1 ラのいくふん古くさい表現をもってすれば、彼はおそらく人生とそして、車はぶつかった。歓喜の情は押し寄せたときと同じ速さ いう流れの渦の中に巻きこまれていたのであろう : : だが、それがで消えた。・フレインは、まだ船を走らせたことのない大洋、まだ見円 どうしたというのだ ? 人生の流れは、ゆるやかな渦から眺める方ていない映画、まだ読んでいない本、触れたことのない女など、今 がいっそうよく観察できるのではないか。 までやらずじまいだったことに、深い悔恨を感していた。身体が前 なこうの車のヘッドライトが目の前にやって来た。・フレインは速につんのめった。ハンドルが握ったまま折れた。顔が厚い安全ガラ 度計が八十マイルにあがっているのに気がついてギクリとした。アスを突き抜けた瞬間、ハンドルの支柱が胸に突きささって背骨が折 クセルを放した途端に、車は前方から迫るヘッドライトに向って、れた。 狂ったように、はげしく吸い寄せられた。 その瞬間、彼は自分が死んでいくのを覚った。 ハンドルの故障か ? ・フレインはハンドルにしがみあっという間に、彼は敏速に、平几に「むさくるしく、痛みもな ついた。・ : く死んでいた ハンドルは回らなかった。つぎの瞬間、車はノース・ レインとサウス・レインの間の低いコンクリートの隔壁にぶつかっ て、空中高くはねあがっていた。 ハンドルがつぎの瞬間軽くなっ て、両手の中でくるくる回った。エンジンは迷った魂のように悲し げな音を立てた。 , 。白い部屋の白いべッドで目を覚ました。 力もう遅かっ 相手の車もけんめいに彼の車を避けようとした、 : 、 「生き返りました」と、だれかが言った。 た。二つの車は真向から衝突しかけていた。 ・フレインは目を開いた。白衣をまとった二人の男が彼をのそきこ そのときプレインは考えた。そうだ、おれもあいつらの仲間なのむようにして立っていた。二人とも医者らしかった。一人はひげを だ。車が自由を失って罪ない人をひき殺したりするのがよく新聞生やした小柄の老人で、もう一人は五十がらみの、醜いあから顔の にのるが、そういう馬鹿どもの仲間なのだ。えい、くそ ! 車は新男だった。 この 型になり道路も新式になりスビードも出るようになったのに、 「名前は ? 」と、年輩の男がかみつくように言った。 昔ながらの、だらしのない反射運動はどうだ : 「トマス・・フレイン」 突然、思いもかけず、ハンドルがふたたび利き始めた。かみそり「年は ? の刃のようなきわどい執行猶予。・フレインはこれを無視した。相手、「三十二。でもーーー」 「結婚は ? 」 の車がウインド・シールド越しにギラギラ光ったとき、彼の気持は 悔恨から歓喜へと一変した。一瞬、この衝突を迎える気になり、衝「まだです。なんだってまた , ーー」 突を、苦痛を、破壊を、残酷を、さらには死を切望していた。 「お分りでしよう」と、年輩の男があから顔の相手を振り返って言 2
はまるで神みたいに、あの手い連中を相手にして、十二時間以内見えるようにな「た。痛みはまだとれないが、彼はなんとか皮肉な 「この銃から に退去しろなんて言「てのける。なぜあんなに自信た 0 ぶりでいら微笑をうかべた。話しだしたその声は穏やかだった。 は弾丸が出ないという、きみの話を思いだしたよ。この感触にして れたんだ ? 」 質問が終「たあと「しばらく娘は無言だ 0 た。タ闇の中で首をうもそうだが、これを持 0 ていけば、ぼくの話を裏付ける興味深い証 . なだれたまま、先に立ってすたすたと歩いている。と、不意に彼女拠になるんじゃないかな。よしーーー」 微笑は不意に消えた。彼女がいきなり前に出たからだ。硬い金属 がふりかえった。「今まで見たり聞いたりしたことを口外しないだ ・、、あばら骨につきつけられた。