入っこ。 「報告します。本艇に信号中の宇宙船を探知。方位は本艇のコース この艇に連れてこられた当初のルシンダの瞳には、あらゆる = スに対して五時角平面。船影は小さく正常」 チール人に対するやりばのない憎悪がみなぎ「ていたものた。それ最後の一句は、発見された宇宙船が〈狂戦士〉の巨体でないこと からの毎日、ホルトはできるかぎりの優しさと心遣いを彼女に示しを示す、慣行的な確認である。フラムランドの叛徒の残党は、もう てきた。いま彼を見上げたルシンダの顔には、もう反感すらこも 0 深宇宙飛行船を一隻も持 0 ていないので、ホルトが警戒すべき理由 ていなかったーーそこには、彼女がだれかと分かちあわすにはおらはまったくなかった。 プリッジ れぬ、切ない希望たけがあった。 彼は船橋にもどり、探知スクリーンに映った小さな船影に目をこ ルシンダがい 0 た。「さ 0 き、兄はわたしの名を呼んたようでしらした。それは見なれぬ形をしていたが、数多い惑星の周回軌道上 た」 にある、数多い造船所のことを思えば、それほどふしぎとはいえな 「ほう ? 、ホルトはジャンダの顔をよく見ようと屈みこんだが、な 。しかし、なぜこの深宇宙で、相手は彼の艇に接近し、連絡をと んの変化もうかがえなかった。反逆者の瞳は依然としてうつろなまろうとするのか ? まで、その右目からは、感情と無関係らしい涙のしすくが、ときお疫病 ? りこぼれ落ちてくる。だらしなくあいたロも、ねじくれた、カのな「いや、疫病じゃない」未知の宇宙船は、ホルトがその質問を呈し い体も、前とおなじだ。 たとき、ぜるような空電を通してそう回答してきた。先方からの 「たぶんーー」とまでいって、ホルトはあとを濁した。 ビデオ信号波も、やはり妨害が多く、はっきりと話し手の顔が見分 ジャンプ 「え ? 」と、すがるような声。 けられぬほどだった。「このまえの跳躍で細塵を拾ったらしくて、 ばかな、おれはこの娘とかかわりを持ってはいけないのだ。ホル カ場の調子がわるいんだ。すまないが、乗客を二、三名、そちらへ 引き取ってもらえないだろうか ? 」 トは、もう一度彼女の瞳に憎悪が宿ってくれたら、とさえ思った。 「たぶん」と彼は静かに言いなおした。「このまま回復しないほう「いいとも」超光速跳躍の終りぎわに、船体がかなりの大きさを持 が、きみの兄さんにと「ては幸せだろう。これから連れて行かれるつ宇宙塵の重力場と衝突する事故は、珍しいにはちがいないが、あ ところから考えれば」 ) えぬことではない。それに、雑音の多い通信も、それで説明がっ ルシンダが抱いていたわすかな希望は、その言葉から受けたショ く。ここまできても、ホルトに疑念を抱かせるようなものは、なに ックで、どこかへ飛び去った。彼女はなにか珍しいものでも見るよもなかった。 うに、無言で兄の顔をまじまじと見つめた。 相手が発進させたランチは、やがて特務艇の = アロックと結合し ホルトの腕のインターフォンが鳴っこ。 た。遭難した乗客を迎えようと徴笑をうかべて、ホルトはエアロッ 「こちら艇長」と彼は応答した。 クを開いた。つぎの瞬間、彼と六人の乗員は、どっと乱入してきた っム
333 りリ日ヨ ( ) 0 / い ( ) ? ド下 しばらく彼らは、この赤い惑星の小さな重力に体力を慣れざせな 地球からの宇宙船が到着したのは、、午後もさかりのころだった。 がら、コツ。フの中に置かれた小さな宝石のような、砂漠の中の町を ケネディは、二人の助手と一緒に「白い砂で作った矩形のぐるり に、記録装置を据えつける作業で、神経がくたくたになっていた眺めたり、砂や、太陽や南のはずれの低い丘の連なりを眺め回して いた。それからケネディと二人の助手を見つけた。一人が手を振り が、宇宙船の到着は見ていた。最初、ケネディは宇宙船が、現在、 上げてこちらを指した。ケネディは毒づいた。もちろん新参者たち 火星人が蠅の横切るのさえ禁じている、矩形の中に着陸しはしない は、一番近くにいる人間ー」と言っても実際トラキシアにいる人間 かと恐れたが、パイロットは、かすかにコースを変えて、着陸ジェ に向って真直ぐにやって ットを猛烈にふかし、四分の一マイルと離れていない場所へ、船体といったらケネディたちだけだったが くるだろう。 