いたげな口調で、「それで狩りに転向したというわけですね。しか し狩りはそう簡単なものではありませんよ。それに、獣のようにな わざ った人間を狩ることはだれにもできる業ではない。 この仕事をする には、ある特別な能力が必要だ、少くとも人を殺すという能力が ね。あなたは生まれつきそういう能力を持っていると思うんですか 「思いますね」・フレインは言ったものの、そんなことは今まで考え てみたこともなかった。 「どうですかね」といってハルは考えこんだ。「風貌はいかにも闘 士風だが、内面はそんなタイプではなさそうだ。もしわたしを殺せ ないと分ったら、どうする ? とどめをさす間際になってためらっ たら ? 」 「一か八かやってみますよ」と・フレインは言った。 ハルはわが意を得たと言わんばかりに、うなずいた。「わたしも そうする。きみの心の奥底で、殺人の火花が散るかもしれないし、 散らないかも知れない。 この疑惑が狩りゲ 1 ムに、ある種の薬味を 添えるだろう。もっとも、きみの方はその薬味を味わう暇よよ、 も知れないがね」 「それが・ほくの悩みでね」とプレインは美辞麗句を使う、この気取 った男にはげしい憎悪を覚えていた。「一つ質問をしてもいいです か ? 」 「何なりとどうそ」 「ありがとう。あなたはなぜ死にたいのですか ? 」 ハルは彼を見つめていたが、急に笑い出した。「あなたが過去の 人であることがやっと分りましたよ。何たる質問だ ! 」 「答えてもらえますか ? 」 何かを不当に用いて自分を誘惑し、 その女は、妻の生前によく似た女 もてあそんだのではないだろうか ? だった。いや、その時だけではな そこで、クレイトン博士のところ く、それから何度となく起った同様 へ相談にきた、というわけである。 の経験ののち部屋へ入ってきた女性 翌日、博士は彼女から聞いた住所は、いつもどこか妻に似た女だっ を頼りに、その男に会いに行ってみ た。クレイトン博士を訪れた女性 た 1 男は三十才前後のハンサムな青は、ちょうどその十人目に当ってい 年で、妻に先立たれ、八才になる娘たという・ を山の手の寄学校へ入れ、自分だ そして、いつも女性が入ってくる け立派な家に住んでいた。かなり富と、一目でその女性が何を求めてい 裕そうなビジネスマンだったが、博るのかわかった。そこで、決して自 士の訪問の理由を聞くと、大いに困分の妻を無視したわけではなく、む 惑した様子だったが、やがてボツボ しろそれらの女性は、妻がわざわざ 自分に差し向けてよこしてくれたも ッと事情を語り出したのだ。 ののように思えて、その要求をみた 彼の妻は三年前になくなったが、 非常な美人で、一一人の結婚生活は大すためはかない一夜の交りを交して きた : : : というのだ。 いへん幸福なものだった。それだけ に、その後の苦しみは人一倍で、つ 翌日クレイトン博士は、先の女性 いに思い余って娘を寄宿学校にあずに電話を掛けて、その訪問のことを け、一人家に閉じこもって思い出に話し、警察に届け出るのはやめた方 がよいのではないかと説得した。 生きはじめたが、とうとうある日、 その女性は、考えなおし、一週間 これ以上生きて行くことに耐えられ なくなって、いっそひと思いにあの後もう一後その男性を訪れて話しあ 世へ行き妻といっしょになろうと決った結果、彼が非常に素直なよい人 心し、拳銑を持ち出した。 間であることがわかった : : : と電話 してきた。 すると突然、昔と同じ愛の光景が 眼の前のべッドの上に展開し始めた そして、数週間後には、ニ人は結 のだ。それは不気味ではあったが、 婚し、今では先妻の娘と三人で仲睦 まじく暮している、という ! 何か非常に心満たされる光景だっ た。同時になぜかはしらないが、妻 先に死んだ妻が後に残った夫の淋 が自分に死んではいけない、と言っ しさ苦しさを見るに見かねて、苦心 ているもののように思えた。 のあげくよい後添いを探し出してや そしてその光景が終って、そのま ったものと解釈するしか説明のしょ うがなさそうだが、それにしても、 ま椅子にばうぜんと坐りつづけてい ると、そこへ一人の女性が部屋へ入うらやましい話ですね・ ってきた。 ( 近代宇宙底行協会提供 ) 海外みすてり・とびつ 6
