一つの心だ。すべてを焼きつくす焔から身を守ろうとでもするよう に、リーはその事実から自分を遠ざけようとした。彼は頭脳を緊張すると部屋と娘に変化がおこった。物質的な変化ではなく、彼の させた。しかし狂乱状態の頭脳に強いるこの努力は、苦痛に満ちた眼にうつる細部の主観的な変化だった。ありとあらゆるディテール もので、つかのま彼の顔は醜く歪んた。 が、彼の前にさらけだされた。ほんのすこし前まで、流れるような 最後には力をつかいはたし、彼は呆けたようにそこに立ちつくし芸術的な完成美を見せていた家具や部屋に、ふいに趣味や配置や構 た。それでもなお、精神体は、無傷のまま頭の中にいすわってい造の欠陥や間違いがあらわれたのた。視線は一瞬、庭園へと移り、 庭園は心の中でたちまち断片に引きちぎられた。この世に生をうけ ℃たい、おれはどうなってしまったんだ ? て以来、これほどの高い見地から、これほど容赦ない規模で加えら リーは震えながら、両手をひたいに持っていった。それから頭全れる批判を経験したのは初めてだった。 体をまさぐった。もう一押しすれば、何か効果があがるかもしれな いや、それは批判ではない。実際には、精神体はきわめて無関心 いという漠然とした考えがあった。彼は無言で悪たいをつくと、両だった。それは、ただ物を見るにすぎない。すると自動的に、それ 手をいきなりおろした。なんという馬鹿げた話だろう、この動作もらの物が持っ隠れた可能性まで眼にはいってしまう。それに反比例 また前の出来事の繰りかえしではないか。やがて娘が彼を見つめてして被害をこうむるのが現実なのだ。救いがたいほど間違っている いるのに気づいた。彼女の声が聞えた というわけでもない。誤りは、しばしば些細な点だった。小鳥たち は、さまざまな理由で、その環境に不釣合である。みごとな庭園 「どうしたの ? 」 に、ほんのかすかな不調和を与えている茂み。 つい今しがた聞いた言葉、まったく同じ言葉だった。それが、彼 に一つの決断を与えた。彼は苦々しげに徴笑した。そして自分の心精神体は庭園から視線をそらした。そして初めて娘を眺めた。こ を、それまでさまよっていた深淵の縁から後退させた。彼はふたたれほど鋭い観察の対象になった女は、地球上にいまだかっていない ・こっ一つリ . , ー び正気に戻った。 の眼には、あれほど美しく誇らしげな線を描き、あれ それでもまだ正常な状態からはほど遠いことに、憂うつな気持でほど輝くばかりの貴族的な印象を与える肉体や顔はなかったーーそ 思いあたった。正気には違いない。だが、心はもはや自分だけのもれが今では、どうしても低次のものにしか見えないのだ。 のではないのだ。彼女には、前の出来事の記憶はないらしい。でな隔離された環境における低次種族の発育の好例。 ければ、同じ一言葉をオウムのように繰りかえしはしないだろう。そ そんな考えがうかんだ。軽蔑しているのでも、嫌悪しているので の思考も、またとぎれた。奇妙な現象がおこりかけていた。彼の心もない。あらゆる目立たぬ特徴、現実の背後にあるあらゆる現実を こ 0 8

9. SFマガジン 1970年3月号

、よ、つこ。リーが緊張して見つめるかって奇妙に聞きお・ほえのある言葉で伝えた。そして、リー にはすこしのあいだ合点がいカオカナ 前で、彼女は拳銃をしやくると、彼がそれまで気づかなかったドアを向くと、金属的なかたい声で、こう言ったのだ を指し示した。娘の声は冷たかった。「殺すほかに、つまり、あた「ミスター・リー、 はいってらしていいわよ」 しがこの場であなたを殺す方法のほかにもう一つ解決法がありそう ね。あたしは宇宙船をフィにするわけたけれど、それはあきらめる 8 ことにするわ」 彼女はドアを見て、うなすいた。「そこのエアロックの中にある気違いじみているのは、自分がほとんど身震いひとっせず部屋に わ。操縦法は簡単よ。 ( ンドルを上下左右に動かせば、船はその通はいったことだった。涼しい徴風がそっと両頬をなでた。そして、 りになるわ。前進させるときには、加速ペダルを踏めばいいの。減遠くから聞えてくる甘い、快い小鳥のさえずり。リーはお・ほっかな 速ペダルは、左側。自動車のハンドレよ、、ロ、、、 ノ。窪カ地上から離れると自げに足をとめた。まったく意志の力だけで、彼は心にかかっている 動的に隠れてしまうわ。さあ、行きなさい。たぶん・ トリーフ族につ霞をふりはらうと、何一つ欠落のないめくるめく記憶の通路を心の かまるでしようけど、それは言うまでもないわね。でも、ここにい眼を使ってのそきこんだ。とっぜん、すべてがそこにあった。彼の られるわけでもないし」 泊っているホテルの部屋に侵入してきたドリーフ族の男女が、情容 「ありがとう」リーが返した言葉はそれだけだった。すでに一度、赦なく彼を彼らの意のままに従わせた有様。″暗闇″の部屋で、何 感情の火薬樽を爆発させているのだ。これ以上、刺激するのは危険かが彼におこったときの有様。そして娘が彼の命を救ったときの有 だ。途方もない心理学的な謎がこの小惑星に潜んでいることはまち様。 がいない。だが、それを解き明かす力は彼にはない。この先に待ち娘の部屋での出来事が、何者かにとってーーそれはジールだろう かまえていることを実感して、とっ・せん恐怖にとらわれた彼は、おかーーー不満足な結果に終ったのだろう。信じられぬことだが、それ ずおすとエアロックへ進んだ。そのとき がまたもや繰りかえされようとしている。 何かがおこったー 思考はとぎれた。これまでにおこった途方もない出来事のすべて すさまじい吐き気が胸につきあげた。彼の体は、闇の中を激しく が、それをはるかに上まわる一つの事実の前に屈服したーー彼の頭 揺れながら運ばれていた。 の中に、何か、実質を持った存在がいるのだ。無経験ながら、彼の そして気がつくと、彼は。 ( トリシア・アンガーンの部屋に通じ心は本能的に、めくらめつぼうに、それに反発した。結果は、見る る、鏡板をはめこんだドアの前に立っていた。・かたわらには、ハナも無惨な混乱だった。頭の中にいすわったものが何であるにせよ、 ーディがいる。ドアが開いた。若い女が戸口に現われ、エネルギー それは彼の頭脳の熱にうかされたようなけいれんにも、まったく影 0 遮断スクリーンを直すから四階へ行ってほしいと、ハナーディにむ響されず、冷ややかに超然と観察している。 のほ、つ