を止めた。 ケネディはほっとした。この矩形にこんなに近く、記録装置をと「たぶん道路地図でも欲しいっていうんだろうよ」とケネディは言 った。ケネディには質問に答えている暇はなかったし、三人の男は すいぶん話し合い りつける許可を、トライヤーから得るためには、・ を要したし、言葉の難解さが引き起すことを考えたら、たくさんのまちがいなくこちらをめざして歩いてくる。 こぎれいな制服に身を固めた筋骨たくましい三人の男は、すたす 身振りや絵を描くことが必要だったのだ。 火星人は記録装置を据えつける考えを心から気持よく思っているたケネディに近づいた。 ーダが言った尸「我々はミスター・ジョン・ケネ わげではなかった。この装置の役目が、この町のどこかに隠されて「失礼」と、リ いるに違いない機械から伝わる力の経路を追跡し、その機械自身をディを探しているんですが、どこに行けば会えますか ? 」 つきとめることにあるのだということが、もしトライヤーに本当に ケネディはこの男たちをじっと見つめた。この連中には会ったこ ー、ヨ第ク宇宙基地の通 分っていたら、おそらく彼はもっと嫌がったことだろうと、ケネデとはなかった。」が、似たような奴らがニュ イは思った。ケネディは、もしドジな人間が宇宙船をこの立入禁止りを、酒に酔ってわいわいと大騒ぎしているのを見たことがあっ た。火星基地でも、ガラスにおおわれた市街地が凍りついた空を見 区域に着陸させたら、いったい火星人はどういう言動を取るだろう かと考えた。 上けている月基地で . もそういう輩に出くわした。種族はまったく同 ド ) ・こ 0 そう言えば、いったいなぜ宇宙船はここに着陸したのだろう ? トラキシアは小さな、どうということのない町だから、火星にまで、「私がジョン・ケ・ネデイだが」 . と彼は言った。、「何の用かな ? 」 やってくる余裕のある金持で健康な旅行者のルートからもまるで離「ミ不ター・ドークの伝言です。キャビン、ですぐにお目にかかりた いとのことです」と、伝令が言のた。 れていた。 f ミスター・ドーク ? 誰かねっ : あんたがたの船長 ? 」 じっと見ていると、宇宙船の出入口のドアが開いて、三人の男が 出てきた。 三人の男の顔が驚きの表情に変った。 9
て帰ろうとしたとき、 0 ケットが故障して点火れぞれの内容については次号に、そして仕掛け一 しない。原因はまったく不明で、困りはてたキ や出来具合については特集記事で紹介したいと 0 ・。ヘック ) は、小さな宇 おもう。一月初旬現在、試写まで行ったもの は、ほんの一、二のパビリオンにすぎない。こ とにしたが、道計算だけでも三日かかってし の種の映画は編集や録音に気が遠くなるほどの まう。アイアンマン 1 号の食料や酸素は、すで費用と時間がかかるもので、いくら電算機を使 にタイムリミットに達している。 うからといっても一カ月ぐらいは試写や実験に ところが、いよいよ打上けというとき、ハリ あてるべきだろう。 ケーンがアメリカ大陸を急襲する。風速がメ 現状ではニューヨーク博を越えるものは出て ートルという巨大な暴風雨のなかでは救助宇宙こないのではなかろうかと推定せざるをえな 船の発射は不可能だ。宇宙船もヒュー ストンもヒステリックな空気に包まれ , を気 マーティン・ケイディンの原作はマ 1 キュリー宇宙船が月へ向う途中の事 故となっているが、アポロⅡ号以後、 大あわてで設定を変えた。 ( ケイディ ンの別の『月は誰のもの』は月に 着陸してみたら、すでに三年前ソ連人 ~ が着陸して領土権を主張していた、と いうストーリイだが今となってはどう にも白々しい ) 政界に顔のひろい。ヘッ クだけに、実際のヒューストンやケー 『宇宙からの脱出』 。フ・ケネディでロケをおこなった。 Z わけである。 放出の記録フィルムもふんだん さて、スト 1 リイは、宇宙基地からステーシ に使われている。封切は三月予定。二 ョンを組立てるための予備調査に発射された宇時間十三分。 宙船アイアンマン 1 号の遭難事故が軸になって 地球から数十万マイルも離れた空間で宇宙線 の観測や遊泳実灣、簡単な作業を終えた三人の ノイロット ; 、 カヒューストンの指示にしたがっ いよいよ万博開会まであとわずかだ が、ニーヨ 1 クやモントリオールとを 同しような映像による展示が多い。そ 『宇宙からの脱出』ヒューストンの救助センター