度がより低いほどーーーそして護衛が厳しければ厳しいほどーーそのんでいるのだと説き、かれはこの狂気さに対して同邦人類には責任 連中の心に催眠暗示による命令を植えつけやすかった。この惑星でがないものと信じていた・ : 1 セントがーーもちろん、グリー エヴェラは手足をぎゅっと内側に巻きこんだ。坐っていた椅子が 文明を有している人口の九十一。、 ンランド、中央アメリカ、アフリカといった後進地域の民衆は除外とっぜん増した圧力にきしんだが、かれの耳にその音は入らなかっ どこにいようと、いまから三十九時間後に同時に放送さた。 してだ ″どれぐらいの数の地球人がその言葉に耳を傾けたのだろう ? ″ れる声明文を聞くことになるものと予想された。 : だがそのとき・フラッドレーの責任者だったエリスニ人は、か 三十九時間だ、とエヴ = ラは考えた。進み具合は全く満足できる ものだ。だがその報告は別の問題を提起した。アフリカ、アメリカれのまわりにいる地球人たちの心に、その解説者は気が狂っている の各地、それに太平洋の島々などで組織された主権が散在しているのだという考えを急速に印象づけたーー・ーそのことがあとで広範囲の 未開人に近い連中たちのことだ。かれは、もしできることなら、こ聴取者に影響を及・ほしたのだ。 の惑星の連中をきれいさつばり一度で片づけてしまいたかったの エヴェラはまたほっとしたが、完全にではなかった。プラッドレ ーの発狂を信じないものがいるかもしれないからだ。 司令官はその問題をずっと心の中に低く、ほとんど意識下のレベ この作戦には、かれが計画していたより多くの不確実なことがあ ルまで沈めていったーーース 1 の種族が持っている何重もの複合頭脳る、ずっと多くだ。エヴェラは自分の手足と胴体が堅くなるのを感 で、その問題を多くのもっと小さい解決しやすい問題に分解しはじじたーーー心配さがあまりひどくなったので、それが肉体的なレベル めたのだーー、そして、入ってくる他の報告を考えた。 にまで現われてきたのだーーーそして、心の中の暗く静かな片隅にも リや・ヘルリンでは反ユダヤ暴動が起こった。い くつかの大使館どると、悪夢がはじまった。それは、そういった不確実さが地球人 で投石事件が始まった。地理的条件に合わない肌の色や信仰を持つにとって裏目に出れば、あまりにも間違いなく起こるだろう大殺戮 人々への暴力だ。この惑星上の大国間で地球人の権利に対する偏狭の恐ろしい場面であり、そしてかれは意図せぬうちに自分の艦隊を さと暴力をおたがいに怒り罵りあうことで急速に増していった。こ不意討されるところへ引っぱりこんできているのだ。 かれは、就道ロケットという問題があったことを思い出した。あ れまた非常に満足すべき報告だ、望んでいた事態はあまりにも急速 いつを破壊してしまう前に、旗艦の存在していた情報を、ひょっと に進展しているのではなかろうかと、司令官は考えた。 偵察艇の士官は報告の終りに、まだ捕われないでいた有名な地球すると映像も一緒に地上管制所へ中継してしまっているかもしれな 。それともあの全空域が望遠鏡での観測下にあったかもしれない 人の時事解説者で批評家のハモンド・・フラッドレーが祖国に対するい 反逆活動で有罪と見なされ投獄されたことを伝えた。その地球人ののだ。 最後の放送は、どこかの気ちがいじみたカが地球を破壊しようと望それに北京での事件もあった。もしもだれかが、あのエリスニ人 4
三人のイギリス人が、高速車を駆ってフランスを旅していた。く足感もあじわえないでいた。いつのまにやら、ゆううつめいたもの るまにのっているのは、ジョン・レイヴナムと妻のメアリ、それが、かれらの心に忍びこんできていた最初の一週間は、かれらも に、二人のおともをしている気のきかぬ男は、アンスンといって、 あふれるような幸福感を抱いて千マイルの旅をすごしてきたのだが フランス語がからっきしだめなご仁だ。このしゃれつ気のないおと いや、正確には一〇七八マ・イルの道のりをドライプしてきたの こは、さっきからしきりと山が見えないことをグチっていたが ここにあらわれた、名状しがたい不安感の黒い翼のおかげ そのくせアルプスにでもまよいこんだら、こんどは並木道が見えなで、そういった旅行気分はすっかり消しとんでいた。