宇宙船 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1970年3月号
86件見つかりました。

1. SFマガジン 1970年3月号

333 りリ日ヨ ( ) 0 / い ( ) ? ド下 しばらく彼らは、この赤い惑星の小さな重力に体力を慣れざせな 地球からの宇宙船が到着したのは、、午後もさかりのころだった。 がら、コツ。フの中に置かれた小さな宝石のような、砂漠の中の町を ケネディは、二人の助手と一緒に「白い砂で作った矩形のぐるり に、記録装置を据えつける作業で、神経がくたくたになっていた眺めたり、砂や、太陽や南のはずれの低い丘の連なりを眺め回して いた。それからケネディと二人の助手を見つけた。一人が手を振り が、宇宙船の到着は見ていた。最初、ケネディは宇宙船が、現在、 上げてこちらを指した。ケネディは毒づいた。もちろん新参者たち 火星人が蠅の横切るのさえ禁じている、矩形の中に着陸しはしない は、一番近くにいる人間ー」と言っても実際トラキシアにいる人間 かと恐れたが、パイロットは、かすかにコースを変えて、着陸ジェ に向って真直ぐにやって ットを猛烈にふかし、四分の一マイルと離れていない場所へ、船体といったらケネディたちだけだったが くるだろう。 を止めた。 ケネディはほっとした。この矩形にこんなに近く、記録装置をと「たぶん道路地図でも欲しいっていうんだろうよ」とケネディは言 った。ケネディには質問に答えている暇はなかったし、三人の男は すいぶん話し合い りつける許可を、トライヤーから得るためには、・ を要したし、言葉の難解さが引き起すことを考えたら、たくさんのまちがいなくこちらをめざして歩いてくる。 こぎれいな制服に身を固めた筋骨たくましい三人の男は、すたす 身振りや絵を描くことが必要だったのだ。 火星人は記録装置を据えつける考えを心から気持よく思っているたケネディに近づいた。 ーダが言った尸「我々はミスター・ジョン・ケネ わげではなかった。この装置の役目が、この町のどこかに隠されて「失礼」と、リ いるに違いない機械から伝わる力の経路を追跡し、その機械自身をディを探しているんですが、どこに行けば会えますか ? 」 つきとめることにあるのだということが、もしトライヤーに本当に ケネディはこの男たちをじっと見つめた。この連中には会ったこ ー、ヨ第ク宇宙基地の通 分っていたら、おそらく彼はもっと嫌がったことだろうと、ケネデとはなかった。」が、似たような奴らがニュ イは思った。ケネディは、もしドジな人間が宇宙船をこの立入禁止りを、酒に酔ってわいわいと大騒ぎしているのを見たことがあっ た。火星基地でも、ガラスにおおわれた市街地が凍りついた空を見 区域に着陸させたら、いったい火星人はどういう言動を取るだろう かと考えた。 上けている月基地で . もそういう輩に出くわした。種族はまったく同 ド ) ・こ 0 そう言えば、いったいなぜ宇宙船はここに着陸したのだろう ? トラキシアは小さな、どうということのない町だから、火星にまで、「私がジョン・ケ・ネデイだが」 . と彼は言った。、「何の用かな ? 」 やってくる余裕のある金持で健康な旅行者のルートからもまるで離「ミ不ター・ドークの伝言です。キャビン、ですぐにお目にかかりた いとのことです」と、伝令が言のた。 れていた。 f ミスター・ドーク ? 誰かねっ : あんたがたの船長 ? 」 じっと見ていると、宇宙船の出入口のドアが開いて、三人の男が 出てきた。 三人の男の顔が驚きの表情に変った。 9