リーはほとんど聞いていなかった。彼は舷窓にしがみつき、闇の父娘に日用品を届ける男 ( ナーディとともに過ごした、このみじめ 中をくいいるように見つめていた。はじめは、ただ無理じいされたで、孤独な旅。その数十日間、彼は危険が根本的には取り除かれた 眼がまばたきをくりかえすばかりで、何も見えなかった。星々はあわけではなく、たんに眼に見えぬかたちを取ったにすぎないこと る。たが、かすんだ視界こ、 冫いくつかの動く光点がとらえられるまを、一度として疑ったことはなかった。この事態の中で唯一の好ま でには、しばらくの時間がかかった。彼は漠然とした当惑を感しなしい現実は、心理分析機にかけられ、夢のない眠りからさめたと がら、その数をかそえた。「一つ、二つ、三つ・ーー・七つ みんき、サイコグラフのレポートに記されていた文章である。アンガー に、 、つしょに動いている」 ンがオブザー ・ハーであることには間違いない。だが、それと同時 「何だって ? 」ハナーディが脇から首をのばした。「七つ ? 」 に、今ではわかりすぎるほどわかっている一つの感情から引きださ 光点は遠のきながらみるみる輝きをおとし、またたいて消えた。 れた結論があった。彼はあの娘を愛していたのだ。 二人の男のあいだに、つかのまの沈黙がおりた。 そこへ、これだ ! 彼の心にやり場のない怒りが燃えあがった。 「木星がうしろにあるのは、まずかったな」リーがようやく言っ ドリーフ族の宇宙船が七隻。これは、戦う相手が最初の二人だけで た。「前にあれば、黒い輪郭がうかびあがるから、あんなふうに見はなくなったことを意味する。そして、もしかしたら、あの七隻は えなくなってしまうこともないのに。どれが、アンガーンの小惑星たんなる偵察隊で、ハナーディが近づいたので退却しただけかもし だったんだ ? 」 れない。それとも、あの想像を絶する殺人鬼の一団は、もうオ・フザ ーの基地を攻撃したあとなのか。娘は殺されてしまっただろう ハナーディは体をおこした。そのいかつい顔には、怪訝そうな表 情がうかんでいる。「あれは、宇宙船だよ。あんなに速い船は見たか。 ことないぜ、それが七隻もだ。一分もたたんうちに、見えなくなっ アンガーンの小惑星が闇の一方の側から鈍く光りながら近づいて ちまった」鈍重そうな顔から、不審の表情が消えた。彼は肩をすく くるのを、彼は不安けに見つめた。宇宙船と、大部分金属からなる めた。「警察の新しい船だろう。あんなに速く消えるはずがない、 不恰好な不毛の天体は、宇宙船のほうがうしろから追いつくような きっと変な角度から見たんだ」 かたちで、しだいに接近した。巨大な鋼鉄のドアが、小惑星の一廓 リ 1 は半ばすわるような、半ばひざまずくような姿勢で、動きをにするすると開いた。船は器用に、その裂け目にすべりこんだ。耳 とめた。一度、操縦士のいかつい顔に眼をやったが、すぐ顔をそむざわりな装置の音。ハナーディが、いぶかしげな顔でコントロール ・ルームから現われた。 けた。途方もない思考が自分の眼からほとばしり出るのではないか と、つかのま黒い恐怖におそわれたからである。 「あのおかしな船団がまた出てきたそ。スチール・ロックはしめと ドリーフ族だ ! あの殺人事件から、二カ月半がゆっくりと過ぎいたが、先生にまず知らせてーーー」 ガシッ ! 周囲がゆらいだ。床が持ちあがり、リー 去っていた。地球からユーロバまで一カ月余り、そしてアンガーン を激しく叩き 9