かといって、 いことで不平をぶちまけかねない・人物である。ときは八月のあるそれは年がうつる前触れの 1 おぼろな秋の気配のためでも、単調な 朝、すばらしく晴れあがった空には太陽の光がまばゆく、その輝き並木路のながめのためでもなかった。それは、もう二度と満ちてく ることのない引き汐に身をまかせていくような、三人に共通したあ は豪華にさえみえた。三人はル工と呼ばれる街をとおり、ポーヴェ という名の村をかすめ、いま、道の両側いつばいにひろがるすばらる予感に基因していた しい麦のみのりをつきぬけているところだった。アンスンの言をか「どうだい、 この見はらしの良さは」、と、車を運転するジョンがロ りれば、この麦ばたけのながめは、かれが目にしたもののうち、シをひらいた。「どこか現実ばなれしてるな。まるで水品みたいだ」 「水晶はちっとも現実ばなれしてやしないさ」アンスンがいった。 ャンペンにまさるともおとらない『神のめぐみ』ということだった : 、たしかにこのながめは、やわらかい。ヒカルデのうねりをおもわ「へえ、そういうんならば、羽根のペ - 、ツドだっておなじことだそ。 せる。はたけのあちこちには・デ、ポン社の強壮剤の看板があっけどな、きみはそれを透かし見ることなんかできまい ? 」 たり、かえでやくりや、いろいろな種類のポ。フラ並木があった。そ「透かし見ることはできんが、すくなくとも眠ることはできるそ」 さか れがいったいどこからはじまって、どこでおわるのか、見当もっか「ばか、水晶のうえで眠れるものか」ジョンが逆ねじをくわせた。 ないまま、時間の流れのように果てしなくつづいていた。こういっ 「だれだって水晶のうえで眠る気にはなれないだろうさ。それにし た『わけのわからぬ』道程は、べつだん車に乗った三人のイギリスても、おまえはなんだってそうおれに喰いついてくるんだ ? 」 人に落胆をもたらすようなものではなかったが、なぜかかれらの心「喰いついちゃいないさ。ばくはただ、この辺の見通しぐあいがす はさっきから沈みがちだった。けばけばしく飾りたてたべデカーごばらしくいいといったまでだよ」 「そうだろうな。わかった、わかったよ。見通しはたしかに奇跡的 のみ ( べデ て当「たドれッ版業者名 ) の海水浴場からずっとつづいてい る、このゆたかにみのった麦ばたけの平原は、みずからこと足れりなくらいだ」 とでもいいたそうに、音ひとったてぬ岩場を氷遠に流れていく小川 良人のとなりにすわっていたメアリは、後部席にいるアンスンに にも無頓着で、おだやかに、堂々と、勝ちほこったように高いびきむかって、肩ごしに声をかけた。「たぶんね : : : でも、ここがもう をあげているというのに、車の中の三人は、さっきから幸福感も満ちょっと風光明媚なところたったら、もっとすばらしいでしように おっと
なかから自国作家のものを優先的に読むのはあたり ーツの T 、ミ 7 ミ ~ ミ・、 ~ ミ、 ( ルー。、ート・ハ ート日ディヴィス社 ) 、・・コイフトンの T 、ミ昨年の秋もそうだった。アメリカのにそれほまえで、たとえイギリスの作品まで目を通していた E 、、、・ ~ ・ c 0 ・ oc ミ、 e ( ホダ 1 & スタウトン社 ) : ・ど目・ほしいものがなく、一方、イギリスのにはとしても、推薦する場合には無意識に計算がはたら ・ : どれもこれも、・ほくの大好きな作家、あるいは注おもしろそうなのが目白押しという現象である。 いや、日本のと英米のそれに、歴然とした国 目している新人なので、注文しなければおさまりそネビュラ賞の候補作リストなどを見ると、イギリ うもない。まだほかにも触手をそそる本があるのだスの作家のものは五分の一くらいしかないのだが、民性の違いがあるように、同じ英語国民でありなが 傑出した作品となると、どうみてもアメリカより多ら、アメリカ人はイギリスのに何か馴染めない けれど、これだけでも相当な出費だ。 ものを感じるかもしれない。 シャクにさわるから、同じ責苦を他人にも負わせ一いような気がするのだ。 ・ほくら外国人から見ても、両国ののあいだに てやることにした。家に帰ると、・ほくは二個所に電これには理由がある。一つは、ネビュラ賞がアメ 話をかけ、この情報を流した。一人は推理作家の都リカ作家協会のものであること。つまり、自国ある表面的な違いは、漠然とわかる。イギリス 筑道夫ーーーこの人はミステリばかりか、の新刊びいきが原因らしい 9 ・ほくらからすれば、英語で書を評する言葉は「重厚さ」だ。するとアメリカ も無差別に注文するわるい癖がある。もう一人は、かれたは、アメリカもイギリスも大した違いはは、「軽快さ」か ? そうらしい。ウインダムとハ この人も読みたい本だと抑制ない。 インライン、クラークとアシモフの違いだ。 翻訳家の浅倉久志ーーー しかし傑出した作品がイギリスのほうに多いよう これで、先月、ちょっとしたまちがいをやってい がきかなくなる。 野田昌宏こと宏一郎には知らせなかった。この人る。ソ連で出版された外国のアンソロジイを、に見えるのには、・ほく自身のひいき目も多少あるか は、新しいにはまったく興味がないのだ。このアメリカ人のファンに説明していて、自分の国の作もしれない。・ほくにはな・せかアメリカが、必要 以上に大衆性、通俗性を盛りこみすぎているような あいだ、ハインラインの『銀河市民』の翻訳を手が家はどれくらいいるかときかれた。 け、現代がこんなにおもしろいとは知らなかつ目次を追いながら ( といっても、ロシア語を読ん気がしてならないのだ。 。冫したソヴィエト いい例が、名作とされているフレデリック・ポー たと大騒ぎしていたくらい。最近の彼のコラム「でいるのは・ほくではなく、そまこ、 ルと O ・・コ 1 ン・フル 1 スの『字宙商人』だ。諷 美術館」を読むと、ようやく五〇年代まで追いっの権威、深見弾氏なのだが ) 、これはサキョウ・ いてきたようだ。今後の成長を期待したい ( ! ) 。 コマツだから日本、これはスタニスラフ・レムだか刺として成功するためだったら、あれほど主人 逆に、・ほくは古い T. にはまったく無関心。つい最らポーランドとやっているうちに、ほら、クラーク公をつぎからつぎへと窮地におとしいれてアクショ ン場面を増やす必要はなかったのではないか。 近、ジョン・・キャンベルの初期の作品をなにげがいるといってしまった。 ・ウェーヴにしても、アメリカの なく読み、思いもかけぬおもしろさに唸ったことがすると、クラークはアメリカ人じゃないという冷近ごろのニュ 1 ーラン ある。こうなると、どちらもどちらだろう。もっとたい返事。そういえばそうだと、へんな再認識をし作家たちは、サミュエル・ディレーニイ、ハ も、おかげで繩張り争いをすることもなく、やってたわけである。 ・エリスンなどみんな読者にこびている。そして救 これたのだけれど。 自国びいきがあれば、たくさん出版されるのわれないことに、それを美点だと信じこんでいる。 0 0 0 3
発 天昇堂はどこにでもあゑふつうの契茶店だった。彼 ゆくえ不明の失踪者、家出人ーーー世間では蒸発と呼ば れている人々がいる。届出のないものが多いので、はつはまえにも行ったことが数回あった。彼が店の奥に席を きりとした数はつかめないが、推定すると全国で年間一とると、ひとりのヒッ。ヒーふうの男がどこからともなく 万人以上に達するという。その大部分は、ようとして消近づいてきた。見ると、風に似合わない。ヒンとした黒 い蝶ネクタイをしていた。 息がわからない。 「私は″蒸発に幸いあれ“連盟、略して蒸幸連のもので 彼が電話にでると、一度も聞いたことのないへんに陰す。私たちの組織はあなたを観察することによりまし て、あなたの決意を知りました。ご自身では絶対に人に 気な声が伝わってきた。 気づかれないとお思いでしようが、なに、専門家の目か 「あなたは、蒸発を希望していますね ? 【 ら見ると、すぐわかるものです」 「えっ ? どうしてそれを : : : 」 彼はあわてて送話口を押えたが、まにあうはずがなか耳もとでささやく声は電話の声とはちがって、こころ よいあまさと、人をひきつける熱つ。ほさをもっていた。 