2. SFマガジン 1970年3月号

入っこ。 「報告します。本艇に信号中の宇宙船を探知。方位は本艇のコース この艇に連れてこられた当初のルシンダの瞳には、あらゆる = スに対して五時角平面。船影は小さく正常」 チール人に対するやりばのない憎悪がみなぎ「ていたものた。それ最後の一句は、発見された宇宙船が〈狂戦士〉の巨体でないこと からの毎日、ホルトはできるかぎりの優しさと心遣いを彼女に示しを示す、慣行的な確認である。フラムランドの叛徒の残党は、もう てきた。いま彼を見上げたルシンダの顔には、もう反感すらこも 0 深宇宙飛行船を一隻も持 0 ていないので、ホルトが警戒すべき理由 ていなかったーーそこには、彼女がだれかと分かちあわすにはおらはまったくなかった。 プリッジ れぬ、切ない希望たけがあった。 彼は船橋にもどり、探知スクリーンに映った小さな船影に目をこ ルシンダがい 0 た。「さ 0 き、兄はわたしの名を呼んたようでしらした。それは見なれぬ形をしていたが、数多い惑星の周回軌道上 た」 にある、数多い造船所のことを思えば、それほどふしぎとはいえな 「ほう ? 、ホルトはジャンダの顔をよく見ようと屈みこんだが、な 。しかし、なぜこの深宇宙で、相手は彼の艇に接近し、連絡をと んの変化もうかがえなかった。反逆者の瞳は依然としてうつろなまろうとするのか ? まで、その右目からは、感情と無関係らしい涙のしすくが、ときお疫病 ? りこぼれ落ちてくる。だらしなくあいたロも、ねじくれた、カのな「いや、疫病じゃない」未知の宇宙船は、ホルトがその質問を呈し い体も、前とおなじだ。 たとき、ぜるような空電を通してそう回答してきた。先方からの 「たぶんーー」とまでいって、ホルトはあとを濁した。 ビデオ信号波も、やはり妨害が多く、はっきりと話し手の顔が見分 ジャンプ 「え ? 」と、すがるような声。 けられぬほどだった。「このまえの跳躍で細塵を拾ったらしくて、 ばかな、おれはこの娘とかかわりを持ってはいけないのだ。ホル カ場の調子がわるいんだ。すまないが、乗客を二、三名、そちらへ 引き取ってもらえないだろうか ? 」 トは、もう一度彼女の瞳に憎悪が宿ってくれたら、とさえ思った。 「たぶん」と彼は静かに言いなおした。「このまま回復しないほう「いいとも」超光速跳躍の終りぎわに、船体がかなりの大きさを持 が、きみの兄さんにと「ては幸せだろう。これから連れて行かれるつ宇宙塵の重力場と衝突する事故は、珍しいにはちがいないが、あ ところから考えれば」 ) えぬことではない。それに、雑音の多い通信も、それで説明がっ ルシンダが抱いていたわすかな希望は、その言葉から受けたショ く。ここまできても、ホルトに疑念を抱かせるようなものは、なに ックで、どこかへ飛び去った。彼女はなにか珍しいものでも見るよもなかった。 うに、無言で兄の顔をまじまじと見つめた。 相手が発進させたランチは、やがて特務艇の = アロックと結合し ホルトの腕のインターフォンが鳴っこ。 た。遭難した乗客を迎えようと徴笑をうかべて、ホルトはエアロッ 「こちら艇長」と彼は応答した。 クを開いた。つぎの瞬間、彼と六人の乗員は、どっと乱入してきた っム