帯び、ついに雷雲となって稲妻を発生する。その巨大な閃光は、重 力の漏斗の底に近づくにつれて赤く変り、そして消える。おそらく ニュートリノ一つさえ、その巨星からは逃れられないだろう。むろ めずらしく一人きりになり、手持ちぶさたを感じたフェリープ・ ん、いまナヴァーナ号の飛行している空域から先へは、どの宇宙船 / ガラは、ここ銀河系のさい果てまで彼の足を運ばせたものを、こもあえて近づこうとしない。 のすきに見ておこうと思い立った。豪華な私室から出て、専用の観ノガラがここまでやってきたのは、最近発見されたその現象が、 望窓へと彼は登った。その不可視ガラスのドームに入ると、まるで近い将来に居住惑星域へなんらかの危険をもたらすかどうかを、自 ねはん 旗艦ナヴァーナ ( 涅槃 ) 号の船体の外に立っているような感じがす分で判断するためだった。なみの大きさの太陽が、もしその超質量 の進路にでくわそうものなら、大渦に吸いこまれる木ぎれのよう その船尾ーーーナヴァーナ号の人工重力にとっての『真下』 に、あえなくひきよせられてしまうにちがいない。しかし、どの惑 は、地球を発祥の地とする人類がこれまでに探検した全恒星系をそ星を明け渡すにしても、それまでにはまだ千年ぐらいの余裕はあり の渦状の腕の一つにおさめて、銀河系の輝かしい円盤が空に斜めにそうだった。それに、ひょっとすると、超質量のほうがそれまでに 懸っていた。しかし、ノガラの見回すどの方角にもおびただしい光細塵をむさ・ほり食いすぎて、その中核を内破させるかもしれない。 斑と光点が散りばめられている。その一つ一つが、毎秒何万キロもその場合には、大部分の物質が、見た目にはもっとも華やかな、だ の後退速度で宇宙の可視限界へと飛び去りつつある島宇宙なのだ。 が、より危険でない形態で、この宇宙へ再突人することになる。 ひとごと けれども、ノガラがここへやってきたのは、島宇宙を眺めるため どちらにせよ、千年先といえば他人事のようなものだ。いま現在 ではない。 なぜなら、人び もっと目新しいなにものか、これまでどんな人間もこれのそれは、ノガラの問題といえるかもしれない ほど間近で目にしたことのない、ある現象を見るためであった。 とのいうとおり、かりに銀河系の支配者がいるとすれば、それは それが彼の目に見えるのは、そのむこうに島宇宙がかなり密集し彼、ノガラをおいてほかにないのだから。 ているのと、もう一つはそこへ滝のように流れこむガス雲と細塵の インターフォンが彼を呼んでいる。ノガラは、島宇宙の群れから 尾のおかけだった。その現象の中心を形づくっている恒星は、それ逃け出す口実のできたことをよろこびながら、豪華な私室の小世界 自身の重力によって、人間の目から姿を隠しているのだ。おそらくへと足早にひきかえした。 「なんの用だ ? 」 太陽の十億倍はある質量ーー・それが光子一つさえ可視波長で外へ逃彼は映話スクリーンのボタンを押した。 がさぬほど、周囲の時空間を歪めている。 「閣下、急送艇が到着いたしました。フラムランド星系からであり 深宇宙の細塵は、激しく沸きかえりながら、その超質量にひきょます。彼らが運んできたのは : : : 」 せられていく。落下するにしたがってそれらはしだいに強い電荷を「はっきりと言え。彼らが運んできたのは、わたしの弟の遺骸だな フォトン ーマス じようご 8
の中には、・ へてんにかけたような要素があるようにみえたかもしれ「。 ( ラダイス ? 」トライヤーは言葉の意味をさがした。「絵カクカ ? 」トライヤーは希望に満ちて言った。 ないが、ケネディを刺激していたのは、知りたいという欲望であっ て、他の何ものでもないことを、心の中ではよく承知していた。ト 「パラダイスの絵はないんだ。それは飢えも寒さも恐れもない夢の ライヤーは理解し是認したようだった。 土地なんた。そこでは、皆が充分に豊かで、豊かすぎるという者は しかし、その後が いない。あなたはパラダイスをこの町にもたらしたんだ。あるい は、持っていたんだ」ケネディは砂の上に休息している宇宙船を振 "Mond notal te?" と、火星人が言った。 ( 「アナタ、絵カケル 宇宙船の中にいる」 りかえった。「今では、蛇が門のところに ケネディはため息をついた。