彼の決心は誰にも打ちあけたことがなかったのだ が : : : あるいは誰かがいたずらをして、かまをかけてき「私ちは蒸発しようとする人々に便宜をあたえることを たのかも知れない。それにしても、人の心の底を見すか天職としています。これは、純粋な社会奉仕活動です」 男は透明のケースにはいったメニューのようなものを すような、おそろしいやつだ。 とりだし、彼に見せた。 電話の声は低く笑ったようだった。 「どのコースにいたしましよう ? この十万円のコース 「金曜日の三時ごろ、赤い花をもって銀座の天昇堂へ行 が、あなたにはいちばんお似合いだと思いますが : きなさい。そこで、黒い蝶ネクタイをした一見ヒッピ】 ふうの男が、あなたになにかを言うでしよう」 身元不明の死体が全国の警察の死体置場に眠ってい 電話はブツンと切れた。 彼は半信半疑の気持だったが、ひどく電話の言葉が気る。その半数は身寄りをしらべる手がかりはまったくな 。その数は毎年一万人ちかくになるという : ・ にかかった。だまされたらそれだけのことだ、と考え た。彼はつぎの金曜日に赤い花をもって天昇堂へ行って みた。
し、その間アイアンマンの酸素がなくなってし 壬ニタールームにつめかけた三人の若い妻た される。タイタン型が一基工場にあるが、 ちや新聞記者が室外に出され、別室で開かれた まう。もう一度手動で逆噴射を試みることにな セットするのに一段ロケットは十二日、二段ロ ケットは四日、三段ロケットは五日以上かか ると、ヒューストン司令室の全員は祈るような記者会見は興奮した空気につつまれる。アイア 気持で秒よみを合唱するが、ロケットは点火せ ンマン 1 号は四百六十キロ上空で一周九十四分る。ドッキング点の計算に十日、軌道計算に三 の早さで地球をまわっているが、このままおい 週、パイロットのトレーニングに一週間と同 ず、司令官は三人に二時間の待機を命じてヘル ても大気圏に突人するには七年かかる。生存に時進行で作業を進めるにせよ三週間は必要であ メットをぬがせる。 る。 ありとあらゆる記録テー。フを電算機にかけ必要な酸素の量は四十二時間分しかなく、ライ フ・リミットは月曜日の夜八時四十八分。これ 人道的な見地から、あくまで救助船の打上げ て、事故のシュミレーションが始まる。原因を を主張する主任パイロット ( デビット・ジャン つきとめるために一つの仮説を立ててその可能を越えると三人は死んでしまう。 会議が開かれ、救助ロケットの打上げが討議七ン ) と救助活動の打切りを命じる司令室のキ 性を電算機に計算させる作業だ。 ース博士 ( グレゴリー・ 。ヘック ) が激しく衝突 ステーションに接近するアイアンマン 1 号〔上〕宇宙に閉じ込められた三飛行士〔下〕 するが現状ではいかんともしがたい。 ところが大統領はこの決定に反対する。一一億 のアメリカ国民が、このまま見殺しにすること には賛成しないだろう。全世界が救出を望んで いるのだ。たとえだめとわかっていても救助船 を打上げてほしい。 大統領の要請をうけ人れたキースは、すぐに ケープケネディに飛ぶ。アイアンマン 1 号の三 人は激しい疲労とうち続く不安のために危険な 状態になっている。気の短いロード ( ジーン・ ハックマン ) には閉所恐怖症の徴候がみえてき たし、プルエット船長 ( リチャード・クレンナ ) も責任感から船外へ出て故障の原因をさがした いと連絡してくる。冷静を保っていられるのは スト 1 ン ( ジェ 1 ムス・フランシスカス ) だけ だ。キースは三人に鎮静剤をのんで仮眠をとる よう命令する。 救助船号は九時間以内に打上げなけれ ばならない。これを越えると酸素がなくなる前 にアイアンマン 1 号とドッキングすることが不 8 可能だ。部厚いチェックリストを開いたキース 2