その勢いがあまりにも強かったた けの分別を、あなたが持っていてくれるといいんだけど」 め、思わず呻き声をあげたほどだった。 リーは言った。「ばかな。こんなビッグ・ニュ 1 スはーー」 娘の声には憐れみがあった。「あなたはきっとこれを記事にしな「銃をよこしなさい ! 」 リーはつつばねた。「礼儀を知らない女だな、命 いわ。ちょっと考えればわかるはずよ、こんな話、誰も信じるもん「取ってごらん」 を助けてもらったというのに、なぜそんな荒っ・ほいことをするん ですか」 「心理分析機だ ? ・ほくが一発あごにくわせれば、きみはひとたまりもなくノ・ヒ 丿ーはこわばった微笑をうかべた。 タ闇の中で、 てしまうんだぜ」 ・、、ぼくの一言一言を保証してくれるさ」 「それも「ちゃんと考えてあるわ ! 」快活な声が言った。彼女の手彼はロをつぐんだ。これがたんなる脅しではないことに、とっぜ ん気づいて愕然としたからである。この相手は、上品な学校で教育 がリーの顔へとあがった。のけそったが、遅すぎた。 眼前に、閃光がひらめいた。その眼のくらむような強烈な光の爆を受けた、銃を撃っこともできないような娘ではない。彼よりもは るかに兇悪な対手にむかって、自分の主張を堂々と通した、冷血そ 発は、彼の傷つきやすい視神経にすさまじい勢いでなだれこんだ。 リーは荒々しく悪たいをつくと、相手をつかまえようとした。右手のものの生きものなのだ。 が彼女の肩をかすめた。続いて盲め 0 ぼうに伸ばした左手が、よう女性に対する男性の優越を、彼はこれまで一度たりとも疑ったこ とはなかった。しかし、その自信は今やくつがえされていた。彼は やく袖の一端を掴んだが、すぐに引きちぎられた。 めくら 慌てて武器を返した。彼女は受取ると、冷たく言った。「あなた 「この小悪魔め ! 」彼はどなった。「盲目にしたな ! 」 「すぐ直るわ」冷ややかな答えが返 0 てきた。「でも、これで心理は、自分が宇宙船にとびこんだので、あたしが武器をあげることが 分析機にかか 0 たとしても、あなたの言うことはみんな空想にな 0 できたんだと思いこんでいるようだけど、それはまちがいよ。あな たがしたことはね、彼らが状況を判断するうえで、自分たちのほう てしまうわ。あなたが発表するなんていうから、こんなことをした に分があると解釈するその誘い水になってくれたこと。でも、言っ 5 のよ。さあ、銃を返して」 視力がう「すらと戻 0 てきた。彼女の姿が、夜の中に・ほんやりとておくけど、あなたの手助けはその程度よ。つまり、大した値打は
娘は聞いていないようだった。二人は短い通路のつきあたりに来金属の壁がありコントロール・ポードの一部のように思われた。贅 ていた。すぐ手前に、鈍く光る金属面がある。すると娘が話しだし沢な感じのする寝台も、その一端が見えた。それらすべてが暗示し 8 た。「ここがドア。忘れないでね、あなたは護衛係よ。撃っ用意をているのは宇宙船であり、リーは愕然とした。あの娘は、彼をから して隠れているの。あたしが撃てと叫んだら撃って ! 」 かっていたわけではなかったのだ。信じられぬことたが、地中のこ 彼女は体をかがめた。緋色の閃光が、見えるか見えないかというんな場所、よりによってコンスタンチンの地下に、小型の宇宙船が ほど微かにひらめいた。ドアがあき、そのむこう側に第二のドアが隠されていたのだ。 あらわれた。ふたたび小さな緋色の閃光のひらめく一瞬があり、や 思考はそこでとぎれた。あけはなたれたドアのむこうの静けさ、 がてそのドアも開いた。 奇妙に長かった沈黙か、男の冷たい声に破られたからた。「もし、 それは、すばやく、あまりにもすばやく行なわれた。危機の訪れおれがあんたたったら、銃をあけるような真似はしないね。