3. SFマガジン 1970年3月号

リーはほとんど聞いていなかった。彼は舷窓にしがみつき、闇の父娘に日用品を届ける男 ( ナーディとともに過ごした、このみじめ 中をくいいるように見つめていた。はじめは、ただ無理じいされたで、孤独な旅。その数十日間、彼は危険が根本的には取り除かれた 眼がまばたきをくりかえすばかりで、何も見えなかった。星々はあわけではなく、たんに眼に見えぬかたちを取ったにすぎないこと る。たが、かすんだ視界こ、 冫いくつかの動く光点がとらえられるまを、一度として疑ったことはなかった。この事態の中で唯一の好ま でには、しばらくの時間がかかった。彼は漠然とした当惑を感しなしい現実は、心理分析機にかけられ、夢のない眠りからさめたと がら、その数をかそえた。「一つ、二つ、三つ・ーー・七つ みんき、サイコグラフのレポートに記されていた文章である。アンガー に、 、つしょに動いている」 ンがオブザー ・ハーであることには間違いない。だが、それと同時 「何だって ? 」ハナーディが脇から首をのばした。「七つ ? 」 に、今ではわかりすぎるほどわかっている一つの感情から引きださ 光点は遠のきながらみるみる輝きをおとし、またたいて消えた。 れた結論があった。彼はあの娘を愛していたのだ。 二人の男のあいだに、つかのまの沈黙がおりた。 そこへ、これだ ! 彼の心にやり場のない怒りが燃えあがった。 「木星がうしろにあるのは、まずかったな」リーがようやく言っ ドリーフ族の宇宙船が七隻。これは、戦う相手が最初の二人だけで た。「前にあれば、黒い輪郭がうかびあがるから、あんなふうに見はなくなったことを意味する。そして、もしかしたら、あの七隻は えなくなってしまうこともないのに。どれが、アンガーンの小惑星たんなる偵察隊で、ハナーディが近づいたので退却しただけかもし だったんだ ? 」 れない。それとも、あの想像を絶する殺人鬼の一団は、もうオ・フザ ーの基地を攻撃したあとなのか。娘は殺されてしまっただろう ハナーディは体をおこした。そのいかつい顔には、怪訝そうな表 情がうかんでいる。「あれは、宇宙船だよ。あんなに速い船は見たか。 ことないぜ、それが七隻もだ。一分もたたんうちに、見えなくなっ アンガーンの小惑星が闇の一方の側から鈍く光りながら近づいて ちまった」鈍重そうな顔から、不審の表情が消えた。彼は肩をすく くるのを、彼は不安けに見つめた。宇宙船と、大部分金属からなる めた。「警察の新しい船だろう。あんなに速く消えるはずがない、 不恰好な不毛の天体は、宇宙船のほうがうしろから追いつくような きっと変な角度から見たんだ」 かたちで、しだいに接近した。巨大な鋼鉄のドアが、小惑星の一廓 リ 1 は半ばすわるような、半ばひざまずくような姿勢で、動きをにするすると開いた。船は器用に、その裂け目にすべりこんだ。耳 とめた。一度、操縦士のいかつい顔に眼をやったが、すぐ顔をそむざわりな装置の音。ハナーディが、いぶかしげな顔でコントロール ・ルームから現われた。 けた。途方もない思考が自分の眼からほとばしり出るのではないか と、つかのま黒い恐怖におそわれたからである。 「あのおかしな船団がまた出てきたそ。スチール・ロックはしめと ドリーフ族だ ! あの殺人事件から、二カ月半がゆっくりと過ぎいたが、先生にまず知らせてーーー」 ガシッ ! 周囲がゆらいだ。床が持ちあがり、リー 去っていた。地球からユーロバまで一カ月余り、そしてアンガーン を激しく叩き 9

4. SFマガジン 1970年3月号

の中には、・ へてんにかけたような要素があるようにみえたかもしれ「。 ( ラダイス ? 」トライヤーは言葉の意味をさがした。「絵カクカ ? 」トライヤーは希望に満ちて言った。 ないが、ケネディを刺激していたのは、知りたいという欲望であっ て、他の何ものでもないことを、心の中ではよく承知していた。ト 「パラダイスの絵はないんだ。それは飢えも寒さも恐れもない夢の ライヤーは理解し是認したようだった。 土地なんた。そこでは、皆が充分に豊かで、豊かすぎるという者は しかし、その後が いない。あなたはパラダイスをこの町にもたらしたんだ。あるい は、持っていたんだ」ケネディは砂の上に休息している宇宙船を振 "Mond notal te?" と、火星人が言った。 ( 「アナタ、絵カケル 宇宙船の中にいる」 りかえった。「今では、蛇が門のところに ケネディはため息をついた。いつも火星人は絵を描かせたがる。 「ヘビ ? 」トライヤ 1 が尋ねた。ケネディは絶望の叫びをあげてた 「ウチへコイ」火星人が言った。「絵カキナサイ」 め息をついた。 トライヤーは・ ( ラ色のドームに住んでいた。ドアのそばには赤い 「お前はここにいろ」と、ケネディは・フラウントに言った。「″助 けてくれ″という言葉の絵を描いてみるつもりだ」 花が咲いていた。歩道の上にケネディは立ち止まった。「この家 「私は絵を描いてもらう必要はないですよ」・フラウントが怒って言 ? 」と、手でジェスチャーをしてみせた。「これは昨日、私が見た ド ! ムと同じように作られたのか ? 」 「ソウダ。モチロン。ホカニドウャルノダ」 「分ったよ。だが君には、奇蹟を起すこともできないじゃないか」 ケネディは再び宇宙船を見つめた。その目の中の憎悪の念は燃えた 質問はトライヤーを驚かせたようだった。トライヤーが質問を理 っていた。ドーク、きさまは間違ったことをしたのだそ、とケネデ解したことはケネディを驚かせ、希望をもたせた。といっても大き イはむに隸った。 な望みではなく、かすかな望みではあった。二人はドームの中に入 肩を並べて、ケネディと火星人は町の方へ歩いていった。彼らは った。敷居をまたいだとたんに、柔かい光がパッと点いた。ケネデ 新しくつけ足された一画を通りすぎた。住居はすでに火星人たちのイはいつも、この簡素にしつらえられた場所の快い感じに驚かされ ずにはいられなかった。快いという以上に、ここの感しはびったり 新しい我が家となっていて、タ餉の支度がされていた。 草地で、子供がポール遊びをしていた。その子供は遊ぶのを止めとしたものであり、あの昔ながらの三単一 ( 成野」必要条件とした十六、七 世紀の演 ) に一致さえしていた。 て、曲りくねった歩道に沿ってゆっくり歩いている外国人に手を振劇理論 ケネディはトライヤーがここで壁によせた低いソフアに横になっ った。ケネディは手を振り返した。薄い柔かな空気の中で一時間前 には砂漠の砂だったところには、花々の芳香が漂っていた。楽器のて、見たところ、眠りながら、大半の時間を過すことを知ってい た。しかし実際には眠っていたのではなかった。夢みていたという掲 音が響いていた。 方が当っているだろう。夢みることは、どうやらすべての火星人に 「ここは。ハラダイスだ」ケネディがつぶやいた。