いつも火星人は絵を描かせたがる。 「ヘビ ? 」トライヤ 1 が尋ねた。ケネディは絶望の叫びをあげてた 「ウチへコイ」火星人が言った。「絵カキナサイ」 め息をついた。 トライヤーは・ ( ラ色のドームに住んでいた。ドアのそばには赤い 「お前はここにいろ」と、ケネディは・フラウントに言った。「″助 けてくれ″という言葉の絵を描いてみるつもりだ」 花が咲いていた。歩道の上にケネディは立ち止まった。「この家 「私は絵を描いてもらう必要はないですよ」・フラウントが怒って言 ? 」と、手でジェスチャーをしてみせた。「これは昨日、私が見た ド ! ムと同じように作られたのか ? 」 「ソウダ。モチロン。ホカニドウャルノダ」 「分ったよ。だが君には、奇蹟を起すこともできないじゃないか」 ケネディは再び宇宙船を見つめた。その目の中の憎悪の念は燃えた 質問はトライヤーを驚かせたようだった。トライヤーが質問を理 っていた。ドーク、きさまは間違ったことをしたのだそ、とケネデ解したことはケネディを驚かせ、希望をもたせた。といっても大き イはむに隸った。 な望みではなく、かすかな望みではあった。二人はドームの中に入 肩を並べて、ケネディと火星人は町の方へ歩いていった。彼らは った。敷居をまたいだとたんに、柔かい光がパッと点いた。ケネデ 新しくつけ足された一画を通りすぎた。住居はすでに火星人たちのイはいつも、この簡素にしつらえられた場所の快い感じに驚かされ ずにはいられなかった。快いという以上に、ここの感しはびったり 新しい我が家となっていて、タ餉の支度がされていた。 草地で、子供がポール遊びをしていた。その子供は遊ぶのを止めとしたものであり、あの昔ながらの三単一 ( 成野」必要条件とした十六、七 世紀の演 ) に一致さえしていた。 て、曲りくねった歩道に沿ってゆっくり歩いている外国人に手を振劇理論 ケネディはトライヤーがここで壁によせた低いソフアに横になっ った。ケネディは手を振り返した。薄い柔かな空気の中で一時間前 には砂漠の砂だったところには、花々の芳香が漂っていた。楽器のて、見たところ、眠りながら、大半の時間を過すことを知ってい た。しかし実際には眠っていたのではなかった。夢みていたという掲 音が響いていた。 方が当っているだろう。夢みることは、どうやらすべての火星人に 「ここは。ハラダイスだ」ケネディがつぶやいた。
間の抜けた返事だ。だが彼には、少しも間が抜けているように感充しかないことがわかったの。しばらくのあいだは、好意で貰って じられなかった。答えるあいだにも、体がこわばっていった。原因 いたけれど、そのうちに全治の見込みのたたないことがわかって、 は、彼女の眠だった。はじめて彼女を見たその瞬間から、その眼は政府はあたしたちを皆殺しにする決断を下したのよ。あたしたち 拳のように彼を打ちのめしていた。微動もせぬ、青い眼だった。偽は、みんな若かった。もちろん生きていたかった。死の宣告を予感 りのない率直さを示す凝視ではない。それは、死んだ眼の凝視だっした人びとが何百人かいて、初期には、同情的な人びとも外部にい ーの背筋を悪寒が這いあがっていった。彼の内部はすでに凍たから、あたしたちは脱走したの。それから今まで、生きるために りついていたが、それをうわまわる冷たさだった。この女は死んで戦い続けていたわけ」 いる。殺された男女の血と生命で、人工的に動かされているにすぎ それでも彼は、何の共感もおばえなかった。奇妙だった。彼女が ない。そんな恐ろしい考えが、彼の心に湧きあがった。女は徴笑しあれほど教えたがっていた真相を、ようやく知ったというのに : たが、その冷たい、死んだ魚の眼から無気味さは消えなかった。ど 。永遠の夜の中をつき進む宇宙船団、その内部で営まれる終わり んな微笑も、どんな熱気も、彼女の冷たい美しい顔に生の輝きをもない灰色の生活。恐ろしい病いの餌食となった肉体、その飽くこと たらすことはないだろう。だが、口元の歪みは、たしかに微笑のかのない異常な欲求に駆られて、やみくもに続けられる生命のプロセ たちをしていた。