はいっ をリーの頭脳が把握する前に、娘は第二のドアのむこうにある、明てきてから、何も言わないところを見ると、おれたちはあんたが考 りの煌々と輝く部屋にずかずかとはいりこんでいた。 えていたのとはひどく違ってたんだな」男はおっとりと笑った。落 娘の行動にとまどいながら、リーは不決断に影の中にとどまって着いた、深みのある、嘲りのこもった笑い声で、それははっきりと いた。金属壁に面して、より暗い影の部分がある。彼は本能的にそ ーの耳まで届いた。男はさらに続けた。「マーラ、このお嬢さん こに体を寄せた。そして凍りついたように動きをとめた。敵は何人の行動の裏にある心理をどう解釈する ? おまえだってわかってる いるか、それさえわからない。その敵の巣窟へ、組織だった自衛のんだろう、こいつは女たよ、男じゃない」 計画もたてずにとびこんでいった愚かな娘を、彼は無言でののしつ豊かな抑揚のある女の声が答えた。「この女は、ここで生まれた た。いや、それとも、相手が何人いるのか彼女は知っているのだろのよ。クラッグ族の典型的な特徴がどこにもないもの。でも銀河人 うか ? そして相手は何者なのか ? には違いないわ。ただし銀河オブザー ・ハーでないことは、確かなよ その疑問は、彼を不安におとしいれた。しかし最後には、彼は冷う ね。この女、まさ・か一人できたわけじゃないでしよう。捜してみ ややかに考えていた。彼女はそれでもまったく無防備というわけでようかしら ? 」 もないのだ。少なくとも、彼はまだ見つかっておらず、銃を持って「よせ ! 」男の声は無関心だった。「クラッグの助手なんて、どう ここにいるのだから。 せタカが知れてるさ」 彼は緊張して待った。だがドアは開いたままで、そこへむかおう リーはゆっくりと緊張を解いた。だが、あとに残ったのは空しさ とする人影もない。 リーはゆっくりと体の力をゆるめると、余裕の だけだった。あの娘の確信ありげな落着いた物腰が、彼が自信をう できた頭で、記憶に残った最初の印象の断片を分析しはじめた。眼ちに奮いおこすうえこ、 はじめ 冫いかに大きな役割を果していたか、 にぐいった地底の部屋の一部には、小さな光点がいくつも明減するて気づいたのだ。それが、こなごなに打ち砕かれたのだ ! 相手方
と同じように : 「ワタシハ ココロノコリダ」 頭上から、背後から、光が射していた。かれは喘ぎながら身をす「心残り ? 」ワーナーの脳裡から、まるで馬鹿げた、およそ場ちが くませ、かすかに見える樹幹の暗がりをもとめ、て、その中へもぐり いな連想が浮かんできた。『わたしは去年のクリスマスの幽霊だ』 こんだ。闇の中に姿を隠すまで、光の方へは目を向けずに。 その言葉は、かれが学んだ単科大学の講堂にある前舞台に描か 幽霊は、そこから二十フィートはなれたあたりに立っていた。カれた、喜劇と悲劇の仮面をさす文句だった。その仮面の名はコーヒ ービン銃をかるがるともてあそびながら、かれをジッと見すえてい ー嫌い氏と言う。それにしても、いまここでおこなわれようとして いる出来ごとよ、、 ーしったいどのような無言劇なのだろうか ? かれはいそいで頭をさげた。あたりは物音ひとっせず、何事も起亡霊はふたたび口を動かしはじめた。どうにかして正確な意志伝 こる気配がなかった。 達を果たそうと努力している相手の気持が、ワーナーにはよく分か っこ 0 もういちど、かれは頭をあげた。幽霊は、悲しみと叡智を秘めた コレガ 「イヤ、ココロノコリデハナカッタ。モウシワケナイ 目で、まだこちらを見つめながらたたすんでいた。腰の辺でカービ ン銃を構えているが、かれを直接狙うでもなく、かと言って狙いを正シイ。キミノイヌヲ死ナセテモウシワケナイ」 まったく外しているわけでもない。