5. SFマガジン 1970年3月号

て帰ろうとしたとき、 0 ケットが故障して点火れぞれの内容については次号に、そして仕掛け一 しない。原因はまったく不明で、困りはてたキ や出来具合については特集記事で紹介したいと 0 ・。ヘック ) は、小さな宇 おもう。一月初旬現在、試写まで行ったもの は、ほんの一、二のパビリオンにすぎない。こ とにしたが、道計算だけでも三日かかってし の種の映画は編集や録音に気が遠くなるほどの まう。アイアンマン 1 号の食料や酸素は、すで費用と時間がかかるもので、いくら電算機を使 にタイムリミットに達している。 うからといっても一カ月ぐらいは試写や実験に ところが、いよいよ打上けというとき、ハリ あてるべきだろう。 ケーンがアメリカ大陸を急襲する。風速がメ 現状ではニューヨーク博を越えるものは出て ートルという巨大な暴風雨のなかでは救助宇宙こないのではなかろうかと推定せざるをえな 船の発射は不可能だ。宇宙船もヒュー ストンもヒステリックな空気に包まれ , を気 マーティン・ケイディンの原作はマ 1 キュリー宇宙船が月へ向う途中の事 故となっているが、アポロⅡ号以後、 大あわてで設定を変えた。 ( ケイディ ンの別の『月は誰のもの』は月に 着陸してみたら、すでに三年前ソ連人 ~ が着陸して領土権を主張していた、と いうストーリイだが今となってはどう にも白々しい ) 政界に顔のひろい。ヘッ クだけに、実際のヒューストンやケー 『宇宙からの脱出』 。フ・ケネディでロケをおこなった。 Z わけである。 放出の記録フィルムもふんだん さて、スト 1 リイは、宇宙基地からステーシ に使われている。封切は三月予定。二 ョンを組立てるための予備調査に発射された宇時間十三分。 宙船アイアンマン 1 号の遭難事故が軸になって 地球から数十万マイルも離れた空間で宇宙線 の観測や遊泳実灣、簡単な作業を終えた三人の ノイロット ; 、 カヒューストンの指示にしたがっ いよいよ万博開会まであとわずかだ が、ニーヨ 1 クやモントリオールとを 同しような映像による展示が多い。そ 『宇宙からの脱出』ヒューストンの救助センター