彼女は言った ス。感情に訴える要素は、すべてそこにある。だが何の感情も湧き 「あたしたちドリーフ族は、きびしい孤独な生活を送ってきたのおこらないのだ。あまりにも、彼女が冷たすぎるからだろう。逃亡 の年月が、彼女の感情も、その眼の輝きも、生き生きした表情も、 よ。どんなに寂しい生活だったか、こうして生存の闘いを続けてい るのが、愚かな、気違いじみたこどのように思えるときもあった何もかも殺してしまったのだ。 しだいにかがみこんでくる彼女の体は、さっきよりも緊張してい わ。それも、あたしたちには、何の過失もなくて、百万年も前、あ たしたちが恒星間宇宙船に乗って旅行しているとき、それが起こつるようだった。顔はますます近づき、ついにはゆっくりした規則正 たーー・」彼女は絶句した。「もっと昔のような気がする。きっと百しい呼吸の音が聞えるまでになった。その冷たい眼にすら、かすか な光が宿っていた。全身は、目的の成就を目の前にした緊張で震え 万年以上たっているわ。もう忘れてしまった」 語りはじめた思い出が恐怖をよみがえらせたのか、声は不意に無ていた。ほとんど囁くような調子で、彼女は言った。「あたしにキ スしてちょうだい。 こわがらないで。ずっと生かしておいてあける 気味な調子に変わった。「何千人もの行楽客を乗せた宇宙船だった わ。その中に、あたしたちもいたの。それが、ある太陽の引力にとから。でも、あたしがキスしたら、それに応えなければ。い、 らえられて、人体に非常に危険な輻射線に誰もかもがさらされてしになっているのは駄目よ。あなたは独身よね。歳は、少なく見積っ まったの。その星は、それから″ドリーフの太陽。と呼ばれるようても三十。こういったことにこだわる歳ではないはずだわ。さあ、 になったわ。そして治療法は、永久的な輸血と生命エネルギーの補まず、体の力を抜くのよ」 98
の存在を 丿ーの視線は、穴のなこう側にいる娘にむかった。リー きって取材している人なら、真相をむのもきっと早いんじゃない かと思ったからよ。芝居がかったお膳立てをしたのは、このほうが意識する直前、その一瞬、彼女はどこかお・ほっかなげだった。顔を 説明するより納得がいくだろうと思って。まちがいだったようね」半ばそむけているが、右半分のプロフィールが見え、皮膚が緊張の 娘は彼のすぐそばまでやってきていた。彼女は体をのりだすと、彼あまり血の気を失い、唇がかたく結ばれているのがわかった。彼は の腕のわきの化粧台にリポル・ハーを置き、無関心な口調でこう締めそれを尻ごみと解釈した。彼の鋭敏な感覚は、一人の若い女が、つ かのまではあるが、その絶大な自信を失うさまを目撃していた。 くくった。「この武器は役にたつはすよ。とびたすのは弾丸じゃな と、娘は彼の存在に気づき、態度は変った。 いけど、引金があって、ふつうの拳銃みたいに狙いをつければいし の。もし勇気が出てきたように思えたら、あたしのあとを追ってす動作がぎごちなくなるといった変化ではなかった。彼には目をく ぐ地下道にとびこんで。たたし、あたしや、あたしが話しかける人れようともせず、穴の奥へと通じる階段の第一段に足をおろすと、 たちの邪魔はしないでね。隠れていて ! あたしの身が危険になつひとかけらのためらいもなく下りはじめた。しかし彼女が尻ごみし たときたけ行動をおこすのよ」 たという最初の確信に勇気づけられ、彼も眼を細めて歩きだしてい 地下道か。軽々と足早に部屋から出ていく彼女のうしろ姿を見なた。それと同時に、娘の顔につかのまうかんた明らかな恐怖が、と がら、リーは無感動に考えた。この部屋、三号個室の下に、地下道っぜんこの狂気を現実のものにした。急な階段を駈けおりる。気が つくと、彼は薄暗い光に照らされた滑らかな地下道の中におり、娘 があるという。自分か彼女か、どちらかが狂っているのだ。 そこで、ふと彼は思いあたった。あの娘の話しかたに、自分は本が唇に指を押しあてて立っていた。彼はようやく足をとめた。 ! 」と彼女は言った。「宇宙船のドアがあいてるかもしれ 来反発を感じなければならないのだ。