幽霊がかれを見つめていること「おまえは誰なんだ ? 」ワーナーが吠え声をあげた。 「ワタシハ は分かるのだが、どうしたわけか体をピクリとも動かさない。奇怪亡霊はもういちどかれの顔色をうかがった だが、悲しみにうちひしがれたその人物を見ているうちに、ワーナダ」そう言ってから、しばらく静寂が流れた。 ーはふと次のような予感をいだいた。こいつめ、このまま放ってお「チガウ」ふたたび、自答するような声がひびき出た。「ワタシ、 「ソレ いたら一晩中 いやヘたをすると一週間以上もそこを動かないかキミ、カレ、ソレ」その人影はジッとワーナーを見つめた。 ろうにやく も知れないそ、と。老若といったものをいっさい受けつけず、無限ガワタシダ」そう言い終ってから、カービン銃の銃身を自分の胸に に表情を変えないその顔には、「時」というものも全くなす術がな押しあてた。 いようだった。 ワーナーはくちびるをなめた。この発光物体がいったい何ものな ワーナーは両方のくちびるをつよく噛みしめ、息を呑みこんだ。 のか、かれには見当もっかなかったが、どうもこの相手が精神錯乱 「おまえは誰た ? 」かれは嗄れ声で尋ねかけた。 におちいっているらしいということは理解できた。かれは重ねて尋 亡霊がこたえた。 問した。「おまえは、おれを射つつもりか ? 」 「ワタシハ 」ワーナーの顔色をうかがいながら、相手は躊躇し 「ワタシヲ射ツ」だが、ふいに手に握っ て言葉を止めた。相手を理解させる適切な言葉を模索するかのよう「射ツ」幽霊がこたえた。 こ 0 マスク 9 3
☆挙☆》 レティーフ・シリース・ ULTIMATUM 最後通牒 キイス・ローマー 訳 = 鏡明画 = 伊藤直樹 地球侵略を宣言した 戦争好きのコーント族を相手に 星間紛争の平和解決を目的とする 地球外交団のヒーローがとった手段は ?
いまにもシーンのどちらかが向きなお「て、彼女を殺すのではなカールセンの運ばれた、ナヴァーナ号に向か 0 ていることは明らか いかと心配したホルトは、ルシンダをひきとめようとしたが、狭し だや生命単位ノガラによって使用されているそのナヴァーナ号宇宙 2 場所では身動きもままにならなか「た。シーンは、しかし、時の船のことを、わたしにくわしく説明しろ」 ように逆らいがたい力を持 0 た金属の手で、救命ポートの外まで追〈狂戦士〉の質問が故人のことに限られているうちは、ホルトも不 「ていこうとする ~ シダを「 ( ' チのきわで静かに押しもどした必要な嘘を 0 いて尻尾を 0 かまれたくないと考えて、正直な答を返 だけだった。彼らはジャンダを連れ去 り、 ( ' チはふたたび閉ざさしていた。しかし、こと旗艦となると問題がちが 0 てくる。彼はた れた。ルシンダは茫然と立ちすくんでいた。ホルトがその肩を抱きめらいを感じた。も 0 とも、たとえ彼にそうする気があ 0 たとして しめても、身動きもしなかった。 も、ホルトがナヴァ 1 ナ号に関して、どれほどのことも知ってはい ない。それに、部下たちと〈狂戦士〉を欺く計画をしめし合わせる ひまさえなかった。救命ポートの中での彼らの会話は、逐一、相手 に盗聴されているにちがいないからだ。 どれだけとも知れぬ時間を待ったあと、人間たちはふたたび ( ッ 「わたしはナヴァーナ号を一度も見たことがない」と、ホルトは真 チが開くのを見まも 0 た。シーンがや 0 てきたのは、ジャンダを実を答えた。「しかし、論理的にい 0 ても、非常に強力な武装を持 返すためではなかった。こんどはホルトを連れにきたのである。 っているはずだ。なにしろ、人類の最高指導者の乗船なのだから」 特務艇の船殻には振動が反響していた。