6. SFマガジン 1970年3月号

間の抜けた返事だ。だが彼には、少しも間が抜けているように感充しかないことがわかったの。しばらくのあいだは、好意で貰って じられなかった。答えるあいだにも、体がこわばっていった。原因 いたけれど、そのうちに全治の見込みのたたないことがわかって、 は、彼女の眠だった。はじめて彼女を見たその瞬間から、その眼は政府はあたしたちを皆殺しにする決断を下したのよ。あたしたち 拳のように彼を打ちのめしていた。微動もせぬ、青い眼だった。偽は、みんな若かった。もちろん生きていたかった。死の宣告を予感 りのない率直さを示す凝視ではない。それは、死んだ眼の凝視だっした人びとが何百人かいて、初期には、同情的な人びとも外部にい ーの背筋を悪寒が這いあがっていった。彼の内部はすでに凍たから、あたしたちは脱走したの。それから今まで、生きるために りついていたが、それをうわまわる冷たさだった。この女は死んで戦い続けていたわけ」 いる。殺された男女の血と生命で、人工的に動かされているにすぎ それでも彼は、何の共感もおばえなかった。奇妙だった。彼女が ない。そんな恐ろしい考えが、彼の心に湧きあがった。女は徴笑しあれほど教えたがっていた真相を、ようやく知ったというのに : たが、その冷たい、死んだ魚の眼から無気味さは消えなかった。ど 。永遠の夜の中をつき進む宇宙船団、その内部で営まれる終わり んな微笑も、どんな熱気も、彼女の冷たい美しい顔に生の輝きをもない灰色の生活。恐ろしい病いの餌食となった肉体、その飽くこと たらすことはないだろう。だが、口元の歪みは、たしかに微笑のかのない異常な欲求に駆られて、やみくもに続けられる生命のプロセ たちをしていた。彼女は言った ス。感情に訴える要素は、すべてそこにある。だが何の感情も湧き 「あたしたちドリーフ族は、きびしい孤独な生活を送ってきたのおこらないのだ。あまりにも、彼女が冷たすぎるからだろう。逃亡 の年月が、彼女の感情も、その眼の輝きも、生き生きした表情も、 よ。どんなに寂しい生活だったか、こうして生存の闘いを続けてい るのが、愚かな、気違いじみたこどのように思えるときもあった何もかも殺してしまったのだ。 しだいにかがみこんでくる彼女の体は、さっきよりも緊張してい わ。それも、あたしたちには、何の過失もなくて、百万年も前、あ たしたちが恒星間宇宙船に乗って旅行しているとき、それが起こつるようだった。顔はますます近づき、ついにはゆっくりした規則正 たーー・」彼女は絶句した。「もっと昔のような気がする。きっと百しい呼吸の音が聞えるまでになった。その冷たい眼にすら、かすか な光が宿っていた。全身は、目的の成就を目の前にした緊張で震え 万年以上たっているわ。もう忘れてしまった」 語りはじめた思い出が恐怖をよみがえらせたのか、声は不意に無ていた。ほとんど囁くような調子で、彼女は言った。「あたしにキ スしてちょうだい。 こわがらないで。ずっと生かしておいてあける 気味な調子に変わった。「何千人もの行楽客を乗せた宇宙船だった わ。その中に、あたしたちもいたの。それが、ある太陽の引力にとから。でも、あたしがキスしたら、それに応えなければ。い、 らえられて、人体に非常に危険な輻射線に誰もかもがさらされてしになっているのは駄目よ。あなたは独身よね。歳は、少なく見積っ まったの。その星は、それから″ドリーフの太陽。と呼ばれるようても三十。こういったことにこだわる歳ではないはずだわ。さあ、 になったわ。そして治療法は、永久的な輸血と生命エネルギーの補まず、体の力を抜くのよ」 98