かれは同じ口調でつづけたが、ついに司令官は叫んだ。 と、司令官は答えてゆったりと坐り直した。かれにもし顔のよう なものがついていたら、安堵の溜息を洩らしたことだろう。 「黙れ ! 」 エリスニ人は話をやめた。エヴェラは、相手が自分の犯した犯罪 行為に気づくのに必要な時間だけのあいだ沈黙を守っていた。反エリスニはいうなれば奇妙な種族だった。かれらのテレバシーは 抗。作戦行動中における上官への不服従ーーその作戦での重要段階祝福であると同時に呪詛なのだ。他人の苦しみは、かれら自身のひ に起きたという事実は、その犯罪をさらに憎むべきものとしていたとりに起こったのとほとんど同じぐらい強く影響を及・ほすのだ。か のだ。 れらは銀河系で最も感受性があり、道徳的で、同情心のある生命形 態であり、その感受性のゆえに銀河系内でいちばんの臆病者ともな 静かに司令官は言った。 「これは言葉に現わせる限り最も広い意味での協同作戦だ。これをつていることを、エヴ = ラは知っていた。だが時によると、刺激が やろうとするわたしの計画は艦隊のあらゆる部隊に説明されてお充分な場合は、かれらも自分たちの臆病さ加減を忘れることができ るのだ。 り、そのすべてが認められている」 またもかれは北京の近くにある別荘の屋根に無残な姿で概たわっ 指揮下にあるさまざまなタイプの生命形態の大勢と、それらをひ とつの機能的に働くチームに作り上げるのに必要な組織上の細かなているエリスニ人心理学者の屍体を見た。これがどのような結果に ことが信じられないほどの量だったことが、かれの心の中に走っなろうと、かれらのだれひとりに対しても懲罰的行動を取らないこ こ 0 とにしよう。 だが、その決心もかれの良心を慰めてくれはしなかった。かれは エヴェラは言葉をつづけた。 「しかしながら、それをすることによって少しでも苦しむかもしれ自分がこの不幸な惑星でやっていることのいくつかについて、誇ら ない連中にわざわざ不愉快な仕事を割り当てるような時間はなかっしい気持になるどころではなかったのだ。 た。その代りに、それそれはわたしが最も能率的に遂行するだろう と考えた任務を与えられたのだ : : : 僅かな数の個人に対する倫理的進捗報告はまだ満足なものだった。 エリスニ人心理学者を乗せていたかれ自身の乗艦から発進した救 過敏症というだけのせいで、全面的な成功をおさめるべきでないと ヒューマン・ダイム・ 数百万の生命を気にゃんだり、この作戦の成功を失敗させようとし命艇とエリスニ人の乗りこんでいる偵察艇は、急速に地球人の時限 ヒュ : ズ たりするエリスニ人はひとりもいないと思うのだがね」 信管を取りつけていった。すべての国家指導者は処置を施され、 数分後にエリスニ人は通訳を介して返答した。 まやその連中はもっと低い地位の連中に働きかけていたーー統治者 ではないが、いろいろな理由から、大勢の部下を指揮している連中 「謝罪いたします、閣下。自分は直ちに開始いたします」 をだ。エリスニ人のリストは長いものだったが、相手の人物の重要 「そうするんだな」 9
その士官は報告をつづけた。 エヴェラは、かれのマスター・プランを脅かす行動をとっている 「 : : : しかし : : : 人類の団結とか戦争のひどい馬鹿さ加減といった これらの正気で平和を愛する人々の周囲にはきっと、かれらの言動 考えを説き、皮膚の色とか主義思想の小さな差異などは民族的自殺を封じることのできるものが何人かいると考えた。倫理的完全さを をおこなう理由になどならぬといったことを強調する人々がいます巧妙に傷つけることでそれはやれるが、暴力によるほうがずっと速 : かれらの追随者たちは減っておりますが、まだかなりの数でくできる。ちょっとかれは、それらの孤独な十字軍戦士に同情した す。すべての地区にこんな地球人がおり、ほとんどの場所でかれらが、そんなことを考えているよりはるかに重大なことがあり時間も の意見は妨げられることなく放送されています。そういった連中が少なすぎるのだ。 作戦の進行を遅らせていることは明らかであります」 司令官はその指令をエリスニ人に伝えながら、戦争が迫っている エヴェラの胸は騒いだ。人類の団結か ! かれはその言葉をいく にもかかわらず人類全体が示している感情的な無気力のことを思い つかの人類の言語で考えてみたが、それは肉体的プセスも概念も出した。確かにこのようなタイプの心理的刺激は、適当な場所で用 まったくかれには異質なものに属するので、少しも気休めにならな いると、その問題も解決されるはずだ。