マシーンがそれに手を加 この程度のことはとっくに相手も推理しているはずだし、話しても えているらしい。新しい隔壁で残りの部分から遮断された小室の中実害はないだろう。 〈、〈狂戦士〉の = ンビ、ーター脳は、すでにそれ自身のための電ふいにドアがひらき、ぎくりとしたホルトは、見知らぬ男が訓問 子工学的な目と耳とスビーカーの設置を終 0 ていた。ホルトが説問室に入「てくるのをふりかえ 0 た。その相手が人間ではなく、〈狂 のために連れてこられた・のは、その部屋だった。 戦士〉の創作品だということは、一見してわかった。そいつの肉体 〈狂戦士〉は長時間にわた 0 ・てホルトを取調べたが、ほとんどの質は。フラスチ ' クかもしれないし、なにかの培養組織かもしれない。 問がヨ ( ン・カールセンに関係していた。〈狂戦士〉側がカ】ルセ 「やあ、ホルト艇長はあんたかね ? 」と、動く人形はいった。別こ ンを最大の敵と見ていることはすでに知られているが、特にこの相目立 0 た欠陥はないのだが、いくら見事に作られてはいても、偽物 手は彼への執念にこりかたまっているらしい そして、カールセはしよせん偽物だった。 ンの死をあっさり信じようとしないのである。 ホルトが答えずにいると、人形はまた、「どうしたんだ ? 」とき チャート 「わたしはおまえの星図と航行データを調べた」と、〈狂戦士〉は いた。注意ぶかい人間なら、その声だけを聞かされても、即座にど ホルトに告げた。「おまえの艇のコースが、機能停止を伝えられるこかがちがうと感しるだろう。
とが、かれにもよく分かった。とっぜんかれは、相手の生物がどん「キミノイヌ ( 死ンダ」発光人間は言葉を続けた。「ワタシ ( 、イ な過程をふんで答えを求めているのか理解することができた。かれヌヲ死ナセルコトヲ : ・イヌフコロス」コトヲ望マナカッタ。キミ 4 が、自分の言葉なり考えなりを明確な心象にかえればかえるほど、 ココデハジメテメグリ会ッタニンゲンダ。ダカラ、キミガ : 相手もそれだけ容易に答えをかえすことができるのだ。そこで、か ワタシノコト・ハヲ聞キーーーイヤ、又ケトルコトガデキ : : : 受ケトル れは可能なかぎり明確に天体図を想いうかべることにした。幽霊が コトガデキナカッタコトヲ、知ラナカッタノダ。 落ち着かなげに声をあげた。ワーナーはくちびるをゆがめた。記憶ワタシ ( キミノ声ヲ聞イタ。ワタシ ( 「コロノ中デキミ = 話 力の悪さは、なにも今にはじまったことではない。かれは夜の空をシカケタ。ワタシト言葉ヲ交スョウ = 告ゲタ。ワタシ = サワラナイ 想いうかべた。 ョウニトモ止ロゲタノダ。ダガ、キミノイヌハワタシヲ襲ッタ。ワ 「ソウダ」発光人間が口をきった。 タシハキミノイヌガコノ体ニ触レルコトヲ好マナカッタ。イヌ ワーナーはいろいろな星座を想いうかべはじめたーーー南十字星、 ハ、ワタシニ触レタカラ死ンダノダ。キミモ、ワタシニ触レレバ死 たて座、さそり座 ( シリウス、ヒアデス星団。そして、かれの想像ヌ。イヌガ死ンダコト ( 詫ビル。キミマデコロシタクナイ。モシキ が北斗七星とス。ハル星に及んだとき、幽霊は声を上げた。ワーナー ミガ死ネパ、ワタシハサラニ深イ悲シミフ味ワワネパナラナクナ の記憶力からすれば、北斗七星の正確な位置をおもい出すことは至ル。キミガワタシノ呼ビカケニ応エラレヌコトフ知ッタト弋ワ 難のわざだったが、その星座を形成する五つの巨星が肉眼でかんた タシハ声トイウモノヲ使イ、闇ノナカへ姿ヲカクシテ、キミノ銧ヲ んに見分けられること、そして六番目の星が比較的うすぐらく、七ウ ' ( ッタノダ。武器ヲモッタニンゲン ( 、 ケッシテ考工ョウトシナ 番目になると、よほど視力のある目でなければ見分けられないこと クナルカラナ」 ぐらいなら、すぐにおもい出せた。 