7. SFマガジン 1970年3月号

の存在を 丿ーの視線は、穴のなこう側にいる娘にむかった。リー きって取材している人なら、真相をむのもきっと早いんじゃない かと思ったからよ。芝居がかったお膳立てをしたのは、このほうが意識する直前、その一瞬、彼女はどこかお・ほっかなげだった。顔を 説明するより納得がいくだろうと思って。まちがいだったようね」半ばそむけているが、右半分のプロフィールが見え、皮膚が緊張の 娘は彼のすぐそばまでやってきていた。彼女は体をのりだすと、彼あまり血の気を失い、唇がかたく結ばれているのがわかった。彼は の腕のわきの化粧台にリポル・ハーを置き、無関心な口調でこう締めそれを尻ごみと解釈した。彼の鋭敏な感覚は、一人の若い女が、つ かのまではあるが、その絶大な自信を失うさまを目撃していた。 くくった。「この武器は役にたつはすよ。とびたすのは弾丸じゃな と、娘は彼の存在に気づき、態度は変った。 いけど、引金があって、ふつうの拳銃みたいに狙いをつければいし の。もし勇気が出てきたように思えたら、あたしのあとを追ってす動作がぎごちなくなるといった変化ではなかった。彼には目をく ぐ地下道にとびこんで。たたし、あたしや、あたしが話しかける人れようともせず、穴の奥へと通じる階段の第一段に足をおろすと、 たちの邪魔はしないでね。隠れていて ! あたしの身が危険になつひとかけらのためらいもなく下りはじめた。しかし彼女が尻ごみし たときたけ行動をおこすのよ」 たという最初の確信に勇気づけられ、彼も眼を細めて歩きだしてい 地下道か。軽々と足早に部屋から出ていく彼女のうしろ姿を見なた。それと同時に、娘の顔につかのまうかんた明らかな恐怖が、と がら、リーは無感動に考えた。この部屋、三号個室の下に、地下道っぜんこの狂気を現実のものにした。急な階段を駈けおりる。気が つくと、彼は薄暗い光に照らされた滑らかな地下道の中におり、娘 があるという。自分か彼女か、どちらかが狂っているのだ。 そこで、ふと彼は思いあたった。あの娘の話しかたに、自分は本が唇に指を押しあてて立っていた。彼はようやく足をとめた。 ! 」と彼女は言った。「宇宙船のドアがあいてるかもしれ 来反発を感じなければならないのだ。こんなふうに好奇心のふくら「シーツ むままに、彼を部屋に残していったやり口が腹だたしかった。もしないわ」 丿ーをいらたたせた。この途方もない 自分が記者でなければ、そんな二流の心理作戦を使ったって何の役怒りがいきなりこみあけ、 にもたちはしないそと言ってやれるのだが。いらだったまま立ちあ冒険に加担してしまったからには、自分がリ 1 ダーたと勝手に思い こんでいたのだ。娘の要請も、その独断的な行動も、ただ彼をより がると銃をとり、そしてつかのま動きをとめた。ドアがしぶしぶ開 気短かにしたにすぎなかった。 奇妙な、くぐもった音が聞えてきたからだ。 ″はよしてくれ ! 」と強い調子で囁いた。「事実を教え 彼女はダイニング・サロンの左にあるべッドルームにいた。厚い ・グリーンの絨緞の一方の縁が巻き返され、彼女の足元の床にぼっかてくれればいいんだ、あとは自分でするから」 りと穴があいていた。けれども彼はほとんど驚かなかった。トンネ彼はロをつぐんだ。彼女の言った言葉の意味が呑みこめたのであ 9 ルをおおっていた四角い床板は、一見こみいった蝶番でとめられ、 る。怒りがたちまち薄らいだ。「宇宙船 ! 」と信しられぬように。 7 きちんと折り返されている。 「コンスタンチンの地下に宇宙船が埋まってるというのかい ? 」