こんなふうに好奇心のふくら「シーツ むままに、彼を部屋に残していったやり口が腹だたしかった。もしないわ」 丿ーをいらたたせた。この途方もない 自分が記者でなければ、そんな二流の心理作戦を使ったって何の役怒りがいきなりこみあけ、 にもたちはしないそと言ってやれるのだが。いらだったまま立ちあ冒険に加担してしまったからには、自分がリ 1 ダーたと勝手に思い こんでいたのだ。娘の要請も、その独断的な行動も、ただ彼をより がると銃をとり、そしてつかのま動きをとめた。ドアがしぶしぶ開 気短かにしたにすぎなかった。 奇妙な、くぐもった音が聞えてきたからだ。 ″はよしてくれ ! 」と強い調子で囁いた。「事実を教え 彼女はダイニング・サロンの左にあるべッドルームにいた。厚い ・グリーンの絨緞の一方の縁が巻き返され、彼女の足元の床にぼっかてくれればいいんだ、あとは自分でするから」 りと穴があいていた。けれども彼はほとんど驚かなかった。トンネ彼はロをつぐんだ。彼女の言った言葉の意味が呑みこめたのであ 9 ルをおおっていた四角い床板は、一見こみいった蝶番でとめられ、 る。怒りがたちまち薄らいだ。「宇宙船 ! 」と信しられぬように。 7 きちんと折り返されている。 「コンスタンチンの地下に宇宙船が埋まってるというのかい ? 」
S F でてくたあ 《世界全集》の〈第燔回配本〉第巻アの全く新しい宇宙航行法ーー物質伝送法であでは二十年以上のキャリアを持つべテラン女 シモフ『鋼鉄都市・宇宙気流』 ( 早川書房・る。物質を分子にまで分解し、その途中装置流作家だが、わが国では本書『アルタイル 七八〇円 ) の内容は、もうここで説明する必に内蔵された走査機によってその物質のすべから来たイルカ』 THE DOLPHINS OF " 」「 . 要もないだろう。いずれも、アシモフの、。ての量子的デ 1 タをとり、これを送信機にか ALTAIR ( 一九六七年・矢野徹訳・三三 0 ヂット・未来小説と、宇宙小説の系列のなかけて目的地をめがけて送る。目的地には受信円 ) が初出版。百万年以前に、アルタイルか での代表的傑作である。「鋼鉄都市」 CAVES 装置があり、この装置に入ったデータによっら水陸両棲の哺乳類種族が地球に植民にやっ OF STEEL ( 一九五三年・福島正実訳 ) のて一瞬のうちにもとの物質が再生される。人てきた。水を好んだものは海へ、陸を好んだ ロポット、・ダニールは、何度読みかえし間もこの方法で何十パーセクとはなれたはるものは陸へとわかれたが、そのとき両者のあ てみても、に登場したロポットたちのなかな宇宙のかなたへ到達することができるのいだでは、互いにその領域を犯さないことを かでもっとも現代的、論理的な魅力あるロポだ。そのためには目的の星に受信装置を置く〈誓約〉した。陸に棲んだものは人間となり ットだしパートナーの刑事イライジャ・べイ役目をもって宇宙を永遠に飛び続けているの水を選んだものはイルカとなったが、その誓 リーのロポットに対する嫌悪感は、これまたが、宇宙船サザン・クロス号で、この船内に約はもちろんかって同族であったことも忘れ すべてのロポット小説の人間サイドの感情を備えつけた送受信装置によって、たえず当直た人類は、海を汚染し、あまっさえイルカを 代表している。ロポットを書こうとし乗員が出入りしている。そして目的の星に到捕えてドレイ化しようとした。イルカたちは て、この作品の影響力から成功的にまぬがれ達し植民可能だとわかれば、あらためて大量報復と生存のために立ち上る。ややジュヴナ イルめいた発想だが、いかにも女流作家らし るのはじっさい大変なことだ。一方の「宇宙の移民を送りこむ、という仕組みなのだ。 小説では、このサザン・クロス号が黒色矮いタッチで、好感の持てる作品だ。 気流」 THE CURRENT OF SPACE ( 一 九五七年・平井イサク訳 ) は、アシモフの宇星を発見、それを調べるために四人の科学者このほかには、立風書房の・キーン、・ 宙史シリーズのなかではもっとも完成度が高が派遣されるが、その星の超強力な磁場によ・フライン共著『狂ったエデン』 (WORLD く、宇宙小説が陥りがちの擬似時代劇ふうのってエンジンと伝送装置を破壊され、おそる WITHOUT WOMEN 一九六〇年・中尾 雰囲気もすくない。