「シカシ、 「ソウダ。ソ / ウスグライホシダ」と、幽霊がいった このへんで、ひとっ社会学的な事実を問い正す必要がありそうだ よ ソレハヒトッダケノ星カラデキティルノデ ( ナイ。タクサンノホシ ワーナーはあいかわらずニャリとしながら考えた。「おれが ガ集マッティルノダ。シカモ、ソレゾレノ星ハ、タガイニ遠クへダおまえの体にさわったからといって、な・せそれだけの理由で殺され タリアッティル。ホシポシノ間ヲトオシテ、直線ニチカイ線ヲムスなきゃならないんだ ? 」 ブコトモデキルホドダ。ワタシノスム星ハ、光ョワイスパル七星ニ 「コロス」相手はかれの顔をみつめながら言った。「コロス、死 アルノデハナイ。ソコカラ遠クへダタッタホシポシノ、サラニ向コ ヌ、ヒトヲコロス、シケイニスル、ギャクサッスル。イヤ、キミカ ウガワニアルノダ。キミ マタカービン銃ノコトヲカンガエティ ワタシ / 体ニ触レタカラトイッテ、ワタシハコロシナドシナイ。コ ルナ。ソレニサワルナ」 ロストイウコト、 ヒトガソウ望ンデ行ナウ行為ダ・ ・ソウ望ン ワーナーが毒づいた。 デ、ソレニ間違イハナイ。シカシ、ワタシガ一 = ロッティルノハ、モッ
ファイヤーア / ト て、フェローの姿がはっきりと見えた。犬は火蟻にたかられこ ナっ聞きのがすまいとカービン銃のひき金に手をかけた。胸がいたみ 芋虫のように身を折りまげ、ロ泡のこびりついた牙で自分のわき腹だすまで、かれは呼吸を継ぐことすら忘れていた。沈黙と暗闇、恐 3 を噛みながら暗闇の中に逃げこんで行き、そこで、激痛に耐えかね怖と怒り。そして、左手のおや指に触れるあたたかい銃身と、三本 た幼な子そっくりの声をあげて泣きさけんだ。 の右手指がシッカリと押える台尻のにぎり。かれはゆっくりと頭を 「フェロー ! 」暗闇のどこかで声が聞こえた。ワーナーは、その声めぐらし、その次に腰をまわし、最後にくるぶしをまわしてうしろ を頼りに愛犬のそばへ近づこうとしたが、樹木の根張に足をとられを向き、身をこわばらせて物音が聞こえてくるのを待った。 て、土の上にドウと横転してしまった。しかも、運のわるいこと だが、暗闇はあまりに深く、また身うごきも許さぬほど切迫して に、倒れたひょうしに右手が下になり、みそおちのあたりをつよく いた。かれは両目を上げ、頭上のはむらに照りはえる弱よわしい月 突く結果となったから、一瞬は呼吸がとまった。数秒間というもあかりが見えてくるまで、視線を上げつづけた。弱い、お・ほろな光 の、かれはなすすべもなくその場に横たわり、恐怖と怒りに身をまというものは、心なごむものだった。 のど・ほとけ かさねばならなかった。結喉を動かすたびに、そこを通して「ウ右がわから、かすかな物音が伝わってきた。とっさに、かれはカ ッ ウッ ! 」という喘ぎがほとばしりでた。 ービン銃を頬へ擦りつけた。沈黙。 やがて、視界に明かるさがもどってきた。幽霊が、かれと犬のあ かれは小鼻を動かして、罵声をはいた。 いだに移動してきたからだった。フェローはあおむけになって、弱「動け、ちくしようめ ! 」 よわしく四肢を痙攣させていた。そして、もういちどわき腹に首を何かが動いた。下生えの中で、何かが前後左右にうごめいた。ワ まわし、そこに噛みつこうとしたが、カ尽きたのか、とっ・せん動か ーナーは三度銃を発射した。一発射つごとに、銃身をいよいよ強く なくなった。目は飛び出るほどにみひらかれ、なかば噛み砕かれた肩と頬にすりつけながら。 血だらけの舌が、口先からダラリと垂れさがっていた。 ふたたび沈黙が流れた。かれは、視線をめぐらす自由を回復する ワーナーはひざまずいた。 ために、銃をおろした。