8. SFマガジン 1970年3月号

うかもしれんのだそ、わかってるのか ? 」 くちばしが小刻みに動いた。「スモー・フロッド ? スモープロッ 「ちょっと、頼むからこらえてくれ。・ほくはびつくりしただけなん ドなんてところは知らないな」 だーーー」小さな口笛の音が漏れた。「 コーントと間違えられた「この太陽系の外惑星だ」 ものだから」 「ああ、そうカ 、。ぼくらはガズムって呼んでいる。ある種の生物 「おまえはコーントじゃないのか ? 」 がそこに植民地を作ったって話は聞いたことがある。だけど・ほく 「・ほくが ? 冗談しゃない、もちろん違う ! 」圧し殺されたロ笛のは、そういう話にはあんまり注意を払っていないものでね」 音が、くちばしからまた漏れた。「あいにくと、・ほくとズ・フはパ 「時間を無駄にしてるそ、レティ ーフ」・マニャンは、そういうと、 ップなんだ。博物学を勉強してる」 「こいつらを縛り上げて、急いで宇宙船へ戻るんだ。そして逃げ出 「コーントそっくりに見えるんだがな」 すんだ。こいつのいったことを聞いたかーーー」 「全然似てないよーーたぶん地球人たちにはわからないだろうが。 「この下の入江に、コーントたちはいるか ? 奴らの宇宙船はどこ コーントたちは、みんな十フィ ートを越えていて、逞しい体の悪漢にあるんだ ? 」 どもだ。そして、もちろんだけど、けんかばかりしている。実際の 「タールーンに、という意味か ? もちろんいるよ。大勢さ。彼ら ところ、特権階級のなまけ者さ」 の冒険の一つに出かける用意をしてる」 「特権階級 ? おまえは、コーントたちがおまえたちと生物学的に 「それは、スモープロッドへの侵略のことだろう」とマニャン。 は同一なんだとでも、いうつもりなのかねーー」 「急がないと、レティ ーフ、最後に疎開する人々といっしょに、向 「全然違うよ ! くーップがコーントを受胎するなんて、考えたこ こうで捕まってしまうことになりそうーーー」 ともない」 「タールーンには、いったい、何人ぐらいのコーントがいるんだね 「おれがいしたいのは、おまえたちが同じ系統にあるんじゃないか 「大勢だ。十五人から二十人ほどはいるよ」 ということさーー・・恐らく、共通の先祖から進化してきたのたろう」 「ぼくたちはみんな、パッドの子孫なのだ」 「え ? 何が十五人から二十人たって ? 」マニャンの当惑したよう 「おまえたちとコーント族とは、どこが違うんだ ? 」 な顔つき。 「コーントが十五人から二十人さ」 「もちろん、コーントは議論好きで、誇り高く、人生の美しき物に 対する認識に欠けているんた。彼らの水準にまで堕ちることを考え 「コーント族ってのは、全部合わせて、たった十五人から二十人ぐ ると、そっとするよ」 らいしかいないっていうのか ? 」 「おまえは、スモー・フロッドの地球大使に送られた文書について、 またロ笛めいた音をさせて、「そんなことはない。この区域のコ 5 何か知らないか ? 」 ーントについてだけの話さ。他の中心巣にはもっといるよ。もちろ

9. SFマガジン 1970年3月号

でもおこりうることだという暗示がちゃんとついてる。気をつけつばられて、 リ 1 はようやく、通行人がまちがってぶつかったので ろ、市民諸君か。そのうえ、この惑星間飛行の時代においては、つはないことに気づいた。 ぎの殺人は今夜どこで行なわれるかわからないという、警告のおま ふりかえると、そこには皺たらけの褐色の顔があった。彼は相手 けまである。さっきも言ったが、うまいよ。これで、今夜一晩もつの熱をおびた黒い眼を見おろした。小男は、一束の紙を目の前で振 っこ 0 リーはその紙の上の手書きの文字を一瞥した。と、男がぶつ くらいのネタにはなる。おっと、忘れるところだったーーー」 「何ですか ? 」 ・ぶっと喋りはじめた。「リーさん、百ドル出さないかね、こんな : : こんな話は 「半時間ばかり前、子供がきみに会いにきたぜ。約束したと言って た」 「ほう」失望を感じながら、リーはていねいに言った。「プラネタ リアンのオフィスへ持っていってくれませんか。値打のある記事な 「子供 ? 」リーは眉を寄せた。 「名前はパトリック。高校生、十六ぐらいだろう。いや、考えてみら、主幹のジム・・フライアンが買います」 ると、第一印象はそんなふうなんだがね。十八、もしかしたら二十それで問題は片づいたものと漠然と納得して歩きだした。すると ぐらいかもしれん。自信たつぶりで、居丈高で、頭のよさそうな感不意に、小男がまたもや腕を引っぱった。「特種なんだ ! アンガ 1 ン教授の日記でさ。星の世界から来た宇宙船のことがみんな出て じだ」 「思いだしました」とリー。 「大学生です。大学新聞のインタビ、る。それに乗ってた悪魔が、血を吸って、キスで人を殺すことも ーを約束したんです。きようの午後、電話があって。よくいる演説 ! 」 「困るねえ ! 」とリーは腹をたてて言いかけたが、そこでロをつぐ のやたらにうまい連中の一人でしよう。こっちも、よくわからない うちに、コンスタンチンでタ食をいっしょにするとうけあってしまんだ。不気味な冷たい風が体を吹きぬけた。頭脳の中で一つの思考 : かたちをとった。その衝撃でかすかに体がゆらぐのを覚えなが ったんですよ」 「なるほど。むこうは念を押してったよ。行ってもいいんだろうら、立ちつくしていた。″血″や″キスのディテ 1 ルまで載って いる新聞は、また街頭には出ていないはすた。あと五分たたなけ リーは肩をすくめた。「約束しちゃったんですからね」 「ほら、どのページのあたまにも、金文字でアンガ けれども、遅い午後の日光が降りそそぐ通りに出たときには、彼男は言った。 ーン教授の名前があるでしよう。十八光年も遠くにあった宇宙船を の頭に、大きな意味のある考えは何一つはいっていなかった。予感 はじめて発見したときのこと、それがどうして何時間もしないうち など、なおさらのことだった。 にここまで飛んできたか、全部書いてある : : : そして、それが今ど 5 周囲では、人ごみがしだいに密度を増している。巨大なビル群か こにあるかもーーー・」 ら、五時退社の人の波の第一波があふれでてくる。二度、袖口を引 はたち トクグネ