10. SFマガジン 1970年3月号

写真とそっくりじゃない」女の声は異様な熱をおびた。「ジール、 記者よ ! 」 答えたのは、男だった。「おれは退却のほうをおすすめするね。 6 「もう用はない」と男が言った。「銀河オ・フザー ・ハーが誰かは、わこっちにも、まだ勝ち目はあるんだ。だけど、おれは、九死に一生 かってるんだ」 なんてことになりかねない危い橋をわたる男じゃないんでね」そし わきぜりふ 「え ? 」とリー。 男の驚くべき言葉に、彼の心は緊張した。「誰なて、女にむかって傍白をつけ加えた。「マーラ、どうせ相手はわか んだどうしてそれをつきとめた ? 何でーー・」 ってるんだ、リーはいつでもっかまえられるさ」 「そんなこと」と女が言った。その声に含まれている奇妙な要素が娘が言った。「先に出て、 リーさん」リーは一言も異議をはさま 期待であることに、彼はとっ・せん気づいた。「あんたが知ったってず、言われるままにした。 しようがないわ。この女がどうなろうと、あんたはここにいるの 地下道を走りだしたとき、うしろで金属のドアが激しく締まる音 よ」 が聞えてきた。ほどなく彼は、娘がかたわらを軽々と走っているの に気づいた。 男の許可を求めるように、女はそちらをちらっと見た。「ねえ、 ジール、約束したじゃない」 この奇妙に非現実的な、信じられぬほど殺伐な小さなドラマは、 意味が理解できないリーには、自分の身に危険が迫っているといそれが始まったときと同様、まるで夢のように終ってしまったので う実感はいっこうに湧かなかった。その言葉は、たいした抵抗もなある。 く彼の耳を素通りした。むしろ彼はいつい今しがたまで気づかなか った一つの現実に気を奪われていたのだ。彼は穏やかに言った。 「今あなたは″この女に何がおころうと″と言った。その前、・ほく かはいってきたときには、こう言った。″怪我しないうちに逃げる コンスタンチンを出ると、灰色の光が二人をつつんだ。歩道はた ように言ってあげなさい″と」リーは残忍な微笑をうかべた。「つそがれ時で、夕食に遅れまいとしてか、人びとは心配げに奇妙に足 い二、三秒前まで、危険におちいっているのは、確かに・ほくらだっ早に通りすぎていく。街には、夜のとばりがおりようとしていた。 た。だが、その言葉があてはまる立場にいるのは、今度はあんたた リーは連れに眼をやった。夕暮の薄暗い光の中で見る彼女は、その ちのほうだぜ。今その理由に気がついたんだ。 活発な歩きかたといい そのしなやかな、すらりとした体つきとい すこし ~ 則、そこにいるジールは、・ほくのガール・フレンドにむか どこをとってもまさしく少年だった。彼は少し笑った。はじめ って、銃をあげるようにと言った。今になって見ると、たしかに彼は、かすれた声で、あとの部分には、冷たい響きを含ませた。 女は銃をあげたんだ。ぼくがとびこんだのも、無駄じゃなかったわ「いったい、あれはどういうことなんだ ? 危機一髪のところで逃 けだ」彼は娘にむかって言った。「撃とうかーーそれとも退却しょげだしたのかい ? それとも、・ほくらのほうが勝ったのか ? きみ 4