だが、そうしたとたん、その銃は、カがこ 「ソレニサワルナ」幽霊はとがめるような口調で言った。 もったかれの指先からひきはがされた。それを奪い返すために再度 ワーナーがそっと顔をあげて、相手を見つめかえした。「おまえ指先に力をこめたとき、銃はもう手の届くところにはなかった。空 が殺したんだそ」そうささやいて、かれは即座にカ】ビンを肩からをつかむ勢いがあまって、かれは一、二歩よろけた。かれは体をひ 外すと、銃口を発光物体に向けた。 ねり、もう一度ひねった。一瞬、閃光がひらめき出たかと思うと、 すると、幽霊はかき消すようにいなくなった。 かれの射ち放った弾丸が狙いたがわず自分の体にぶち当たってくる なんてことだ。急に目がくらんじまったのか、とワーナーは自問 ような感覚に襲われた。それから、かれはドッとくずれ落ち、動か した。かれは立ちあがって、膝をゆるめ、頭を低くして、物音ひと ) でそうな 0 た なくな 0 た。かってッラギ一次大戦中アメリカ軍が上陸した
かせた。甘く見ると怖いぞ。しかし、こうロにせずにはいられなか気のない街路を想像した。見捨てられた街路ーー見捨てられた彼。 そう、彼が頼れる人間はどこにもいないのだ。彼の友人は、この広 6 「見たところ、きみの言うその逆転劇も大した成功じゃなかったよ大な世界のあちこちにたくさんいる。しかし彼らが総がかりになっ うだな。きみのご亭主は、 いつでも・ほくを捕まえられると言ったても、いま明りの下にひっそりとすわり、影の中から彼を観察して が、【それを聞いて、・ほくが姿をくらますことだってありえたんだ いるこの女が相手では、一オンスの力も貸すことはできないし、こ の暗い部屋の中に一すじの希望の光をもたらすこともできない。 女の声には、かすかな侮蔑がこもっていた。「あんたが少しでも リーは精一杯の努力で落着きを取り戻した。そして女に言った。 心理学を知っていれば、あのこともなげな脅しが逆にあんたを落着「いま読んでいたのは、・ほくのサイコグラフ・レポ 1 トだろう。何 かせてしまったことに気付いたはずだわ。その証拠に、あんたは最と書いてあった ? 」 小限の防御策さえ講じていなかったじゃない。それにあの娘は、あ「がっかりだわ」女の声は遠くから聞えてくるように思えた。「食 んたの身の安全なんか何も考えてなかったようね」 事について注意が書いてあるだけ。不規則な食べかたをしているよ それが、意識的に仕組まれた巧妙な戦術であったことを知って、 うね」 リーはふたたび恐れが戻ってくるのを感じた。心の奥底で、彼は考女は冗談を言った。そのふざけた口調は、彼女をいっそう非人間 えた。「このおかしな出会いに、ドリーフの女はどんな結末を用意的に見せただけだ 0 た。そんな冗談は、なぜか彼女にはおそろしく しているの、だろう ? 」 不似合いだった。彼女が越えてきた暗い、茫漠とした虚無、彼らを 「もうわかってるでしようけど」と女は静かに言った。「あんたが この無防備な地球へとかりたてた奇怪な欲望ーーーそういった現実 生き下いれば、もちろん役に立っーーでも、死んでくれても、こちが、違和感をきわだたせたのかもしれない。 リ 1 は身震いしこ。 らには都合がいいのよ。簡単には、どちらとも決められないわ。まが、そんな自分に気づき、ひたすら考えた。「畜生、おれはひとり あ、、落度のないように、、誠意をこめて、あたしたちに協力することで勝手にこわがっているのだ。彼女がそこの椅子にかけているかぎ ね。あなたの役割には限界はないんだからー り、おれの身に危険はないのだ」 なるほど、そういうことか。一滴の汗が、リ ーの頬を流れおちそして、こう言った。「そのサイコグラフに何も書いてないのな た。タ・ハコを取ろうと、 ' 枕元のテー・フルにのばした指は震えてい ら、残念だが、きみのお役にはたてないわけだな。