それでいて、辺境の見すべき重力のとりこになる。さて彼らはどうし明訳・四八〇円 ) がある。もし全世界から女 トリッキイな宇がいなくなったらという、破滅テーマ。 てられた一小世界の地位におとしめられた地てこの苦境をのり切るか ? 十六カ月間南海の孤島で生活していた夫婦が 球と、それを含む厖大な宇宙の空間と時間の宙ファン向きである。 マーガレット・セント・クレアはアメリカもどってきてみると、核実験の結果まきちら 流転がこの作品ほどしみじみと伝わってくる された放射能が全世界の十五歳から三十五歳 も珍しい。敢えてアシモフの代 までの女の九九。ハ 表作とした所以もここにある。 1 セントを殺し、 今月の〈ハヤカワ・・シリー 実 残りを不妊にして ズ〉海外ものはまずアンダ 1 スン。 ン アンダースンはかなりの多作家で、 ンしまったのだ。野 正 ョ このシリ 1 ズに入るのもこれで七冊 デ獣と化した男たち めだが、それそれ非常に的なア はあらゆる手段で ク一 0 田 イデアが楽しめるのがミソで、その っ女を得ようとする 狂 意味でこの『敵の星』 THE ENE ・ 設定と展開が MY STARS ( 一九五八年・岡部 お手軽なのが難だ 当 宏之訳・二七〇円 ) は、秀抜なアイ が、通俗とし 海 デア・ストーリイだといえる。 て読めばけっこう この小説の立役者は人物よりもそ 面白い 狂ったエデン 0 ・キーン L ・プライン 中第明訳 しし ー 20
宙』 LIVING というサインがある。 ( カット参照 ) SPACE とい また、ヘルメットつきの方は、その集音マイクらしきものの下に 宀 う作品の絵だ入っているのたが、縮写されるとはたして判読できるかどうか ? 画 が、どうやら 一九五六年三月号の表紙の老人も、インストルメント・カフをつ ュ シそれほど環境けている。サインはカイハスのヘリの下部にある。これはクリフォ ム はきびしくな ード・シマックの『宇宙のヴァン・ゴッホ』 THE SPACEMAN'S 工 いらしく、手 VAN GOGH という作品を扱っている。老人の名はルーベン・ク レイ。銀河系の惑星を次から次へとさまよいあるいて、すばらしい ッ袋もつけてい カ レないし、宇宙作品を描き残して消息を絶った。 服も軽装であ話は、この老人の跡を追って二十年間も惑星から惑星へとあるき タる。胸の上部まわっているラスロップという男が、やっとのことで、ルーベン・ についているクレイがその最後をすごした惑星へたどりつくところからはじま る。まったく無名の小さな惑星なのである。ラスロップは宇宙船を 丸いものは、 外部の音を拾降りると、村の方へと小道を半日もあるきつづけ、やっとのこと う集音マイクで、住民である、この緑色をした小猿みたいなやっと出会わす。 「あんたはもう一人と似てる」 だろうか。 エムシ = ウ「クレイだろう ? 」とラスロップ。 Z 「あなたはもっと若い」 イラーのこの : 種の絵でたの「若いよ。たしかに。すこしだけどな」 「その通り」と住民は外交辞礼のつもりらしい しみなのは、 「病気じゃないね」 彼のサインが Ⅱどこに入って「健康だ」 「クレイは病気たった。クレイは : いるかをさが すことであ彼等の言葉に死ぬという単語はない。終ったとか、つづかなかっ る。とんでもた、といった意味である。もちろんそれで意味は十分通じた。 ないところにさりげなく入っているのである。ステ , ーションの内部「俺も知っている。そのことについて聞きたくて来た」 「われわれと一緒に住んでいた」 これは土星の重力場を調査するためのステーションで、窓外に 見える白く太い線はお粗末ながら土星の輪であるーーーの絵では、窓「きみたちは彼を , ーー」彼らには埋葬する、とか、墓とかいう言葉 枠についている機械の上に、まるでネ 1 ム。プレートのようにはない。 1 4