この最も新しい戦術に対し かった。皮膚の色とか主義思想の違い てとっぜん感じた自己嫌悪を押えつけながら、かれは指令を拡大し とっぜん、かれが非常に急いで吸収してきた人間の歴史が思い出ていった。 されてきた。それらの二つの差異が過去において何度となく、激し「きみもわかるだろうが、黒ん坊、赤の糞野郎、ユダ公といった言 い感情や肉体的暴力さえも作り出してきたのだ。かれは急いで命令葉の背後にある感情的可能性は、うまく刺激すると、市民のあいだ した。 に偏狭さの大波を起こすことができ、それが迫ってくる国際間の崩 「きみの艦にエリスニ人を乗せているな。その男をすぐわたしの通壊を加速できるかもしれないんだ。このような偏狭さの感情は長い 訳につなげ」 あいだ埋められていたが : : : 」 エリスニ人たちが人類と完全なテレバシー的接触をすることは不司令官の言葉を通訳がさえぎった。 可能だった かれら自身のあいだでのみ完全な意思疎通が可能だ「失礼します、閣下。でもエリスニ人は、ノーと言っております」 ったのだ。だがかれらは、温血の酸素呼吸種族であればいかなるも数秒のあいだ司令官は何も言えなかった。かれはそんな言葉を自 のを相手にしても、強い非言語的感情と情緒を感受することと 分に対して使われたことなどなかったのだ。 もっと重要なことは、それを伝えることができるのだ。そして、自 その通訳は、エリスニ人の言葉をそのまま伝えはじめた。 分たちにテレバシー能力のない種族の連中は、もちろんのことだ「自分は、知性ある生命体であれば何であれその信仰あるいは政治 9 が、そういう伝えられた感情を自分自身のものと思いこみ、それに上の理想を攻撃したり中傷したりしたくありません。これは汚らわ 3 従って行動することになるのだ。 しく恥かしい仕事であり・ : ・ : 」 ダーティ・レッド
いばら 正午に、だんびら刀の男が茨のやぶからカーキ色の絹の切れはし しみにしてるってわけか。悲惨な世の中だな」 ジョーンズは言った 9 を拾った。しばらくして、セシウスがコケのはえた地面に足跡を発 6 「いや、まさに公平な世界さ」とサミー・ 「立てよ、背嚢をちゃんとしてやるから」 見した。足跡は、下のほう、うっそうと木のおい茂った谷間のほう につづいていた。人たちは一心に道をいそいだ。 ・ジョーンズは言った。「なあト すっかり仕度がすむと、サミ ム、この狩りでは、俺たちは仲間にならんか。お互いを守るため「いたそ ! 」と一人の男が叫んだ。 ・フレインが駆けつけていってみると、右の方五十ャードほどさき 「おれを守るためだろう」 を、星型鉄球を持った男が突進していた。彼は筋肉のたくましい 「なにも恥ずべきことではない。どんな熟練を要する仕事でも、腕自信の強いシシリア人で、狩人たちのなかではいちばん若かった。 をあげるには修業をつまねばならん。その手ほどきは、この道の達彼の武器は頑丈な骨の柄に一フィートほどの鎖がつながっている。 人っまりおれ自身からうけるのが一番しゃないか ? 」 その鎖の先きに、釘を打ちつけた重い球、星形の鉄球があるのだ。 「ありがとう。なんとか自分でやってみるよ、サミー」 彼はこの武器を振りかざして、声を限りに歌っていた。 「おまえならやれる。さて、ハルは剣士だということを忘れるな。 ・ジョーンズとプレインは彼をめがけて疾走した。ハルが そのうちに説明するが、剣士というやつは、ちょっとした早業を身剣を手にして、やぶから現われるのが見えた。シシリア人はさっと につけている。彼がーーー」 飛びあがると、木をも倒しかねないほどの一撃をみまった。ハルは そのとき、古ぼけた、飾りのついたクロノメータをもった召使い軽やかに身をかわし、突きを入れた。 かはいってきた。秒針が十二をすぎたとき、彼はするどく狩人たち星型鉄球の男は、胸を突き刺され、うめき声とともに倒れた。ハ を見すえた。 ルはその胸を足で踏みつけ、剣をふり上げて叫んだ。そしてふたた 「みなさん。猶予時間がすぎました。追跡をおはじめ下さい」 び、やぶのなかに姿を消した。 みつまたほこ 狩人たちは、暗い、霧のかかった夜明の戸外に集った。