そろそろ出てい た。お・ほっかない手つきでタバコに火をつけたとき、彼の視線は窓 ってくれないかね。そんなところにいられると、どうも落着けな に吸いつけられた。彼はかすかなショックを感じた。雨が降ってい るのだ。激しい雨は、音もなく防音ガラスを叩いていた。 女が笑うのではないかと、漠然と期待した。だが彼女は笑わなか 彼は、夜の雨に濡れそ・ほり、その華やかさをすっかり失った、人った。じっとすわったまま。影の中で、その眼が鈍く光っている。
ていたカービン銃に目を向けると、かれの問いかけた意味内容が了「ああ、それは冠詞というものだ。おまえの言うことはだいたい察 解できたらしかった。 「イヤ、射タナイ。キミ ( 死ナナイ。キミプしがつく。それにしても、英語には不慣れなようだが ? 」 その生物は、もういちど奇妙なふうにかれの顔を見つめた。 ・射チ : : : コロシハ・ : シナイ」 「ソレハ一部分ニスギナイ」とっぜん、言葉が継がれた。「モット そいつはありがたい ワーナーは皮肉つぼくひとりごとを言っ た。ついでにその銃を棄ててくれれば、もっとありがたいんたが。総体的ナ意味デダ。ヒトッノ、ソノ、イヌ、ジ = ウコウイウモノ 「ソウ力」幽霊はそうこたえると、向きをかえ、注意ぶかくカービヲ何ト呼・フノダ ? 」 「言葉というものだ」しばらく首をひねっていたワーナーが、やっ ン銃を幹に立てかけてから、さらに一歩二歩あとずさりした。「サ ア、ココへ 」その言葉とともに、指が伸びて、ワーナーの隠れと口をひらいた。 「コド・ 「ソウ力、コト・ハ力。ロッテクレ : ハ」と、幽霊は言った。 ている樹木の前面を指し示した。 : ワタシニ・ : : ・話シテクレ : ・コト・ハヲ知リタイ」 「でてこいといのか ? 」 ワーナーはほんの一瞬だけ、幹に立てかけられてあるカービン銃 「出テキテホシイ」 ・ : これならひと飛びで手 ワーナーは熟慮した。このおそるべき生物の能力について、何ひへ目くばせした。一五から一六フィート : が届くかも知れない。しかし、よしんば手が届いたにしても、わず とつ見当がっかないとは言え、そいつがどうやら人間らしいことー ーすくなくとも、そいつの隙をつくことぐらいならできそうな、人か一秒以内に銃を握る必要がある。 「銃ニサワルナ」と、幽霊がいった。 間らしい弱点を備えていることには確信があった。だから、もしか ワーナーは、思わずニャリとした。「なんてことだーーおまえ ( しつかは相手のう れが長ながと会話をかわしつづけていられれ・よ、、 は、人の心が読めるんだな」 しろへまわって、あのカービン銃を奪い返す機会がめぐってこない とも限らない。そうなれば、二つにひとつの道ではあるが、とにか「ヨメル。ワタシハ聞キーー・見・ーー・読ム。ココロヲ、ソウダ。ワ 」か くこの悪夢に決着をつけることができるだろう。かれは立ちあがっタシハココロヲ読ム。キミノココロヲ。キミハ・ れはワーナーの顔を見つめた。「キミガカンガ工、ワタシガ読ム。 ソウダ」 : デキナイ・ : : ・銃フトルコト : ・ 「キミニハデキナイ。キミニハ・ 「テレバシーか ? 」ワーナーは相手に教えこむような口調で問い正 : ソノ銃ヲトルコトハデキナイ。ヒトッノ、ソノ、イクッカ / コウイウモノヲイヤ、コウイウモ / ハ」と、幽霊がいった 「ソウダ、テレ。ハシーダ。キミガ送リ、ワタシ : : ワタシガ 411 」 ウイウモ / ハ何ナノダ ? ナニヲ意味スルノダ ? 」 「受けとると言いたいのか ? 」 「何だって ? 」 「ソウダ。キミガオクリ、ワタシガウケトル。ワタシガオクリ、キ 「ヒトッノトカソノトカ言ウモノダ」 9