10. SFマガジン 1970年3月号

宇宙船のコントロール・ルー人内部の沈黙は続いた。それは、娘て」 が宇宙船にはいった後に訪れた静けさと不思議によく似ていた。た . 「おれだって待つのは好きじゃないさ」と男。「よしーー」 リーは、あけつばなしの入口へ だ今度その静けさを破ったのは、娘たった。わずかに呼吸が乱れてもうまごまごしてはいられない。 いるが、それでも冷静で、力強く、大胆たった。「あたしは警告すと身をおどらせた。一瞬、夜会服を着た男と女の姿が眼にはいっ るために来ただけで、命令を押しつけに来たんじゃないわ。それた。男は立っており、女はすわっていた。きらめく金属的な背景 に、あなたたちが十五人分の生命エネルギーを補給しているのならも、意識のうちにあった。さきほど、その一部を見たにすぎなかっ いいけど、そうでなければ、何もしないほうが身のためよ。あたし たコントロール・ポードは、輝く計器類に埋めつくされた巨大な装 置であることがわかった。しかし、そんなものには目もくれず、彼 だって、そちらの正体を知ったうえで来たんですからね」 は叫んだ 「どう思う、マーラ ? この女がクラッグ族なのは、まちがいない 。オしか ? 」男「そこまでだ。手をあげろ」 か ? もっと高度なレネル・タイプだという可能性よよ、 それは、不意打ちのはずであり、状況の鍵を握っているのは彼の の声である。娘の言い分は認めた様子だが、そこには相変らず嘲り と、何物も抑えることのできない意志と、すさまじい確信がこもつはずだった。しかし、そう思ったのは、ほんの一瞬にすぎなかっ ていた。 た。誰一人として、彼のほうを向いたものはなかった。ジールと呼 の、いばれる男は、あの娘とむかいあって立っている。マ 1 ラと呼ばれる ところが、大立回りを目前にしているにもかかわらず、リー から脅威はとっぜん遠のいていた。彼の記者の頭脳は、今ここでお女は深い椅子に腰をおろし、金髪の頭をその背にもたせかけて、美 こっているできごとの途方もない意味を考えるほうに、いやおうなしい横顔を彼のほうに向けていた。彼のひとときの勝利感を打ち砕 いたのは、その女だった。女は彼を見ようともせず、男装した娘に くねじまげられていた。 言った 十五人分の生命エネルギー すべてがそこにある。想像を絶することだが、それで何もかも説「連れが、こんな間抜けな人間の男でかわいそうね。怪我しないう 明がつく。血液と生命エネルギーを吸いとられた二つの死体、たびちにさっさと逃げるように言ってあげたら」 ごめんなさい、あなたを巻添えにしてしま たび引合いに出される銀河オブザー 1 という言葉、その指令で動娘が言った。 って。あなたのはいってくる動きは、みんな聞かれ、観察されてい いている娘。彼は、女が話しているのに気づいた。 「クラッグよ ! 」女はきつばりと言った。「言いわけなんか気にし たの。あなたの心がこの情景に慣れたときには、もう遅すぎたの ちゃ駄目、ジール。知ってるでしよう、あたしは女には敏感なのよ」 ) ーっていうの ? 」女が問いつめるように言った。「はいっ よ。嘘ついてるんだわ。あたしたちが慌てふためくと思ってのこの「彼、 こやってきた馬鹿な女よ、きまってるわ。好きなように殺しちゃってきたとぎ、どうも見た顔だと思ったわ。新聞のコラムに出ている