三叉戟を「おれは星型鉄球なんか使うやつの気がしれん」とサミー・ ・ハランスよく肩にかけた追跡者セシウスは、すぐさま足跡を見つけンズは言った。「ぶざまだよ。最初の一撃で相手を仕止めないと取 た。足跡は、上の方、霧のたちこめた山の方角に向っていた。 り返しがっかないんだ」 狩人たちは長い一列縦隊になって、山の斜面をの・ほりはじめた。 シシリア人は死んだ。ハルがやぶから出ていった足どりは歴然と していた。彼らが追跡を開始すると、ほとんどの人たちが、それ やがて、早朝の太陽が霧を焼き払った。セシウスは花崗岩の露頭につづいた。どちら側にも側衛を配置させた。 で足跡を見失った。狩人たちは山の正面を斜めに、とぎれとぎれの しばらくすると、またも岩場にさしかかって、彼らは足跡を見失 列になって散らばり、ゆっくりと頂上にむかって前進しつづけた。
二日が経過し、地球から運び出されるのを待っている人間の数は 工、ヴェラの職は氷の隠れ家から飛び出して南 . へ飛んだ。世界中 の人卩を同時に驚か , せるため、かれが慎重に用意した″地球人の時百万人ほどとなり、その全員が下の都市で待っていた。五十マイル 限信管たち 4 がいまや作動しはしめようとしており、そしてかれのの全くの闇黒の円に保護されてーー旗艦の散乱スクリ 1 ンが処理し かれらは華氏九十七度という比較的涼しい環 艦隊の先頭はすでに轟音とともに地球の大気に突入 . しかけているの得る最大の範囲だ に・あった。 ヴ手ラの旗艦のまわりは視界のぶ限り、・陸はえていた 9 空 いまだー は、海面が煮えたぎっているために生じた過熱蒸気のため白く輝い かれらの最も軽い言葉でも法律となる無数の人々の卩が開ミか れらの民衆に向けて話しかけた。だが、かれらの権利を守るためにており、焼けただれさせすべてを覆う霧で太陽は隠れていたが、か 忠誠心を説く言葉は出てこなかった。その代りに、世界中で権力をれはそれが存在していることを慄然とした思いでわかっていた 握っている何百人もの男たちが強制的に話させられている言葉を口もとより一「倍も大きく、十倍も熱くなっているのだ。 から出すまいと精神的な闘争をおこなっている姿が、かれらの緊張幸運なことに、 ' 地球の大気が良い絶縁物になっていた。とっ・せん した顔と苦しそうな両眼に現われていた。速度を上げてゆく艦内で不安定になった太陽から噴出した最初の熱波が地表を襲ってから二 エヴ手ラは耳を傾け、もう成功の喜びを味わっていた。 時間後、まだ生存を続けられる場所はところどころあったーーーもち とっ・せん権力者たちの顔から緊張の表情が消えていった。かれらろん、充分なほどの深さまで地中に入っているか . 、散乱スクリーン の目はまだ苦痛とショックを浮かべ・ていたが、いまやそれが、かれに保護されているところなればだ。 らの惑星がどうなろうとしているのかを完全にはっきりと理解した かれらの太陽の切迫した不安定さと地球人たちを他の星へ移す からによるものたった 9 かれらは新たな緊張とともに話しつづけための救出船団が来ていることについての情報を、地球の指導者た ちが伝えたとき・ーーエ . リスニ . 人たちによってかれらの心に催眠暗示 耳を澄ましていた数十億の地球人から上がった安堵の波は、手に的に刻みこまれたものをだ . ーー地球人を急いで疎開させるためヴ・ 触れられるかと思われるほどたった。戦争は起こらないと、かれら = ラが取った非常手段に対してりを示した者はほとんどいなかっ た。その代りにかれらは、エヴェラが課した戦争の恐怖のために作 の指導者たちは確約した。その代りに想像してもいなかった恐ろし り上げた民間防衛組織とその訓練を、自分らの命が助かるため役立 いことが地球を脅かしているのた。だが助けがやってくる、宇宙 . か てた。それこそ、司令官が計画し希望していたことなのだ。 らの大艦隊という形で : 司令官は聞いているのをやめた。とっぜん、かれにはやるべきこ、真実の事態を知る方法がない狐立した人々を探がし出した軽宇宙 艦とともに、大船団の主体となっている大輸送船に . 無数の地球人た とが何千となく生じたの ちが乗りこみ、運命の惑星を離れた。そして「方、鉱山、退避 ぼ」 9 こ 0